説明

被覆高強度繊維

本発明は、架橋シリコーンポリマーの被覆を含んでなる高強度繊維と、それらから作製されたロープとに関する。繊維は、好ましくは高性能ポリエチレン(HPPE)繊維である。架橋シリコーンポリマーを含んでなる被覆は、架橋性シリコーンポリマーを含んでなる被覆組成物から作製される。ロープは、曲げ用途(滑車による繰り返し曲げ用途など)において著しく改善された耐用寿命性能を示す。本発明は、耐曲げ疲労性の改善のため、ロープに架橋シリコーンポリマーを使用することにも関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、被覆高強度繊維と、ロープを作製するためのこのような繊維の使用とに関する。このようなロープは、ロープの繰返し曲げを伴う用途に特に適切である。本発明は、被覆繊維とロープの製造方法とにも関する。
【0002】
ロープの繰返し曲げを伴う用途(以下曲げ用途とも呼ぶ)には、滑車による曲げ(bend−over−sheave)用途が含まれる。滑車による曲げ用途のロープは、本出願に関連する範囲内では、持上げ用途および係留用途(船舶、海洋観測、沖合油田およびガス田、地震探査、商業漁業、および他の産業市場など)で典型的に使用される耐荷重ロープであるとみなされる。滑車による曲げ用途と総称されるこのような使用の際に、ロープは、ドラム、ビット、プーリー、滑車などで牽引されることが多く、その結果、ロープの擦れや曲げが生じる。このような頻繁な曲げまたは屈曲を受けた場合、外部および内部の摩耗、摩擦熱等が原因でロープおよび繊維の損傷を生じるので、ロープは破損しうる。このような疲労破損は、多くの場合、曲げ疲労または撓み疲労と呼ばれる。
【0003】
公知のロープの欠点は、依然として、頻繁な曲げや屈曲を受けた場合の限られた耐用寿命である。従って、長期間の曲げ用途において改善された性能を示すロープが業界で必要とされている。
【0004】
とりわけ、ロープ中の繊維間の内部摩耗から生じる強度損失を低減させるために、ロープストランド中のポリマー繊維の特定の混合物を適用することが米国特許第6945153B2号明細書に提案されている。米国特許第6945153B2号明細書は、ストランドが、40:60〜60:40の比の高性能ポリエチレン繊維とリオトロピックまたはサーモトロピックポリマー繊維の混合物を含有する構成の編組ロープを記載する。芳香族ポリアミド(アラミド)やポリビスオキサゾール(PBO)のようなリオトロピックまたはサーモトロピックな液晶繊維は、良好な耐クリープ破断性を提供するが自己摩耗を非常に起こしやすいことが指摘されており、一方、HPPE繊維は、最小量の繊維間摩耗を呈するがクリープ破損を起こしやすいと記載されている。
【0005】
高い靭性のポリオレフィン繊維を含んでなる滑車による曲げ用途に使用されるロープは、国際公開第2007/101032号パンフレットおよび国際公開第2007/062803号パンフレットから公知である。国際公開第2007/101032号パンフレットにおいて、ロープは、アミノ官能性シリコーン樹脂と中和された低分子量ポリエチレンワックスを含んでなる(液体)組成物で被覆された繊維で構成される。国際公開第2007/062803号パンフレットは、高性能ポリエチレン繊維とポリテトラフルオロエチレン繊維で構成されるロープを記載する。ロープは、液体ポリオルガノシロキサンであるシリコーン化合物を3〜18質量%含有できる。
【0006】
このように、先行技術に従って、液体シリコーン組成物(シリコーン油とも呼ばれる)を用いて、滑車による曲げ用途のロープに使用される高強度繊維を被覆することが提案されている。このようなオイルの欠点は、ロープが張力下および高温下に置かれる際に、シリコーンオイルがロープから「押し出される」傾向があって、ロープ性能のその有益な効果を緩めることである。
【0007】
本発明の目的は、従って、高強度繊維と、曲げ用途に対して改善された特性を有するこのような高強度繊維で作製されるロープとを提供することである。もう一つの目的は、曲げ用途に対して改善された特性を有するロープを提供することである。
【0008】
この目的は、本発明に従って、架橋シリコーンポリマーで被覆された高強度繊維で達成される。その被覆は、好ましくは架橋性シリコーンポリマーを含んでなる被覆組成物で作製される。
【0009】
本発明の被覆高強度繊維の利点は、ロープがこのような繊維で作製される場合、繊維の改善された摩耗保護である。さらに、架橋もしくは硬化シリコーン被覆を使用することにより、結果として洗い落とされない、可撓性で耐熱性の被覆となる。
【0010】
具体的には、被覆は、高強度繊維と、特にHPPE繊維と優れた相溶性を有する。
【0011】
高強度繊維が、架橋シリコーンポリマーを含んでなる被覆を施されている場合、このような繊維を用いて作製されるロープは、驚くほど改善された耐曲げ疲労性を有することが判明している。従って、本発明は、また、高強度繊維を含有するロープ(高強度繊維が架橋シリコーンポリマーで被覆されている)を提供する。
【0012】
第二態様に従って、本発明は、高強度繊維を含んでなるロープ(ロープが、架橋シリコーンポリマーを含んでなる被覆を施されている)を提供する。
【0013】
本発明に係るロープの他の利点には、ロープが高い強度効率を有する(ロープの強度が、その構成している繊維の比較的に高いパーセントの強度に相当することを意味する)ことが含まれる。ロープは、また牽引(貯蔵)およびドラムウィンチにおいて良好な性能を示し、起こり得る損傷の検査を容易に行うことが可能である。
【0014】
本発明は、従って、曲げ用途、例えば、滑車による曲げ用途(吊り上げ用途など)における耐荷重部材として、本出願にさらに詳述されるような構成および組成のロープの使用にも関する。ロープは、さらにロープの固定された部分が長い期間にわたって繰り返し曲げられている用途での使用に適切である。例として、海底設置、採鉱、再生可能エネルギー等のための用途が挙げられる。
【0015】
本発明は、また耐曲げ疲労性を改善するため、架橋シリコーンポリマーのロープでの使用にも関する。
【0016】
本発明において、高強度繊維もしくはロープにおける被覆は、架橋性シリコーンポリマーを含んでなる被覆組成物を塗布することにより得られる。ロープもしくは繊維に被覆組成物を塗布した後、例えば加熱により被覆組成物を硬化して、架橋性シリコーンポリマーの架橋を生じさせてもよい。架橋は、当業者に公知な任意の他の適切な方法によって誘導されてもよい。被覆組成物を硬化する温度は、20〜200℃、好ましくは50〜170℃、さらに好ましくは120〜150℃である。硬化温度は、効果的に硬化するためには低すぎてはいけない。硬化温度が高くなりすぎると、高強度繊維が劣化してその強度を失うリスクがある。
【0017】
被覆に続いて硬化する前後に、ロープもしくは繊維の重量を測定して、架橋被覆の重量を算出する。繊維に関して、架橋被覆の重量は、繊維の総重量に基づいて1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%である。ロープに関して、架橋被覆の重量は、ロープと被覆の総重量に基づいて、1〜30重量%、好ましくは2〜15重量%であるのが好ましい。
【0018】
架橋度を制御してもよい。例えば、加熱温度または加熱時間により、架橋度を制御してもよい。他の方法で実施するならば、架橋度を当業者に公知な方法で制御してもよい。架橋度の測定を以下の通りに実施してよい。
【0019】
(少なくとも部分的に)架橋被覆を施したロープもしくは繊維を溶剤中に浸漬する。ポリマー中の架橋されていない抽出物(主にモノマー)群が溶解し、架橋ネットワークは溶解しないと思われる溶剤を選択する。好適な溶剤はヘキサンである。このような溶剤中に浸漬した後にロープもしくは繊維を秤量することにより、非架橋部分の重量を確定でき、抽出物に対する架橋シリコーンの比を算出できる。
【0020】
好適な架橋度は、少なくとも20%であり、すなわち被覆の総重量に基づいて少なくとも20重量%の被覆が、溶剤で抽出後に、繊維もしくはロープに残存する。架橋度はさらに好ましくは30%であり、最も好ましくは少なくとも50%である。最大架橋度は、ほぼ100%である。
【0021】
架橋性シリコーンポリマーは、反応性末端基を有するシリコーンポリマーを含んでなるのが好ましい。シリコーンポリマーの末端基における架橋は、結果として良好な耐曲げ性となることが判明した。繰り返し単位において分岐でよりもむしろ末端基で架橋されたシリコーンポリマーは、結果として非硬質の被覆となる。発明者らは、ロープの改善された特性は非硬質の被覆構造に起因すると考える(それらに限定されない)。
【0022】
架橋性の末端基が、アルキレン末端基であるのが好ましく、C〜Cのアルキレン末端基であるのがさらに好ましい。具体的には、末端基はビニル基もしくはヘキセニル基である。一般的には、ビニル基が好適である。
【0023】
架橋性シリコーンポリマーは、式
CH=CH−(Si(CH−O)−CH=CH(1)
[式中、nは2〜200、好ましくは10〜100、さらに好ましくは20〜50の数である]を有するのが好ましい。
【0024】
被覆組成物は、さらに架橋剤を含有するのが好ましい。架橋剤は、式
Si(CH−O−(SiCHH−O)−Si(CH(2)
[式中、mは2〜200、好ましくは10〜100、さらに好ましくは20〜50の数である]を有するのが好ましい。
【0025】
被覆組成物は、さらに、架橋性シリコーンポリマーを架橋するため金属触媒を含んでなるのが好ましく、金属触媒は、好ましくは白金、パラジウムまたはロジウムであり、さらに好ましくは白金金属錯体の触媒である。このような触媒は、当業者には公知である。
【0026】
被覆組成物は、架橋性シリコーンポリマーと架橋剤を含んでなる第一エマルションと、架橋性シリコーンポリマーと金属触媒を含んでなる第二エマルションとを含んでなる多成分シリコーン系であるのが好ましい。
【0027】
第一エマルションと第二エマルションの重量比は、約100:1〜約100:30、好ましくは100:5〜100:20、さらに好ましくは100:7〜100:15であるのが好ましい。
【0028】
上記の被覆組成物は、当技術分野では公知である。それらは、多くの場合、付加硬化シリコーン被覆または被覆エマルションと呼ばれる。架橋もしくは硬化は、ビニル末端基が架橋剤のSiH基と反応する際に起こる。
【0029】
このような被覆の例は、ワッカーシリコーン(Wacker Silicones)からのDehesive(登録商標)430(架橋剤)およびDehesive(登録商標)440(触媒);Bluestar SiliconesからのSilcolease(登録商標)Emulsion912およびSilcolease(登録商標)触媒913;およびDow CorningからのSyl−off(登録商標)7950 Emulsion CoatingおよびSyl−off(登録商標)7922 Catalyst Emulsionである。
【0030】
本発明のさらなる利点は、他の機能添加剤のためのキャリヤーとして架橋シリコーンを用いることができることである。従って、本発明は、また架橋シリコーンポリマー被覆で被覆した繊維にも関し、被覆は、さらに着色剤、酸化防止剤および防汚剤から選択される1種の添加剤を含有する。
【0031】
このような添加剤は、当技術分野では公知である。防汚剤の例は、例えば銅および銅錯体、金属ピリチオンおよびカルバメート化合物である。
【0032】
本発明の範囲内において、繊維は、不定長で幅および厚さよりもかなり大きい長さ寸法を有する細長体を意味すると理解されている。従って用語「繊維」には、モノフィラメント、マルチフィラメント糸、リボン、ストリップまたはテープ等が含まれ、規則的な断面もしくは不規則な断面を有することが可能である。用語「繊維」には、また、上記の任意の1つまたは組合せが複数含まれる。
【0033】
このように、本発明に従って、架橋シリコーンポリマーの被覆は、フィラメントにだけでなくマルチフィラメント糸にも塗布することができる。さらに、高強度繊維を含むストランド(ストランドは、架橋シリコーンポリマーで被覆される)を提供することは、また、本発明の一実施形態である。
【0034】
モノフィラメントの形態を有する繊維またはテープ状繊維は、様々な繊度を有することが可能であるが、典型的には、10〜数千dtexの範囲、好ましくは100〜2500dtexの範囲、さらに好ましくは200〜2000dtexの繊度を有する。マルチフィラメント糸は、典型的には0.2〜25dtexの範囲、好ましくは約0.5〜20dtexの繊度を有する複数のフィラメントを含有する。マルチフィラメント糸の繊度は、大きく異なって(例えば50〜数千dtex)もよいが、好ましくは約200〜4000dtex、さらに好ましくは300〜3000dtexの範囲内である。
【0035】
本発明に使用される高強度繊維とは、少なくとも1.5N/tex、さらに好ましくは少なくとも2.0、2.5もしくは尚さらには少なくとも3.0N/texの靭性を有する繊維を意味する。フィラメントの引張り強度、また単に強度、または靭性は、ASTM D2256−97に準拠して、公知の方法により測定される。一般的にこのような高強度の高分子フィラメントは、また、高い引張弾性率(例えば、少なくとも50N/tex、好ましくは少なくとも75、100またはさらに少なくとも125N/tex)も有する。
【0036】
このような繊維の例は、高性能ポリエチレン(HPPE)繊維、ポリアラミドから製造された繊維(例えば、ポリ(P−フェニレンテレフタルアミド)(Kevlar(登録商標)として公知);ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE);芳香族コポリアミド(コ−ポリ−(パラフェニレン/3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド))(Technora(登録商標)として公知);ポリ{2,6−ジイミダゾ−[4,5b−4’,5’e]ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン}(M5として公知);ポリ(P−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)(PBO)(Zylon(登録商標)として公知);サーモトロピック液晶ポリマー(LCP(例えば米国特許第4,384,016号明細書から公知);さらにポリエチレン以外のポリオレフィン(例えばポリプロピレンのホモポリマーおよびコポリマー)である。上記のポリマーから製造された繊維の組み合わせも、本発明のロープに使用できる。しかしながら、好適な高強度繊維は、HPPE、ポリアラミドまたはLCPの繊維である。
【0037】
最も好適な繊維は、高性能ポリエチレン(HPPE)繊維である。HPPE繊維は、本明細書において、超高モル質量ポリエチレン(超高分子量ポリエチレン;UHMWPEとも呼ばれる)から作製され、かつ少なくとも1.5、好ましくは少なくとも2.0、さらに好ましくは少なくとも2.5もしくは尚さらには少なくとも3.0N/texの靭性を有する繊維であると理解されている。ロープ中のHPPE繊維の靭性の上限に関する理由は存在しないが、入手可能な繊維は、典型的には多くとも約5〜6N/texの靭性を有する。HPPE繊維は、さらに、例えば少なくとも75N/tex、好ましくは少なくとも100または少なくとも125N/texの高い引張弾性率も有する。HPPE繊維は、また高弾性率ポリエチレン繊維とも呼ばれている。
【0038】
好適な一実施形態において、本発明に係るロープ中のHPPE繊維は、1つもしくは複数のマルチフィラメント糸である。
【0039】
HPPE繊維、フィラメントおよびマルチフィラメント糸は、適切な溶剤に溶かしたUHMWPE溶液をゲル繊維に紡糸し、溶剤を一部もしくは完全に除去する前、その間および/または後に、繊維を延伸することにより、すなわち、いわゆるゲル紡糸プロセスを介して、調製されることができる。UHMWPE溶液のゲル紡糸は、当業者に公知であり、欧州特許出願公開第0205960A号明細書、欧州特許出願公開第0213208A1号明細書、米国特許第4413110号明細書、英国特許出願公開第2042414 A号明細書、欧州特許第0200547 B1号明細書、欧州特許第0472114 B1号明細書、国際公開第01/73173 Al号パンフレット、およびAdvanced Fiber Spinning Technology,ED.T.Nakajima,Woodhead Publ.Ltd(1994),ISBN 1−855−73182−7、ならびにそれらの中に引用された参考文献をはじめとする様々な公報に記載されおり、全て、参照されて本明細書に組み込まれている。
【0040】
HPPE繊維、フィラメントおよびマルチフィラメント糸は、ゲル紡糸プロセスにより作製されるHPPE繊維と比較するとその機械的特性(例、靭性等)がより制限されるが、UHMWPEの溶融紡糸によっても調製されることが可能である。溶融紡糸されることが可能であるUHMWPEの分子量の上限は、ゲル紡糸プロセスでの上限よりも小さい。溶融紡糸プロセスは、当技術分野において広く知られており、PE組成物を加熱してPE溶融体を形成すること、PE溶融体を押出すこと、押出された溶融体を冷却して凝固したPEを得ること、凝固したPEを少なくとも1回延伸することを含む。そのプロセスは、例えば、欧州特許出願公開第1445356A1号明細書および欧州特許出願公開第1743659A1号明細書に記載されており、それらは、参照されて本明細書に組み込まれている。
【0041】
UHMWPEは、少なくとも5dl/g、好ましくは約8〜40dl/gの固有粘度(135℃のデカリン溶液で測定した際のIV)を有するポリエチレンであると理解されている。固有粘度は、MおよびMのような実際のモル質量パラメーターよりも容易に決定できるモル質量(分子量とも呼ばれる)の尺度である。IVとMの間にはいくつかの経験的関係があるが、このような関係は、モル質量分布によって決まる。式Mw=5.3710[IV]1.37(欧州特許出願公開第0504954A1号明細書参照)に基づいて、8dl/gのIVは、約930kg/molのMwと等価であろう。UHMWPEは、炭素原子100個当り1つ未満の分岐、好ましくは炭素原子300個当り1つ未満の分岐を有する線状ポリエチレンであるのが好ましく、1つの分岐または側鎖もしくは鎖分岐は、通常少なくとも10個の炭素原子を含有する。線状ポリエチレンは、5モル%までの1種または複数種のコモノマー(例、プロピレン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテンまたはオクテンのようなアルケン等)をさらに含有してもよい。
【0042】
一実施形態において、UHMWPEは、ペンダント側基として、少量、好ましくは炭素原子1000個当り少なくとも0.2または少なくとも0.3の比較的小さい基、好ましくはC1〜C4アルキル基を含有する。このような繊維は、高強度と耐クリープ性の有利な組み合わせを示す。しかしながら、側基が大きすぎるかもしくは側基の量が多すぎると、繊維を作製するプロセスに悪影響を及ぼす。このような理由で、UHMWPEは、好ましくはメチルまたはエチル側基、さらに好ましくはメチル側基を含有する。側基の量は、炭素原子1000個当り好ましくは多くとも20個、さらに好ましくは多くとも10、5、もしくは多くとも3個である。
【0043】
本発明に係るロープ中のHPPE繊維は、少量の、一般的には5質量%未満の、好ましくは3質量%未満の慣例の添加剤(酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、流れ促進剤など)をさらに含有してもよい。UHMWPEは、単一のポリマーグレードでも、2種以上の異なるポリエチレングレードの混合物(例えばIVもしくはモル質量分布、および/またはコモノマーまたは側基の種類および数の異なるポリエチレングレードの混合物)でも可能である。
【0044】
本発明に係るロープは、特に、曲げ用途(滑車による曲げ用途など)に適したロープである。大きな直径(例えば少なくとも16mm)を有するロープが、特定の曲げ用途に適切である。ロープの直径は、ロープの最外周で測定される。これは、ストランドによって規定されるロープの境界が不規則であるからである。本発明に係るロープは、少なくとも30mm、さらに好ましくは少なくとも40mm、少なくとも50mm、少なくとも60mm、もしくは尚さらには少なくとも70mmの直径を有する高耐荷重性ロープであるのが好ましい。公知の最大のロープは、約300mmまでの直径を有し、深海設置に使用されるロープは、典型的には約130mmまでの直径を有する。
【0045】
本発明に係るロープは、略円形または略丸形の断面だけでなく、長楕円形の断面も有することが可能であり、長楕円形の断面とは、張力のかかったロープの断面が、偏平形、卵形、さらに(一次ストランドの数に応じて)略方形を示すことを意味する。このような長楕円形の断面は、好ましくは1.2〜4.0の範囲のアスペクト比、すなわち長径/短径の比(または幅/高さ比)を有する。アスペクト比を決定する方法は、当業者に公知であり、一例として、ロープをピンと張った状態に保持しながら、或いはロープの周りに接着テープをきつく巻いた後、ロープの外寸を測定することが挙げられる。前記のアスペクト比を有する非円形断面の利点は、断面の幅方向が滑車の幅方向に平行であるところでの繰り返し曲げの際に、ロープ中の繊維間で生じる応力差が小さく、かつ摩耗や摩擦熱の発生が少ないので、結果として、曲げ疲労寿命が延びることである。断面は、好ましくは約1.3〜3.0、さらに好ましくは約1.4〜2.0のアスペクト比を有する。
【0046】
長楕円形の断面を有するロープの場合、非丸形ロープと単位長さ当りの質量が同じである丸形ロープの直径(当業界において有効直径と呼ばれることが多い)により、丸形ロープのサイズを規定するのがより正確である。本明細書において、用語「直径」は、長楕円形断面を有するロープの場合、有効直径を意味する。
【0047】
ロープおよび/またはそのロープ中の繊維は、曲げ疲労をさらに改善するために第二被覆でさらに被覆されているのが好ましい。このような被覆は、ロープを構成する前に繊維に、或いはロープを構成した後にロープの上に、塗布されることが可能であり、このような被覆は公知であり、例として、シリコーン油、ビチューメンおよび両方を含んでなる被覆が挙げられる。ポリウレタン系被覆も、公知であり、シリコーン油と混合される場合もある。ロープが乾燥状態で2.5〜35重量%の第二被覆を含有するのが好ましい。ロープが10〜15重量%の第二被覆を含有するのがさらに好ましい。
【0048】
本発明の一実施形態において、ロープは、HPPEと異なるポリマーで作製される合成繊維をさらに含む。これらの繊維は、ポリプロピレン、ナイロン、アラミド(例えばKevlar(登録商標)、Technora(登録商標)、Twaron(登録商標)の商品名で知られているアラミド)、PBO(ポリフェニレンベンゾビスオキサゾール)(例えばZylon(登録商標)の商品名で知られているPBO)、サーモトロピックポリマー(例えば商品名Vectran(登録商標)の商品名で知られているポリマー)およびPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)をはじめとする繊維を作製するのに適切な様々なポリマーからなりうる。
【0049】
さらなる合成繊維として、PTFE繊維が好適である。HPPE繊維とPTFE繊維の組み合わせは、例えば国際公開第2007/062803A1号パンフレットに記載されている通り、曲げ用途(滑車による繰り返し曲げ用途など)において耐用寿命性能の改善が見られる。PTFE繊維は、HPPE繊維よりもかなり低い靭性を有し、ロープの静的靭性に有効な寄与を有していない。それにもかかわらず、PTFE繊維は、取り扱い中に、他の繊維との混合中におよび/またはロープ作製中に、繊維の破断を回避するために、少なくとも0.3、好ましくは少なくとも0.4もしくは少なくとも0.5N/texの靭性を有するのが好ましい。PTFE繊維の靭性の上限に対する理由はないが、入手可能な繊維は、多くとも約1N/texの靭性が典型的である。PTFE繊維は、典型的にはHPPE繊維よりも大きい破断点伸びを有する。
【0050】
PTFE繊維の特性およびこのような繊維の作製方法は、欧州特許出願公開第0648869 A1号明細書、米国特許第3655853号明細書、米国特許第3953566号明細書、米国特許第5061561号明細書、米国特許第6117547号明細書、および米国特許第5686033号明細書をはじめとする多くの公報に記載されてきた。
【0051】
PTFEポリマーは、テトラフルオロエチレンを主モノマーとして作製されるポリマーであると理解されている。好ましくはそのポリマーは、4モル%未満、さらに好ましくは2または1モル%未満の他のモノマー(エチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロプロピルビニルエーテルなど)を含有する。PTFEは、一般的に、高融点および高結晶化度を有する非常に高いモル質量のポリマーであるので、材料を溶融加工するのは事実上不可能である。また、溶剤中でのその溶解度は、かなり制限されている。従って、PTFE繊維は、典型的には、PTFEとPTFEよりも融点が低い任意の他の成分との混合物を前駆体繊維(例えば、モノフィラメント、テープまたはシート)に押出した後、焼結のような処理工程、および/または生成物を高温で後延伸することにより、作製される。従って、PTFE繊維は、典型的には、1つもしくはそれ以上のモノフィラメントまたはテープ状構造(例えば糸状生成物に加撚したいくつかのテープ状構造)の形態である。PTFE繊維は、一般的に、前駆体繊維を作製するのに適用されるプロセスおよび適用される後延伸の条件によって左右される特定の多孔性を有する。PTFE繊維の見掛け密度は、大きく変わることができ、適切な生成物は、約1.2〜2.5g/cmの範囲の密度を有する。
【0052】
本発明のさらなる一実施形態において、ロープは、周りに繊維を編組する芯部材を含んでなる。芯部材を有する構成は、組紐が長楕円形状に圧潰することなく、ロープが使用中にその形状を保つことが望まれる場合に有益である。
【0053】
ロープは、さらに熱伝導性繊維(金属繊維など)を好ましくは芯に含有してもよい。ロープの中心は、通常、最高温度を有するので、この実施形態は、有利である。この実施形態に関して、ロープの中心で発生した熱、そうでなければロープの中心に保持される熱は、縦方向に沿ってとりわけ速く散逸される。ロープの同一部分が繰り返して曲げを受ける用途にとって、これは、特に有利である。
【0054】
HPPE繊維の質量比は、ロープ中の総繊維に対して70〜98重量%であるのが好ましい。HPPE繊維が強度に最も寄与するので、ロープの強度は、HPPE繊維の量にかなり左右される。
【0055】
HPPE繊維と他の繊維(上記のさらなる合成繊維など)との混合を含んでなる実施形態において、繊維の混合は、あらゆる段階でもよい。混合は、繊維から作製されるロープヤーンにおいて、ロープヤーンから作製されるストランドにおいて、および/またはストランドから作製される最終ロープにおいてであってもよい。いくつかの実施形態が、以下に示され、実行可能なロープ構成を例示する。但し、これらの実施形態は、例証する目的のためだけであって、本発明の範囲内の全ての実行可能な混合を示すものでない。
【0056】
一実施形態において、異なる種類の繊維が、ロープヤーンに形成される。ロープヤーンは、ストランドに作製され、ストランドは、最終の複合ロープに作製される。
【0057】
さらなる一実施形態において、各ロープヤーンは、単一種の繊維から作製される。すなわち第一ロープヤーンは、第一繊維から作製され、第二ロープヤーンは、第二繊維から作製される等。第一、第二および任意のさらなるロープヤーンは、ストランドに作製され、ストランドは、最終の複合ロープに作製される。
【0058】
さらなる一実施形態において、各ロープヤーンは、単一種の繊維から作製される。各ストランドは、単一種のロープヤーンから作製される。異なる種類の繊維から作製されるストランドの各々は、最終の複合ロープに作製される。
【0059】
さらなる一実施形態において、いくつかのロープヤーンまたはストランドは、1種類の繊維から作製され、いくつかのロープヤーンまたはストランドは、2種以上の繊維から作製される。
【0060】
本発明に係るロープは、撚り、編組、平行(被覆付き)、およびワイヤーロープ様構成のロープをはじめとする様々な構成をとることが可能である。ロープ中のストランドの数は、大きく異なってもよいが、良好な性能と製造容易性の両立を達成するために、一般的に少なくとも3本、好ましくは多くとも16本である。
【0061】
本発明に係るロープは、使用中にその一貫性を保持する強靭でトルクバランスのとれたロープを提供するために、編組構成をとるのが好ましい。様々な種類の公知の組紐が存在し、各々は、一般的にロープを形成する方法により、区別される。適切な構成として、蛇腹組紐、筒状組紐、および平打ち組紐が挙げられる。筒状もしくは丸打ち組紐は、ロープ用途には最も一般的な組紐であり、一般的に、実行可能な様々なパターンを有する、撚り合わせられた2組のストランドからなる。筒状組紐のストランドの数は、大きく異なってもよい。特に、ストランドの数が多いならばおよび/またはストランドが比較的薄いならば、筒状組紐は、中空芯を有することがあり、筒状組紐は、長楕円形状に圧潰しうる。
【0062】
本発明に係る編組ロープ中のストランドの数は、好ましくは少なくとも3本である。実際には、ロープは、一般的に32本以下のストランドを有するだろうが、ストランドの数に上限はない。8〜12本のストランド編組構成のロープが特に適切である。このようなロープは、靭性と耐曲げ疲労性との有利な組み合わせを提供し、比較的単純な機械で経済的に作製可能である。
【0063】
本発明に係るロープは、撚り長さ(撚り構成におけるストランドの1回転の長さ)も編組周期(すなわち編組ロープの幅に対するピッチ長)も特に重要でない構成をとることが可能である。適切な撚り長さおよび編組周期は、ロープの直径の4〜20倍の範囲である。撚り長さもしくは編組周期が大きいほど、結果として、より高い強度効率を有するが、頑丈さに劣り、接合するのがより困難な緩いロープとなる。撚り長さもしくは編組周期が小さすぎると、靭性が過度に低下するであろう。従って、撚り長さもしくは編組周期がロープの直径の約5〜15倍であるのが好ましく、ロープの直径の6〜10倍であるのがさらに好ましい。
【0064】
本発明に係るロープにおいて、ストランド(一次ストランドとも呼ばれる)の構成は、特に重要ではない。当業者ならば、撚りストランドもしくは編組ストランドのような適切な構成、および撚り係数もしくは編組周期をそれぞれ選択することが可能であり、その結果、バランスのとれたトルクフリーのロープが得られる。
【0065】
本発明の特定の一実施形態において、各一次ストランドはそれ自体編組ロープである。ストランドは、ポリマー繊維を含んでなる偶数本の二次ストランド(ロープヤーンとも呼ばれる)から作製される丸打ち組紐であるのが好ましい。二次ストランドの数は、限定されず、例えば6〜32本の範囲でよく、このような組紐を作製するのに利用できる機械を考慮に入れると、8、12、または16本が好適である。当業者は、各自の知識に基づいて或いはいくつかの計算もしくは実験を利用して、所望の最終的なロープの構成およびサイズに関連する構成の種類およびストランドの繊度を選択することが可能である。
【0066】
ポリマー繊維を含有する二次ストランドまたはロープヤーンは、この場合も所望のロープに応じて、様々な構成をとることができる。適切な構成として、撚り繊維が挙げられるが、丸打ち組紐のような編組ロープまたは編組コードを使用することも可能である。適切な構成は、例えば、米国特許第5901632号明細書に記載されている。
【0067】
本発明に係るロープは、ポリマー繊維からロープを組み立てる公知の技術を用いて作製可能である。架橋性シリコーンポリマーを含んでなる被覆組成物を繊維に塗布し、硬化して架橋シリコーンポリマーを含んでなる被覆を生成してもよく、その後に繊維をロープに作製してもよい。ロープが形成された後に、架橋性シリコーンポリマーを含んでなる被覆組成物を塗布してもよい。繊維から組み立てられるロープヤーン上に或いはロープヤーンから組み立てられるストランド上に被覆組成物を塗布することは、勿論実行可能である。ロープが構成される前に、被覆組成物を繊維に塗布することは、好ましい。ロープの直径に関係なく、被覆組成物での均一の含浸がロープにおいて達成されたことは、本発明の利点である。
【0068】
高強度繊維を含んでなるロープを作製する好適な一方法は、架橋性シリコーンポリマーを含んでなる被覆組成物を高強度繊維におよび/またはロープに塗布する工程と、高強度繊維および/またはロープを120〜150℃の温度に晒して架橋シリコーンポリマーを含んでなる被覆をロープおよび/またはHPPE繊維上に形成する工程とを備える。
【0069】
本発明の繊維の適用は、主にロープに関して記載されているが、高強度繊維で公知の他の使用も、本発明の範囲内である。具体的には、高強度繊維を網(魚網など)の製造に使用することができる。本発明の繊維が、被覆されていない繊維と比べて、より良好な結節強度を有することが、示されてきた。
【0070】
繊維は、製織されることもでき、或いは別の方法で、別の用途用の布帛(織物など)を作り出すために組み立てられることも可能である。
【0071】
さらに、本発明の繊維は、ヤーンからロープまたは他の物品を作製する際に、改善された加工性を示す。より良好な加工性とは、本発明の繊維を含有するヤーンが、ロープを作製するのに使用される機械を介して滑らかに動き、ヤーンが機械の別の構成部分(ローラー、アイなど)と接触するところのヤーンに殆ど損傷が生じないことを意味する。このように、ヤーンは、さらに容易に編組もしくは製織されることが可能である。
【0072】
被覆組成物は、2工程で塗布されるのが好ましい。この好適な方法において、架橋性シリコーンポリマーと架橋剤を含んでなる第一エマルションと、架橋性シリコーンポリマーと金属触媒を含んでなる第二エマルションとを混合する。ロープおよび/または繊維をこの混合物に浸漬する。その後、被覆組成物を硬化する。
【0073】
繊維生産プロセス中に、繊維を被覆組成物に浸漬してもよい。繊維生産プロセスは、少なくとも1回の延伸工程を伴う。浸漬工程の後に延伸工程を行ってもよい。
【0074】
本発明に係る方法は、編組工程の前に一次ストランドを後延伸する工程、或いは別の方法としてロープを後延伸する工程をさらに備えてもよい。このような延伸工程は、高温で実施されるのが好ましいが、スタンド(stand)内の(最も融点の低い)フィラメントの融点未満、好ましくは100〜120℃の範囲の温度で実施される(=熱延伸)。このような後延伸工程は、欧州特許第398843B1号明細書または米国特許第5901632号明細書に記載されている。
【0075】
本発明は、実験を参照して詳細に説明される。
【0076】
[比較例A]
16mmの直径を有しかつHPPE繊維からなるロープを製作した。HPPE繊維として、オランダのDSMにより供給された1760dtexのDyneema(商標)SK 75を用いた。ロープヤーンの構成は、8×1760dtex、20撚り/メートル、S/Zであった。ヤーンからストランドを製作した。ストランド構成は、1+6本のロープヤーン、20撚り/メートル、Z/Sであった。ストランドからロープを製作した。ロープ構成は、109mm(すなわちロープ直径の約7倍)の編組周期を有する12ストランド編組ロープであった。ロープの平均破断強度は、22.5kNであった。
【0077】
ロープの曲げ疲労を試験した。本試験において、400mmの直径を有する自由回転する滑車上でロープを曲げた。ロープを荷重下に設置し、ロープが破損するまで滑車上で反復サイクルにかけた。各マシンサイクルは、作用を受けるロープ部分での引張−曲げ−引張の2回曲げサイクル、2回曲げ領域を生じさせた。2回曲げ行程は、ロープの直径の30倍であった。サイクル時間は、マシンサイクル当り12秒であった。ロープに加えた力は、試験したロープの平均破断強度の30%であった。
【0078】
1888マシンサイクル後、ロープは破損した。
【0079】
[実施例1]
架橋剤を予備配合した反応性シリコーンポリマーを含んでなる第一エマルションとシリコーンポリマーと金属触媒を含んでなる第二エマルションとから被覆組成物を調製した。第一エマルションは、30.0〜60.0重量%のジメチルビニル末端ジメチルシロキサンと1.0〜5.0重量%のジメチル,メチル水素シロキサンを含有するDow Corningから入手可能なエマルション(Syl−off(登録商標) 7950 Emulsion Coating)であった。第二エマルションは、30.0〜60.0重量%のジメチルビニル末端ジメチルシロキサンと白金触媒を含有するDow Corningから入手可能なエマルション(Syl−off(登録商標)7922 Catalyst Emulsion)であった。第一エマルションと第二エマルションを重量比8.3:1で混合し、4重量%の濃度まで水で希釈した。
【0080】
オランダのDSMによりDyneema(登録商標)SK 75として供給された1760dtexのHPPE繊維を室温で被覆組成物中に浸漬した。繊維を120℃の温度でオーブン内で加熱すると架橋が生じた。被覆したHPPE繊維から、比較実験Aに記載したのと同じ構成を有するロープを製作した。
【0081】
比較実験Aと同じ試験方法に従って、ロープの曲げ疲労を試験した。9439マシンサイクル後、ロープは破損した。
【0082】
比較例Aと実施例1の結果を比較すると、ロープの耐曲げ疲労性は、架橋シリコーン被覆によって、かなり改善されたことがわかる。
【0083】
[比較例B]
オランダのDSMによりDyneema(登録商標)SK 75として供給された1760dtexのHPPE繊維を室温で、シリコーン油を含有する被覆組成物(Wacker CoatingからのWacker C800)中に浸漬し、乾燥した。被覆したHPPE繊維から5mmの直径を有するロープを製作した。ストランドの構成は、4×1760dtex、20撚り/メートル、S/Zであった。ストランドからロープを製作した。ロープ構成は、27mmピッチを有する12×1ストランド編組ロープであった。ロープの平均破断強度は、18248Nであった。
【0084】
ロープの曲げ疲労を試験した。本試験において、各々50mmの直径を有する自由回転する3台の滑車上でロープを曲げた。3台の滑車をジグザグ形に配置し、ロープが滑車の各々に曲げ領域を有するような方法で滑車の上にロープを設置した。ロープを荷重下に設置し、ロープが破損するまで滑車上でサイクルにかけた。1マシンサイクルにおいて、滑車を一方向に回転させた後、逆方向に回転させ、このようにして1マシンサイクルにロープを滑車に6回通す。この曲げの行程は、45cmであった。サイクル時間は、マシンサイクル当り5秒であった。ロープに加えた力は、ロープの平均破断強度の30%であった。
【0085】
1313マシンサイクル後、ロープは破損した。
【0086】
[実施例2]
オランダのDSMによりDyneema(登録商標)SK 75として供給された1760dtexのHPPE繊維を実施例1に記載した被覆組成物で被覆した。比較実験Bに記載したのと同じ構成を有するロープを構成した。比較例Bと同じ方法でその曲げ疲労を試験した。2384マシンサイクル後に、ロープは破損した。
【0087】
比較例Bと実施例2の結果から、ロープの耐曲げ疲労性は、非架橋性のシリコーン被覆と比較すると、架橋シリコーン被覆によりかなり改善されたことがわかる。
【0088】
[比較例C]
オランダのDSMによりDyneema(登録商標)SK 75として供給された1760dtexのHPPE繊維から、5mmの直径を有するロープを製作した。ストランドの構成は、4×1760dtex、20撚り/メートル、S/Zであった。ストランドからロープを製作した。ロープ構成は、27mmピッチを有する12×1のストランド編組ロープであった。ロープの平均破断強度は、18750Nであった。ストランド構成は、4×1760dtexであった。
【0089】
比較例Bと同じ方法で、ロープの曲げ疲労を試験した。347マシンサイクル後、ロープは破損した。
【0090】
[実施例3]
混合したエマルションの濃度が固体ベースで40%であったことを除いて、実施例1の被覆で比較例Cのロープを被覆した。ロープを室温で被覆組成物に浸漬した。ロープを120℃の温度でオーブン内で加熱すると架橋が生じた。
【0091】
比較例Bの曲げ疲労試験において、3807マシンサイクル後、ロープは破損した。
【0092】
[実施例4]
第一エマルション:Silcolease(登録商標)Emulsion 912と第二触媒エマルション:Silcolease(登録商標)Emulsion Catalyst 913(Bluestar Siliconesから入手可能)とで比較実験Cのロープを被覆した。100:10の重量比で、第一エマルションと第二エマルションを混合し、4重量%の濃度まで水で希釈した。被覆を塗布する手順は、実施例3と同じであった。
【0093】
比較例Bの曲げ疲労試験において、1616マシンサイクル後、ロープは破損した。
【0094】
実施例3および4は、ロープに塗布した場合も、本発明の架橋シリコーン被覆は、未被覆のロープ(比較例C)よりも、改善された曲げ性能であることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋シリコーンポリマーで被覆された高強度繊維。
【請求項2】
高性能ポリエチレン(HPPE)繊維である請求項1に記載の高強度繊維。
【請求項3】
前記繊維が、デカリン中135℃で測定された少なくとも5dl/gの固有粘度を有する超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)で作製される請求項2に記載の高強度繊維。
【請求項4】
前記架橋シリコーンポリマーの架橋度が、少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%である請求項1〜3のいずれか一項に記載の高強度繊維。
【請求項5】
前記架橋シリコーンポリマーを含んでなる前記被覆が、前記繊維に架橋性シリコーンポリマーを含んでなる被覆組成物を塗布することと、
前記架橋性シリコーンポリマーを架橋することとにより得られる請求項1〜4のいずれか一項に記載の高強度繊維。
【請求項6】
前記架橋性シリコーンポリマーが、架橋性末端基、好ましくはC−Cアルキレン末端基を有するシリコーンポリマーを含んでなる請求項5に記載の高強度繊維。
【請求項7】
前記架橋性末端基がビニル基である請求項6に記載の高強度繊維。
【請求項8】
前記架橋性シリコーンポリマーが式
CH=CH−(Si(CH−O)−CH=CH(1)
[式中、nは2〜200の数である]を有する請求項5〜7のいずれか一項に記載の高強度繊維。
【請求項9】
前記被覆組成物が、式
Si(CH−O−(SiCHHO)−Si(CH(2)
[式中、mは2〜200の数である]を有する架橋剤さらに含んでなる請求項5〜8のいずれか一項に記載の高強度繊維。
【請求項10】
前記被覆組成物が、さらに白金触媒を含んでなる請求項5〜9のいずれか一項に記載の高強度繊維。
【請求項11】
高強度繊維を含有するロープであって、好ましくはHPPE繊維を含み、前記ロープが、架橋シリコーンポリマーを含んでなる被覆を施されているロープ。
【請求項12】
高強度繊維を含んでなるストランドであって、好ましくはHPPE繊維を含み、前記ストランドが、架橋シリコーンポリマーを含んでなる被覆を施されているストランド。
【請求項13】
改善された耐曲げ疲労性を有するロープを作製するための、請求項1〜10のいずれか一項に記載の高強度繊維の使用。
【請求項14】
魚網を作製するための、請求項1〜10のいずれか一項に記載の高強度繊維の使用。
【請求項15】
被覆高強度繊維を作製する方法であって、
a)架橋性シリコーンポリマーを含んでなる被覆組成物を高強度繊維に塗布する工程と、
b)前記シリコーンポリマーを架橋する工程とを含む方法。
【請求項16】
高強度繊維を含んでなるロープを作製する方法であって、
a)架橋性シリコーンポリマーを含んでなる被覆組成物を高強度繊維に塗布する工程と、
b)前記シリコーンポリマーを架橋する工程と、
c)工程b)で得られた被覆繊維からロープを構成する工程とを含む方法。
【請求項17】
前記高強度繊維がHPPE繊維である請求項15または16に記載の方法。

【公表番号】特表2013−501161(P2013−501161A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523284(P2012−523284)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/060813
【国際公開番号】WO2011/015485
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】