説明

α−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの製造方法

【課題】 効率よく高純度α−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの製造方法を提供する。
【解決手段】 ビニルオキシ基含有ω−グリシジルエーテルを酸触媒の存在下にジオールと反応させて脱ビニル化することを特徴とするα−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの製造方法に関するものである。詳しく述べると、ビニルオキシ基含有ω−グリシジルエーテルとジオールとの脱ビニル化反応によるα−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
α−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルは、医農薬、塗料、半導体用UV硬化剤等の中間体として有用であることは公知であるが、その製造方法に関しては十分な検討がなされていなかった。従来、製造方法としては、
1) α,ω−アルカンジオールとエピハロヒドリンを硫酸、三弗化ホウ素エチルエーテル、四塩化錫等の酸性触媒の存在下に反応させて、モノハロヒドリンエーテルを製造し、次いで、このモノハロヒドリンエーテルを脱ハロゲン化水素剤と反応させて閉環せしめる2段階法、
2) α,ω−アルカンジオールとエピハロヒドリンとをアルカリ水酸化物を使用して一挙にα,ω−アルカンジオールのモノグリシジルエーテルを得る1段階法(特許文献1および2参照)が知られている。
【0003】
1)の2段階法は、α−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルを選択的に得るのは困難であり、より高度な重合物が生成する。すなわちα,ω−アルカンジオールとエピハロヒドリンからα−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルを製造する場合、両者の当量比が1に近いとより高度な重合物の生成反応が主となり、α−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの収率はかなり低い。
【0004】
また、該反応はα,ω−アルカンジオール過剰で行うため、その回収工程が必要になる。特に、α,ω−アルカンジオールが1,4−ブタンジオールの場合、その回収は通常、残渣の熱履歴を避けるために減圧下で行うが、1,4−ブタンジオールは回収工程時に酸触媒により分子内脱水し、テトラヒドロフラン(以下THFと称する)を副生する。THFが副生すると、その蒸気圧により減圧度が低下し、残渣が熱履歴を受け、製品の純度低下につながる。
【0005】
2)の1段階法は、反応生成物中に、多種の副反応生成物が混在し、目的とするグリシジルエーテルの分離・精製が難しいだけでなく、収率が極めて低く、さらに、アルカリ金属水酸化物水溶液を用いると、反応容器の効率低下、廃水処理等の問題があるとして、非水系でポリアルキレングリコール誘導体を共存させるという提案(特許文献3参照)もなされている。しかし、この方法では、未反応のα,ω−アルカンジオール原料が多量に残存し、製品の純度が低く、満足のいくものではなかった。
【0006】
すなわち、高純度α−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルは、通常、反応後水洗等によって副生塩を除去し、加熱によりエピハロヒドリンや水等の低沸物を留去した、いわゆる粗液のままで、又は、該粗液を蒸留精製してα−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの原料アルコール付加体、二量体及びα,ω−ジグリシジルエーテル等の副反応生成物が分離除去された、いわゆる精製液とした後、次の製品化反応、例えばα−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルのα位のヒドロキシ基をアクリレート化する反応の原料として利用する。
【0007】
この製品化反応に際して、α−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテル中に、未反応原料であるα,ω−アルカンジオールや、副反応生成物であるα−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの原料アルコール付加体等、分子中に2個以上のヒドロキシ基を有する化合物が存在すると、これらはジアクリレート等の分子中に2個以上のアクリレート基を有する化合物に変換され、架橋による性能劣化の原因となることが問題であった。また、上記蒸留精製に際しては、未反応原料α,ω−アルカンジオールが、分離性不良、回収中の環化(特に、1,4−ブタンジオールの場合)の原因となることも問題であった。
【0008】
さらに、種々の副反応生成物のうち、α−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの水和反応生成物であるα−ヒドロキシ−ω−(2,3−ジヒドロキシ)プロピルエーテルや、エピハロヒドリンの水和・脱ハロゲン化水素反応生成物であるグリシドールは、水溶性であって、水洗時に溶解除去されるので、粗液や精製液等の高純度α−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルには混入しないものの、原料α,ω−アルカンジオール及びエピハロヒドリンの歩留まりを低下させる問題がある。加えて、上記のグリシドールは、重合してオリゴマー、ポリマー等の副反応生成物を形成すると、水洗時に水層と油層の間に中間層を形成して、分離を困難にする問題もあった。
【0009】
このような問題点を解決する方法として、α,ω−アルカンジオールとエピハロヒドリンとを、アルカリ金属水酸化物の存在下に脱ハロゲン化水素反応させて、一段階でα−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルを製造するに際し、α,ω−アルカンジオールを1〜10倍モルのエピハロヒドリンに溶解した溶液に、該溶液中のα,ω−アルカンジオール1モルに対し0.9〜1.5モルのアルカリ金属水酸化物水溶液を徐々に供給し、温度25〜90℃、圧力3〜40kPa(絶対圧)の反応系から水とエピハロヒドリンとの共沸混合物を留出させ、凝縮分離したエピハロヒドリンを反応系に循環し、上記アルカリ金属水酸化物の供給及び/又は蒸留条件を調節して反応系の系内水分を2.0重量%以下に維持することを特徴とする高純度α−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの製造方法が知られている(特許文献4参照)。
【0010】
しかしながら、このような方法を、α,ω−アルカンジオールとして1,4−ブタンジオールを用いて本発明者らが追試したところ、モノグリシジルエーテル75モル%、ジグリシジルエーテル18モル%および未反応1.4−ブタンジオール3%であり、ジグリシジルエーテルの相当量の副生は避けられなかった。さらにこの混合物を、5段のオルダーショー型蒸留塔を用いてモノグリシジルエーテルの蒸留精製を行ったが、純度98%のモノグリシジルエーテルの蒸留収率は50%であり(比較例参照)、ジグリシジル体の相当量(10%以上)の副生は避けられないこと、および蒸留での精製負荷が大きいという問題点があった。
【特許文献1】特公昭42−20785号公報
【特許文献2】特開平8−99968号公報
【特許文献3】特開昭61−207381号公報
【特許文献4】特開2004−43389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、α−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの新規な製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、蒸留での分離に大きな負荷を要する副生物を生成することなく、高純度のモノグリシジルエーテルを高収率で得るα−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記諸目的は、下記(1)〜(11)により達成される。
【0014】
(1) ビニルオキシ基含有ω−グリシジルエーテルを酸触媒の存在下にジオールと反応させて脱ビニル化することを特徴とするα−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの製造方法。
【0015】
(2) 該脱ビニル化反応は、10〜50℃の温度で行なわれる前記(1)に記載の方法。
【0016】
(3) 該ビニルオキシ基含有ω−グリシジルエーテルは、一般式(1)で表わされるものである前記(1)または(2)に記載の方法。
【0017】
【化1】

【0018】
(ただし、式中、Rは炭素原子数2〜12の直鎖または分岐鎖アルキレン基またはシクロヘキシレン基を表わす。)
(4) 該酸触媒は、硫黄、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸および硫酸または酸イオン交換体よりなる群から選ばれた少なくとも1種の硫黄含有酸である前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の方法。
【0019】
(5) ジオールが炭素数2〜5のジオールである前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の方法。
【0020】
(6) 該ジオールが1,2−ジオールまたは1,3−ジオールである前記(5)に記載の方法。
【0021】
(7) 使用される1,2−ジオールがエチレングリコールまたは1,2−プロピレングリコールである前記(6)に記載の方法。
【0022】
(8) 該ビニルオキシ基含有ω−グリシジルエーテルが一般式(2)
【0023】
【化2】

【0024】
(ただし、式中、Rは炭素原子数2〜12の直鎖または分岐鎖アルキレン基またはシクロヘキシレン基を表わす。)で表わされるビニルオキシ基含有アルコールとエピハロヒドリンとの反応により得られるものである前記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の方法。
【0025】
(9) 該ビニルオキシ基含有アルコールとエピハロヒドリンとの反応は、アルカリ金属水酸化物の存在下に一段階で脱ハロゲン化水素反応により行なわれる前記(8)に記載の方法。
【0026】
(10) 該ビニルオキシ基含有アルコールとエピハロヒドリンとの反応は40〜80℃の温度で行なわれる前記(8)または(9)に記載の方法。
【0027】
(11) 該ビニルオキシ基含有アルコールが4−ビニルオキシブタノール、6−ビニルオキシヘキサノール、5−ビニルオキシ−3−メチルペンタノールおよび4−ビニルオキシメチルシクロヘキサン−1−メタノールよりなる群から選ばれた少なくとも1種のものである前記(9)〜(11)のいずれか一つに記載の方法。
【発明の効果】
【0028】
上記のように、本発明によるα−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの製造方法は、ビニル基含有ω−グリシジルエーテルを酸触媒の存在下に、ジオールと反応させて脱ビニル化することにより行なわれるが、低温で脱ビニル化を行なうことにより、生成したモノグリシジル体の熱履歴による劣化および二量体の副生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明によるα−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの製造方法は、ビニルオキシ基含有ω−グリシジルエーテルを酸触媒の存在下にジオールと反応させて脱ビニル化することにより行なわれる。
【0030】
使用する酸触媒としては、エポキシ基と反応する酸は使用できず、通常、硫酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸または酸イオン交換体等の硫黄含有酸等があり、これらのうちの1種または2種以上がある。
【0031】
脱ビニル化反応において、原則的には任意のアルコールを使用することができるが、有利に1,2−ジオールまたは1,3−ジオール、有利にはそのアセタールが反応生成物より低温で沸騰するこれらジオールを使用することができる。一般に、アルカンジオール、特にC〜C−ジオールを使用する。しかしながら、有利には1,2−プロピレングリコールおよび特に有利にはエチレングリコールを挙げることができる。1,2ジオールを一般に、ビニルオキシ基を有するω−グリシジルエーテルを基準にして、少なくとも当モル量好ましくは30%モル過剰までで、特に10%モル過剰までで使用する。
【0032】
該脱ビニル化反応において、硫黄含有酸の触媒量(使用ジオールの量を基準として500〜5,000ppmの存在下に実施する。
【0033】
該脱ビニル化反応は、一般に約10〜50℃、特に約20〜40℃で発熱的に進行する。冷却および/またはビニルオキシ基含有ω−グリシジルエーテルの供給速度をコントロールすることにより、この温度範囲に保持する。反応時間は一般に約1〜10時間、特に約1〜5時間である。
【0034】
この反応を、従来の冷却可能で、かつ加熱可能な、有利には蒸留装置およびコンデンサーを備えていてもよい撹拌反応器中で実施する。この反応は連続的にまたは回分式で実施することができる。これは好ましくは減圧下(0.1〜10kPa)で実施される。
【0035】
ジオールおよび酸触媒を反応装置中に装入し、かつビニルオキシ基含有ω−グリシジエーテルを反応条件下にゆっくりと添加する。フーベンバイル(Houben−Wevl, Method en der Organischen Chemie, [Methods in organic chemistry] VI/3,1965,p,329−330)により開示されたように、ビニルエーテルの1,2−ジオールでのアルコーリシスは、相当する環式アセタールを生じ、これは蒸留により容易に単離することができる。この蒸留を減圧下に、またはエアーストリッピングすることにより実施することができる。
【0036】
反応の終了後に、触媒を塩基で、例えばアルカリ金属酸化物または水酸化物、炭酸水素塩または炭酸塩またはアルカリ土類金属酸化物または水酸化物、炭酸水素塩または炭酸塩で、少量の水と共にまたは水なしで、中和し、分離除去することができる。なお存在する過剰のジオールを、同時に一緒に有利に抽出する。一般に、最終生成物はほぼ純粋で得られ、さらなる精製は必要ない。収集率は少なくとも95%である。減圧下での蒸留による付加的な精製は通常の方法で実施することができる。当該脱ビニル化反応も同様に行なうことができる。すなわち、反応中に形成されたアセタールを連続的に留去することで脱ビニル化反応を進行させる。
【0037】
本発明で使用されるビニルオキシ基を有するω−グリシジルエーテルは、一般式(1)
【0038】
【化3】

【0039】
(ただし、式中、Rは炭素原子数2〜12、好ましくは3〜8の直鎖または分岐鎖、好ましくは直鎖のアルキレン基またはシクロヘキシレン基を表わす。)で表わされる化合物である。
【0040】
ビニルオキシ基を有するω−グリシジルエーテルとしては、例えば、4−ビニルオキシブタノールグリシジルエーテル、6−ビニルオキシブタノールグリシジルエーテル、5−ビニルオキシ−3−メチルペンタノールグリシジルエーテル、4−ビニルオキシメチルシクロヘキサン−1−メタノールグリシジルエーテル等がある。
【0041】
しかして、脱ビニル化反応後は、一般式(3)
【0042】
【化4】

【0043】
(ただし、式中、Rは炭素原子数2〜12、好ましくは3〜8の直鎖または分岐鎖アルキル基を表わす。)で表わされるα−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルが得られる。
【0044】
反応液を蒸留することにより高純度のα−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルが得られる。
【0045】
本発明方法において、出発原料として使用されるビニルオキシ基含有ω−グリシジルエーテルは、ビニルオキシ基含有アルコールとエピハロヒドリンとの反応により得られる。該ビニルオキシ基含有アルコールは、一般式(2)
【0046】
【化5】

【0047】
(ただし、式中、Rは炭素原子数2〜12、好ましくは3〜8の直鎖または分岐鎖アルキル基またはシクロヘキシレン基を表わす。)で表わされる化合物である。
【0048】
なお、グリシジル化の出発原料として、ビニルオキシ基含有アルコールを使用するのは、エピハロヒドリンとの反応体において、α,ω−アルカンジオールの一方のヒドロキシ基を保護した該ビニルオキシ基含有アルコールをグリシジル化の出発原料として使用することによって、α,ω−アルカンジオールを出発原料とする場合のα,ωージグリシジルエーテル等のジオール由来の化合物の副生を避けることができる。しかも、ビニル基は、グリシジル化反応後、容易に低温で脱離することができ、目的生成物であるα−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテル(一般式(3))の熱履歴による二量化を防ぐことができる。
【0049】
該ビニルオキシ基含有アルコールとエピハロヒドリンとの反応は、脱ハロゲン化水素剤の存在下に一段階で脱ハロゲン化水素反応により行なわれる。該反応は、例えばエピハロヒドリン中にビニルオキシ基含有アルコールを溶解させ、生成する水をエピハロヒドリンとの共沸により系外に留出させて行なう。
【0050】
エピハロヒドリンの使用量は、ビニルオキシ基含有アルコールに対して理論的には等モルであるが、脱水剤として水を共沸させるために、使用する量も必要とするので、1モル以上を使用する。通常、ビニルオキシ基含有アルコール1モルに対してエピハロヒドリンが1〜10モル、好ましくは、1〜3モルの範囲である。1モル未満では、反応は十分に進行しない。一方、使用量が10モル以上であっても、目的物の収率をさらに向上させる効果はない。
【0051】
脱ハロゲン化水素剤としては、強アルカリが好適であり、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられる。中でも、水酸化ナトリウムが好ましい。他の弱アルカリ、例えば水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩もまた使用することができる。アルカリ金属水酸化物は、水溶液として用いることが好ましいが、場合によっては粉末若しくは固形の脱ハロゲン化水素剤を、水と同時に又は別々に加えることもできる。好ましくは10〜50%水溶液で添加するのが良く、より好ましくは20〜50%水溶液である。固体アルカリ金属水酸化物を使用する場合RNX等の相関移動触媒を併用することが好ましい。
【0052】
脱ハロゲン化水素剤として、アルカリ金属水酸化物の使用量はビニルオキシ基含有アルコール1モルに対して0.9〜1.5モルの範囲から選ばれ、1.0〜1.2モルが好ましい。該使用量がビニルオキシ基含有アルコールに対して上記下限モル比未満の場合には、グリシジルエーテル化されないハロヒドリンエーテル基が残存して純度が低下する。また、上記上限モル比を超えても無駄となるばかりでなく、さらに、グリシジルエーテルへ水が付加し、グリセリルエーテル化する等の副反応によって製品の純度が低下するため好ましくない。
【0053】
該脱ハロゲン化水素反応は、30〜90℃、好ましくは40〜80℃で、生成するハロゲン化水素を除去しながら行なわれる。
【0054】
上記脱ハロゲン化水素反応終了後、反応生成物からのα−ビニルオキシ−ω−グリシジルエーテルの単離は、常法によって行うことができる。例えば、必要に応じて炭化水素等の非水溶性溶媒を加えた後、水洗して副生塩を溶出除去した後、脱溶媒、脱水、微量に析出する塩の濾過を行うことによって目的のα−ビニルオキシ−ω−グリシジルエーテルを得ることができる。また、副生塩を除去する別法としては、濾過、遠心分離等の固液分離操作を行うことにより、目的のα−ビニルオキシ−ω−グリシジルエーテルを得ることもできる。
【0055】
水洗に用いる水の量は、副生塩を溶出するに十分な量が選択されるが、便宜的な使用量の基準は、原料ビニルオキシ基含有アルコールの量に対して1.5〜5重量倍が選ばれる。水の使用量が少なすぎると、副生塩の除去が十分出来ない。逆に、多すぎると、水洗分離に要する時間が長くなり、また、製品の収率が低下し、廃水中のCOD負荷が高くなる。二層分離に要する時間を短くするには、多量の溶媒が必要となる。
【0056】
水洗温度は20℃〜80℃であり、30〜55℃が好ましい。20℃以下の低温では、副生塩の溶解に時間がかかる。逆に、80℃以上の高温では、エポキシ環が水により一部開環し、α−ビニルオキシ−ω−グリシジルエーテルの収率及び純度が低下する。また、廃水中のCOD負荷が高くなる。水洗時間は通常5分間〜60分間である。
【0057】
水洗後、同温度範囲で静置、成層分離させる。分離後、水層を抜き出す。必要に応じて水洗を繰返すことによりエポキシ開環体等の親水性副産物を水層に除去することができる。油層を加熱脱水する。脱水はα−ビニルオキシ−ω−グリシジルエーテルが重合しないようにボトム温度を調節しながら減圧下で行うことが好ましい。脱水後、微量に析出する塩を濾過して、高純度α−ビニルオキシ−ω−グリシジルエーテル(粗液)を得る。
この粗液は(α−ビニルオキシ−ω−グリシジルエーテル)は、蒸留精製することなく、次の脱ビニル化(ビニルエーテル開裂)の原料として供することができる。副反応生成物である高分子量のエポキシ開環体化合物を若干量含有するが、アクリレート化用の中間体として利用する場合は、そのままアクリレート化反応を行うことができる。該アクリレート化反応後、蒸留精製を行い、不純物を除去すれば、架橋による性能劣化の問題のない、α−アクリロキシ−ω−グリシジルエーテルを取得することができる。
【0058】
用途によっては、より高純度の高純度α−ビニルオキシ−ω−グリシジルエーテル(精製液)を必要とする場合がある。その場合でも、上記の副反応生成物は、α−ビニルオキシ−ω−グリシジルエーテルと比較的良好に蒸留分離することができる。
【0059】

この場合の精製蒸留は、α−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの二量化(重合)防止の観点から、減圧下で行うことが好ましい。減圧度としては、ボトム温度をα−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの二量化(重合)が起こらない温度で蒸留が行えるように調節する必要がある。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における%は、特にことわらない限り質量基準で表わす。
【0061】
実施例1
[グリシジル化工程]
凝縮器および水分分離器を備えた300mlの攪拌式ガラス製反応器に、4−ビニルオキシブタノール58.1(0.5mol)g、エピクロルヒドリン92.5g、粒状水酸化ナトリウム20gおよびテトラメチルアンモニウムライド1.2gを仕込み、激しく攪拌しながら、反応温度60〜70℃、減圧下(10〜15kPa)で、生成する水をエピクルヒドリンと共沸させ、その蒸気を凝縮し、分離器にてエピクロルヒドリンは系内に循環し、水のみ系外へ除去しながら、1.5時間反応を行なった。留去した水の量は9gで、ほぼ理論量であった。
【0062】
30℃まで冷却後、反応混合物を濾過し、沈殿物を除き、沈殿物をエピクロルヒドリン50gで洗浄し、濾液と合わせた。この濾過液を減圧下で蒸留し、エピクロルヒドリンを留去し、回収した。
【0063】
残留オイルを常温まで冷却後、沈殿物を濾過により除去し、油性生成物を分析したところ、4−ビニルオキシブタノールグリシジルエーテルの含有量は79.2gで、収率は92モル%であった。
【0064】
[ビニルエーテル開裂工程]
蒸留装置を備えた300mlの攪拌式ガラス製反応器に、エチレングリコール31.0g、p−トルエンスルフォン酸30mgを仕込み、上記粗製4−ビニルオキシグリシジルエーテル(含有量79.2g)を、滴下した。
【0065】
反応器内の圧力を10kPaに、反応混合物の温度が35℃を超えないように、滴下をコントロールした。反応進行につれ、生成するアセタールを連続的に留去した。2時間反応後、酸化マグネシウム5mgを添加し、中和し、反応混合物を濾過し、沈殿物を除去した。濾液を高真空下で蒸留し、1,4−ブタンジオールモノグリシジルエーテル56.8gを得た(塔頂105−110℃/0.1kPa:純度98%:収率93モル%)。
【0066】
実施例2
[グリシジル化工程]
凝縮器および水分分離器を備えた300mlの攪拌式ガラス製反応器に、4−ビニルオキシブタノール58.1g(0.5mol)およびエピクロルヒドリン101gを仕込み、攪拌しながら反応系内の圧力を15kPaにし、温度を65〜70℃に、調整できるように48%水酸化ナトリウム水溶液を43gを滴下した。滴下に1時間を要した。その間、生成した水をエピクロルヒドリンと共沸させ、その蒸気を凝縮し、分離器にてエピクロルヒドリンは系内に循環し、水のみ系外へ除去した。滴下終了後、共沸脱水を1時間継続した。留去した水の量は31gでほぼ理論量であった。40℃まで冷却後、水100grを添加し、析出した塩を溶解した。静置、分液し、水層を除去後、油層を減圧下加熱して、未反応エピクロルヒドリンと水を留去した。
【0067】
残留オイルを常温まで冷却後、沈殿物を濾過により除去し、油性生成物を分析したところ、4−ビニルオキシブタノールグリシジルエーテルの含有量は78.3grで、収率は91モル%であった。
【0068】
[ビニルエーテル開裂工程]
上記粗製4−ビニルオキシブタノールグリシジルエーテル(含有量78.3g)を用いた以外は実施例1と同様にして、ビニルエーテル開裂反応を行い、1,4−ブタンジオールモノグリシジルエーテル56.2gを得た(塔頂105−110℃/1mmHg:純度98%:収率93モル%)。
【0069】
実施例3
[グリシジル化工程]
6−ビニルオキシヘキサノール72.1g(0.5mol)を用いた以外は、実施例2と同様にしてグリシジル化を行い、6−ビニルオキシヘキサノールグリシジルエーテルの粗製物(含有量90.1g:収率90モル%)を得た。
【0070】
[ビニルエーテル開裂工程]
上記粗製6−ビニルオキシヘキサノールグリシジルエーテル(含有量90.1g)を用いた以外は実施例1と同様にして、ビニルエーテル開裂反応を行い、1,6−ヘキサンジオールモノグリシジルエーテル66.8gを得た(塔頂115−120℃/0.1kPa:純度98%:収率92モル%)。
【0071】
比較例
[1,4−ブタンジオールのモノグリシジル化]
凝縮器および水分分離器を備えた500mlの攪拌式ガラス製反応器に、1,4−ブタンジオール44.1g(0.5mol)およびエピクロルヒドリン185g(2mol)を仕込み、攪拌しながら反応系内の圧力を150kPaにし、温度を65〜70℃に調整できるように48%水酸化ナトリウム水溶液を45.8g(0.55mol)を3時間かけて滴下した。その間、生成した水をエピクロルヒドリンと共沸させ、その蒸気を凝縮し、分離器にてエピクロルヒドリンは系内に循環し、水のみ系外へ除去した。滴下終了後、共沸脱水を0.5時間継続した。留去した水の量は32gであった。40℃まで冷却後、水100grを添加し、析出した塩を溶解した。静置、分液し、水層を除去後、油層を減圧下加熱して、未反応エピクロルヒドリンと水を留去した。
【0072】
残留オイルを常温まで冷却後、沈殿物を濾過により除去し、油性生成物68.4gを得た。
【0073】
この油性物を分析したところ、1,4−ブタンジオールモノグリシジルエーテルの収率は75モル%、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルの収率は18モル%であり、未反応1,4−ブタンジオールは3%であった。この油性生成物を60gを、5段のオルダーショー型蒸留塔を用いて、モノグリシジルエーテルの精製を行った。圧力0.1kPa、塔頂温度105−110℃の1,4−ブタンジオールモノグリシジルの留分25.0gを得た(純度98%、収率50%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルオキシ基含有ω−グリシジルエーテルを酸触媒の存在下にジオールと反応させて脱ビニル化することを特徴とするα−ヒドロキシ−ω−グリシジルエーテルの製造方法。
【請求項2】
該脱ビニル化反応は、10〜50℃の温度で行なわれる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該ビニルオキシ基含有ω−グリシジルエーテルは、一般式(1)で表わされるものである請求項1または2に記載の方法。
【化1】

(ただし、式中、Rは炭素原子数2〜12の直鎖または分岐鎖アルキレン基またはシクロヘキシレン基を表わす。)
【請求項4】
該酸触媒は、硫酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸および硫酸または酸イオン交換体よりなる群から選ばれた少なくとも1種の硫黄含有酸である請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
ジオールが炭素数2〜5のジオールである請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
該ジオールが1,2−ジオールまたは1,3−ジオールである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
使用される1,2−ジオールがエチレングリコールまたは1,2−プロピレングリコールである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該ビニルオキシ基含有ω−グリシジルエーテルが一般式(2)
【化2】

(ただし、式中、Rは炭素原子数2〜12の直鎖または分岐鎖アルキレン基またはシクロヘキシレン基を表わす。)で表わされるビニルオキシ基含有アルコールとエピハロヒドリンとの反応により得られるものである請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
該ビニルオキシ基含有アルコールとエピハロヒドリンとの反応は、アルカリ金属水酸化物の存在下に一段階で脱ハロゲン化水素反応により行なわれる請求項8に記載の方法。
【請求項10】
該ビニルオキシ基含有アルコールとエピハヒドリンとの反応は40〜80℃の温度で行なわれる請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
該ビニルオキシ基含有アルコールが4−ビニルオキシブタノール、6−ビニルオキシヘキサノール、5−ビニルオキシ−3−メチルペンタノールおよび4−ビニルオキシメチルシクロヘキサン−1−メタノールよりなる群から選ばれた少なくとも1種のものである請求項8〜10のいずれか一つに記載の方法。

【公開番号】特開2006−241081(P2006−241081A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59672(P2005−59672)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(591048508)伊藤忠ケミカルフロンティア株式会社 (3)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【Fターム(参考)】