説明

β−ケトニトリル類の製法

【課題】 本発明は、簡便な方法にて、入手が容易な脂肪族カルボン酸エステル類から、高純度で収率良くβ-ケトニトリル類を得る、工業的に好適なβ-ケトニトリル類の製法を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明の課題は、
(A)金属アルコキシドの存在下、脂肪族カルボン酸エステルとアセトニトリルを反応させて、β-ケトニトリルの金属塩を合成する反応操作工程、
(B)その後、反応液に有機溶媒と水を添加・混合して、有機層と水層に層分離させて、β-ケトニトリルの金属塩を含む水層(水溶液)を得る層分離工程、
(C)次いで、層分離によって得られたβ-ケトニトリルの金属塩を含む水溶液に酸を加えて中和し、有機溶媒で抽出して遊離のβ-ケトニトリルを取得する中和・抽出工程、
を含むことからなるβ-ケトニトリル類の製法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族カルボン酸エステル類からβ-ケトニトリル類を製造する方法に関する。β-ケトニトリル類は、医薬・農薬等の合成原料として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、金属アルコキシドの存在下、脂肪族カルボン酸エステル類とアセトニトリルを反応させてβ-ケトニトリル類を製造する方法としては、例えば、ナトリウムエトキシド存在下、イソ酪酸エチルとアセトニトリルを反応させる方法(例えば、非特許文献1参照)やアルカリアルコラート存在下、酢酸エステルとアセトニトリルを反応させる方法(例えば、特許文献1参照)が開示されている。しかしながら、これらの方法では、反応中に副生する3-オキソブチロニトリル、ピリミジン類等を混入させず、高純度で収率良くβ-ケトニトリル類を得る方法については何ら記載されていなかった。
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,56,1171(1934)
【特許文献1】特開平6-312966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、簡便な方法にて、入手が容易な脂肪族カルボン酸エステル類から、高純度で収率良くβ-ケトニトリル類を得る、工業的に好適なβ-ケトニトリル類の製法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の課題は、
(A)金属アルコキシドの存在下、一般式(1)
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、R1は、脂肪族基を示し、R2は、反応に関与しない基を示す。)
で示される脂肪族カルボン酸エステル類とアセトニトリルを反応させて、一般式(2)
【0007】
【化2】

【0008】
(式中、R1は、前記と同義であり、Xは金属原子を示す。)
で示されるβ-ケトニトリルの金属塩を合成する反応操作工程、
(B)その後、反応液に有機溶媒と水を添加・混合して、有機層と水層に層分離させて、β-ケトニトリルの金属塩を含む水層(水溶液)を得る層分離工程、
(C)次いで、層分離によって得られたβ-ケトニトリルの金属塩を含む水溶液に酸を加えて中和し、有機溶媒で抽出して遊離のβ-ケトニトリルを取得する中和・抽出工程、
を含むことからなる、一般式(3)
【0009】
【化3】

【0010】
(式中、R1は、前記と同義である。)
で示されるβ-ケトニトリル類の製法によって解決される。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、簡便な方法にて、入手が容易な脂肪族カルボン酸エステル類から、高純度で収率良くβ-ケトニトリル類を得る、工業的に好適なβ-ケトニトリル類の製法を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、
(A)金属アルコキシドの存在下、一般式(1)で示される脂肪族カルボン酸エステルとアセトニトリルを反応させて、一般式(2)で示されるβ-ケトニトリルの金属塩を合成する反応操作工程、
(B)その後、反応液に有機溶媒と水を添加・混合して、有機層と水層に層分離させて、β-ケトニトリルの金属塩を含む水層(水溶液)を得る層分離工程、
(C)次いで、層分離によって得られたβ-ケトニトリルの金属塩を含む水溶液に酸を加えて中和し、有機溶媒で抽出して遊離のβ-ケトニトリルを取得する中和・抽出工程、
を含むことからなる三つの工程によってβ-ケトニトリルを反応生成物として得るものである。
【0013】
引き続き、前記の三つの工程を順次説明する。
(A)反応操作工程
本発明の反応操作工程は、金属アルコキシドの存在下、一般式(1)で示される脂肪族カルボン酸エステルとアセトニトリルを反応させて、一般式(2)で示されるβ-ケトニトリルの金属塩を合成する工程である。
【0014】
本発明の反応操作工程において使用する脂肪族カルボン酸エステル類は、前記の一般式(1)で示される。その一般式(1)において、R1は、脂肪族基であり、具体的には、例えば、アルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示す。
【0015】
前記アルキル基としては、特に炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。これらの基は、各種異性体を含む。
【0016】
前記シクロアルキル基としては、特に炭素数3〜7のシクロアルキル基が好ましく、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。これらの基は、各種異性体を含む。
【0017】
前記アラルキル基としては、特に炭素数7〜10のアラルキル基が好ましく、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等が挙げられる。これらの基は、各種異性体を含む。
【0018】
又、一般式(1)において、R2は、反応に関与しない基、具体的には、炭化水素基であり、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を示す。
【0019】
前記アルキル基としては、特に炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。これらの基は、各種異性体を含む。
【0020】
前記シクロアルキル基としては、特に炭素数3〜7のシクロアルキル基が好ましく、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。これらの基は、各種異性体を含む。
【0021】
前記アラルキル基としては、特に炭素数7〜10のアラルキル基が好ましく、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等が挙げられる。これらの基は、各種異性体を含む。
【0022】
前記アリール基としては、特に炭素数6〜14のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基、アントラニル基等が挙げられる。これらの基は、各種異性体を含む。
【0023】
本発明の反応操作工程において使用する金属アルコキシドの金属原子としては、例えば、理化学辞典第4版(岩波書店出版)に記載されている、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子等の1A族原子、マグネシウム原子、カルシウム原子等の2A族原子、アルミニウム等の3B族原子が挙げられる。
【0024】
前記金属アルコキシドの具体例としては、例えば、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシド等の1A族金属アルコキシド;マグネシウムメトキシド、カルシウムメトキシド等の2A族金属アルコキシド;アルミニウムイソプロポキシド等の3B族金属アルコキシドが挙げられるが、好ましくはナトリウムアルコキシド、更に好ましくはナトリウムメトキシドが使用される。
【0025】
前記金属アルコキシドの使用量は、脂肪族カルボン酸エステル類に対して、好ましくは1.0〜2.5倍モル、更に好ましくは1.1〜2.0倍モルである。これらの金属アルコキシドは、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0026】
本発明の反応操作工程において使用するアセトニトリルの量は、脂肪族カルボン酸エステル類に対して、好ましくは1.1〜2.5倍モル、更に好ましくは1.2〜2.0倍モルである。
【0027】
本発明の反応操作工程は、例えば、不活性ガス雰囲気にて、金属アルコキシド、脂肪族カルボン酸エステル類及びアセトニトリルを混合し、好ましくは50〜110℃、更に好ましくは60〜100℃に加熱して反応させる等の方法によって行われる。その際の反応圧力は、特に限定されない。
【0028】
(B)層分離工程
本発明の層分離工程は、反応操作工程で得られたβ-ケトニトリルの金属塩を含む反応液に、有機溶媒と水を添加・混合して、有機層と水層に分離させて、β-ケトニトリルの金属塩が溶解している水層(水溶液)を得る工程である。
【0029】
本発明の層分離工程において添加される有機溶媒としては、水層と有機層が層分離出来る有機溶媒ならば特に限定はされないが、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類が挙げられるが、好ましくはエーテル類、芳香族炭化水素類、更に好ましくは芳香族炭化水素類が使用される。これら有機溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良く、又、攪拌性を高めるために、低級アルコール類を層の分離を損なわない程度で加えても良い。
【0030】
前記有機溶媒の添加量は、有機層と水層とが分離するような量であれば特に制限がないが、脂肪族カルボン酸エステル類に対して、好ましくは0.5〜30容量倍、更に好ましくは1〜10容量倍である。
【0031】
前記水の添加量は、反応操作工程で得られたβ-ケトニトリルの金属塩を完全に溶解させるような量であれば特に制限されないが、脂肪族カルボン酸エステル類に対して、好ましくは1〜50容量倍、更に好ましくは2〜30容量倍である。
【0032】
なお、本発明の層分離工程では、冷却に伴って反応液が固化するのを防ぐために、反応液に先に有機溶媒を加えて流動性を高め、次いで攪拌下で水を添加・混合するのが好ましい。その際の反応液の温度は、好ましくは10〜50℃、更に好ましくは20〜40℃である。
【0033】
(C)中和・抽出工程
本発明の中和・抽出工程は、層分離工程によって得られたβ-ケトニトリルの金属塩を含む水溶液に酸を加えて中和し、更に有機溶媒で抽出して、遊離のβ-ケトニトリルを取得する工程である。
【0034】
本発明の中和・抽出工程によって使用する酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、酢酸、塩化アンモニウム(又はその水溶液)等が挙げられるが、好ましくは塩酸、硫酸、塩化アンモニウム(又はその水溶液)が使用される。
【0035】
前記酸の使用量は、水溶液のpH値を好ましくは6〜10にするような量であれば特に制限はない。なお、酸の添加は、水溶液の温度が、0〜50℃になるような範囲で行うのが好ましい。
【0036】
本発明の中和・抽出工程において使用する有機溶媒としては、水溶液中(水層中)に含まれる遊離のβ-ケトニトリルを抽出出来る有機溶媒ならば特に限定はされないが、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類が挙げられるが、好ましくは芳香族炭化水素類、酢酸エステル、更に好ましくは芳香族炭化水素類が使用される。
【0037】
前記有機溶媒の使用量としては、前記の中和で得られた水溶液中(水層中)の遊離のβ-ケトニトリルを抽出出来るような量であれば特に制限されない。
【0038】
本発明の中和・抽出工程によって、遊離のβ-ケトニトリルが有機溶媒溶液として高純度で得られるが、これは、例えば、濃縮、蒸留、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等による一般的な方法によって更に分離・精製することが出来る。なお、β-ケトニトリルは熱に対して不安定であるため、蒸留で分離・精製する際には、薄膜式蒸留装置や流下膜式蒸留装置を用いるのが望ましい。
【実施例】
【0039】
次ぎに、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0040】
実施例1(3-シクロプロピル-3-オキソプロピオニトリルの合成)
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び還流冷却器を備えた内容積1000mlのガラス製フラスコに、窒素雰囲気下、ナトリウムメトキシド81.0g(1.5mol)、シクロプロパンカルボン酸メチル100.0g(1.0mol)及びアセトニトリル61.5g(1.5mol)を加え、還流下(82℃)で6時間反応させた。
反応終了後、トルエン400mlを加えて室温まで冷却し、液温を30℃以下に保ちながら、攪拌下で水200mlをゆるやかに滴下し、得られた水層を分液した。
次いで、水層を氷浴中で冷却しながら、12mol/l塩酸135ml(1.6mol)を加えて水溶液のpHを7.0にした後、トルエン200mlで3回抽出し、得られたトルエン層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液50mlで洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、トルエン層を高速液体クロマトグラフィーにより分析(絶対定量法)したところ、目的とする3-シクロプロピル-3-オキソプロピオニトリルが81.1g(反応収率74%)、副生成物である3-オキソブチロニトリルが0.45g(目的物に対して0.55質量%)、ピリミジン類が0.15g(目的物に対して0.18質量%)生成していた。その後、減圧下で濃縮し、帯黄色液体として純度98.2%(高速液体クロマトグラフィーによる分析値)の3-シクロプロピル-3-オキソプロピオニトリル80.2gが得られた(単離収率72%)。
3-シクロプロピル-3-オキソプロピオニトリルの物性値は、以下の通りであった。
【0041】
EI-MS(m/e);69(M-CH2CN)、CI-MS(m/e);110(M+1)
IR(液膜法、cm-1);3200〜2900、2261、1713、1389、1073、953
1H-NMR(CDCl3、δ(ppm));1.05〜1.15(2H,m)、1.18〜1.25(2H,m)、2.06〜2.15(1H,m)、3.64(2H,s)
【0042】
比較例1(3-シクロプロピル-3-オキソプロピオニトリルの合成:層分離工程なし)
実施例1と同様な装置に、窒素雰囲気下、ナトリウムメトキシド81.0g(1.5mol)、シクロプロパンカルボン酸メチル100.0g(1.0mol)及びアセトニトリル61.5g(1.5mol)を加え、還流下(82℃)で6時間反応させた。
反応終了後、トルエン400mlを加えて室温まで冷却し、液温を30℃以下に保ちながら、6mol/l塩酸280ml(1.6mol)及び水100mlを加えて水溶液のpHを2.0にした後、トルエン200mlで3回抽出し、得られたトルエン層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液50mlで洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、トルエン層を高速液体クロマトグラフィーにより分析(絶対定量法)したところ、目的とする3-シクロプロピル-3-オキソプロピオニトリルが72.3g(反応収率66%)、副生成物である3-オキソブチロニトリルが0.60g(目的物に対して0.83質量%)、ピリミジン類が1.33g(目的物に対して1.8質量%)生成していた。その後、減圧下で濃縮し、帯黄色液体として純度93.6%(高速液体クロマトグラフィーによる分析値)の3-シクロプロピル-3-オキソプロピオニトリル77.2gが得られた(単離収率66%)。
【0043】
実施例2(4-メチル-3-オキソペンタンニトリルの合成)
実施例1と同様な装置に、窒素雰囲気下、ナトリウムメトキシド81.0g(1.5mol)、イソ酪酸メチル102.1g(1.0mol)及びアセトニトリル61.5g(1.5mol)を加え、還流下(82℃)で6時間反応させた。
反応終了後、トルエン400mlを加えて室温まで冷却し、液温を35℃以下に保ちながら、攪拌下で水200mlをゆるやかに滴下し、得られた水層を分液した。
次いで、水層を氷浴中で冷却しながら、12mol/l塩酸95ml(1.1mol)を加えて水溶液のpHを7.7にした後、トルエン300mlで3回抽出し、得られたトルエン層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液50mlで洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、減圧下で濃縮し、薄黄色液体として純度98.5%(ガスクロマトグラフィーによる面積百分率)の4-メチル-3-オキソペンタンニトリル78.9gが得られた(単離収率70%)。
4-メチル-3-オキソペンタンニトリルの物性値は、以下の通りであった。
【0044】
EI-MS(m/e);71(M-CH2CN)、CI-MS(m/e);112(M+1)
IR(液膜法、cm-1);3700〜3100、3100〜2800、2263、1725、1468、1389、1306、1048、939
1H-NMR(CDCl3、δ(ppm));1.18(6H,d,J=6.8Hz)、2.84(1H,m)、3.94(2H,s)
【0045】
実施例3(4,4-ジメチル-3-オキソペンタンニトリルの合成)
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び還流冷却器を備えた内容積100mlのガラス製フラスコに、窒素雰囲気下、ナトリウムメトキシド8.10g(0.15mol)、ピバリン酸メチル11.62g(1.0mol)及びアセトニトリル6.15g(0.15mol)を加え、還流下(82℃)で6時間反応させた。
反応終了後、トルエン40mlを加えて室温まで冷却し、液温を35℃以下に保ちながら、攪拌下で水45mlをゆるやかに滴下し、得られた水層を分液した。
次いで、水層を氷浴中で冷却しながら、12mol/l塩酸9.5ml(0.11mol)を加えて水溶液のpHを7.7にした後、トルエン30mlで3回抽出し、得られたトルエン層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液50mlで洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、トルエン層を高速液体クロマトグラフィーにより分析(絶対定量法)したところ、目的とする4,4-ジメチル-3-オキソペンタンニトリルが7.25g(反応収率58%)、副生成物である3-オキソブチロニトリルが0.01g(目的物に対して0.20質量%)、ピリミジン類が0.01g(目的物に対して0.14質量%)生成していた。その後、減圧下で濃縮し、薄黄色固体として純度98.4%(高速液体クロマトグラフィーによる面積百分率)の4,4-ジメチル-3-オキソペンタンニトリル7.21gが得られた(単離収率58%)。
4,4-ジメチル-3-オキソペンタンニトリルの物性値は、以下の通りであった。
【0046】
EI-MS(m/e);57(M-COCH2CN)、CI-MS(m/e);126(M+1)
IR(液膜法、cm-1);3000〜2800、2266、1721、1485、1391、1325、1067、935
1H-NMR(CDCl3、δ(ppm));1.21(9H,s)、3.70(2H,s)
融点;67.8〜68.7℃
【0047】
比較例2(4,4-ジメチル-3-オキソペンタンニトリルの合成:層分離工程なし)
実施例3と同様な装置に、窒素雰囲気下、ナトリウムメトキシド8.10g(0.15mol)、ピバリン酸メチル11.62g(0.10mol)及びアセトニトリル6.15g(0.15mol)を加え、還流下(82℃)で6時間反応させた。
反応終了後、トルエン40mlを加えて室温まで冷却し、液温を30℃以下に保ちながら、6mol/l塩酸28ml(0.16mol)及び水10mlを加えて水溶液のpHを2.0にした後、トルエン20mlで3回抽出し、得られたトルエン層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液50mlで洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、トルエン層を高速液体クロマトグラフィーにより分析(絶対定量法)したところ、目的とする4,4-ジメチル-3-オキソペンタンニトリルが7.22g(反応収率58%)、副生成物である3-オキソブチロニトリルが0.04g(目的物に対して0.55質量%)、ピリミジン類が0.13g(目的物に対して1.8質量%)生成していた。その後、減圧下で濃縮し、薄黄色液体として純度94.6%(高速液体クロマトグラフィーによる面積百分率)の4,4-ジメチル-3-オキソペンタンニトリル7.63gが得られた(単離収率58%)。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、脂肪族カルボン酸エステル類からβ-ケトニトリル類を製造する方法に関する。β-ケトニトリル類は、医薬・農薬等の合成原料として有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)金属アルコキシドの存在下、一般式(1)
【化1】

(式中、R1は、脂肪族基を示し、R2は、反応に関与しない基を示す。)
で示される脂肪族カルボン酸エステル類とアセトニトリルを反応させて、一般式(2)
【化2】

(式中、R1は、前記と同義であり、Xは金属原子を示す。)
で示されるβ-ケトニトリルの金属塩を合成する反応操作工程、
(B)その後、反応液に有機溶媒と水を添加・混合して、有機層と水層に層分離させて、β-ケトニトリルの金属塩を含む水層(水溶液)を得る層分離工程、
(C)次いで、層分離によって得られたβ-ケトニトリルの金属塩を含む水溶液に酸を加えて中和し、有機溶媒で抽出して遊離のβ-ケトニトリルを取得する中和・抽出工程、
を含むことからなる、一般式(3)
【化3】

(式中、R1は、前記と同義である。)
で示されるβ-ケトニトリル類の製法。
【請求項2】
反応操作工程において、アセトニトリルの使用量が、脂肪族カルボン酸エステル類に対して1.1〜2.5倍モルである請求項1記載のβ-ケトニトリル類の製法。
【請求項3】
反応操作工程において、反応温度が50〜110℃である請求項1記載のβ-ケトニトリル類の製法。
【請求項4】
層分離工程において、先に有機溶媒を加えた後、攪拌しながら水を添加・混合する請求項1記載のβ-ケトニトリル類の製法。
【請求項5】
中和・抽出工程において、酸を加えて水溶液のpHを6〜10にする請求項1記載のβ-ケトニトリル類の製法。

【公開番号】特開2006−312644(P2006−312644A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196722(P2006−196722)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【分割の表示】特願2001−322935(P2001−322935)の分割
【原出願日】平成13年10月22日(2001.10.22)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】