説明

有機性排水の処理方法

【課題】半導体製造工場排水のように低分子有機化合物を主成分とする排水であっても、汚泥濃度を高く保って安定した運転を行うことができる有機性排水の処理方法を提供する。
【解決手段】有機性排水の流入する曝気槽1と、曝気槽1の汚泥を分離膜4で固液分離する有機性排水の処理方法において、該有機性排水中の全有機物に対するモノマー有機物の割合が70%以上であり、該有機性排水に酵母エキス、魚肉エキス、牛肉エキス、野菜エキス、及び糖蜜の少なくとも1種を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性排水を曝気槽で生物処理し、膜で固液分離する処理方法に係り、特に有機性排水中の有機物が低分子量有機物を主体とする排水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機性排水の流入する曝気槽と、曝気槽の汚泥を循環させながら膜で固液分離する膜分離槽とを備えた膜分離活性汚泥装置(MBR)を用いる有機性排水の処理方法(例えば特許文献1,2)によれば、膜を用いることによって、処理水の水質を良好に保つことができ、また、曝気槽のMLSS濃度を高く維持でき、高負荷処理が可能となるうえに、沈殿槽が不要となるため、装置を小さくすることができる。
【0003】
近年、液晶ディスプレイ、半導体製造工場のように純水を使用し、その排水を排出する設備等で、有機物を含む排水を生物処理し、その処理水を純水製造の原料として用いる水回収が進んでおり、こうした排水回収に、凝集沈殿、濾過といった生物処理の後処理が不要で、直接RO(逆浸透膜)で脱塩処理できるMBRが適用される事例が増えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−50764
【特許文献2】特開2004−8176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
下水や食品工場排水のMBRでは、有機物同士が重合され分子量が大きい有機物が主成分であり、これらは微生物の細胞壁を通過できずに菌体外酵素により分解され、その際に生成する粘質物(バイオポリマー)により汚泥フロックが安定して形成される。その結果、汚泥の膜濾過性が良好に保たれる。
【0006】
一方、液晶ディスプレイ、半導体製造工場の排水は、純水に現像工程やレジスト剥離工程で使用される溶剤が含まれている。これらの溶剤は、微生物が直接吸収できる程度の低分子有機物(以下、「モノマー有機物」という。)を主成分としており、分解の過程で粘質物がほとんど生成しないため、フロックが形成されず、分散した汚泥になりやすい。汚泥が分散すると、膜濾過時に膜表面に緻密なケーク層が形成されて目詰まりを起こすため、こうしたモノマー有機物を主成分とするMBRではフラックス(膜透過水流束)を高く取れないという問題があった。
【0007】
本発明は、有機性排水を曝気槽に導入し、好気性処理した後、その汚泥混合液を膜で固液分離して処理水を得る有機性排水の処理方法であって、半導体製造工場排水のように低分子有機化合物を主成分とする排水であっても、フラックスを高くすることができる有機性排水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(請求項1)の有機性排水の処理方法は、有機性排水を曝気槽に導入し、好気性処理した後、その汚泥混合液を膜で固液分離して処理水を得る有機性排水の処理方法であって、有機性排水がモノマー有機物を含んでいる有機性排水の処理方法において、該有機性排水中の全有機物に対するモノマー有機物の割合が70%以上であり、該有機性排水に酵母エキス、魚肉エキス、牛肉エキス、野菜エキス、及び糖蜜の少なくとも1種を添加することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の有機性排水の処理方法は、請求項1において、前記モノマー有機物は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、モノエタノールアミン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、イソプロピルアルコール、ジメチルスルホキシド、メタノール及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の有機性排水の処理方法は、請求項1又は2において、前記排水は、液晶ディスプレイ又は半導体製造工場から排出される排水であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機性排水の処理方法は、有機性排水を曝気槽に導入し、好気性処理した後、その汚泥混合液を膜で固液分離して処理水を得る有機性排水の処理方法において、有機性排水に酵母エキス、魚肉エキス、牛肉エキス、野菜エキス、及び糖蜜の少なくとも1種を添加する。このように有機性排水に酵母エキス等を添加すると、酵母エキス、魚肉エキス、牛肉エキス、糖蜜は高分子有機化合物であることから、分解の過程で粘質物が生成される他、ビタミン類、有機物以外の微生物の成育に必要な微量元素が含まれており、これらが補充されることで汚泥の活性も高まり、良好なフロックが形成される。これにより、膜のフラックスを大きくとることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態に係る有機性排水の処理方法のフロー図である。
【図2】実施の形態に係る有機性排水の処理方法のフロー図である。
【図3】実験結果を示すグラフである。
【図4】実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、処理対象となる有機性排水は、モノマー有機物を含有する有機性排水が好適であり、例えば、電子産業排水、化学工場排水、製紙工場排水などが挙げられる。例えば、電子部品製造プロセスでは、現像工程、剥離工程、エッチング工程、洗浄工程などから各種の有機性排水が多量に発生し、しかも排水を回収して純水レベルに浄化して再使用することが望まれているので、これらの排水は本発明の処理対象排水として適している。
【0014】
モノマー有機物の具体例としては、ギ酸、酢酸、メタノール、メチルアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、モノエタノールアミン(MEA)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)、イソプロピルアルコール(IPA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。有機性排水中の全有機物に対するモノマー有機物の割合は70重量%以上であり、好ましくは70〜100%特に80〜100%である。「全有機物」とは水中に含まれる各種有機態炭素化合物を総称するものとし、不揮発性のみならず、一般的なTOC系では測定されない揮発性有機物も含むものとする。
【0015】
有機性排水の有機物濃度は特に限定されないが、本発明は特にBODが100〜5,000mg/Lの有機物含有排水の処理に適している。
【0016】
本発明では、この有機性排水に、酵母エキス、魚肉エキス、牛肉エキス、野菜エキス、糖蜜のいずれか1以上(以下、酵母エキス等ということがある。)を添加する。有機性排水に対する酵母エキス等の添加濃度は1〜30mg/L、特に3〜10mg/Lが、膜濾過性の改善効果とコストの点から好ましい。酵母エキス等は、有機性排水に直接添加してもよいし、有機性排水が導入される曝気槽に添加してもよい。酵母エキス、魚肉エキス、牛肉エキス、糖蜜は高分子有機化合物であることから、分解の過程で粘質物が生成される他、ビタミン類、有機物以外の微生物の成育に必要な微量元素が含まれており、これらが有機性排水に添加されることにより、汚泥の活性も高まり、良好なフロックが形成される。
【0017】
本発明における酵母エキス、魚肉エキス、牛肉エキス、野菜エキスとは、酵母(ビール酵母、パン酵母、トルラ酵母など)、魚肉、牛肉、野菜をそれぞれ原料として、加熱や自己消化、酵素分解により抽出、濃縮されたエキスである。また、糖蜜(廃糖蜜も含む)とは、甘しゃ(Cane)の糖汁から原糖(粗糖)を製造、又は原糖を精製する際や、てん菜からてん菜糖を生産する際などの砂糖製造時に発生する副産物(比重の大きい粘着性のある茶褐色の液体)であり、40〜60%の糖分が含まれている。
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面により説明する。図1は浸漬膜を利用した活性汚泥処理装置の系統図であり、この装置は、曝気槽1、散気装置2、膜分離槽3を備えている。膜分離槽3には浸漬型膜分離膜4が槽内液に浸漬された状態で設けられ、分離膜4を透過させて槽内液を濃縮するように構成されている。原水を原水路11から曝気槽1に導入し、散気装置2から空気を散気し、槽内の活性汚泥と混合して好気的に生物処理する。槽内液を系路12から膜分離槽3に送り、膜分離する。
【0019】
膜分離槽3ではポンプPを駆動し、槽内液を浸漬型膜の分離膜4を透過させ、処理水として排出する。膜分離槽3では槽内を好気的に維持するとともに分離膜4表面への微生物付着防止のために散気装置5から空気を散気する。透過液は処理水として処理水路13から排出し、濃縮液は返送汚泥系路14から返送汚泥として曝気槽1に返送する。なお、この実施の形態では分離膜4を膜分離槽3に浸漬配置しているが槽外型膜分離モジュールとし、この槽外型膜分離モジュールの濃縮水を曝気槽1に返送するようにしてもよい。
【0020】
また、膜分離槽を省略し、図2のように曝気槽1内に分離膜4を浸漬配置してもよい。
【0021】
曝気槽1のBOD負荷は0.3〜2kg/m・d、特に0.5〜1.5kg/m・dが好適である。なお、曝気槽1を直列に複数設置してもよい。曝気槽1のMLSS濃度は3,000〜20,000mg/L、特に6,000〜12,000mg/L程度であることが、膜濾過性の点から好ましい。
【0022】
膜分離槽3の膜4は、MF、UFが好適であり、平膜、チューブラ膜、中空糸膜のいずれでもよい。膜面に空気などのガスを散気して洗浄することにより濾過性が高められる。
【0023】
余剰汚泥として、1日あたり曝気槽及び膜分離槽の全保有汚泥量の1/10〜1/50(SRT10〜50日とする)、特に1/20〜1/30に相当する量を引き抜くようにするのが好ましい。
【実施例】
【0024】
<実施例1>
以下、実施例及び比較例について説明する。下記の原水を、下記の曝気槽を有した図2に示す装置を用いて処理を行った。
【0025】
[原水]
液晶製造工場の模擬排水MEA80mg/L、DMSO80mg/L、TMAH250mg/L、及び栄養無機塩を含む。BOD濃度500mg/L。)
原水供給量4m/d
【0026】
[曝気槽]
曝気槽1.5m
【0027】
槽内に三菱レイヨン製MF膜(膜面積6m)を浸漬し、7min濾過/1min休止のサイクルで膜濾過水を吸引。膜間差圧が30kPaを超えたところで、膜を取り上げ、NaOH+NaClO溶液(pH12、有効塩素0.3%)に一晩浸漬して洗浄。
【0028】
[運転方法]
液晶製造工場の排水処理施設の活性汚泥を種汚泥として投入した。BOD濃度500mg/L、TOC濃度180mg/Lの排水で1ヶ月馴養後、6ヶ月運転した。最初の3ヶ月は実効フラックス0.5m/dで運転し、その後の3ヶ月は処理水を一部曝気槽に返送して、原水量一定のまま、実効フラックスを0.7m/dに高めて運転した。原水あたり5mg/Lの酵母エキス(極東製薬製)を添加した。膜間差圧の推移を図3に示す。
【0029】
<比較例1>
酵母エキスを添加しなかったこと以外は実施例1と同一条件にて運転を行った。膜間差圧の推移を図4に示す。
【0030】
[結果]
比較例1、実施例1のいずれも全期間を通じ、処理水のBOD濃度は5mg/L未満であった。
【0031】
膜の薬品洗浄頻度は、比較例1で、フラックス0.5m/dにおいて25日前後、0.7m/dにおいて10日前後であったのに対し、実施例1では、フラックス0.5m/dにおいて30日前後、0.7m/dにおいて20日前後であり、実施例1では、特に高フラックス条件において、膜目詰まりの進行が抑制され、洗浄頻度を低減することができた。
【0032】
試験期間中の汚泥の平均粒径は、比較例1の30μm前後(平均28μm)に対し、実施例1では50〜60μm(平均52μm)で推移しており、酵母エキスの添加により,汚泥の分散化を防ぐことができた。また、汚泥の膜濾過性の指標である、5C濾紙濾過量(汚泥50mLを5C濾紙で5min濾過したときの濾液量)は、比較例の2〜3mLに対し、実施例1では18〜20mLであり、実施例1では膜濾過性が改善されていた。
【0033】
以上の実施例及び比較例より明らかな通り、本発明によって、モノマー有機物を主成分とする、液晶ディスプレイ、半導体製造工場の排水に対しても、膜濾過性の良好な汚泥性状を保ち、高フラックスでの運転を可能にすることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 曝気槽
3 膜分離槽
4 分離膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性排水を曝気槽に導入し、好気性処理した後、その汚泥混合液を膜で固液分離して処理水を得る有機性排水の処理方法であって、有機性排水がモノマー有機物を含んでいる有機性排水の処理方法において、
該有機性排水中の全有機物に対するモノマー有機物の割合が70%以上であり、
該有機性排水に酵母エキス、魚肉エキス、牛肉エキス、野菜エキス、及び糖蜜の少なくとも1種を添加することを特徴とする有機性排水の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記モノマー有機物は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、モノエタノールアミン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、イソプロピルアルコール、ジメチルスルホキシド、メタノール及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする有機性排水の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記排水は、液晶ディスプレイ又は半導体製造工場から排出される排水であることを特徴とする有機性排水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−206041(P2012−206041A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74614(P2011−74614)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】