説明

電磁波シールドドアの扉枠

【課題】施工が煩雑になるのを抑制しつつ電磁波シールドドアの扉枠における電波遮蔽性能を向上する。
【解決手段】縦枠21は、少なくとも1枚の板材を折り曲げて中空の柱状に形成された枠部材25と、この枠部材25とは別体に形成された導電性を有するカバー部材38とを備える。枠部材25には、前記板材の両端部が離間した状態に折り曲げられることで上下方向に延びる開口部37が形成されており、カバー部材38は、開口部37を塞ぐように枠部材25に取り付けられている。枠部材25には、壁体に支持されるブラケット42を支持する補強部材39が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールドドアの扉枠に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されているように、MRI室等の電磁波シールドルームの出入り口における電磁波遮蔽構造が知られている。この文献に開示されている電磁波遮蔽構造では、図9に示すように、アルミニウム又はスチール製の扉枠100が構成されていて、この扉枠100の縦枠101、上枠および下枠103の室内側面には、壁又は床から延出される導電材105が接続されている。また、扉枠100と扉106とは導電性材料からなるクッション材107で電気的に接続されており、電磁波を受けた扉106を流れる電流がクッション材107を通して扉枠100へ流れ、この扉枠100から導電材105を通してアースへ流れるようになっている。また電磁波を受けた扉枠100で発生した電流も導電材105を通してアースへ流れるようになっている。これにより、電磁波シールドルームの出入り口での電磁波遮蔽性能が発揮される。
【特許文献1】特開平7−94886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許公報に開示された扉枠100においては、電波遮蔽性能を向上できる余地が残されている。例えば一般的な建具として使用されている扉枠100の縦枠101は板材を折り曲げて形成されるものであり、縦枠101の背面側等には開口部110が形成されている。この開口部110のところにはアンカー111が固定されていて、縦枠101はこのアンカー111を介して壁芯材112に結合されている。このため、開口部110を通して外部からの電波が室内に漏れることがあるため、従来の扉枠100では電波遮蔽性能を向上できる余地が残されている。また一般的な建具として使用される扉枠100は、例えば縦枠101と上枠とをボルト等で締結した構成である。この構成では、縦枠101と上枠とを密着させた上で両者を締結するとしても、建付けの影響等によって縦枠101と上枠との間にすき間ができることもあるため、このすき間を通して電波が室内に漏れることがあり、従来の扉枠100では電波遮蔽性能を向上できる余地が残されている。
【0004】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、施工が煩雑になるのを抑制しつつ電磁波シールドドアの扉枠における電波遮蔽性能を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の目的を達成するため、電波の漏洩がどこから生じているかについて調査研究を重ね、その研究結果に基づいて本発明は創案された。
【0006】
具体的に、本発明は、一対の縦枠と、両縦枠の上端部同士を連結する上枠と、両縦枠の下端部同士を連結する下枠とを備えた電磁波シールドドアの扉枠であって、前記各縦枠は、少なくとも1枚の板材を折り曲げて中空の柱状に形成された枠部材と、この枠部材とは別体に形成された導電性を有するカバー部材とを備え、前記枠部材には、前記板材の両端部が離間した状態に折り曲げられることで上下方向に延びる開口部が形成されており、前記カバー部材は、前記開口部を塞ぐように前記枠部材に取り付けられている。
【0007】
本発明では、枠部材の開口部がカバー部材によって塞がれているので、外部から電波を受けることによって縦枠に生じる電流の導通面積を増大させることができる。この結果、縦枠を流れる電流をアースへ流し易くできるので、電波遮蔽性能を向上することができる。また、縦枠として開口部を有する枠部材を使用できるので、板材を折り曲げて形成される縦枠用の部材として一般的なものを使用することができることとなり、この結果、費用が増大するのを抑制することができる。しかも施工作業が煩雑になるのを抑制でき、また工期の長期化を招くこともない。
【0008】
ここで、前記枠部材には、壁体に支持されるブラケットを支持する補強部材が設けられているのが好ましい。
【0009】
この態様では、枠部材に使用される板材として一般的なものを使用しつつ、縦枠の支持強度を向上することができる。
【0010】
そして、前記補強部材が前記カバー部材の内側に配設され、前記カバー部材には、前記ブラケットと前記補強部材とを締結するボルトを挿通させる挿通孔が形成されているのがより好ましい。
【0011】
この態様では、縦枠の見映えを悪化させることなく、縦枠の支持強度を向上することができる。
【0012】
また本発明は、一対の縦枠と、両縦枠の上端部同士を連結する上枠と、両縦枠の下端部同士を連結する下枠とを備えた電磁波シールドドアの扉枠であって、前記縦枠と前記上枠とは、これらの対向面同士が複数のボルトで連結され、この対向面間に導電性を有する弾性部材が設けられている。
【0013】
本発明では、縦枠と上枠との間に弾性部材が配設されているので、建付けの影響を受けて縦枠と上枠との電気的接続が悪化するのを抑制することができる。すなわち、縦枠と上枠とをボルトで締結して扉枠を構成する場合、施工時の建付けが悪いと一般に縦枠と上枠との密着が充分とならず、両者間にすき間が生じやすくなって電波遮蔽性能を充分に発揮できない場合がある。これに対し、本発明では縦枠と上枠との間に弾性部材が配設され、しかもこの弾性部材が導電性を有するので、施工時の建付けに関係なく、左右の縦枠と上枠との導電状態を良好にし、電波遮蔽性能を向上することができる。さらに本発明では、縦枠と上枠とをボルトで連結する、いわゆるドライジョイント工法で扉枠を施工できるので、施工作業が煩雑になるのを抑制でき、また工期の長期化を招くこともない。
【0014】
ここで、前記弾性部材が前記対向面間における外周部に配置され、前記複数のボルトは、前記弾性部材で囲まれる内側に配置されているのが好ましい。
【0015】
この態様では、前記対向面間に間隙が形成されるとしても、その間隙が弾性部材で取り囲まれる。このため間隙の存在による電波の漏洩を抑制することができる。このため電波遮蔽性能をさらに向上することができる。
【0016】
さらに、前記縦枠と前記上枠の少なくとも一方に、前記弾性部材を収容する収容部が設けられているのが好ましい。
【0017】
この態様では、弾性部材の位置ずれを防止できるので、弾性部材が予期せぬ変形を起こすのを防止することができる。これにより、縦枠と上枠との導通状態を良好な状態に確保することができる。
【0018】
また、前記縦枠と前記上枠との位置決めを行う位置決め部材が設けられているのが好ましい。
【0019】
この態様では、縦枠と上枠とをボルト締結する際に両者の位置決めを確実に行うことができる。これにより、縦枠と上枠との電気的接続を確実なものにでき、縦枠と上枠との導通状態を良好な状態に確保することができる。
【0020】
さらにまた、前記弾性部材は、前記対向面の形状に応じて複数の部位に分割されているのが好ましい。
【0021】
この態様では、前記対向面の形状が平坦でない場合であっても、弾性部材を介した状態で縦枠と上枠との密着を確保することができる。これにより、例えば縦枠の側面形状等の前記対向面の形状が制約を受けないようにできるので、上枠に対向する縦枠の上部と、それよりも下方に位置する縦枠の下部とで縦枠の形状を変える等の調整を不要とすることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、施工が煩雑になるのを抑制しつつ電磁波シールドドアの扉枠における電磁波遮蔽性能を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1(a)(b)は、本発明に係る電磁波シールドドアの扉枠の一実施形態を電磁波シールドドア(以下単にシールドドア)10とともに示しており、(a)は正面図であり、(b)はその側方から見たときの断面図である。この扉枠20は、例えばMRI室等の電磁波シールドルームの出入り口に設けられるシールドドア10を室内側に開閉可能に支持するものである。扉枠20は、図1(a)に示すように、一対の縦枠21,21と、上枠22と、下枠23とを備え、これらで囲まれる矩形空間(枠内空間)Sが出入り口となっている。
【0025】
扉枠20は、図1(b)に示すように、室内と室外とを結ぶ方向に所定の幅を有しており、シールドドア10は、扉枠20の室内側端部に位置づけられている。シールドドア10は、ステンレス鋼板からなる板材11を中空状に組み付け、その中にグラスウール12が配された構成のものである。
【0026】
シールドドア10の戸先側の部位にはハンドル13と、このハンドル13に連動するキャッチャー14とが配設されている。ハンドル13は、室外側と室内側の双方から操作できる構成となっている。キャッチャー14は、その先端部が扉枠20の縦枠21に当接することでシールドドア10を固定させるためのもので、ハンドル13の操作によってその当接が解除されるように構成されている。
【0027】
図2に示すようにシールドドア10の室内側面には蝶番16が設けられていて、シールドドア10は、扉枠20に接触する閉じ位置から室内側に向かって開く開き戸として構成されている。
【0028】
シールドドア10には、図3にも示すように、戸先側端部と吊元側端部にそれぞれ突起部17と凹部18が設けられている。突起部17と凹部18は、何れも前記板材11を折り曲げて形成されたものであり、シールドドア10の上下方向の全体に亘って設けられている。各突起部17は、何れもシールドドア10の室外側端部に配置されていて、シールドドア10が閉じる際に突き出る方向に延びている。各凹部18は、平面視で室外側の一辺が開放した矩形状に形成されるものであり、何れもシールドドア10の室内側の端部に配置されている。各凹部18にはそれぞれシールドゴム19が配設されている。このシールドゴム19は、例えば角柱状のゴム等の弾性体に金属網が巻き付けられた構成のものである。
【0029】
戸先側の縦枠21と吊元側の縦枠21は、何れも複数枚の板材を折り曲げて中空の柱状に形成された枠部材25を備えている。板材はステンレス鋼板である。そして、枠部材25の中にグラスウール26が配されている。
【0030】
両縦枠21は、その前面側の側壁28が段差状に形成されている。具体的に、前面側の側壁28は、段差部をはさんで室内側の部位(室内側部)28aと室外側の部位(室外側部)28bとを備え、この側壁28は室内側部28aが室外側部28bよりも後退した形態となっている。前記段差部は、閉じた状態のシールドドア10の位置に応じて設定されている。
【0031】
各縦枠21の枠部材25には、それぞれ突起部25aと凹部25bが設けられている。これら突起部25aと凹部25bはシールドドア10との電気的接続を確保するために設けられるものであり、縦枠21の前面側の側壁28における室内側部28aに配置されている。
【0032】
突起部25aと凹部25bは、何れも前記板材を折り曲げて形成されたものであり、縦枠21の上下方向の全体に亘って設けられている。突起部25aは、何れの縦枠21においても、縦枠21の室内側の側壁から室内側に向かって突出する形状となっており、シールドドア10が閉じられるとシールドドア10の凹部18内に配設されたシールドゴム19を凹ませるようになっている。
【0033】
戸先側の縦枠21に設けられた凹部25bは、平面視で室内側の一辺が開放した矩形状に形成され、また吊元側の縦枠21に設けられた凹部25bは、平面視で枠内空間S側の一辺が開放した矩形状に形成されている。すなわち、各凹部25bは、シールドドア10の閉じ動作に応じて、シールドドア10の突起部17が移動する方向に応じて開放した形状となっている。
【0034】
各凹部25bには、シールドゴム30が配設されている。このシールドゴム30は、例えば角柱状のゴム等の弾性体に金属網が巻き付けられた構成のものである。シールドゴム30は、シールドドア10が閉じ位置にあるときにシールドドア10の突起部17が当接して凹むような配置に設定されている。これにより、シールドドア10が閉じたときに、シールドドア10と縦枠21とが電気的に接続された状態となる。
【0035】
各縦枠21には、背面側(枠内空間Sと反対側)の側壁32にそれぞれ導電板33が結合されている。この導電板33は、薄い銅板からなるものであり、縦枠21の高さ以上の高さを有している。そして、導電板33は、シールドルームの壁の中に配設されているボード34に支持されて壁内に沿って配設されていて、接地されている。導電板33の縦枠21側の端部は折り曲げられていて、押え板35と枠部材25との間に挟み込まれている。これにより、縦枠21が電波を受けることによって生じた電流がこの導電板33を通してアースへ流れるようになっている。
【0036】
枠部材25には、背面側の側壁32に開口部37が形成されている。この開口部37は、板材を折り曲げて柱状に形成する際に、板材の両端部を離間させることで形成されるものである。このため開口部37は、枠部材25の背面側を上下方向に延びる形状となっていて、枠部材25の高さ方向の全体に亘って形成されている。
【0037】
両枠部材25には、図4にも示すように、開口部37を外から塞ぐようにそれぞれカバー部材38が取り付けられている。カバー部材38は、ステンレス鋼板からなる平板材によって構成され、枠部材25と別体に形成されている。カバー部材38は、縦枠21の上下方向の全体に亘って配置され、カバー部材38は、枠部材25に外側から接合されて幅方向の両側でビス止めされている。これにより、縦枠21は、導電性を有する部材によって横断面が閉じられた形状となっている。
【0038】
両枠部材25には、図3に示すように、開口部37の内側にそれぞれ補強部材39が配設されている。この補強部材39は、鉄製の平板からなり、上下方向に間隔をおいて複数設けられている。各補強部材39にはボルト40を螺合するためのねじ孔39aが設けられている。補強部材39は、壁体に支持されるブラケット42を支持するためのものである。つまり、カバー部材38及び枠部材25は薄いステンレス板によって構成されているので、ブラケット42の支持剛性を向上するためにカバー部材38よりも少し厚めの補強部材39を設置するようにしている。
【0039】
ブラケット42は上下方向に間隔をおいて複数配設されている。各ブラケット42は、縦部42aと、この縦部42aに対して直交する横部42bとを備え、断面L字状に形成されている。ブラケット42は、その縦部42aが壁芯材43と平行になる姿勢に配置されて壁芯材43の端部に固定されている。そして、ブラケット42の横部42bはカバー部材38と平行に配置されている。
【0040】
ブラケット42の横部42bとカバー部材38には、ボルト40を挿通させる挿通孔42c,38aがそれぞれ形成されている。そして、ブラケット42の挿通孔42cに挿通されたボルト40は、カバー部材38の挿通孔38aに挿通されるとともに補強部材39のねじ孔39aに螺合されている。これにより、縦枠21はブラケット42を介してシールドルームの壁体に支持された状態となっている。
【0041】
カバー部材38及び補強部材39は何れも導電性の部材であるが、補強部材39を開口部37の全体にわたる大きさに構成せずに、カバー部材38を別個に設ける構成としているのは、見映えが悪化する、重量が嵩む等の理由によるものである。
【0042】
なお、図示省略しているが枠部材25を構成する板材同士が接合されている部位、あるいは枠部材25とカバー部材38とが接合されている部位等には、適宜シールドテープが介装されている。
【0043】
各縦枠21と上枠22とは、図5に示すように、複数のボルト45によって締結されている。以下具体的に説明する。
【0044】
各縦枠21と上枠22とは、縦枠21の前面側(枠内空間S側)の側壁28と上枠22の長手方向端部の側壁47とが間隔を置いて互いに対向するように配置されている。すなわち縦枠21の前面側の側壁28と上枠22の長手方向端部の側壁47とは、それぞれ縦枠21と上枠22とが互いに対向する対向面となっている。そして、前述したように縦枠21における前面側の側壁28が段差状に形成されているので、それに伴って上枠22における長手方向端部の側壁47も段差状に形成されている。すなわち、上枠22の長手方向端部の側壁47は、段差部をはさんで室内側の部位(室内側部)47aと室外側の部位(室外側部)47bとに分かれ、この側壁47は室内側部47aが室外側部47bよりも突出した形態となっている。
【0045】
縦枠21には、前面側の側壁28における室内側部28aの内側に固定ブラケット48が固定されている。また、上枠22には、その長手方向端部の側壁47の内側に固定ブラケット49が固定されている。上枠22側の固定ブラケット49は、室内側部47aの内側に配置される第1部材49aと、室外側部47bの内側に配置される第2部材49bとに分割されている。縦枠21側の固定ブラケット48と第2部材49bとは、互いに平行に配置されている。縦枠21側の固定ブラケット48には前記ボルト45の挿通孔が形成される一方、第2部材49bにはこのボルト45を螺合させるねじ孔が形成されている。そして、縦枠21側から固定ブラケット48の挿通孔に挿通されたボルト45が第2部材49bのねじ孔に螺合されることにより、縦枠21と上枠22とがボルト45で締結されている。
【0046】
第1部材49a及び第2部材49bには、それぞれ位置決め部材51が設けられている。この位置決め部材51は、上枠22側の固定ブラケット49から縦枠21に向かって延出されている。そして、縦枠21の前面側の側壁28にはこの位置決め部材51に対応する位置に位置決め孔52が形成されていて、位置決め部材51がこの位置決め孔52に挿通されることにより、上枠22と縦枠21との位置関係が規定されるようになっている。なお、位置決め部材51は、ボルトやピンによって構成することができる。
【0047】
前記ボルト45を第2部材49bに螺合するには、前記位置決め部材51によって縦枠21を上枠22に対して位置決めした後、縦枠21側からボルト45を挿入することとなる。このため、縦枠21のカバー部材38には貫通孔38bが形成されていて、カバー部材38にはこの貫通孔38bを塞ぐ蓋部材53が設けられている。蓋部材53はカバー部材38にビス止めされることでカバー部材38に対して着脱可能になっている。そして、扉枠20を組み立てる際に蓋部材53を外すことにより、貫通孔38bを通してのボルト45の締結作業が行えるようになっている。
【0048】
縦枠21の前面側の側壁28と上枠22の長手方向端部の側壁47との間には、スペーサ55と、導電性を有する弾性部材57とが配設されている。スペーサ55は、底面部55aとその周縁部に形成されるリブ部55bとを備え、皿状に形成されている。そして、このスペーサ55は、上枠22の側壁47の形状に応じて室内側の部位と室外側の部位とに分割されている。底面部55aには、前記固定ブラケット49に螺合されるボルト45を挿通させるための挿通孔が形成され、この底面部55aは、上枠22の側壁47に重ね合わされている。
【0049】
スペーサ55は、図4にも示すように、縦枠21の前面側の側壁28と上枠22の長手方向端部の側壁47との間に形成される空間よりも一回り小さく形成されている。一方、上枠22の長手方向端部では、周壁22aが長手方向端面を構成する側壁47に対して突出している。これにより、スペーサ55のリブ部55bと上枠22の周壁22aとの間に、縦枠21と上枠22との対向面間をその外周に沿って延び、かつ一定の幅を有する空間が形成されている。この空間は、前記弾性部材57を収容するための収容部59として形成されるものである。すなわち、収容部59は、縦枠21と上枠22との対向面間における外周部に形成され、この収容部59内に前記弾性部材57が配置されている。そして、前述した縦枠21と上枠22とを締結するボルト45は、弾性部材57で囲まれる内側に配置されている。
【0050】
弾性部材57は、ゴムに金属網が巻き付けられたシールド材からなり、管状に形成されている。シールド部材57はスペーサ5の厚み(リブ部55bの高さ)よりも少し厚みのあるものである。縦枠21と上枠22との対向面が段差状に形成されているため、シールド部材57は、それに応じて室内側の部位と室外側の部位とに分割されている。そして、シールド部材57は、収容部59に沿って折り曲げられた状態で収容部59内に配設されている。シールド部材57は、前記ボルト45による締結に応じて弾性変形可能に設けられている。
【0051】
シールド部材57が収容部59内に収容されてリブ部55bと上枠22の周壁22aとで挟まれることにより、シールド部材57が位置ずれするのを阻止できるようになっている。そして、シールド部材57が縦枠21と上枠22との対向面間における外周部に配設されることにより、この対向面間の間隙からの電波漏洩を確実に防止できるようになっている。
【0052】
なお、本実施形態では、スペーサ55をその底面部55aが上枠22側になるように配置しているが、これに代え、底面部55aが縦枠21側になるように配置してもよい。また、スペーサ55を皿状に形成しているが、これに代え、リブ部55bの高さと同じ厚みを有する板状に形成してもよい。
【0053】
図6に示すように、上枠22は、複数枚の板材を折り曲げて中空の柱状に形成された枠部材61を備えている。板材はステンレス鋼板である。そして、枠部材61の中にグラスウール62が配されている。なお、図5では、便宜上グラスウール62を省略している。
【0054】
上枠22の枠部材61には、縦枠21と同様に突起部61aと凹部61bが設けられている。これら突起部61aと凹部61bは、シールドドア10との電気的接続を確保するために設けられるものである。突起部61aと凹部61bは、何れも前記板材を折り曲げて形成されたものであり、上枠22の長手方向の全体に亘って設けられている。突起部61aは、上枠22の室内側端部から室内側に向かって突出する形状となっており、シールドドア10が閉じられるとシールドドア10のシールドゴム64と接触するようになっている。このシールドゴム64は、ゴム等の弾性体に金属網が巻き付けられた構成のものであり、シールドドア10の上端部に沿ってドア10の幅方向に延びるように配設されている。
【0055】
上枠22の凹部61bは、側面視で室内側の一辺が開放した矩形状に形成されている。凹部61bには、シールドゴム66が配設されている。このシールドゴム66は、例えば角柱状のゴム等の弾性体に金属網が巻き付けられた構成のものである。
【0056】
上枠22の上面(背面)には、導電板68が結合されている。この導電板68は、シールドルームの壁の中に配設されるものであり、薄い銅板からなる。導電板68は枠部材61と押え板69との間に挟み込まれている。
【0057】
上枠22の枠部材61には、上面に開口部70が形成され、この開口部70を塞ぐようにカバー部材71が設けられている。カバー部材71は、ステンレス鋼板からなる平板材によって構成されている。これにより、上枠22は、導電性を有する部材によって横断面が閉じられた形状となっている。
【0058】
開口部70は上枠22の長手方向に延びるように形成されていて、カバー部材71は上枠22と同じ長さのものが用いられている。そして、開口部70の内側には、複数の補強部材72が開口部70の長さ方向に間隔をおいて配設されている。補強部材72は、壁体に支持されるブラケット73を支持するためのものである。ブラケット73及びカバー部材71には、ボルト74の挿通孔が形成されていて、この挿通孔に挿通されたボルト74が補強部材72に螺合されている。
【0059】
一方、図7に示すように、前記下枠23は、床に形成されたピット76内に配設されている。床は、基礎となるスラブコンクリートの上に軽量コンクリートを打設した構成となっているが、この軽量コンクリートからなる上層部に前記ピット76が設けられている。このピット76は、扉枠20の大きさに対応した大きさのものである。
【0060】
下枠23は、基台78と接続部材79と踏み板80とを備えている。基台78は、基台本体78aと支持部材78bとを備えている。基台本体78aは、下面に開口部78cが形成されるように板材(ステンレス鋼板)を折り曲げ形成されたものであり、平面視矩形状に形成されている。前記支持部材78bは、鉄板からなり、基台本体78aの開口部78cを塞ぐように架設されている。この支持部材78bはアンカーボルト82によって床に固定されている。
【0061】
前記踏み板80及び接続部材79は、基台78の上に配置されている。接続部材79は、シールドドア10の下に配置され、踏み板80は、シールドドア10よりも室外側に配置されている。踏み板80はステンレス鋼板からなる板材を折り曲げて形成した一体ものである。
【0062】
接続部材79は、ステンレス鋼板からなる板材を折り曲げて形成した一体ものである。この接続部材79は、シールドドア10が開放する方向(室外側から室内側に向かう方向)に向かって高さが低くなる傾斜状の接合部79aと、この接合部79aの両側にそれぞれ配置される押え部79bとを一体的に有する。
【0063】
接合部79aは、シールドドア10の下端部に設けられたシールド材84が当接する形状に構成されている。このシールド材84は、シールドドア10に固定された支持部84aと、この支持部84aに結合されたシールド部84bとを備えている。シールド部84bは接続部材79の接合部79aと略平行な配置となっている。支持部84aは弾性変形可能に構成されており、シールドドア10が閉じられるとシールド部84bが接続部材79と当接するので、支持部84aはそれに応じて撓む。これにより、シールド材84と接続部材79とが確実に接合するようになっている。
【0064】
接続部材79の各押え部79bは、それぞれL字状に形成されていて、接合部79aから下方に延びる縦部79cと、この縦部79cの下端部から室外側に向かって水平方向に延びる横部79dとを有する。そして、室外側の押え部79bにおける横部79dは、踏み板80の中まで延びている。踏み板80は、室外側の押え部79bの横部79dを含め、基台78を覆うように配置されている。踏み板80は、ビス86によって基台78に締結固定されている。
【0065】
押え部79bの横部79dと前記基台78との間には、銅板からなる導電板88が挟み込まれている。この導電板88は、その基端部88aが下枠23の扉側端部を上下方向に延びるように床の上層部に埋設されていて、導電板88の先端部88bは、床のピット76から上方へ延出されている。そして、導電板88の先端部88bは基台本体78aに沿うように折り曲げられていて、導電板88の先端部88bは基台本体78aの上面の全体を覆っている。
【0066】
接続部材79の室外側の押え部79bにおける横部79dと、導電板88の先端部88bとには、それぞれねじ89を挿通させるための挿通孔が設けられている。これに対応して基台本体78aの上面部には、ねじ孔が設けられている。そして、これら挿通孔に上から挿通されたねじ89を基台本体78aのねじ孔に螺合させることにより、接続部材79は、その基台本体78aとの間に導電板88を挟み込んだ状態で基台78と結合されている。これにより、接続部材79は、導電板88を固定する押え板として機能している。すなわち、接続部材79は、シールドドア10と導電板88とを電気的に接続するためのものであり、接続部材79の接合部79aがシールドドア10のシールド材84によって上から押え付けられることにより、接続部材79の押え部79bが導電板88とより強固に密着するようになっている。これにより、シールドドア10からの電流が、接続部材79及び導電板88を通してアースに効率的に流れるので、電波遮蔽性能を有効に発揮させることができる。
【0067】
本実施形態では、導電板88の先端部88bが基台本体78aの上面部に沿って配設されるため、導電板88を固定するためのねじ止め作業は、上からの操作となる。このため、従来よりも作業負担を軽減できるようになっている。すなわち、従来、導電板を固定する作業は、床下の位置でしかもスラブコンクリートから僅かに高くなった位置にねじ止めを行ったり、半田付けを行ったりする作業であったため、低くかがんだ状態での作業となる。このたため、作業負担が大きく、効率的に行うことができず時間がかかるという問題があった。これに対し、本実施形態では、導電板88のねじ止め作業は、作業者が下を向いて床面から僅かに下の位置にねじ89をねじ込んでいく作業となるので、作業負担を軽減でき、しかも工期の短縮に寄与することができる。
【0068】
ここで、本実施形態にかかる扉枠20による電波遮蔽性能を検証した結果について説明する。図8は、この扉枠20によるシールド性能を測定した結果の一例を示すもので、本実施形態の扉枠20による結果と従来の扉枠による結果とを示している。同図に示すように、30MHz〜150MHzの何れの周波数帯域の電波が到達した場合でも、従来よりもシールド性能が向上し、しかも本実施形態では、周波数帯域によらず100dBを確保できていることがわかる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態によれば、縦枠21の開口部37がカバー部材38によって塞がれているので、外部から電波を受けることによって縦枠21に生じる電流の導通面積を増大させることができる。この結果、縦枠21を流れる電流を、導電板33を介してアースへ流し易くできるので、電波遮蔽性能を向上することができる。また、壁体に連結されるブラケット42を固定するのに使用される開口部37を有する枠部材25を縦枠21に使用できるので、板材を折り曲げて形成される縦枠用の部材として一般的なものを使用することができることとなり、この結果、費用が増大するのを抑制することができる。しかも施工作業が煩雑になるのを抑制でき、また工期の長期化を招くこともない。
【0070】
しかも本実施形態では、縦枠21の枠部材25にブラケット42を支持する補強部材39が設けられているので、枠部材25に使用される板材として一般的なものを使用しつつ、縦枠21の支持強度を向上することができる。さらに、その補強部材39がカバー部材38の内側に配設されているので、縦枠21の見映えを悪化させることなく、縦枠21の支持強度を向上することができる。
【0071】
また、本実施形態では、縦枠21と上枠22との間にシールド部材57が配設されているので、建付けの影響を受けて縦枠21と上枠22との電気的接続が悪化するのを抑制することができる。すなわち本実施形態では、縦枠21と上枠22との間にシールド部材57が配設され、しかもこのシールド部材57が導電性を有するので、施工時の建付けに関係なく、左右の縦枠21と上枠22との導電状態を良好にし、電波遮蔽性能を向上することができる。さらに、縦枠21と上枠22とをボルト45で連結する、いわゆるドライジョイント工法で扉枠20を施工できるので、施工作業が煩雑になるのを抑制でき、また工期の長期化を招くこともない。
【0072】
また、本実施形態では、シールド部材57が対向面間における外周部に配置されているので、前記対向面間に間隙が形成されるとしても、その間隙が弾性部材57で取り囲まれる。このため、この間隙の存在による電波の漏洩を抑制することができ、電波遮蔽性能をさらに向上することができる。
【0073】
さらに本実施形態では、シールド部材57が位置ずれしないようにシールド部材57を保持する収容部59が設けられているので、シールド部材57の位置ずれを防止でき、これによりシールド部材57が予期せぬ変形を起こすのを防止することができる。したがって、縦枠21と上枠22との導通状態を良好な状態に確保することができる。
【0074】
さらにまた本実施形態では、位置決め部材51が設けられているので、縦枠21と上枠22とをボルト締結する際に両者の位置決めを確実に行うことができる。これにより、縦枠21と上枠22との導通状態を良好な状態に確保することができる。
【0075】
また本実施形態では、シールド部材57が分割された構成としているので、前記対向面の形状が平坦でなくても、シールド部材57を介した状態で縦枠21と上枠22との密着を確保することができる。これにより、縦枠21の側面形状等の前記対向面の形状が制約を受けないようにできるので、上枠22に対向する縦枠21の上部と、それよりも下方に位置する縦枠21の下部とで縦枠21の形状を変える等の調整を不要とすることができる。
【0076】
なお、本発明は、本実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、本実施形態では、上枠22の長手方向端面と縦枠21の側面とが対向するように組み付けられた構成としたが、これに代え、上枠22の下面と縦枠21の上面が対向するように上枠22と縦枠21とを組み付ける構成としてもよい。この場合、上枠22の下面と縦枠21の上面との間がボルトで締結される構成となり、上枠22の下面と縦枠21の上面との間にスペーサ55及びシールド部材57が配設される構成となる。
【0077】
また、要求される電波遮蔽性能に応じ、縦枠21の開口部37をカバー部材38で塞ぐ構成を省略することが可能である。また、要求される電波遮蔽性能に応じ、縦枠21と上枠22との対向面間にシールド部材57を配設する構成を省略することが可能である。また、本実施形態では、シールドドア10が室内側に開閉可能となる内開きの開き戸として説明したが、室外側に開閉可能となる外開きの開き戸であってもよく、同様の作用効果を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】(a)本発明の実施形態に係る電磁波シールドドアの扉枠及び電磁波シールドドアの正面図であり、(b)同扉枠及び電磁波シールドドアを側方から見た状態で示す断面図である。
【図2】前記扉枠及び電磁波シールドドアを上方から見た状態で示す断面図である。
【図3】図2の要部を拡大して示す断面図である。
【図4】吊元側の縦枠及び上枠の斜視図である。
【図5】縦枠及び上枠を上方から見た状態で示す断面図である。
【図6】上枠及び電磁波シールドドアの上部を側方から見た状態で示す断面図である。
【図7】下枠及び電磁波シールドドアの下部を側方から見た状態で示す断面図である。
【図8】周波数帯域ごとのシールド性能を示す特性図である。
【図9】従来の電磁波シールドドアの扉枠を示す断面図である。
【符号の説明】
【0079】
10 シールドドア
20 扉枠
21 縦枠
22 上枠
23 下枠
25 枠部材
37 開口部
38 カバー部材
38a 挿通孔
39 補強部材
40 ボルト
42 ブラケット
45 ボルト
51 位置決め部材
57 シールド部材
59 収容部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の縦枠と、両縦枠の上端部同士を連結する上枠と、両縦枠の下端部同士を連結する下枠とを備えた電磁波シールドドアの扉枠であって、
前記各縦枠は、少なくとも1枚の板材を折り曲げて中空の柱状に形成された枠部材と、この枠部材とは別体に形成された導電性を有するカバー部材とを備え、
前記枠部材には、前記板材の両端部が離間した状態に折り曲げられることで上下方向に延びる開口部が形成されており、
前記カバー部材は、前記開口部を塞ぐように前記枠部材に取り付けられている電磁波シールドドアの扉枠。
【請求項2】
前記枠部材には、壁体に支持されるブラケットを支持する補強部材が設けられている請求項1に記載の電磁波シールドドアの扉枠。
【請求項3】
前記補強部材は、前記カバー部材の内側に配設されており、
前記カバー部材には、前記ブラケットと前記補強部材とを締結するボルトを挿通させる挿通孔が形成されている請求項2に記載の電磁波シールドドアの扉枠。
【請求項4】
一対の縦枠と、両縦枠の上端部同士を連結する上枠と、両縦枠の下端部同士を連結する下枠とを備えた電磁波シールドドアの扉枠であって、
前記縦枠と前記上枠とは、これらの対向面同士が複数のボルトで連結され、この対向面間に導電性を有する弾性部材が設けられている電磁波シールドドアの扉枠。
【請求項5】
前記弾性部材は、前記対向面間における外周部に配置され、
前記複数のボルトは、前記弾性部材で囲まれる内側に配置されている請求項4に記載の電磁波シールドドアの扉枠。
【請求項6】
前記縦枠と前記上枠の少なくとも一方には、前記弾性部材を収容する収容部が設けられている請求項4又は5に記載の電磁波シールドドアの扉枠。
【請求項7】
前記縦枠と前記上枠との位置決めを行う位置決め部材が設けられている請求項4から6の何れか1項に記載の電磁波シールドドアの扉枠。
【請求項8】
前記弾性部材は、前記対向面の形状に応じて複数の部位に分割されている請求項4から7の何れか1項に記載の電磁波シールドドアの扉枠。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−34538(P2008−34538A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205009(P2006−205009)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】