説明

β−1,3−1,6−D−グルカンを用いた消化管粘膜保護剤または下痢抑制剤

【課題】代謝拮抗剤による消化管粘膜障害および下痢を抑制する。
【解決手段】β−D−グルカンを含む消化管粘膜保護剤および下痢抑制剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-1,3-1,6-D-グルカンを含む消化管粘膜保護剤または下痢抑制剤、およびそれらを含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
消化管粘膜は、多様な異物と接触する組織であり、水分、栄養素等の吸収に重要な役割を担うのみでなく、異物が臓器内に移行することを防ぐバリアーとして機能し、感染免疫を担当する組織としても重要である。
しかしながら、消化管粘膜細胞は代謝回転が盛んで、治療目的で投与された薬剤、例えば、抗癌剤や抗生物質等の種々の組織障害因子の影響を顕著に受けることが知られている。
消化管粘膜細胞が障害を受ければ、水分、栄養素等の吸収が損なわれるだけでなく、消化管でのバリアーが破綻し、細菌等が消化管粘膜を通過して臓器内に移行し、感染症の原因ともなる。
したがって、消化管粘膜細胞の保護は、生体機能の維持に重要である。
【0003】
これまでに、マクロファージ/単球の分化増殖を抑制するM−CSFが、消化管粘膜保護作用を有することが報告されている(特許文献1参照)。また、鯉エキスに抗癌剤による胃腸障害を抑制する効果があることも報告されている(非特許文献1参照)。
しかしながら、これら物質は、経口投与不可能である。また、単一純粋な物質でない等の欠点を有する。
【0004】
一方、β-1,3-1,6-D-グルカンは、抗腫瘍・抗転移効果、抗ストレス作用を発揮することが知られている(非特許文献2、特許文献2参照)。
しかしながら、β-1,3-1,6-D-グルカンが、消化管粘膜保護作用を発揮することは未だ報告されていない。
また、黒酵母由来のβ-1,3-1,6-D-グルカンは、工業的規模で精製できることも報告されている(特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特許第2688733号公報
【特許文献2】公開特許公報第2008−214273号
【特許文献3】公開特許公報第2006−104439号
【非特許文献1】kimura Y. and Okuda H. (1999) Prevention by carp extract of myelotoxicity and gastrointestinal toxicity induced by 5-fluorouracil without loss of antitumor activity in mice. J. Ethonopharmacol. 68: 39-45.
【非特許文献2】Kimura Y et al., (2006) Antitumor and antimetastatic activity of a novel water-soluble low molecular weight β-1,3-D-glucan (branch β-1,6) isolated from Aureobasidium pulluans 1a1 atrain black yeast. Anticancer Res. 26: 4131-4142.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような現状に鑑み、優れた消化管粘膜保護作用を発揮する組成物を提供することを目的とする。
さらには、優れた下痢抑制剤を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、消化管粘膜障害の予防および治療法を種々研究する過程において、β-1,3-1,6-D-グルカンが従来報告されている薬理作用とは全く異なって、消化管粘膜保護作用、下痢抑制作用を奏するという予想もされなかった事実を見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、β-1,3-1,6-D-グルカンを含む消化管粘膜保護剤に関する。
好ましくは、代謝拮抗剤により惹起される消化管粘膜障害から消化管粘膜を保護する、β-1,3-1,6-D-グルカンを含む消化管粘膜保護剤に関する。
消化管粘膜は、腸管粘膜であり得に好ましくは、小腸粘膜である。
β-1,3-1,6-D-グルカンは黒酵母が産生するものが好ましく、オーレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)が産生するものがより好ましい。さらに好ましくは、オーレオバシジウム・プルランスGM-NH-1A1株、又はGM-NH-1A2株(独立行政法人産業技術研究所特許生物寄託センターにそれぞれFERM P-19285及びFERM P-19286として寄託済み)が産生するものが好ましい。
さらにより好ましくは、β-1,3-1,6-D-グルカンは、以下の(1)−(2)の性質:
(1)1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液のH NMRスペクトルが約4.7ppm及び約4.5ppmの2つのシグナルを有する;
(2)水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が200cP(mPa・s)以下である、
を有する。
本発明のβ-1,3-1,6-D-グルカンを含む消化管粘膜保護剤は、好ましくは、経口投与可能な製剤である。
【0009】
また、本発明は、β-1,3-1,6-D-グルカンを含む下痢抑制剤に関する。
好ましくは、消化管粘膜障害により惹起される下痢の発症を抑制する、β-1,3-1,6-D-グルカンを含む下痢抑制剤に関する。
消化管粘膜障害は、代謝拮抗薬により惹起され得る。
消化管粘膜は、腸管粘膜であり得に好ましくは、小腸粘膜である。
β-1,3-1,6-D-グルカンは黒酵母が産生するものが好ましく、オーレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)が産生するものがより好ましい。さらに好ましくは、オーレオバシジウム・プルランスGM-NH-1A1株、又はGM-NH-1A2株(独立行政法人産業技術研究所特許生物寄託センターにそれぞれFERM P-19285及びFERM P-19286として寄託済み)が産生するものが好ましい。
さらにより好ましくは、β-1,3-1,6-D-グルカンは、以下の(1)−(2)の性質:
(1)1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液のH NMRスペクトルが約4.7ppm及び約4.5ppmの2つのシグナルを有する;
(2)水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が200cP(mPa・s)以下である、
を有する。
本発明のβ-1,3-1,6-D-グルカンを含む下痢抑制剤は、好ましくは、経口投与可能な製剤である。
【0010】
さらに、本発明は、上記に説明した本願発明に関する消化管粘膜保護剤または下痢抑制剤を含む食品に関する。好ましくは、消化管粘膜保護および/または下痢抑制のために用いられる旨の表示を付した食品に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に関する薬剤または組成物が投与されることにより、組織障害因子から消化管粘膜を保護し、下痢が抑制される。これにより、消化管粘膜の機能が維持され、健康が担保され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、β-1,3-1,6-D-グルカンを含む消化管粘膜保護剤および下痢抑制剤を提供する。
【0013】
本発明において、消化管は、咽頭、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸を含む)、大腸(盲腸、虫垂、結腸、直腸を含む)を含む組織であり、場合により、上記に加え、口腔を含んでもよい。
消化管粘膜は、消化管の内腔を覆う上皮と粘膜固有層、粘膜筋板を含むものであり、臓器は特に限定されないが、好ましくは、腸管粘膜、より好ましくは小腸粘膜である。
本発明に係るβ-1,3-1,6-D-グルカンを含む消化管粘膜保護剤は、組織障害因子により惹起される消化管粘膜障害から、消化管粘膜を保護することができるが、組織障害因子は、特に限定されず、あらゆる消化管粘膜障害を惹起する物質を包含する。組織障害因子の例としては、各種抗癌剤、抗生物質が挙げられ、例えば、5−FU、テガフール・ウラシル(UFT)、テガフール・ギメラシル・オテラシル(TS−1またはS−1)を含むピリミジン系代謝拮抗剤、メルカプトプリン、フルダラビンを含むプリン系代謝拮抗剤、メトトレキサート等の葉酸拮抗剤、イリノテカン、エトポシド等のトポイソメラーゼ阻害剤、シスプラチン、カルボプラチン等の白金製剤が挙げられる。また、インドメタシン、アスピリン等の抗炎症剤も組織障害因子に含まれる。
代謝拮抗剤として好ましくは、5−FU、テガフール・ウラシル(UFT)、テガフール・ギメラシル・オテラシル(TS−1またはS−1)を含むピリミジン系代謝拮抗剤、メルカプトプリン、フルダラビンを含むプリン系代謝拮抗剤、メトトレキサート等の葉酸拮抗剤が挙げられる。さらに好ましくは、5−FU、テガフール・ウラシル(UFT)、テガフール・ギメラシル・オテラシル(TS−1またはS−1)を含むピリミジン系代謝拮抗剤が挙げられる。
【0014】
組織障害因子により惹起される消化管粘膜障害は、消化管粘膜細胞が損傷され、正常な機能が失われている状態であり、例えば、粘膜細胞の膨潤、細胞質の空胞形成、上皮細胞の剥離、血漿の管腔内への漏出、粘膜下層への白血球浸潤、炎症からなる群から選択される少なくとも1つの症状を呈する状態である。
【0015】
本発明のβ-1,3-1,6-D-グルカンは、その消化管粘膜保護作用により、消化管粘膜障害を起因とする下痢を抑制することができる。
【0016】
本発明に用いられるβ-1,3-1,6-D-グルカンの由来は特に限定されるものではなく、市販のものや、各種微生物に由来するものを用いることができる。好ましくは、オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物に由来するβ-1,3-1,6-D-グルカンを含むものである。このβ-1,3-1,6-D-グルカンは、さらに好ましくは、1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液のH NMRスペクトルが約4.7ppm及び約4.5ppmの2つのシグナルを有し、かつ水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が好ましくは200cP(mPa・s)以下、より好ましくは100cP(mPa・s)以下、さらに好ましくは50cP(mPa・s)以下のものである。上記粘度の下限値は通常10cP(mPa・s)程度であり得る。NMRの測定値は条件の微妙な変化によって変化し、また誤差を伴うことは周知のことであることから、「約4.7ppm」「約4.5ppm」は、通常予測される範囲の測定値の変動幅(例えば±0.2)を含む数値を意味する。
【0017】
オーレオバシジウム属微生物が産生するβ-1,3-1,6-D-グルカン
オーレオバシジウム属の微生物が産生するβ-1,3-1,6-D-グルカンは、菌体外に分泌されるために回収が容易であり、また水溶性である点で好ましいものである。オーレオバシジウム属の微生物は、分子量が100万以上の高分子量のβ-1,3-1,6-D-グルカンから分子量が数万程度の低分子のβ-1,3-1,6-D-グルカンまでを培養条件に応じて産生することができる。
【0018】
中でも、オーレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)が産生するものが好ましく、オーレオバシジウム・プルランスGM-NH-1A1株、又はGM-NH-1A2株(独立行政法人産業技術研究所特許生物寄託センターにそれぞれFERM P-19285及びFERM P-19286として寄託済み)が産生するものが好ましい。GM-NH-1A1株及びGM-NH-1A2株は、オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)K-1株の変異株である。オーレオバシジウム属K-1株は、分子量200万以上と100万程度の2種類のβ-1,3-1,6-D-グルカンを産生することが知られている。
【0019】
また、オーレオバシジウム属細菌が産生するβ-1,3-1,6-D-グルカンは、通常、硫黄含有基を有するところ、K-1株の産生するβ-1,3-1,6-D-グルカンはスルホ酢酸基を有することが知られている(Arg.Biol.Chem.,47,1167-1172(1983)),科学と工業,64,131-135(1990))。GM-NH-1A1株、及びGM-NH-1A2株が産生するβ-1,3-1,6-D-グルカンもスルホ酢酸基を有すると考えられる。オーレオバシジウム属微生物の中には、リン酸基のようなリン含有基、リンゴ酸基などを含むβ-1,3-1,6-D-グルカンを産生する菌種、菌株も存在する。
【0020】
GM-NH-1A1株及びGM-NH-1A2株は、メインピークが見かけ上50〜250万の高分子量のβ-1,3-1,6-D-グルカン(微粒子グルカン)とメインピークが見かけ上2〜30万の低分子量のβ-1,3-1,6-D-グルカンの両方を産生する菌株である。この微粒子状β-1,3-1,6-D-グルカンは、一次粒子径が0.05〜2μm程度である。
【0021】
β-1,3-1,6-D-グルカンの溶解度は、pH及び温度に依存する。このβ-1,3-1,6-D-グルカンは、pH3.5、温度25℃の条件で2mg/ml水溶液を調製しようとすると、その50重量%以上が一次粒子径0.05〜2μmの微粒子を形成し、残部は水に溶解する。本発明において粒子径は、レーザー回折散乱法により測定した値である。
【0022】
β-1,3-1,6-D-グルカンが水溶液として製剤中に含まれている場合は、レシチンのような乳化剤や、環状デキストリンのような安定化剤を水溶液に添加することにより、微粒子をさらに安定化させることができる。
【0023】
また、β-1,3-1,6-D-グルカンがオーレオバシジウム・プルランス由来のものである場合は、β-1,3結合/β-1,6結合の結合比は、1〜1.5程度、特に1.1〜1.4程度である。
【0024】
本発明の消化管粘膜保護剤および下痢抑制剤に特に好適に用いられるβ-1,3-1,6-D-グルカン 本発明の消化管粘膜保護剤および下痢抑制剤に特に好適に用いられるβ-1,3-1,6-D-グルカンは、水溶液にしたときの粘度が、オーレオバシジウム属微生物が産生する天然型β-1,3-1,6-D-グルカンより低い。この低粘度β-1,3-1,6-D-グルカンは、0.5%(w/v)水溶液(pH5.0)の30℃における粘度が好ましくは200cP(mPa・s)以下であり、より好ましくは100cP(mPa・s)以下であり、さらに好ましくは50cP(mPa・s)以下であり、よりさらに好ましくは10cP以下である。本発明において、粘度はBM型回転粘度計で測定した値である。
【0025】
この低粘度β-1,3-1,6-D-グルカンは、オーレオバシジウム属微生物が産生する天然型β-1,3-1,6-D-グルカンと同様の一次構造を有し得る。具体的には、1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液のH NMRスペクトルが約4.7ppm及び約4.5ppmの2つのシグナルを有するものである。NMRの測定値は条件の微妙な変化によって変化し、また誤差を伴うことは周知のことであることから、「約4.7ppm」「約4.5ppm」は、通常予測される範囲の測定値の変動幅(例えば±0.2)を含む数値を意味する。
【0026】
このβ-1,3-1,6-D-グルカンがオーレオバシディウム・プルランス(例えばGM-NH-1A1株)由来のものである場合、得られるβ-1,3-1,6-D-グルカンをエキソ型のβ−1,3−グルカナーゼ(キタラーゼ M、ケイアイ化成製)で加水分解処理すると、分解生成物としてグルコースとゲンチオビオースの遊離が確認できる。このこと及びNMRの積算比から、オーレオバシディウム・プルランス由来のβ-1,3-1,6-D-グルカンはβ−1,3結合の主鎖に対し、β−1,6結合でグルコ−スが1分子側鎖に分岐した構造で、1,3−結合主鎖に対する1,6−結合の側鎖分岐度は、50〜100%程度、特に50〜90%と推測される。
【0027】
本発明の消化管粘膜保護剤および下痢抑制剤に特に好適に用いられるβ-1,3-1,6-D-グルカンは、金属イオン濃度が、β-1,3-1,6-D-グルカンの固形分1g当たり0.4g以下であることが好ましく、0.2g以下であることがより好ましく、0.1g以下であることがさらにより好ましい。製剤中にβ-1,3-1,6-D-グルカンが水溶液状態で含まれる場合は、金属イオン濃度は、水溶液の100ml当たり120mg以下であることが好ましく、50mg以下であることがより好ましく、20mg以下であることがさらにより好ましい。
【0028】
ここでいう金属イオンには、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、第3〜第5族金属イオン、遷移金属イオンなどが含まれるが、混入する可能性のある金属イオンとしては、代表的には、低粘度β-1,3-1,6-D-グルカンの製造において使用されるアルカリ由来のカリウムイオン、ナトリウムイオンなどが挙げられる。金属イオン濃度は、限外ろ過や透析により調整できる。金属イオン濃度が上記範囲であれば、水溶液状態で保存する場合や、水溶液状態で加熱滅菌する際に、β-1,3-1,6-D-グルカンのゲル化、凝集、沈殿が生じ難い。また、固形製剤においても、再溶解させる場合に凝集などが生じ難い。
【0029】
低粘度β-1,3-1,6-D-グルカンは、本発明の消化管粘膜保護剤および下痢抑制剤中に、固体状態で含まれてもよく、又は水溶液のような液体ないしは流動状で含まれてもよい。
【0030】
オーレオバシジウム属のβ-1,3-1,6-D-グルカンの生産方法
β-1,3-1,6-D-グルカンは、例えば、これを産生する微生物の培養上清に有機溶媒を添加することにより沈殿物として得ることができる。
【0031】
また、オーレオバシジウム属の微生物を培養して、β-1,3-1,6-D-グルカンを産生させる方法は種々報告されている。使用できる炭素源としては、シュークロース、グルコース、フラクトースなどの炭水化物、ペプトンや酵母エキスなどの有機栄養源等を挙げることができる。
【0032】
窒素源としては、硫酸アンモニウムや硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの無機窒素源等を挙げることができる。場合によってはβ-1,3-1,6-D-グルカンの産生量を上昇させるために適宜、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などの無機塩、更には鉄、銅、マンガンなどの微量金属塩やビタミン類等を添加するのも有効な方法である。
【0033】
オーレオバシジウム属微生物を、炭素源としてシュークロースを含むツアペック培地にアスコルビン酸を添加した培地で培養した場合、高濃度のβ-1,3-1,6-D-グルカンを産生することが報告されている(Arg.Biol.Chem.,47,1167-1172(1983));科学と工業,64,131-135(1990);特開平7−51082号公報)。しかし、培地は、微生物が生育し、β-1,3-1,6-D-グルカンを産生するものなら特に限定されない。必要に応じて酵母エキスやペプトンなどの有機栄養源を添加してもよい。
【0034】
オーレオバシジウム属の微生物を上記培地で好気培養するための条件としては、10〜45℃程度、好ましくは20〜35℃程度の温度条件、3〜7程度、好ましくは3.5〜5程度のpH条件等が挙げられる。
【0035】
効果的に培養pHを制御するためにアルカリ、あるいは酸で培養液のpHを制御することも可能である。更に培養液の消泡のために適宜、泡消剤を添加してもよい。培養時間は通常1〜10日間程度、好ましくは1〜4日間程度であり、これによりβ-1,3-1,6-D-グルカンを産生することが可能である。なお、β-1,3-1,6-D-グルカンの産生量を測定しながら培養時間を決めてもよい。
【0036】
上記条件下オーレオバシジウム属の微生物を4〜6日間程度通気攪拌培養すると、培養液にはβ-1,3-1,6-D-グルカンを主成分とするβ−グルカン多糖が0.1%から数%(w/v)含有されており、その培養液の粘度はBM型回転粘度計(東機産業社製)により30℃では数百cP([mPa・s])から数千cP([mPa・s])という非常に高い粘度を有する。この培養を遠心分離して得られる上清に例えば有機溶媒を添加することにより、β-1,3-1,6-D-グルカンを沈殿物として得ることができる。
【0037】
低粘度β-1,3-1,6-D-グルカンの製造方法
上記の高粘度のβ-1,3-1,6-D-グルカンを含む培養液を、常温で攪拌しながら、これにアルカリを添加すると、急激に粘度が低下する。
【0038】
アルカリは、水溶性で、かつ医薬品や食品添加物として用いることができるものであればよく、特に限定されない。例えば、炭酸カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸アンモニウム水溶液などの炭酸アルカリ水溶液;水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液などの水酸化アルカリ水溶液;あるいはアンモニア水溶液などを使用できる。アルカリは、培養液のpHが12以上、好ましくは13以上になるように添加すればよい。例えば水酸化ナトリウムを使用して培養液のpHを上げる場合は、水酸化ナトリウムの最終濃度が好ましくは0.5%(w/v)以上、より好ましくは1.25%(w/v)以上になるように添加すればよい。培養液にアルカリを添加し、良く攪拌すると、瞬時に培養液の粘度が低下する。
【0039】
次いで、アルカリ処理後の培養液から菌体などの不溶性物質を分離する。培養液の粘度が低いため、菌体を自然沈降させて上澄みを回収する方法(デカント法)、遠心分離、ろ紙あるいは布を利用した全量ろ過、フィルタープレス、更に膜ろ過(MF膜などの限外ろ過)などの方法で、容易に不溶性物質とβ-1,3-1,6-D-グルカンとを分離できる。ろ紙あるいはろ布による全量ろ過の場合は、セライトなどろ過助剤を利用するのも一つの手段である。工業的にはフィルタープレスによる菌体除去が好ましい。
【0040】
次いで、β-1,3-1,6-D-グルカンを含む溶液に酸を添加して中和する。中和は、不溶物の除去前に行ってもよい。酸は、医薬や食品添加物として使用できるものであればよく、特に限定されない。例えば、塩酸、燐酸、硫酸、クエン酸、リンゴ酸などを使用できる。酸の使用量は、溶液又は培養液の液性が中性(pH5〜8程度)になるような量とすればよい。即ち、中和はpH7に合わせることを必ずしも要さない。
【0041】
pH12以上のアルカリ処理後、中和して得られるβ-1,3-1,6-D-グルカンは、30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が通常200cP以下、場合によっては50cP以下である。粘度は製造方法ないしは精製方法によって変動する。
【0042】
アルカリ処理された低粘度のβ-1,3-1,6-D-グルカンは、中和しても粘度が高くなることがない。さらに、常温(15〜35℃)では、液性をpHが4を下回るような酸性にしても、粘度が高くなることがない。
【0043】
また、培養上清をアルカリ処理、及び中和した後に、菌体などを除去するのに代えて、培養上清から菌体などを除去した後に、アルカリ処理、及び中和を行うこともできる。
【0044】
得られるβ-1,3-1,6-D-グルカン水溶液からβ-1,3-1,6-D-グルカンより低分子量の可溶性夾雑物(例えば塩類など)を除去する場合は、例えば限外ろ過を行えばよい。
【0045】
また、アルカリ処理、除菌した後、中和せずに、アルカリ性条件下で限外ろ過することもでき、これにより透明性、熱安定性、長期保存性に一層優れる精製β-1,3-1,6-D-グルカンが得られる。アルカリ性条件は、pH10以上、好ましくは12以上であり、pHの上限は通常13.5程度である。
【0046】
このようにして得られる水溶液に含まれるβ-1,3-1,6-D-グルカンは、乾燥させて固形製剤にする場合も、また水溶液のまま製剤として使用する場合も、一旦、水溶液から析出させることができる。β-1,3-1,6-D-グルカンの析出方法は、特に限定されないが、例えば、限外ろ過などにより濃縮してβ-1,3-1,6-D-グルカン濃度を1w/w%以上にした水溶液に、エタノールのようなアルコールを、水溶液に対して容積比で等倍以上、好ましくは2倍以上添加することにより、β-1,3-1,6-D-グルカンを析出させることができる。この場合にpHをクエン酸などの有機酸によりpHを酸性、好ましくはpH4未満、さらに好ましくはpH3−3.7に調製して、エタノールを添加すると高純度のβ-1,3-1,6-D-グルカンの粉末を得ることができる。
【0047】
β-1,3-1,6-D-グルカンを低粘度化することにより、限外ろ過などによる濃縮を容易に行えることから、アルコール沈殿に使用するアルコール量を少なくすることができる。
【0048】
固形製剤にする場合は、低粘度β-1,3-1,6-D-グルカン水溶液を直接乾燥させてもよく、析出させたβ-1,3-1,6-D-グルカンを乾燥させてもよい。乾燥は、噴霧乾燥法、凍結乾燥法等公知の方法で行うことができる。
【0049】
製剤
本発明の消化管粘膜保護剤および下痢抑制剤において、β-1,3-1,6-D-グルカンは、必要に応じて薬学的に許容される担体とともに適当な製剤とすることができる。このような担体として、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、付湿剤等が挙げられる。また、酸化防止剤のような慣用の添加剤なども含まれていてよい。
【0050】
製剤の形態は特に限定されず、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等のどのような形態であってもよい。アルカリ処理された低粘度のβ-1,3-1,6-D-グルカンを使用する場合は、高濃度の水溶液を調製できることから、シロップ剤にする場合にも、1日に無理なく摂取できる量に有効量のβ-1,3-1,6-D-グルカンを含ませることができる。
【0051】
賦形剤としては、公知のものを広く使用でき、例えば、乳糖、ショ糖、ブドウ糖等の各種の糖類;バレイショデンプン、コムギデンプン、トウモロコシデンプン等の各種デンプン類、;結晶セルロース等の各種セルロース類;無水リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム等の各種無機塩類等が挙げられる。
【0052】
結合剤としては、公知のものを使用でき、例えば、結晶セルロース、プルラン、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が挙げられる。
【0053】
崩壊剤としては、公知のものを広く使用でき、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、デンプン、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0054】
潤沢剤としては、公知のものを広く使用でき、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、硬化油などが挙げられる。
【0055】
付湿剤としては、公知のものを広く使用でき、例えば、ココナッツ油、オリーブ油、ゴマ油、落花生油、大豆リン脂質、グリセリン、ソルビトール等が挙げられる。
【0056】
製剤中に含まれるβ-1,3-1,6-D-グルカンの量は、投与対象又は患者の年齢、体重、症状、投与方法等によって変化し得るが、例えば、体重70kgの成人男性の場合、1日摂取量が1〜1000mg程度、好ましくは10〜500mg程度、より好ましくは10〜200mg程度、さらに好ましくは25〜100mg程度になるような量含まれていればよい。上記摂取量の範囲であれば、十分に消化管粘膜保護効果および下痢抑制効果が得られる。
【0057】
1日1回投与する製剤である場合は、1日必要量が一つの製剤に含まれていればよく、例えば1日3回投与する製剤である場合は、1日必要量の3分の1が製剤に含まれていればよい。
【0058】
また、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤のような固形製剤の場合は、製剤中にβ-1,3-1,6-D-グルカンが0.1〜100重量%程度、特に1〜50重量%程度含まれていることが好ましい。
【0059】
また、シロップ剤のような液体又は流動状の製剤の場合は、β-1,3-1,6-D-グルカンが0.01〜2重量%程度、特に0.05〜0.5重量%程度含まれていることが好ましい。なお、液体又は流動状の製剤中のβ-1,3-1,6-D-グルカンは一部が溶解していない場合もある。
【0060】
上記範囲であれば、摂取し易い製剤量中に、消化管粘膜保護剤および下痢抑制剤効果が十分に得られるとともに副作用や毒性が現れない量のβ-1,3-1,6-D-グルカンが含まれることになる。またシロップ剤の場合は、上記範囲であれば、飲み易い粘度のシロップ剤が得られる。
【0061】
また、本発明の消化管粘膜保護剤および下痢抑制剤には、β-1,3-1,6-D-グルカンによる消化管粘膜保護効果および下痢抑制効果を損なわない範囲で、消化管粘膜保護剤および下痢抑制剤に通常含まれる成分や添加剤が含まれていてもよい。
投与
本発明の消化管粘膜保護剤および下痢抑制剤は、消化管粘膜障害または下痢を発症している、または発症する可能性の高いヒトを含む哺乳動物に好適に投与できる。この中には、他の疾患を併発している患者も含まれる。さらに、β-1,3-1,6-D-グルカンは安全な天然成分であることから、消化管粘膜障害または下痢の予防を目的として健常人も適時又は常時摂取することができる。
したがって、本発明に関するβ-1,3-1,6-D-グルカンは、消化管粘膜障害または下痢の治療および/または予防を目的として投与され得る。
また、本発明に関するβ-1,3-1,6-D-グルカンは、経口投与によっても消化管粘膜保護作用および下痢抑制作用を発揮するので、本発明の消化管粘膜保護剤および下痢抑制剤は経口投与され得るが、他の投与法(静脈内投与、腹腔内投与を含む)によっても投与され得る。
本発明の消化管粘膜保護剤および下痢抑制剤が投与される対象としては、例えば、抗癌剤等の組織障害因子を投与される、または投与される予定のヒトが含まれる。
【0062】
本発明の消化管粘膜保護剤は、消化管粘膜障害より消化管粘膜を保護する。ここで「保護」とは、消化管粘膜障害に起因する不調の発症を完全に阻止することのみならず、その程度を抑制すること、発症を遅らせること、並びに既に発症した症状を緩和すること、進行を止める、あるいは遅らせることも含むものとする。
また、本発明の下痢抑制剤は、下痢を抑制する。ここで「抑制」とは、下痢の発症を完全に阻止することのみならず、その程度を抑制すること、発症を遅らせること、並びに既に発症した症状を緩和すること、進行を止める、あるいは遅らせることも含むものとする。
【0063】
本発明の消化管粘膜保護剤および下痢抑制剤は、一態様として、組織障害因子、例えば、抗癌剤等の代謝拮抗剤を投与される予定のヒトに対して、予防的に、該組織障害因子が投与される前に投与され得る。
また、本発明の消化管粘膜保護剤および下痢抑制剤は、一態様として、組織障害因子、例えば、抗癌剤等の代謝拮抗剤を投与されるヒトに対して、該組織障害因子と同時に投与され得る。
本発明の消化管粘膜保護剤および下痢抑制剤の投与の時期は、組織障害因子、例えば、抗癌剤等の代謝拮抗剤の投与時期等を考慮に入れて適切な時期に投与されればよく、投与量も適宜設定されることができる。
本発明に関するβ-1,3-1,6-D-グルカンは、免疫賦活作用を有し、白血球数を増加させ、さらに抗癌作用を有するので、抗癌剤と併用すれば、相加または相乗的な抗癌効果が発揮できる。さらに、本願発明に関するβ-1,3-1,6-D-グルカンは、抗癌剤により惹起される、消化管粘膜障害、下痢を含む副作用を抑制または回避できるので、本発明に関するβ−1,3−1,6−D−グルカンと抗癌剤を併用することにより、癌患者のQOL(Quality of Life;生活の質)を改善しつつ、相加または相乗的な抗癌効果が発揮できる。
このような知見から、抗癌剤の中に、本発明に関するβ-1,3-1,6-D-グルカンを含め合剤とすることもできる。
【0064】
飲食品組成物
本発明の飲食品組成物は、β-1,3-1,6-D-グルカン、好ましくは、オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物に由来するβ-1,3-1,6-D-グルカンを含む。このβ-1,3-1,6-D-グルカンは、さらに好ましくは、1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液のH NMRスペクトルが約4.7ppm及び約4.5ppmの2つのシグナルを有し、かつ水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が好ましくは200cP(mPa・s)以下、より好ましくは100cP(mPa・s)以下、さらに好ましくは50cP(mPa・s)以下、よりさらに好ましくは10cP以下のものである。この飲食品組成物は、β-1,3-1,6-D-グルカンを含むことから消化管粘膜保護作用および下痢抑制作用を有するため、健康食品、機能性食品、又は栄養機能食品又は特定保健用食品のような保健機能食品として好適に使用できる。ここで、本発明における健康食品は、一般に「健康によい」として売られている食品全般、又は消費者が健康に良いと積極的な効果を期待して摂取する医薬品以外の食品を含み、健康補助食品を含む。また、本発明における機能性食品は、生体調節機能を充分に効率よく発現するように設計した食品を含む。
【0065】
従って、本発明の飲食品組成物は、消化管粘膜保護および/または下痢抑制のために使用される旨の表示が付されたものとすることができる。
【0066】
本発明の飲食品組成物に含まれる飲食品の種類は特に限定されない。β-1,3-1,6-D-グルカンを添加できるものであれば、栄養ドリンク、ジュース、茶、スープのような各種飲料品はもちろんのこと、クッキー、飴、ガム、ゼリー、寒天、プリン、グミ、チョコレート、澱粉加工食品などいかなる飲食品でも用いることができる。パン、うどんのような麺類、ヨーグルトやチーズなどの乳製品、ドレッシングやマヨネーズなどの加工食品、嚥下用補助食品等も好適である。各飲食品の特性や目的に応じ、製造工程の適切な段階で配合すればよい。
【0067】
本発明の飲食品組成物中には、1日摂取量が好ましくは1〜1000mg程度、好ましくは10〜500mg程度、さらに好ましくは10〜200mg程度、よりさらに好ましくは25〜100mg程度になるようにβ-1,3-1,6-D-グルカンが含まれていればよい。特に、難治性のストレスに起因する疾患を有する患者に与えるためのものである場合は、1日摂取量が1〜1000mg程度、特に10〜500mg程度になる量のβ-1,3-1,6-D-グルカンが含まれていればよい。
【0068】
β-1,3-1,6-D-グルカンは人体に対して無毒性であるから、その添加割合に特に制限はないが、各飲食品の特性、呈味性あるいは経済性等を考慮して、固形、半固形又はゲル状食品の場合、その添加量は組成物全体量に対して通常0.01〜5重量%程度、好ましくは0.01%〜2重量%程度であればよい。ヨーグルトのような半固形状の食品も、食する上で流動性が求められない点で固形状食品に含まれる。上記の範囲であれば、無理なく摂取できる食品量中に、消化管粘膜保護および/または下痢抑制に有効な1日摂取量のβ-1,3-1,6-D-グルカンが含まれることになる。また、β-1,3-1,6-D-グルカンの上記含有比率であれば、β-1,3-1,6-D-グルカンの溶解性が良好であり粘度が低く吸収され易い。
【0069】
また同様の理由で、液体、流動状、又は半流動状の飲料組成物にβ-1,3-1,6-D-グルカンを含ませる場合のその含有量は、組成物全体に対して、0.01〜5重量%程度が好ましく、0.01〜2重量%程度がより好ましい。上記の範囲であれば、無理なく摂取できる食品量中に消化管粘膜保護および/または下痢抑制に有効な1日摂取量のβ-1,3-1,6-D-グルカンが含まれることになる。また、β-1,3-1,6-D-グルカンの含有比率が上記範囲であれば、殺菌などの熱処理によってもゲル化や粘度上昇を起こす恐れがない。なお、飲料組成物中のβ-1,3-1,6-D-グルカン濃度が高い場合は一部が溶けずに含まれる場合もある。
【0070】
本発明の飲食品組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、食品分野で慣用の補助成分が含まれていて良い。このような補助成分として、例えばフラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、イソマルトースのようなオリゴ糖;ビフィドバクテリウム、ビフィズス、ラクトバチラス、エンテロコッカス属のような乳酸菌;アガリクス、マイタケ、シイタケ、メシマコブ、チャーガ、ハナビラタケのようなキノコ類、またはその抽出物;α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンのようなシクロデキストリンや直鎖デキストリンおよび難消化デキストリン;クエン酸、リンゴ酸、ヒアルロン酸のような有機酸;トリプトファン、メチオニン、テアニン、GABA(γ‐アミノ酪酸)などのアミノ酸、β‐カロテン、ルテイン、アスタキサンチン、フコキサンチンなどのβ‐カロチノイド類、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEのようなビタミン類;亜鉛、鉄、マグネシウム、セレン、クロム、銅、マンガン、モリブデン、ヨウ素のようなミネラル;ウコン、高麗ニンジン、ショウガ、紅花、イチョウ葉またはイチョウ葉エキスのような生薬;ラクトフェリン;ローヤルゼリー;プロポリス;カテキン;トレハロース;アロエ;サイリウム;シャンピニオン;黒酢;各種香料などが挙げられる。
【0071】
特に、β-1,3-1,6-D-グルカン0.01〜5重量%(特に0.01〜2重量%)程度と乳酸菌(中でも、殺菌乳酸菌粉末)、オリゴ糖、又は/及びアミノ酸をそれぞれ0.01〜2重量%程度とを含む飲食品組成物が好ましい。この場合の飲食品組成物は、固形、半固形、ゲル状、液体状、流動状、半流動状のいずれの飲食品組成物であってもよい。
【0072】
また、本発明の飲食品組成物は、一般の飲食品を主体とするものではなく、賦形剤又は担体等とともにβ-1,3-1,6-D-グルカンを錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤などの形状に成形した、例えば固形のいわゆるサプリメント製剤(栄養補助製剤)であってもよい。賦形剤は製剤の項目で例示したものを使用できる。この場合のβ-1,3-1,6-D-グルカンの含有量は、組成物全体に対して、10〜80重量%程度が好ましく、10〜50重量%程度がより好ましい。
【0073】
特に、β-1,3-1,6-D-グルカン10〜80重量%(特に10〜50重量%)程度と乳酸菌(中でも、殺菌乳酸菌粉末)、オリゴ糖、又は/及びアミノ酸をそれぞれ1〜10重量%程度とを含むものが好ましい。
【0074】
本発明の飲食品組成物は、ヒトが必要時、又は日常的に摂取することができる。
次に実施例及び試験例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
(1)低粘度β-1,3-1,6-D-グルカンの調製
(1-1)β-1,3-1,6-D-グルカンの培養産生
後掲の表1に示す組成を有する液体培地100mlを500ml容量の肩付きフラスコに入れ、121℃で、15分間、加圧蒸気滅菌を行った後、オーレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)GM-NH-1A1株(FERM P-19285)を同培地組成のスラントより無菌的に1白金耳植菌し、130rpmの速度で通気攪拌しつつ、30℃で24時間培養することにより種培養液を調製した。
【0076】
次いで、同じ組成の培地200Lを300L容量の培養装置(丸菱バイオエンジ製)に入れ、121℃で、15分間、加圧蒸気滅菌し、上記のようにして得られた種培養液2Lを無菌的に植菌し、200rpm、27℃、40L/minの通気攪拌培養を行った。なお、培地のpHは水酸化ナトリウム及び塩酸を用いてpH4.2〜4.5の範囲内に制御した。96時間後の菌体濁度はOD660nmで23 ODで、多糖濃度は0.5%(w/v)で、S含量から計算される置換スルホ酢酸含量は0.09%であった。
<多糖濃度測定>
多糖濃度は、培養液を数mlサンプリングし、菌体を遠心分離除去した後、その上清に最終濃度が66%(v/v)となるようにエタノールを加えて多糖を沈殿させて回収した後、イオン交換水に溶解し、フェノール硫酸法で定量した。
<置換スルホ含量測定>
同様にして菌体を除去した培養上清にエタノールを最終濃度が66%となるように添加し、β-1,3-1,6-D-グルカンを沈殿回収した。その後、再度イオン交換水に溶解し、再度遠心分離後、その上清に最終濃度が0.9%になるように食塩を加えた後、再度66%エタノールでβ-1,3-1,6-D-グルカンを回収した。このβ-1,3-1,6-D-グルカン回収精製操作を更に2回繰り返し、得られたβ-1,3-1,6-D-グルカン水溶液をイオン交換水で透析後、凍結乾燥によりβ-1,3-1,6-D-グルカン粉末を得た。
【0077】
このβ-1,3-1,6-D-グルカン粉末を燃焼管式燃焼吸収後、イオンクロマト法で組成分析した結果、S含量は239mg/kgであり、この値から計算される置換スルホ酢酸含量は0.09%であった。
【0078】
【表1】

【0079】
(1−2)アルカリ処理
上記のようにして得られた培養液の粘度はBM型回転粘度計(東京計器製)を用いて、30℃、12rpmで測定したところ、1500cP((mPa・s))であった。測定に用いるロータは粘度にあわせて適当なものを選択した。
【0080】
この培養液に水酸化ナトリウム最終濃度が2.4%(w/v)となるように25%(w/w)水酸化ナトリウムを添加し攪拌したところ(pH13.6)、瞬時に粘度が低下した。引き続いて50%(w/v)クエン酸水溶液でpH5.0となるように中和してから濃度0.5(w/v%)における粘度を測定したところ、そのときの粘度(30℃)は20cP([mPa・s])であった。
【0081】
次いで、この培養液にろ過助剤としてKCフロック(日本製紙社製)を1wt%添加し、薮田式ろ過圧搾機(薮田機械製)を用いて菌体を除去し、最終的に培養ろ液(約230L)を得た。その多糖濃度は0.5%(w/v)で、ほぼ100%の回収率であった。
【0082】
(1−3)β-1,3-1,6-D-グルカン水溶液の脱塩
上記のβ-1,3-1,6-D-グルカン水溶液(培養ろ液)を0.3%に希釈後、限外ろ過(UF)膜(分子量カット5万、日東電工社製)を用いて脱塩を行い、最終的にナトリウムイオン濃度を20mg/100mlに落とした後、50%(w/v)クエン酸水溶液によりpHを3.5に調整した。
【0083】
引き続いて、ホット充填用加熱ユニット(日阪製作所製)を用いて95℃で、3分間保持することにより殺菌処理を行い、最終製品のβ-1,3-1,6-D-グルカン水溶液を得た。この時のβ-1,3-1,6-D-グルカンの濃度をフェノール硫酸法により測定したところ0.22%(w/v)であった。また、培養液からのトータル収率は約73%であった。
<硫黄含有量の測定>
また、得られたβ-1,3-1,6-D-グルカン水溶液をイオン交換水で透析後、凍結乾燥によりβ-1,3-1,6-D-グルカン粉末を得た。本β-1,3-1,6-D-グルカンの組成分析結果からS含量は330mg/kgであり、これから計算される置換スルホ酢酸含量は0.12%であった。
<結合状態の確認>
また、脱塩を行った上記培養ろ液について、コンゴーレッド法によって、480nmから525nm付近への波長シフトを確認することができたのでβ−1,3結合を含むグルカンを含有していることが証明された(K. Ogawa, Carbohydrate Research, 67, 527-535 (1978)、今中忠行 監修, 微生物利用の大展開, 1012-1015, エヌ・ティー・エス(2002))。そのときの極大値へのシフト差分はΔ0.48/500μg多糖であった。
【0084】
上記培養ろ液15mlを取り出し、30mlのエタノールを添加し、4℃、1000rpm、10minで遠心して、沈殿する多糖を回収した。66%エタノールで洗浄し、4℃、1000rpm、10分間遠心して、沈殿する多糖に2mlのイオン交換水と、1mlの1N水酸化ナトリウム水溶液を添加撹拌後、60℃、1時間保温して沈殿を溶解させた。次に-80℃にて凍結後、一晩、真空凍結乾燥を行い、乾燥後の粉末を1mlの1N水酸化ナトリウム重水溶液に溶解させ、2次元NMRに供した。
【0085】
2次元NMR(13C−H COSY NMR)106ppmと相関関係を有するH NMRスペクトルを図9に示す。このスペクトルにおいて4.7ppmと4.5ppm付近との2つのシグナルが得られた。
【0086】
この結果、本β−グルカンがβ-1,3-1,6-D-グルカンであることが証明された(今中忠行 監修、微生物利用の大展開、1012-1015、エヌ・ティー・エス(2002))。それぞれのH NMRシグナルの積分比から、β−1,3結合/β−1,6結合の比は1.15であることが判明した。
<粒度測定>
次に、レ−ザ回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA製LA−920)を用いて培養液の粒度を測定したところ、粒子としては0.3μmと100μm程度の大きさのところにピ−クが見られた。続いて、超音波を照射しながら、粒度測定を行うと、100μmのピ−クはみるみるうちに消失し、0.3μmのピ−クが増え、最終的に0.3μmのみとなった。超音波照射したときの培養液の粒度分布を図10に示す。
【0087】
0.3μmのピークはβ-1,3-1,6-D-グルカンの一次粒子によるピークであり、100〜200μmのピークはβ-1,3-1,6-D-グルカンの一次粒子が凝集した二次粒子によるピークであると考えられる。
【0088】
また、二次粒子はマグネチックスタラ−による攪拌、軽い振とうでも同じように消失し、容易に砕けて一次粒子になることが確認された。よって、二次粒子は非常に緩い凝集(緩凝集状態)と考えられる。
<分子量測定>
また、東ソー社製のトーヨーパールHW65(カラムサイズ75cm×φ1cm、排除分子量250万(デキストラン))を用いて、0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液を溶離液としてゲルろ過クロマトグラフィーを行い、溶解β-1,3-1,6-D-グルカンとβ-1,3-1,6-D-グルカンの1次粒子とを含む溶液の分子量を測定したところ、溶解β-1,3-1,6-D-グルカンに由来する2〜30万のピークの低分子画分と、1次粒子に由来する見かけ上50〜250万の高分子画分との二種類が検出された。分子量のマーカーとしてShodex社製のプルランを用いた。
【0089】
水溶性β-1,3-1,6-D-グルカンと微粒子とを分離するため、上記の微粒子画分と可溶性画分とを含むβ-1,3-1,6-D-グルカン溶液をアドバンテック社製のフィルター(0.2μm)でろ過を行ったところ、50〜250万の高分子画分が消失した。このことから、高分子画分はβ-1,3-1,6-D-グルカンの一次粒子や一次粒子が凝集した二次粒子に相当することが判明した。よって、水溶性β-1,3-1,6-D-グルカンの分子量は2〜30万である。これをLMW-βグルカンとも言う。
【0090】
(2)粉末化β-1,3-1,6-D-グルカンの調製
(1)において、アルカリ処理および菌体除去処理により調製された微粒子β-1,3-1,6-D-グルカンを含むβ-1,3-1,6-D-グルカン水溶液に、最終濃度が66%(v/v)となるようにエタノールを添加して、多糖グルカンを沈殿させ、遠心分離法により回収した。次いで凍結乾燥法によりエタノールと水分を除去し、乾燥β-1,3-1,6-D-グルカンを得た。そのときの収率はエタノール沈殿前の全糖濃度と比較して95%以上であった。
【0091】
次いで、得られた乾燥β-1,3-1,6-D-グルカンを最終濃度が0.3%(w/v)となるように水に溶解分散後、前述したと同様にして東ソー社製のトーヨーパールHW65(カラムサイズ 75cm×φ1cm、排除分子量250万(デキストラン))により0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液を溶離液としてゲルクロマトグラフィーを行い、分子量を測定したところ、得られた多糖の分子量は2〜30万のピークの低分子画分と見かけ上50〜250万の高分子画分の二種類からなることが判明した。ここで、分子量のマーカーとしてShodex社製のプルランを用いた。
【0092】
一方、水溶性β-1,3-1,6-D-グルカンと微粒子を分離するため、本法で調製したβ-1,3-1,6-D-グルカン水溶液(微粒子と可溶化βグルカンを含むもの)をアドバンテック社製のフィルター(0.2μm)でろ過を行ったところ、50〜250万の高分子画分が消失した。よって、本法により得られたβ-1,3-1,6-D-グルカンを乾燥させても、再溶解させれば乾燥前のβ-1,3-1,6-D-グルカンと同様の物理的挙動を再現することが実証された。
【0093】
(3)高純度β-1,3-1,6-D-グルカン粉末の製造
(1)においてアルカリ処理を行い低粘度化した培養液(多糖濃度0.5%(5mg/ml))90Lを50%クエン酸水溶液9kgで中和後、濾過助剤(日本製紙ケミカル製粉末セルロ−スKCフロック)を1.8kgプレコートした薮田式濾過圧搾機40D-4を通して、菌体を取り除いた。ろ液を限外濾過スパイラルエレメント(日東電工製NTU3150−S4)で9Lまで濃縮した。本濃縮液を攪拌しながら、pHを3.0-3.5にクエン酸により調整して、エタノール18Lを加え、β-1,3-1,6-D-グルカン/エタノール/水スラリーを得た。スラリーの粘度はBM型粘度計で22mPa・s(30℃)であった。室温で3時間静置し、上澄み液(エタノール/水)約17Lを取り除いた。残ったスラリーの粘度は45mPa・s(30℃)であった。本濃縮スラリー10Lを坂本技研型の噴霧乾燥装置R-3を用いて噴霧乾燥し、360gのβ-1,3-1,6-D-グルカン粉末を得た(回収率80%)。得られたβ-1,3-1,6-D-グルカンの純度はNMRスペクトルの解析の結果、90%以上であった。
なお、得られたβ-1,3-1,6-D-グルカン粉末を1N水酸化ナトリウム重水溶液に溶解させ、NMRスペクトルを測定したところ、1H NMRスペクトルが約4.7ppm及び約4.5ppmの2つのシグナルを得た。また、得られたβ-1,3-1,6-D-グルカン粉末の濃度0.5(w/v%)の水溶液の粘度は200cP以下であった(pH5.0、30℃)。
【0094】
(4)UFT惹起消化管粘膜障害および下痢に対するβ-1,3-1,6-D-グルカンの効果の検討
●材料および方法
1. 実験材料
黒酵母由来β-1,3-1,6-D-グルカン粉末(LMW-βグルカン)は上記により製造したものを使用した。
β-1,3-1,6-D-グルカン粉末(LMW-βグルカン)「以下、β−グルカンまたはβ−glucanとも称す」は25 mg/kg、50 mg/kgおよび100 mg/kgの投与量となるように蒸留水で溶解した。
代謝拮抗剤であるガン化学療法剤UFTの構成成分、テガフールおよびウラシルはSigma社および和光純薬工業(株)から購入し、UFTを調整し、50 mg/kgの投与量となるように蒸留水で懸濁した。GOT/GPTの測定は和光純薬工業のキットを用いて測定した。
2. 実験動物
Balb/c雄性マウス(5週齢)は日本SLC(株)から購入し、1週間予備飼育した後、健康なマウスを実験に使用した。マウスは1群7匹を使用し、実験構成は、(1)正常群、(2)Colon 26移植マウス群、(3)Colon 26移植マウス+UFT(50 mg/kg)投与群、(4)Colon 26移植マウス+UFT+β−グルカン(25 mg/kg)投与群、(5)Colon 26移植マウス+UFT+β−グルカン(50 mg/kg)投与群および(6)Colon 26移植マウス+UFT+β−グルカン(100 mg/kg)投与群の6群とした。
3. ガン細胞
マウス大腸ガン細胞Colon 26は、東北大学抗加齢研究所から供与されたものを用いた。
4. ガン移植マウスの作成、β−グルカンとUFTとの併用による抗腫瘍効果および副作用(体重減少、下痢、白血球および血小板減少、肝臓障害)の測定
a)Colon 26 (1 x 105細胞数/マウス)をBalb/cマウスの背部皮下に移植し、ガン移植1週間後の背部に固形腫瘍が確認された後に、UFT(50 mg/kg)を朝(8:00)1回経口投与し、14日間投与した。β−グルカン(25、50および100 mg/kg)は朝(8:00)、夕(20:00)2回、14日間経口投与した。
b)体重測定はガン移植翌日から各日に測定した。
c)腫瘍容積量はガン移植9日目から各日に測定した。
d)下痢の観察および摂食量の測定はUFTおよびβ−グルカン投与後から開始した。
e)ガン移植から21日目に各マウスは、エーテル麻酔下、下大静脈から血液を採取し、腫瘍組織、肝臓、脾臓、胸腺および小腸を摘出し、各重量を測定した。採取した血液中の赤血球、白血球、血小板数、ヘモグロビン量およびヘマトクリット値は、自動血球測定装置を用いて測定した。
【0095】
●実験結果および考察
1.代謝拮抗剤UFTとβ−グルカン併用における抗腫瘍効果
UFT(50 mg/kg)投与によって、腫瘍の増加は抑制された。β−グルカン(50および100 mg/kg)の併用においてUFTの抗腫瘍効果を維持し、もしくは有意な差は認めらなかったが、UFTによる抗腫瘍効果を減弱することなしに、抗腫瘍効果の増強傾向が認められた(図1)。 最終の腫瘍組織重量も、UFTによる抗腫瘍効果を維持していることが判明した(図2)。
【0096】
2.代謝拮抗剤UFTとβ−グルカン併用における体重推移、摂食量および下痢出現に及ぼす影響
UFT投与開始12日目(ガン移植18日目)から体重は、正常群およびColon 26移植マウス群と比較して有意に低下した。β−グルカン併用した群では体重の低下がUFT投与群と比較して有意ではないけれど、わずかに抑制する傾向が認められた(図3)。摂食量もUFT投与開始9日目(ガン移植15日目)から低下したが、β−グルカン(50および100mg/kg)の併用はUFTによる摂食量の低下を回復した(図4)。下痢もUFT投与開始10日目(ガン移植16日目)から発生した。UFTによる下痢の発生はβ−グルカン(50および100mg/kg)の併用によって抑制された(図5)。
【0097】
3.代謝拮抗剤UFTとβ−グルカン併用における各臓器重量、赤血球数、白血球数、血小板数、ヘモグロビン量、ヘマトクロット値に及ぼす影響
表2に示すように、UFT投与よって、肝臓、脾臓および胸腺重量は低下したが、β−グルカンの併用によっても回復されなかった。UFTによって肝臓重量の低下が認められたが、肝臓障害の指標となるGOTおよびGPT値には影響を及ぼさなかった。
【表2】

【0098】
小腸重量もUFT投与のよって低下し、それは小腸粘膜の障害によるものであることが推測され、β−グルカン(25、50および100mg/kg)の併用によってUFTによる小腸重量の低下は阻止される傾向が示された(図6)。事実、小腸粘膜タンパク量はUFT投与によって減少し、β−グルカン(25、50および100mg/kg)併用によって、UFTによる小腸粘膜タンパク量の低下は抑制された(図7)。この事実は、β−グルカンによってUFTの小腸粘膜障害を阻止することで下痢の発生を抑制していると考えられる。β−グルカンによる小腸粘膜の保護効果は、組織学的観察からも確認された(図8)。
【0099】
赤血球、ヘモグロビン量およびヘマトクリット値はUFT投与群、正常群およびColon 26移植マウス群間で差異はみとめられなかった。白血球および血小板はUFT投与によって、正常群およびColon 26 移植群との比較において有意に減少した。β−グルカンとUFTの併用は、UFTによって引き起こされた白血球の低下は抑制される傾向を示した。UFTによる血小板減少はβ−グルカンの併用によっても回復されなかった(表3)。
【表3】

【0100】
以上の実験結果から、β−グルカンはUFTによる抗腫瘍効果を維持しながら、UFTによる消化器粘膜障害の阻止を介して下痢の発生を抑制することが判明した。また、UFTによる白血球減少もβ−グルカン併用投与によって阻止される傾向を示した。
【0101】
(5)飲食品組成物の処方例
処方例1(クッキー)
粉末β-1,3-1,6-D-グルカン 1重量%
殺菌乳酸菌末 0.2重量%
カテキン 1重量%
クッキー生地 残量

処方例2(サプリメント)
粉末β-1,3-1,6-D-グルカン 1重量%
コラーゲンペプチド 42重量%
ヒアルロン酸 0.06重量%
殺菌乳酸菌末 1重量%
ビタミンC 10重量%
ビタミンB2 0.03重量%
ビタミンB6 0.03重量%
賦形剤(でんぷんなど) 残量

処方例3(サプリメント)
粉末β-1,3-1,6-D-グルカン 1重量%
コラーゲンペプチド 42重量%
ヒアルロン酸 0.06重量%
殺菌乳酸菌末 1重量%
ビタミンC 10重量%
ビタミンB2 0.03重量%
ビタミンB6 0.03重量%
ナイアシン 0.15重量%
賦形剤(でんぷんなど) 残量

処方例4(ドリンク剤)
β-1,3-1,6-D-グルカン水溶液
(0.2重量%β-グルカン水溶液) 61.5重量%
殺菌乳酸菌末 0.03重量%
ミルクトオリゴ糖 0.8重量%
ラクトフェリン 0.09重量%
甘味料(スクラロース) 0.03重量%
クエン酸 0.22重量%
香料 0.37重量%
水 残部

処方例5(ドリンク剤)
β-1,3-1,6-D-グルカン水溶液
(0.2重量%β-グルカン水溶液) 61.5重量%
殺菌乳酸菌末 0.03重量%
テアニン 0.8重量%
GABA 0.09重量%
甘味料(スクラロース) 0.03重量%
クエン酸 0.22重量%
香料 0.37重量%
水 残部

処方例6(ドリンク剤)
粉末β-1,3-1,6-D-グルカン
(オーレオバシジウム属由来) 0.2重量%
紅花エキス 7%
イチョウ葉エキス 7%
高麗人参エイキ 7%
ザクロエキス 3.5%
天草エキス 3.5%
桂皮エキス 3.5%
陳皮エキス 3.5%
ウコンエキス 2.1%
生姜エキス 1%
ハチミツ 3%
水 残部
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】β-1,3-1,6-D-グルカン(LMW−β−Glucan)とUFTの併用による腫瘍体積増加抑制効果を示す。結果は、7匹のマウスの平均±標準誤差で示す。*:colon-26細胞移植マウス(colon 26-bearing mice)に対し、Fisher protected検定によりp<0.05を示す。
【図2】β-1,3-1,6-D-グルカン(LMW−β−Glucan)とUFTの併用による腫瘍重量増加抑制効果を示す。結果は、7匹のマウスの平均±標準誤差で示す。*:colon-26細胞移植マウス(colon 26-bearing mice)に対し、Fisher protected検定によりp<0.05を示す。
【図3】β-1,3-1,6-D-グルカン(LMW−β−Glucan)とUFTの併用におけるColon 26移植マウス(colon 26-bearing mice)の体重変化に及ぼす影響を示す。結果は、7匹のマウスの平均±標準誤差で示す。*:colon-26細胞移植マウス(colon 26-bearing mice)に対し、Fisher protected検定によりp<0.05を示す。♯:UFTで処置したcolon-26細胞移植マウスに対し、Fisher protected検定によりp<0.05を示す。
【図4】β-1,3-1,6-D-グルカン(LMW−β−Glucan)とUFTの併用におけるColon 26移植マウス(colon 26-bearing mice)の摂食量に及ぼす影響を示す。結果は、7匹のマウスの平均±標準誤差で示す。
【図5】β-1,3-1,6-D-グルカン(LMW−β−Glucan)とUFTの併用におけるColon 26移植マウス(colon 26-bearing mice)の下痢に及ぼす影響を示す。結果は、7匹のマウスの平均±標準誤差で示す。
【図6】β-1,3-1,6-D-グルカン(LMW−β−Glucan)とUFTの併用におけるColon 26移植マウス(コントロール)の小腸重量に及ぼす影響を示す。結果は、7匹のマウスの平均±標準誤差で示す。*:colon-26細胞移植マウス(コントロール)に対し、Fisher protected検定によりp<0.05を示す。♯:UFTで処置したcolon-26細胞移植マウスに対し、Fisher protected検定によりp<0.05を示す。
【図7】β-1,3-1,6-D-グルカン(LMW−β−Glucan)とUFTの併用におけるColon 26移植マウス(コントロール)の小腸粘膜蛋白重量に及ぼす影響を示す。結果は、7匹のマウスの平均±標準誤差で示す。*:colon-26細胞移植マウス(コントロール)に対し、Fisher protected検定によりp<0.05を示す。♯:UFTで処置したcolon-26細胞移植マウスに対し、Fisher protected検定によりp<0.05を示す。
【図8】正常マウス、colon-26細胞移植マウス(colon 26-bearing mice)、β-1,3-1,6-D-グルカン(LMW−β−Glucan)とUFTの併用投与マウスの小腸組織もヘマトキシリン−エオジン染色の写真(100倍拡大)。
【図9】本発明で製造されたβ-1,3-1,6-D-グルカンのNMRスペクトルを示す。 帰属: H−NMRの4.5ppm付近のピーク:1位の水素(β1→6結合)4.4729ppm H−NMRの4.7ppm付近のピーク:1位の水素(β1→3結合)4.7258ppm
【図10】本発明で製造されたβ-1,3-1,6-D-グルカンの超音波照射後の粒度分布を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-1,3-1,6-D-グルカンを含む消化管粘膜保護剤。
【請求項2】
代謝拮抗剤により惹起される消化管粘膜障害から消化管粘膜を保護する、請求項1に記載の消化管粘膜保護剤。
【請求項3】
β-1,3-1,6-D-グルカンを含む下痢抑制剤。
【請求項4】
消化管粘膜障害により惹起される下痢の発症を抑制する、請求項3に記載の下痢抑制剤。
【請求項5】
消化管粘膜障害が、代謝拮抗剤により惹起される、請求項4に記載の下痢抑制剤。
【請求項6】
消化管粘膜が小腸粘膜である、請求項1、2、4または5に記載の消化管粘膜保護剤または下痢抑制剤。
【請求項7】
β-1,3-1,6-D-グルカンが黒酵母由来である、請求項1−6のいずれかに記載の消化管粘膜保護剤または下痢抑制剤。
【請求項8】
黒酵母が、オーレオバシジウム・プルランスGM-NH-1A1株(FERM BP-10294)、又はオーレオバシジウム・プルランスGM-NH-1A2株(FERM BP-10295)である、請求項7に記載の消化管粘膜保護剤または下痢抑制剤。
【請求項9】
β-1,3-1,6-D-グルカンが、以下の(1)−(2)の性質:
(1)1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液のH NMRスペクトルが約4.7ppm及び約4.5ppmの2つのシグナルを有する;
(2)水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が200cP(mPa・s)以下である、
を有する、請求項1−8のいずれかに記載の消化管粘膜保護剤または下痢抑制剤。
【請求項10】
経口投与用である、請求項1−9のいずれかに記載の消化管粘膜保護剤または下痢抑制剤。
【請求項11】
請求項1−9のいずれかに記載の消化管粘膜保護剤または下痢抑制剤を含む食品。
【請求項12】
消化管粘膜保護および/または下痢抑制のために用いられる旨の表示を付した、請求項10に記載の食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−90070(P2010−90070A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262823(P2008−262823)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】