説明

β−ラクタム化合物の製造方法

【課題】β−ラクタム化合物の製造における副生成物であるジスルフィド体を工業的に有利に除去または処理すること。
【解決手段】N−ハロスルホニルβ−ラクタム化合物のハロスルホニル基を脱離させる反応において、従来技術より収率よく、かつ副生成物の処理および除去に困難を伴わないN−無置換β−ラクタム化合物の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3位に水酸基が保護されたヒドロキシエチル基を有し、4位にシリルエーテル基を有するβ−ラクタム化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロスルホニルイソシアナートは反応性が高く、化学合成により入手が容易な反応剤であるため、β−ラクタム合成に広く用いられている(特許文献1参照)。しかし、生成したN−ハロスルホニルβ−ラクタムが、4位に活性な官能基であるシリルエーテル基を有する式(I)
【0003】
【化1】

【0004】
で表される化合物(以下、N−ハロスルホニルβ−ラクタム化合物(I)と記載する場合がある)である場合、1位窒素原子上のハロスルホニル基を脱離させ、式(II)
【0005】
【化2】

【0006】
で表されるN−無置換β−ラクタム化合物(以下、N−無置換β−ラクタム化合物(II)と記載する場合がある)を収率良く得るための反応剤としては、工業生産上取り扱いにくいものが多く、特に反応剤により生ずる副生成物(アルミ化合物、メトキシエタノール、ジスルフィドなど)を除去あるいは処理する点において、工業的に大きな問題点があった(特許文献2参照)。
【0007】
N−無置換β−ラクタム化合物(II)は、4位に反応性に富むシリルエーテル基を有し、種々の誘導体に変換できる有用な中間体である。例えば、N−無置換β−ラクタム化合物(II)の4位のシリルエーテル基に、置換反応を行うことによって、第4世代のβ−ラクタム抗生物質として知られているチエナマイシンを始めとするカルバペネム類の製造に有用な、3−(1−ヒドロキシエチル)−4−アセトキシアゼチジン−2−オンや、3−(1−ヒドロキシエチル)−4−ハロアゼチジン−2−オンを製造することができる。そのため、N−無置換β−ラクタム化合物(II)を、工業上容易に製造することができ、しかも副生成物を容易に除去できる方法が望まれていた。
【特許文献1】特開昭61−18791号公報
【特許文献2】特開平4−112867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、3位に水酸基が保護されたヒドロキシエチル基を有し、4位にシリルエーテル基を有するβ−ラクタム化合物の製造において、N−ハロスルホニルβ−ラクタム化合物(I)の1位窒素原子上のクロロスルホニル基の脱離反応にチオール化合物を使用した場合、副生成物として生成してくるジスルフィド体を、工業的に有利に除去または処理することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った結果、チオール基を有する酸性または塩基性の化合物、たとえば、5−メルカプト−1−メチルテトラゾール、あるいは、チオグリコール酸、あるいは2−メルカプト−1−メチルイミダゾールと塩基により還元反応を行うことにより、簡単に上記1位窒素原子上のハロスルホニル基を効率的に脱離させ、収率良く目的とするN−無置換β−ラクタム化合物(II)が得られることを見出した。
【0010】
さらに、反応剤から副生するジスルフィド体が、酸性または塩基性水溶液で洗浄することでN−無置換β−ラクタム化合物(II)から容易に除去できることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0012】
[1]一般式(I)
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、
は、水酸基の保護基を示し、
、RおよびRは、それぞれ同一または異なって、置換または無置換の炭素数1〜8のアルキル基、置換または無置換のフェニル基あるいは置換または無置換の炭素数1〜8のアラルキル基を示し、
は、ハロゲン原子を示す)
で表されるβ−ラクタム化合物を、酸性または塩基性の基を有するチオール化合物と、塩基により還元することを特徴とする一般式(II)
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、R、R、RおよびRは、一般式(I)と同じものを示す)で表されるβ−ラクタム化合物の製造方法。
[2]酸性または塩基性の基を有するチオール化合物が、5−メルカプト−1−メチルテトラゾール、チオグリコール酸、2−メルカプト−1−メチルイミダゾールから選択される化合物である、[1]記載の製造方法。
[3]塩基が、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、アンモニアおよび水酸化ナトリウムからなる群から選択される、[1]または[2]記載の製造方法。
[4]還元反応の後、酸性または塩基性に調整した水溶液を用いて副生成物を除去する工程を含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法により製造されるN−無置換β−ラクタム化合物(II)は、4位に反応性に富むシリルエーテル基を有し、種々の誘導体に変換できる有用な中間体である。N−無置換β−ラクタム化合物(II)の4位のシリルエーテル基に、置換反応を行うことによって、第4世代のβ−ラクタム抗生物質として知られているチエナマイシンを始めとするカルバペネム類の製造に有用な、3−(1−ヒドロキシエチル)−4−アセトキシアゼチジン−2−オンや、3−(1−ヒドロキシエチル)−4−ハロアゼチジン−2−オンを製造することができる。
【0018】
また、本発明によると、還元反応の反応剤により副生したジスルフィド体が酸性または塩基性であるため、反応後、反応混合液に、酸性または塩基性に調整した水溶液を加えることで、ジスルフィド体を水層に溶解させることができる。従って、酸性または塩基性水溶液で洗浄することによって、目的物であるN−無置換β−ラクタム化合物(II)を容易に精製することが可能となる。
【0019】
本発明によると、反応剤により副生したジスルフィド体をろ過することなく除去できる。従って、工業的生産において大規模なろ過設備を要することなく、目的化合物を精製することができるため、その取扱いが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、一般式(II)
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、
は、水酸基の保護基を示し、
、RおよびRは、それぞれ同一または異なって、置換または無置換の炭素数1〜8のアルキル基、置換または無置換のフェニル基あるいは置換または無置換の炭素数1〜8のアラルキル基を示す)で表されるβ−ラクタム化合物の製造方法に関する。
【0023】
すなわち、一般式(I)
【0024】
【化6】

【0025】
(式中、
は、水酸基の保護基を示し、
、RおよびRは、それぞれ同一または異なって、置換または無置換の炭素数1〜8のアルキル基、置換または無置換のフェニル基あるいは置換または無置換の炭素数1〜8のアラルキル基を示し、
は、ハロゲン原子を示す)
で表されるハロスルホニルβ−ラクタム化合物を、酸性または塩基性の基を有するチオール化合物と、塩基により還元することを特徴とする、一般式(II)
【0026】
【化7】

【0027】
(式中、R、R、RおよびRは前記と同じものを示す)で表されるβ−ラクタム化合物の製造方法に関する。
【0028】
本明細書中、「置換または無置換」とは、所定の部分が、利用可能な原子価にわたって水素置換基のみから構成されていてもよいこと(無置換)、あるいは、利用可能な原子価にわたって1以上の非水素置換基をさらに含んでいてもよいこと(置換)を意味する。非水素置換基の例としては、アルデヒド、アルキル、アルキレン、アルキリデン、アミド、アミノ、アミノアルキル、アリール、ビシクロアルキル、ビシクロアリール、カルバモイル、カルボキシル、カルボニル、シクロアルキル、シクロアルキレン、エステル、ハロ、ヘテロビシクロアルキル、ヘテロシクロアルキレン、ヘテロアリール、ヘテロビシクロアリール、ヘテロシクロアルキル、オキソ、ヒドロキシ、イミノケトン、ケトン、ニトロ、オキサアルキルなどが挙げられるが、これらに限定されない。それぞれはまた、場合によって置換または無置換であってもよい。
【0029】
「酸性または塩基性の基を有するチオール化合物」とは、チオール基を有する化合物であって、チオール基を除いて誘導される基が、全体として酸性または塩基性である化合物のことをいう。例えば、チオール化合物がチオグリコール酸(HS−CHCOOH)である場合、チオール基(−SH)を除いた部分(基)は、酢酸基(−CHCOOH)であり、全体として酸性である。また、チオール化合物それ自体は、酸性であっても塩基性であってもよいし、また中性であってもよい。
【0030】
一般式(I)および(II)中の3位のヒドロキシルエチル基のO−保護基であるRは、水酸基の保護基であり、該保護基としては、エーテル系保護基(ベンジル基、パラメトキシベンジル基、tert−ブチル基など)、アセタール系保護基(メトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、エトキシエチル基など)、アシル系保護基(アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、トリクロロエトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、p−ニトロベンジルオキシカルボニル基など)、一般式(III)
【0031】
【化8】

【0032】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ同一または異なって、炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基あるいは炭素数1〜8のアラルキル基を示す)
で表されるシリルエーテル系保護基(トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチルイソプロピルシリル基、tert−ブチルフェニルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基、イソプロピルジメチルシリル基、イソブチルジメチルシリル基、ジメチル−(1,2−ジメチルプロピル)シリル基、ジメチル−(1,1,2−トリメチルプロピル)シリル基など)などが挙げられるが、これらに限定されない。中でも、tert−ブチル基、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、ジメチルイソプロピルシリル基、ジメチル−(1,1,2−トリメチルプロピル)シリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基が好ましく用いられる。
【0033】
式(I)および(II)中のR、RおよびRは、それぞれ、置換または無置換の炭素数1〜8のアルキル基(メチル基、エチル基、エテニル基、エチニル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基など)、置換または無置換のフェニル基、置換または無置換の炭素数1〜8のアラルキル基(ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチル基など)からなる群から独立して選択され、好ましくは、R、RおよびRの全てがメチル基、R、RおよびRの全てがエチル基、R、RおよびRのうち二つがメチル基で残りがt−ブチル基、R、RおよびRのうち二つがメチル基で残りがイソプロピル基であり、最も好ましくは、R、RおよびRの全てがメチル基である。
【0034】
は、ハロゲン原子であり、好ましくはCl、Br、Iからなる群から選択され、より好ましくは、Clである。
【0035】
本発明における出発原料である、N−ハロスルホニルβ−ラクタム化合物(I)としては、
3−(1−tert−ブチルジメチルシリロキシエチル)−1−クロロスルホニル−4−トリメチルシリロキシ−アゼチジン−2−オン、
3−(1−tert−ブチルジメチルシリロキシエチル)−1−クロロスルホニル−4−トリエチルシリロキシ−アゼチジン−2−オン、
3−(1−tert−ブチルジメチルシリロキシエチル)−1−クロロスルホニル−4−ジメチルイソプロピルシリロキシ−アゼチジン−2−オン、
3−(1−tert−ブチルジメチルシリロキシエチル)−4−tert−ブチルジメチルシリロキシ−1−クロロスルホニル−アゼチジン−2−オン、
1−クロロスルホニル−3−(1−ジメチルイソプロピルシリロキシエチル)−4−トリメチルシリロキシ−アゼチジン−2−オン、
1−クロロスルホニル−3−[1−(ジメチル−(1,1,2−トリメチルプロピル)−シリロキシ)エチル]−4−トリメチルシリロキシ−アゼチジン−2−オン、
1−クロロスルホニル−3−(1−tert−ブチルジフェニルシリロキシエチル)−4−トリメチルシリロキシ−アゼチジン−2−オン、
1−クロロスルホニル−3−[1−(ジメチル−(1,2−ジメチルプロピル)シリロキシ)エチル]−4−トリメチルシリロキシ−アゼチジン−2−オン、
3−(1−tert−ブトキシエチル)−1−クロロスルホニル−4−トリメチルシリロキシ−アゼチジン−2−オン、
3−(1−tert−ブトキシエチル)−1−クロロスルホニル−4−トリエチルシリロキシ−アゼチジン−2−オン、
3−(1−ベンジルオキシエチル)−1−クロロスルホニル−4−トリメチルシリロキシ−アゼチジン−2−オン、
3−(1−tert−ブチルカルボニルオキシエチル)−1−クロロスルホニル−4−トリメチルシリロキシ−アゼチジン−2−オン、
3−(1−ベンジルオキシカルボニルオキシエチル)−1−クロロスルホニル−4−トリメチルシリロキシ−アゼチジン−2−オン、
3−(1−ベンゾイルオキシエチル)−1−クロロスルホニル−4−トリメチルシリロキシ−アゼチジン−2−オン、
1−クロロスルホニル−3−(1−p−ニトロベンジルオキシカルボニルオキシエチル)−4−トリメチルシリロキシ−アゼチジン−2−オン、
1−クロロスルホニル−4−トリメチルシリロキシ−3−(1−トリメチルシリロキシエチル)−アゼチジン−2−オン、などが挙げられるが、中でも、
3−(1−tert−ブチルジメチルシリロキシエチル)−1−クロロスルホニル−4−トリメチルシリロキシ−アゼチジン−2−オン、
1−クロロスルホニル−3−[1−(ジメチル−(1,1,2−トリメチルプロピル)シリロキシ)エチル]−4−トリメチルシリロキシ−アゼチジン−2−オン、
1−クロロスルホニル−3−(1−ジメチルイソプロピルシリロキシ)エチル−4−トリメチルシリロキシ−アゼチジン−2−オンが好ましい。
【0036】
上記N−ハロスルホニルβ−ラクタム化合物(I)は、自体公知の反応により合成することができるが、好ましくは、3−ヒドロキシ酪酸を出発原料として、合成したエノールシリルエーテル類とスルホニルイソシアナート類の反応(特開昭61−18791号公報参照)により合成することができる。この場合、エノールシリルエーテル類としては、例えば3−((R)−tert−ブチルジメチルシリロキシ)ブテ−1−ニルトリメチルシリルエーテル、3−{(R)−ジメチル(1,1,2−トリメチルプロピル)シリロキシ}ブテ−1−ニルトリメチルシリルエーテル、3−((R)−ジメチルイソプロピルシリロキシ)ブテ−1−ニルトリメチルシリルエーテルを使用することができ、またスルホニルイソシアナート類としては、例えばクロロスルホニルイソシアナートなどのハロゲン原子がスルホニル基に結合したスルホニルイソシアナートを使用することができる。
【0037】
本発明は、以下の反応によってなされる。
【0038】
【化9】

【0039】
(各式中、各記号は上記と同義を示す)
次に、N−ハロスルホニルβ−ラクタム化合物(I)の窒素上のハロスルホニル基を脱離させ、N−無置換β−ラクタム化合物(II)を得る上記反応について述べる。
【0040】
この反応は、N−ハロスルホニルβ−ラクタム化合物(I)に、酸性または塩基性の基を有するチオール化合物と、塩基とを作用させることにより行われる。
【0041】
本発明の方法に用いられる酸性または塩基性の基を有するチオール化合物とは、チオール基を有する化合物であって、チオール基を除いて誘導される基が、全体として酸性または塩基性である化合物である。該化合物としては、反応により副生するジスルフィド体が酸性または塩基性となる限り特に限定されないが、好ましくは、5−メルカプト−1−メチルテトラゾール、チオグリコール酸、2−メルカプト−1−メチルイミダゾールから選択される。
【0042】
本発明の方法に用いられる塩基としては、上記反応が進行する限り特に制限されないが、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、ピリジン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジエチルアミン、アニリン、シクロヘキシルアミン等の一級、二級、三級アミン、およびアンモニア、水酸化ナトリウムなどの無機塩基が好ましく用いられる。
【0043】
反応溶媒としては、当該反応に影響を与えない限り特に限定されず、例えば、トルエン、ヘキサン、エーテルなどの有機溶媒が使用できる。
【0044】
該反応は、−100℃から溶媒の沸点付近の任意の温度で行うことができるが、−70℃から室温程度で行うことが好ましい。また、原料であるN−ハロスルホニルβ−ラクタム化合物(I)は、反応剤に添加してもよく、またはN−ハロスルホニルβ−ラクタム化合物(I)の溶媒中に反応剤を添加しても良い。反応剤である酸性または塩基性の基を有するチオール化合物の量としては、N−ハロスルホニルβ−ラクタム(I)の当量に対して1.0当量以上あればよく、1.0当量〜6.0当量が好ましく、1.0当量〜3.0当量がより好ましい。反応系に添加する塩基の量としては、N−ハロスルホニルβ−ラクタム(I)の当量に対して、例えば1.0当量〜6.0当量であり、1.0当量〜3.0当量が好ましい。さらに、反応時間は、反応温度によって異なるが、例えば−50℃で反応を行った場合、30分〜2時間程度反応を行う。反応の終了は、薄層クロマトグラフィーなど自体公知の方法によって判断することができる。
【0045】
この還元反応を行った後、反応剤として酸性の基を有するチオール化合物を用いた場合は、塩基性に調整した水溶液で、また塩基性の基を有するチオール化合物を用いた場合は、酸性に調整した水溶液で分液して、副生されたジスルフィド体を水層に抽出する。次いで、有機層を該水溶液および水で洗浄し、さらに濃縮等を行うことにより、副生されたジスルフィド体を除去し、目的とするN−無置換β−ラクタム化合物(II)を収率良く簡単に得ることができる。
【0046】
酸性に調整した水溶液としては、特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸の水溶液、酢酸、クエン酸などの有機酸の水溶液が好ましく用いられる。該水溶液のpHは、一般に1.0〜7.0であり、好ましくは5.0〜6.5である。
【0047】
塩基性に調整した水溶液としては、特に限定されないが、炭酸水素ナトリウム(重曹)などの無機塩基の水溶液が好ましく用いられる。該水溶液のpHは、一般に7.0〜14.0であり、好ましくは7.5〜9.0である。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0049】
実施例1
(3R,4R)−3−[(R)−1−(tert−ブチルジメチルシリロキシ)エチル]−4−(トリメチルシリロキシ)アゼチジン−2−オンの製造
【0050】
クロロスルホニルイソシアナート(1.55mL)をトルエン(100mL)に加えた溶液に、アルゴン雰囲気下、−70℃に冷却しながら、3−((R)−tert−ブチルジメチルシリロキシ)ブテ−1−ニルトリメチルシリルエーテル4.4gを、反応液の内温を−70℃以下に保ちながら滴下した。混合液を1時間撹拌して、(3R,4R)−3−[(R)−1−(tert−ブチルジメチルシリロキシ)エチル]−1−クロロスルホニル−4−(トリメチルシリロキシ)アゼチジン−2−オンを生成させた。この反応溶液に、内温を−50℃以下に保ちながらトリエチルアミン(4.5ml)を滴下後、5−メルカプト−1−メチルテトラゾール(3.7g)を加え、−50℃で1時間撹拌した。反応終了後、反応液を飽和重曹水、続いて水で洗浄分液後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去して、目的の(3R,4R)−3−[(R)−1−(tert−ブチルジメチルシリロキシ)エチル]−4−(トリメチルシリロキシ)アゼチジン−2−オンを3.6g得た。(反応収率:70%)
【0051】
1H-NMR(CDCl3, 400 MHz) δppm ;0.07 (6H, d), 0.19 (9H, s), 0.87 (9H, s), 1.25 (3H, d), 2.96 (1H, dd), 4.1-4.2 (1H, m), 5.38 (1H, br-s), 6.3 (1H, br).
【0052】
実施例2
(3R,4R)−3−[(R)−1−(tert−ブチルジメチルシリロキシ)エチル]−4−(トリメチルシリロキシ)アゼチジン−2−オンの製造
【0053】
クロロスルホニルイソシアナート(1.55mL)をトルエン(100mL)に加えた溶液に、アルゴン雰囲気下、−70℃に冷却しながら、3−((R)−tert−ブチルジメチルシリロキシ)ブテ−1−ニルトリメチルシリルエーテル(4.4g)を反応液の内温を−70℃以下に保ちながら滴下した。混合液を1時間撹拌し、(3R,4R)−3−[(R)−1−(tert−ブチルジメチルシリロキシ)エチル]−1−クロロスルホニル−4−(トリメチルシリロキシ)アゼチジン−2−オンを生成させた。この反応溶液に、トリエチルアミン(4.5ml)を、内温を−50℃以下に保ちながら滴下後、チオグリコール酸(2.97g)を加え−50℃で1時間撹拌した。反応終了後、反応液を飽和重曹水、続いて水で洗浄分液後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去して、目的の(3R,4R)−3−[(R)−1−(tert−ブチルジメチルシリロキシ)エチル]−4−(トリメチルシリロキシ)アゼチジン−2−オンを3.2g得た。(反応収率:63%)
【0054】
1H-NMR(CDCl3, 400 MHz) δppm ;0.07 (6H, d), 0.19 (9H, s), 0.87 (9H, s), 1.25 (3H, d), 2.96 (1H, dd), 4.1-4.2 (1H, m), 5.38 (1H, br-s), 6.3 (1H, br).
【0055】
実施例3
(3R,4R)−3−[(R)−1−(tert−ブチルジメチルシリロキシ)エチル]−4−(トリメチルシリロキシ)アゼチジン−2−オンの製造
【0056】
クロロスルホニルイソシアナート(1.55mL)をトルエン(100mL)に加えた溶液に、アルゴン雰囲気下、−70℃に冷却しながら、3−((R)−tert−ブチルジメチルシリロキシ)ブテ−1−ニルトリメチルシリルエーテル(4.4g)を、反応液の内温を−70℃以下に保ちながら滴下した。混合液を1時間撹拌し、(3R,4R)−3−[(R)−1−(tert−ブチルジメチルシリロキシ)エチル]−1−クロロスルホニル−4−(トリメチルシリロキシ)アゼチジン−2−オンを生成させた。この反応溶液に、内温を−50℃以下に保ちながら、トリエチルアミン(4.5ml)を滴下後、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール(3.68g)を加え、−50℃で1時間撹拌した。反応終了後、反応液を10%クエン酸溶液でpH6.5に調整し、分液後、続いて水で洗浄分液し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去して、目的の(3R,4R)−3−[(R)−1−(tert−ブチルジメチルシリロキシ)エチル]−4−(トリメチルシリロキシ)アゼチジン−2−オンを2.6g得た。(反応収率:51%)
【0057】
1H-NMR(CDCl3, 400 MHz) δppm ;0.07 (6H, d), 0.19 (9H, s), 0.87 (9H, s), 1.25 (3H, d), 2.96 (1H, dd), 4.1-4.2 (1H, m), 5.38 (1H, br-s), 6.3 (1H, br).
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によると、N−ハロスルホニルβ−ラクタム化合物のハロスルホニル基を脱離させる反応において、酸性または塩基性の水溶液を用いることで、従来技術より収率よく、かつ副生成物の処理および除去に困難を伴わずN−無置換β−ラクタム化合物を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】


(式中、
は、水酸基の保護基を示し、
、RおよびRは、それぞれ同一または異なって、置換または無置換の炭素数1〜8のアルキル基、置換または無置換のフェニル基あるいは置換または無置換の炭素数1〜8のアラルキル基を示し、
は、ハロゲン原子を示す)
で表されるβ−ラクタム化合物を、酸性または塩基性の基を有するチオール化合物と、塩基により還元することを特徴とする一般式(II)
【化2】


(式中、R、R、RおよびRは、一般式(I)と同じものを示す)で表されるβ−ラクタム化合物の製造方法。
【請求項2】
酸性または塩基性の基を有するチオール化合物が、5−メルカプト−1−メチルテトラゾール、チオグリコール酸、2−メルカプト−1−メチルイミダゾールから選択される化合物である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
塩基が、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、アンモニアおよび水酸化ナトリウムからなる群から選択される、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
還元反応の後、酸性または塩基性に調整した水溶液を用いて副生成物を除去する工程を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−56575(P2008−56575A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232761(P2006−232761)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000161965)京都薬品工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】