説明

α−ケトグルタレートの新規の医学的用途

本発明は、ヒト、ペットおよび農用動物を含む生物、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物における尿素分解菌の存在および/または活性に関連する望ましくない医学的症状の予防または治療を目的とした医療用製剤の製造のためのα−ケトグルタレートの新規の使用に関し、ここで、望ましくない医学的症状は消化管、呼吸器系および/または泌尿生殖器系における、ヘリコバクター・ピロリ、ブルセラ属に由来する菌株、ウレアプラズマ・ウレオリティカムなどのウレアーゼ陽性菌、および他の好アルカリ性細菌、例えば、バチルス・パスツーリ、ウレアーゼ産生エルシニア・エンテロコリカ桿菌、カテーテルおよびその他の医療器具におけるバイオフィルムの形成および沈着物の石化に関与する尿素分解菌、口腔粘膜の感染、歯肉疾患、虫歯、歯石の形成を引き起こす尿素分解菌、プロテウス属、ウレアプラズマ属、クレブシエラ属、シュードモナス属、ブドウ状球菌属、プロビデンシア属、コリネバクテリウム属、特にピー・ミラビリスの泌尿器系感染の過程で感染性結石の形成を担う尿素分解菌、および生殖道、特にその下部感染を引き起こすマイコプラズマ、マイコプラズマ・ホミニスおよびユー・ウレアリティカムを含む群からの尿素分解菌の存在および/または活性に関連する症状である。本発明はまた、ヒト、ペットおよび農用動物を含む生物、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物における有害な尿素分解菌の定着、特に、ヒトおよび飼い動物におけるピロリ菌の定着の予防および阻害に有用な、α−ケトグルタレートを含有する新規の医療用製剤、ダイエタリー・サプリメント、特定薬用食品および食品/飼料添加剤を包含する。さらに、本発明によれば、α−ケトグルタレートは、尿素分解菌に関連するa.m.疾患および症状の予防および治療の方法で、ならびに細菌酵素によるリグニンおよびセルロースを含むバイオマスの変換に基づく有機バイオ燃料を製造する方法で有効成分として用いられ、ここで、食材性高等シロアリの後腸尿素分解微生物叢により産生される酵素はα−ケトグルタレートの存在下で用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト、植物および動物、特にペットおよび/または農用動物、すなわち、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物を含む生物の望ましくない症状の予防および治療に用いるための治療用および予防用製剤の製造のためのα−ケトグルタレートの用途を含む、α−ケトグルタレートの新規の医学的用途、ならびに生物の治療的および予防的処置におけるα−ケトグルタレートの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
α−ケトグルタレート−α−ケトグルタル酸の塩
α−ケトグルタレートは内因性分子として生物に存在する。
【0003】
α−ケトグルタル酸の塩は少なくとも60年、すなわち、クレブス回路が発見されて以来知られている。内因性α−ケトグルタル酸塩はヒトおよび動物で、クエン酸回路においてオキサロ酢酸およびピルビン酸の塩とともに基本的な役割を果たしている。再生可能な反応の結果として、脂肪酸、ステロール、コレステロール(クエン酸塩の関与)、ポルフィリン、ヘム、クロロフィル(スクシニル−CoAの活性)、グルタミン酸塩、アミノ酸、ヌクレオチド塩基(α−ケトグルタル酸塩の活性)が合成される。
【0004】
α−ケトグルタル酸アニオンは、主に好気性生物における代謝で重要な役割を果たす。α−ケトグルタレートは、イソクエン酸デヒドロゲナーゼの細胞酵素を含む酸化的脱炭酸の過程で産生され、また別の代謝経路では、グルタミン酸デヒドロゲナーゼにより触媒されるグルタミン酸塩の酸化的脱アミノ化により産生される。
【0005】
基本的ライフサイクル、すなわち三カルボン酸回路、すなわちクレブス回路の中間化合物であるα−ケトグルタレートは、細胞内の恒久的形質転換の対象であり、生物体内で完全に代謝されるためにアニオン型で末梢血においてやや低レベルで存在する。
【0006】
生物体内において、α−ケトグルタレートはまた、異化アミノ酸由来のアミノ基の転移の効果におけるアミノ基転移による窒素の輸送を介して、天然スカベンジャー、すなわち、除染装置の役割を果たす。該プロセスは肝臓で起こり、オルニチン回路または尿素回路と呼ばれる。
【0007】
α−ケトグルタレートとグルタミンのアミノ基転移の際には、グルタミン酸塩と呼ばれる神経伝達物質が形成される。ビタミンB6の存在下では、グルタミン酸塩は脱炭酸されるとともに、グルタミン酸神経伝達物質の阻害剤であって、神経伝達物質を遮断するGABA(γ−アミノ酪酸)と呼ばれる化合物を産生してもよい。
【0008】
α−ケトグルタレート酵素が、生物から代謝が不完全な産物および毒性の高い化合物である、フリーラジカルを除去することに関与することも示されている。
【0009】
さらに、α−ケトグルタレート依存性オキシゲナーゼの1つは分子酸素センサー、すなわち、環境中の酸素レベルの指標である。
【0010】
α−ケトグルタレートはまた、例えば、経口、吸入、静脈内または他の経路などの既知の投与経路によって生物に導入されうる。
【0011】
ヒトおよび動物双方の毎日の食事はα−ケトグルタレートを含んでいない。
【0012】
市場、特にアメリカでは、ヒトおよび飼い動物の双方を目的とする既製品として、α−ケトグルタル酸の塩、主にアルギニン、ピリドキシン、オルニチン、クレアチン、ヒスチジンおよびシトルリンの塩を含有する、多くの市販のダイエタリー・サプリメントが存在する。また、α−ケトグルタル酸のナトリウム塩、カリウム塩およびカルシウム塩も入手可能である。
【0013】
国際栄養補助食品協会(National Nutritional Foods Association, NNFA)により作成されたダイエタリー・サプリメント登録簿において、1994年9月15日以前だというのに、α−ケトグルタル酸自体およびα−ケトグルタル酸とピリドキシン(ビタミンB6)の組合せが生化学製品のグループに記載されていた。このように長い間市場に存在することが、これらの化合物を含有する多数のダイエタリー・サプリメントをもたらす。α−ケトグルタル酸の誘導体または塩があらゆる市販品に存在する主な理由は、クレブス回路の中間化合物としてのα−ケトグルタレートが細胞の呼吸に関与する物質の1つであるため、生活の質を向上させると考えられていることである。
【0014】
本明細書に記載の製品の中で最も大きなグループはα−ケトグルタレートと組み合わせてL−アルギニンを含む製品である。これらの製品は、製造業者が述べているように、運動中および運動後のエネルギーの維持を促進し、酸化窒素の合成を高め、さらに、酸化窒素と組み合わせた場合、生物体内でこの酸化物のレベルを高め、栄養の輸送を増進するとともに筋肉での代謝を増進する。それらはまた他の物質と組み合わせた場合、エネルギーレベルを高め、アミノ酸代謝を増進する。
【0015】
市販品の次に最も大きなグループは、α−ケトグルタル酸と組み合わせてオルニチンを含む。この形態では、α−ケトグルタレートはエネルギー生産を高めるだけでなく、エネルギー増大分子であるグルタミンを生成するために分枝アミノ酸の分解から筋肉を保護する。さらに、それは成長ホルモンの分泌を促進し、筋肉代謝を最適化する化合物である。それは安全な方法でインスリンおよびポリアミンの活性を高める。それはまた、神経伝達を増進するため、生物の良好な精神状態を維持するのに有用であり、運動効果を最大にする筋肉の耐久性を補助し、生物の脂肪燃焼能に影響を及ぼし、性欲を高め、免疫機能に有益な影響を及ぼし、酸素ストレスを軽減する。
【0016】
ダイエタリー・サプリメントとして用いられる別の食品調製物群には、α−ケトグルタレートと組み合わせるピリドキシンおよびピリドキシルが含まれる。これらの製品の成分は細胞内の代謝活性を高め、エネルギーを産生するための生物の試みに相当し、肝臓を保護する。
【0017】
市場では、α−ケトグルタレートと組み合わせてクレアチンを含む製品も存在する。それらはグルタミン前駆体として機能し、タンパク質の合成に関与する。
【0018】
その他、非特異的α−ケトグルタル酸塩が生物において脂肪減少を刺激し、筋肉組織の健全性の確保に必要である。
【0019】
他方、α−ケトグルタル酸自体は、別種の調製物、すなわち、自然の解毒作用を示し、アミノ酸分析により診断されることが多い慢性疲労および代謝障害における使用に推奨される成分である。この種の調製物の投与は、スタミナの増強とエネルギーの上昇をもたらす。このグループの興味深い製品がα−ケトグルタル酸のカルシウム塩およびマグネシウム塩である。α−ケトグルタル酸は強い有機酸の群に属するという事実により、経口投与した際に食道および胃の炎症が起こる。カルシウムおよびマグネシウムの使用により、過度な酸度の不快感を生じない緩衝二成分α−ケトグルタル酸化合物の産生を可能とする。
【0020】
多くの特許および特許出願が、α−ケトグルタレートが代謝性脳機能障害、神経系、血液循環および骨格筋系の障害において細胞ミトコンドリアの機能を強化するために投与可能であることを示している。
【0021】
α−ケトグルタル酸塩を含む飲料も入手可能であり、特に運動前、運動中および運動後に生物にエネルギーを供給することを意図とする。このようなエネルギー源としての飲料はヒトおよび他の哺乳類において絶食および長時間持続するエネルギー要求の状態にも投与することができる。
【0022】
さらに、α−ケトグルタレートは、筋肉を脂肪に変換することなく筋肉量を増やす非ステロイド性同化産物として用いられうる。かかるダイエタリー・サプリメントの効果は、合成同化ステロイドで得られるものと同等であるが、好ましくない副作用は伴わない。
【0023】
α−ケトグルタレートとともにチアミン、リポ酸、クレアチン誘導体およびL−アルギニンを含むサプリメントは経口投与することもできる。このダイエタリー・サプリメントは、糖尿病性神経障害の治療過程において血中グルコール濃度を低下させ、低グルコール濃度を維持し、ならびに血液循環および筋肉効率を改善することを意図するものである。
【0024】
α−ケトグルタル酸塩は、ヒトおよび動物における窒素放出の低減およびタンパク質合成の維持を目的とする薬剤として、また、食品微生物学において興味深い用途を有することが分かっている。
【0025】
食品業界では、これらの塩は発酵製品(例えば、ヴィネグレット)および乳製品、とりわけチーズの風味を改良および増強する成分として使用されている。α−ケトグルタル酸塩は乳酸菌発酵に影響を及ぼすため、アミノ酸の代謝、異化代謝産物のレベルおよびアミノトランスフェラーゼ活性を変化させる。実際に、そのことが食品の高い商品品質を保証する化合物の形成を加速化することによりチーズ熟成期間の短縮をもたらす。Williams Ag, Noble J, Banks JM., The effect of alpha-ketoglutaric acid on amino acid utilization by nonstarter Lactobacillus spp. isolated from Cheddar cheese. Lett. Appl. Microbiol. 2004;38:289-295参照。
【0026】
多くの特許および特許出願は、医薬製剤としてまたは医薬製剤の成分としてのα−ケトグルタレートに関連している。
【0027】
関節症、関節リウマチならびに炎症およびその他の理由による軟骨損傷の治療および予防のための医薬製剤としてのα−ケトグルタル酸、グルタミン、グルタミン酸およびその塩ならびにアミドおよびジペプチドおよびトリペプチドの使用が公開公報WO2007/058612から分かっている。
【0028】
公開公報WO2005/123056には、以下のパラメータ:コレステロール、LDL、グリセリドのうち少なくとも1つの血漿レベルの過剰の治療および予防における、医薬製剤、食品および動物飼料添加剤としてのα−ケトグルタル酸、グルタミン、グルタミン酸およびその医薬上許容される塩、アミド、ジペプチドおよびトリペプチドの使用が開示されている。調製物はまた、HDL濃度を上昇させるのに用いられうる。
【0029】
EP0922459には、所定の用量の、錠剤、散剤、点滴剤、シロップ剤の形態の、D−ガラクトースおよびオルニチンならびにナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩およびカルシウム塩としてのこのようなα−ケトグルタル酸塩を伴うα−ケトグルタル酸が、特に代謝ストレス状態のある患者において血中のアミノ酸プロフィルを上昇させるのに有用でありうることが開示されている。開示されている調製物は、肝臓の機能および構造を維持するとともに肝臓を再生するために、アルコール常用者の肝臓疾患の療法および予防における、肝臓疾患の治療に用いられうる。
【0030】
公開公報WO2006/016143には、α−ケトグルタレートおよびその多くの誘導体からなる調製物は、以前はα−ケトグルタレートレベルを高めるためにHIFaヒドロキシラーゼを活性化するために用いられていたが、現在は癌および血管新生を治療するために用いられていることが述べられている。
【0031】
公開公報WO2006/062424によれば、成人および動物において、生理条件および骨軟骨炎のプロセスにおいて骨格の成長および石化のプロセスに、3−ヒドロキシ−3−メチルブチレートをα−ケトグルタレートおよびその多くの誘導体と組み合わせて使用することも可能である。同製品を機能食品および薬用食品に加えることもできる。
【0032】
公開公報WO2006/016828は、α−ケトグルタレートとその多くの誘導体の、神経細胞および全神経系の機能を改善し、神経細胞のアポトーシスを最小限に抑えおよび防止し、成人および胎児における神経系を疾患から保護する医薬製剤としての、また、食品および動物飼料添加剤としての使用を示している。
【0033】
公開公報WO2007/082914には、ヒトまたは動物における低濃度のα−ケトグルタル酸(AKG)に関連する消化管の疾患および病態、例えば特に、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)関連の胃炎、胃潰瘍および十二指腸潰瘍、消化性潰瘍、胃癌および胃粘膜関連リンパ組織リンパ腫に対するより感度の高い診断方法が開示されている。正常な平均AKGレベルに比べて低レベルのAKGを有するヒトまたは動物は、AKG、その誘導体、代謝産物、類似体またはその塩を含む医薬製剤または食品または飼料サプリメントで治療すべきであると示唆されている。該公開公報には、対照試験動物群(2〜3才のラット)において血中AKGレベルの低いもの(0.1μg/ml未満)はその実験で生存しないが、NaAKG2HOを添加した飼料を与えた、同等の初期血中AKGレベルの試験動物は生存することが確認されているいくつかの結果が開示されている。しかしながら、これらの試験動物がピロリ菌に感染していたことを示す証拠は提示されていなかった。したがって、低レベルのAKGが上述のピロリ菌関連疾患および症状に何らかの関連があることを示す証拠も存在しない。異なる年齢のヒト群におけるAKG血中レベルと種々の疾患との間の関係の説明として示されているデータは、一方で患者一人一人の健康状態、他方で低血中レベルのAKGと年齢、性別、体重、特定の疾患または病態との間の関係に関連する十分な量のデータを提示できていない(このような関連データは被験患者ごとに異なっていたため)。その試験に記載の疾患のいずれか1つの重篤な徴候を示すと分類された被験患者がいないこと、および胃炎の「軽度」の徴候よりも重篤な何らかの徴候を示すと分類された被験患者がいないことが不可欠である。さらに、胃炎の「軽度」の徴候を示した患者であっても、患者の消化管のピロリ菌定着の証拠は示されていなかった。さらに、この公報にはピロリ菌の病原性株がどのようにして同定されたかも記載されていない。実験データは生理学的AKG血中レベルの範囲が極めて広く、この公報に挙げられているいずれかに関して必ずしも示されているわけではないことを示しているにすぎない。このように小さな患者群で得られた試験結果に基づけば、統計分析は信頼性のあるデータを提供できていないという結論が導き出された。
【0034】
α−ケトグルタル酸ピリドキシンは、ヒト医薬および獣医薬におけるアシドーシスの予防、アシドーシスを引き起こすあらゆる症状の予防、ならびに薬剤が血中の乳酸レベルを降下する病態に用いられる薬剤として知られている。
【0035】
α−ケトグルタレートはまた、医療行為において生物の中毒の場合に解毒剤として用いられる。α−ケトグルタレートの解毒作用は、例えば、シアン化物中毒の治療に用いられる。解毒剤としてのα−ケトグルタレートは術後の筋異化作用を予防し、病院で非経口栄養補給推奨患者にも用いられる(ここで、α−ケトグルタレートは適用ボーラスの化合物の1つである)。α−ケトグルタレートはまた、脳血管卒中患者、火傷患者、低酸素症患者、X線照射患者、ならびにセレナイト中毒による白内障の場合にも推奨される。
【0036】
オルニチンと組み合わせたα−ケトグルタレートは、腸間膜リンパ節、肝臓および脾臓において検討されたように、小腸移植後の生物を細菌の移動から効果的に保護する。de Oca J, Bettonica C, Cuadrado S, Vallet J, Martin E, Garcia A, Montanes T, Jaurrieta E. Effect of oral supplementation of ornithine-alpha-ketoglutarate on the intestinal barrier after orthotopic small bowel transplantation. Transplantation. 1997;63:636-639参照。
【0037】
実験的に誘発した外傷後の状態にあるラットでは、オルニチン−α−ケトグルタレートの投与は大腸菌(E. coli)の拡散、LPS後の組織の破壊を軽減する。外傷後のヒトでは、この製品の投与が敗血症およびその結果を予防し得うることが推測される。Schlegel L, Coudray-Lucas C, Barbut F, Le Boucher J, Jardel A, Zarrabian S, Cynober L. Bacterial dissemination and metabolic changes in rats induced by endotoxemia following intestinal E. coli overgrowth are reduced by ornithine alpha-ketoglutarate administration. J Nutr. 2000;130:2897-2902参照。
【0038】
α−ケトグルタレートはまた、アミノ酸吸収を高めるために動物の飼育に用いられる。それは鉄イオンの吸収を促進するために子豚に投与される。
【0039】
尿素分解菌
皮膚定着菌などの非病原性共生菌、消化管粘膜に定着する非病原性共生生物から、ヘリコバクター・ピロリおよび泌尿生殖器系感染を引き起こす細菌を含む病原性細菌まで、窒素同化菌の範囲は広い。
【0040】
尿素分解菌により引き起こされる最も一般的な感染はピロリ菌感染である。
【0041】
尿素分解菌の共通の特徴は、ウレアーゼによりそれらの環境中に存在する尿素を、主として生存に必要な窒素源として使用させる能力である。細菌のウレアーゼ(尿素アミノヒドロラーゼE.C.3.5.1.5)は、2つまたは3つのサブユニットからなるニッケル依存性の多量体である。いくつかの細菌ウレアーゼの三次元結晶構造が記載されている(ピロリ菌、クレブシエラ・エアロゲネス(Klebsiella aerogenes)、バチルス・パスツーリ(Bacillus pasteurii))。アミノ酸配列における高い程度の類似性は、全ての種類のウレアーゼが1つの親タンパク質に起源していること、それらがおそらく類似の三次元構造を持っていること、およびそれらが尿素をアンモニアと二酸化炭素に加水分解する際に触媒活性を維持することを示す。
【0042】
それらの固有のウレアーゼによる窒素同化菌の例として、口腔内に一般に存在し、バイオフィルムを形成する唾液連鎖球菌(Streptococcus salivarius)およびネスルンド放線菌(Actinomyces naeslundii)がある。
【0043】
消化管は最大濃度の尿素分解菌を有する。尿素分解菌を含む微生物は上皮表面に常在し、天然腸内細菌として認識されている。これは、尿素へのアクセスが消化管内の微生物生態の重要な因子の1つである、すなわち、それはこの領域の細菌の量と質に影響を及ぼすことを意味する。組織の健全性の維持を通して、尿素へのアクセスは微生物の健康状態の1つである。同じホメオスタシスの原則が体表に定着する微生物の存在を支配している。
【0044】
尿素はまた、ピロリ菌感染の際の炎症の安定期において病原体のウレアーゼの基質としても重要である。
【0045】
ヒトおよび動物への病原体の一般的な侵入経路は、感染がさらに進展する場所にかかわらず、消化管からの食物による。消化管からの尿素分解微生物感染は、ウレアーゼがこれらの感染の病理に役割を果たしていることを示す。例えば、ウレアーゼ産生ブルセラ(Brucalla)株などの細菌株は尿素環境中、その強い酸性条件とともに、胃液の殺生物作用に耐性があることが立証されている。これらの細菌のウレアーゼ陰性突然変異株は、他方でこのような条件に感受性があり、その結果、胃を通過した後に細菌数が減る。このような条件の下、ウレアーゼは、ブルセラ菌が経口侵入した場合に、胃液の酸性作用からブルセラ菌を保護する。胃の障壁を通過してしまえば、細菌は例えば呼吸器系および泌尿生殖器系に自由に侵入し、ブルセラ症に典型的な症状を生じる。
【0046】
尿素分解菌は、健康な生物においては泌尿器系感染の主要な病因因子ではないとしても、泌尿器系障害を有するヒトおける感染と関連している場合が多い。ウレアーゼ産生微生物による泌尿器系感染の結果は、リン酸アンモニウム・マグネシウム塩(ストラバイト)およびリン酸カルシウム塩による尿の過飽和ならびに腎臓内の病理学的プロセスを伴う鹿角状結石である。生理条件下では、尿はこれらの塩を含まない。
【0047】
泌尿生殖器系感染の病理におけるもう1つの興味深い機構が、ウレアプラズマ・ウレアリティカム(Ureaplasma ureolyticum)および他の好アルカリ性細菌、例えば、バチルス・パスツーリなどのウレアーゼ陽性細菌によって引き起こされる感染の維持である。尿素環境において病原体は尿素分解を用いてそれらの固有のATPを生成し、そのため、それらは恒久的に再生される。ユー・ウレアリティカムおよび他のマイコプラズマは比較的希少であるとしても、それらはヒトおよび魚類を含む動物において危険で治癒の難しい呼吸器系感染症を引き起こしうる。
【0048】
また、消化管病原体であるウレアーゼ産生エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolic)は遺伝的に障害がある人々に反応性関節炎を引き起こし、その反応性はその酵素の化学構造、特にそのサブユニットUreBの化学構造に関連することが見出されている。
【0049】
移動可能な多くの細菌がカテーテルおよびその他の医療機器におけるバイオフィルムの形成ならびに沈着物の石化に関与する尿素分解生物であることを留意すべきである。
【0050】
尿素代謝はまた、歯肉疾患を含む口腔粘膜における感染、虫歯および歯石の形成にも関連すると考えられている。
【0051】
感染性結石の形成は、以下の属:プロテウス属(Proteus)、ウレアプラズマ属、クレブシエラ属、シュードモナス属(Pseudomonas)、ブドウ状球菌属(Staphylococcus)、プロビデンシア属(Providencia)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)の細菌により引き起こされる泌尿器系感染に関連している。感染性結石の形成の最も一般的な原因はP.ミラビリス(P. mirabilis)菌である。石の形成のもう1つの因子が、通常、生殖道感染、特に下部生殖領域の感染、主として膣感染に関連することが報告されているマイコプラズマである。ヒト尿道から次の生物が単離されている:マイコプラズマ・ホミニス(Mycoplasma hominis)およびユー・ウレアリティカム。女性および男性双方の泌尿生殖器系の細菌定着は、膀胱における感染性結石の形成を伴う泌尿器系感染をもたらす。
【0052】
ピロリ菌感染
ヒトのピロリ桿菌は通常、胃および十二指腸から単離される。以前はカンピロバクター・ピロリ(Campylobacter pylori)と呼ばれていたこれらのグラム陰性、尿素分解性、らせん型の細菌は胃炎および胃および十二指腸における潰瘍形成の病因因子の1つである。2005年にノーベル賞を授与したWarren and Marschallは1983年に、消化管におけるピロリ菌の存在と慢性胃炎との間の因果関係を示した。Marshall BJ, Warren JR. Unidentified curved bacilli in the stomach of patients with gastritis and peptic ulceration. Lancet. 1984;1:1311-1315参照。長期間持続する感染が腸管型腺癌のリスクを明らかに高めるという事実により、近年、ピロリ桿菌は発癌因子としてWHOによって公表された(IARC. Schistosomes, liver flukes and Helicobacter pylori. IARC Working Group on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. Lyon, 7-14 June 1994. IARC Monogr Eval Carcinog Risks Hum. 1994;61:1-241)。さらに、ピロリ菌感染と、例えば心臓などの胃以外の組織および器官の病理との間の関係も見出された。
【0053】
大多数の微生物の増殖にとってpHが低すぎるという知見のために、胃粘膜における常在が困難であることから、長い間、胃には細菌が存在しないと考えられていた。しかしながら、ピロリ菌により産生されたウレアーゼは、該生物に胃および腸で常在コロニーを形成し、一方、尿素分解はピロリ菌感染に関連する病理を引き起こす主要な因子である。菌体の外部に付着したウレアーゼは最大20%までの細菌タンパク質を構成しうる。該酵素は、細菌を酸性環境から保護し、菌体エンベロープの致死的な破壊を防ぐ。さらに、ピロリ菌感染の際に尿素分解の過程でウレアーゼにより放出されたアンモニウムイオンは胃の上皮細胞に細胞傷害作用を示す。白血球および尿素の存在下で、細菌ウレアーゼは、慢性ピロリ菌感染の過程で癌の発達に関与する因子の1つである、DNAの突然変異を誘発しうるモノクロルアミンを生じる。
【0054】
尿素分解らせん型細菌の新たな種がヒトおよび動物から単離されている。しかしながら、ヒトに存在する他のヘリコバクター種を胃(例えば、H.ヘイルマンニー(H. heilmannii))、腸(例えば、H.シナエド(H. cinaed)、H.カナデンシス(H. canadensis))、肝臓(例えば、H.ヘパティカス(H. hepaticus)、H.ビリス(H. bilis))の疾患または全身感染(例えば、H.プルロラム(H. pullorum)、ヘリコバクター種フレキシスピラ・タクソン(flexispira taxon)8「F.ラピニ(F. rappini)」)とどのように関連づけるべきかということはこれまでにまだ明らかでない。
【0055】
近年、実験動物の消化管(腸、胃、肝臓および膵臓)、ヘリコバクター属:H.ビリス、H.ガンマニ(H. ganmani)、H.ヘパティカス、H.ムリダラム(H. muridarum)、H.マストムリナス(H. mastomyrinus)、H.ラピニ(H. rappini)、H.ローデンチウム(H. rodentium)、H.チフロニウス(H. typhlonius)の細菌が自然に定着していることが見出されている。これらの微生物が常在している野生動物および飼育動物の双方の動物は感染徴候を示さず、剖検の過程でそれらの内部器官には炎症プロセスは見られない。環境条件に敏感な微生物は糞便や唾液を介して個体から個体へ細菌の恒常的な水平伝播により生き長らえる。
【0056】
ヒトにおけるピロリ菌感染は50%の人口に存在することが分かっており、社会の経済状態および時代に関連するものと思われる。ピロリ菌感染は発展途上国のほとんど全ての人口を含む成人で増加している。ピロリ菌は胃炎症例の90〜100%に見られる。多くの場合、慢性感染は萎縮性炎症へと転じることが見出されている。このような感染の10%で重篤な病状に進展する。ピロリ菌感染は小児および成人の双方に共通している。最も頻繁な感染は子供に見られ、胃粘膜のピロリ桿菌の常在は生涯を通じて維持される。
【0057】
栄養失調、ビタミン欠乏および喫煙などの因子が感染に役割を果たすことが知られている。
【0058】
10%の患者では、適用される慣例療法は、標準的薬剤に対する細菌の耐性の存在および増大によって有効ではない。薬剤耐性菌に再感染する患者も見出されている。他の約10%の患者はプロトンポンプ阻害剤群に由来する製剤に耐性がない。これらの患者では、有害な副作用が現れる。
【0059】
治療の有効性が体系的に低下し、また、それが困難であるために、欧州の地域胃学協会は「マーストリヒト(Maastricht)2−2000」報告に従い、ピロリ菌を検出ために適当な診断法およびインタービューの過程で確認された胃炎、胃および十二指腸潰瘍、消化性潰瘍、消化性潰瘍による外科術、前癌変化(萎縮性炎症、変性、異形成)、初期癌による胃切除、家族内(2親等まで)の胃癌、胃過形成腺腫様ポリープ症(その除去後)、MALTリンパ腫、NSAIDによる長期治療などの特定の疾病徴候が見られた場合のみに治療を始めることを推奨した。
【0060】
ヒトにおいてピロリ菌感染は、消化性潰瘍、胃リンパ腫、腸変性を伴う慢性萎縮性胃炎および胃癌などの特定の疾患を伴う。
【0061】
ヘリコバクター感染の診断では、慣例の侵襲的検査を内視鏡検査ならびに患者の胃粘膜からの生検の必要のない非侵襲的検査と組み合わせて用いる。
【0062】
粘膜断片の検査により、微生物の単離(選択増殖培地)またはピロリ菌体の存在を示す適当な技術(特異的および非特異的染色)の適用が可能となる。粘膜生検過程におけるピロリ菌体の同定では、従来の微生物学的方法(単離物における表現型の決定、薬剤耐性の決定)ならびに生化学的方法(ピロリ菌の酵素活性、すなわち、ウレアーゼ、カタラーゼ、オキシダーゼの生成)および分子生物学的方法(細菌DNAの選択されたセグメントに対して特異的なプライマーを用いるPCR検査、リアルタイムPCR)の手段による確認を行う。
【0063】
最も一般的に用いられる非侵襲的方法としては、血清学的試験およびヘリコバクター抗原の同定、すなわち、糞便抗原試験、および患者によって放出される空気中の標準尿素濃度と推測されるものを超える尿素レベルを検出する尿素呼気試験が含まれる。慣例の血清学的試験としては、ピロリ菌に対する特異的Gクラス抗体を検出するELISA型の試験がある。
【0064】
ヒトでは、ピロリ菌感染の初期段階において、胃および十二指腸の粘膜の炎症が進展し、これは薬理学的手段で完全に根絶すべきである。ピロリ菌感染の処置はやはり、胃液の分泌を低減し、胃のpH値を上昇させる物質の導入に基づく。このような物質には、プロトンポンプ阻害剤および細菌を排除する抗生物質、すなわち、クラリスロマイシン、アモキシシリンおよび化学化合物、すなわち、メトロニダゾール(ニトロイミダゾール誘導体群に由来する)が含まれる。
【0065】
一般に、尿素分解菌により引き起こされる疾患の現行療法は、ピル、軟膏、坐剤および散剤の形態で経口、静脈内、腟内、肛門および外的に投与される適当な抗菌薬の適用を含む。治療上有効な薬剤の選択は、以下の因子:尿素分解菌の生化学活性、抗生物質および化学療法薬に対するそれらの耐性パターン(耐性記録)が決定された後、また、細胞エンベロープの構造(例えば、マイコプラズマ)が決定された後に行う。
【0066】
欧州では、2002年に刊行された「マーストリヒト2−2000」報告における推奨の一覧には、抗生物質などの抗菌手段を用いない、また、化学療法薬化合物、すなわち、ニトロイミダゾール誘導体以外の物質に関するピロリ菌療法は含まない。この療法は複雑でコストがかかり、許容されにくい場合があり、常に有効とは限らない。欧州胃学協会の推奨によれば、治療は抗生物質および化学療法化合物(クラリスロマイシン(2×500)およびアモキシシリン(2×1g)またはメトロニダゾール(2×500mg)ならびにプロトンポンプ阻害剤に基づくものであってもよい。
【0067】
例えば、
初回療法。7日の処置サイクル。
1.胃液の分泌を抑える薬剤;2回量のプロトンポンプ阻害剤(PPI)群に属する化合物、例えば、オメプラゾール1日20mg2回
2.抗生物質I、例えば、アモキシシリン、1日1g2回
3.抗生物質II、例えば、クラリスロマイシン、1日0.5g2回
2回目の療法
1.胃液の分泌を抑える薬剤;2回量のプロトンポンプ阻害剤(PPI)群に属する化合物、例えば、ランゾプラゾール1日30mg2回
2.抗生物質I、例えば、アモキシシリン、1日2回1gを維持
3.抗生物質II、他の抗生物質または化学化合物、例えば、メトロニダゾール1日0.5g2回
4.ビスマス化合物(クエン酸塩)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0068】
【特許文献1】国際公開第2007/058612号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/123056号パンフレット
【特許文献3】欧州特許出願公開第0922459号明細書
【特許文献4】国際公開第2006/016143号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2006/062424号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2006/016828号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2007/082914号パンフレット
【非特許文献】
【0069】
【非特許文献1】Williams Ag, Noble J, Banks JM., The effect of alpha-ketoglutaric acid on amino acid utilization by nonstarter Lactobacillus spp. isolated from Cheddar cheese. Lett. Appl. Microbiol. 2004;38:289-295
【非特許文献2】de Oca J, Bettonica C, Cuadrado S, Vallet J, Martin E, Garcia A, Montanes T, Jaurrieta E. Effect of oral supplementation of ornithine-alpha-ketoglutarate on the intestinal barrier after orthotopic small bowel transplantation. Transplantation. 1997;63:636-639
【非特許文献3】Schlegel L, Coudray-Lucas C, Barbut F, Le Boucher J, Jardel A, Zarrabian S, Cynober L. Bacterial dissemination and metabolic changes in rats induced by endotoxemia following intestinal E. coli overgrowth are reduced by ornithine alpha-ketoglutarate administration. J Nutr. 2000;130:2897-2902
【非特許文献4】Marshall BJ, Warren JR. Unidentified curved bacilli in the stomach of patients with gastritis and peptic ulceration. Lancet. 1984;1:1311-1315
【非特許文献5】IARC. Schistosomes, liver flukes and Helicobacter pylori. IARC Working Group on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. Lyon, 7-14 June 1994. IARC Monogr Eval Carcinog Risks Hum. 1994;61:1-241
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0070】
世界各地におけるピロリ菌の流行の拡大によって、感染に関連する病状を軽減する製剤が大きく恒久的に要求されており、このような製剤を特定すべく医療業界に大きな圧力がかかっている。
【課題を解決するための手段】
【0071】
本発明の主な目的は、ヒトおよび動物において、特にイヌおよびネコにおいて、また、その他の飼い動物において、特に腸の微生物叢を調節するため、口腔の尿素分解微生物叢を調節するため、病原性尿素分解菌の消化中の胃への通過を阻害するため、泌尿器系における沈着および感染性結石の形成を防ぐために用いられる、尿素分解菌により引き起こされる疾患の治療および予防のための新たな製剤を提供することである。
【0072】
本発明の目的は、ヒト、植物および動物、特にペットおよび農用動物を含む生物、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物において尿素分解菌の望ましくない増殖を制御するための新規薬剤を提供することでもある。
【0073】
本発明の具体的な目的は、ピロリ菌により引き起こされる疾患の治療および予防のための新規製剤を提供することである。
【0074】
また、ヒトおよび動物において、特にイヌおよびネコにおいて、また、その他の飼い動物において、尿素分解菌により引き起こされる疾患の治療および予防の方法、特に、腸の微生物叢を調節するため、口腔の尿素分解微生物叢を調節するため、病原性尿素分解菌の消化中の胃への通過を阻害するため、泌尿器系における沈着および感染性結石の形成を防ぐための方法を提供することも本発明の1つの目的である。
【0075】
本発明のまたさらなる目的は、尿素分解菌、特にウレアプラズマおよび魚類の疾患を引き起こすその他のマイコプラズマの増殖を阻害するための、特に、鯉および鯉稚魚ならびにその他の淡水魚および海水魚において尿素分解菌により引き起こされるえらの炎症の予防薬として用いるための新規製剤を提供することである。
【0076】
さらに、本発明の目的は、カテーテルおよびその他の医療器具におけるバイオフィルムの形成および沈着物の石化を防ぐための新規製剤を提供することである。
【0077】
また、歯石形成の軽減および虫歯の発生の阻害のための新規製剤を提供することも本発明の目的である。
【0078】
さらに、ヒト、ペットおよび農用動物を含む生物、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物の望ましくない尿素分解菌の定着、特に、ヒトおよび飼い動物のピロリ菌の定着を予防および/または阻害する新規ダイエタリー・サプリメント、特定薬用食品および食品/飼料添加剤を提供することも本発明のさらなる目的である。
【0079】
消化管微生物叢に対するα−ケトグルタレートの有益な降下を考慮すれば、細菌酵素によるリグニンおよびセルロースを含むバイオマスの変換に基づく有機バイオ燃料を製造するための改良法を提供することの本発明の目的である。
【0080】
これらの目的および課題は、添付の特許請求の範囲で示されるように本発明に記載の解決法を提供することにより達成される。
【0081】
上述の目的の達成は、添付の特許請求の範囲で示されるように本発明にしたがって、治療用または予防用医療用製剤またはダイエタリー・サプリメント、特定薬用食品および食品/飼料添加剤あるいは毎日使用するための個人衛生品を生産するためのα−ケトグルタレートの、治療上または予防上有効な用量での有効物質としての使用により保証される。
【0082】
治療上および/または予防上有効な用量は、胃内または経口投与される場合、0.001g〜0.2g/kg体重/日の範囲である。局所投与を考慮する場合、有効用量は0.01〜10g/m組織表面/日の範囲である。
【0083】
これまでに、α−ケトグルタル酸の塩が、ピロリ菌感染を含む尿素分解細菌感染を治療するためにヒトまたは動物で効果的に使用されうるということは報告されていなかった。
【0084】
α−ケトグルタレートの有効性、その十分に検討された生体内での活性、ならびにこの物質が他の医学的および予防的適用における使用が認可されているという知見は本発明の多くの利点に寄与する。
【0085】
本発明を以下の詳細な説明で、また、添付されている図面を参照してさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】胃粘膜(n=28)のピロリ菌の定着レベルとα−ケトグルタル酸塩で胃内処置したマウスの間の関係を検討するために用いたピロリ菌による実験的マウス感染モデルのスキームを示す。
【図2】マウス胃粘膜(n=48)のピロリ菌よる定着レベルとα−ケトグルタル酸塩で胃内処置したマウスの間の関係を検討するために用いたピロリ菌による実験的マウス感染モデルのスキームを示す。
【図3】DGGE技術でアッセイされた、電場における16S rDNAヘリコバクター属細菌に関連するPCR産物の泳動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0087】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる用語は、以下の意味を有する。
本明細書において「α−ケトグルタレート」とは、2−オクソ−ペンタン二酸、2−オクソグルタル酸、α−オクソグルタル酸、α−オクソペンタン二酸、2−ケトグルタル酸、2−オクソ−1,5−ペンタン二酸、2−オクソペンタン二酸または2−オクソ−グルタル酸として知られる酸の活性アニオンを放出する化合物を指す。このような化合物の例としては、α−ケトグルタル酸の塩、付加塩、エステル、アミド、アミドおよびそのプロドラッグがある。α−ケトグルタレートは、ヒト、植物および動物、特にペットおよび農用動物を含む生物、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物において尿素分解菌の定着に阻害作用を示し、粘膜定着を防ぐ。α−ケトグルタル酸塩に関する限り、本明細書においてα−ケトグルタレートとは、酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩および/またはキトサン塩、あるいはアルカリ金属塩とアルカリ土類金属塩とキトサン塩とα−ケトグルタル酸塩の混合物を包含する。ナトリウム塩およびカルシウム塩またはその混合物が特に好ましい。
【0088】
本明細書において「医療用製剤」とは、本発明により包含される新規の医学的または予防的適応に用いられる治療上有効な量のα−ケトグルタレートを含む組成物を指す。この医療用製剤は、他の有効成分および/または付加的、有益で、医薬上許容され、かつ、有効成分に適合する物質、例えば、ビヒクル、希釈剤、賦形剤、アジュバントおよびその製剤に意図される選択された投与経路に好適な補助添加剤を含みうる。他の有効成分として、α−ケトグルタレートを含む本医療用製剤は、例えば、ビタミンを含みうる。
【0089】
「治療上有効な」とは、本明細書で示されるin vivo条件下で治療効果を有する、すなわち、ヒト、植物および動物、特にペットおよび農用動物を含む生物、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物において粘膜の尿素分解菌の定着を軽減および阻害する誘導体、特にα−ケトグルタル酸塩のこのような特定の量を表す。治療的または予防的有効性は、固体または液体状の上述の医療用製剤を、ビヒクル、希釈剤、添加剤とともに、または伴わずに、あるいは医薬組成物の成分として、ヒト、植物および動物、特にペットおよび農用動物を含む生物、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物に導入することにより達成される。この製剤は尿素分解菌感染を軽減および防止するのに十分な量で投与される。あるいは、本医療用製剤の治療上有効な量は尿素分解菌により引き起こされる感染を治癒させる。
【0090】
所望の効果に応じ、製剤の量は標的部位における尿素分解菌に対するその特定の作用によって異なる。製剤の用量は予測される治療結果をもたらすように計算された規定量の物質を含みうる。用量は、その化学構造ならびにビヒクル、希釈剤、アジュバントおよびその他の認可された医薬上許容される添加剤などの付加的物質の存在を考慮して純粋な有効物質に関して示される。所望の治療効果ひいては推奨される用量は、適正な医療行為にしたがって、主に患者の年齢、体重、性別、他の付随感染および疾患などのパラメータに基づき、医療または獣医療の従事者によって既知の方法により決定することができる。
【0091】
「医療用製剤の投与」とは、生物への有害な尿素分解菌の侵入経路を考慮し、注射の部位、タイプおよび強度に対して調節された適当な投与経路による上述の疾患に対する予防的または治療的反応を指す。
【0092】
「定着を阻害する」とは、ヒト、植物および動物、特にペットおよび農用動物を含む生物、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物において、尿素分解菌により引き起こされる粘膜またはその他の組織内の感染の拡大および/または重篤度の軽減、または感染因子の完全な根絶、ひいては感染のさらなる進行の軽減および/または回避を指す。
【0093】
「定着を予防する」とは、細菌がヒト、植物および動物、特にペットおよび農用動物を含む生物、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物の粘膜と接触した際の、有害な尿素分解菌の発症の回避を指す。定着の効果的な予防の場合、感染は起こらないか、またはヒト、植物および動物、特にペットおよび農用動物を含む生物、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物の粘膜は、定着の予防を行わない場合に比べて感染が著しく遅くなる。
【0094】
「ダイエタリー・サプリメント」とは、栄養素または栄養効果もしくは生理学的効果を有する他の物質の濃縮された供給源を意味し、この使用は、ある種の有益な成分が不足する毎日の食事を補足することに寄与する。ダイエタリー・サプリメントは、使いやすい形態、例えば、錠剤、カプセル剤または液体、好ましくは、1回量パッケージで製造される。
【0095】
「薬用食品」とは、具体的な治療的または予防的価値のある付加的物質を含有するこの製品に典型的な形態および処方を有する食品を意味する。
【0096】
「食品/飼料添加剤」とは、有効成分を単独または組み合わせて、固体または液体の形態で、ビヒクル、バッファー、界面活性剤、可溶化剤、抗酸化剤、保存剤および有効物質の特性と相当し、食品での使用が認可された他の添加剤とともに、または伴わずに含有する製品に関する。
【0097】
(発明の詳細な説明)
本発明は、主として、α−ケトグルタレートの新規の医学的用途に関する。
【0098】
別の態様において、本発明はまた、細菌酵素によるリグニンおよびセルロースを含むバイオマスの変換に基づく有機バイオ燃料を製造するための方法に関し、ここで、食材性高等シロアリ(wood-feeing higher termites)の後腸尿素分解微生物叢により産生される酵素はα−ケトグルタレートの存在下で用いられる。
【0099】
このプロセスにおいて、α−ケトグルタレートは、該方法の収率を最低5%高めるのに十分な比率で用いる。これらの酵素は、破砕された尿素分解菌の細胞断片を含まない精製形態で用いてもよいし、あるいは非精製形態、すなわち、破砕されたまたは尿素分解菌により放出された細菌細胞断片との混合物として用いてもよい。
【0100】
シロアリはそれらの木材分解能で知られている。シロアリの消化管の天然に定着している細菌は、木材をバイオ燃料に変換する因子であることが確認されている。シロアリの後腸には、リグノ−セルロース分解の際にセルロースおよびキシランを分解する酵素をコードする数百の遺伝子を持った250を超える細菌種が見られることが最近になって示された。シロアリの腸に存在する多量のウレアーゼ陽性高運動性スピロヘータが木材の多糖類の最初の加水分解に関与しうる(Wernecke et al. Metagenomic and functional analysis of hindgut microbiota of a wood-feeding higher termite. 2007. Nature, 450, 7169, 560-565)。
【0101】
本発明によれば、α−ケトグルタレートは、より有効かつ高レベルのリグノ−セルロース分解を達成するために、消化管内の共生菌のウレアーゼ陽性微生物群に取って代わる質的な方法で、バイオ燃料の性能を決定する細菌およびそれらの産物の酵素活性を加速化および強化するのに提案される。
【0102】
本発明の医学的態様によれば、α−ケトグルタレートは、ヒト、植物および動物、特にペットおよび農用動物を含む生物、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物において病原性尿素分解菌により引き起こされる疾患の予防および/または治療に用いる医療用製剤の製造のために、単独化合物または種々の化合物の混合物の形態で用いられる。
【0103】
本発明にしたがって製造された製剤の投与の予防効果または治療効果は、1日当たり、体重1kg当たりα−ケトグルタレート0.001〜0.2gを用いた場合に達成される。局所的に、または体腔に用いる場合、α−ケトグルタレートは0.01〜10g/m組織表面/日の用量で特に有効である。
【0104】
本発明は、ピロリ菌が高等生物の胃の高酸性環境で生存可能であるという知見に基づいている。
【0105】
ピロリ菌の周知の特性は、胃粘膜および胃液中に存在する尿素を加水分解するウレアーゼの活性により低pH環境で製造する能力である(Saidijam M, Psakis G, Clough JL, Meuller J, Suzuki S, Hoyle CJ, Palmer SL, Morrison SM, Pos MK, Essenberg RC, Maiden MC, Abu-bakr A, Baumberg SG, Neyfakh AA, Griffith JK, Sachs G, Scott D, Weeks D, Melchers K. Gastric habitation by Helicobacter pylori: insights into acid adaptation. Trends Pharmacol Sci. 2000;21:413-416, Sachs G, Weeks DL, Melchers K, Scott DR. The gastric biology of Helicobacter pylori. Annu Rev Physiol. 2003;65:349-369, Sidebotham RL, Worku ML, Karim QN, Dhir NK, Baron JH. How Helicobacter pylori urease may affect external pH and influence growth and motility in the mucus environment: evidence from in-vitro studies. Eur J Gastroenterol Hepatol. 2003;15:395-401.)。個々の反応スキームは以下のとおりである:
(1)HNCONH+HO→CO+2NH
(2)CO+HO→HCO
(3)HCO+2NH→NH+HCO+NH
(4)HCl+NH→NH+Cl
【0106】
尿素分解プロセスの結果として、アンモニアが生じ、これはすぐに塩酸と反応し、その結果、組織(胃粘膜)では、微小環境のpHが局部的に上昇する。知られているように、自然条件下では、胃粘膜は、壁細胞中でのHCl産生のために酸性である。
【0107】
ピロリ桿菌がin vitroで増殖が困難な感受性生物であったとしても、他の細菌にとっては致死的な胃の低pHはピロリ菌の定着を逆説的に助けうる。これは主として、細菌ウレアーゼ(ピロリ菌により産生される酵素)によりアンモニアへと分解される内在尿素の存在によるものであり、このアンモニアが細菌の微小環境のpHを高める。したがって、ピロリ菌に対する酸性環境の致死的な影響は排除される。胃粘膜層におけるピロリ菌の増殖周期はこの微生物の尿素分解特性によって刺激されるとさえ考えられている(Nakazawa T. Growth cycle of Helicobacter pylori in gastric mucous layer. Keio J Med. 2002;51,S2:15-19.)。細胞レベルでは、ウレアーゼmRNAが環境のpHに応じて安定化されたり脱安定化されたりすることが分かっている。この細菌は、pHがすでに変更された領域で増殖および定着するために分解された細胞からの栄養を用いるものと思われる。ウレアーゼの活性化には、尿素の加水分解を助ける、菌体のpH依存性UreIチャネルの開口が伴う(Weeks DL, Eskandari S, Scott DR, Sachs G. A H+-gated urea channel: the link between Helicobacter pylori urease and gastric colonization. Science. 2000;287:482-485, Weeks DL, Sachs G. Sites of pH regulation of the urea channel of Helicobacter pylori. Mol Microbiol. 2001;40:1249-1259.)。また、ピロリ菌は、より高濃度の尿素に向かって移動する能力を有し、この走化性が尿素の加水分解プロセスを促進することも述べられている。これは第二の増殖周期の結果としての胃における感染の安定化を説明している(Scott DR, Marcus EA, Weeks DL, Sachs G. Mechanisms of acid resistance due to the urease system of Helicobacter pylori. Gastroenterology. 2002;123:187-195, Scott DR, Marcus EA, Weeks DL, Lee A, Melchers K, Sachs G. Expression of the Helicobacter pylori ureI gene is required for acidic pH activation of cytoplasmic urease. Infect Immun. 2000;68:470-477, Voland P, Weeks DL, Marcus EA, Prinz C, Sachs G, Scott D. Interactions among the seven Helicobacter pylori proteins encoded by the urease gene cluster. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 2003;284:96-106.)。
【0108】
他方、アミノ酸分解の過程で、酸化的脱アミノ化の結果として、α−アミノ基はα−ケト酸に転移され、これにアンモニウムイオンの置換が伴うことが知られている。アミノ酸分解の結果として生成されたアンモニウムイオンは、一部が窒素化合物の生合成に関与し、残りのものは尿素に変換された後に生物体から除去される。尿素では、その窒素原子の1個がアンモニウムイオンから直接生じる。
【0109】
自然条件下では、尿素はそれが産生された場所、すなわち肝細胞から消化系全体に自由に拡散することができるが、これはこの化合物の分子量が小さいためである(M60)。アンモニウムイオンの強い毒性のため、生物はこのイオンを尿素などの低毒性の化合物の合成に用いることで自らを保護している(尿素分解生物−哺乳類)。尿素分解生物は、タンパク質、アミノ酸およびアンモニアに関する窒素を保存することができない。
【0110】
生物では、アミノ酸が絶え間なく脱アミノ化されているにもかかわらず、遊離型のアンモニアはわずかな量しか生成しない。いくらかのアンモニアはすぐにグルタミン酸塩およびアスパラギン酸塩と結合する。いくらかのアンモニアは腎臓からアンモニウムイオンの形で排泄される。有毒なアンモニアは肝臓のオルニチン回路で尿素に変換される。
【0111】
今般、予期しないことに、α−ケトグルタレートを胃に投与した後にピロリ菌の個体群が減少することが見出された。in vivo試験の条件下で、アンモニウムイオンのレベルは比較的低く、胃粘膜層の細胞へのアニオン輸送が改善されるにもかかわらず、α−ケトグルタレート(グルタミン酸塩およびアスパラギン酸塩に結合する中間体)によるその除去は尿素分解菌の死滅をもたらす。胃におけるピロリ菌の生存に必要な尿素からのアンモニウムイオンの生成は、この桿菌の必要を満たすものではなく、それは投与されたα−ケトグルタレートに関しては、アンモニウムイオンはグルタミン酸塩およびその他のアミノ酸化合物の合成にすぐに用いられるからである。
【0112】
ピロリ菌がなぜ基質に対して過剰な量のウレアーゼを産生するのかはまだ明らかでない。細菌ウレアーゼは、翻訳後に組み込まれたニッケルの二価陽イオンを有するニッケル依存性酵素である。適当な量の活性酵素を維持するため、ピロリ菌はニッケル欠乏の条件下でも増殖する子孫細胞の尿素分解活性を保護するためにそれを蓄積するものと思われる。胃においてα−ケトグルタル酸塩が集中的に取り込まれるため、ピロリ菌はこれらの塩への接近をめぐって競合し、これにより感染の初期段階において細菌ウレアーゼの集中的な産生が起こる。
【0113】
ピロリ菌感染の流行の拡大によって、感染がもたらす病状を制限する製剤の探索が多くの報告の課題となっている。El-Omar EM. Mechanisms of increased acid secretion after eradication of Helicobacter pylori infection. Gut. 2006;55:144-146., Wotherspoon AC, Ortiz-Hidalgo C, Falzon MR, Isaacson PG. Wotherspoon AC, Ortiz-Hidalgo C, Falzon MR, Isaacson PG. Helicobacter pylori-associated gastritis and primary B-cell gastric lymphoma. Lancet. 1991;338:1175-1176参照。
【0114】
α−ケトグルタレートは、以下の反応においてアンモニウムイオンとともに、グルタミン酸、次いでグルタミンなどのある種のアミノ酸の合成に関与する。
【化1】

【0115】
この周知の物質のこの新規医学的用途に対する研究に拍車を掛けたのは、α−ケトグルタレートのアンモニウムイオンへの結合能であった。
【0116】
上述の反応は、胃環境におけるピロリ菌または例えば、泌尿生殖器系における他の尿素分解菌に必要な窒素源である尿素の合成と競合するアンモニウムイオン結合の経路であると推測された。
【0117】
健康なボランティアの胃および小腸の粘膜に対するα−ケトグルタレートの有害な作用に関する報告がないために、健康な実験動物の胃および小腸のピロリ菌定着に対するα−ケトグルタレートの影響を確認するため、健康な実験動物に対して一連の試験を行った。
【0118】
予期しないことに、その結果は、上述の仮説を確認し、以下に示した。
1.α−ケトグルタレートを接種した後のピロリ菌感染マウスの胃粘膜の肥厚において、または試験動物の小腸粘膜の肥厚において、また、絨毛の幅および陰窩の深さにおいて形態的な変化はなかった。
【0119】
2.α−ケトグルタレートを接種した後のピロリ菌感染マウスからのサンプルを含む試験動物の剥離した胃粘膜(洞の一部)から単離された乳酸菌の量に違いはなかった。
【0120】
3.対照群(リン酸バッファーPBSで刺激)に対してα−ケトグルタレートを接種した後のピロリ菌感染動物では、胃腺の幽門領域に存在するガストリン(胃のホルモン)産生細胞の数に17%(p<0.01)の減少が見られた。α−ケトグルタレートを接種した後のピロリ菌感染動物では、おそらくは胃粘膜のガストリン産生細胞の数が減少した結果として、血中ガストリンのレベルの低下が見られた(21.8pM〜24.7pMから12.8pM〜15.6pMまで)(p<0.05)。このことはα−ケトグルタレートとプロトンポンプ活性の間の、間接的な(ヒスタミンを介する)阻害的相互作用を示す。その活性亢進は逆流疾患において発現する。
【0121】
4.α−ケトグルタレートで処置した動物の小腸において、コレシストキニン(CCK)組織ホルモン産生細胞の数の減少に対するいくつかの傾向が見出された。PBS単独を接種した非感染マウスの同等の小腸断端に比べ、30%の低下が見られる(統計学的な違いはないp=0.1)。α−ケトグルタレートを接種しただけのマウスに比べ、α−ケトグルタレートで刺激した後のピロリ菌感染マウスの小腸におけるCCK産生細胞に有意な違いはなかった(p=0.25)。ピロリ菌を接種し、α−ケトグルタレートを接種した後のピロリ菌感染動物の低いCCK血液レベル(3.1pM〜4.0pMから1.9pM〜2.5pMまで)(p<0.05)は小腸におけるCCK産生細胞の数の低下と関連づけることができる。したがって、低CCKレベルはますます頻繁に胃の排出を刺激することができ、医療機関はピロリ菌のさらなる定着および感染の発症を回避する因子であるとしている。
【0122】
ピロリ桿菌に対するα−ケトグルタレートの殺菌効果
今般、予期しないことに、α−ケトグルタル酸塩は哺乳類の消化管のピロリ菌定着の過程を阻害することが見出された。本研究では、菌体懸濁液の最初の用量を投与した後30日目に、ピロリ菌を感染させただけのマウスの胃の幽門部の粘膜から単離されたコロニーの平均数は7.8×10±5.0×10に相当したことを示す。感染から14日後に連続9日間α−ケトグルタル酸塩の胃内投与を受けた実験動物群において、単離されたコロニーの平均数はわずか3.8×10±5.0×10であった。ピロリ菌の最後の感染投与から14日後に始めて連続9日間α−ケトグルタレートの9回の胃内投与を行ったところ、胃粘膜層の細菌定着に49%の減少が見られた。これらの結果から、α−ケトグルタル酸塩は胃のピロリ菌定着を阻害することが分かる。
【0123】
別の実験において、菌体懸濁液の最初に投与した後30日目に、ピロリ菌のみを感染させたマウスの胃の幽門部の粘膜から単離されたコロニーの平均数は4.3×10±5.0×10に相当したことが分かった。感染から8日後に連続3日間α−ケトグルタレートの胃内投与を受けた実験動物群において、ピロリ菌コロニーは見られなかった。ピロリ菌の最後の感染投与から8日後に始めて連続3日間α−ケトグルタレートの3回の胃内投与を続けたところ、定着が完全に停止し、マウス胃粘膜においてピロリ菌が完全に根絶された。
【0124】
観察の過程で、胃の微生物叢が変化し、ピロリ菌感染マウスではH.ビリスのDNAも見られ;さらにα−ケトグルタレートを接種したマウスでは、H.ローデンチウム、H.ビリス、H.ヘパティカスのDNAのみが見られ;α−ケトグルタル酸を投与した対照群のマウスでは、H.ヘパティカス、H.ローデンチウム(H. hepaticus i H. rodentium)のDNAが同定された。PBSで処置したマウスでは、ヘリコバクター菌のDNAは見られなかった。
【0125】
これらの結果は、組織における細菌の存在を確認するために生きている微生物が培養されなればならないということを仮定する(コッホの原則を満たす)従来技術で裏付けられた慣例の診断法によって得られたものであった。さらに、これらの研究は、ピロリ菌およびヘリコバクター属のその他の非病原性細菌に関するDNA検出法で裏付けた。PCRの後に変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)によりPCR産物を電気泳動分離し、DNA組成を調べることを目的に配列決定を行うことが、本明細書に記載された変化を検出するための方法である。実際、配列決定の過程で、α−ケトグルタレートで処置したマウスにおいてピロリ菌DNAは見られなかった(感度レベル:臭化エチジウム染色)。
【0126】
よって、α−ケトグルタレートは、ピロリ菌、および尿素分解菌により引き起こされる泌尿生殖器系感染に対する予防および治療を必要とする大きな、変動のある患者群にとって理想的な有効物質である。
【0127】
尿素分解菌に対するα−ケトグルタレートの殺菌作用のメカニズムはこれまでに知られているメカニズムとは全く異なり、尿素分解菌における薬剤耐性の増強を誘発する恐れなく、これらの微生物の安全な根絶を可能とする。実際、それは再感染、重複感染および抗生物質による治療における難しさの軽減をもたらす。
【0128】
これまでに確立されたように、α−ケトグルタレートは標準的な抗生物質治療を補助する、またはその代わりとなる。また、悪液質の場合にはそれは天然の尿素分解微生物叢のバランスをとることに役立ち得る。
【0129】
本発明によれば、α−ケトグルタレートおよび/またはin vivo条件下でα−ケトグルタル酸のアニオンを放出する適当な前駆体は、尿素分解菌により引き起こされる疾患の予防および/または治療に用いられる医療用製剤を製造するために使用される。
【0130】
尿素分解菌により引き起こされる感染およびそれらの感染に関連する疾患を治癒させること、カテーテルおよび泌尿器系感染を有する患者にα−ケトグルタレートを、α−ケトグルタレートと細菌が定着している宿主粘膜または感染性結石を形成する尿素分解菌とが直接確実に接触するように、カテーテルにα−ケトグルタレート溶液を投与することにより投与すること。
【0131】
本発明にしたがって提案されるように、泌尿生殖器系感染の場合に坐剤および潅注の形態で体腔にα−ケトグルタレートを導入することも推奨される。
【0132】
α−ケトグルタレートを含有する坐剤は、本発明にしたがって提案されるように、肛門腺感染において(動物)、また、痔核と同時に消化系(直腸を含む)の遠位部分の粘膜の亀裂または潰瘍を形成する耐性感染において肛門投与すべきである。
【0133】
尿素分解菌の全身感染の結果として起こる菌血症(敗血症)の場合、現行では、本発明に従い、例えば静注の形で血中に直接投与することを含むα−ケトグルタレート処置を適用することが推奨される。
【0134】
外的には、尿素分解菌により引き起こされる感染を有する皮膚の亀裂および潰瘍形成部分には、本発明にしたがって提案されるように、α−ケトグルタレートを散剤、包帯および軟膏の形で投与すべきである。
【0135】
飼育中の感染魚類には本発明にしたがって、固体状のα−ケトグルタレートを投与すべきである。
【0136】
α−ケトグルタレートの上述の各投与経路の例では、有効成分としてα−ケトグルタレートを含有する製剤の剤形およびpHが感染組織または器官に刺激がないように必要な手段を常に採らなければならず、これは刺激が感染の重篤度を増すことになりかねないからである。
【0137】
本発明にしたがって得られた製剤は、ピロリ菌定着の予防および/または阻害に特に有用である。
【0138】
以下の塩がα−ケトグルタレートとして好ましく用いられる:α−ケトグルタル酸の一置換および二置換塩、ならびにアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属および/またはキトサン。好ましい塩はナトリウム塩および/またはカルシウム塩である。
【0139】
本発明のα−ケトグルタレートは、ヒトおよび動物のピロリ菌定着の阻害のため、ピロリ菌感染およびその結果を予防するため、またはピロリ菌感染およびその結果を改善するために、条件に応じて、医療用製剤、ダイエタリー・サプリメント、特定薬用食品および/または食品/飼料添加剤としてヒトおよび動物において使用可能である。
【0140】
α−ケトグルタレートは、医薬用に認可され、選択されたα−ケトグルタレート前駆体に適合する既知のビヒクルおよび添加剤とともに投与することができる。適当な添加剤としては例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールまたはその他の類似物質またはそれらの組合せが挙げられる。さらに、所望により、この製剤は、例えば湿潤剤、乳化剤、pH調整剤、バッファーおよびその他などの付加的な物質を含みうる。
【0141】
α−ケトグルタレートは、医薬用に認可され、選択されたα−ケトグルタレート前駆体に適合するその他の既知の有効物質とともに投与することができる。有用な他の有効成分として、ビタミン、特にビタミンC、および他の多くのものがある。
【0142】
本発明によれば、α−ケトグルタレートを含有する製剤は、意図される投与経路に応じて固体および/または液体でありうる。
【0143】
本発明は、また、他の尿素分解菌感染の治療および予防を目的とした製剤を製造するためのα−ケトグルタレートの使用に関する。α−ケトグルタレートのさらなる医学的用途の例としては、病原性尿素分解菌の胃の通過を阻害する製剤、泌尿器系における沈着物および感染性結石の形成を予防する製剤、カテーテルおよびその他の医療器具におけるバイオフィルムの形成および沈着物の石化を軽減する製剤、また、泌尿生殖器系において他の病原性尿素分解菌の増殖を阻害する製剤を製造するための、尿道注入剤、錠剤、潅注液、腟内錠剤の形態で用いられるα−ケトグルタレートの使用が挙げられる。
【0144】
本発明によれば、α−ケトグルタレートは、イヌ、ネコおよび飼い動物において、尿素分解菌により引き起こされる細菌感染における膀胱注入剤の形態で使用することもできる。
【0145】
α−ケトグルタレートの新規の使用のさらなる例は、口腔の尿素分解微生物叢を調節し、歯石の形成を軽減し、虫歯の発生を阻害する製剤の製造のための使用である。この製品はチューインガムまたは歯科用ペーストの形態でありうる。
【0146】
本発明によれば、α−ケトグルタレートはまた、魚類に感染を引き起こす尿素分解菌、特にウレアプラズマおよびその他のマイコプラズマの増殖を阻害する製剤を製造するために、そのさらなる新規の使用が見出せる。これに関して、このα−ケトグルタレートの新規の使用は、鯉および鯉稚魚ならびにその他の淡水魚および海水魚において上述の尿素分解菌により引き起こされるえらの炎症の予防を目的とした製剤の製造のための使用である。
【0147】
本発明はまた、ピロリ菌定着を予防および/または阻害するために用いられるダイエタリー・サプリメント、特定薬用食品および食品/飼料添加剤の製造におけるα−ケトグルタレートの使用も包含する。
【0148】
以下の実施例は本発明のよりよい説明を提供する。
【実施例】
【0149】
実施例1
実験動物:28匹の6週齢BALB/cA(雌)マウス、体重25±2g(図1)。14匹のマウスにチューブを通して(外径1.3mm)濃度10cfu/mlのピロリ菌体、119/95株の懸濁液0.2mlで1日おきに3回抗原投与を行った。最終抗原投与の2週間後に、7匹のマウスに、同じ方法により9日間連続してα−ケトグルタル酸カルシウムまたはナトリウム塩溶液(0.2ml、濃度30mM)を胃内接種した(群IA)。残る7匹のマウスには群IAの動物のように0.01Mリン酸バッファー−PBSで偽処置した(群IB)。
【0150】
さらにまた群IIAおよびIIBの14匹のマウスを動物のピロリ菌感染のスキームにしたがって0.2ml PBSで処置した。上記処置の2週間後に7匹のマウスに3日間連続してPBS(0.2ml)を連続接種した。残る7匹のマウスをα−ケトグルタル酸塩溶液(0.2ml、濃度30mM)で処置した(群IIA)。
【0151】
試験の第30日目にCOを使用して全てのマウスを犠牲にした。さらなる解析のためにピロリ菌に感染させ、次のα−ケトグルタル酸塩接種を行ったまたは行わなかったマウスの血液と胃のサンプルを採取した。ピロリ菌による実験的マウス感染モデルのスキームを図1に示している。この試験では上記の時間投薬計画にしたがってピロリ菌によるマウス胃粘膜のコロニー形成レベル(n=28)とα−ケトグルタル酸塩で胃内に処置したマウスの関係を研究した。
【0152】
図1では、以下略語を用いた。試験群のマウス(n=28)に次の調製物を胃内に接種した:ピロリ菌体懸濁液:#;α−ケトグルタル酸塩溶液:◆;PBS溶液:●。接種材料(ピロリ菌)の菌株名、濃度および量ならびにα−ケトグルタル酸塩およびPBS:の濃度および用量は、上記情報に対応する。S文字の付いた太文字の数字は剖検日を示す。一般義務基準にしたがって剖検を行った。
【0153】
試験した全ての動物の血液サンプルをGAB−CAMP寒天平板上に塗沫し、微好気的条件下、37℃の温度で7〜10日間インキュベートした。前庭部の半分から胃粘膜を擦り取り、滅菌処理した500μl PBSを合した。ホモジネートの計量後、前庭部の半分から擦り取った粘膜の量が一般的に40μg〜50μgであることに気づいた。ピロリ菌体数の計算のために、100μlの胃粘膜ホモジネートをGAB−CAMP寒天平板上に塗沫し、微好気的条件下、37℃の温度で5〜10日間インキュベートした。各マウスのホモジナイズした粘膜のサンプルを三回反復して検査した。これらの結果は平均値±SDとして示している。コロニー形態学とウレアーゼ試験、オキシダーゼ試験およびカタラーゼ試験により、さらにグラム染色による細胞の形態学的検査によりピロリ菌の存在を確認した。
【0154】
PBS、そしてα−ケトグルタル酸塩(図1の群IIA)またはPBS(図1の群IIB)を胃内に接種した動物の組織からピロリ菌は単離されなかった。
【0155】
インキュベーション5日目と10日目の間に、ピロリ菌の後、続いてα−ケトグルタル酸塩(図1の群IA)またはPBS(図1の群IB)を接種した動物の胃サンプルから細菌が単離された。ピロリ菌に感染させただけのマウスの胃粘膜の前庭部から単離されたコロニー数(平均±SD)は、7.8×10±5.0×10であり、マウスをα−ケトグルタル酸塩で胃内処置した後は、示されたプロトコールによれば、単離されたコロニー数(平均±SD)は3.8×10±5.0×10であった(図3)。α−ケトグルタル酸塩を連続9日間、9回胃内導入すること(この胃内導入はマウスに対するピロリ菌の最終感染用量から14日の間隔をあけて開始した)により、ピロリ菌による胃粘膜コロニー形成の程度が49%減少した。これは、ピロリ菌による胃のコロニー形成段階に対するα−ケトグルタル酸塩の阻害作用であると解釈される。
【0156】
マウスから採取した血液サンプルからピロリ菌も他の細菌も単離されなかった。
【0157】
得られた結果を、以下の表1に示す。
【表1】

【0158】
実施例2
実験動物:48匹の6週齢BALB/cA(雌)マウス、体重25±2g(図2)。群IIIBおよびIIIの24匹のマウス(図2)に濃度10cfu/mlのピロリ菌体、119/95株の懸濁液0.2mlで日おきに3回胃内に抗原投与を行った。最終抗原投与の8日後に、16匹のマウスにチューブを通して0.2mlの30mM α−ケトグルタル酸塩溶液を3日間連続して胃内に接種した(群IIIB)。残る8匹のマウスには群IIIに関する手順にしたがって0.2mlの0.01M PBSで偽処置した(群III)。
【0159】
残る24匹のマウス(図2)に0.2mlの0.01M PBSを1日おきに3回胃内に接種した。上記処置の8日後に16匹のマウスにチューブでα−グルタル酸塩(0.2ml、濃度30mM)を3日間連続して接種した(群IVB)。残る8匹のマウスを0.2mlの0.01M PBSで処置した(群IV)。
【0160】
試験の第20日目にCOを使用して全てのマウスを屠殺した。さらなる研究のために胃と血液のサンプルを採取した。
【0161】
図2では、以下の略語を用いた。試験群のマウス(n=76)に次の調製物を胃内に接種した:ピロリ菌体懸濁液:#;α−ケトグルタル酸塩溶液:◆;PBS溶液:●。接種材料(ピロリ菌)の菌株名、濃度および量ならびにα−ケトグルタル酸塩およびPBS:の濃度および用量は、上文に対応する。S文字で示される太文字は剖検日を示す。一般原理にしたがって剖検を行った。
【0162】
採取したサンプルから、実施例1で説明するように、ピロリ菌をGAB−CAMP寒天平板上で培養した。また、DNAも単離し、ヘリコバクター属の細菌のDNAにおける16S rDNA断片を認識するプライマー(5’−CTATGACGGGTATCCGGC−3’および5’−CTCACGACACGAGCTGAC−3’)を用いてPCRを実施した。その後、変性勾配ゲル電気泳動技術(DGGE)によって470bpの大きさのPCR産物を分離し、配列決定した。DGGE分析は9%、ポリアクリルアミドゲル(37.5:1の割合のアクリルアミド/ビスアクリルアミド溶液)で実施した。電気泳動は60℃の温度にて125Vで16時間行った。
【0163】
得られた結果を、以下の表2に示す。
【表2】

【0164】
ピロリ菌(+PBS)に感染させた8匹のマウス(図2の群III)の8つの胃サンプルからピロリ菌が単離された(表2)。同じ胃サンプルから単離したDNAにおいてPCRを使用して16S rDNAピロリ菌特異的断片を同定した。
【0165】
ピロリ菌に感染させ、α−ケトグルタル酸塩で処置した16匹のマウス(図2の群IIIB)から得た胃サンプルからは、PCR産物中にピロリ菌培養物もピロリ菌に特異的な配列も見つからなかった(表2)。
【0166】
これらの動物から採取した血液サンプルからは桿菌のピロリ菌は培養されなかった。PBSを抗原投与した8匹のマウス(図2の群IV)の血液からおよび胃から単離されたDNAは、選択したプライマーでは増幅しなかった。
【0167】
添付の図面、図3において、DGGE技術を用いて評価した、電流場におけるヘリコバクター属細菌の16S rDNA断片に典型的なPCR産物の移動度を示した。A:H.ムリドラム(H. muridorum)、B:H.ビリス、C:H.プルロラム、D:ピロリ菌、E:ヘリコバクター種フレキシスピラ・タクソン8「エフ・ラピニ」、F:H.ヘパティカス、G:マーカーとしての役割を果たすH.ビゾゼロニ(H. bizzozeronii)。矢印はH.ビリスのDNAを示している。1〜8の文字は、本実施例2のPCR産物が移動するパスの評価である。
【0168】
ピロリ菌に感染させ、その後α−ケトグルタル酸塩で処置したまたはα−ケトグルタル酸塩で処置しなかったマウスの胃前庭部からあるいは感染させなかったマウスから抽出した16のPCR産物において、470bpの大きさの19のDNA断片を検出した。結果を図3および下記表3において示している。これらの16のDNA断片(DGGEを用いてすでに分離された)において見られたDNAセグメント(n=19)の配列は、ピロリ菌(n=8)、ならびにH.ローデンチウム(n=4)、H.ビリス(n=3)およびH.ヘパティカス(n=4)に対応していた(図3)。
【表3】

【0169】
上記の表3から分かるように、3匹の異なるマウスにおいて2種のヘリコバクター種:ピロリ菌およびH.ビリスならびにH.ローデンチウムおよびH.ビリスのDNAが検出された。群IIIの2匹のマウス(ピロリ菌+PBS)の胃サンプルでは、ピロリ菌とH.ビリスが認められた。群IIIBのマウス(ピロリ菌+α−ケトグルタル酸塩)の胃サンプルでは、H.ローデンチウム、H.ビリス(H. rodentium i H. bilis)が検出された(表3)。その後、4匹の動物、すなわち、群IIIBの(form group III B)2匹のマウス(ピロリ菌+α−ケトグルタル酸塩)、およびPBS+α−ケトグルタル酸塩を接種した2匹のマウス(群IVB)でH.ヘパティカスのDNAが同定された(表3)。
【0170】
H.ビリスのDNAは、いずれのPCR産物においても単独では現われず、一方、H.ローデンチウムのDNAは、3サンプル中に存在し(配列は示してない)、H.ビリスのDNAを伴って1サンプル中に存在した(図3、表3)。
【0171】
要約すれば、ピロリ菌のみに感染させたマウス(群III)の胃粘膜前庭部から単離されたコロニーの数(平均±SD)は、4.3×10±5.0×10であり、一方α−ケトグルタル酸塩でのマウスの追加胃内処置後(群IIIB)には、ピロリ菌コロニーは培養されなかった(表2)。α−ケトグルタル酸塩を連続した3日間に3回胃内導入すること(この胃内導入はマウスに対するピロリ菌の最終感染用量から8日の間隔をあけて開始した)により、細菌コロニー形成に対する全面的な阻害作用がもたらされ、胃粘膜からピロリ菌が完全に根絶された。
【0172】
さらに、試験期間中に胃ウロリティック微生物叢(stomach urolytic microbiota)の組成が変化し、ピロリ菌に感染させたマウス(群III)ではH.ビリスのDNAも同定され、一方α−ケトグルタル酸塩接種を受けたマウス(群IIIB)ではH.ローデンチウム、H.ビリス、H.ヘパティカスのDNAのみが認められ、α−ケトグルタル酸塩で処置した対照マウス(群IVB)ではH.ヘパティカスおよびH.ローデンチウムのDNAが同定された。
【0173】
実施例3
α−ケトグルタル酸カルシウムおよびナトリウム塩水溶液を混合物としてまたは単独で調製し、ダイアリー製品(diary product)および飲料用の添加剤として使用した。
α−ケトグルタル酸塩 0.001g〜0.2g
グルコース 20g
水 最大100g
治療上および/または予防上有効な量は、1日用量において0.001g〜最大0.2g/体重1kgである。
【0174】
モデル動物(マウス)を使用し、ボランティアを集めて、α−ケトグルタル酸ナトリウムおよび/またはカルシウム水溶液の胃内または経口投与、予防活性、感染経過の緩和、さらにピロリ菌による消化管コロニー形成の減少が達成されることが証明された。
【0175】
実施例4
9月〜11月の期間に、1年のこの時期に腸管に急性症状が認められる、微生物法(内視鏡検査)によって確認された10名のピロリ菌感染者(6名の男性、4名の女性、年齢45〜60歳、体重60〜95kg)は、毎日朝食時にミルク飲料と組み合わせてα−ケトグルタル酸カルシウム塩(2g)を自由意志で摂取していた。2週間の処置期間後、選抜したボランティアにおいて胸やけの症状やその他の消化不良の特徴はなくなった。消化不良症状のない状態はAKG投与終了後1ヶ月間さらに維持された。
【0176】
本実施例では、尿素分解菌(この場合にはピロリ菌)が基質、すなわち、尿素の獲得のために宿主生物細胞といかに競合するかを例示している。α−ケトグルタル酸塩の胃内導入により、非顕微的微生物に必要なために尿素分解菌によってアンモニアへと分解される、すなわち、作用物質の1つとしてα−ケトグルタレートを用いるグルタミン酸塩の合成における、尿素の使用が促進された。細菌ウレアーゼの活性があるにしても、胃環境の酸性pHは維持され、ピロリ菌の微小ニッチの形成を防いだ。このようにして、尿素分解菌による非顕微的微生物の粘膜のコロニー形成が妨げられ、停止した。また、α−ケトグルタレートを使用することにより尿素分解菌による感染も予防される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト、植物および動物、特にペットおよび農用動物を含む生物、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物の望ましくない症状の予防および治療のための医療用製剤の製造のためのα−ケトグルタレートの新規の医学的使用であって、望ましくない症状が生物における尿素分解菌の存在および/または活性に関連するところの、新規の医学的使用。
【請求項2】
望ましくない医学的症状が、消化管、呼吸器系および/または泌尿生殖器系における、ヘリコバクター・ピロリ、ブルセラ属に由来する菌株、ウレアプラズマ・ウレオリティカムなどのウレアーゼ陽性菌、および他の好アルカリ性細菌、例えば、バチルス・パスツーリ、ウレアーゼ産生エルシニア・エンテロコリカ桿菌、カテーテルおよびその他の医療器具におけるバイオフィルムの形成および沈着物の石化に関与する尿素分解菌、口腔粘膜の感染、歯肉疾患、虫歯、歯石の形成を引き起こす尿素分解菌、プロテウス属、ウレアプラズマ属、クレブシエラ属、シュードモナス属、ブドウ状球菌属、プロビデンシア属、コリネバクテリウム属、特にピー・ミラビリスの泌尿器系感染の過程で感染性結石の形成を担う尿素分解菌、および生殖管、特にその下部感染を引き起こすマイコプラズマ、マイコプラズマ・ホミニスおよびユー・ウレアリティカムを含む群からの尿素分解菌の存在および/または活性に関連する症状である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
製剤が、標的尿素分解菌の発生部位への有効量の活性物質の輸送または局所投与に適当な形態で製造される、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
標的尿素分解菌の発生部位への局所投与に適当な製剤が、経口投与用処方、静注、洗浄液体、膣内錠剤、坐剤の形態または標的尿素分解菌の発生の特定部位への投与のために調整されるその他の形態の処方である、請求項3記載の使用。
【請求項5】
標的尿素分解菌の発生部位への局所投与に適当な製剤が、α−ケトグルタレートと混合可能かつ望ましくない医学的症状の治療に有益である他の活性成分をさらに含む、請求項4記載の使用。
【請求項6】
ピロリ菌の定着およびその結果、特に、胃潰瘍および十二指腸潰瘍、消化性潰瘍、胃リンパ腫、腸変性を伴う慢性萎縮性胃炎および胃癌などの疾患を予防するための製剤が製造される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
腸尿素分解微生物叢の調節、組織の健全性を安定させることおよび感染後および悪液質疾患の場合に腸微生物叢のバランスをとるために用いられる製剤が製造される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
病原性尿素分解菌の胃の通過を阻害する製剤が製造される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
口腔の尿素分解微生物叢を調節し、歯石の形成を軽減し、虫歯の発生を阻害する製剤が、チューインガムまたは歯科用ペーストの形態で製造される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
泌尿器系における沈着物および感染性結石の形成を予防する製剤が製造される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
魚類に感染を引き起こす尿素分解菌、特に、ウレアプラズマおよび他のマイコプラズマの増殖を阻害する製剤が製造される、請求項1または2記載の使用。
【請求項12】
特定の尿素分解菌により引き起こされる鯉および鯉稚魚、ならびにその他の淡水魚および海水魚においてえらの炎症の予防に用いられる製剤が製造される、請求項11記載の使用。
【請求項13】
カテーテルおよびその他の医療器具におけるバイオフィルムの形成および沈着物の石化を軽減する製剤が製造される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
治療上有効な用量で、特に、0.001g〜0.2g/kg体重/日の用量または0.01〜10g/m組織表面/日の用量で投与用に調整された量でα−ケトグルタレートを含む製剤が製造される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかにしたがって製造された、ヒト、ペットおよび農用動物を含む生物、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物の望ましくない医学的症状の予防および治療に用いるための医療用製剤であって、望ましくない症状が生物における尿素分解菌の存在および/または活性に関連するところの、医療用製剤。
【請求項16】
α−ケトグルタレートを含むことを特徴とする、ヒト、ペットおよび農用動物を含む生物、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物の望ましくない医学的症状を予防するダイエタリー・サプリメントであって、望ましくない症状が生物における尿素分解菌の存在および/または活性に関連するところの、ダイエタリー・サプリメント。
【請求項17】
α−ケトグルタレートを含むことを特徴とする、ヒト、ペットおよび農用動物を含む生物、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物の望ましくない医学的症状を予防する薬用食品であって、望ましくない症状が生物における尿素分解菌の存在および/または活性に関連するところの、薬用食品。
【請求項18】
α−ケトグルタレートを含むことを特徴とする、ヒト、ペットおよび農用動物を含む生物、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物のピロリ菌の定着を予防および阻害する、食品/飼料添加剤。
【請求項19】
望ましくない医学的症状が、ウレアーゼ産生植物病原菌の存在および/または活性に関連する植物症状であり、製剤が、標的尿素分解菌の発生部位への有効量の活性基質の輸送に適当な処方で製造される、請求項1記載の使用。
【請求項20】
ヒト、ペットおよび農用動物を含む生物、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、軟体動物または節足動物の望ましくない医学的症状の予防的または治療的処置方法であって、望ましくない症状が生物における尿素分解菌の存在および/または活性に関連し、予防上または治療上有効な量のα−ケトグルタレートが、かかる処置を必要とする生物、特に標的尿素分解菌の発生部位に局所投与されるところの、方法。
【請求項21】
望ましくない医学的症状が、消化管、呼吸器系および/または泌尿生殖器系における、ヘリコバクター・ピロリ、ブルセラ属に由来する菌株、ウレアプラズマ・ウレオリティカムなどのウレアーゼ陽性菌、および他の好アルカリ性細菌、例えば、バチルス・パスツーリ、ウレアーゼ産生エルシニア・エンテロコリカ桿菌、カテーテルおよびその他の医療器具におけるバイオフィルムの形成および沈着物の石化に関与する尿素分解菌、口腔粘膜の感染、歯肉疾患、虫歯、歯石の形成を引き起こす尿素分解菌、プロテウス属、ウレアプラズマ属、クレブシエラ属、シュードモナス属、ブドウ状球菌属、プロビデンシア属、コリネバクテリウム属、特にピー・ミラビリスの泌尿器系感染の過程で感染性結石の形成を担う尿素分解菌、および生殖管、特にその下部感染を引き起こすマイコプラズマ、マイコプラズマ・ホミニスおよびユー・ウレアリティカムを含む群からの尿素分解菌の存在および/または活性に関連する症状である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
α−ケトグルタレートが、経口投与用処方、静注、洗浄液体、膣内錠剤、坐剤の形態または標的尿素分解菌の発生の特定部位への投与に適当なその他の形態で投与される、請求項20または21記載の方法。
【請求項23】
標的尿素分解菌の発生部位への局所投与に適当な形態のα−ケトグルタレートが、α−ケトグルタレートと混合可能かつ望ましくない医学的症状の治療に有益である他の活性成分と一緒に投与される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
予防されたまたは治療的処置された望ましくない医学的症状が、生物のピロリ菌の定着およびその結果、特に、胃潰瘍および十二指腸潰瘍、消化性潰瘍、胃リンパ腫、腸変性を伴う慢性萎縮性胃炎および胃癌などの疾患に関連する、請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
予防的または治療的処置が、腸尿素分解微生物叢の調節、組織の健全性を安定させることおよび感染後および悪液質疾患の場合に腸微生物叢のバランスをとることを含む、請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
予防的または治療的処置が、病原性尿素分解菌の胃の通過を阻害することを含む、請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
予防的または治療的処置が、口腔の尿素分解微生物叢を調節し、歯石の形成を軽減し、虫歯の発生を阻害することを含み、α−ケトグルタレートがチューインガムまたは歯科用ペーストの形態で投与される、請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
予防的または治療的処置が、泌尿器系における沈着物および感染性結石の形成を予防することを含む、請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
予防的または治療的処置が、魚類に感染を引き起こす尿素分解菌、特に、ウレアプラズマおよび他のマイコプラズマの増殖を阻害することを含む、請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
α−ケトグルタレートが、特定の尿素分解菌により引き起こされる鯉および鯉稚魚、ならびにその他の淡水魚および海水魚におけるえらの炎症に予防的に投与される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
予防的または治療的処置が、カテーテルおよびその他の医療器具におけるバイオフィルムの形成および沈着物の石化を軽減することを含む、請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
α−ケトグルタレートが、予防上または治療上有効な用量で、特に、0.001g〜0.2g/kg体重/日の用量で局所投与用に調整された量で経口投与される、請求項20〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
α−ケトグルタレートが、局所投与に適当な予防上または治療上有効な用量で、特に、0.01〜10g/m組織表面/日の用量で投与される、請求項20〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
細菌酵素によるリグニンおよびセルロースを含むバイオマスの変換に基づく有機バイオ燃料を製造する方法であって、食材性高等シロアリの後腸尿素分解微生物叢により産生される酵素がα−ケトグルタレートの存在下で用いられるところの、方法。
【請求項35】
α−ケトグルタレートが、該方法の収率を最低5%高めるのに十分な比率で用いられる、請求項34記載の方法。
【請求項36】
酵素が、破砕された尿素分解菌の細胞断片を含まない精製形態で用いられる、請求項34または35記載の方法。
【請求項37】
酵素が、非精製形態で、すなわち、破砕されたまたは尿素分解菌により放出された細菌細胞断片との混合物として用いられる、請求項34または35記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−532347(P2010−532347A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514670(P2010−514670)
【出願日】平成19年12月31日(2007.12.31)
【国際出願番号】PCT/PL2007/000086
【国際公開番号】WO2009/005379
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(510003302)
【氏名又は名称原語表記】Danuta KRUSZEWSKA
【Fターム(参考)】