説明

磁気記録媒体、磁気転写方法、及び磁気再生方法

【課題】磁気転写を行う際のサブパルスの影響を除去でき、高密度記録に対応した磁気記録媒体、磁気転写方法、及び磁気再生方法を提供する。
【解決手段】複数個の磁性層パターンと、この磁性層パターン同士の間に設けられた非磁性層パターンとが交互に表面に形成され、これにより磁気情報が記録された円盤状体の磁気記録媒体である。磁性層パターン及び/又は非磁性層パターンの円周方向長さの最小値がbであり、所定の磁性層パターン及び/又は非磁性層パターンの円周方向長さがbより大きく、かつ磁気ヘッドにより読み取った際に読み取りエラーとなるサブパルスPを発生させる円周方向長さである場合に、所定の磁性層パターン及び/又は非磁性層パターンの位置情報が磁気情報として記録されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体、磁気転写方法、及び磁気再生方法に係り、特に、ハードディスク装置等に用いられる磁気ディスクに、マスターディスクからフォーマット情報等の磁気情報パターンを転写するのに好適な磁気記録媒体、磁気転写方法、及び磁気再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に普及しているハードディスクドライブに使用される磁気ディスク(ハードディスク)は、磁気ディスクメーカーよりドライブメーカーに納入された後、ドライブに組み込まれる前に、フォーマット情報やアドレス情報が書き込まれるのが一般的である。この書き込みは、磁気ヘッドにより行うこともできるが、これらのフォーマット情報やアドレス情報が書き込まれているマスターディスクより一括転写する方法が効率的であり、好ましい。
【0003】
この磁気転写技術は、マスターディスクと被転写ディスク(スレーブディスク)とを密着させた状態で、片側又は両側に電磁石装置、永久磁石装置等の磁界生成手段を配設して転写用磁界を印加し、マスターディスクの有する情報(たとえばサーボ信号)に対応する磁化パターンの転写を行うものである。
【0004】
この磁気転写では、マスターディスクとスレーブディスクとの相対的な位置を変化させることなく静的に記録を行うことができ、しかも記録に要する時間も極めて短時間であるという利点を有している。
【0005】
特に、近年の電子線描画技術に代表される超微細加工技術の進歩により、最短ビット長が100nm以下である信号のパターニングも可能となり、現在のハードディスクの面密度相当の信号の一括書き込みを磁気転写により行うことも可能となってきた。
【0006】
従来より、この種の磁気転写技術として各種の提案がなされている(たとえば、特許文献1、2等。)。この特許文献1の提案は、基板の表面に情報信号に対応する磁性材料からなる凹凸形状が形成されたマスターディスクより一括転写するものである。特許文献2の提案は、磁気転写の際にマスターディスクとスレーブディスクとの密着性を向上させるものである。そして、これらの提案により、高密度の磁気転写ができるとされている。
【特許文献1】特開平10−40544号公報
【特許文献2】特開平10−269566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、磁気転写方法における技術的な問題点の一つとして、マスター媒体(マスターディスク)からスレーブ媒体(スレーブディスク)への信号の転写において、スレーブ媒体上に不明瞭な磁気記録部(反転磁化)が発生するという問題がある。これを図9によって説明する。なお、この問題点は、従来の磁気ヘッドによる書き込みでは生じていなかった磁気転写に固有の問題点である。
【0008】
図9は、転写信号のパルス波形を示す図である。正常な磁気転写が行われた場合には、(a)に示されるように、正のパルス波形PP、PP…と負のパルス波形PN、PN…とが交互に生じる。ところが、正常な磁気転写が行われずに、(b)に示されるように、正のパルス波形PPと負のパルス波形PNとの間に偽のパルスであるサブパルスPS、PS…を生じることがある。
【0009】
このサブパルスPSは、その振幅高さが本来のパルス(正のパルスPP及び負のパルスPN)の振幅高さに対してどの程度であるかが重要となる。すなわち、サブパルスPSの振幅高さが本来のパルスの振幅高さに対して無視できないレベルであった場合、本来のパルスとの区別がつきにくくなり、サブパルスを再生信号として認識しエラーを発生することとなる。
【0010】
サブパルスの発生メカニズムには不明な点が多いが、マスター媒体の基板として磁性体基板を使用すること、マスター媒体とスレーブ媒体との密着圧力等の転写条件を調整することなどにより抑制できることがわかってきた。しかしサブパルスは完全には抑制できない。このため磁気転写による独自のサブパルスが発生しても、磁気記録媒体の記録再生系と同様な信号処理が行えることが必要である。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、磁気転写を行う際のサブパルスの影響を除去でき、高密度記録に対応した磁気記録媒体、磁気転写方法、及び磁気再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、複数個の磁性層パターンと、該磁性層パターン同士の間に設けられた非磁性層パターンとが交互に表面に形成され、これにより磁気情報が記録された円盤状体の磁気記録媒体であって、前記磁性層パターン及び/又は前記非磁性層パターンの円周方向長さの最小値がbであり、所定の前記磁性層パターン及び/又は前記非磁性層パターンの円周方向長さがbより大きく、かつ磁気ヘッドにより読み取った際に読み取りエラーとなるサブパルスを発生させる円周方向長さである場合に、前期所定の磁性層パターン及び/又は非磁性層パターンの位置情報が磁気情報として記録されていることを特徴とする磁気記録媒体を提供する。
【0013】
本発明者らは、上記課題解決のため各種の検討を行った結果、サブパルスは記録信号パターン間隔の長い(ビット間隔が長い)ときに発生することを見出した。すなわち、比較的波形干渉の少ない、信号パターン間隔が長い時に、再生波形と合わせてサブパルスが発生することを見出した。この詳細は、図にしたがって後述する。
【0014】
このため、磁気転写の有無がわかる情報と、充分に長いパターン間隔での転写信号を予め記録しておき、信号を読み取る際に磁気転写の有無の検出と、サブパルス情報(サブパルス位置、サブパルスピーク値)とを認識すれば、この情報をもとに、磁気転写時はサブパルス信号をキャンセルする回路を経由して信号処理を行える。これにより磁気転写方式による媒体(スレーブディスク)でも磁気記録方式での記録再生装置(ハードディスクドライブ)に組み込んで使用できる。
【0015】
したがって、本発明によれば、磁気転写を行う際のサブパルスの影響を除去でき、高密度記録に対応した磁気記録媒体が得られる。
【0016】
なお、この磁気記録媒体は、マスター媒体(マスターディスク)であってもよく、スレーブ媒体(スレーブディスク)であってもよい。
【0017】
本発明の磁気記録媒体において、前記円盤状体の表面において、位置決め情報が記録されたサーボウェッジと、読み出し情報が記録されたデータエリアとが円周方向に交互に形成されており、前期所定の磁性層パターン及び/又は非磁性層パターンの位置情報が前記データエリアの一部に記録されていることが好ましい。
【0018】
このように、サーボウェッジと、データエリアとが円周方向に交互に形成されており、サブパルスの情報がデータエリアの一部に記録されていれば、使用上便利である。
【0019】
なお、通常の磁気記録媒体(スレーブディスク)は、サーボウェッジに位置決め情報等が記録されており、これ以外の部分(ギャップ)は書き込み情報を記録すべく設けられたものであるが、今後の需要動向によっては、データエリアにまで情報が記録されて供給(販売等)される態様も増大すると見込まれ、このようなリード・オンリー・ディスクの場合に有効である。
【0020】
また、本発明の磁気記録媒体において、前記円盤状体の表面において、位置決め情報が記録されたサーボウェッジと、書き込み情報を記録すべく設けられたギャップとが円周方向に交互に形成されており、前期所定の磁性層パターン及び/又は非磁性層パターンの位置情報が前記ギャップの一部に記録されていることが好ましい。
【0021】
このように、サーボウェッジと、ギャップとが円周方向に交互に形成されており、サブパルスの情報がギャップの一部に記録されていれば、使用上便利である。
【0022】
また、本発明は、前記の磁気記録媒体を磁気転写用のマスター媒体として用い、該マスター媒体と被転写用媒体とを密着させる密着工程と、磁界生成手段を設け、前記被転写用媒体と前記マスター媒体の円周方向に磁界を加え、前記マスター媒体の磁気パターンを前記被転写用媒体に転写させる磁気転写工程と、を備えることを特徴とする磁気転写方法を提供する。
【0023】
このような磁気記録媒体を磁気転写用のマスター媒体として用い、スレーブディスクへの磁気転写を行えば、サブパルスの情報が容易に読み取れるので、正確な磁気転写が行える。
【0024】
本発明の磁気転写方法において、前記密着工程の前に、前記被転写用媒体の円周方向に磁界を加え、該被転写用媒体を円周方向に初期直流磁化させる初期磁化工程を備えることが好ましい。このような初期磁化工程が設けられていれば、より正確な磁気転写が行える。
【0025】
また、本発明の磁気転写方法において、前記磁気転写工程の際に又は前記磁気転写工程の後に、前期所定の磁性層パターン及び/又は非磁性層パターンの位置情報より、前記磁気転写工程の際に発生するサブパルスを除去することが好ましい。このように、磁気転写工程の際に発生するサブパルスを除去できれば、正確な磁気転写が行える。
【0026】
また、本発明は、前記の磁気記録媒体を磁気転写用のマスター媒体として用い、該マスター媒体を被転写用媒体とを密着させ、前記被転写用媒体と前記マスター媒体の円周方向に磁界を加え、前記マスター媒体の磁気パターンを磁気転写した前記被転写用媒体より前記磁気転写された磁気記録情報を磁気ヘッドにより読み出す磁気再生方法であって、前期所定の磁性層パターン及び/又は非磁性層パターンの位置情報より、前記磁気転写の際に発生したサブパルスを除去することを特徴とする磁気再生方法を提供する。
【0027】
このように、再生時に、サブパルスの位置情報より、磁気転写の際に発生したサブパルスを除去するのであれば、正確な磁気再生が行える。
る。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、磁気転写を行う際のサブパルスの影響を除去でき、高密度記録に対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、添付図面に従って、本発明に係る磁気記録媒体、磁気転写方法、及び磁気再生方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0030】
図1は、磁気記録媒体である磁気転写用マスターディスク46の磁性層パターンを示した図である。このマスターディスク46の表面には、複雑な磁性層パターンにより構成されるサーボウェッジ10A、10A…(ハッチング部分)と、サーボウェッジ10A、10A…の間に形成されるギャップ10B、10B…と呼ばれる磁性層のほとんどない部分(白地部分)が交互に形成されている。なお、ギャップ10Bには、その先頭部分にサブパルスの位置情報に対応する磁性層パターンが形成されている。
【0031】
図2は、磁気転写用マスターディスク46、又はマスターディスク46により磁気転写された磁気ディスク(スレーブディスク)を回転させ、磁気ヘッドがサーボウェッジ10A、10A…を通過するときに再生される信号の波形を示したものである。図2において、期間T10Aの範囲がサーボウェッジ10Aの1ピッチ分の信号であり、期間T10Bはギャップ10Bの1ピッチ分の信号(信号なし)である。
【0032】
サーボウェッジ10Aの1ピッチ分の信号は、先頭(図の左)より、最初のプリアンブル50、サーボタイミングマーク52、セクターアドレス54、シリンダーアドレス56、定周期のバースト信号58(58A、58B、58C、及び58Dの4種よりなる)、及び最後のプリアンブル60よりなる。
【0033】
図3は、マスターディスク46の表面の微細な突起状パターンを示す部分拡大斜視図である。マスターディスク46は円盤状に形成され、基板47の片面に磁性層48による微細な突起状パターンが形成された転写情報担持面が形成されており、基板47の反対側の面が不図示の密着手段に保持されている。この微細な突起状パターンの形成は、後述するフォトファブリケーション法等によりなされる。このマスターディスク46の片面(転写情報担持面)は、スレーブディスク40と密着される。
【0034】
微細な突起状パターンは、平面視で長方形であり、厚さtの磁性層48が形成された状態で、トラック方向(図中の太矢印方向)の長さbと、半径方向の長さlとよりなる。この長さbとlの最適値は、記録密度や記録信号波形等により異なるが、たとえば、長さbを80nmに、長さlを200nmにできる。
【0035】
この微細な突起状パターンはサーボ信号の場合は、半径方向に長く形成される。この場合、たとえば、半径方向の長さlが0.05〜20μm、トラック方向(円周方向)の長さが0.05〜5μmであることが好ましい。この範囲で半径方向の方が長いパターンを選ぶことが、サーボ信号の情報を担持するパターンとしては好ましい。
【0036】
基板47表面の微細な突起状パターンの深さ(突起の高さ)は、80〜800nmの範囲が好ましく、100〜600nmの範囲がより好ましい。
【0037】
以上のように、基板47表面の微細な突起状パターンの磁性層48が、磁性層パターンに該当し、微細な突起状パターン同士の間の凹部が非磁性層パターンに該当する。
【0038】
マスターディスク46において、基板47がNi等を主体とした強磁性体の場合には、この基板47のみで磁気転写が可能であり、磁性層48は被覆しなくてもよいが、転写特性のよい磁性層48を設けることにより、より良好な磁気転写が行える。基板47が非磁性体の場合には、磁性層48を設けることが必要である。マスターディスク46の磁性層48は、保磁力Hcが48kA/m(≒600Oe)以下の軟磁性層であることが好ましい。
【0039】
マスターディスク46の基板47としては、ニッケル、シリコン、石英ガラス等各種組成のガラス、アルミニウム、合金、各種組成のセラミックス、合成樹脂等が使用できる。この基板47表面の凹凸パターンの形成は、フォトファブリケーション法や、フォトファブリケーション法等で形成した原盤によるスタンパー法、等によって行える。
【0040】
スタンパー法における原盤の形成は、たとえば、以下のように行える。表面が平滑なガラス板(又は石英ガラス板)の上にスピンコート法等によりフォトレジストの層を形成し、プレベーク後に、このガラス板を回転させながら、サーボ信号に対応して変調したレーザー光(又は電子ビーム)を照射し、フォトレジスト層の略全面に所定のパターン、たとえば各トラックに回転中心から半径方向に線状に延びるサーボ信号に相当するパターンを円周上の各フレームに対応する部分に露光する。
【0041】
その後、フォトレジストの層を現像処理し、露光部分が除去されたフォトレジストの層により形成された凹凸形状を有するガラス原盤を得る。次いで、ガラス原盤の表面の凹凸パターンを基に、この表面にメッキ(電鋳)を施し所定厚さまで形成することにより、表面にポジ状の凹凸パターンを有するNi基板を作成する。そして、この基板をガラス原盤から剥離する。
【0042】
この基板をそのままプレス原盤とするか、凹凸パターン上に必要に応じて軟磁性層、保護膜等を被覆してプレス原盤とする。
【0043】
また、ガラス原盤にメッキを施して、電鋳により第2の原盤を作成し、この第2の原盤に更にメッキを施して、電鋳によりネガ状凹凸パターンを有する反転原盤を作成してもよい。更に、第2の原盤にメッキを施して電鋳を行うか、低粘度の樹脂を押し付けて硬化させるかした、第3の原盤を作成し、第3の原盤にメッキを施して電鋳を行い、ポジ状凹凸パターンを有する基板を作成してもよい。
【0044】
基板の材料としては、金属ではNi又はNi合金を使用することができる。この基板を作成するメッキ法としては、無電解メッキ、電鋳、スパッタリング、イオンプレーティングを含む各種の金属成膜法等が適用できる。
【0045】
磁性層48(軟磁性層)の形成は、磁性材料を真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の真空成膜手段、メッキ法などにより成膜する。磁性層48の磁性材料としては、Co、Co合金(CoNi、CoNiZr、CoNbTaZr等)、Fe、Fe合金(FeCo、FeCoNi、FeNiMo、FeAlSi、FeAl、FeTaN)、Ni、Ni合金(NiFe)を用いることができる。特に、FeCo、FeCoNiが好ましく用いることができる。磁性層48の厚さtは、50nm〜500nmの範囲が好ましく、100nm〜400nmの範囲が更に好ましい。
【0046】
なお、磁性層48の上にダイヤモンドライクカーボン等の保護膜を設けることが好ましく、保護膜の上に更に潤滑剤層を設けてもよい。この場合、保護膜として厚さが5〜30nmのダイヤモンドライクカーボン膜と潤滑剤層とする構成が好ましい。また、磁性層48と保護膜との間に、Si等の密着強化層を設けてもよい。潤滑剤は、スレーブディスク40との接触過程で生じるずれを補正する際の、摩擦による傷の発生などの耐久性の劣化を改善する効果を有する。
【0047】
マスターディスク46として、前記のプレス原盤を用いて樹脂基板を作製し、その表面に磁性層を設けて形成してもよい。樹脂基板の樹脂材料としては、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体などの塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アモルファスポリオレフィン及びポリエステルなどが使用できる。
【0048】
このうち、耐湿性、寸法安定性及び価格などの点からポリカーボネートが好ましい。成形品にばりがある場合は、これをバーニシュ又は研磨加工により除去する。また、紫外線硬化樹脂、電子線硬化樹脂などを使用して、プレス原盤にスピンコート、バーコート等の塗布によりマスターディスク46を形成してもよい。樹脂基板のパターン突起の高さは、50〜1000nmの範囲が好ましく、100〜500nmの範囲が更に好ましい。
【0049】
この樹脂基板の表面の微細パターンの上に磁性層48を被覆しマスターディスク46を得る。磁性層48の形成は、磁性材料を真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の真空成膜方法、メッキ法などによる成膜方法で行える。
【0050】
一方、マスターディスク46の形成方法の1種であるフォトファブリケーション法は、以下の手順で行う。先ず、たとえば、平板状の基板の平滑な表面にフォトレジストを塗布し、サーボ信号のパターンに応じたフォトマスクを用いた露光、現像処理により、情報に応じたパターンを形成させる。
【0051】
次いで、エッチング工程により、パターンに応じて基板のエッチングを行い、磁性層48の厚さに相当する深さの穴を形成する。次いで、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の真空成膜方法、メッキ法等により、形成した穴に対応した厚さで基板の表面まで磁性材料を成膜する。
【0052】
次いで、フォトレジストをリフトオフ法で除去し、表面を研磨して、ばりがある場合には、これを取り除くとともに、表面を平滑化する。
【0053】
次に、スレーブディスク40(図4〜図7参照)について説明する。スレーブディスク40は、両面又は片面に磁気記録層が形成されたハードディスク、フレキシブルディスク等の円盤状磁気記録媒体であり、マスターディスク46に密着させる以前に、グライドヘッド、研磨体などにより表面の微小突起又は付着塵埃を除去するクリーニング処理(バーニッシィング等)が必要に応じて施される。また、スレーブディスク40には予め初期磁化が施される。この詳細は後述する。
【0054】
スレーブディスク40としては、ハードディスク、高密度フレキシブルディスク等の円盤状磁気記録媒体が使用できる。スレーブディスク40の磁気記録層には、塗布型磁気記録層、メッキ型磁気記録層、又は金属薄膜型磁気記録層が採用できる。
【0055】
金属薄膜型磁気記録層の磁性材料としては、Co、Co合金(CoPtCr、CoCr、CoPtCrTa、CoPtCrNbTa、CoCrB、CoNi等)、Fe、Fe合金(FeCo、FePt、FeCoNi)を用いることができる。これらは、磁束密度が大きいこと、磁界印加方向と同じ方向(面内記録なら面内方向)の磁気異方性を有していることより、明瞭な転写が行えるため好ましい。
【0056】
そして磁性材料の下(支持体側)に必要な磁気異方性を付与するために、非磁性の下地層を設けることが好ましい。この下地層には、結晶構造と格子定数を磁性層48に合わすことが必要である。そのためには、Cr、CrTi、CoCr、CrTa、CrMo、NiAl、Ru等を用いることが好ましい。
【0057】
次に、磁気転写の概要について説明する。図4は磁気転写用マスターディスク46を使用して磁気転写を行うための磁気転写装置10の要部斜視図である。
【0058】
磁気転写時には図5(a)に示される後述する初期直流磁化を行った後のスレーブディスク40のスレーブ面(磁気記録面)を、マスターディスク46の情報担持面(磁性層48)に接触させ、所定の押圧力で密着させる。そして、このスレーブディスク40とマスターディスク46との密着状態で、磁界生成手段30により転写用磁界を印加して、マスターディスク46の凹凸パターンをスレーブディスク40に転写する。
【0059】
マスターディスク46による磁気転写は、スレーブディスク40の片面にマスターディスク46を密着させて片面に転写を行う場合と、図示しないが、スレーブディスク40の両面に一対のマスターディスク46を密着させて両面で同時転写を行う場合とがある。
【0060】
転写用磁界を印加する磁界生成手段30は、密着保持されたスレーブディスク40とマスターディスク46の半径方向に延びるギャップ31を有するコア32にコイル33が巻き付けられた電磁石装置34、34が上下両側に配設されており、上下で同じ方向にトラック方向と平行な磁力線を有する転写用磁界を印加する。
【0061】
磁界印加時には、スレーブディスク40とマスターディスク46とを一体的に回転させつつ磁界生成手段30によって転写用磁界を印加させ、マスターディスク46の凹凸パターンをスレーブディスク40のスレーブ面に磁気的に転写する。なお、この構成以外に磁界生成手段の方を回転移動させるようにしてもよい。
【0062】
転写用磁界は、最適転写磁界強度範囲(スレーブディスク40の保磁力Hcの0.6〜1.3倍)の最大値を超える磁界強度がトラック方向のいずれにも存在せず、最適転写磁界強度範囲内の磁界強度となる部分が1つのトラック方向で少なくとも1カ所以上存在し、これと逆向きのトラック方向の磁界強度が何れのトラック方向位置においても最適転写磁界強度範囲内の最小値未満である磁界強度分布の磁界をトラック方向の一部分で発生させている。
【0063】
図5は、面内記録による磁気転写方法の基本工程を説明する説明図である。図6は、同じく斜視図である。先ず、図5(a)に示されるように、予めスレーブディスク40に初期磁界Hi をトラック方向の一方向に印加して初期磁化(直流消磁)を施しておく。
【0064】
次に、図5(b)及び図6に示されるように、このスレーブディスク40の記録面(磁気記録部)とマスターディスク46の凹凸パターンPが形成された情報担持面とを密着させ、スレーブディスク40のトラック方向に初期磁界Hi とは逆方向に転写用磁界Hd を印加して磁気転写を行う。転写用磁界Hd が凹凸パターンの凸部の磁性層48に吸い込まれてこの部分の磁化は反転せず、その他の部分の磁界が反転する結果、図5(c)及び図6に示されるように、スレーブディスク40の磁気記録面にはマスターディスク46の凹凸パターンが磁気的に転写記録される。
【0065】
次に、本発明の特徴部分であるサブパルスの影響を除去する方法について説明する。図7は、サブパルスの影響を説明する説明図であり、(a)は、正常な磁気転写が行われた場合を示し、(b)は、正常な磁気転写が行われずに、正のパルス波形PPと負のパルス波形PNとの間に偽のパルスであるサブパルスPSを生じた場合を示す。
【0066】
図7(a)においては、磁性層パターンの円周方向長さの最小値bのn倍である円周方向長さnbの非磁性層パターンがあっても、サブパルスPSの発生はなく、既述の図5及び図6に示されたように、正常な磁気転写が行われている。
【0067】
一方、図7(b)においては、磁性層パターンの円周方向長さの最小値bのn倍である円周方向長さnbの非磁性層パターンにより、サブパルスPSが発生し、これにより対応する部分で磁化の反転を生じ、正常な磁気転写が行われない。
【0068】
このサブパルスPSを発生させるbのn倍の値は、マスターディスク46やスレーブディスク40の構成、磁気転写の条件(磁界強度等)、bの長さ等によって左右され、一概には言えないが、nが10以上であれば、ほぼ確実に発生し、nが8である場合であっても発生する場合がある。
【0069】
したがって、磁気転写によってサブパルスPSが発生する条件の場合に、サブパルスPSの位置情報を磁気情報として記録しておけば、磁気ヘッドにより各種磁気情報を読み取った際にサブパルスPSの位置が容易に解り、このサブパルスPSの領域を消去したり、このサブパルスPSの領域を再生しないようにしたりすることにより、サブパルスの影響を排除できる。
【0070】
この際、サブパルスPSの位置情報を磁気情報として記録するゾーンは、マスターディスク46であればギャップ10Bの先頭部分が好ましく、予め読み出し情報が記録されたスレーブディスク40(リード・オンリー・ディスク)であればデータエリアの先頭部分が好ましく、通常のスレーブディスク40であればギャップの先頭部分が好ましい。ただし、これ以外のゾーン、たとえば、ギャップやデータエリアの末尾部分であったり、サーボウェッジの一部に記録することもできる。
【0071】
以上の構成によれば、磁気転写を行う際のサブパルスの影響を除去でき、高密度記録に対応できる。
【0072】
なお、スレーブディスク40は、磁気記録装置(ハードディスクドライブ)に組み込んで好適に使用できる。これに使用されるハードディスクドライブとしては、各ドライブメーカーより販売されている公知の各種装置を使用すればよい。
【0073】
以上、本発明に係る磁気記録媒体、磁気転写方法、及び磁気再生方法の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
【0074】
たとえば、上記実施形態においては、図3に示されるように、マスターディスク46の基板47の表面の微細な突起状パターンの磁性層48(磁性層パターンに該当)と、微細な突起状パターン同士の間の凹部(非磁性層パターンに該当)とで転写情報担持面となっているが、これ以外の態様をも採り得る。
【0075】
図8は、この例を示すマスターディスク46の部分拡大断面図である。このうち(a)は、非磁性の平坦な基板47の表面に微細な突起状パターンの磁性層48が形成され、磁性層48同士の間が非磁性層パターンとなっている態様であり、(b)は、非磁性の基板47の表面に微細なパターンの磁性層48が埋め込まれて形成され、磁性層48同士の間が非磁性層パターンとなっており、基板47の表面が平坦となっている態様である。このような態様のマスターディスク46であっても、本発明は好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】磁気転写用マスターディスクの磁性層パターンを示した図
【図2】磁気ヘッドがサーボウェッジを通過するときに再生される信号の波形を示した図
【図3】マスターディスクの表面の微細な突起状パターンを示す部分拡大斜視図
【図4】磁気転写装置の要部斜視図
【図5】磁気転写方法の基本工程を説明する説明図
【図6】磁気転写方法の基本工程を示す斜視図
【図7】サブパルスの影響を説明する説明図
【図8】他の例を示すマスターディスクの部分拡大断面図
【図9】転写信号のパルス波形を示す図
【符号の説明】
【0077】
10…磁気転写装置、30…磁界生成手段、31…ギャップ、32…コア、33…コイル、34…電磁石装置、40…スレーブディスク(被転写用ディスク)、46…マスターディスク、PS…サブパルス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の磁性層パターンと、該磁性層パターン同士の間に設けられた非磁性層パターンとが交互に表面に形成され、これにより磁気情報が記録された円盤状体の磁気記録媒体であって、
前記磁性層パターン及び/又は前記非磁性層パターンの円周方向長さの最小値がbであり、所定の前記磁性層パターン及び/又は前記非磁性層パターンの円周方向長さがbより大きく、かつ磁気ヘッドにより読み取った際に読み取りエラーとなるサブパルスを発生させる円周方向長さである場合に、前期所定の磁性層パターン及び/又は非磁性層パターンの位置情報が磁気情報として記録されていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記円盤状体の表面において、位置決め情報が記録されたサーボウェッジと、読み出し情報が記録されたデータエリアとが円周方向に交互に形成されており、前期所定の磁性層パターン及び/又は非磁性層パターンの位置情報が前記データエリアの一部に記録されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記円盤状体の表面において、位置決め情報が記録されたサーボウェッジと、書き込み情報を記録すべく設けられたギャップとが円周方向に交互に形成されており、前期所定の磁性層パターン及び/又は非磁性層パターンの位置情報が前記ギャップの一部に記録されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体を磁気転写用のマスター媒体として用い、該マスター媒体と被転写用媒体とを密着させる密着工程と、
磁界生成手段を設け、前記被転写用媒体と前記マスター媒体の円周方向に磁界を加え、前記マスター媒体の磁気パターンを前記被転写用媒体に転写させる磁気転写工程と、
を備えることを特徴とする磁気転写方法。
【請求項5】
前記密着工程の前に、前記被転写用媒体の円周方向に磁界を加え、該被転写用媒体を円周方向に初期直流磁化させる初期磁化工程を備えることを特徴とする請求項4に記載の磁気転写方法。
【請求項6】
前記磁気転写工程の際に又は前記磁気転写工程の後に、前期所定の磁性層パターン及び/又は非磁性層パターンの位置情報より、前記磁気転写工程の際に発生するサブパルスを除去することを特徴とする請求項4又は5に記載の磁気転写方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体を磁気転写用のマスター媒体として用い、該マスター媒体を被転写用媒体とを密着させ、前記被転写用媒体と前記マスター媒体の円周方向に磁界を加え、前記マスター媒体の磁気パターンを磁気転写した前記被転写用媒体より前記磁気転写された磁気記録情報を磁気ヘッドにより読み出す磁気再生方法であって、
前期所定の磁性層パターン及び/又は非磁性層パターンの位置情報より、前記磁気転写の際に発生したサブパルスを除去することを特徴とする磁気再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−26567(P2007−26567A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208690(P2005−208690)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】