説明

歯車の噛合状態評価方法および装置

【課題】実際に歯車を噛合して回転駆動した場合の騒音との相関が高く、定量的な評価が可能な歯車の噛合状態評価方法、および歯車の噛合状態評価装置を提供する。
【解決手段】歯車の噛合状態評価方法は、駆動歯車11の歯面11aの立体形状および被駆動歯車12の歯面12aの立体形状をそれぞれ計測する歯面形状計測工程S100と、駆動歯車11の歯面11aの立体形状および被駆動歯車12の歯面12aの立体形状についてそれぞれ二次元フーリエ変換することによりパワースペクトルを作成するパワースペクトル作成工程S200と、駆動歯車11および被駆動歯車12のそれぞれについてのパワースペクトルの差分を算出することにより差分パワースペクトルを作成する差分パワースペクトル作成工程S300と、差分パワースペクトルに基づいて駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態を判定する噛合状態判定工程S400と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車の噛合状態を評価する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯車の噛合状態は当該歯車が噛合しつつ回転する際に発生する騒音や振動と密接な関係を有することが知られており、歯車を具備する装置等の駆動時の騒音や振動を低減する目的で歯車の噛合状態を評価する方法が検討されている。
【0003】
このような評価方法としては、実際に歯車を噛合して回転駆動し、歯車から発生する騒音や振動、その他の情報に基づいて歯車の噛合状態を評価する方法が行われている。
例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0004】
特許文献1に記載の方法は、入力軸に嵌設された歯車および出力軸に嵌設された歯車を噛合して実際に回転駆動しつつ入力軸および出力軸に設けられたロータリーエンコーダで伝達誤差信号を検出し、当該検出された伝達誤差信号をフーリエ変換することにより伝達誤差信号から雑音成分を除去して歯車の噛合状態を評価するものである。
【0005】
しかし、この方法は通常、実際に専用の装置に一対の歯車を相互に噛合した状態で回転可能にセットし、これらを回転駆動しなければならないために作業性が悪く、多数の歯車を高速かつ精度良く評価する用途には適さないという問題がある。
【0006】
上記方法とは別の方法として、歯車の歯面の形状を接触式または非接触式の形状測定装置により計測し、計測結果を基準となる歯面の形状と比較することにより歯車の噛合状態を評価する方法が検討されている。非接触式の形状測定装置により計測する方法としては特許文献2に記載の方法が挙げられる。
このような方法の最も簡便な例としては歯車の歯面の特定部分をプローブまたはレーザ光で一回走査して形状を計測する方法があるが、この場合、一回走査しただけの計測結果が歯車の歯面の全体形状を反映しているとは言い難く、当該計測結果と実際に歯車を回転駆動したときの騒音や振動との相関も高くない。
【0007】
そこで、プローブまたはレーザ光を用いて歯車の歯面を歯丈方向に走査する作業を歯方向に少しづつずらして複数回行うことにより、歯車の歯面全体の立体形状を計測し、当該歯車の歯面全体の立体形状と基準となる歯面の立体形状と比較することにより歯車の噛合状態を評価する方法が検討されている。
【0008】
しかし、この方法で良品であると判定される歯車は、当該基準となる歯面との間では誤差が所定の範囲にあるが、これらの歯車同士が噛合したときの相対的な形状の誤差は組み合わせによっては大きくなる場合がある。そして、このような場合には歯車の噛合状態の評価結果と実際に歯車を噛合したときの騒音や振動の測定結果との間の相関が低く、結果的に歯車の噛合状態の評価結果の信頼性が高くないという問題がある。
【特許文献1】特開平1−199132号公報
【特許文献2】特開平7−71942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明は以上の如き状況に鑑み、実際に歯車を噛合して回転駆動した場合の騒音や振動との相関が高く、定量的な評価が可能な歯車の噛合状態評価方法、および歯車の噛合状態評価装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1においては、
一対の歯車の歯面の立体形状をそれぞれ計測する歯面形状計測工程と、
前記歯面形状計測工程において計測された一対の歯車の歯面の立体形状についてそれぞれ二次元フーリエ変換することによりパワースペクトルを作成するパワースペクトル作成工程と、
前記パワースペクトル作成工程において作成された一対の歯車のそれぞれについてのパワースペクトルの差分を算出することにより差分パワースペクトルを作成する差分パワースペクトル作成工程と、
前記差分パワースペクトル作成工程において作成された差分パワースペクトルに基づいて前記一対の歯車の噛合状態を判定する噛合状態判定工程と、
を具備するものである。
【0012】
請求項2においては、
前記噛合状態判定工程において、
差分パワースペクトルの歯丈方向の周波数成分が所定の強度以上となった場合に噛合状態が悪いと判定するものである。
【0013】
請求項3においては、
一対の歯車の歯面の立体形状をそれぞれ計測する歯面形状計測手段と、
前記歯面形状計測手段により計測された一対の歯車の歯面の立体形状についてそれぞれ二次元フーリエ変換することにより、パワースペクトルを作成するパワースペクトル作成手段と、
前記パワースペクトル作成手段により作成された一対の歯車のそれぞれについてのパワースペクトルの差分を算出することにより差分パワースペクトルを作成する差分パワースペクトル作成手段と、
前記差分パワースペクトル作成手段により作成された差分パワースペクトルに基づいて前記一対の歯車の噛合状態を判定する噛合状態判定手段と、
を具備するものである。
【0014】
請求項4においては、
前記噛合状態判定手段は、
差分パワースペクトルの歯丈方向の周波数成分が所定の強度以上となった場合に噛合状態が悪いと判定するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1においては、一対の歯車の噛合状態を定量的に評価することが可能である。
【0017】
請求項2においては、一対の歯車の噛合状態を定量的に評価することが可能である。
【0018】
請求項3においては、一対の歯車の噛合状態を定量的に評価することが可能である。
【0019】
請求項4においては、一対の歯車の噛合状態を定量的に評価することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下では図1を用いて本発明に係る歯車の噛合状態評価装置の実施の一形態である評価装置1について説明する。
評価装置1は一対の歯車である駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態を評価するための装置であり、主として形状計測装置20、制御装置30等を具備する。
【0021】
駆動歯車11および被駆動歯車12は本発明に係る一対の歯車の実施の一形態であり、互いに噛合可能な一対のハスバ歯車である。
なお、本発明に係る歯車は本実施例の駆動歯車11および被駆動歯車12の如きハスバ歯車に限定されず、平歯車、内歯歯車、ラック、直歯傘歯車、ハスバ傘歯車、冠歯車、フェース歯車、ゼロールベベルギア、スパイラルベベルギア、ハイポイドギア、ネジ歯車、ウォーム歯車等の種々の歯車に適用可能である。
【0022】
形状計測装置20は本発明に係る歯面形状計測手段の実施の一形態であり、駆動歯車11および被駆動歯車12の立体形状、より厳密には駆動歯車11の歯面11aの立体形状および被駆動歯車12の歯面12aの立体形状をそれぞれ計測するものである。
形状計測装置20は接触式の形状計測装置であり、プローブ21を具備する。
形状計測装置20は、プローブ21を駆動歯車11の歯面11aおよび被駆動歯車12の歯面12aに接触させつつ走査することにより、歯面11aおよび歯面12aの凹凸、すなわち歯面11aおよび歯面12aの歯面形状のプロファイルを取得する。
このとき、図2の(a)に示す如く形状計測装置20はプローブ21を歯丈方向(歯車の歯の高さ方向)に走査する作業を歯幅方向(歯車の歯の幅方向)に少しづつずらして複数回行い、図2の(b)に示す如く歯幅方向の座標が異なる複数の歯面形状のプロファイルを取得する。
このようにして、形状計測装置20は、歯幅方向の座標が異なる複数の歯面形状のプロファイルを取得するという形で歯面11aおよび歯面12aの立体形状を計測する。
【0023】
なお、本実施例の形状計測装置20は接触式の形状計測装置であり、歯幅方向の座標が異なる複数の歯面形状のプロファイルを取得するという形で歯面11aおよび歯面12aの立体形状を計測する構成であるが、本発明に係る歯面形状計測手段はこれに限定されず、歯車の歯面の立体形状を計測可能であれば他の構成でも良い。
本発明に係る歯面形状計測手段の他の構成としては、非接触式の三次元形状測定装置、例えばレーザ光を照射する等の光学的手法を用いるもの、あるいは歯面に格子模様等を投影してカメラ等の撮像手段により撮像した画像を処理することにより歯面の三次元形状を計測するもの等が挙げられる。
【0024】
制御装置30は評価装置1の種々の動作を制御するための装置である。制御装置30は制御部31、入力部32、表示部33等を具備する。
【0025】
制御部31は、実体的には、評価装置1の動作を行うためのプログラム(動作制御プログラム)、後述する歯面11aおよび歯面12aのパワースペクトルの作成に係るプログラム(パワースペクトル作成プログラム)、後述する差分パワースペクトルの作成に係るプログラム(差分パワースペクトル作成プログラム)、後述する歯面11aおよび歯面12aの噛合状態の判定に係るプログラム(噛合状態判定プログラム)等を格納する格納手段、これらのプログラム等を展開する展開手段、これらのプログラム等に従って所定の演算を行う演算手段、パワースペクトルや評価結果等を記憶する記憶手段等を具備する。制御部31は、より具体的にはCPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成であっても良く、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であっても良い。
また、制御部31は専用品でも良いが、市販のパソコンやワークステーション等を用いて達成することも可能である。
【0026】
制御部31は形状計測装置20に接続され、形状計測装置20を動作するための信号を送信することが可能であるとともに、形状計測装置20により計測された歯面11aおよび歯面12aの立体形状に係る情報を取得することが可能である。
制御部31の詳細については後述する。
【0027】
入力部32は、作業者等が評価装置1の動作や評価結果に係るデータ等を制御部31に入力するものである。
入力部32は専用品でも良いが、市販のキーボードやタッチパネル等を用いて達成することも可能である。
【0028】
表示部33は、入力部32により入力されたデータや評価結果等を表示するものである。
表示部33は専用品でも良いが、市販のモニターや液晶ディスプレイ等を用いて達成することも可能である。
【0029】
以下では、制御部31の詳細について説明する。
制御部31は、記憶部31a、動作制御部31b、パワースペクトル作成部31c、差分パワースペクトル作成部31d、噛合状態判定部31eを具備する。
【0030】
記憶部31aは駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態の評価結果等の種々のデータを記憶するものである。
本実施例では、制御部31の記憶手段(HDD等)に上記種々のデータが記憶されることにより、記憶部31aとしての機能を果たす。
【0031】
動作制御部31bは評価装置1の動作を制御するものである。
本実施例では、制御部31の格納手段に格納された評価装置1の動作を行うためのプログラム(動作制御プログラム)が実行されることにより、動作制御部31bとしての機能を果たす。
【0032】
パワースペクトル作成部31cは本発明に係るパワースペクトル作成手段の実施の一形態であり、形状計測装置20により計測された駆動歯車11の歯面11aの立体形状および被駆動歯車12の歯面12aの立体形状についてそれぞれ二次元フーリエ変換し、図3および図4に示す如き歯丈方向および歯幅方向のパワースペクトルを作成するものである。
本実施例では、制御部31の格納手段に格納された歯面11aおよび歯面12aのパワースペクトルの作成に係るプログラム(パワースペクトル作成プログラム)が実行されることにより、パワースペクトル作成部31cとしての機能を果たす。
【0033】
パワースペクトル作成部31cは、駆動歯車11の歯面11aの立体形状に係る情報、すなわち歯面11aの歯面形状のプロファイルの集合体を二次元フーリエ変換し、図3に示す駆動歯車11の歯面11aについてのパワースペクトルを作成する。
【0034】
ここで、「二次元フーリエ変換」は、画像処理等の分野で用いられる情報処理方法の一つであり、一般的には互いに直交する三つの軸であるX軸、Y軸、Z軸が設定された三次元座標系において、Z軸方向に振動しつつXY平面上を進む三次元波の周波数特性を、当該三次元波をXZ平面に投影した二次元波の周波数特性および当該三次元波をYZ平面に投影した二次元波の周波数特性を合成したものとして求めるものである。
なお、二次元フーリエ変換の手法についてはFFT(Fast Fourier Transform)等、既知の手法を採用することが可能である。
「周波数特性」は、ある周波数を有する正弦波と対象となる波との一致度合い(強度)を表すものである。
また、「パワースペクトル」は、二次元フーリエ変換の振動方向(Z軸方向)に垂直な二つの方向(X軸方向およびY軸方向)の周波数をそれぞれ縦軸および横軸とする平面上に、X軸方向の周波数およびY軸方向の周波数の組み合わせと三次元波との一致度合い(強度)との関係を表したものである。
【0035】
本実施例の場合、パワースペクトル作成部31cは、図2に示す如く、歯丈方向をX軸方向、歯幅方向をY軸方向、歯面方向をZ軸方向とし、駆動歯車11の歯面11aの立体形状を三次元波として捉え、歯面11aの立体形状の周波数特性を求める。
次に、歯面11aの立体形状の周波数特性に基づいて、図3に示す如き駆動歯車11の歯面11aについてのパワースペクトルを作成する。
図3に示す如く、本実施例の駆動歯車11の場合、歯丈方向、歯幅方向とも低周波数成分の強度がやや大きいことが分かる。
【0036】
同様にして、パワースペクトル作成部31cは、被駆動歯車12の歯面12aの立体形状を三次元波として捉え、歯面12aの立体形状の周波数特性を求める。
次に、歯面12aの立体形状の周波数特性に基づいて、図4に示す如き被駆動歯車12の歯面12aについてのパワースペクトルを作成する。
図4に示す如く、本実施例の被駆動歯車12の場合、歯丈方向、歯幅方向とも低周波数成分の強度がやや大きいが、先の駆動歯車11の低周波数成分の強度と比べると小さいことが分かる。
【0037】
差分パワースペクトル作成部31dは本発明に係る差分パワースペクトル作成手段の実施の一形態であり、パワースペクトル作成部31cにより作成された駆動歯車11の歯面11aおよび被駆動歯車12の歯面12aのそれぞれについての歯丈方向および歯幅方向のパワースペクトルの差分を算出することにより図5に示す如き差分パワースペクトルを作成するものである。
本実施例では、制御部31の格納手段に格納された差分パワースペクトルの作成に係るプログラム(差分パワースペクトル作成プログラム)が実行されることにより、差分パワースペクトル作成部31dとしての機能を果たす。
【0038】
差分パワースペクトル作成部31dは、駆動歯車11の歯面11aについての歯丈方向および歯幅方向のパワースペクトルから被駆動歯車12の歯面12aについての歯丈方向および歯幅方向のパワースペクトルを引く、すなわち、対応する周波数の組み合わせについてそれぞれ一致度合いの値の差を算出する。
次に、差分パワースペクトル作成部31dは、当該算出された一致度合いの差を、歯丈方向の周波数を縦軸、歯幅方向の周波数を横軸とする平面上に表すことにより、図5に示す差分パワースペクトルを作成する。
図5に示す如く、本実施例の駆動歯車11および被駆動歯車12の組み合わせの場合、歯丈方向、歯幅方向とも低周波数成分の強度が大きく、特に歯丈方向の低周波数成分の強度が大きいことが分かる。
【0039】
噛合状態判定部31eは本発明に係る噛合状態判定手段の実施の一形態であり、差分パワースペクトル作成部31dにより作成された差分パワースペクトルに基づいて駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態を判定するものである。
本実施例では、制御部31の格納手段に格納された歯面11aおよび歯面12aの噛合状態の判定に係るプログラム(噛合状態判定プログラム)が実行されることにより、噛合状態判定部31eしての機能を果たす。
噛合状態判定部31eは、より具体的には、差分パワースペクトルの歯丈方向の周波数成分、特に差分パワースペクトルの歯丈方向の低周波数成分が所定の強度以上となった場合に駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態が悪いと判定し、差分パワースペクトルの歯丈方向の低周波数成分が所定の強度未満となった場合に駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態が良いと判定する。
【0040】
以下では図6乃至図8を用いて駆動歯車11および被駆動歯車12の差分パワースペクトルと噛合状態との関係について説明する。
【0041】
まず、四個の駆動歯車11・11・11・11および一個の被駆動歯車12を用意する。このとき、四個の駆動歯車11・11・11・11については、歯面11aの立体形状がそれぞれ異なるものが予め用意される。以下、四個の駆動歯車11・11・11・11をそれぞれ駆動歯車A・B・C・Dとする。また、一個の被駆動歯車12を被駆動歯車Eとする。
【0042】
次に、駆動歯車A・B・C・Dおよび被駆動歯車Eについて評価装置1を用いて歯面11a(12a)の立体形状を計測し、それぞれについてのパワースペクトルを作成する。
続いて、評価装置1を用いて駆動歯車Aと被駆動歯車Eの組み合わせ、駆動歯車Bと被駆動歯車Eの組み合わせ、駆動歯車Cと被駆動歯車Eの組み合わせ、および駆動歯車Dと被駆動歯車Eの組み合わせ、についての差分パワースペクトルをそれぞれ作成する。
最後に、駆動歯車Aと被駆動歯車Eの組み合わせ、駆動歯車Bと被駆動歯車Eの組み合わせ、駆動歯車Cと被駆動歯車Eの組み合わせ、および駆動歯車Dと被駆動歯車Eの組み合わせ、についてそれぞれ実際に噛合させつつ回転駆動したときに発生する音を計測する。
【0043】
図6はこれらの差分パワースペクトルのうち、歯幅方向の周波数が最も低い部分における歯丈方向の周波数成分(図5に示す差分パワースペクトルの上下略中央部における左右方向のラインの一致度合い)を示す。
【0044】
図6より、駆動歯車Aと被駆動歯車Eの組み合わせは、特に低周波数成分(図6において楕円で囲んだ部分)の強度が他の組み合わせよりも大きい。
【0045】
図7はこれらの差分パワースペクトルのうち、歯丈方向の周波数が最も低い部分における歯幅方向の周波数成分(図5に示す差分パワースペクトルの左右略中央部における上下方向のラインの一致度合い)を示す。
【0046】
図7より、駆動歯車Dと被駆動歯車Eの組み合わせは低周波数成分から高周波数成分にわたって強度が大きく、駆動歯車Bと被駆動歯車Eの組み合わせは低周波数成分から高周波数成分にわたって強度が小さい。
また、駆動歯車Aと被駆動歯車Eの組み合わせ、および駆動歯車Cと被駆動歯車Eの組み合わせは、低周波数成分において強度が高いが高周波成分において強度が低くなる。
【0047】
図8は駆動歯車Aと被駆動歯車Eの組み合わせ、駆動歯車Bと被駆動歯車Eの組み合わせ、駆動歯車Cと被駆動歯車Eの組み合わせ、および駆動歯車Dと被駆動歯車Eの組み合わせ、についてそれぞれ実際に噛合させつつ回転駆動したときに発生する音の計測結果を示す。
図8より、駆動歯車Aと被駆動歯車Eの組み合わせが実際に噛合させつつ回転駆動したときに発生する音(音圧)が広い周波数にわたって他の組み合わせよりも大きい。
また、図6、図7および図8より、実際に噛合させつつ回転駆動したときに発生する音の大きさ(図8)は、歯丈方向の差分スペクトルのうち、歯丈方向の周波数成分、特に低周波成分の強度(図6中の楕円で囲まれた部分)と強い相関があることが分かる。
【0048】
図6乃至図8より、差分パワースペクトルのうち歯丈方向の周波数成分、特に低周波数成分の強度(一致度合い)が所定の強度以上となるか否か(所定の閾値を超えているか否か)を判定することにより、駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態の評価、すなわち、駆動歯車11および被駆動歯車12を実際に噛合して回転駆動した場合に騒音が大きいか否かの判定、を精度良く行うことが可能である。
上記「所定の強度(所定の閾値)」は、評価装置1により作成された駆動歯車11および被駆動歯車12の差分パワースペクトルと、駆動歯車11および被駆動歯車12の実際の回転駆動時の音圧と、を比較する実験を繰り返し行うことにより、予め求められる。
【0049】
なお、本実施例では差分パワースペクトルのうち、歯丈方向の周波数成分を用いて駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態の評価を行う構成としたが、本発明に係る歯車の噛合状態評価装置はこれに限定されず、歯車の形状や種類に応じて差分パワースペクトルの他の要素を用いて評価することも可能である。
例えば、歯幅方向の周波数成分を用いて、あるいは歯丈方向の周波数成分および歯幅方向の周波数成分を総合的に判断することによって、一対の歯車の噛合状態の評価を行うことが可能である。
また、本実施例ではパワースペクトルの周波数特性を見る方向を歯丈方向と歯幅方向の二方向としたが、本発明に係る歯車の噛合状態評価装置はこれに限定されず、歯車の形状や種類等に応じてパワースペクトルの周波数特性を見る方向を変えても良い。
例えば、パワースペクトルの周波数特性を見る方向の一つに歯車の噛み合い進行方向(一対の歯車が噛合しつつ回転駆動されるときに当該一対の歯車の歯面同士の接触部位の移動する方向)を含む構成としても良い。
【0050】
本実施例の評価装置1はパワースペクトル作成部31c、差分パワースペクトル作成部31dおよび噛合状態判定部31eを一体とする構成としたが、本発明に係る歯車の噛合状態評価装置はこれに限定されず、パワースペクトル作成部31c、差分パワースペクトル作成部31dおよび噛合状態判定部31eをそれぞれ別体としても良い。
【0051】
以下では、図9を用いて本発明に係る歯車の噛合状態評価方法の実施の一形態について説明する。
【0052】
本発明に係る歯車の噛合状態評価方法の実施の一形態は評価装置1を用いて駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態を評価する方法であり、主として歯面形状計測工程S100、パワースペクトル作成工程S200、差分パワースペクトル作成工程S300、噛合状態判定工程S400を具備する。
【0053】
歯面形状計測工程S100は駆動歯車11の歯面11aの立体形状および被駆動歯車12の歯面12aの立体形状をそれぞれ計測する工程である。
歯面形状計測工程S100において、形状計測装置20はプローブ21を駆動歯車11の歯面11aおよび被駆動歯車12の歯面12aに接触させつつ、歯丈方向に走査する作業を歯幅方向に少しづつずらして複数回行い、歯幅方向の座標が異なる複数の歯面形状のプロファイルを取得することにより、駆動歯車11の歯面11aの立体形状および被駆動歯車12の歯面12aの立体形状をそれぞれ計測する。
歯面形状計測工程S100が終了したらパワースペクトル作成工程S200に移行する。
【0054】
パワースペクトル作成工程S200は歯面形状計測工程S100において計測された駆動歯車11の歯面11aの立体形状および被駆動歯車12の歯面12aの立体形状についてそれぞれ二次元フーリエ変換し、歯丈方向および歯幅方向のパワースペクトルを作成する工程である。
パワースペクトル作成工程S200において、パワースペクトル作成部31cは歯丈方向をX軸方向、歯幅方向をY軸方向、歯面方向をZ軸方向とし、駆動歯車11の歯面11aの立体形状を三次元波として捉え、歯面11aの立体形状の周波数特性を求める。
次に、パワースペクトル作成部31cは歯面11aの立体形状の周波数特性に基づいて、駆動歯車11の歯面11aについてのパワースペクトルを作成する。
同様に、パワースペクトル作成部31cは、被駆動歯車12の歯面12aの立体形状を三次元波として捉え、歯面12aの立体形状の周波数特性を求める。
次に、パワースペクトル作成部31cは歯面12aの立体形状の周波数特性に基づいて、被駆動歯車12の歯面12aについてのパワースペクトルを作成する。
パワースペクトル作成工程S200が終了したら差分パワースペクトル作成工程S300に移行する。
【0055】
差分パワースペクトル作成工程S300はパワースペクトル作成工程S200において作成された駆動歯車11および被駆動歯車12のそれぞれについてのパワースペクトルの差分を算出することにより差分パワースペクトルを作成する工程である。
差分パワースペクトル作成工程S300において、差分パワースペクトル作成部31dは、駆動歯車11の歯面11aについての歯丈方向および歯幅方向のパワースペクトルから被駆動歯車12の歯面12aについての歯丈方向および歯幅方向のパワースペクトルを引く、すなわち、対応する周波数の組み合わせについてそれぞれ一致度合いの値の差を算出し、当該算出された一致度合いの差を、歯丈方向の周波数を縦軸、歯幅方向の周波数を横軸とする平面上に表すことにより差分パワースペクトルを作成する。
差分パワースペクトル作成工程S300が終了したら噛合状態判定工程S400に移行する。
【0056】
噛合状態判定工程S400は差分パワースペクトル作成工程S300において作成された差分パワースペクトルに基づいて駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態を判定する工程である。
噛合状態判定工程S400において、噛合状態判定部31eは、差分パワースペクトルの歯丈方向の周波数成分、特に差分パワースペクトルの歯丈方向の低周波数成分が所定の強度以上となった場合に駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態が悪いと判定し、差分パワースペクトルの歯丈方向の低周波数成分が所定の強度未満となった場合に駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態が良いと判定する。
噛合状態判定工程S400が終了したら、本発明に係る歯車の噛合状態評価方法の実施の一形態が終了する。
【0057】
以上の如く、本発明に係る歯車の噛合状態評価方法の実施の一形態は、
駆動歯車11の歯面11aの立体形状および被駆動歯車12の歯面12aの立体形状をそれぞれ計測する歯面形状計測工程S100と、
歯面形状計測工程S100において計測された駆動歯車11の歯面11aの立体形状および被駆動歯車12の歯面12aの立体形状についてそれぞれ二次元フーリエ変換することによりパワースペクトルを作成するパワースペクトル作成工程S200と、
パワースペクトル作成工程S200において作成された駆動歯車11および被駆動歯車12のそれぞれについてのパワースペクトルの差分を算出することにより差分パワースペクトルを作成する差分パワースペクトル作成工程S300と、
差分パワースペクトル作成工程S300において作成された差分パワースペクトルに基づいて駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態を判定する噛合状態判定工程S400と、
を具備するものである。
このように構成することにより、実際に駆動歯車11および被駆動歯車12を噛合させて回転駆動しなくても、駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態を定量的に評価することが可能である。言い換えると、実際に駆動歯車11および被駆動歯車12を噛合させて回転駆動した場合に騒音が大きいか否かを精度良く判定することが可能である。
特に、従来の評価方法の如く、基準となる歯車と比較すると許容範囲内にあると判定された歯車同士を実際に噛合して回転駆動した場合に大きな騒音や振動が発生するという事態を効果的に防止することが可能である。
【0058】
また、本発明に係る歯車の噛合状態評価方法の実施の一形態は、
噛合状態判定工程S400において、
差分パワースペクトルの歯丈方向の周波数成分が所定の強度以上となった場合に噛合状態が悪いと判定するものである。
このように構成することにより、駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態を容易かつ精度良く評価することが可能である。
【0059】
また、本発明に係る歯車の噛合状態評価装置の実施の一形態である評価装置1は、
駆動歯車11の歯面11aの立体形状および被駆動歯車12の歯面12aの立体形状をそれぞれ計測する形状計測装置20と、
形状計測装置20により計測された駆動歯車11の歯面11aの立体形状および被駆動歯車12の歯面12aの立体形状についてそれぞれ二次元フーリエ変換することにより、パワースペクトルを作成するパワースペクトル作成部31cと、
パワースペクトル作成部31cにより作成された駆動歯車11および被駆動歯車12のそれぞれについてのパワースペクトルの差分を算出することにより差分パワースペクトルを作成する差分パワースペクトル作成部31dと、
差分パワースペクトル作成部31dにより作成された差分パワースペクトルに基づいて駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態を判定する噛合状態判定部31eと、
を具備するものである。
このように構成することにより、実際に駆動歯車11および被駆動歯車12を噛合させて回転駆動しなくても、駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態を定量的に評価することが可能である。言い換えると、実際に駆動歯車11および被駆動歯車12を噛合させて回転駆動した場合に騒音が大きいか否かを精度良く判定することが可能である。
特に、従来の評価方法の如く、基準となる歯車と比較すると許容範囲内にあると判定された歯車同士を実際に噛合して回転駆動した場合に大きな騒音や振動が発生するという事態を効果的に防止することが可能である。
【0060】
また、評価装置1の噛合状態判定部31eは、
差分パワースペクトルの歯丈方向の周波数成分が所定の強度以上となった場合に噛合状態が悪いと判定するものである。
このように構成することにより、駆動歯車11および被駆動歯車12の噛合状態を容易かつ精度良く評価することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る歯車の噛合状態評価装置の実施の一形態を示す図。
【図2】歯車の歯面形状のプロファイルを示す図。
【図3】一方の歯車の歯面のパワースペクトルを示す図。
【図4】他方の歯車の歯面のパワースペクトルを示す図。
【図5】差分パワースペクトルを示す図。
【図6】差分パワースペクトルにおける歯丈方向の周波数成分と強度との関係を示す図。
【図7】差分パワースペクトルにおける歯幅方向の周波数成分と強度との関係を示す図。
【図8】一対の歯車の組み合わせと回転駆動時の音圧との関係を示す図。
【図9】本発明に係る歯車の噛合状態評価方法の実施の一形態を示すフロー図。
【符号の説明】
【0062】
1 評価装置(歯車の噛合状態評価装置)
11 駆動歯車(歯車)
11a 歯面
12 被駆動歯車(歯車)
12a 歯面
20 形状計測装置(歯面形状計測手段)
31c パワースペクトル作成部(パワースペクトル作成手段)
31d 差分パワースペクトル作成部(差分パワースペクトル作成手段)
31e 噛合状態判定部(噛合状態判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の歯車の歯面の立体形状をそれぞれ計測する歯面形状計測工程と、
前記歯面形状計測工程において計測された一対の歯車の歯面の立体形状についてそれぞれ二次元フーリエ変換することによりパワースペクトルを作成するパワースペクトル作成工程と、
前記パワースペクトル作成工程において作成された一対の歯車のそれぞれについてのパワースペクトルの差分を算出することにより差分パワースペクトルを作成する差分パワースペクトル作成工程と、
前記差分パワースペクトル作成工程において作成された差分パワースペクトルに基づいて前記一対の歯車の噛合状態を判定する噛合状態判定工程と、
を具備することを特徴とする歯車の噛合状態評価方法。
【請求項2】
前記噛合状態判定工程において、
差分パワースペクトルの歯丈方向の周波数成分が所定の強度以上となった場合に噛合状態が悪いと判定することを特徴とする請求項1に記載の歯車の噛合状態評価方法。
【請求項3】
一対の歯車の歯面の立体形状をそれぞれ計測する歯面形状計測手段と、
前記歯面形状計測手段により計測された一対の歯車の歯面の立体形状についてそれぞれ二次元フーリエ変換することにより、パワースペクトルを作成するパワースペクトル作成手段と、
前記パワースペクトル作成手段により作成された一対の歯車のそれぞれについてのパワースペクトルの差分を算出することにより差分パワースペクトルを作成する差分パワースペクトル作成手段と、
前記差分パワースペクトル作成手段により作成された差分パワースペクトルに基づいて前記一対の歯車の噛合状態を判定する噛合状態判定手段と、
を具備することを特徴とする歯車の噛合状態評価装置。
【請求項4】
前記噛合状態判定手段は、
差分パワースペクトルの歯丈方向の周波数成分が所定の強度以上となった場合に噛合状態が悪いと判定することを特徴とする請求項3に記載の歯車の噛合状態評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−286017(P2007−286017A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116894(P2006−116894)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】