説明

α−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノース及びその製造方法

【課題】フルクトース残基がα結合した、フルクトースおよびグルコースからなる新規な二糖類を提供。
【解決手段】新規な二糖類は、フルクトース残基がグルコースにα結合により2−6結合したα−D−フルクトフラノシル(2→6)−D−グルコピラノースである。植物を切断したものに原料重量の1/10量以上2倍量以下の糖質を含むようにショ糖を添加し、ショ糖の浸透圧を利用して抽出して植物抽出エキスを得、該植物抽出エキスを自然発酵させることにより、発酵抽出エキス中にα−D−フルクトフラノシル(2→6)−D−グルコピラノースを生成させ、得られた発酵エキス中から該α−D−フルクトフラノシル(2→6)−D−グルコピラノースを採取する。該二糖類は難消化性である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、 α−フルクトシドを持つ新規二糖類及びその製造方法に関し、 詳しくはフルクトースおよびグルコースからなる二糖類であって、α結合したフルクトース残基を有する新規な、α−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノース及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルクトースとグルコースが2−6結合しフルクトース残基がβ結合したもの、即ち、β−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースは、ネオケスト−スの加水分解物から得られることが知られている(非特許文献1)。
【0003】
また、植物抽出エキスを自然発酵させ、生成されたオリゴ糖からβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを採取すること、及び糖質を含む溶液に対してβ−フルクトフラノシダーゼを作用させることにより、溶液からβ−D−フルクトピラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを採取することは本出願人が既に明らかにしている(特許文献1)。
【0004】
しかし、 フルクトース残基がα結合した、フルクトースおよびグルコースからなる二糖類は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3871222号
【非特許文献1】Journal of Chromatography A, 920 (2001) 299-308.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フルクトース残基がα結合した、フルクトースおよびグルコースからなる新規な二糖類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、植物エキス発酵液中の新規オリゴ糖について検索、分離し、 TOF−MS分析、メチル化糖のガスクロマトグラフィ−分析及びNMR解析を行った結果、いかなる標品とも一致しない未知の二糖類を検出した。この新規二糖類は植物エキス発酵液の発酵中に生成することが見いだされた。この二糖類は、フルクトース残基がグルコースにα結合により2−6結合した下記式(1)で表されるα−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノース(糖1とも呼ぶ)である。
【0008】
【化1】

【0009】
本発明の式(1)で表される二糖類の製造方法は、植物を切断したものに1/10量以上2倍量以下の糖質を含むようにショ糖を添加し、ショ糖の浸透圧を利用して抽出して植物エキス液を得、該植物エキス液を自然発酵させることにより、得られた植物エキス発酵液中にα−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを生成させ、生成されたα−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを採取することを特徴とする。
【0010】
本発明の二糖類の製造方法において、植物エキス発酵液中からα−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを採取する方法は、植物エキス発酵液を活性炭セライトカラムクロマトグラフィーに添加し、水で溶出してα−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを含むフラクションを得、該フラクションに対してHPLCによりα−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを分離することを特徴とする。
【0011】
本明細書において、「植物エキス液」とは発酵する前の植物の抽出液の意味で用いる。また、「植物エキス発酵液」とは植物の抽出液を発酵処理したものの意味で用いる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の前記式(1)で表される二糖類は、新規化合物として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】植物エキス発酵液を活性炭セライトカラムクロマトグラフィーに添加し、水で溶出した画分をさらにAmide−80(商品名、東ソー株式会社製)に添加して溶出した結果について、溶出時間とシグナル強度の関係を示すグラフである。
【図2】図1における溶出時間19.0〜22.0分のフラクションをODS−80Tsカラムを用いたHPLCを行って分離したものについて、溶出時間とシグナル強度の関係を示すグラフである。
【図3】糖1についてのPositiveイオンモードでの質量分析(MALDI−TOF−MS)のチャートを表す図である。
【図4】糖1についての 1H−NMR解析のチャートを表す図である。
【図5】糖1についての13C−NMR解析のチャートを表す図である。
【図6】糖1についてのCOSYのチャートを表す図である。
【図7】糖1についてのE−HSQCのチャートを表す図である。
【図8】糖1についてのHSQC−TOCSYのチャートを表す図である。
【図9】糖1についてのHMBCのチャートを表す図である。
【図10】糖1の消化性のグラフを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(植物エキス発酵液の製造方法)
植物エキス発酵液は、以下の様に製造される。植物原料としては、リンゴ、バナナ、イチゴ、ミカン、ミカンの皮、ナシ、パイナップル、ブドウ、等の果物、ニンジン、大根、ショウガ、ゴボウ、キャベツ、ホウレン草、タマネギ、トマト、キュウリ、セロリ、ピーマン、ブラックマッペモヤシ、エンドウモヤシ、ナス、レンコン、カボチャ、レタス、ニンニク、三つ葉、ウド、アスパラガス、シソ、カブ、アサツキ、白菜、サラダ菜、シュンギク、セリ、ニラ、等の野菜類、シイタケ、エノキタケ等のきのこ類、及び熊笹、クローバー、フキノトウ、タンポポ、オオバコ、スギ葉、パセリ、イタドリの若芽、ヨモギ、トドマツ葉等の山野草、昆布、ワカメ等の海藻類が挙げられ、これらの植物原料のうち2種以上、好ましくは、多種類が用いられる。
【0015】
上記植物原料の配合割合として、例えばリンゴでは植物原料総重量の0.1から50%、ニンジンでは0.1から50%、大根では0.05から40%、キャベツでは0.05から40%、セロリやキュウリでは0.01から30%、バナナ、タマネギ、ゴボウ、ホウレン草では0.01から30%とすることが望ましいが、特に制限されるものではない。
【0016】
これらの植物原料を1〜5cm幅、好ましくは1〜4cm幅、最も好ましくは2〜3cm幅に切断し、全ての原料を杉樽中に入れ、これに、ショ糖を混合し、圧搾せずに浸透圧を利用して、3日間から3週間抽出して植物エキス液を得る。ショ糖の混合割合については、全体として1/10量以上2倍量以下の糖質を含むようにし、好ましくは、植物原料とほぼ等量のショ糖を添加して混合することが望ましい。同時に、数ppm程度の濃度となるように若干量の食塩を添加混合してもよい。
【0017】
圧搾せずに回収した植物エキス液を37℃で暗所で保存すると主として酵母(例えば、Saccharomyces 属に属する微生物)および乳酸球菌(例えば、Leuconostoc 属に属する微生物)により自然発酵する。発酵後、さらに37℃で約半年間以上熟成させると褐色、粘稠性液体の植物エキス発酵液が得られる。
【0018】
(本発明の二糖類の分画、精製)
得られた植物エキス発酵液を活性炭セライトを充填したカラムクロマトグラフィーに通し、水で溶出することにより本発明の前記式(1)で表されるα−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノース(糖1)を含む溶出液を得ることができる。得られた溶出液をさらにHPLCを用いて前記式(1)で表される糖1を分離し、精製する。その後、凍結乾燥して、粉末状の精製された本発明の前記式(1)で表される糖1を得ることができる。
【実施例1】
【0019】
(植物発酵エキスの調製)
植物抽出エキスの原料として以下の配合の材料を2〜3cm幅に切断したものを使用した。
【0020】
リンゴ 植物原料総重量の20%
ニンジン 同 16%
大根 同 12%
キャベツ 同 10%
セロリ 同 9%
キュウリ 同 9%
バナナ 同 6%
玉ねぎ 同 6%
ゴボウ 同 6%
ホウレン草 同 6%
これらの植物原料全重量に対して、等量のショ糖を加えて一週間抽出し、得られた植物エキス液を自然発酵させた後、37℃で約半年間熟成させることにより、褐色の粘稠性の液状の植物エキス発酵液を得た。
【0021】
(未知の糖成分の分画、精製)
前記工程で得られた発酵後の植物エキス発酵液を活性炭セライトカラムクロマトグラフィー(4.5cm×35cm)に添加し、順次、水、5%エタノール、15%エタノールのステップワイズグラジエントで溶出した。
【0022】
水で溶出した画分をさらにAmide−80(商品名、東ソー株式会社製、カラムサイズ:7.8mm×30cm、溶出:80%アセトニトリル、カラム温度:80℃、流速:2mL/min、検出:示差屈折計)に添加して溶出した。その結果を図1に溶出時間とシグナル強度の関係を示すグラフとして表す。
【0023】
次いで、図1における溶出時間19.0〜22.0分のフラクション(図1において矢印で示すピークの部分)を分取し、該分取したフラクションをODS−80Tsカラム(商品名、東ソー株式会社製;カラムサイズ:4.6mm×25cmを4本つないだもの、溶出:蒸留水、カラム温度:室温、流速:0.3mL/min、検出:示差屈折計)を用いたHPLCを行った。その結果を、図2に溶出時間とシグナル強度の関係を示すグラフとして表す。図2における溶出時間53.5〜54.5分のフラクション(図2において矢印で示すピークの部分)を分取し、精製し、凍結乾燥粉末を得た。
【0024】
(化学構造の決定)
前記工程で得られた凍結乾燥粉末について、以下に示す機器分析を行い、その化学構造を以下のように決定した。
【0025】
前記工程で得られた単一の成分として単離された凍結乾燥粉末をPositiveイオンモードで質量分析(MALDI−TOF−MS)した結果、そのチャートを図3に示す。図3によれば、未知の成分は365の[M+Na]+ イオンピークを与えた。よって未知成分はヘキソース二糖類であることが確かめられた。該未知ヘキソース二糖類を糖1と呼ぶ。
【0026】
糖1を酸加水分解後、HPAEC分析し、構成糖を調査したところ、糖1はグルコースとフルクトースの比が1:1で遊離した。糖1を箱守の方法でメチル化しメタノール分解した試料をガスクロマトグラフィー分析した結果、メチル1,3,4,6−テトラ−O−メチル−D−フルクトフラノシド、メチル2,3,4−トリ−O−メチル−D−グルコシドが検出された。
【0027】
次に糖1を重水に溶解して次の1次元NMR解析を行った。 1H−NMR解析のチャートを図4に示し、13C−NMR解析のチャートを図5に示す。
【0028】
次に糖1を重水に溶解して以下の2次元NMR解析を行った。COSYのチャートを図6に、E−HSQCのチャートを図7に、HSQC−TOCSYのチャートを図8に、HMBCのチャートを図9に示す。
【0029】
以上の結果から糖1は、α−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースであると決定した。
【実施例2】
【0030】
(糖1の消化性)
ラット小腸アセトン粉末による本発明の糖1の分解性について下記のように試験した。
【0031】
ラット小腸アセトン粉末300mgに10mMリン酸緩衝液(pH7.0)2.7mLを加えてガラスホモジナイザーを用いてホモジナイズし、10,000xg、15分間4℃で遠心分離し、得られた上澄みを酵素液とした。該酵素液をマルターゼ活性として1mLあたり2.5ユニットとなるように希釈した。得られた希釈酵素液0.2mLと、前記実施例1で得られた糖1の1%水溶液1mLを混合し37℃で一定時間反応させて100℃で5分間加熱し、反応を停止した。
【0032】
図10に縦軸に糖の残存率(%)、横軸に反応時間をとった糖1(△で示す)の消化性の表すグラフを示す。比較のためマルトース(◆で示す)とショ糖(■で示す)の消化性を併せて表した。
【0033】
この試験の結果、本発明の糖1はほとんど分解されなかった。したがって、本発明の糖1は難消化性糖質であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の新規なα−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースは、二糖類のオリゴ糖であることから食品素材、医薬品素材の用途としての利用が期待できる。
【0035】
本発明の新規な二糖類は、難消化性糖質であるので、腸内環境の改善、および高血糖症状の改善や、高血糖を起因とする肥満症、糖尿病疾患の改善のための食品素材、医薬品素材の用途としての利用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるα−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノース。
【化1】

【請求項2】
植物を切断したものに1/10量以上2倍量以下の糖質を含むようにショ糖を添加し、ショ糖の浸透圧を利用して抽出して植物エキス液を得、該植物エキス液を自然発酵させることにより、得られた植物エキス発酵液中に請求項1に記載のα−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを生成させ、生成されたα−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを採取することを特徴とする二糖類の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の二糖類の製造方法において、α−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを採取する方法は、植物エキス発酵液を活性炭セライトカラムクロマトグラフィーに添加し、水で溶出してα−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを含むフラクションを得、該フラクションに対してHPLCによりα−D−フルクトフラノシル−(2→6)−D−グルコピラノースを分離することを特徴とする二糖類の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−246371(P2011−246371A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119877(P2010−119877)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【特許番号】特許第4674828号(P4674828)
【特許公報発行日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(303027335)大高酵素株式会社 (9)
【Fターム(参考)】