説明

蛍光体とそれを用いたEL素子及び蛍光体の製造方法

【課題】 高輝度でEL発光を可能とする蛍光体及びその作製方法を提供する。
【解決手段】 Zn(1-x)xS:Cu(MはBe、Mg、Ca、Sr及びBaの群から選ばれる少なくとも1種のIIA族元素を表し、xの混晶比率が0.05≦x<1)で表される閃亜鉛鉱型結晶構造の混晶蛍光体であって、内部に双晶を有し、かつ波長400nm以下の紫外線領域に発光成分を有することを特徴とする蛍光体である。さらに蛍光体結晶を加圧し閃亜鉛鉱型結晶構造が安定な高圧領域において成長させ、該閃亜鉛鉱型結晶構造を維持しながら高温状態へ加熱する蛍光体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセンス(以下、「EL」とする。)発光蛍光体とその製造方法に関する。とりわけ、EL発光に必要な双晶を多く有する蛍光体とそれを用いたEL素子及び蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題から、有害物質や細菌・ウイルスなどを分離、分解、または殺菌する機能が強く要求されている。このような分解・殺菌を行う手段として光触媒材料が注目されている。代表的な光触媒はアナターゼ型TiO2であり、これは一般には波長が400nm以下の紫外線により光触媒機能を発揮する。最近では、アナターゼ型TiO2より機能は低いものの、約420nm程度の波長まで光触媒機能を発揮するルチル型TiO2も開発されている。
【0003】
このような波長の光を放射させるデバイスとしては、水銀ランプや発光ダイオードもあるが、点または線光源であるため、大面積の光触媒を均一に励起するのには適さない。大面積を均一に発光させるデバイスとして無機ELデバイスがある。これは、光を放射する機能を持つ蛍光体粉末を誘電体樹脂に分散させて、主として交流電界を印加して発光させるものである。
【0004】
高効率で発光する蛍光体としてはZnS蛍光体がある。この蛍光体は内部に多数の双晶(積層欠陥)が形成されており、双晶界面に沿って導電性の高いCu−S系化合物が針状に存在する。電界印加時に針状導電相の先端で電界集中が生じて蛍光体母体であるZnSが励起され、このエネルギーが蛍光体中の各種準位に移動してEL発光する。すなわち、電子は浅いトラップに、正孔はCu付活剤のアクセプター準位に捕らえられ、電界が反転した時に電子が飛び出し、正孔と再結合して発光を生じる(非特許文献1参照)。
【0005】
非特許文献1に記載されているZnS:Cu蛍光体は、交流電界を印加することでEL発光を生じる最も有名な蛍光体であり、Blue−Cu型やGreen−Cu型などといった複数のタイプの発光を生じる。しかし、その中で最も短波長な領域に発光成分を有するBlue−Cu型発光でさえ波長400nm以下の紫外線領域に発光成分を有していない。
【0006】
ZnS:Cu蛍光体の発光波長を短波長化させて、波長400nm以下の紫外線領域に発光成分を有する発光を生じさせるには、蛍光体母材であるZnSに、例えばIIA族硫化物等のZnSよりも大きいバンドギャップを有する第二成分を添加して混晶化させることが有効である。
【0007】
ZnSにIIA族硫化物を添加して混晶化させた蛍光体は特許文献1に報告されているが、ここでは「主発光以外の成分が殆ど無く」、と記載されている。ここで言う主発光とは発光中心元素であるCuがZnサイトを置換した場合に得られるD−Aペア型発光を指しており、それよりも短波長領域にピークを有する高エネルギー発光(Blue−Cu型発光)は殆ど得られないと記載されており、これでは波長400nm以下の紫外線領域に高強度の発光成分を有する発光を生じさせることはできない。
【0008】
また、特許文献1に記載されているような、ZnS、IIA族硫化物、およびドープ元素供給源であるCu塩を混合、焼成してZn(1-x)xS:Cu蛍光体の従来の作製方法では、xの混晶比率が0.05以上になると暗室でも肉眼で視認しづらい程度の微弱な輝度のEL発光しか生じないことが判明した。
【0009】
特許文献1に記載の蛍光体がBlue−Cu型発光を殆ど生じない理由は、Cu元素と共に添加するAl元素がCu元素よりも高いモル濃度で添加されているため、全てのCuは電荷補償され、Znサイトに置換するためであると考えられる。Blue−Cu型発光を得るにはCuと共に添加するAlやCl等と言った元素はCuよりも低いモル濃度で添加しなければならない。ただし、Cu(付活剤)とAl(共付活剤)の濃度比率は蛍光体内部に含まれる濃度比率であって、原料粉末の混合比率ではない。
【0010】
【特許文献1】特開2002−231151
【特許文献2】特開昭61−296085
【非特許文献1】銅付活蛍光体セラミックス26(1991)No.7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高輝度でEL発光を可能とする蛍光体及びその作製方法を提供することを目的とする。特に、ZnSとIIA族硫化物の閃亜鉛鉱型結晶構造の混晶蛍光体であって、内部に多数の双晶を有することにより針状導電相が多数存在し、交流電界を印加した際に高輝度で短波長EL発光を可能とする蛍光体及びその作製方法を提供することを目的とする。また、これらの蛍光体を用いたEL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは上記特許文献1に記載のような従来の蛍光体製造方法ではxの混晶比率が0.05以上のZn(1-x)xS:Cu蛍光体が微弱な輝度のEL発光しか生じない原因を鋭意探索した結果、その結晶構造に問題があることを突き止めた。その理由を以下に述べる。
【0013】
EL発光を得るには非特許文献1に記載の通り、蛍光体粉末内部に針状のCu2S導電相の存在が必須である。この針状Cu2S導電相は双晶の境界面に析出するため、蛍光体内部に双晶を形成することが必要不可欠である。発明者らは、閃亜鉛鉱型結晶構造が安定な温度で蛍光体を焼成すると双晶が形成され、一方、ウルツ鉱型結晶構造が安定な温度で蛍光体を焼成すると双晶はほとんど形成されないことを突き止めた。
【0014】
更に、Zn(1-x)xS:Cuはxの混晶比率が0.05を超えると、いかなる温度においてもウルツ鉱型結晶構造が安定となり、特許文献1に記載の方法でZn(1-x)xS:Cu蛍光体を作製した場合、ウルツ鉱型結晶構造が安定な状態で結晶成長が進行するため、双晶がほとんど形成されず、微弱な輝度のEL発光しか生じないことを確認した。
このため、特許文献1に記載されている方法でZn(1-x)xS:Cu蛍光体を作製しても、xの混晶比率が0.05以上となるとほとんどEL発光が生じないため、波長400nm以下の製外線領域に全発光積分強度の0.5%以上の紫外線成分を有するEL発光蛍光体を作製することはできない。
【0015】
本発明者らはこれらの知見のもとに上記課題を解決するための手段に対して鋭意検討を重ねた結果、高温・高圧条件下でZn(1-x)xS:Cu蛍光体の結晶を液相中で成長させることで内部に高密度の双晶が形成できることを見出し本発明に至った。尚、ここで言う高温・高圧条件とは、融剤成分が溶融し、かつZn(1-x)xS:Cu蛍光体の結晶型が閃亜鉛鉱型として安定しており、さらにZn(1-x)xS:CuからIIA族硫化物の相分離が生じない温度・圧力領域を指す。
【0016】
本発明は以下の構成を採用する。
(1)一般式がZn(1-x)xS:Cuで表される閃亜鉛鉱型結晶構造の混晶蛍光体であって、該一般式中のMはBe、Mg、Ca、Sr及びBaの群から選ばれる少なくとも1種のIIA族元素を表し、xの混晶比率が0.05≦x<1を満たすと共に、内部に双晶を有し、かつ波長400nm以下の紫外線領域に発光成分を有することを特徴とする蛍光体。
(2)前記xの混晶比率が0.3≦x≦0.5であることを特徴とする上記(1)に記載の蛍光体。
【0017】
(3)前記蛍光体の蛍光体断面において、1μm2当りの双晶境界面の平均枚数が5枚以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の蛍光体。
(4)前記蛍光体の蛍光体断面において、1μm2当りの双晶境界面の平均枚数が10枚以上であることを特徴とする前記(3)に記載の蛍光体。
【0018】
EL発光は蛍光体内部の双晶境界面に析出した針状のCu2S等の導電相の先端で起こるため、EL発光の輝度を上げるためには蛍光体内部に多数の双晶境界面が含まれていることが望まれる。実際に本発明の蛍光体において、蛍光体内部に含まれる双晶境界面の平均枚数が1μm2当り5枚以上であれば、0.5cd/m2以上の輝度のEL発光が得られる。更に、蛍光体内部に含まれる双晶境界面の平均枚数が1μm2当り10枚以上であれば、1cd/m2以上の輝度のEL発光が得られる。
例えば、図1は本発明に係る蛍光体の一例を示すTEM像である。図1より明らかなように当該蛍光体の内部には多数の双晶が形成されている。
(5)少なくとも陽極、陰極及び発光層を有するEL素子であって、該発光層に上記(1)〜(4)のいずれか一に記載の蛍光体を含むEL素子。
【0019】
(6)前記(1)〜(4)のいずれか一に記載の蛍光体の作製方法であって、融剤を含む前記蛍光体の原料混合粉末を、液相中において加熱及び加圧しながら蛍光体結晶へと成長させる加熱加圧工程を含むことを特徴とする蛍光体の製造方法。
【0020】
(7)前記加熱加圧工程において、蛍光体結晶を加圧し閃亜鉛鉱型結晶構造が安定な高圧領域において成長させ、該閃亜鉛鉱型結晶構造を維持しながら高温状態へ加熱することを特徴とする上記(6)に記載の蛍光体の製造方法。
(8)前記蛍光体結晶を液相中で成長させた工程の後に、高温高圧状態から常温常圧状態までの降温降圧工程において、蛍光体結晶を閃亜鉛鉱型結晶構造が安定な高圧状態を保ちつつ常温に移行させた後で常圧状態に移行させることを特徴とする上記(7)に記載の蛍光体の製造方法。
【0021】
(9)前記原料混合粉末中に添加するCu量がCu/(Zn+M)モル比で0.001〜0.1であることを特徴とする上記(6)〜(8)のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法。
(10)前記原料混合粉末中に添加するCu量がCu/(Zn+M)モル比で0.002〜0.05であることを特徴とする上記(9)に記載の蛍光体の製造方法。
【0022】
(11)前記原料混合粉末に含まれる融剤量が1vol%以上であることを特徴とする上記(6)〜(10)のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法。
【0023】
(12)印加される圧力(P)が1000≦P<20000kgf/cm2であることを特徴とする上記(6)〜(11)のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法。
(13)印加される圧力(P)が2500≦P≦15000kgf/cm2であることを特徴とする上記(12)に記載の蛍光体の製造方法。
【0024】
(14)加熱温度(T)が700≦T≦1100であることを特徴とする上記(6)〜(13)のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法。
(15)加熱温度(T)が800≦T≦1000であることを特徴とする上記(14)に記載の蛍光体の製造方法。
【0025】
高輝度のEL発光を得るために、双晶境界面を多数有する蛍光体を作製するには、上記の通り閃亜鉛鉱型の結晶構造が安定な状態で蛍光体を焼成する必要がある。これは、融剤を蛍光体の原料混合粉末を加熱加圧して蛍光体結晶を液相中で成長させるという上記(6)に記載の製造方法により達成される。更にこのとき、常温常圧状態から高温高圧状態まで加圧、加熱の順序で移行させることにより、加熱加圧時の結晶構造を閃亜鉛鉱型結晶構造のまま安定に維持することができる。また、高温高圧状態から常温常圧状態まで降温、降圧の順序で移行させることにより、降温降圧時の結晶構造を閃亜鉛鉱型結晶構造のまま安定に維持することができる。これによって、双晶境界面を多数有する蛍光体の作製が可能となる。
【0026】
例えば、ZnMgS:Cuで表される蛍光体の内部に成長双晶を形成させてCu2Sの導電相を析出させるためには、図2に示すように常温常圧状態から閃亜鉛鉱型結晶構造の安定するZB安定領域まで高温高圧状態のまま加圧し、その後、加熱することによって閃亜鉛鉱型結晶構造の蛍光体の内部に成長双晶を形成することができる。図2に示す温度・圧力条件は一例であるが、例えばCu拡散可能温度領域に達するまでに常温・30MPaを起点とする臨界域線を超えて加圧することが重要である。Cu拡散可能温度領域に達するまでに臨界域線を超える範囲で加熱加圧を行ってもよい。また加熱加圧工程の後に、蛍光体結晶をZB安定領域までZB安定領域内となる高圧状態を保ちつつ常温に移行させた後で常圧状態に移行することにより安定した閃亜鉛鉱型結晶構造の蛍光体を得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によって、高輝度でEL発光を可能とする蛍光体及びその作製方法を提供することができる。特に、ZnSとIIA族硫化物の閃亜鉛鉱型結晶構造の混晶蛍光体であって、内部に多数の双晶を有することにより針状導電相が多数存在し、交流電界を印加した際に高輝度で短波長EL発光を可能とする蛍光体及びその作製方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
ZnS:Cu蛍光体を加熱加圧することで輝度および寿命を改善する方法は特許文献2に報告されているが、この方法は予め作製したZnS:Cu蛍光体に対して加熱加圧するものであり、高温高圧下で蛍光体の結晶を液相中で成長させるものではなく、この方法では双晶の形成を行うことはできない。
【0029】
本発明はZnS粉末、BeS、MgS、CaS、SrS、BaS等のIIA族硫化物粉末、Cu2S粉末、および融剤となるNaI粉末からなる蛍光体の原料混合粉末をBN製の容器に充填し、HIP装置により700〜1100℃、1000〜20000kgf/cm2の高温高圧状態まで加熱加圧して溶融させた融剤中でZn(1-x)xS:Cu蛍光体結晶を液相中で成長させることにより達成することができる。これにより、内部に双晶構造を有し、かつ波長400nm以下の紫外線領域に全発光強度の0.1%以上の強度の成分を有するEL発光を生じるZn(1-x)xS:Cu蛍光体が作製できる。
【0030】
原料混合粉末は、上記材料に限定されるものではない。例えば、Cu2Sの代替材料として、CuSO4、Cu(NO32、Cu(CH3COO)2、CuCl2、CuBr2等のCu塩およびCuハロゲン化物を用いることができる。
また、融剤は上記したものだけでなく、低融点のNaCl、KCl、RbCl、NaI、KI、RbI、NaBr、KBr、RbBr等の各種ハロゲン化物を用いることができる。
さらに、高温高圧状態まで加熱加圧するにはHIP装置だけでなく、ホットプレス装置、および超高圧プレス装置等を使用しても同等の効果が得られる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。
(実施例)
[Zn(1-x)xS:Cu蛍光体の作製]
ZnS粉末、xの混晶比率が0.01〜0.6となる量のIIA族硫化物粉末、Cu/(Zn+M)モル比=0.001〜0.2となる量のCu2S粉末を乳鉢で混合し、更に融剤として、これらの混合粉末に対して0.5〜30vol%となる量のNaI粉末を加えて乳鉢で再度混合を行った。
得られた混合粉末をBN製の容器に充填し、HIP装置により600〜1200℃、1000〜20000kgf/cm2の高温高圧状態まで加熱加圧し、溶融させた融剤中でZn(1-x)xS:Cu蛍光体結晶を2時間液相中で成長させた。その後常温常圧まで降温降圧し、試料を取り出した。取り出した飼料は乳鉢で粉砕し、水洗を行い過剰の融剤成分を除去し、乾燥させた。
最後に得られた粉末に粉末1g当り250ccのアンモニア水と75ccの過酸化水素水を加えて粉末表面に析出した過剰のCu2S成分を除去し、更に水洗、乾燥を行ってZn(1-x)xS:Cu蛍光体を作製した。
【0032】
作製したZn(1-x)xS:Cu蛍光体の双晶の数はTEMにより30000倍の倍率で蛍光体の断面観察を行い、任意の10個の蛍光体粉末の中央付近の1平方μm当りの双晶境界面の数をカウントし、その平均値で求めた。また、蛍光体の結晶構造はXRD分析により同定した。
作製したZn(1-x)xS:Cu蛍光体を30μmメッシュに通した後、蛍光体1gを2mlのひまし油に分散させて蛍光体スラリーを作製した。作製した蛍光体スラリーをガラス板スペーサを用いて間隔を調整したITO透明導電ガラスと鋼板の間隙に注入してEL素子を作製した。
【0033】
作製したEL素子のITO付透明導電ガラスと鋼板に電極を設置し、1000Hz、200Vの三角波交流電界を印加して蛍光体をEL発光させた。輝度計と分光計を使用して輝度と発光スペクトルの測定を行った。
実験結果を表1に示す。
【0034】
【表1−1】

【0035】
【表1−2】

【0036】
ロットNo.1〜8は請求項1〜6の発明に対する実施例及び比較例である。
Zn(1-x)xS:Cuのxの混晶比率が0.05未満では波長400nm以下の紫外線領域に発光成分を有するEL発光は得られなかった(No.1)。xの混晶比率が0.05〜0.5の範囲において、内部に双晶を有し、かつ波長400nm以下の紫外線領域に全発光強度の0.2%以上の強度のEL発光を生じるZn(1-x)xS:Cu蛍光体を得た(No.2〜No.7)。特にxの混晶比率が0.3〜0.5の範囲において、波長400nm以下の紫外線領域に全発光強度の2%以上の発光成分を有するEL発光を生じる蛍光体が得られるため好ましい(No.5〜No.7)。xの混晶比率が0.5を超えると過剰なIIA族硫化物が単独で析出し、結果的にxの混晶比率が0.5のものと同等のものとなった(No.8)。
【0037】
ロットNo.9〜14は請求項9及び10の発明に対する実施例及び比較例である。
Cu添加量がCu/(Zn+M)モル比で0.002未満ではBlue−Cu型発光が生じず、波長400nm以下の紫外線領域に成分を有するEL発光は得られなかった(No.9)。Cu添加量がCu/(Zn+M)モル比で0.002〜0.1において内部に双晶構造を有し、Blue−Cu型発光に伴う波長400nm以下の紫外線領域に発光成分を有するEL発光を生じるZn(1-x)xS:Cu蛍光体を得た(No.6、No.10〜No.13)。Cu添加量がCu/ZnSモル比で0.1を超えるとBlue−Cu型発光が生じず、400nm以下の紫外線領域に成分を有するEL発光は得られなかった(No.14)。
【0038】
ロットNo.15及び16はそれぞれ請求項7及び8の発明に対する比較例である。
常温常圧状態から高温高圧状態まで加圧、加熱の順で移行させた場合、内部に双晶構造を有し、波長400nm以下の紫外線領域に成分を有するEL発光を生じるZn(1-x)xS:Cu蛍光体を得た(例えばNo.6)。常温常圧状態から高温高圧状態まで加熱、加圧の順序で移行させた場合、内部に双晶構造を有する蛍光体は作製できなかった(No.15)。加圧に先駆けて加熱行うと蛍光体結晶の成長がウルツ鉱型結晶構造が安定な状態で進行するため双晶が形成されないものと考えられる。
【0039】
高温高圧状態から常温常圧状態まで降温、降圧の順序で移行させた場合、内部に双晶構造を有し、波長400nm以下の紫外線領域に成分を有するEL発光を生じるZn(1-x)xS:Cu蛍光体を得た(例えばNo.6)。高温高圧状態から常温常圧状態まで降圧、降温の順序で移行させた場合、内部に双晶構造を有する蛍光体は作製できなかった(No.16)。降温に先駆けて降圧を行うと降圧過程で閃亜鉛鉱型結晶構造からウルツ鉱型結晶構造への相転移が生じ、その際に双晶が消滅してしまうものと考えられる。
【0040】
ロットNo.17〜22は請求項12及び13に記載の発明に対する実施例及び比較例である。
印加圧力が500kgf/cm2の場合、内部に双晶構造を有する蛍光体は作製できなかった(No.17)。印加圧力が1000〜15000kfg/cm2の場合、内部に双晶構造を有し、波長400nm以下の紫外線領域に成分を有するEL発光を生じるZn(1-x)xS:Cu蛍光体を得た(No.18〜21)。印加圧力が20000kgf/cm2の場合、ZnS:CuとIIA族硫化物の相分離が生じ、ZnS−IIA族硫化物の混晶蛍光体が生成せず、400nm以下の紫外線領域に成分を有するEL発光は得られなかった(No.22)。
【0041】
ロットNo.23〜27は請求項14及び15に記載の発明に対する実施例及び比較例である。
加熱温度が600℃の場合、ZnS−IIA族硫化物の混晶蛍光体が生成せず、400nm以下の紫外線領域に成分を有するEL発光は得られなかった(No.23)。加熱温度が700〜1100℃において、内部に双晶構造を有し、波長400nm以下の紫外線領域に成分を有するEL発光を生じるZn(1-x)xS:Cu蛍光体を得た(No.6、No.24〜26)。加熱温度が1200℃の場合、内部に双晶構造を有するZn(1-x)xS:Cu蛍光体は作製できなかった(No.27)。1200℃ではウルツ鉱型結晶構造が安定となるため双晶が形成されないものと考えられる。
【0042】
ロットNo.28〜30は請求項11に記載の発明に対する実施例及び比較例である。
融剤の体積比率が0.5%の場合、内部に双晶構造を有するZn(1-x)xS:Cu蛍光体は作製できなかった(No.28)。融剤量が少ないことから液相でなく固相で結晶成長が進行したため双晶が形成されなかったものと考えられる。融剤の体積比率が1%以上の場合、内部に双晶構造を有し、波長400nm以下の紫外線領域に成分を有するEL発光を生じるZn(1-x)xS:Cu蛍光体を得た(No.6、29、30)。
【0043】
ロットNo.31〜34は請求項1に記載の発明に対する実施例である。
Mが任意のIIA族、つまりBeS、MgS、CaS、SrS、BaSの場合、内部に双晶構造を有し、波長400nm以下の紫外線領域に成分を有するEL発光を生じるZn(1-x)xS:Cu蛍光体を得た(No.6、No.31〜34)。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明による蛍光体を用いた粒子分散型EL素子は、光触媒励起用光源、樹脂硬化用ランプ、ディスプレイのバックライト、捕虫用ランプなどの青色〜紫外線発光ランプとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】双晶境界面が形成された本発明に係る蛍光体のTEM像である。
【図2】本発明に係る蛍光体の製造方法を説明するためのZnMgS相図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式がZn(1-x)xS:Cuで表される閃亜鉛鉱型結晶構造の混晶蛍光体であって、該一般式中のMはBe、Mg、Ca、Sr及びBaの群から選ばれる少なくとも1種のIIA族元素を表し、xの混晶比率が0.05≦x<1を満たすと共に、内部に双晶を有し、かつ波長400nm以下の紫外線領域に発光成分を有することを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
前記xの混晶比率が0.3≦x≦0.5であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記蛍光体の蛍光体断面において、1μm2当りの双晶境界面の平均枚数が5枚以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記蛍光体の蛍光体断面において、1μm2当りの双晶境界面の平均枚数が10枚以上であることを特徴とする請求項3に記載の蛍光体。
【請求項5】
少なくとも陽極、陰極及び発光層を有するEL素子であって、該発光層に請求項1〜4のいずれか一に記載の蛍光体を含む分散型EL素子。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法であって、融剤を含む前記蛍光体の原料混合粉末を、液相中において加熱及び加圧しながら蛍光体結晶へと成長させる加熱加圧工程を含むことを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項7】
前記加熱加圧工程において、蛍光体結晶を加圧し閃亜鉛鉱型結晶構造が安定な高圧領域において成長させ、該閃亜鉛鉱型結晶構造を維持しながら高温状態へ加熱することを特徴とする請求項6に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項8】
前記加熱加圧工程の後に、蛍光体結晶を高温高圧状態から常温常圧状態まで降下させる降温降圧工程において、蛍光体結晶を閃亜鉛鉱型結晶構造が安定な高圧状態を保ちつつ常温に移行させた後で常圧状態に移行させることを特徴とする請求項6又は7に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項9】
前記原料混合粉末中に添加するCu量が、Cu/(Zn+M)モル比で0.001〜0.1であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項10】
前記原料混合粉末中に添加するCu量が、Cu/(Zn+M)モル比で0.002〜0.05であることを特徴とする請求項9に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項11】
前記原料混合粉末に含まれる融剤量が、1vol%以上であることを特徴とする請求項6〜10のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項12】
印加される圧力(P)が、1000≦P<20000kgf/cm2であることを特徴とする請求項6〜11のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項13】
印加される圧力(P)が、2500≦P≦15000kgf/cm2であることを特徴とする請求項12に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項14】
加熱温度(T)が、700≦T≦1100℃であることを特徴とする請求項6〜13のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項15】
加熱温度(T)が、800≦T≦1000℃であることを特徴とする請求項14に記載の蛍光体の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2007−131751(P2007−131751A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326917(P2005−326917)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】