説明

α,β−不飽和C10アルデヒドの製造法

本発明は、以下の工程a)〜d):a)管型反応器で水性塩基の存在下、脂肪族C5アルデヒドをアルドール縮合してα,β−不飽和C10アルデヒドにする工程、b)管型反応器の排出物を、水性触媒相と有機生成物相に相分離する工程、c)有機生成物相を、α,β−不飽和C10アルデヒド、脂肪族C5アルデヒド、及び副生成物に分別する工程、d)反応水を除去するために水性触媒相の一部を排出し、新たなアルカリ溶液を補い、引き続き管型反応器へ返送する工程、を有する、脂肪族C5アルデヒドからα,β−不飽和C10アルデヒドを製造するための方法に関する。本発明の課題は、必要なエネルギー量がより少ない前記方法を開発することである。前記課題は、脂肪族C5アルデヒド及び/又はα,β−不飽和C10アルデヒドを液滴として水性塩基に分散させ、前記液滴のザウター直径が、0.2mm〜2mmであることにより解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C5アルデヒドのアルドール縮合、とりわけn−ペンタナールのアルドール縮合により、α,β−不飽和C10アルデヒド、とりわけ2−プロピルヘプテン−2−アールを製造する連続的な方法に関し、これは請求項1の上位概念である。
【0002】
このジャンルの方法は、DE 199 57 522から公知である。
【0003】
α,β−不飽和C10アルデヒドからは、完全な水素化によりデカノールが得られ、これは需要の大きい可塑剤用アルコールである。デセノールはデカン酸製造の中間工程であり、過酸エステル、洗浄剤、可塑剤、及び潤滑剤の生成に使用される。
【0004】
DE 101 08 474、DE 101 08 475、DE 101 08 476、及びDE 102 25 282には、とりわけC5アルデヒド、とりわけn−ペンタナールを反応させて、α,β−不飽和C10アルデヒドにできることが記載されている。アルドール縮合を行うための正確な条件は、開示されていない。ここにはただ、脂肪族C5アルデヒドからオクテナール、2−エチルヘキセン−2−アールと同じように、またn−ブタナール(ブチルアルデヒド)から、α,β−不飽和C10アルデヒドを製造できることが指摘されているのみである。
【0005】
脂肪族C5アルデヒドをアルドール縮合で反応させてα,β−不飽和C10不飽和アルデヒドにする場合、実用技術的には、塩基性の均一触媒をアルカリ溶液の形で、とりわけNaOH水溶液の形で使用するのが好ましい。アルドール化の第一反応工程では、C10ヒドロキシアルデヒド(C10アルドール)が生じ、このC10ヒドロキシアルデヒドから第二反応工程で水の脱離により不飽和C10アルデヒド(デセナール)が形成される。この反応は、2つの相(有機アルデヒド相、水性触媒相)が関与して進行するが、これら2つの相は実質的に混じり合うことはない。よって高い変換率と選択性を得るための前提となるのは、相間の物質移動障害を克服するため、2つの相互に混じり合わない液相を反応の間、相互に密接に接触させることである。そのため適切な方法技術的措置により、2つの相間にできるだけ大きい物質移動面を生成しなければならない。
【0006】
従来技術によれば、ペンタナール含有有機相と、水性触媒相との間の物質移動は、撹拌槽を用いる場合には激しい撹拌により、管型反応器を用いる場合には、乱流により保証される。
【0007】
WO 93/20034には、脂肪族C5アルデヒドを撹拌槽でアルドール縮合して、α,β−不飽和C10アルデヒドにすることが記載されている。触媒としては、120℃の反応温度で、約2%の水酸化ナトリウム溶液が使用される。この反応は連続的に撹拌槽で、有機相対水酸化ナトリウム溶液の相比が0.5対1〜5対1の範囲で行われる。順流(gerade Durchgang)で97%の変換率を達成するためには、50分の滞留時間が必要となる。好ましくは、30分の大量得時間で約70%の変換率が目標とされている。反応生成物からは、未反応のC5アルデヒドが蒸留により分離され、反応器に返送される。
【0008】
DE 199 57 522では、脂肪族C5アルデヒドを管型反応器で、水酸化ナトリウム溶液の存在下で反応させて、α,β−不飽和C10アルデヒドにしており、この管型反応器には、有機相が水酸化ナトリウム溶液に分散されており、その実施例によればこの管型反応器は、9.92超の負荷係数で稼働されている。ここで負荷係数Bは、以下のように定義される:
B=PD/PS
PD[Pa/m]は、稼働条件下での反応器の長さに対する圧力損失であり、PS[Pa/m]は、長さに対する圧力の単位を有する計算係数である。PSは、反応器中の全成分の物質流M[kg/s]対、稼働条件下の全成分の体積流V[m3/s]の比の値に、g=9.81m/s2を掛けたものとして定義される。
【0009】
この方法によりペンタナール変換率は、水酸化ナトリウム溶液/出発原料の比が約100対1の場合、96%超という高い空時収率に達する。
【0010】
WO 93/20034及びDE 199 57 522の方法には、実施するために必要となるエネルギーコストが非常に高いという欠点がある。これは、WO 93/20034での撹拌槽反応の場合には、撹拌装置の稼働性能によって、そしてDE 199 57 522から公知の管型反応では、乱流による流れ損失によって条件付けられる。
【0011】
よって本発明の課題は、冒頭で述べた種類の方法を発展させて、高い生成物収率で、かつ必要となるエネルギー投入量がより少なく行えるようにすることである。
【0012】
この課題は、脂肪族C5アルデヒド及び/又はα,β−不飽和C10アルデヒドを液滴として水性塩基に分散させ、その液滴のザウター平均直径が、0.2mm〜2mmであることによって解決される。
【0013】
従って本発明の対象は、脂肪族C5アルデヒドから、α,β−不飽和C10アルデヒドを連続的に製造する方法であって、以下の工程a)〜d):
a)管型反応器で水性塩基の存在下、脂肪族C5アルデヒドをアルドール縮合してα,β−不飽和C10アルデヒドにする工程、
b)管型反応器の排出物を、水性触媒相と有機生成物相に相分離する工程、
c)有機生成物相を、α,β−不飽和C10アルデヒド、脂肪族C5アルデヒド、及び副生成物に分別する工程、
d)反応水を除去するために水性触媒相の一部を排出し、新たなアルカリ溶液を補い、引き続き管型反応器へ返送する工程、
を含み、ここで
脂肪族C5アルデヒド及び/又はα,β−不飽和C10アルデヒドを液滴として水性塩基に分散させ、前記液滴のザウター平均直径が、0.2mm〜2mmである。
【0014】
本発明はとりわけ、出発原料、若しくは出発原料/生成物混合物が、上記規定の液滴サイズで水性塩基に分散されていると、反応相間の物質交換が特に効果的に行われるという知見に基づく。意外なことに、この液滴サイズにより混合モジュールのためのエネルギー量を非常に僅かに調節することができ、その上、高い物質交換、ひいては高い生成物収率が保証されることが判明した。
【0015】
本発明の範囲において混合モジュールとは、本発明による分散液を実現する受動的な構造物である。
【0016】
本発明による効果は、以下のように説明、若しくは解釈することができる。
【0017】
脂肪族C5アルデヒドのアルドール縮合は、分散相と連続相との相境界面に基づき、中間相反応として特定される。有機のC5アルデヒド相とは、分散相、水性NaOH相、連続相である。相境界面の大きさは、液滴直径と分散相の割合φに依存する。比相境界面積を、aとすると:
【数1】

【0018】
ここでdsは、すべての液滴について合計したザウター直径である。
【0019】
このザウター直径dsとは、分散性C5アルデヒド相の平均液滴直径である。液滴分布が細かくなればなるほど(ザウター直径がより小さくなるほど)、その分だけ交換面積は大きくなる。
【0020】
比相境界面積を計算するためには、ザウター直径が必要であり、これは専用の実験結果によって、又は文献から特定されるべきである(Coulaloglou CA. AICHE Journal, 22, No.2 (1976), pp. 289-295 ,10、及びR. K. Thakur at al. Trans IChemE, VoI 81 , 2003, pp. 787826)。
【0021】
撹拌した液/液系のためには、複数の著者が実験によって、ザウター直径特定のための一連の計算式を立てている。文献から公知の式の主要部により、以下の等式をまとめることができる。
【数2】

【0022】
ここで系依存の定数C1、及びC2は、C1について0.027〜0.081であり、C2については0.97〜23.3である。Weはウェーバー数であり、dRは撹拌機の直径である。ウェーバー数とは、分散力と境界力(Grenzkraft)の比の値である。
【数3】

【0023】
ここでnは撹拌回転数であり、ρは密度であり、σは表面張力である。
【0024】
撹拌機が組み込まれた撹拌槽を使用する場合、平均液滴直径を計算するために、以下の等式が利用できる:
【数4】

【0025】
類似の相関関係はあらゆる当業者に文献から公知であり、また液/液系分散のために、スタチックミキサ(例えばSulzer又はKenicksの混合機)を使用することも、公知である。
【0026】
低粘度の液体を分散させるため、例えばSulzer社のSMV型スタチックミキサが推奨される。
【0027】
SMV型のスタチックミキサについては、ザウターによる平均液滴直径dsは以下の関係により特定できる(Streift F.; Recent Prog. Genie Proc.11.No.51 (1997) p.307)。
【数5】

【0028】
式中、dhは、混合要素流路の水力直径である。
【0029】
ウェーバー数と、レイノルド数は、以下のように定義される:
【数6】

【0030】
式中、uは空管速度に対する液相の速度(m/s)であり、εは混合機の相対空隙体積であり、ηは連続相の動粘度(Pa*s)である。
【0031】
スタチックミキサによる流管での圧力損失は、液体の多相流について、一相流とほぼ同じように計算できる。
【数7】

【0032】
式中、ξは形状に依存する抵抗係数を表す。様々な形状のスタチックミキサについての抵抗係数の一覧は、専門文献に見られる(R.K.Thakur et all. Trans IChemE, VoI 81 , 2003, pp. 787 826)。
【0033】
長さに対する圧力PD(PD=Δp/L)、及び計算係数PSがわかれば(例えばDE 199 57 522に開示されている)、負荷パラメータBが計算できる。
【0034】
スタチックミキサに共通する特徴は、その水力挙動が詳細に調査されており、そのため公知なことである。この事実は、試験結果を大きなプラントでより安全に転用する(スケールアップする)ための鍵と考えられる。スタチックミキサの場合のスケールアップリスクは、厳密に定義された形状と供給流量により、非常に僅かである。このモデル転用のための基礎としては、2つの前提を無視することはできない。同一の物質値と、同一の形状類似性である。この転用基準は、体積に対する同一のエネルギー投入量、及び同一の流量条件を前提とする。スタチックミキサを用いる場合のエネルギー投入量はF. Streiff(Recents Progres en Genie des Procedes 11. No.51 , 1997)によれば、以下の等式により計算できる。
【数8】

【0035】
式中、Vmは混合機体積(m3)であり、Vは体積流量であり(m3/s)であり、dRは管直径である。Neは、ニュートン数であり、Sulzer社が圧力低下の計算に使用する偏差抵抗数である。個々の混合タイプについてのNe数は公知であり、表の形で分類されている。
【0036】
撹拌機のエネルギー投入量を評価するため、まず出力Pを公知の関係式(出力式)から計算する。
【数9】

【0037】
式中、Neは撹拌装置のニュートン数である。このニュートン数は、先のRe数に依存する。Ne数はNe−Reダイアグラムから、様々な撹拌系について得ることができる。このようなダイアグラムは、専門文献で複数の箇所で、例えば M. Zlokarnik著、Ruehrtechnik -Theorie und Praxis", Springer- Verlag, 1999に見られる。撹拌機性能、及び反応体積VRがわかっていれば、P÷VRの商から、体積に対するエネルギー投入量が計算できる。
【0038】
しかしながら、上記等式だけでは、α,β−不飽和C10アルデヒドの収率と選択性は計算できない。さらなる影響要素、例えば温度、相比、滞留時間、又は基本組成が欠けており、これらは同じように重要である。
【0039】
これについて、本発明は以下のことを教示する。
【0040】
脂肪族C5アルデヒドを96%超、α,β−不飽和C10アルデヒドに反応させるためには、以下のようにすればよいことが判明した:出発原料のC5アルデヒドを平均直径(ザウター直径)が0.2mm〜2mmの液滴で連続的な触媒相(工程アルカリ液)に分散させるための、少なくとも1つの混合モジュールを有する反応器で反応を行い、前記触媒相は、水酸化ナトリウム溶液及びカルボン酸のナトリウム塩から成り、そのナトリウム含分は0.6〜1.75質量%であり、そのpH値は12.5〜13.5の範囲である。
【0041】
本発明のさらなる有利な実施態様は従属請求項から、また以下の明細書から得られる。
【0042】
本発明による方法の利点は、順流及び僅かな比エネルギー消費での高い生成物収率にあり、ここでエネルギー消費はポンプ性能によって特定される。ポンプ性能が高ければ高いほど、それだけ圧力素損失も大きく、これと結びついた比エネルギー投入量も大きい。
【0043】
使用物質
本発明による方法では、3−メチルブタナール、n−ペンタナール、及びこれらの混合物を使用できる。これらの混合物は、最大10質量%、好適には5質量%未満、2−メチルブタナールを有することができる。好ましい出発原料は、2−メチルブタナールを10質量%未満、とりわけ5質量%未満含み、かつ3−メチルブタナールを3質量%未満含むn−ペンタナールである。極めて特に好適には、n−ペンタナール含分が少なくとも95%のC5アルデヒド混合物を使用する。
【0044】
しかしながら、上記混合物とは異なる組成のC5アルデヒド混合物も、本発明による方法で使用可能なことを指摘しておく。使用物質は例えば、ペンタノールを僅かな量で含んでいてよい。
【0045】
n−ペンタナールが多いC5アルデヒド混合物は、1−ブテン、2−ブテン、又はこれらの混合物(それぞれ、イソブテンを僅かな割合で含む)のヒドロホルミル化によって得られる。2−ブテンからn−ペンタナールを製造する方法は、例えばDE 10 2008 002187.3に記載されている。
【0046】
工程アルカリ液を形成するため、本発明による方法では水酸化ナトリウム溶液を使用する。この水酸化ナトリウム溶液は、残留アルカリ液とともに工程アルカリ液を形成する。この残留アルカリ溶液は、水酸化ナトリウムの他にカルボン酸のナトリウム塩、主にペンタン酸のナトリウム塩を含む。カルボン酸塩は基本的に、カニザーロ反応(Cannizzaro-Reaktion)によって生じるものである。
【0047】
本発明による方法では、工程アルカリ液のナトリウム含分は、反応器入口で0.60〜1.75質量%、とりわけ1.1〜1.20%である。工程アルカリ液のナトリウム濃度を調整するため、残留アルカリ液に、濃度が2.5質量%超の水酸化ナトリウム溶液を供給する。反応系になるべく水を入れないため、より高い濃度の水酸化ナトリウム溶液を使用するのが好ましい。本発明による方法では、好ましくは水酸化ナトリウム溶液を5〜30質量%の濃度範囲で使用し、例えば10質量%で用いる。
【0048】
スタチックミキサを有する管型反応器
本発明による方法は、少なくとも1つの混合モジュール、好ましくは複数の混合モジュールを有する管型反応器で行う。混合モジュールの数はとりわけ、1〜30個、極めて好ましくは10〜20個である。
【0049】
混合モジュールとは、スタチックミキサ、つまり、直接的にエネルギー供給を必要としない受動的な部材であると理解される。
【0050】
管型反応器は、1つの管から、好ましくは直角に調整された1つの管から成る。前記管は、下方から上方に、又はその逆に貫流させることができる。工業的な反応器はまた、U型管で相互に接続された、複数の平衡に配置された管から成っていてよい。
【0051】
好適には、反応器入口に混合モジュールがある。混合モジュールの間に、空っぽの空間がある。反応器の全体積に対する、1つ又は複数の混合モジュール外部の体積割合は、20〜80%、とりわけ30〜60%である。混合モジュールは、同一の、又は異なる間隔を相互に有していてよい。この混合モジュール間の間隔は好適には、流れ方向で減少する。混合モジュールの間隔は、企図する空管速度、出発原料相と触媒相との相比、反応の発展、及び混合機タイプに依存して、混合モジュール長の0.2倍〜5倍、とりわけ混合モジュール長の0.5倍〜2倍である。
【0052】
混合モジュールは、1つのスタチックミキサから成るか、又は複数の、好適には2つのスタチックミキサの配置から成る。
【0053】
混合モジュールが2つの同じスタチックミキサから成る場合、これらのスタチックミキサは好ましくは、反応器の長軸に対してねじれて配置されており、とりわけ45°〜最大90°の角度ねじれている。これらの混合要素は好適には、2つの管直径の間隔を有する混合モジュールに配置されている。
【0054】
混合モジュールはまた、構造様式が異なるスタチックミキサから成っていてよい。2つのスタチックミキサから成る混合モジュールの場合、第一のスタチックミキサの水力直径が、第二の水力直径よりも小さければ有利であり得る。ここで第一のスタチックミキサでは、できる限り小さな液滴が生成され、そして第二のスタチックミキサではそれより大きな水力直径を選択することにより、液滴クラスターの凝集が防止される。
【0055】
混合モジュールの混合要素の水力直径は、好適には流れ方向で減少する。
【0056】
反応器内で混合モジュールは同じであっても異なっていてもよい。すなわち、これらの混合モジュールは同一の、又は異なる構造様式であってよい。
【0057】
混合要素としては、所与の反応条件で、有機相を触媒相に、0.2〜2.0mmの範囲の平均ザウター直径を有する液滴で分散可能なあらゆるスタチックミキサが使用できる。
【0058】
本発明による方法ではスタチックミキサとして、2つの混合不能な低粘度の液体を分散させるために適した混合要素(例えば市販で得られるもの)が使用できる。
【0059】
反応条件
本発明によれば、脂肪族C5アルデヒドのアルドール縮合は、100〜150℃の温度範囲、とりわけ110〜140℃の温度範囲、極めて特に好適には120〜140℃の温度範囲で行う。
【0060】
反応は、上記温度範囲で等温的に、断熱的に、又はポリトロープで行うことができる。例えば反応器入口では120℃の温度が、そして反応器出口では140℃の温度が存在し得る。
【0061】
反応器での反応圧力は少なくとも、工程アルカリ溶液と有機物質の双方(出発原料及び生成物)が、それぞれ液体で存在する程度に高い。圧力は、0.2〜1.0MPaの範囲、好適には0.3〜0.5MPaの範囲である。
【0062】
本発明による方法では、工程アルカリ溶液対出発原料の量比[kg/kg]は、反応器入口で5〜40の範囲、とりわけ10〜15の範囲である。
【0063】
出発原料と工程アルカリ溶液とから得られる混合物の平均空管速度は、(2つの相が同一の流速という前提で)工業的な反応器で0.5〜4m/秒の範囲、とりわけ1〜2.5m/秒の範囲である。
【0064】
反応器における反応混合物の平均滞留時間は、40〜360秒、とりわけ60〜180秒である。
【0065】
本発明による方法において、工程アルカリ溶液に分散された有機相の液滴は、混合モジュールを出た後、平均ザウター直径が0.2mm〜2mm、とりわけ0.6〜1.3mmである。
【0066】
負荷係数は、0.2〜0.8の範囲にある。
【0067】
後処理
反応排出物は冷却し、有機相をアルカリ液の相から分離する。本発明による方法では、60〜130℃の温度範囲、とりわけ70〜120℃の範囲、極めて特に90〜110℃の範囲で相分離を行う。分離時間は、選択する温度に応じて、3〜10分である。90℃超の温度では、分離時間は8分未満である。分離時間とは、有機有価生成物相が透明になり、異質な水の痕跡量が含まれなくなるまでの時間と定義される。
【0068】
重い水相を、軽い有機層から容易に分離するため、重力のみを利用する相分離が可能な分離器を使用することができる。これらのいわゆる重力分離器はまた、分離性能を向上させるための、凝集に必要となる措置としての構造物とともに実施できる。構造物の使用により、凝集工程及び沈降工程が促進される。凝集補助物としては例えば、プレート、不規則充填物、網状充填物、又は繊維床分離器が使用できる。重力分離器は、横置きの容器として、又は縦置きの容器として実施できる。
【0069】
重力分離器に代えて、液−液分離のためには、遠心分離の原理による分離器も使用できる。この際、回転式トロンメルにおける遠心力により、重い相が分離される。
【0070】
重い水相を分離するため、本発明による方法では好適には、好適には重力分離器を使用し、好ましくは構造物を有する横置き容器として実施される重力分離器を用いる。
【0071】
分離されたアルカリ液相の一部は、反応水を除去するために排出し、残部は反応器に返送する。排出流によって、副生成物として形成されるカルボン酸の一部(ナトリウム塩として)、及び水酸化ナトリウムも分離される。これらの流れは、水浄化プラント(Klaeranlage)に供給することができる。しかしながらまた、これらの流れを後処理して、一部を工程に返送することも、例えばDE 198 49 922及び DE 198 49 924に記載されている。
【0072】
有機相がα,β−不飽和C10アルデヒドや僅少量の未反応出発原料の他に、他の副生成物、例えばカルボン酸塩、水酸化ナトリウム、及び溶解された水を含む場合、塩基の痕跡量、及びカルボン酸塩の一部は、水洗によって除去することができる。この際に生じる水抽出物は、新たなアルカリ液の投入のために使用することができる(図1〜4で符号化されていない)。
【0073】
純粋なn−ペンタナールを出発原料として使用する場合、有機生成物相は、2つのデセナール、すなわちシス体及びトランス体の2−プロピルヘプテン−2−アールを含む。
【0074】
使用されるn−ペンタナールが、2−メチルブタナール及び/又は3−メチルブタナールを含む場合、この有機相は最大8つのさらなるα,β−不飽和C10アルデヒドを含み得る。
【0075】
有機相は、蒸留により後処理することができる。分離したC5化合物は、部分的に反応器に返送することができる。
【0076】
α,β−不飽和C10アルデヒドは、(選択水素化及び酸化による)デカン酸製造のため、又は(完全水素化による)デカノール製造のために使用できる。
【0077】
デカノール製造の場合、任意で原料混合物を水素化し、水素化の後に蒸留分別を行うことができる。
【0078】
本発明のさらなる選択肢は、反応器を出た後、かつ相分離より前に反応混合物を短路蒸留(Kurzdestillation)に供することである。ここで熱い反応混合物が、容器内で放圧される。留出物としては、水と主にC5化合物から得られる混合物が生じ、この化合物は完全に、又は部分的に反応器に返送できる(留出物の分離、及び有機留出物の一部の返送は、図3及び4には符号化されていない)。このような方法は例えば、DE 199 56 410に記載されている。
【0079】
変法
図1〜4を用いて、本発明を以下より詳細に説明する。
【0080】
本発明による方法で実施可能な実施例のブロック図が、図1に示されている。ペンタナール供給流(1)は、複数のスタチックミキサによって管型反応器(2)へと導入される。この反応器を出た反応混合物(3)は、分離容器(4)で目的生成物を有する有機相(5)と、アルカリ液相に分離され、このアルカリ液相のうち一部(6)は排出され、残部(7)は新たなアルカリ溶液(8)と一緒に流れ(9)として反応器(2)に返送される。
【0081】
図1では、任意でペンタナール供給流(1)を循環ポンプ(P)の後で流れ(9)と一緒に導入し、反応器に導入することができる。
【0082】
図2は、本発明による方法のさらなる実施態様を示す。図2による変法が図1による変法と異なるのは、ペンタナール供給流(1)が、循環ポンプの前でプラントに導入されていることである。2つの相を激しく混合することにより、すでに循環ポンプでは部分的な反応が起こり、これにより反応器での滞留時間が短縮できる。この効果は、ジャイロポンプの場合に特に優れている。
【0083】
図3による変法が図1の実施態様と異なるのは、反応混合物(3)を、容器(4)での相分離の前に短路蒸留にかけることである。図4による変法は、上述の点で図2の変法と異なる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明による方法で実施可能な実施例のブロック図である。
【図2】出発原料を循環ポンプの前で供給する、本発明による方法の一実施態様である。
【図3】蒸留を用いる本発明の一実施態様である。
【図4】出発原料を循環ポンプの前で供給して蒸留にかける、本発明の一実施態様である。
【0085】
実施例
以下の実施例により、本発明を説明する。
【0086】
試験装置/試験評価
本発明の方法によるC5アルデヒドのアルドール縮合は、図1に図式的に示した変法に相当する試験プラントで行った。
【0087】
連続的な触媒相7及び8(水酸化ナトリウム溶液)を、循環ポンプPによって循環に導入する。水性触媒相に、C5アルデヒド(n−ペンタナール)、又はC5アルデヒド混合物(n−ペンタナール/2−メチルブタナール)を、導管1を通じて添加混合した。アルデヒドの供給は、図2に示したようにポンプの前で行うこともできる。こうして水性触媒相と有機アルデヒド相から得られる多相混合物を、特殊鋼製の管型反応器2で変換した。
【0088】
反応器の後に生じる液体流(生成物相と触媒層)3を、相分離容器4に導入する。ここで水性触媒相(下相)を除去し、導管7によって再び循環に供給する。相溶器の堰(Wehr)を介して流れる有機相(上相:反応生成物含有相)は、導管5によって取り出すことができる。形成された反応水は、導管6によって連続的に排出することができる。反応水の排出による水酸化ナトリウム溶液の損失を補うため、導管8を介してpH値調節ポンプで連続的に新たな10%の水酸化ナトリウム溶液を計量供給する。
【0089】
新たな水酸化ナトリウム溶液の計量供給により、水性触媒相のpHが試験の間、12.70±0.10の値に一定に維持されることを保証した。
【0090】
反応熱は、反応器の外部にある熱交換器を介して(図1には図示せず)排出した。
【0091】
比較対象とする本発明によらない、脂肪族C5アルデヒドのアルドール縮合を実施するため、実施例1に示したように、スタチックミキサで充填された管型反応器の代わりに、撹拌式反応器を使用した。
【0092】
実施例1〜5に添付した表1〜5には、表の冒頭にC5アルデヒド縮合の反応条件が記載されている。各実施例の表の下半分には生成物の組成が、同様にGC分析の質量%で挙げられている。概要をよりよく把握するため、各C10アルデヒド若しくはC10ヒドロキシアルカナール(アルドール)の間の区別はしない。これらの値は、「2−プロピルヘプテナール」若しくは「C10アルドール」としてまとめてある。同様に、アルドール化の副生成物、例えば3つ若しくは4つのC5アルデヒドのアルドール反応(付加と縮合)から生じる三量体及び四量体は、「高沸点成分」としてまとめてある。
【0093】
物質データと先に記載の等式及び相関関係から、ザウター直径及びエネルギー投入量を各試験について算出した。これら2つのパラメータは、同様に表に記載されている。密度と表面張力についての値は、専門文献から読み取ることができるが、本願の場合、密度はほぼ1000kg/m3であり、表面張力は約40×10-3N/mである。
【0094】
実施例1(比較例)
撹拌式反応器中でのn−ペンタナールからの2−プロピルヘプテナールの製造
2−プロピルヘプテナールを、n−ペンタナールの縮合により、10個の混合チャンバを有する抽出塔(体積2.1リットル)形態の撹拌式反応器中で製造した。前記混合チャンバは、撹拌軸に取り付けられた4枚羽根の撹拌機(直径68.1mm)を備えるものである。連続的な触媒相(2%の水酸化ナトリウム溶液)は、循環ポンプを用いて循環に導入した。出発原料のn−バレルアルデヒドを、100lの槽(出発原料装入器)から取り出し、反応器入口の前にある細いキャピラリーを用いてNaOH循環に連続的にポンプ輸送した。生成物相及び水性触媒相からの混合物は、反応器の後、相分離容器に供給した。相分離容器で、有機生成物相を触媒層から分離した。生成物相の分離後、水相をNaOH循環に供給した。
【0095】
触媒循環量(2.0%の水性NaOH、pH12.85)は、あらゆる試験で80l/hだった。出発原料のn−ペンタナールを、8l/hの流量で(有機相対水相の相比(PV)は1対10に相当)、NaOH循環に供給した。出発原料は、n−ペンタナールを98.3質量%、副成分を1.7質量%(この副成分中、C10アルドールが0.2質量%、高沸点成分が0.3質量%)含んでいた。
【0096】
表1には、130℃、圧力4barで、様々な撹拌回転数(単位:1分あたりの回転数、Upm)におけるn−ペンタナールのアルドール化の結果が示されている。連続的な稼働では、3時間の試験時間後、静止状態で以下の結果が得られた。
【表1】

【0097】
表1から読み取れるように、生成物排出部で>92質量%という高い2−プロピルヘプテナール含分を達成するためには、500Upm超という高い撹拌回転数が必要となる。より高い撹拌回転数によって明らかに、分散性有機相と水相との混合が改善される。1000Upm超の撹拌回転数では、達成可能なn−ペンタナールの変換率に対して、回転数の影響は認められない。撹拌式反応器に対する相関関係から算出されるザウター直径は、撹拌回転数に依存して、0.025〜0.13mmの間である。
【0098】
実施例2
この実施例が記載しているのは、n−ペンタナール(n−バレルアルデヒド)から2−プロピルヘプテナール(1+1生成物)へとアルドール縮合するため、及びn−ペンタナールを2−メチルブタナールと共縮合して十字型生成物(1+2生成物)の2−プロピル−4−メチルヘキセナールにするための本発明による方法である。
【0099】
反応器としては、総体積が6.8l、長さが3mのDN15型の管(内径17.3mm)を使用した。管型反応器の総体積の約50%が、水力直径2mm、相対空隙体積0.80のスタチックミキサにより充填されていた。混合要素は、十字に交差する開放流路を形成する波形の襞から形成されている。混合長の間隔を有する各混合要素は、互いに90°ねじれて管型反応器に配置されていた。スタチックミキサの使用により、反応混合物の不均質性は、管断面全体にわたって解消されていた。
【0100】
試験のための出発物質としてはC5アルデヒド混合物を使用し、前記混合物は、n−ペンタナール94.5質量%、2−メチルブタナール5.0質量%、並びに副成分0.6質量%(この中に高沸点成分が0.1質量%含まれている)から成っていた。
【0101】
触媒相(2.1%の水性水酸化ナトリウム溶液、pH値12.98)の循環量が80l/hの場合、図1に記載のように、スタチックミキサで充填された反応器に入る直前、2l/hの流量で出発原料を、110℃、120℃、及び130℃という3つの異なる温度で導入した。
【0102】
選択された反応条件下では反応器長にわたって、0.049barという圧力損失Δpが測定された。二相システム(n−ペンタナールと2%の水性水酸化ナトリウム溶液)についての物質データにより、前述の等式を用いて、分散性有機相の平均液滴直径(ザウター平均直径ds)は0.91mmと算出された。
【0103】
表2の下半分に記載の結果は、3時間後、静止状態で得られたものである:
【表2】

【0104】
表2から読み取れるように、有用生成物の2−プロピルヘプテナール含分は、110℃から130℃への温度上昇に伴い、73.21質量%から86.26質量%へと明らかに向上する。これに対して、第二の有価生成物2−プロピル−4−メチルヘキセナール(n−ペンタナール/2−メチルブタナールのアルドール縮合による十字型生成物)の温度依存性は、明らかに低いことがわかる。
【0105】
撹拌式反応器でのアルドール化試験に比較して(実施例1、表1のIIの列とIIIの列参照)、スタチックミキサを使用した場合(表2のIIIの列参照)、同程度の変換率が得られながら、エネルギー投入量が97〜780倍少なくなる。
【0106】
実施例3
この実施例が記載しているのは、n−ペンタナール(n−バレルアルデヒド)から2−プロピルヘプテナール(1+1生成物)へとアルドール縮合するため、及びn−ペンタナールを2−メチルブタナールと共縮合して十字型生成物(1+2生成物)の2−プロピル−4−メチルヘキセナールにするための本発明による方法である。実施例2とは異なり、反応器としては長さ3mの管ではなく、長さが4m、総体積が9.1lのDN15管(内径17.3mm)を使用した。この実施例でも、管型反応器の総体積の約50%が、水力直径2mm、相対空隙体積0.80のスタチックミキサにより充填されていた。
【0107】
試験のための出発物質としてはC5アルデヒド混合物を使用し、前記混合物は、n−ペンタナール93.7質量%、2−メチルブタナール5.2質量%、並びに副成分1.1質量%(この中にC10アルドール0.8質量%と、高沸点成分が0.1質量%含まれている)から成っていた。130℃、圧力4barで、NaOH相(2.1%の水性触媒相)循環を80l/hと一定に保ちながら、出発原料の流量を2.2l/h〜8.4l/hの間で変えた。C5アルデヒド混合物の計量供給は、図1に記載のようにスタチックミキサで充填された反応器の直前で行った。連続的な稼働では、静置状態で4時間の試験時間後、以下の結果が得られた。
【表3】

【0108】
管型反応器の延長により反応体積を1m長くすると、同じ反応器負荷で実施例2に比較して、より長い滞留時間と、0.049barから0.066barへの圧力損失上昇に繋がった。
【0109】
管型反応器の延長に起因するより長い滞留時間によってn−ペンタナールの変換率は、約2l/hの出発原料流量で93.6%から(表2、IIIの列)96%に上昇させることができた(表3、Iの列参照)。
【0110】
表3、IIの列からわかるように、>94%の変換率が、4.1l/hというより高い出発原料流量でも達成された。この結果が示しているのは、達成可能なn−ペンタナール変換率は、選択された相比の影響はほとんど受けず、反応器中での有機相滞留時間の選択により、より大きな影響を受けるということである。8.4l/hの出発原料流量では、87.2%より高いn−ペンタナール変換率を達成するためには、滞留時間が短すぎる。
【0111】
実施例4
この実施例が記載しているのは、n−ペンタナール(n−バレルアルデヒド)から2−プロピルヘプテナール(1+1生成物)へとアルドール縮合するため、及びn−ペンタナールを2−メチルブタナールと共縮合して十字型生成物(1+2生成物)の2−プロピル−4−メチルヘキセナールにするための本発明による方法である。実施例3と異なるのは、反応器体積9.1lの管型反応器DN15管(内径17.3mm)の全体積が、水力直径2mm、相対空隙体積0.80のスタチックミキサによって完全に充填されていたことである。
【0112】
出発原料としてはC5アルデヒド混合物を使用し、前記混合物は、n−ペンタナール94.4質量%、2−メチルブタナール5.0質量%、並びに副成分0.6質量%(この中にC10アルドールが0.2質量%、高沸点成分が0.1質量%含まれている)から成っていた。出発原料の組成は、実施例3で使用したC5アルデヒド混合物と同様のものであった。
【0113】
130℃、圧力4barで、NaOH相(2.1%の水性水酸化ナトリウム相)循環を80l/hと一定に保ちながら、反応器の入口前で触媒循環に4.1l/hの出発原料を、図1に記載のように計量供給した。
【0114】
連続稼働で4時間の試験時間後、静止状態で以下の表4でI列に記載したような結果が得られた。II列には比較のため、管型反応器での実施例3からの試験結果(総体積の50%がスタチックミキサで占められたもの)が記載されている。
【表4】

【0115】
表4のI列に記載のように、スタチックミキサで管型反応器を完全に充填すると、本発明による方法に従った充填度50%のもの(表4、II列)と比べて、n−ペンタナール変換率の向上には繋がらず、その変換率は低下した。
【0116】
実施例5
この実施例が記載しているのは、n−ペンタナール(n−バレルアルデヒド)から2−プロピルヘプテナール(1+1生成物)へとアルドール縮合するため、及びn−ペンタナールを2−メチルブタナールと共縮合して十字型生成物(1+2生成物)の2−プロピル−4−メチルヘキセナールにするための本発明による方法である。反応器としては実施例3と同じように、総体積が9.1l、長さが4mのDN15型の管(内径17.3mm)を使用した。管型反応器の総体積のうち、約50%がスタチックミキサで充填されていた。実施例3とは異なり、出発原料のC5アルデヒド混合物は、反応器の前ではなく、循環ポンプの前でNaOH循環に図2のように供給した。
【0117】
出発物質としてはC5アルデヒド混合物を使用し、前記混合物は、n−ペンタナール94.4質量%、2−メチルブタナール5.0質量%、並びに副成分0.6質量%(この中にC10アルドールが0.2質量%、高沸点成分が0.1質量%含まれている)から成っていた。出発原料の組成は、実施例3で使用したC5アルデヒド混合物と同様のものであった。130℃、圧力4barで、水性NaOH相(約2%の水性水酸化ナトリウム溶液)の循環を80l/hと40l/hで、循環ポンプ前で触媒循環に出発原料4.1l/hを計量供給した。
【0118】
80l/hから40l/hへと循環量を低下させることにより、流れの流体力学、及び分散相の平均液滴直径(ザウター直径)が変わる。前述の相関関係に基づき計算したザウター直径は、0.91mmから1.54mmへと上昇した。
【0119】
連続稼働で4時間の試験時間後、静止状態で、この運転方法では以下の表5でI列とII列に記載したような結果が得られた。III列には比較のために、反応器前で出発原料を計量供給量した実施例3から得られた試験結果が、記載されている。
【表5】

【0120】
図2に記載の出発原料供給は、表5に記載したように変換率の改善に繋がった。本発明による方法によれば、C5アルデヒドからα,β−不飽和C10アルデヒドへのアルドール縮合において、出発原料を計量供給するために2つの異なる実施変法を用いることができる。
【0121】
実施例6:C5アルデヒドアルドール化生成物の相分離
この実施例で記載するのは、n−ペンタナールから2−プロピルヘプテナールへのアルドール縮合の反応排出物、及びn−ペンタナールと、2−メチルブタナールとの共縮合から得られる2−プロピル−4−メチルヘキセナールを、70〜120℃の温度で相分離するための好ましい方法である。
【0122】
相分離試験を実施するために、事前に稼働中のアルドール化試験から水相と有機の有価生成物を、反応器の後で取り出した。この相分離試験のために、ガラス製の加熱式ダブルジャケット反応器(2l、撹拌器付きのもの)を使用した。相分離の温度は40〜110℃の間で、温度調節器で調節した。まず2つの相を、相比(有機相/H2O相)1:10で反応器に移し、圧力3.5bar、すなわちアルドール縮合プラントと同じ値に調整した。この2つの相をゆっくりと撹拌しながら、試験温度にした後、撹拌機を2分間、1分当たり500回転(回転/分)で始動させた。激しい撹拌により、2つの相が良好に相互に混じり合ったことが保証された。3分経過後、反応器を停止し、相分離の時間を測定した。
【0123】
分離時間とは、2つの相が、はっきりと見える相境界で相互に完全に分離するのに必要な時間とした。また、相が再び透明になるまでにかかった時間を測定した。透明な有価生成物相は、微細に分布した分散性水滴を、有機相中にほとんど含まない。あらゆる温度調節で分離試験は5回行い、得られた結果の平均値を出した。取り出した有機相は、分離試験後にGCで湿式化学的に分析した。
【0124】
湿式化学法によって、有機相における水含分(カールフィッシャー法)とナトリウム塩含分(滴定)を測定した。
【0125】
水相中で、NaOH含分とNa塩含分の他に、総C含分も測定した。
【0126】
分離試験に使用した有機相は、前記分析によると、均質に溶解された水を約0.79質量%含んでおり、水酸化ナトリウム溶液の痕跡量は含んでいなかった。水性NaOH相は、NaOH2.02質量%の他に、Na塩約0.30質量%、炭素総量を1.1質量%含んでいた。相分離試験の結果は、表6にまとめられている。
【表6】

【0127】
表6中でNa塩とは、主にナトリウムペントネートである。
【0128】
相分離の温度を50〜110℃の範囲の温度に上げるにつれて、水相からの有機相分離は改善される。このことは、本来の相分離(相界面の形成)にも当てはまり、また有機相の清澄化(濁りのない透明な相)にも当てはまる。
【0129】
相界面形成にかかる時間は比較的短く、17〜37秒の秒単位の範囲にある。残りの不均質な水滴が除去される場合にはとりわけ、相の清澄化は明らかにゆっくりと進行する。
【0130】
表6からわかるように、相の清澄化にかかる時間は、50℃から70℃へ温度を上げることによって、より明らかに短縮できる。
【0131】
本発明の特に好ましい実施態様は、以下のように記載することができる。
【0132】
脂肪族C5アルデヒドからα,β不飽和C10アルデヒドを連続的に製造するための方法であって、この方法は、以下の工程a)〜e):
a)脂肪族C5アルデヒドを水性塩基の存在下、反応器内でアルドール縮合してα,β不飽和C10アルデヒドにする工程、ここで前記反応器は、出発原料又は出発原料/生成物混合物をザウター平均直径が0.2〜2mmの液滴として工程アルカリ液に分散させるための少なくとも1つの混合モジュールを有し、
b)前記工程a)からの反応器排出物を、水性触媒相と有機生成物相に相分離する工程、
c)前記工程b)からの有機相を、α,β−不飽和C10アルデヒド、脂肪族C5アルデヒド、及び副生成物に分別する工程、
d)工程b)からの水相の一部を、新たな溶液で補い、反応水を一部除去した後、反応器に返送する工程、ここで水性工程アルカリ液は、pH値が12.5〜13.5の範囲で水酸化ナトリウム及びカルボン酸のナトリウム塩を含み、
e)前記工程b)からの有機生成物相を、水性触媒相から70〜120℃の温度で分離する工程
を有するものである。
【符号の説明】
【0133】
1 出発原料、 2 管型反応器、 3 反応混合物、 4 分離容器、 5 有機相、 6 排出物、 7 残部、 8 新たなアルカリ溶液、 9 返送流、 10 蒸留、 11 留出物、 P 循環ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程a)〜d):
a)水性塩基の存在下、管型反応器で脂肪族C5アルデヒドをアルドール縮合してα,β−不飽和C10アルデヒドにする工程、
b)管型反応器の排出物を、水性触媒相と有機生成物相に相分離する工程、
c)有機生成物相を、α,β−不飽和C10アルデヒド、脂肪族C5アルデヒド、及び副生成物に分別する工程、
d)反応水を除去するために水性触媒相の一部を排出し、新たなアルカリ溶液を補い、引き続き管型反応器へ返送する工程、
を有する、脂肪族C5アルデヒドからα,β−不飽和C10アルデヒドを連続的に製造するための方法において、
脂肪族C5アルデヒド及び/又はα,β−不飽和C10アルデヒドを液滴として水性塩基に分散させ、前記液滴のザウター平均直径が、0.2mm〜2mmである
ことを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
水性塩基のpH値が12.5〜13.5の範囲であり、前記水性塩基が水酸化ナトリウム、並びにカルボン酸のナトリウム塩を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
管型反応器の排出物を、70〜120℃の温度で水性触媒相と、有機生成物相とに相分離することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
管型反応器における反応温度が、120℃〜140℃の範囲であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
水性塩基の質量対脂肪族C5アルデヒドの質量の比の値が、管型反応器の入口で5〜20の範囲であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
水性塩基と脂肪族C5アルデヒドとからの混合物の平均空管速度が、0.5〜4m/秒の範囲、とりわけ1〜2.5m/秒の範囲であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
管型反応器における使用混合物の平均滞留時間が、40〜360秒、とりわけ60〜180秒であることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
n−ペンタナール含分が少なくとも90質量%であるC5アルデヒド混合物を使用することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
脂肪族C5アルデヒド、及び/又はα,β−不飽和C10アルデヒドを、管型反応器内部で水性塩基に分散させることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
脂肪族C5アルデヒド、及び/又はα,β−不飽和C10アルデヒドを管型反応器内部で水性塩基に分散させる際に、管型反応器に組み込まれた少なくとも1つの混合モジュールを用いることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
脂肪族C5アルデヒド及び/又はα,β−不飽和C10アルデヒドを管型反応器内部で水性塩基に分散させる際に、管型反応器に組み込まれた少なくとも2つの混合モジュールを用いることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
1つ若しくは複数の混合モジュールの体積割合が、反応器の全体積に対して20〜80%であることを特徴とする、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
2つの隣接した混合モジュール間の間隔の0.2〜5倍が、混合モジュールの長さに相当することを特徴とする、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
2つの隣接する混合モジュールの間隔が、流れ方向で減少することを特徴とする、請求項11から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
負荷係数が0.2〜0.8の範囲であることを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−520838(P2012−520838A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500170(P2012−500170)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052271
【国際公開番号】WO2010/105892
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(398054432)エボニック オクセノ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (63)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Oxeno GmbH
【住所又は居所原語表記】Paul−Baumann−Strasse 1, D−45764 Marl, Germany
【Fターム(参考)】