説明

α−ヒドロキシアシルピリジンの製造方法

【課題】α−ヒドロキシアシルピリジンを微生物学的に製造する方法を提供する。
【解決手段】アシルピリジンからα−ヒドロキシアシルピリジンを著量生成し、蓄積する能力を有する微生物又はその処理物を作用させることにより、アシルピリジンからα−ヒドロキシアシルピリジンを微生物学的に製造する。微生物としては、例えば、クラブトレラ属、デルフティア属、シュードモナス属、又はコマモナス属の微生物を使用することができ、α−ヒドロキシアシルピリジンを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−ヒドロキシアシルピリジンの新規な製造方法、及びα−ヒドロキシアシルピリジンを製造することのできる微生物に関する。α−ヒドロキシアシルピリジンは、医農薬中間体を始め、各種ファインケミカルでの中間体として用いられ、産業上有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
化学的合成によってα−ヒドロキシアシルピリジンを製造する方法がいくつか知られている。例えば、3−アセチルピリジン N−オキサイドに無水酢酸を14時間、還流下で反応させることにより、6−ヒドロキシ−3−アセチルピリジンを得る方法(非特許文献1)があるが、収率が28%と低く、また、高温で長時間加熱を要するなど、工業的製造方法とは言いがたい。
【0003】
また、4−ベンゾイルピリジンに、アセチルハイポフルオライトを作用させ、生成した2−アセトキシ−4−ベンゾイルピリジンを加水分解することにより、2−ヒドロキシ−4−ベンゾイルピリジンを得る方法(非特許文献2)などが知られているが、アセチルハイポフルオライトは一般的な試薬カタログに収載されていない、非常に高価な試薬であり、また、爆発性を有する化合物であることから、工業的製造方法とは言いがたい。
【0004】
一般に、微生物を用いた微生物学的合成法は化学的合成法と比較して、温度、圧力等でマイルドな条件下で反応を行うことができるため、設備や安全性の点で有利である。しかしながら、α−ヒドロキシアシルピリジンを製造することのできる微生物は報告されておらず、また、微生物学的手法によるα−ヒドロキシアシルピリジンの製造方法も知られていない。
【非特許文献1】テトラへドロン(Tetrahedron)、2001年、第57巻、8841−8850頁
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティー(Journal of the American Chemical Society)、1987年、第109巻、3789−3790頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上記問題点を解決すべき鋭意検討を重ねた結果、一般式(1)で表されるアシルピリジンから、対応する一般式(2)で表されるα−ヒドロキシアシルピリジンを著量生成し、蓄積する能力を有する微生物又はその処理物を作用させることにより、一般式(1)で表されるアシルピリジンから、対応する一般式(2)で表されるα−ヒドロキシアシルピリジンを工業的に効率的に製造する方法を見出した。
本発明は、このような知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本発明は、一般式(1):
【化1】

(式中、Rはアシル基を示す。)
で表されるアシルピリジンに対して、そのα位にヒドロキシル基を導入する能力を有する微生物又はその処理物を作用させることを特徴とする、一般式(2):
【化2】

(式中、Rはアシル基を示す。)
で表されるα−ヒドロキシアシルピリジンの製造方法に関する。
【0007】
本発明の製造方法の好ましい実施態様においては、前記微生物が、クラブトレラ(Crabtreella)属、デルフティア(Delftia)属、シュードモナス属、又はコマモナス(Comamonas)に属する微生物である。
また、本発明の製造方法の別の好ましい実施態様においては、前記微生物が、クラブトレラ・スピーシーズ YGK−A443(FERM P−20939)、デルフティア・スピーシーズ YGK−A649(FERM BP−10389)、シュードモナス・プチダ YGK−703(FERM P−19700)、又はコマモナス・スピーシーズ YGK−141(FERM P−21232)である。
【0008】
また、本発明は、受託番号FERM P−21232である、コマモナス・スピーシーズ YGK−141にも関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明方法によれば、微生物を利用してアシルピリジンから対応するα−ヒドロキシアシルピリジンを製造することができ、この製造方法は工業的利用が可能であるため、医農薬中間体を始め、各種ファインケミカルでの中間体として有用なα−ヒドロキシアシルピリジンを効率的に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
前記一般式(1)及び一般式(2)において、Rはアシル基を示す。アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基などの脂肪族アシル基を、また、ベンゾイル基、ナフトイル基などの芳香族アシル基を挙げることができる。
【0011】
一般式(1)で表されるアシルピリジンとしては、2−アセチルピリジン、2−プロピオニルピリジン、2−ブチリルピリジン、2−イソブチリルピリジン、2−ベンゾイルピリジン、2−ナフトイルピリジンなどの、ピリジンの2位にアシル基を有する2−アシルピリジンを;3−アセチルピリジン、3−プロピオニルピリジン、3−ブチリルピリジン、3−イソブチリルピリジン、3−ベンゾイルピリジン、3−ナフトイルピリジンなどの、ピリジンの3位にアシル基を有する3−アシルピリジンを;4−アセチルピリジン、4−プロピオニルピリジン、4−ブチリルピリジン、4−イソブチリルピリジン、4−ベンゾイルピリジン、4−ナフトイルピリジンなどの、ピリジンの4位にアシル基を有する4−アシルピリジンを挙げることができる。
【0012】
一般式(1)で表されるアシルピリジンに対して、そのα位にヒドロキシル基を導入する能力を有する微生物又はその処理物を作用させることにより、一般式(2)で表されるα−ヒドロキシアシルピリジンを製造することができる。
すなわち、2−アシルピリジンに対しては、その6位にヒドロキシル基を導入する能力を有する微生物又はその処理物を作用させることにより、6−ヒドロキシ−2−アシルピリジンを得ることができる。3−アシルピリジンに対しては、その6位にヒドロキシル基を導入する能力を有する微生物又はその処理物を作用させることにより、6−ヒドロキシ−3−アシルピリジンを得ることができる。4−アシルピリジンに対しては、その2位にヒドロキシル基を導入する能力を有する微生物又はその処理物を作用させることにより、2−ヒドロキシ−4−アシルピリジンを得ることができる。
【0013】
本発明方法で使用される微生物は、アシルピリジンから対応するα−ヒドロキシアシルピリジンを著量生成し、蓄積する能力を有する微生物であればその起源は何ら問わない。本発明方法の好ましい態様においては、前記微生物が、クラブトレラ属に属する微生物、デルフティア属に属する微生物、シュードモナス属に属する微生物、又は、コマモナス属に属する微生物が好ましい。更に好ましい菌株としては、クラブトレラ・スピーシーズ YGK−A443(FERM P−20939)、デルフティア・スピーシーズ YGK−A649(FERM BP−10389)、シュードモナス・プチダ YGK−703(FERM P−19700)、又はコマモナス・スピーシーズ YGK−141(FERM P−21232)を挙げることができる。クラブトレラ・スピーシーズ YGK−A443は平成18年6月21日付けで、シュードモナス・プチダ YGK−703は平成16年2月24日付けで、コマモナス・スピーシーズ YGK−141は平成19年2月27日付けで、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(あて名:〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に上記受託番号で国内寄託されている。デルフティア・スピーシーズ YGK−A649は独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成16年7月27日付けで国内寄託された(国内受託番号:FERM P−20138)が、その後、平成17年8月2日付けで国際寄託に移行されている(国際受託番号:FERM BP−10389)。
【0014】
本発明方法において使用することのできるクラブトレラ・スピーシーズ YGK−A443(FERM P−20939)の菌学的性質は次のとおりである。
1.形態的・培養的性質(+は陽性、−は陰性を表す。)
(1)細胞形態:桿菌
(2)幅:0.7〜0.8μm
(3)長さ:1.5〜2.0μm
(4)胞子形成:−
(5)運動性:+
(6)コロニー形態:円形、周縁全縁、隆起状態レンズ状、表面形状スムーズ、不透明、クリーム色
【0015】
2.生理学的性質(+は陽性、−は陰性を表す。)
(1)グラム染色:−
(2)各培養温度での生育:37℃ +、45℃ −
(3)カタラーゼ:+
(4)オキシダーゼ:+
(5)酸/ガス産生(グルコース):−/−
(6)O/Fテスト(グルコース):+/−
(7)硝酸塩還元:+
(8)インドール産生:−
(9)ブドウ糖 酸性化:−
(10)アルギニンジヒドロラーゼ:−
(11)ウレアーゼ:−
(12)エスクリン加水分解:+
(13)ゼラチン加水分解:−
(14)β−ガラクトシダーゼ:+
(15)各種化合物の資化性
ブドウ糖:+
L−アラビノース:+
D−マンノース:+
D−マンニトール:+
N−アセチル−D−グルコサミン:+
マルトース:+
グルコン酸カリウム:−
n−カプリン酸:−
アジピン酸:−
dl−リンゴ酸:−
クエン酸ナトリウム:−
酢酸フェニル:−
(16)チトクロームオキシダーゼ:+
【0016】
3.化学分類学的性質
本菌株よりゲノムDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子(16S rDNA)の5’末端側塩基の配列を解析した。決定された塩基配列を配列表の配列番号1に示す。こうして得られた本菌株の16S rDNA塩基配列(配列番号1)を用いて、DNA塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)に対して相同性を検索し、近縁菌群と系統樹を作製した結果、本菌株はクラブトレラ属に属すると推定された。最も近縁であった基準株はクラブトレラ・サッカロフィラ(Crabtreella saccharophila)IAM12669[Accession No.238789]であり、相同率は99.0%であった。以上の結果より、本菌株をクラブトレラ・スピーシーズであると判定した。
【0017】
本発明方法において使用することのできるデルフティア・スピーシーズ YGK−A649(FERM BP−10389)の菌学的性質は次のとおりである。
1.形態的・培養的性質(+は陽性、−は陰性を表す。)
(1)細胞形態:桿菌
(2)幅:0.8μm
(3)長さ:1.5〜2.0μm
(4)胞子形成:−
(5)運動性:+
(6)コロニー形態:周縁全縁、隆起状態レンズ状、表面形状スムーズ、クリーム色
【0018】
2.生理学的性質(+は陽性、−は陰性を表す。)
(1)グラム染色:−
(2)各培養温度での生育:37℃ +、45℃ −
(3)カタラーゼ:+
(4)オキシダーゼ:+
(5)酸/ガス産生(グルコース):−/−
(6)O/Fテスト(グルコース):−/−
(7)硝酸塩還元:+
(8)インドール産生:−
(9)ブドウ糖 酸性化:−
(10)アルギニンジヒドロラーゼ:−
(11)ウレアーゼ:−
(12)エスクリン加水分解:−
(13)ゼラチン加水分解:−
(14)β−ガラクトシダーゼ:−
(15)各種化合物の資化性
ブドウ糖:−
L−アラビノース:−
D−マンノース:−
D−マンニトール:+
N−アセチル−D−グルコサミン:−
マルトース:−
グルコン酸カリウム:+
n−カプリン酸:+
アジピン酸:+
dl−リンゴ酸:+
クエン酸ナトリウム:−
酢酸フェニル:+
(16)チトクロームオキシダーゼ:+
(17)MacConkey寒天培地での生育性:+
【0019】
3.化学分類学的性質
本菌株よりゲノムDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子(16S rDNA)のうち5’末端側約500塩基の配列を解析した。決定された塩基配列を配列表の配列番号2に示す。こうして得られた本菌株の16S rDNA塩基配列(配列番号2)を用いて、DNA塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)に対して相同性を検索し、近縁菌群と系統樹を作製した結果、本菌株はデルフティア属に属すると推定された。最も近縁であった基準株はデルフティア・アシドボランス(Delftia acidovorans)IAM12409株〔Accession No.AB021417〕であり、相同率は99%であった。以上の結果より、本菌株をデルフティア・スピーシーズであると判定した。
【0020】
本発明方法において使用することのできるシュードモナス・プチダ YGK−703(FERM P−19700)の菌学的性質は次のとおりである。
1.形態的・培養的性質(+は陽性、−は陰性を表す。)
(1)細胞形態:桿菌
(2)幅:0.8〜1.0μm
(3)長さ:1.5〜2.0μm
(4)胞子:−
(5)運動性:+
(6)コロニー形態:円形、全縁滑らか、凸状、光沢あり、淡黄色
【0021】
2.生理学的性質(+は陽性、−は陰性を表す。)
(1)グラム染色:−
(2)培養温度:37℃ +、45℃ −
(3)カタラーゼ:+
(4)オキシダーゼ:+
(5)酸/ガス産生(グルコース):−/−
(6)O/Fテスト(グルコース):−/−
(7)硝酸の還元:−
(8)インドール産生:−
(9)グルコース 酸化性:−
(10)アルギニンデヒドロゲナーゼ:+
(11)ウレアーゼ:−
(12)エスクリン加水分解:−
(13)ゼラチン加水分解:−
(14)β−ガラクトシダーゼ:−
(15)各種化合物の資化性
グルコース:+
L−アラビノース:−
D−マンノース:−
D−マンニトール:−
N−アセチル−D−グルコサミン:−
マルトース:−
グルコン酸カリウム:+
n−カプリン酸:+
アジピン酸:−
dl−リンゴ酸:+
クエン酸ナトリウム:+
酢酸フェニル:+
(16)チトクロームオキシダーゼ:+
【0022】
3.化学分類学的性質
本菌株よりゲノムDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子(16S rDNA)のうち5’末端側約500塩基の配列を解析した。決定された塩基配列を配列表の配列番号3に示す。こうして得られた本菌株の16S rDNA塩基配列(配列番号3)を用いて、DNA塩基配列データベース〔MicroSeq Bacterial 500 Library V.0023(Applied Biosystems,CA,USA)〕に対して相同性を検索したところ、本菌株はシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)の16S rRNAとは相同率100%であり、シュードモナス・プチダの16S rRNAと一致した。以上の結果より、本菌株をシュードモナス・プチダであると判定した。
【0023】
本発明方法において使用することのできるコマモナス・スピーシーズ YGK−141(FERM P−21232)の菌学的性質は次のとおりである。
1.形態的・培養的性質(+は陽性、−は陰性を表す。)
(1)細胞形態:桿菌
(2)幅:0.6〜0.7μm
(3)長さ:1.0〜1.5μm
(4)胞子形成:−
(5)運動性:+
(6)コロニー形態:円形、周縁全縁、隆起状態レンズ状、表面形状スムーズ、透明度不透明、淡黄色
【0024】
2.生理学的性質(+は陽性、−は陰性を表す。)
(1)グラム染色:−
(2)各培養温度での生育:37℃ +、45℃ +
(3)カタラーゼ:+
(4)オキシダーゼ:+
(5)酸/ガス産生(グルコース):−/−
(6)O/Fテスト(グルコース):−/−
(7)硝酸塩還元:−
(8)インドール産生:−
(9)ブドウ糖 酸性化:−
(10)アルギニンジヒドロラーゼ:−
(11)ウレアーゼ:−
(12)エスクリン加水分解:−
(13)ゼラチン加水分解:−
(14)β−ガラクトシダーゼ:−
(15)各種化合物の資化性
ブドウ糖:−
L−アラビノース:−
D−マンノース:−
D−マンニトール:−
N−アセチル−D−グルコサミン:−
マルトース:−
グルコン酸カリウム:+
n−カプリン酸:+
アジピン酸:+
dl−リンゴ酸:+
クエン酸ナトリウム:+
酢酸フェニル:−
(16)チトクロームオキシダーゼ:+
【0025】
3.化学分類学的性質
本菌株よりゲノムDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子(16S rDNA)の5’末端側塩基の配列を解析した。決定された塩基配列を配列表の配列番号4に示す。こうして得られた本菌株の16S rDNA塩基配列(配列番号4)を用いて、DNA塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)に対して相同性を検索し、近縁菌群と系統樹を作製した結果、本菌株はコマモナス属に属すると推定された。最も近縁であった基準株はComamonas Nitrativorans ATCC23310株〔Accession No.AJ251577〕であり、相同率は96.5%であった。以上の結果より、本菌株をコマモナス・スピーシーズであると判定した。
【0026】
次に、本発明方法において使用することのできるクラブトレラ属、デルフティア属、シュードモナス属、及びコマモナス属に属する微生物の培養方法について、そして特に好ましい菌株である、クラブトレラ・スピーシーズ YGK−A443(FERM P−20939)、デルフティア・スピーシーズ YGK−A649(FERM P−20138)、シュードモナス・プチダ YGK−703(FERM P−19700)、及びコマモナス・スピーシーズ YGK−141(FERM P−21232)の培養方法について説明する。以下の培養方法は、微生物の菌体を増殖させて、α−ヒドロキシアシルピリジンの生成のための充分な菌体を得るために行うことができるが、この培養方法を行う際に培養系にアシルピリジンを加えることによって、α−ヒドロキシアシルピリジンを製造することも可能である。
【0027】
前記微生物の菌体を含む培養液の調製方法としては、(ア)炭素源及び窒素源を適宜添加した培地に微生物の菌体を接種して同一の該培地中で増殖させて培養液を得る方法、(イ)培養を段階的に行って培養液を得る方法、すなわち、前培養と本培養を組み合わせて培養液を得る方法が挙げることができるが、好ましくは(イ)の方法である。(イ)の方法は、まず、前培養として、炭素源及び窒素源を適宜添加した培地に前記微生物の菌株を接種して微生物を増殖させて、本培養で使用する微生物の確保を目的として第一段階の培養液(以下、前培養液という。)を得た後、次に、本培養として、容量を増大させた培地に前培養液を加えて、炭素源及び窒素源を適宜添加して微生物を培養することで蓄積反応に十分な酵素の産生を目的として第二段階の培養液(以下、本培養液という。)を得る方法である。前記微生物の菌体を含む培養液の調製方法は、これらの方法に限定されるものではなく、更に、3回以上の多段式の培養を組合わせて行うことも可能である。
【0028】
前記微生物を培養するための培地は、通常これらの微生物が生育可能な培地であれば特に制限はなく、一般的な微生物用の任意の公知培地を用いることができる。培地の炭素源及び窒素源としては、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、アミノ酸、有機酸、糖類、及び/又はイソニコチン酸などを使用することができる。また、必要に応じて、微量金属塩、ビタミン類、核酸関連物質、及び/又は無機塩類などを添加することもできる。
【0029】
炭素源及び窒素源の供給方法としては、(1)培地作成時にあらかじめ添加しておく方法、(2)微生物の増殖にあわせて、炭素源及び窒素源を連続又は間欠的に供給していく方法が挙げられるが、好ましくは(2)の方法である。前記(2)の方法は、微生物の増殖により消費した炭素源及び窒素源を追加していくため、微生物の濃度を高くすることができる利点がある。前記(2)の方法を更に具体的に説明すると、微生物が炭素源及び窒素源を消費する速度に合わせて炭素源及び窒素源を添加する方法などがある。例えば、微生物が生育するとともにpHが上昇し、かつ、炭素源及び窒素源を含む水溶液が酸性である場合、pHコントローラーを用いて、培養液のpHが一定になるように、炭素源及び窒素源を含む酸性の水溶液を添加すると、微生物の増殖の進行とともに、炭素源及び窒素源を少しずつ添加する方法を用いることができる。
【0030】
更に、培養の際に、前記微生物が有する、アシルピリジンから対応するα−ヒドロキシアシルピリジンを生成する能力を最大限に引き出すために、ピリジン化合物(ピリジンカルボン酸やアシルピリジン)を培地に添加して培養することもできる。特に効果が得られる物質はピリジンカルボン酸であり、具体的には、ピコリン酸、ニコチン酸、イソニコチン酸を挙げることができる。ピリジン化合物の添加量は、培地に対して0.01〜3.0w/v%、好ましくは0.1〜2.0w/v%である。本明細書において、w/vは質量/容量を、v/vは容量/容量を意味する。
【0031】
前記微生物の培養温度は、好ましくは10〜37℃、より好ましくは23〜32℃である。培養時の培地のpHは、好ましくは6.0〜10.0であり、より好ましくはpH6.5〜9.0である。培養は、好気的条件下で行うことが好ましく、液体培養時には通気及び撹拌を行うことが望ましい。培養時間は、好ましくは10時間〜1週間であり、より好ましくは1〜5日間であり、最も好ましくは、1〜4日である。
【0032】
本培養の進行とともに、菌体数も指数対数的に増加し、酵素生産量も増加していく。そして、本培養の後半には、生育速度の低下、及び酵素生産速度も低下し、それに伴い、炭素源及び窒素源の供給速度も緩やかになり、十分な菌体を得ることができ、本培養を終了する。本培養の終了は、炭素源及び窒素源の総添加量、培養時間、菌体の濃度、酵素生産量などからも判断することもできる。
【0033】
培養液中に増殖させた前記微生物の培養菌体を、次のα−ヒドロキシアシルピリジンの蓄積反応(目的物であるα−ヒドロキシアシルピリジンを生成させ、系内に蓄積させる反応)に用いることができる。例えば、
[i]得られた培養液はそのまま以下に述べる蓄積反応に使用してもよいし、
[ii]微生物を培養液から回収して蓄積反応に使用したり、又は
[iii]微生物の処理物を蓄積反応に使用することもできる。微生物の処理物とは、物理的(例えば、超音波、遠心分離など)又は化学的(例えば、界面活性剤、有機溶媒など)処理により、微生物の膜構造を部分的又は全体的に破壊する操作により得られた生成物を意味する。例えば、微生物の破砕物、粗酵素、精製酵素などを挙げることができる。
【0034】
本蓄積反応は、バッチ式でも、また、バイオリアクターなどを用いた連続式でも可能である。バッチ式反応の場合には、数時間から3日間で行うことができる。
【0035】
上述の[i]の場合を具体的に説明すると、上記の培養方法で増殖させた前記微生物を含む培養液に、直接、アシルピリジンを加え、対応するα−ヒドロキシアシルピリジンを系内に蓄積させる反応を開始させることができる。蓄積反応のpHは、好ましくはpH6.0〜10.0、より好ましくはpH6.0〜9.0であり、反応温度は、好ましくは10〜40℃、より好ましくは10〜35℃である。前記アシルピリジンの添加量は、培養液に対して好ましくは0.1〜5.0w/v%、より好ましくは0.5〜3.0w/v%である。アシルピリジンの添加は一度に行ってもよいが、高濃度のアシルピリジンによる反応阻害が見られる場合には少量ずつ分割して添加してもよい。
【0036】
対応するα−ヒドロキシアシルピリジンの蓄積反応は、培養により前記微生物が十分に増殖して、アシルピリジンから対応するα−ヒドロキシアシルピリジンへの変換能力が十分となった時点から開始することができる。しかしながら、前記微生物の増殖が十分でない培養初期段階でも、微生物の生育阻害が起こらない濃度範囲で培地にアシルピリジンを添加して、微生物の増殖と対応するα−ヒドロキシアシルピリジンの蓄積反応を同時に行うことができる。
【0037】
また、上述の[ii]の場合には、上記の培養方法で増殖させた微生物を、ろ過又
は遠心分離により培養液から回収して蓄積反応に使用することができる。すなわち、得られた微生物はアシルピリジンを含む生理食塩水、又は緩衝液などの水性溶媒に懸濁して反応に使用することができる。反応条件(pH、温度、アシルピリジンの添加量)は[i]の場合と同じである。
【0038】
更に、上述の[iii]の場合には、前記培養方法で増殖させ、回収した微生物の処理物は、アシルピリジンを含む水性溶媒に懸濁して反応に使用することができる。あるいは、微生物又はその処理物を公知の方法で適当な担体に固定化し、その固定化物を水性溶媒と接触させて反応に使用してもよい。前記微生物又はその処理物を使用した蓄積反応に用いる水性溶媒としては、生理食塩水、リン酸カリウム緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、ホウ酸−水酸化ナトリウム緩衝液などを挙げることができる。反応条件は、[i]の場合と同様である。
【0039】
以上のようにして得られた蓄積反応後の反応液から、必要に応じて、ろ過、又は遠心分離などにより微生物を除去した後、溶媒でα−ヒドロキシアシルピリジンを抽出して、α−ヒドロキシアシルピリジンを回収することができる。粗酵素、精製酵素などの処理物を使用した場合などでは菌体除去操作を省略することができる。また、クロマトグラフィーなどの公知の精製方法によりα−ヒドロキシアシルピリジンを回収することもできる。
【実施例】
【0040】
以下に代表的な実施例を示し、本発明の具体的な説明を行うが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。実施例において使用する培地組成を以下に記載する。
【0041】
(1)培地[A]
脱塩水1.0L中に酵母エキス1.0g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物4.3g、リン酸二水素カリウム4.2g、硫酸鉄(II)七水和物0.3g、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物0.3g、塩化マンガン(II)四水和物0.3g、硫酸マグネシウム七水和物0.5g、及びイソニコチン酸3.0gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを7.5に調整した培地。
【0042】
(2)培地[B]
脱塩水1.0L中に酵母エキス1.25g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物4.3g、リン酸二水素カリウム4.2g、硫酸鉄(II)七水和物0.3g、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物0.3g、硫酸マグネシウム七水和物0.5g、グルタミン酸ナトリウム5.0g、及びイソニコチン酸5.0gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを7.0に調整した培地。
【0043】
(3)培地[C]
脱塩水1.0L中に酵母エキス1.0g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物4.3g、リン酸二水素カリウム4.2g、硫酸鉄(II)七水和物0.3g、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物0.3g、塩化マンガン(II)四水和物0.3g、硫酸マグネシウム七水和物0.5g及びピコリン酸1.0gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを7.0に調整した培地。
【0044】
(4)培地[D]
脱塩水1.0L中に酵母エキス2.5g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物4.3g、リン酸二水素カリウム4.2g、硫酸鉄(II)七水和物0.3g、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物0.05g、塩化マンガン(II)四水和物0.05g、硫酸マグネシウム七水和物0.5g及びニコチン酸3.0gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを7.0に調整した培地。
【0045】
次に、実施例で使用するHPLCの分析条件を以下に記載する。
[HPLCの分析条件]
カラム;CAPCELL PAK C18 MGII (SHISEIDO) 4.6×250mm、
流速;1mL/分、
カラム温度;40℃、
検出波長;210nm、
移動相[X];アセトニトリル/水=5/95(v/v)(85%リン酸を加えてpHを2.0に調整)、
移動相[Y];アセトニトリル/水=10/90(v/v)(85%リン酸を加えてpHを2.0に調整)、
移動相[Z];アセトニトリル/水=30/70(v/v)(85%リン酸を加えてpHを2.0に調整)、
保持時間;表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
《実施例1:クラブトレラ・スピーシーズ YGK−A443の静止菌体を用いた6−ヒドロキシ−3−アシルピリジン及び2−ヒドロキシ−4−アシルピリジンの蓄積反応》
(1)前培養
培地[A]100mLを500mL容の三角フラスコに入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した後、フィルター滅菌したスクロース10%溶液2.5mLを添加した。この三角フラスコに、栄養寒天培地に維持したクラブトレラ・スピーシーズ YGK−A443の菌体を1白金耳接種し、27℃で27時間振とう培養して、前培養液を得た。
【0048】
(2)本培養
撹拌、通気、温度及びpH調整が可能な2L容のジャーファーメンターに培地[A]1Lを入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した後、フィルター滅菌したスクロース10%溶液25mLを添加した。このジャーファーメンターに、上記前培養液20mLを加え、撹拌及び通気を実施しながら27℃及びpH7.5で19時間培養を行った。その後、炭素源及び窒素源であるスクロース7.5%とイソニコチン酸10%を含む酸性の水溶液を、pHコントローラーを用いて培養液に添加した。すなわち、培養液がpH7.2になるように、炭素源及び窒素源を少しずつ添加し、培養を継続した。本培養を開始してから46時間目で、スクロース7.5%とイソニコチン酸10%を含む水溶液の添加総量が380mLになり、生育速度と酵素生産速度が低下したため、培養を終了し、本培養液を得た。
【0049】
(3)蓄積反応
上記本培養液10mLを遠心分離により集菌し静止菌体を得た。これに、各アシルピリジン〔3−アセチルピリジン(東京化成工業製)、3−プロピオニルピリジン(ジョンソン・マッセイ製)、3−ベンゾイルピリジン(和光純薬工業製)、4−アセチルピリジン(東京化成工業製)、4−プロピオニルピリジン(ジョンソン・マッセイ製)、4−ベンゾイルピリジン(東京化成工業製)〕をそれぞれ0.5w/v%を含む、pH7.0の0.1Mリン酸カリウム緩衝液を10mL加え、懸濁した。この懸濁液を50mL三角フラスコに入れ、撹拌を行いながら、27℃にて反応を開始した。その後、懸濁液のアシルピリジン濃度が0.5〜1.0w/v%の範囲に保たれるようにアシルピリジンを適宜添加し、α−ヒドロキシアシルピリジンの蓄積反応を行った。目的物の蓄積がほぼ終息した時点で蓄積反応を終了した(原料が3−アセチルピリジンの場合は55時間、3−プロピオニルピリジンは41.5時間、3−ベンゾイルピリジンは22時間、4−アセチルピリジンは44時間、4−プロピオニルピリジンは41.5時間、4−ベンゾイルピリジンは22時間)。
【0050】
得られたそれぞれの反応生成物をHPLC分析した時のα−ヒドロキシアシルピリジンの蓄積濃度と、消費したアシルピリジンに対するα−ヒドロキシアシルピリジンのモル変換収率を表2に示す(表2において、濃度及び収率の数値は%表示である。基質の3AcPyは3−アセチルピリジン、3ProPyは3−プロピオニルピリジン、3BzPyは3−ベンゾイルピリジン、4AcPyは4−アセチルピリジン、4ProPyは4−プロピオニルピリジン、4BzPyは4−ベンゾイルピリジンを意味する)。反応生成物は、HPLC−MS及びNMR分析により確認した。
【0051】
《実施例2:デルフティア・スピーシーズ YGK−A649の静止菌体を用いた6−ヒドロキシ−3−アシルピリジン及び2−ヒドロキシ−4−アシルピリジンの蓄積反応》
(1)前培養
培地[B]100mLを500mL容の三角フラスコに入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この三角フラスコに、栄養寒天培地に維持したデルフティア・スピーシーズ YGK−A649の菌体を1白金耳接種し、27℃で27時間振とう培養して、前培養液を得た。
【0052】
(2)本培養
撹拌、通気、温度及びpH調整が可能な2L容のジャーファーメンターに培地[B]1Lを入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。このジャーファーメンターに、上記前培養液20mLを加え、撹拌及び通気を実施しながら27℃及びpH7.0で培養を開始した。炭素源及び窒素源であるグルタミン酸4.0%とイソニコチン酸3.4%を含む酸性の水溶液を、pHコントローラーを用いて培養液に添加した。すなわち、培養液がpH7.0になるように、炭素源及び窒素源を少しずつ添加し、培養を継続した。本培養を開始してから25時間目で、グルタミン酸4.0%とイソニコチン酸3.4%を含む酸性の水溶液の添加総量が850mLになり、生育速度と酵素生産速度が低下したため、培養を終了し、本培養液を得た。
【0053】
(3)蓄積反応
上記本培養液10mLを遠心分離により集菌し静止菌体を得た。これに、各アシルピリジン〔3−アセチルピリジン(東京化成工業製)、3−プロピオニルピリジン(ジョンソン・マッセイ製)、3−ベンゾイルピリジン(和光純薬工業製)、4−アセチルピリジン(東京化成工業製)、4−プロピオニルピリジン(ジョンソン・マッセイ製)、4−ベンゾイルピリジン(東京化成工業製)〕をそれぞれ0.5w/v%を含む、pH7.0の0.1Mリン酸カリウム緩衝液を10mL加え、懸濁した。この懸濁液を50mL三角フラスコに入れ、撹拌を行いながら、27℃にて反応を開始した。その後、懸濁液のアシルピリジン濃度が0.5〜1.0w/v%の範囲に保たれるようにアシルピリジンを適宜添加し、α−ヒドロキシアシルピリジンの蓄積反応を39時間行った。目的物の蓄積がほぼ終息した時点で蓄積反応を終了した(原料が4−アセチルピリジンの場合は44時間、その他のアシルピリジンの場合は39時間)。
【0054】
得られたそれぞれの反応生成物をHPLC分析した時のα−ヒドロキシアシルピリジンの蓄積濃度と、消費したアシルピリジンに対するα−ヒドロキシアシルピリジンのモル変換収率を表2に示す(表2において、濃度及び収率の数値は%表示である。基質の3AcPyは3−アセチルピリジン、3ProPyは3−プロピオニルピリジン、3BzPyは3−ベンゾイルピリジン、4AcPyは4−アセチルピリジン、4ProPyは4−プロピオニルピリジン、4BzPyは4−ベンゾイルピリジンを意味する)。反応生成物は、HPLC−MS及びNMR分析により確認した。
【0055】
《実施例3:シュードモナス・プチダ YGK−703の静止菌体を用いた6−ヒドロキシ−2−アシルピリジンの蓄積反応》
(1)前培養
培地[C]100mLを500mL容の三角フラスコに入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この三角フラスコに、栄養寒天培地に維持したシュードモナス・プチダ YGK−703の菌体を1白金耳接種し、27℃で27時間振とう培養して、前培養液を得た。
【0056】
(2)本培養
撹拌、通気、温度及びpH調整が可能な2L容のジャーファーメンターに培地[C]1Lを入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。このジャーファーメンターに、上記前培養液20mLを加え、撹拌及び通気を実施しながら27℃及びpH7.0で培養を開始した。炭素源及び窒素源であるグルコース25%とピコリン酸25%を含む酸性の水溶液を、pHコントローラーを用いて培養液に添加した。すなわち、培養液がpH7.0になるように、炭素源及び窒素源を少しずつ添加し、培養を継続した。本培養を開始してから27時間目で、グルコース25%とピコリン酸25%を含む水溶液の添加総量が120mLになり、生育速度と酵素生産速度が低下したため、培養を終了し、本培養液を得た。
【0057】
(3)蓄積反応
上記本培養液10mLを遠心分離により集菌し静止菌体を得た。これに、各アシルピリジン〔2−アセチルピリジン(東京化成工業製)、2−ベンゾイルピリジン(東京化成工業製)〕をそれぞれ0.5w/v%を含む、pH7.0の0.1Mリン酸カリウム緩衝液を10mL加え、懸濁した。この懸濁液を50mL三角フラスコに入れ、撹拌を行いながら、27℃にて反応を開始した。その後、懸濁液のアシルピリジン濃度が0.5〜1.0w/v%の範囲に保たれるようにアシルピリジンを適宜添加し、α−ヒドロキシアシルピリジンの蓄積反応を行った。目的物の蓄積がほぼ終息した時点で蓄積反応を終了した(原料が2−アセチルピリジンは35.5時間、2−ベンゾイルピリジンは72時間)。
【0058】
得られたそれぞれの反応生成物をHPLC分析した時のα−ヒドロキシアシルピリジンの蓄積濃度と、消費したアシルピリジンに対するα−ヒドロキシアシルピリジンのモル変換収率を表2に示す(表2において、濃度及び収率の数値は%表示である。基質の2AcPyは2−アセチルピリジン、2BzPyは2−ベンゾイルピリジンを意味する)。反応生成物は、HPLC−MS及びNMR分析により確認した。
【0059】
《実施例4:シュードモナス・プチダ YGK−703の静止菌体を用いた6−ヒドロキシ−3−アシルピリジンの蓄積反応》
(1)前培養
培地[D]100mLを500mL容の三角フラスコに入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この三角フラスコに、栄養寒天培地に維持したシュードモナス・プチダ YGK−703の菌体を1白金耳接種し、27℃で27時間振とう培養して、前培養液を得た。
【0060】
(2)本培養
撹拌、通気、温度及びpH調整が可能な2L容のジャーファーメンターに培地[D]1Lを入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。このジャーファーメンターに、上記前培養液20mLを加え、撹拌及び通気を実施しながら27℃及びpH7.0で培養を開始した。炭素源及び窒素源であるグルコース12.5%とニコチン酸12.5%を含む酸性の水溶液を、pHコントローラーを用いて培養液に添加した。すなわち、培養液がpH7.0になるように、炭素源及び窒素源を少しずつ添加し、培養を継続した。本培養を開始してから26時間目で、グルコース12.5%とニコチン酸12.5%を含む水溶液の添加総量が210mLになり、生育速度と酵素生産速度が低下したため、培養を終了し、本培養液を得た。
【0061】
(3)蓄積反応
上記本培養液10mLを遠心分離により集菌し静止菌体を得た。これに、各アシルピリジン〔3−アセチルピリジン(東京化成工業製)、3−プロピオニルピリジン(ジョンソン・マッセイ製)、3−ベンゾイルピリジン(和光純薬工業製)〕をそれぞれ0.5w/v%を含む、pH7.0の0.1Mリン酸カリウム緩衝液を10mL加え、懸濁した。この懸濁液を50mL三角フラスコに入れ、撹拌を行いながら、27℃にて反応を開始した。その後、懸濁液のアシルピリジン濃度が0.5〜1.0w/v%の範囲に保たれるようにアシルピリジンを適宜添加し、α−ヒドロキシアシルピリジンの蓄積反応を行った。目的物の蓄積がほぼ終息した時点で蓄積反応を終了した(原料が3−アセチルピリジンの場合は46.5時間、3−プロピオニルピリジン及び3−ベンゾイルピリジンは72時間)。
【0062】
得られたそれぞれの反応生成物をHPLC分析した時のα−ヒドロキシアシルピリジンの蓄積濃度と、消費したアシルピリジンに対するα−ヒドロキシアシルピリジンのモル変換収率を表2に示す(表2において、濃度及び収率の数値は%表示である。基質の3AcPyは3−アセチルピリジン、3ProPyは3−プロピオニルピリジン、3BzPyは3−ベンゾイルピリジンを意味する)。反応生成物は、HPLC−MS及びNMR分析により確認した。
【0063】
《実施例5:コマモナス・スピーシーズ YGK−141の静止菌体を用いた6−ヒドロキシ−3−アシルピリジンの蓄積反応》
(1)前培養
培地[D]100mLを500mL容の三角フラスコに入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この三角フラスコに、栄養寒天培地に維持したコマモナス・スピーシーズ YGK−141の菌体を1白金耳接種し、27℃で27時間振とう培養して、前培養液を得た。
【0064】
(2)本培養
撹拌、通気、温度及びpH調整が可能な2L容のジャーファーメンターに培地[D]1Lを入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。このジャーファーメンターに、上記前培養液20mLを加え、撹拌及び通気を実施しながら27℃及びpH7.0で培養を開始した。炭素源及び窒素源であるクエン酸12.5%とニコチン酸12.5%を含む酸性の水溶液を、pHコントローラーを用いて培養液に添加した。すなわち、培養液がpH7.0になるように、炭素源及び窒素源を少しずつ添加し、培養を継続した。本培養を開始してから24時間目で、クエン酸12.5%とニコチン酸12.5%を含む水溶液の添加総量が200mLになり、生育速度と酵素生産速度が低下したため、培養を終了し、本培養液を得た。
【0065】
(3)蓄積反応
上記本培養液10mLを遠心分離により集菌し静止菌体を得た。これに、各アシルピリジン〔3−アセチルピリジン(東京化成工業製)、3−プロピオニルピリジン(ジョンソン・マッセイ製)、3−ベンゾイルピリジン(和光純薬工業製)〕をそれぞれ0.5w/v%を含む、pH7.0の0.1Mリン酸カリウム緩衝液を10mL加え、懸濁した。この懸濁液を50mL三角フラスコに入れ、撹拌を行いながら、27℃にて反応を開始した。その後、懸濁液のアシルピリジン濃度が0.5〜1.0w/v%の範囲に保たれるようにアシルピリジンを適宜添加し、α−ヒドロキシアシルピリジンの蓄積反応を行った。目的物の蓄積がほぼ終息した時点66時間で蓄積反応を終了した。
【0066】
得られたそれぞれの反応生成物をHPLC分析した時のα−ヒドロキシアシルピリジンの蓄積濃度と、消費したアシルピリジンに対するα−ヒドロキシアシルピリジンのモル変換収率を表2に示す(表2において、濃度及び収率の数値は%表示である。基質の3AcPyは3−アセチルピリジン、3ProPyは3−プロピオニルピリジン、3BzPyは3−ベンゾイルピリジンを意味する)。反応生成物は、HPLC−MS及びNMR分析により確認した。
【0067】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、Rはアシル基を示す。)
で表されるアシルピリジンに対して、そのα位にヒドロキシル基を導入する能力を有する微生物又はその処理物を作用させることを特徴とする、一般式(2):
【化2】

(式中、Rはアシル基を示す。)
で表されるα−ヒドロキシアシルピリジンの製造方法。
【請求項2】
前記微生物が、クラブトレラ(Crabtreella)属、デルフティア(Delftia)属、シュードモナス属、又はコマモナス(Comamonas)に属する微生物である、請求項1記載のα−ヒドロキシアシルピリジンの製造方法。
【請求項3】
前記微生物が、クラブトレラ・スピーシーズ YGK−A443(FERM P−20939)、デルフティア・スピーシーズ YGK−A649(FERM BP−10389)、シュードモナス・プチダ YGK−703(FERM P−19700)、又はコマモナス・スピーシーズ YGK−141(FERM P−21232)である、請求項1記載のα−ヒドロキシアシルピリジンの製造方法。
【請求項4】
受託番号FERM P−21232である、コマモナス・スピーシーズ YGK−141。

【公開番号】特開2008−263876(P2008−263876A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112672(P2007−112672)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000246398)有機合成薬品工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】