説明

α1アンチトリプシンの精製法

Cohn分画IV、沈殿物のようなAAT含有タンパク混合物よりα1アンチトリプシン(AAT)を精製するための能率化した方法を提供する。本発明の方法では、AATに影響を及ぼさない、ジチオールのような還元剤でのジスルフィド結合の切断によって、汚染タンパク質を不安定化させる。次いで、不安定化したタンパク質を、沈殿剤としての塩を加えずに、固形タンパク吸着材料に選好的に吸着させる。溶液より固形吸着剤を分離すると、精製されたAAT溶液が残り、これはそのままクロマトグラフィー精製に適していて、先行技術の方法のような徹底した脱塩を必要としない。医薬品グレードのAATを工業スケールで高収率に提供する、上記の手法を組み込んだ方法についても記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、タンパク質の分離および精製の方法に関する。より具体的には、本発明は、血漿分画のような複雑なタンパク混合物からのα1アンチトリプシン(AAT、α1プロテイナーゼ阻害剤、API、およびA−PIとしても知られている)の分離と、医薬使用に適した組成物を提供するための、分離したAATのさらなる精製の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
α1アンチトリプシン(AAT)は、プロテアーゼの糖ペプチド阻害剤であり、ヒトの血清および他の体液に見出されている。AATによるプロテアーゼ阻害は、組織タンパク分解の調節の必須要素であり、AAT欠損症は、いくつかの疾患の病理に関連している。例えば、α1アンチトリプシン欠損症を遺伝により受け継いだ個体は、ヒト白血球エラスターゼによる肺組織の非調節性の破壊の結果として、重篤な早期発症肺気腫に罹患する高いリスクを有する。外因性ヒトAATの投与は、エラスターゼを阻害することが示されていて、AAT欠損患者の生存の向上とその肺機能低下速度の抑制に関連づけられている(Crystalら,Am.J.Respir.Crit.Care Med.158:49−59(1998);概説については、R.MahadevaおよびD.Lomas,Thorax 53:501−505(1998)を参照のこと)。
【0003】
その治療上の有用性のために、工業用AATの生産は、重要な研究主題となってきた。組換えAATの大腸菌(R.Bischoffら,Biochemistry 30:3464−3472(1991))、酵母(K.Kwonら,J.Biotechnology 42:191−195(1995);Bollenら,米国特許第4,629,567号)、および植物(J.Huangら,Biotechnol.Prog.17:126−33(2001))における産生と、トランスジェニック哺乳動物(G.Wrightら,Biotechnology,9:830−834(1991);A.L.Archibald,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:5178−5182(1990))の乳分泌による産生ではかなりの進歩がなされた。しかしながら、AATのヒト血漿からの単離は、今日、AATを大量に入手する最も効率的で実践的な方法であり、ヒト血漿は、そして唯一FDA承認された供給源である。
【0004】
沈殿、吸着、抽出、およびクロマトグラフィーの工程の組合せを伴う、ヒト血漿分画よりAATを単離および精製するためのいくつかの方法が記載されている。病原体混入のリスクを最小化するために、治療使用のためのヒトAATの産生に企図されるプールしたヒト血漿について、B型肝炎ウイルス表面抗原と、ヒト免疫不全ウイルスに対する抗体をスクリーニングする。感染病原体の伝播に抗する追加の予防処置として、精製産物は、通常、60℃まで10時間加熱することによって低温殺菌して(Mitraら,Am.J.Med.84(sup.6A):87−90(1988))、滅菌濾過する。
【0005】
AAT単離についてのほとんどの公表された方法は、一連のエタノール沈殿およびpH調整の後のペーストとして血漿より入手される、Cohn分画IV沈殿物、例えばCohn分画IVまたは分画IV1−4として知られる1以上のヒト血漿分画より始める(E.J.Cohnら,J.Amer.Chem.Soc.,68:459−475(1946))。
【0006】
米国特許第3,301,842号は、Cohn分画IVからのAATの単離の方法を記載し、ここでは、アクリジンまたはキノリン誘導体をpH6で緩衝液中のペーストへ加え、沈殿物を捨て、pHを7.0へ調整する。追加のアクリジンまたはキノリンを加え、沈殿物を採取する。この沈殿物をpH5.0の緩衝液に溶かし、塩化ナトリウムを加え、生じる沈殿物を捨てる。AATを含有する溶液をメタノール沈殿によってさらに処理する。あるいは、血漿についてpH8とpH5で硫酸アンモニウム沈殿を実施して、pH5の上清を上記のようにキノリンまたはアクリジン添加剤でさらに処理する。
【0007】
Glaserら,Preparative Biochemistry,5:333−348(1975)は、Cohn分画IVペーストよりAATを単離する方法を開示した。Cohn分画化に利用した5.2というpHによって概ね不活性化したAATを再活性化するために、ペーストをリン酸緩衝液においてpH8.5で撹拌する。透析と遠心分離の後で、上清を2ラウンドのアニオン交換クロマトグラフィーへpH6.0〜7.6およびpH8.6で処して、続いてpH7.6とpH8.0でさらにクロマトグラフィー処理して、AATを約30%の全体収率で産生する。
【0008】
M.H.Coanら,は、米国特許第4,379,087号および4,439,358号(M.H.Coanら,Vox Sang.,48:333−342(1985);M.H.Coan,Amer.J.Med.,84(sup 6A):32−36(1988);および、R.H.Heinら,Eur.Respir.J.,3(sup9):16s−20s(1990)も参照のこと)において、Cohn分画IVペーストをpH6.5〜8.5の緩衝液に溶かし、ポリエチレングリコールを加え、そしてpHを4.6〜5.7の範囲へ下げて、望まれないタンパク質を沈殿させる手順を開示した。遠心分離の後で、上清よりアニオン交換クロマトグラフィーによってAATを単離する。さらなる処理によって、45%収率のAATを約60%の純度で得る。沈殿剤としてポリエチレングリコールを利用する方法が、以下に記載の米国特許第4,697,003号、米国特許第4,656,254号、および日本特許、JP08099999にも記載され;そして、Haoら,「タンパク分離技術と血漿分画法の改善に関する国際報告ワークショップ(Proc.Intl.Workshop on Technology for Protein Separation and Improvement of Blood Plasma Fractionation),1977年9月7−9日、ヴァージニア州レストン」によっても記載されている。
【0009】
Dubinら,Preparative Biochemistry 20:63−70(1990)は、最初にAATをBlue SEPHAROSETMより溶出させてから、次いでゲル濾過クロマトグラフィーにより精製する、2工程のクロマトグラフィー精製法を開示した。
【0010】
SchultzeとHeimburgerは、米国特許第3,293,236号において、ヒト血漿の硫酸アンモニウム分画化と組み合わせてクエン酸塩緩衝液でのカチオン交換クロマトグラフィーを使用する、AATの精製を開示した。
【0011】
LebingとChenは、米国特許第5,610,285号において、始めのアニオン交換クロマトグラフィーに続き、低pHおよび低イオン強度でのカチオン交換クロマトグラフィーを利用して、血漿および血漿分画よりヒトAATを精製する精製法を開示した。このカチオンクロマトグラフィーは、これらの条件下では、変性AATとアルブミンが含まれる汚染タンパク質が保持される一方で、活性AATはイオン交換カラムへ結合しないという事実を利用する。
【0012】
Jordanら,は、米国特許第4,749,783号において、モノクローナル抗体でのアフィニティークロマトグラフィーを使用する、ヒト血漿からのAATの単離について記載した。Podiareneら,Vopr.Med.Khim.35:96−99(1989)も参照のこと。
【0013】
Shearerら,は、ヨーロッパ特許出願EP0 224 811と対応する米国特許第4,656,254号において、Cohn分画IVペーストよりAATを抽出するための改善法を開示し、ここで改善は、先行技術において慣例であったものより高いpHにおいてより高い容量の緩衝液でペーストを処理することからなった。より高い容量とより高いpHの組合せにより、ペーストより抽出されるAATの量が高まった。望まれないタンパク質は、ポリエチレングリコールの添加と、それに続く遠心分離によって沈殿した。本質的にはCoanらの手順である代わりの手順が開示されていて、ここでは、ポリエチレングリコールの添加後にpHを4.6〜5.7の範囲へ調整し、そして酸性化した混合物を1〜60分放置して、望まれないタンパク質をさらに沈殿させる。追加のポリエチレングリコールの添加によりAATを沈殿させ、そしてアニオン交換クロマトグラフィーによりさらに精製する。
【0014】
Arrighiら,は、ヨーロッパ特許出願EP 0717049において、分画IVペーストをpH8.2緩衝液において40℃で1時間撹拌することに続いて、望まれないタンパク質を硫酸アンモニウムで沈殿させる方法を開示する。AATは、pH7での疎水性相互作用クロマトグラフィーによって上清より単離する。
【0015】
Kressら,は、Preparative Biochemistry 3:541−552(1973)において、ヒト血漿の80%硫酸アンモニウム処理からの沈殿物を透析してから、次いでそれをDEAE−セルロースでクロマトグラフ処理した。この産物を再び透析し、そしてSEPHADEXTMG−100でゲル濾過した。次いで、AAT含有分画をDE−52セルロースでクロマトグラフ処理して、AATを得た。
【0016】
日本特許59−128335は、5と7の間のpHでのポリエチレングリコールの添加に続くアニオン交換クロマトグラフィーによる、望まれないタンパク質の血漿分画からの沈殿を開示する。
【0017】
Bollenら,は、米国特許第4,629,567号において、AATを発現する組換えプラスミドを担う酵母の培養物からのAATの単離を開示する。この方法は、汚染タンパク質を除去するためのpH6.5でのポリエチレングリコール沈殿より始め、pH6.5でのアニオン交換クロマトグラフィーと、後続のクロマトグラフィー工程を続ける。
【0018】
DoveとMitraは、米国特許第4,684,723号において、Coanら(米国特許第4,379,087号および米国特許第4,439,358号)の方法の変法を開示し、ここでは、(a)AATを含有する溶液を6.5〜8.5のpHで24時間まで放置する工程、(b)ポリエチレングリコールと無機塩を加えて、2相混合物を入手する工程、および(c)精製AATを含有する、水性塩の相を単離する工程を含んでなる方法によってAATを精製する。
【0019】
Taniguchiら,は、PCT特許出願WO95/35306において、塩化亜鉛の存在下にポリエチレングリコールを用いる沈殿と、それに続くアニオン交換クロマトグラフィーと金属キレート樹脂でのクロマトグラフィーを伴う、類似の方法を開示する。
【0020】
Van Wietnendaeleら,はまた、米国特許第4,857,317号において、工学処理した酵母培養物の粗製抽出物よりAATを単離する方法を開示し、これは、ポリエチレングリコールのpH6.1での添加、沈殿タンパク質を除去するための遠心分離、塩化カルシウムの添加、pH7.0で24時間の保存、およびさらに汚染物を除去するための遠心分離を含む。次いで、後続のクロマトグラフィー工程によって、上清よりAATを単離する。
【0021】
Coanは、米国特許第4,697,003号において、様々なCohn血漿分画よりAATを単離する方法を開示し、該方法は、AAT含有分画からのエタノールおよび塩の除去と、それに続く、望まれないタンパク質が溶出される一方でAATがカラムに保持されるような条件下でのDEAEセルロースまたは類似の材料でのアニオン交換クロマトグラフィーを含む。Coanはまた、約60℃以上で約10時間の「低温殺菌」について記載し、これは肝炎ウイルスを非感染性にするのに十分であると述べている。
【0022】
Coanは、低温殺菌温度でAATを安定化するために、安定化剤としての炭水化物を単独で、またはクエン酸ナトリウムとともに加えることを開示する。好適な炭水化物は、単糖、二糖、および三糖、並びにソルビトールおよびマンニトールのような糖アルコールであると述べている。AATは、加熱時に、重合化だけでなく、不活性コンホメーションを採りやすいので、安定化剤の存在により、熱不活性化は阻止されないが、抑制はされる(D.Lomasら,Eur.Resp.J.10:672−675(1997))。サイズ排除HPLC分析は、Coanの方法に従って低温殺菌を行うとき、10%の単量体AATが重合化または凝集することを示した(M.H.Coanら,Vox Sang.,48:333−342(1985))。
【0023】
T.Burnoufら,Vox Sang.,52:291−297(1987)は、Kistler−Nitschmann上清AよりAATを単離するための実質的に同じ手順を開示した。Cohn分画II+IIIのDEAEクロマトグラフィーとサイズ排除クロマトグラフィーにより、純度が36倍増加した、80〜90%純粋である(SDS−PAGEによる)AATが産生された。回収は65−70%であった。
【0024】
Thierryはまた、ヨーロッパ特許出願EP 0282363において、Kistler−Nitschmann血漿分画よりAATを入手する方法を開示する。簡潔に言えば、血漿をpH7.4において10%エタノールで沈殿させ、そして上清をpH5.85において19%エタノールで再び沈殿させる。第二の沈殿物からの上清をDEAEアニオン交換カラムへ適用し、そしてpH5.2で溶出させて、約90%の純度のAATを得る。
【0025】
Strancarら,は、PCT特許出願WO95/24428において、特別な種類の機能化アニオン交換媒体を利用する、非常に似た方法を開示する。このカラムへ脱塩済みCohn分画IVを適用し、「酢酸のpKaに近い」pHにおいて低塩緩衝液で汚染タンパク質を溶出させる(酢酸のpKaは、4.74である)。次いで、pH7.4〜9.2において50〜300mM NaClでAATを溶出させる。
【0026】
日本特許JP 08099999は、Cohn分画IVまたはIVよりAATを入手する方法を開示し、これは、塩濃度の約0.02M未満への低下、pHを4.5〜5.5へ調整すること、そして汚染タンパク質を吸着させるためにカチオン交換体と溶液を接触させることを伴う。
【0027】
M.E.SvobodaとJ.J.van Wykは、Meth.Enzymology,109:798−816(1985)において、Cohn分画IVペーストのリン酸、ギ酸、および酢酸での酸抽出を開示する。
【0028】
Glaserら,は、Anal.Biochem.,124:364−371(1982)において、またヨーロッパ特許出願EP 0 067 293において、Cohn分画IV沈殿物よりAATを単離する方法のいくつかの変法を開示し、該方法は、(a)このペーストをpH8.5緩衝液に溶かす工程、(b)濾過する工程、(c)DTTのようなジチオールを加える工程、および(d)変性タンパク質の硫酸アンモニウムでの沈殿の工程を含む。Glaserは、「加塩、加熱、pH変更、溶媒追加、等のような好適な技術」によって脱安定化(DTT還元)タンパク質を沈殿させることができると述べている。
【0029】
Glaserら,は、50%飽和硫酸アンモニウムでの沈殿に先立って、DTTでの処理を2.5% AEROSILTMフュームドシリカの存在下に行う、1つの変法について記載している。AATの回収は、このシリカの非存在時と同じくらい良好であり、精製倍率は約70%向上した。いずれの参考文献においても、著者は、このシリカに二次的な役割、硫酸アンモニウム沈殿の結果を向上させる添加物の役割しか認めていない。硫酸アンモニウム沈殿に伴わないシリカ単独の有効性については、認知も記載もされていない。タンパク溶液の濃度が約50mgタンパク質/mlをかなり超えるならば、沈殿中での吸蔵によってAATが失われると報告されている。
【0030】
RalstonとDrohanは、米国特許第6,093,804において、初期タンパク懸濁液からの「脂質除去剤」によるリポタンパク質の除去に続く、アニオン交換媒体からのクエン酸塩緩衝液での溶出による「不活性AAT」の除去を伴う方法を開示する。脂質除去剤は、MICRO CELTME、合成の含水ケイ酸カルシウムであると述べられている。非クエン酸塩緩衝液の存在下では、このアニオン交換媒体は、「不活性AAT」を通過させる一方で、活性AATへ結合する。アニオン交換媒体からのAATの後続の溶出と、さらに、カチオン交換媒体からのその後の溶出にはクエン酸緩衝液が指定されている。RalstonとDrohanは、ジスルフィド還元剤の使用について記載していない。この方法は、>90%の産物純度のAATと、>70%の製造スケール収率をもたらすと述べられている。
【0031】
W.Stephanは、Vox Sanguinis 20:442−457(1971)において、ヒト血漿溶液由来のリポタンパク質を吸着させるためのフュームドシリカの使用について記載している。AATが含まれるいくつかの血漿タンパク質の濃度に対するシリカ吸着の効果が評価され、そしてAATの有意な損失はなかった。
【0032】
Mattesら,は、Vox Sanguinis 81:29−36(2001)とPCT特許出願WO98/56821、および公開された米国特許出願2002/0082214において、エタノール沈殿、アニオン交換クロマトグラフィー、およびハイドロキシアパタイトでの吸着クロマトグラフィーを伴う、Cohn分画IVよりAATを単離する方法を開示する。後者の工程は、不活性AATを除去し、比活性がきわめて高い産物をもたらすと報告されている。
【0033】
AATは、α1アンチトリプシン欠損症による肺気腫に有効な治療であるが、限定された供給と複雑な製造法により、治療は非常に高額である(現行では、年あたり約25,000ドル)。血漿およびAATを含有する他の複雑なタンパク混合物よりヒトAATを単離するためのより効率的で費用効果の高い方法へのニーズが依然としてある。特に、硫酸アンモニウム沈殿に続く透析は、時間を浪費させる方法であり、実質量の廃水を産み出すので、高収率の高活性、高純度AATを提供する一方で、大量の透析を必要としないスケール調整可能な(scalable)方法へのニーズがある。AATの加熱低温殺菌は、ウイルス汚染を低減させるが、それは不活性なAAT凝集物および重合体の形成をもたらす。従って、ウイルス汚染が低減して、有意な量の不活性AAT凝集物および重合体を含まない、きわめて純粋なAATへのニーズもある。本発明は、これらのニーズへ対処する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
発明の簡単な説明
本発明は、粗製AAT含有タンパク沈殿物よりAATを精製する方法を提供し、該方法は、本質的に以下の工程よりなる:(a)AATが溶けることを可能にする条件下でAAT含有タンパク混合物を緩衝液に懸濁する工程;(b)生じる懸濁液をジスルフィド還元剤と接触させて、還元懸濁液を産生する工程;(c)還元懸濁液を不溶性タンパク吸着材料と接触させる工程;および(d)不溶性材料を懸濁液より除去する工程。この方法は、先行技術の方法より低下したコストとより少ない時間で、クロマトグラフィー処理にそのまま適している濃縮AAT調製物を提供する。追加の精製工程は、以下にさらに記載するように、実施者の考え次第で実施してよい。
【0035】
より具体的には、本方法は:(a)AATが溶けることを可能にする条件下で粗製AAT含有タンパク沈殿物を緩衝液に懸濁する工程;(b)生じる懸濁液を、ジスルフィド還元剤によるタンパク内ジスルフィド結合の還元を可能にする条件下で該還元剤と接触させて、還元懸濁液を産生する工程;(c)実質量の追加塩の添加をせずに、還元懸濁液を不溶性タンパク吸着材料と接触させる工程;および(d)不溶性材料を懸濁液より除去して、浄化されたタンパク溶液を入手する工程を含む。
【0036】
「実質量の追加塩」は、それが存在しなければ可溶性であるタンパク質の溶液からの有意な量での沈殿を開始させる、可溶性塩または塩類の量を意味する。具体的には、このような目的のために通常使用される量においてある度合いのタンパク沈殿を引き起こすのに通常使用される塩が含まれる。
【0037】
本発明の方法は、EP0 067 293においてGlaserが教示した塩析工程を排除するので、徹底的な透析により濾液を脱塩することの必要性に関連した時間およびコストが回避される。さらに、Glaserの利用する硫酸アンモニウム沈殿法は、処理可能であるタンパク溶液の濃度を限定した。Glaserの方法では、タンパク濃度が約50mg/mlをかなり超えるならば、Aerosil/タンパク質の沈殿中での吸蔵によってAATが失われると報告されている。硫酸アンモニウムの非存在下では、より高い濃度のタンパク質がAATの沈殿および吸蔵を伴うことなく使用可能であるので、これに関連して試薬と処理時間が節約され、バッチあたりの処理量が高まる。本発明の方法は、硫酸アンモニウムの非存在下でタンパク濃度が100mg/mlを超えて、そしてAATの沈殿は認めない、2つの工程を伴う。
【0038】
本発明によるジスルフィド還元剤および不溶性タンパク吸着材料の組合せは、Cohn分画IV沈殿物のような血漿由来の粗製AAT調製物において主要なタンパク不純物である、アルブミンとトランスフェリンを除去するのに特に有効である。タンパク吸着材料の濾過による除去の後で、アルブミンとトランスフェリンの両方のレベルは、本明細書に記載のように実施するとき、比濁分析の検出限界以下である。本明細書に記載するさらなる処理は、SDS−PAGE(還元型)によれば98%の平均純度で、平均して1.06mgの機能性AAT/mgという高い比活性のAATをもたらす。本明細書に開示する方法によって、SDS−PAGEによれば99%より高い純度で、1.12mgの機能性AAT/mgタンパク質までの比活性を有する組成物が入手可能である。
【0039】
粗製AAT含有タンパク沈殿物は、様々な供給源に由来してよく、限定されないが、ヒト血清、ヒトAATを発現するトランスジェニック哺乳動物からの血清、またはヒトAATをその乳汁に分泌するトランスジェニック哺乳動物からの乳汁が含まれる。供給源は、好ましくは血清である。この供給源が血清であれば、沈殿物は、好ましくは、Cohn分画IV沈殿物、より好ましくはCohn分画IV、そして最も好ましくは、Cohn分画IV1−4である。Cohn分画を調製する方法には、当業者に知られている、いくつかの変法があり、そしてそのいずれも本発明において利用可能である。
【0040】
懸濁緩衝液は、AATが溶けるどんな水性緩衝液でもよく、沈殿物に存在するAATのほとんどまたは全部を溶かすのに十分な容量で使用する。Cohn分画IV1−4の懸濁に好ましい容量は、1kgの沈殿ペーストにつき6と10リットルの間である。緩衝液の例には、限定されないが、クエン酸塩、リン酸塩、およびTrisの緩衝液が含まれる。好ましい緩衝液はTris、好ましくは20mM NaCl入り100mM Trisである。好ましいpHは、8.80と8.95の間である。
【0041】
ジスルフィド還元剤は、タンパク質中のジスルフィド結合を還元するために一般的に使用されるどのジチオールでもよく、限定されないが、ジチオスレイトール(DTT)、ジチオエリスリトール(DTE)、1,2−エタンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、等;またはトリブチルホスフィンまたはトリメチルホスフィンのようなホスフィンが含まれる。ジスルフィド還元剤は、好ましくはジチオール、最も好ましくはジチオスレイトールである。
【0042】
不溶性のタンパク吸着材料は、フュームドシリカ;シリカヒドロゲル、キセロゲル、およびエーロゲル;カルシウム、アルミニウムおよびマグネシウムのケイ酸塩;ある種の粘土または鉱物;および、これらの混合物といった、疎水性タンパク質の様々な既知吸着剤のいずれでもよい。こうした材料は、通常、食用オイルおよび飲料の浄化に使用され、当業者によく知られている。好ましくは、タンパク吸着材料はシリカ吸着剤、より好ましくは、商品名AEROSILTMで販売されているようなフュームドシリカである。
【0043】
本発明はまた、精製とウイルスの低減および不活性化の工程の新規組合せを提供し、これにより医薬使用に適した高安全かつ高純度のAATが産生される。具体的に言えば、AAT精製方法におけるジチオスレイトールおよびフュームドシリカの使用についてはすでに記載されているが、高温または硫酸アンモニウムのような沈殿剤の非存在下におけるこの両者の組合せについては、これまで記載されていない。驚くべきことに、ジチオスレイトール−AEROSILTM処理工程より沈殿剤を省略すると、きわめて有効な精製段階の提供されることを見出した。さらに、ジチオスレイトール、AEROSILTM、アニオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、低温殺菌、およびナノ濾過の使用は、それぞれすでに文献に記載されているが、これらの特別な工程は、医薬グレードAATの工業製造に適した精製法において、今回初めて組み合わされた。
【0044】
本発明は、以下の特性を特徴とするAATの調製物を提供する:
(a)α1アンチトリプシンは、SDSによれば、6%未満、好ましくは2%未満、そして最も好ましくは1%未満の汚染タンパク質を含有し、そして、
(b)0.1%未満のアルブミン;
(c)0.8%未満、そして好ましくは0.2%以下のα酸性糖タンパク質;
(d)0.1%未満のαマクログロブリン;
(e)0.1%未満のアポリポタンパク質A1;
(f)0.5%未満、そして好ましくは0.1%以下のアンチトロンビンIII;
(g)0.1%未満のセルロプラスミン;
(h)0.5%未満、そして好ましくは0.1%未満のハプトグロビン;
(i)0.2%未満、そして好ましくは0.1%未満のIgA;
(j)0.1%未満のIgG;
(k)0.1%未満のトランスフェリンを含有し;
(l)α1アンチトリプシンの比活性は、減衰係数としてE1%1cm,280nm=5.3を使用するとき、1ミリグラムのタンパク質につき少なくとも0.99mgの機能性AATであり;
(m)本産物の8%未満、そして好ましくは、5%未満は、単量体AATより高い分子量であり;
(n)活性AATの抗原性AATに対する見かけの比は、終点比濁分析により測定するとき、1.08より大きい、好ましくは1.16より大きい、そして最も好ましくは1.23より大きい;
(o)広範囲の物理化学特性を代表するヒトおよびモデルウイルスを使用するスパイク試験において測定するとき、エンベロープウイルスは少なくとも11log10単位低減し、非エンベロープウイルスは、少なくとも6log10単位低減している;そして
(p)該産物は、凍結乾燥して、25℃以下で保存するとき、少なくとも2年間安定である。
【0045】
本発明の産物における活性AATの抗原性AATに対する見かけの比が1(ユニティ)より大きいのは、本発明の産物の純度および/または活性が、先行技術の組成物である基準標品のそれより高いためである。終点比濁分析によって定量される抗原性レベルは、現行のタンパク標準品(製品番号OQIM15,供給元:Dade−Behring,イリノイ州ディアフィールド)に対して測定し、Dade−Behring Nephelometer 100用に供給される試薬およびAAT抗体(Dade−Behring製品番号OSAZ15)を使用して、国際的に認知されたCertified Reference Material(証明済み基準材料)470(ヒト血清タンパク質の基準調製品;J.T.Whicherら,Clin.Chem.40:934−938(1994)を参照のこと)に対してこれを直接較正する。
【0046】
本明細書において具体的に参照されるすべての公表文献および特許出願は、そのまま参照により本明細書に組み込まれる。他に定義しなければ、本明細書に使用するすべての技術および科学の用語は、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。用語「AAT」は、不均質であれ均質であれ、ヒト血清より単離しても組換え生物より単離しても、ヒトAATを概して意味する。この用語には、薬理学的に有効な天然に存在する変異体(例えば、Brantlyら,Am.J.Med.84(sup.6A):13−31(1988)を参照のこと)、並びに薬理学的に有効な非天然型のヒトAAT(限定されないが、非ヒトのグリコシル化パターン、N末端メチオニン、または改変アミノ酸を有するものが含まれる)が含まれるものとする。当業者には、本明細書の記載に類似または同等の方法および材料が本発明の実施に使用可能であると理解され、そうした同等物も本発明の範囲内にあると予測される。以下に記載する好ましい態様は、実施例としてのみ提供し、本発明の範囲は、記載する特別な態様に限定されない。
【課題を解決するための手段】
【0047】
発明の詳細な説明
以下に例示する本発明の特別な態様は、特別なCohn分画IVペーストを出発材料として利用するが、同様の血漿分画の使用も本発明の範囲内にあると考慮される。代わりの出発材料には、限定されないが、他のAAT含有Cohn分画(米国特許第4,697,003号を参照のこと)、Kistler−Nitschmann上清AまたはA+I由来の沈殿物(P.Kistler,H.S.Nitschmann,Vox Sang.,7:414−424(1962))、およびSchultzeら,により米国特許第3,301,842号に記載されるような血漿由来の硫酸アンモニウム沈殿物が含まれる。AAT産生組換え細胞または生物の培養物に由来するタンパク沈殿物、またはトランスジェニック哺乳動物の乳汁または血清に由来する沈殿物の使用も、本発明の範囲内にあると考慮される。
【0048】
当該技術分野には、冷却と様々なpH調整としばしば組み合わされる、塩、アルコール、およびポリエチレングリコールの添加によるといった、溶液よりタンパク質を選択的に沈殿させる多くの方法が知られている。本発明は、その最初の調製法にかかわらず、回収可能なAAT活性を含有するほとんどのAAT含有タンパク沈殿物に適用可能であると予測される。用語「粗製AAT含有タンパク沈殿物」は、本明細書において、血漿、乳汁、細胞培養物、または他の元の供給源のいずれであれ、これらの既知の方法の1以上によって調製されるあらゆるAAT含有タンパク沈殿物を意味するために使用する。
【0049】
以下に記載する好ましい態様では、粗製AAT含有タンパク沈殿物をTris緩衝液に懸濁させ、ジチオスレイトール(DTT、好ましいジスルフィド還元剤)とフュームドシリカ(好ましいタンパク吸着材料)で処理して、汚染するタンパク質および脂質を除去する。沈殿物がCohn分画IVである場合、このようにして除去される2つの主要タンパク汚染物は、アルブミンとトランスフェリンである。DTTと他のジチオールは、ホスフィンと同様に、当該技術分野において、鎖内および鎖間のジスルフィド結合を還元することが知られている。構造的に重要なジスルフィド結合の切断は、ジスルフィド結合を有するこれら汚染タンパク質の部分変性(アンフォールディング)および不安定化を引き起こす。AATそれ自体は、鎖内ジスルフィド結合を有さないので、DTT処理によって不安定化しない。
【0050】
フュームドシリカは、疎水性タンパク質へ選好的に結合することが知られている。本発明の方法において、不安定化した汚染タンパク質は、ジスルフィド結合の切断により引き起こされる部分変性によりこのタンパク質の疎水性残基の内部コアが曝露されるので、フュームドシリカのようなタンパク吸着材料へ結合すると理論化される。しかしながら、本発明の範囲は、どの特別な作業仮説にも限定されない。
【0051】
以下に記載する好ましい態様では、タンパク吸着材料を、吸着した汚染タンパク質、脂質、および他の不溶性材料と一緒に、濾過により懸濁液より除去して、浄化したAAT含有タンパク溶液を得る。濾過は、好ましくは、CeliteTM珪藻土のような濾過補助剤を利用して行って、そして好ましくは、10未満の比濁度単位(NTU)/mlの明瞭度に達するまで、フィルターを通して懸濁液を再循環させる。濾液をクロマトグラフィー技術によってさらに処理して、高純度で高活性のAATを得る。当該技術分野において知られる他の分離法(例えば遠心分離)も濾過の代わりに利用可能である。実施者は、操作のスケールとタンパク吸着材料の性質に適した方法を選択してよい。
【0052】
不溶性材料の除去後、AAT含有溶液は、当該技術分野において知られるいずれかのタンパク精製の方法、特にAATの精製に適していることがすでに知られている方法によってさらに処理してよい。以下に記載する好ましい態様では、はじめに、塩勾配溶出を伴うイオン交換クロマトグラフィー(「IEC」)へ濾液を処する。クロマトグラフィーカラムは、陽電荷の基が共有結合している有孔の樹脂支持体マトリックスからなるアニオン交換樹脂を含有する。これらの陽電荷基は、AATのようなアニオン基のあるタンパク質を含め、アニオンと可逆的に結合する。
【0053】
AATと、溶出緩衝液のpHで正味陰電荷を有する他のタンパク質は、IECカラムへ結合する。陰電荷をほとんどまたはまったく有さない汚染タンパク質は、結合することなくアニオン交換樹脂カラムを素通りし、カラム溶出液とともに出る。従って、このカラムへ結合しないこれらの汚染タンパク質は、勾配溶出によってAATより分離される。カラムを溶出させるときに塩濃度を徐々に高めて、この樹脂へ結合している様々なタンパク質を順次遊離させる。
【0054】
以下に記載する好ましい態様では、IECカラムからのAAT含有溶出液を疎水性相互作用クロマトグラフィー(「HIC」)へ処する。この種のクロマトグラフィーは、部分(moieties)が共有結合している支持体マトリックスを利用する。水系環境において、これらの疎水性部分は、IEC溶出液中に残存する汚染タンパク質のような疎水性タンパク質へ可逆的に結合する。AATは相対的に非疎水性であるので、AATの大部分は、このカラムの緩衝液での溶出の間にカラムより流出するが、その一方で、より疎水性の汚染タンパク質は、カラムへ結合したままである。従って、カラム流出液は、精製されたAATを含有する。実際は、AATにはある種のHICカラム媒体へわずかなアフィニティーを有することがわかっていて、そのような場合は、元の適用試料中のAATのすべてを実質的に回収するためには、数倍容量の洗浄緩衝液でのさらなる溶出が望ましい場合がある。
【0055】
所望されるレベルの純度および活性に達するために必要とされるような追加の精製工程の後で、AAT溶液を濃縮し、滅菌する。以下に記載する好ましい態様において、AATは、疎水性相互作用クロマトグラフィーの後で医薬的に許容される純度および活性のレベルにあり、追加の工程は必要でない。以下に記載する好ましい態様では、限外濾過に続く透析濾過(ダイアフィルトレーション)によって濃縮を達成する。これらの技術では、溶媒と溶解塩と低分子が濾過膜を素通りし、より濃縮したタンパク溶液が後に残る。次いで、数倍容量の新たな緩衝液をこの産物へ連続追加して、タンパク溶液に残存する塩および低分子を異なる緩衝液と交換するが、この間、同じ膜へ溶液を連続的に通過させることによって一定の産物容量を維持する。
【0056】
次いで、AATに医薬的に許容される緩衝液を提供し、当該技術分野で知られている方法によって、好ましくはAAT治療用製剤を調製するのに適していることが知られている方法によって、凍結乾燥する。
【0057】
哺乳動物供給源より単離されるタンパク質は、病原性ウイルス汚染物を含有する場合があり、医薬組成物ではこのような汚染を低減または一掃することが望ましい。ウイルス低減の方法は、関連技術分野の当業者に知られている。本発明に適用可能であると考慮される方法には、限定されないが、低温殺菌、照射、溶媒/洗浄剤処理、消毒、濾過、および超臨界流体での処理が含まれる。溶媒/洗浄剤処理は、例えば、タンパク溶液をポリオキシエチレンソルビタンエステルおよびリン酸トリブチルと接触させることによって実行可能である(米国特許第4,820,805号を参照のこと;また、この方法のAAT組成物への適用については、WO95/35306も参照のこと)。タンパク溶液の消毒は、例えば米国特許第6,106,773号、6,369,048号、および6,436,344号に開示されるように、この溶液を可溶性の病原体不活性化剤へ曝露することによって行っても、また例えば米国特許第6,096,216号とその参考文献に開示されるように、不溶性の病原体不活性化マトリックスとの接触によって行ってもよい。濾過は、15〜70nmの限外フィルター(例えば、VirAGardTMフィルター、A/G Technology Corp.;PlanovaTMフィルター、旭化成株式会社;ViresolveTMフィルター、Milipore Corp.,;DV and OmegaTMフィルター、Pall Corp.)を通過させてよい。照射は、紫外線でもγ線でもよい;例えば、米国特許第6,187,572号とその参考文献を参照のこと。超臨界流体での処理によるウイルスの不活性化については、米国特許第6465168号に記載されている。タンパク溶液の低温殺菌は、処理すべきタンパク質の熱安定性により指定される限度内で加熱することによって達成可能である。AATの場合、低温殺菌は、通常、約60〜70℃まで加熱することによって達成される。以下に記載する好ましい態様において、AAT濃縮物のウイルス低減は、低温殺菌と限外濾過によって行う。例えば、米国特許第4,876,241号に開示されるように、低温殺菌工程の間に熱分解からAATを保護するために、安定化添加剤を加えてよい。好ましくは、ショ糖と酢酸カリウムを安定化剤として加えて、次いで、安定化したAAT溶液を約60℃で低温殺菌して、ウイルス汚染を低減する。ショ糖の量は、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、そして最も好ましくは約60重量%である。40%未満のショ糖の使用は、望まれないレベルのAAT凝集をもたらすことがわかった。酢酸カリウムの量は、好ましくは少なくとも4%、より好ましくは少なくとも5%、そして最も好ましくは約6重量%である。
【0058】
ウイルス低減の後で、AAT溶液は、随意に希釈して限外濾過してから、再濃縮して、例えば濾過により滅菌してよい。次いで、滅菌済みAAT含有濃縮物を凍結乾燥させて、治療用製品を生成することができる。凍結乾燥AAT散剤を調製するのに適した組成を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
最終製剤は、選択されるウイルス不活性化工程と企図される投与の形式に左右される。AATが注射によって、エアゾール剤として、または局所的に投与されるかどうかに依存して、AATは、凍結乾燥散剤、液剤、または懸濁液剤として保存してよい。表1に示す組成は注射に適していて、滅菌水での後の復元のために、凍結乾燥させて、硝子バイアルに保存してよい。吸入に適した乾燥粉末製剤の組成を表2に示す。こうした製剤は、米国特許第5,780,014号に記載されるように、目盛り付き投薬吸入器、または米国特許第6,138,668号に開示されるような肺送達デバイスでの吸入投与に適している。
【0061】
【表2】

【0062】
AATの量および質を決定するためのアッセイが当該技術分野で知られていて、本方法の効率を評価するために利用可能である。生物学的流体中のAATを測定または検出するために使用する、AATに特異的なモノクローナル抗体を伴うイムノアッセイの例が、米国特許第5,114,863号に開示されている。速度比濁分析の使用の例がL.Gaidulisら,Clin.Chem.29:1838(1983)に開示されている。AAT機能活性は、米国特許第4,697,003号に記載されるように、エラスターゼの発色基質を使用してそのエラスターゼ阻害能力を測定することによってアッセイすることができる。AATはまた、類似のやり方でそのトリプシン阻害能力を測定することによってアッセイしてもよい。好ましい態様において、AATは、本明細書の他所に記載のように、終点比濁分析によってアッセイする。
【0063】
タンパク質の量は、当該技術分野で知られた方法、例えばBradfordアッセイによって、または減衰係数としてE1%1cm,280nm=5.3を使用する280nmでの吸光度によって決定可能である(R.Pannell,D.Johnson,およびJ.Travis,Biochemistry 13:5439−5445(1974))。染色したSDS−PAGEとデンシトメトリーも、試料の純度を評価し、汚染タンパク質の存在を検出するために使用可能である。好ましくは、ジチオスレイトールのような還元剤をSDS−PAGEで使用して、あらゆるジスルフィド連結重合体を切断して、それによってAAT全体の非AATタンパク質全体に対する比較を促進する。サイズ排除HPLCも試料の純度を評価して、汚染タンパク質と凝集または重合型AATの両方の存在を検出するために使用可能である。本発明の方法により調製した4つのロットの分析により、SDS−PAGE(還元型)によればAATタンパク質純度が少なくとも98%であり、AAT単量体含量が少なくとも95%であり、比活性が平均して1.06mgの機能性AAT/mgタンパク質であることが示された(表3)。
【0064】
【表3】

【0065】
本発明の方法に好ましい条件は以下の通りである:
1.Cohn分画IV1−4の調製
ヒト血漿を−2〜2℃へ冷やし、そして6.9〜7.5のpHへ調整する。冷エタノールを加えて6〜10%の濃度とし、そして温度を−4〜0℃へ下げる。生じる沈殿物(「分画I」)を遠心分離または濾過により除去する。
【0066】
上記の手順からの濾液または上清をpH6.7〜7.1へ調整し、冷エタノールを加えて18〜22%の濃度とする。温度を−7〜−3℃へ下げて、そしてこの混合物を再び遠心分離または濾過に処す。生じる沈殿物(「分画II+III」)を他の目的のために取っておく。
【0067】
上記の手順からの濾液または上清をpH4.9〜5.3へ調整し、そしてエタノール濃度を16〜20%へ調整する。温度を−7〜−3℃へ調整する。この懸濁液が安定した後で、これをpH5.7〜6.1へ調整し、そしてエタノール濃度を40〜44%へ調整する。生じる沈殿物(「分画IV1−4」)を遠心分離または濾過により除去し、ペーストの形態で必要とされるまで保存する。分画IV1−4は、AATだけでなく、汚染タンパク質および脂質を含有する。
【0068】
2.DTTおよびシリカでの精製
分画IV1−4ペーストを懸濁緩衝液(例えば、100mM Tris,20mM NaCl,約7.5と約9.5の間、好ましくは約8と約9の間のpH)に懸濁させ、低温で少なくとも1時間撹拌する。使用する緩衝液の量は、1kgの血漿含有分画につき6〜10kgの緩衝液に及ぶ。
【0069】
次いで、このTris緩衝液の懸濁液をジチオスレイトール(DTT)とフュームドシリカで処理する。Tris緩衝液の懸濁液へDTTを約10〜50mMの範囲の濃度で加える。この溶液を低温で少なくとも30分間、好ましくは2〜4時間、そして好ましくは約8〜9のpHで撹拌する。フュームドシリカは、1kgの分画IV沈殿物につきほぼ100〜300gのフュームドシリカの濃度で加える。この懸濁液を低温で少なくとも30分間、好ましくは1〜4時間、約8〜9のpHで撹拌する。CeliteTMのような濾過補助剤を、シリカ1に対して濾過補助剤5の重量比で加え、この混合物をほぼ15分間撹拌する。フィルタ・プレスを使用して、沈殿したフュームドシリカと汚染タンパク質より可溶性のAAT産物を分離して、AAT最終濾液を得る。好ましくは、所望されるレベルの明瞭度が得られるまで、フィルタ・プレスを通して懸濁液を再循環させる。次いで、AAT最終濾液をさらに以下のように処理する。
【0070】
3.イオン交換クロマトグラフィー
IEC平衡緩衝液で平衡化したアニオン交換樹脂を含有するクロマトグラフィーカラムへAAT最終濾液をそのまま適用する。IEC洗浄緩衝液でカラムを洗浄することによって汚染物をカラムより除去し、引き続き、IEC溶出緩衝液を使用してAATを溶出させる。
【0071】
4.疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)
硫酸アンモニウムを加えて約1Mの最終濃度とすることによって、IECカラムからの溶出液をHICのために調製する。次いで、この溶液を濾過し、そしてHIC洗浄緩衝液に平衡化した疎水性相互作用クロマトグラフィーカラムへ適用する。洗浄緩衝液での初期溶出によりAAT含有流出液を得て、そして追加の洗浄緩衝液での溶出によってカラムに保持されたAATを除去する。流出液と洗液を合わせて限外濾過により濃縮し、そしてリン酸緩衝液へ透析濾過する。最終AAT濃度は、好ましくは、7%以下のタンパク質である。
【0072】
5.低温殺菌
ショ糖および酢酸カリウムの添加によりAAT濃縮物を低温殺菌のために安定化させて、そして約60℃で10〜11時間低温殺菌する。低温殺菌した溶液は、さらなる処理までは2〜8℃に保つ。
【0073】
6.ナノ濾過
低温殺菌済みAAT溶液を最終製剤緩衝液で希釈する。次いで、この希釈した低温殺菌済みAAT溶液を2つの新しいYM−100(Amicon)らせん巻き限外濾過カートリッジに通して濾過する。このナノ濾過工程は、第二の主要なウイルス低減工程として役立つ。公称100,000ダルトンの分子量カットオフを有する膜によりウイルスが保持されるのに対し、ほぼ50kDの分子量を有するAATは素通りする。この第二フィルターの透過液とフィルター後洗液にAATを採取する。この最終濾液をバルク受け器に採取して、2〜8℃に保つ。
【0074】
7.滅菌濾過と凍結乾燥
AAT含有最終濾液を濃縮し、そして15℃以下の温度で最終製剤緩衝液へ透析濾過して、最終バルク溶液を生成する。一連の滅菌、細菌保持フィルターの通過により、この溶液を浄化して滅菌する。この無菌バルク溶液を滅菌済みのガラス最終容器へ充填する。充填した容器を凍結乾燥させてから、真空で密封する。
【0075】
SDS−PAGEとELISAのような免疫学的アッセイまたは比濁分析の両方により決定されるように、この産物は96%以上純粋なAATであり、そしてサイズ排除HPLCによれば93%以上の単量体である。Cohn分画IVペーストの機能活性AAT含量に基づいた回収率は、70%である。
【実施例】
【0076】
実施例
9026リットルのヒト血漿より、Cohn血漿分画法により分画IV1−4沈殿物(667kg)を単離した。この材料をそれぞれほぼ75kgの9つのバッチへ分割した。プレスケーク(presscake)に対して6〜10(w/w)の緩衝液を使用して、各バッチをTris緩衝液に懸濁させた。この懸濁液を少なくとも15分間撹拌し、温度を2°〜8℃へ調整し、そして1N水酸化ナトリウムまたは1N塩酸を必要に応じて用いて、各懸濁液のpHを8.80〜8.95へ調整した。この懸濁液を15〜105分(平均45分)間撹拌し、そしてタンパク質(Bradfordアッセイ)と効力をモニターした。各バッチの比活性は、0.027〜0.045の範囲にあり、平均して0.037mgの機能性AAT/mgタンパク質であった。タンパク質全体のほぼ12%がアルブミンであり、ほぼ22%がトランスフェリンであった。
【0077】
ジチオスレイトール(DTT)を加え、各バッチ中のTris緩衝液の量に基づいて0.01〜0.05M DTT(平均0.03M)の最終濃度とした。少なくとも15分のプレミックス時間の後で、温度を2°〜8℃へ調整し、そしてpHを8.80〜8.95へ再調整して、そしてこの溶液を2〜8時間(平均3時間)の間撹拌した。必要ならば、pHを再び8.80〜8.95へ調整した。
【0078】
AerosilTM380(DegussaAG,フランクフルト・マイン)を1リットルの血漿インプットにつき13.4〜18.6g(平均16.7g)の割合で加えた。この懸濁液を2〜8℃で1〜4時間(平均1時間)の間撹拌した。
【0079】
CeliteTM545を、Aerosil1に対してCelite5の割合で各懸濁液へ加え、そしてこの懸濁液を2〜8℃で撹拌した。次いで、各懸濁液を、25x25インチのCunoTMA2605−10CPフィルターパッド(無機フィルター補助剤入りのセルロースパッド;公称1ミクロンのカットオフ)を支える、プルートおよびフレームフィルタ・プレスに通して再循環させた。濁度が比濁分析(少なくとも15分)により10NTU以下になったときに、再循環を中止して、濾液を採取した。フィルタ・プレスを2〜8℃のTRIS抽出緩衝液で後洗浄した。この後洗液を最初の濾過溶液と合わせ、そして溶液中の全タンパク質をBradfordタンパク質アッセイにより定量した。濾液は、19時間以下の間、2〜8℃に保った。AAT活性に基づけば、この濾液は、全量で1577gのAATを含有し、分画IVペーストの元の懸濁液に存在する活性の収率59%、1.5の精製倍率に相当した。(後続の処理後に存在する活性に照らすと、これらの数値は低いように見えるが、おそらくはAATアッセイに干渉する未同定の因子が存在するためであろう。)9つのバッチのそれぞれの比活性は、0.042〜0.064に及び、そして平均して1mgのタンパク質につき0.056mgの機能性AATであった。アルブミンとトランスフェリンは、検出限界以下であった(全タンパク質は、0.5%未満のアルブミンと2.5%未満のトランスフェリンを含有した)。
【0080】
TMAE FractogelTM(EM Industries,ニューヨーク州ホーソーン)をロードした、92リットル、高さ30cmのイオン交換クロマトグラフィー(IEC)カラムをIEC平衡緩衝液(50mM Tris,pH8.3〜9.3,20〜25℃)で平衡化した。平衡化に続き、流出液の伝導率が1.25mS/cm以下であることを実証した。先の工程からの各濾液を20〜25℃へ温めて、そしてCuno Zeta PlusTM90SPカートリッジ(45115−12−90SP,公称0.1ミクロンのMWカットオフ)に通して濾過した後で、流速(≦3.0cm/分)およびカラム圧力(≦20psi)を制御したカラム上へロードした。IECカラム上へロードする全タンパク質は樹脂容量の70%以下に制限した。次いで、20〜25℃で流速(≦3.0cm/分)およびカラム圧力(≦20psi)を制御して、このカラムを5カラム容量のIEC洗浄緩衝液(50mM Tris,25〜70mM NaCl勾配液、pH7.1〜7.7)で洗浄した。流出液をBradfordタンパク定量、AAT活性のアッセイ、および280nmでのUV吸光度によりモニターした。
【0081】
20〜25℃で流速(≦3.0cm/分)およびカラム圧力(≦20psi)を制御して、ほぼ3カラム容量のIEC溶出緩衝液(50mM Tris,75〜120mM NaCl勾配液、pH7.1〜7.7)でAATを溶出させた。流出液をBradfordタンパク定量、AAT活性のアッセイ、および280nmでのUV吸光度によりモニターした。溶出緩衝液の適用後に溶出したピーク全体をさらなる処理のために採取した。
【0082】
全9バッチの濾液を処理するために、上記の手順を9回繰り返した。このIEC溶出液へ硫酸アンモニウムを加え、0.9〜1.1Mの最終濃度とした。生じる溶液は、すぐに使用するか、または15〜25℃で7日以下の間保存した。AAT活性に基づけば、IEC溶出液は、全量で2241gのAATを含有し、分画IVペーストの元の懸濁液に存在する活性の収率84%、16.2の精製倍率に相当した。9つのバッチのそれぞれの比活性は、0.416〜0.975に及び、平均して1mgのタンパク質につき0.592mgの機能性AATであった。
【0083】
CunoTMフィルター(Zeta PlusTM90SPカートリッジ(45115−12−90SP,公称0.1ミクロンのMWカットオフ))を温WFIフラッシュに続く冷WFIリンス(WFI=注射用水)で準備した。圧縮空気でこのフィルターより水分を穏やかに吹き出した。硫酸アンモニウムを含有する3つのIEC溶出液をプールし、そして準備したCunoフィルターに通して濾過し、引き続いて合わせて、「濾過済みIEC溶液」を得た。フィルターをほぼ20リットルのHIC洗浄緩衝液(50mM Tris,1M硫酸アンモニウム、pH7.1〜7.7)で後洗浄した。この後洗液と濾液を合わせて、秤量した。この方法を3回繰り返して、9バッチのIEC溶出液を処理した。
【0084】
疎水性相互作用カラム(HIC)にPhenyl SepharoseTMFast Flow HS樹脂(ファルマシア、ニュージャージー州ピスカタウェイ)を49リットルの容量(32cmの床高さ)まで充填し、そしてHIC洗浄緩衝液(50mM Tris,1M硫酸アンモニウム、pH7.1〜7.7)で平衡化した。上記とすべてのカラムローディング、並びに後続の溶出は、流速(≦4cm/分)、カラム圧力(≦20psi)、および溶液温度(20〜25℃)を制御しながら行った。
【0085】
濾過済みIEC溶液の3バッチのそれぞれをHICカラム上にロードした。カラムにロードする全タンパク質は、樹脂1リットルにつき39g以下のタンパク質へ制限した。流出液の光学密度(OD280)をモニターし、そしてOD280がベースライン値より0.04単位上昇するときに採取をはじめた。このカラムをHIC洗浄緩衝液で洗浄して追加のAATをカラムより溶出させたが、この間、非AAT汚染物は、カラムへ結合したままであった。ほぼ10カラム容量のHIC洗浄緩衝液をカラムへ適用し、A280がベースライン上0.05単位未満へ低下するまで流出液を採取した。AAT流出液とカラム洗液を合わせて、秤量した。Bradfordタンパク定量、ODタンパク定量、効力、およびLAL(カブトガニ変形細胞溶解液)試験のために試料を取った。HIC流出液は、72時間以下の間15〜25℃に保った。AAT活性に基づけば、この3バッチのHIC流出液は、全量で2090gのAATを含有し、分画IVペーストの元の懸濁液に存在する活性の収率79%、25.6の精製倍率に相当した。3つのバッチのそれぞれの比活性は、0.908〜0.986に及び、平均して1mgのタンパク質につき0.937mgの機能性AATであった。
【0086】
分子量カットオフ範囲が5,000〜30,000である、ポリエーテルスルホン膜(表面積:50ft)を含有する接流限外濾過(UF)ユニットの完全性試験を行って、1250ml/分未満の泡立ち点を確認した。透析濾過緩衝液(40mMリン酸ナトリウム、pH7.2〜7.6;少なくとも10kg)を少なくとも5分間このユニットに通して再循環させた。再循環した緩衝溶液をサンプリングして、適正なpH(7.2〜7.6)およびLAL(<0.25EU/ml)を実証した。pHおよびLALの必要条件が満たされていなければ、前洗浄工程の繰り返しを実施した。このUFユニットは、HIC流出液の適用に先立って、12時間以下の間2〜8℃に保った。
【0087】
限外濾過ユニットへの適用に先立って、先の処理工程からのHIC流出液を混合し、そして温度を15〜25℃へ調整した。入口圧力を≦40psiに維持し、そして出口圧力と試料重量を濃縮プロセスの間モニターした。濃縮物の重量がほぼ10kgになるまで濃縮を実施した。
【0088】
濃縮に続き、このHIC流出液濃縮物を透析濾過して、Tris緩衝化硫酸アンモニウム溶液をリン酸ナトリウム緩衝液に交換した。HIC流出液濃縮物の重量の10倍容量で透析濾過緩衝液(40mMリン酸ナトリウム、pH7.2〜7.6)を適用した。入口圧力を≦40psiに維持し、そして出口圧力をモニターした。すべての透析濾過緩衝液を加えた後で、透過液のナトリウム濃度を定量した。透過液のナトリウム濃度が透析濾過緩衝液のそれの10%以内であれば、透析濾過を完了とみなした。追加の透析濾過緩衝液(濃縮物の重量の5倍)を加え、必要ならば、透過液のナトリウム濃度が透析濾過緩衝液のそれの10%以内になるまで、透析濾過を延長した。
【0089】
透析濾過に続き、濃縮物がほぼ6kgの重量になるまで、限外濾過を続けた。次いで、産物をUFユニットから外へ穏やかに(≦25psi)吹き出した。限外濾過ユニットを1.5kgの透析濾過緩衝液で2回後洗浄した。このUF後洗液を透析濾過済み濃縮物へ加えた。濃縮物の全体重量を決定し、そしてタンパク濃度を定量した(280nmでのOD)。
【0090】
観測したODタンパク質に基づいて、AATタンパク濃度を定量し、必要ならば、2.9〜6.8%の範囲へ調整した。LAL、SDS−PAGE、Bradfordタンパク質、効力、および生物負荷(bioburden)についての分析を実施した。SDS−PAGEは、≧98% AATを示した。AAT活性に基づけば、この濃縮物は全量2096gのAATを含有し、Cohnペースト懸濁液に存在する活性の収率79%であり、26.6の精製倍率であった。3つのバッチのそれぞれの比活性は0.886〜1.04の範囲であり、平均して1mgのタンパク質につき0.974mgの機能性AATであった。
【0091】
このAAT濃縮物(2.9〜6.8%のタンパク質)を20〜25℃へ調整し、そしてショ糖(1kgのAAT濃縮物につき1.75kg)と酢酸カリウム(1kgのAAT濃縮物につき0.175kg)を加えた。ショ糖の最終濃度は59.8%±6%(w/w)で、酢酸カリウムの最終濃度は5.98%±0.6%(w/w)であった。混合後、安定した濃縮物を1リットルの密封血漿ボトルへ移した。このボトルを2〜8℃で10週以下の間(そして、15〜25℃で48時間以下の間)保存した後で、加熱処理(低温殺菌)した。60±1℃での低温殺菌を10〜11時間実施した。低温殺菌済みAAT溶液は、さらなる処理に先立って、10週以下の間2〜8℃に、そして72時間以下の間15〜25℃に保った。
【0092】
低温殺菌済みAAT溶液をHEPA濾過空気下に2つのバッチへプールし、透析濾過緩衝液(20mMリン酸ナトリウム,45mM NaCl,3%マンニトール,pH6.6〜7.4)により5:1の緩衝液:AAT溶液(w/w)の割合で希釈した。この希釈溶液をLAL、タンパク質、および効力のためにサンプリングした。AAT活性に基づけば、この低温殺菌済みの希釈溶液は全量1941gのAATを含有し、Cohnペースト懸濁液に存在する活性の収率73%であり、26.6の精製倍率であった。2つの低温殺菌済みバッチの比活性は0.954と0.993であり、平均して1mgのタンパク質につき0.973mgの機能性AATであった。このAAT溶液の単量体百分率を低温殺菌の前後でサイズ排除クロマトグラフィーにより測定した。AAT濃縮物(低温殺菌前)の単量体分画は97.1%〜98.5%で、平均97.7%であった。2つの低温殺菌済み希釈溶液の単量体分画は95.9%と97.5%で、平均96.7%であった。低温殺菌工程の間に重合化または凝集化したAATの単量体型は、1.0%にすぎなかった。
【0093】
2つのYM100フィルターカートリッジ(ミリポア、マサチューセッツ州ベドフォード)をYM100 UFシステムへ直列に設置し、第一カートリッジは接流モードで作動させ、第二カートリッジは行き止まりとした。このUFシステムを少なくとも5kgの透析濾過緩衝液で再循環させた。再循環に続き、透析濾過緩衝液を試験して、pH(6.8〜7.2)とLAL(<0.25EU/ml)を実証した。透析緩衝液と、凍結乾燥までの後続のすべての処理は、2〜8℃であった。
【0094】
プールしたAAT溶液のそれぞれを≦45psiの入口圧力で、2〜8℃でYM100カートリッジに通過させた。ロード量は1339グラムのタンパク質を超えず、YM100濾液+後洗液の重量は337kgを超えなかった。次いで、YM100濾液を、低温殺菌後プロセスに専用である10,000M.W.膜(≧25ft表面積)を含有する限外濾過装置を使用して、透析濾過緩衝液(1.60〜1.90mg/mlのナトリウム、YM100濃縮物の10倍重量)に対して≦50psiの入口圧力で限外濾過して、透析濾過した。
【0095】
透析濾過した溶液をインラインでサンプリングして、ナトリウムを試験した。透過液のナトリウムレベルが透析濾過緩衝液ナトリウム濃度の±10%であれば、透析濾過を完了とみなした。このナトリウムレベルが透析濾過緩衝液ナトリウム濃度の±10%でなければ、追加の透析濾過緩衝液(YM100濾液重量の5倍)で透析濾過を繰り返した。
【0096】
ほぼ6kgの溶液が得られるまで最終濃縮を実施した。1.5kgの透析濾過緩衝液を毎回使用して、2回の後洗浄を実施した。透析濾過済みYM100濾液の全容量の決定のために、後洗液を先の濃縮物と合わせた。透析濾過済みYM100濾液は、さらなる処理の前に、12日以下の間2〜8℃に保った。AAT活性に基づけば、この透析濾液は全量1960gのAATを含有し、Cohnペースト懸濁液に存在する活性の収率74%であり、27.5の精製倍率であった。2つのバッチの比活性は0.984と1.03であり、平均して1mgのタンパク質につき1.01mgの機能性AATであった。
【0097】
50mgの機能性AAT/mlという最終製剤目標を得るために透析濾過緩衝液を加えた後で、YM100濾過溶液のpHを必要に応じてpH6.8〜7.2へ調整した。0.2ミクロンのPall SLK−7002−NRP Filter(Pall Corp.,ニューヨーク州イーストヒルズ)で浄化を行った。浄化されたならば、この非滅菌バルクAAT溶液を合わせ、秤量し、LAL、タンパク質、効力、および生物負荷(≦100CFU/ml)のためにサンプリングした。この非滅菌バルクAATを、滅菌濾過までの間、73.5時間以下の間2〜8℃に保った。AAT活性に基づけば、この非滅菌バルクAAT溶液は全量1822gのAATを含有し、Cohnペースト懸濁液に存在する活性の収率69%であり、26.8の精製倍率であった。比活性は、1mgのタンパク質につき0.981mgの機能性AATであった。
【0098】
滅菌濾過の準備として、60Lバルク受け器、Pall 0.2ミクロンKA1NFP2滅菌フィルター、および2つのミリポア0.2 Micron AerventTM50通気フィルターからなる滅菌バルクアセンブリーを用意した。このアセンブリーをオートクレーブ処理し、そしてオートクレーブ処理の7日以内に使用した。温度(2〜8℃)、圧力(≦20psi)、濾過時間(≦120分)、並びに後洗浄を含めたロード量(1cmのフィルター面積につき、≦0.26kgの非滅菌バルク)を制御して、この非滅菌バルク溶液を滅菌濾過した。667kgのCohn分画IVペーストより最終的に入手した無菌濾液は、最初のCohn分画IV1−4懸濁液の活性に基づけば67%の全体収率と29.8の精製倍率に相当する、1.78kgの機能性AATを含有した。比活性は、1mgのタンパク質につき1.09mgの機能性AATであった。この産物は、SDS−PAGEによれば>99% AATで、サイズ排除HPLCによれば>95%の単量体であった。
【0099】
バイアルあたりほぼ1000mgの機能性AAT活性(即ち、バイアルあたり20.8g±0.2gの溶液)を達成することを目標にした充填量を使用して、AAT無菌バルクを50mlのI型硝子バイアルへ無菌的に充填し、バイアルの中身を凍結させ、凍結乾燥させた。
【0100】
【表4】

【0101】
上記の各工程での機能性AATの収量と、得られるAAT分画の諸特性を表4に示す。本発明を行うための上記の方法(modes)の諸変更は、タンパク精製、分析化学、医学の分野、および関連分野の当業者には明らかであり、そのような代用および変更も本発明の範囲内にあると考慮される。上記に記載の詳細な態様は、例示のためにのみ提供するのであって、以下の特許請求項の範囲を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、本発明が組み込まれる全体のAAT精製法を示すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の方法により様々な段階で産生される産物に存在するタンパク質を示すSDS−PAGEゲルである。レーン1,分子量マーカー;レーン2,血漿(Cyro−Poor);レーン3,分画IV1,4抽出物;レーン4,DTT/Aerosil処理後の抽出物濾液;レーン5,IEC溶出液;レーン6;HIC流出液;レーン7,最終内容物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AAT含有タンパク質混合物よりAATを精製する方法であって:
(a)ジスルフィド還元剤とAAT含有タンパク質混合物を接触させて、還元AAT含有混合物を産生する工程;
(b)還元AAT含有タンパク質混合物を不溶性タンパク質吸着材料と接触させる工程;および
(c)生じるAAT含有産物を単離する工程;
を含んでなる、前記方法。
【請求項2】
AAT含有タンパク質沈殿物よりAATを精製する方法であって:
(a)AATが溶けることを可能にする条件下でAAT含有タンパク質沈殿物を緩衝液に懸濁する工程;
(b)AAT含有懸濁液をジスルフィド還元剤と接触させて、還元AAT含有懸濁液を産生する工程;
(c)還元AAT含有懸濁液を不溶性タンパク質吸着材料と接触させる工程;および
(d)生じるAAT含有産物を単離する工程;
を含んでなる、前記方法。
【請求項3】
ジスルフィド還元剤がジチオールである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ジチオールがジチオスレイトールである、請求項3の方法。
【請求項5】
タンパク質吸着材料がシリカ吸着剤である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
タンパク質吸着材料がフュームド(fumed)シリカである、請求項5の方法。
【請求項7】
アニオン交換クロマトグラフィー工程をさらに含んでなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
疎水性相互作用クロマトグラフィー工程をさらに含んでなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
ウイルスの低減工程をさらに含んでなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
ウイルスの低減工程が約60〜約70℃での低温殺菌を含む、請求項9の方法。
【請求項11】
少なくとも40%(重量/重量)のショ糖を含有するAATの溶液に対して低温殺菌工程を行う、請求項10の方法。
【請求項12】
ウイルスの低減工程がウイルス粒子を除去するのに有効な濾過をさらに含む、請求項11の方法。
【請求項13】
滅菌工程をさらに含んでなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項14】
滅菌工程が細菌を除去するのに有効な濾過を含む、請求項13の方法。
【請求項15】
AAT含有タンパク質混合物がCohn分画IV沈殿物またはCohnII+III上清である、請求項1の方法。
【請求項16】
AAT含有タンパク質沈殿物がCohn分画IV沈殿物である、請求項2の方法。
【請求項17】
ジスルフィド還元剤を含む緩衝液を工程(a)に提供することによって工程(b)を実行する、請求項2の方法。
【請求項18】
(a)SDS−PAGEにより定量される全タンパク質重量に基づいて6%以下の汚染タンパク質;および
(b)0.2%未満のIgA;
を含んでなるα1アンチトリプシン組成物であって、ここでα1アンチトリプシンの比活性は、減衰係数としてE1%1cm,280nm=5.3を使用するとき、1ミリグラムのタンパク質につき少なくとも0.99mgの機能性AATであり;そして該組成物の8%未満は、単量体AATより高い分子量である、前記組成物。
【請求項19】
SDS−PAGEによれば2%未満の汚染タンパク質を含有し、そしてここで活性AATの抗原性AATに対する見かけの比は1.16より大きい、請求項18の組成物。
【請求項20】
組成物が、
(a)SDS−PAGEにより定量される全タンパク質重量に基づいて1%未満の汚染タンパク質;
(b)0.1%未満のIgA;
を含有し、そしてその組成物の5%未満は、単量体AATより高い分子量である、請求項18の組成物。
【請求項21】
医薬的に許容されるレベルの活性および純度を有するAATの溶液よりウイルス汚染物を不活性化または除去する方法であって、
(a)前記AATの溶液を約60〜70℃で低温殺菌に処すること;および
(b)前記溶液を限外濾過に処すること;
を含んでなる、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−512394(P2006−512394A)
【公表日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−565589(P2004−565589)
【出願日】平成15年12月19日(2003.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2003/040560
【国際公開番号】WO2004/060528
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(505250122)ズィーエルビー・ベアリング・エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】