説明

防波堤

【課題】基礎マウンド内への波の浸透を抑制する防波堤を提供する。
【解決手段】本防波堤1aは、基礎マウンド2を構成する部材にスラグ材10が含まれるので、特に、津波等の発生時における、基礎マウンド2内への波の浸透を効果的に抑制することができ、基礎マウンド2、ひいては、防波堤1の安定性を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾や海岸等に設置する防波堤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、わが国の防波堤は、経済的な観点から基礎マウンド上に函体(ケーソン)が複数配列され構成される混成堤が大半を占めている。混成堤の場合、函体及び基礎マウンドの安定性は、一般にうねりのような数秒から二十秒程度の周期を有する設計波浪に対して検討されてきた。一方、周期が数分から数十分となる周期の長い津波に対する波力の検討も行われてきたが、基礎マウンドを透過する波浪の影響は考慮されておらず、それが、混成堤の安定性に及ぼす影響は評価されていなかった。
【0003】
ところが、津波が作用した場合の基礎マウンドの安定性については、該基礎マウンドを透過する波の影響が大きく、特に陸側の基礎マウンドは浸透した波(流れ)によって安定性が確保できなくなり、崩壊するような事例が実験や現地で確認されるようになった。この現象は、基礎マウンドの崩壊だけでなく、その上部に設置した各函体の安定性にも影響を及ぼし、最悪の場合、基礎マウンドからの崩落につながる危険性を誘発するものであった。
【0004】
このために、防波堤、すなわち混成堤の安定性を保持するためには、基礎マウンドの安定性を高める必要があり、津波のような周期の長い波の基礎マウンド内への浸透を防止し、基礎マウンドの崩壊を防ぐ必要がある。
【0005】
そこで、特許文献1には、ケーソンを設置して海洋構造物を構築するに際して、海底地盤の上部の堆積層に対して、セメント等の硬化材を混入し透水係数を小さくした不透水性地盤改良部を構築し、ケーソンを設置する部分に掘削溝部を構築し、そして、基礎石層を構築してから、アスファルト混合物を打設して基礎石層の石の間にも流動物を充満させて硬化させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−85005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に係る管理型護岸の構築法では、作業が相当大掛かりなものになり採用することはできない。また、上述した混成堤には採用することができない。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、基礎マウンド内への波の浸透を抑制する防波堤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明は、基礎マウンド上に函体が複数配列されて構成される防波堤であって、前記基礎マウンドを構成する部材にスラグ材が含まれることを特徴とするものである。
請求項1の発明では、基礎マウンドを構成する部材にスラグ材が含まれるので、基礎マウンドへの波の浸透を抑制することができる。また、スラグ材においては、施工初期のマウンド本体の僅かな変形に追従することができ、その後、水と反応して膨張して、時間の経過と共に硬化して固化体となる性質を有するので、基礎マウンドへの波の浸透を長期間に亘って効果的に抑制することができる。スラグ材は、固化体となった後の透水係数が10−2cm/sのオーダーとなるため、基礎マウンド全体としての透水係数を通常の10−0cm/sのオーダーから2オーダー低下させることができるため、十分な遮蔽効果を発揮することが可能になる。
【0010】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明において、前記スラグ材は、前記基礎マウンドの法面及び天端面に沿って配置されることを特徴とするものである。
請求項2の発明では、基礎マウンドの作業効率が向上する位置にスラグ材を配置することで効率良く基礎マウンド内への波の浸透を抑制することができる。
なお、津波の場合、押し波だけではなく引き波時も大きなエネルギーを有するため、沖側及び陸側の両方の法面をスラグ材によって被覆することを基本とする。
【0011】
請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載した発明において、前記スラグ材は、柔軟性を有する網状の袋体内に充填されることを特徴とするものである。
請求項3の発明では、基礎マウンドにスラグ材を配置する際の作業を簡素化することができる。また、袋体には、吊り上げることが可能になるように吊りロープが備えられているので、起重機船による運搬、水中への仮置きや潜水士船により据付が容易となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防波堤によれば、スラグ材の性質を利用することで、特に、津波等の発生時における、基礎マウンド内への波の浸透を効果的に抑制することができ、基礎マウンド、ひいては、防波堤の安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る防波堤の断面図である。
【図2】図2は、多量のスラグ材が充填された袋体の斜視図である。
【図3】図3は、本発明の第2の実施形態に係る防波堤の断面図である。
【図4】図4は、本発明の第3の実施形態に係る防波堤の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を図1〜図4に基づいて詳細に説明する。
本発明の第1の実施形態に係る防波堤1aは、図1に示すように、波浪方向と直交する方向に延びる基礎マウンド2と、該基礎マウンド2上に複数配列される、ケーソンとしての函体3とから構成される。基礎マウンド2の陸側及び沖側の両方の法面及び法肩部(天端面において各函体3が配置される範囲を除く面)に沿って、該法面及び法肩部の全域を被覆するようにスラグ材10が配置される。なお、各函体3内には、石材等の中詰め材が充填される。
【0015】
スラグ材10は、転炉系製鋼スラグ材が使用される。該転炉系製鋼スラグ材10は、溶銑の精錬工程で生成される粒状の副産物である。転炉系製鋼スラグ材10の主な化学成分は、石灰、二酸化ケイ素、酸化鉄等であり、特に、水硬性、膨張性等の性質を有し、水と反応する前においては外力によって僅かに変形する性質を有し、水と反応して膨張した後は、時間の経過に伴って硬化して固化体となる性質を有している。また、スラグ材10は、透水性として、透水係数のオーダーから津波程度の周期を有する波に対しては、ほぼ流れを遮断して、一方、さらに周期の長い潮汐のような波に対しては十分に通水させる性質を有するものである。すなわち、防災対象となるような津波や台風時等の波に対しては遮水性を有し、環境上の潮汐のような波に対しては通水性を有することになる。
なお、本実施の形態では、スラグ材10は、製鋼スラグ材の分類となる転炉系製鋼スラグ材が採用されているが、その他のスラグ材10、例えば、溶融スラグ材の分類となる水砕スラグ材等を採用することもできる。
【0016】
図2に示すように、多量のスラグ材10が網状の袋体11内に充填される。該袋体11は、その材質として再生ポリエステル繊維が使用されており柔軟性に富む。袋体11には、内部にスラグ材10を充填した後吊り上げることが可能になるように吊りロープ(図示略)が備えられている。袋体11の編み目ピッチは、内部のスラグ材10が抜け出ない程度の適宜ピッチが採用される。また、袋体11は、スラグ材10により局所的に破断された場合でも、その箇所から破断が広がらない性質を有している。
【0017】
基礎マウンド2は、図1に示すように、捨石4a等が積層される、断面台形状のマウンド本体4と、該マウンド本体4の法面及び法肩部(天端面)の全域を被覆するように配置される、多量のスラグ材10が充填された複数の袋体11と、スラグ材10が充填された袋体11を被覆するように配置される複数の被覆石5とから構成される。
【0018】
詳しくは、マウンド本体4の法面及び法肩部には、多量のスラグ材10が充填された複数の袋体11が、その法面及び法肩部に対して垂直方向に複数層に亘って配置されている(図1では2層)。スラグ材10の層厚を略一定にする。その後、施工初期にマウンド本体4が僅かに変形した場合でも、スラグ材10はマウンド本体4の僅かな変形に追従するようになる。その後、スラグ材10は、水と反応することにより膨張するので、各スラグ材10間の隙間が閉塞され、さらには、施工時にスラグ材10が充填された各袋体11間に僅かな隙間が存在していた場合でも、その隙間を埋めることが可能となる。その後、時間の経過と共にスラグ材10が硬化して固化体となりその状態が維持されて、長期間波の浸透を抑制することができる。
また、複数の被覆石5が、スラグ材10が充填された複数の袋体11を覆うように配置される。なお、これら被覆石5は、設置初期のスラグ材10の安定性を確保するために必要に応じて設置するものである。
【0019】
なお、複数種類の大きさの袋体11を用意し、これら各袋体11に多量のスラグ材10を充填しておき、マウンド本体4の法面及び法肩部に、複数種類の大きさの袋体11を互い密着するように積み重ねるようにしてもよい。
【0020】
以上説明したように、第1の実施形態に係る防波堤1aでは、基礎マウンド2のマウンド本体4の法面及び法肩部の全域を被覆するように、多量のスラグ材10を充填した複数の袋体11を複数層積み重ねる。その際、施工初期においては、スラグ材10は変形自在な性質を有するために、各函体3及び基礎マウンド2が僅かに変形した場合でも、各函体3及び基礎マウンド2の僅かな変形に追従することができる。その後は、スラグ材10は水と反応することにより膨張するので、各スラグ材10が互いに密着すると共に、マウンド本体4内への波の浸透を抑制すべく法面及び法肩部の全域を被覆することができる。さらに、その後は、時間の経過と共にスラグ材10が硬化して固化体となりその状態が維持されるので、長期的に基礎マウンド2への波の浸透を抑制することができる。
【0021】
このように、スラグ材10により基礎マウンド2への波の浸透を抑制することができるので、津波等の発生時、特に、陸側の基礎マウンド2の崩壊を防止して、ひいては、防波堤1aの安定性を確保することが可能になる。また、スラグ材10は、上述したように、透水性として、津波や台風時等の波に対しては遮水性を有し、潮汐のような波に対しては通水性を有するので、基礎マウンド2を構成する部材として防災及び環境上最適である。
【0022】
また、第1の実施形態に係る防波堤1aでは、多量のスラグ材10を、柔軟性を有し吊り上げ用ロープが備えられる袋体11に充填して作業するので、スラブ材10の取り扱いが非常に容易になり、また、起重機船による運搬、水中への仮置きや潜水士船により据付が容易となる。
【0023】
なお、第1の実施形態に係る防波堤1aでは、作業の簡素化を図るために、多量のスラグ材10を袋体11に充填し、その袋体11をマウンド本体4の法面及び法肩部を被覆するように配置したが、多量のスラグ材10を、直接、マウンド本体4の法面及び法肩部を被覆するように配置してもよい。
【0024】
次に、第2の実施形態に係る防波堤1bを図3に基づいて説明する。
第2の実施形態に係る防波堤1bを説明する際には、第1の実施形態に係る防波堤1aとの相違点のみを説明する。
第2の実施形態に係る防波堤1bでは、その基礎マウンド2において、波浪方向略中央部に、多量のスラグ材10が充填された複数の袋体11が、断面台形状を呈するように積み重ねられ、その周りに捨石4a等が積層されて構成される。
【0025】
次に、第3の実施形態に係る防波堤1cを図4に基づいて説明する。
第3の実施形態に係る防波堤1cでは、第2の実施形態に係る防波堤1bの基礎マウンド2より高い基礎マウンド2を構築する場合、第2の実施形態に係る防波堤1bの基礎マウンド2を上方に複数段(図4では2段)に積み重ねるように構成している。
これら第2及び第3の実施形態に係る防波堤1b、1cでは、第1の実施形態に係る防波堤1aの効果に加えて、各スラグ材10の安定性が増加するようになる。
【0026】
以上第1〜第3の実施形態に係る防波堤1a〜1cでは、基礎マウンド2の特定箇所にスラグ材10を配置しているが、基礎マウンド2のほぼ全体をスラグ材10を積層して構成してもよい。
【符号の説明】
【0027】
1a〜1c 防波堤,2 基礎マウンド,3 函体,4 マウンド本体,10 スラグ材,11 袋体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎マウンド上に函体が複数配列されて構成される防波堤であって、
前記基礎マウンドを構成する部材にスラグ材が含まれることを特徴とする防波堤。
【請求項2】
前記スラグ材は、前記基礎マウンドの法面及び天端面に沿って配置されることを特徴とする請求項1に記載の防波堤。
【請求項3】
前記スラグ材は、柔軟性を有する網状の袋体内に充填されることを特徴とする請求項1または2に記載の防波堤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−19133(P2013−19133A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151826(P2011−151826)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【Fターム(参考)】