説明

β放射能測定装置

【課題】簡便かつ高精度にβ放射能を測定すること。
【解決手段】β放射能測定装置は、測定対象物から放出される放射線により電離した空気
を吸引して電離電流値を測定してβ放射能を求めるβ放射能測定装置において、測定対象
物の放射線源の近傍空間とこの近傍空間から離れた離間空間とを隔離する隔離板28と、
近傍空間26から空気を吸引してα線による電離が支配的となるα線電離電流値を求める
とともに、離間空間27から空気を吸引してβ線による電離が支配的となるβ線電離電流
値を求める電流値測定手段と、前記α線電離電流値とβ線電離電流値との比を求め、この
比と予め求めた基準の比率とを比較してα線およびβ線の放射能を評価する手段13とを
備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β/γ放射性物質の全β放射能量を測定するβ放射能測定装置に係り、特に
β線によって電離された空気を電離箱内に移送し、イオン化による電流量を測定すること
によりβ放射能を求めるβ放射能測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、放射線により電離した空気を電離箱内に吸引し、イオン化による電流値を測定
して放射能を求める装置あるいは方法においては、α線により電離した空気を吸引して、
電離箱内でα放射能を求める発明が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この従来例は、図2に示すようにイオン化された空気がファン1によって吸引され、イ
オンは接地された側板2に囲まれ、かつ電源3から電圧が印加されたグリッド4に収集さ
れ、このグリッド4と電源3との間に接続された電流計5により電離電流が測定される。
【0004】
したがって、従来α線に対しては、閉空間内での電離作用に着目し、その限定された空
間内の空気の電離量を測定していた。α線1崩壊当たりの電離イオン数は多く、α線の飛
程は空気中で高々約5cmと短いため、放射線源近傍の空気が高密度で電離されることに
より、前記従来例の構成によってα放射能が測定可能となる。
【0005】
一方、β線についてはα線と比べて飛程が長く、より大きな体積における空気電離量を
測定する必要があるため、上記のような小型閉空間の測定装置の構成では、電離電流の測
定下限値の制約もあり測定することができなかった。このため、β汚染については、この
ような空気電離計測手段ではなく、表面サーベイ・計測の一般的手法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,194,737号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の電離電流を利用した放射能測定装置では、α線による電離電流を測定
し、α放射能を求めるものであって、β放射能を求めるためものではない。そのため、装
置構成、測定方法などもβ線を求めるために設定された条件ではないため、測定精度が低
いという課題があった。一般に、原子力発電所で発生する廃棄物はβ/γ放射性廃棄物で
あり、そのためβ放射能を簡便に測定可能な装置が求められている。
【0008】
本発明は上記事情を考慮してなされたもので、簡便かつ高精度にβ放射能を測定するこ
とができるβ放射能測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のβ放射能測定装置においては、測定対象物から放出
される放射線により電離した空気を吸引して電離電流値を測定してβ放射能を求めるβ放
射能測定装置において、前記測定対象物の放射線源の近傍空間とこの近傍空間から離れた
離間空間とを隔離する隔離板と、前記近傍空間から空気を吸引してα線による電離が支配
的となるα線電離電流値を求めるとともに、前記離間空間から空気を吸引してβ線による
電離が支配的となるβ線電離電流値を求める電流値測定手段と、前記α線電離電流値とβ
線電離電流値との比を求め、この比と予め求めた基準の比率とを比較してα線およびβ線
の放射能を評価する手段とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のβ放射能測定装置によれば、測定対象物の放射線源の近傍空間とそれより離れ
た離間空間とを隔離する隔離板を設け、放射線源の近傍空間の空気を吸引してα線による
電離の影響が大きい電離電流とし、放射線源の離間空間の空気を吸引してβ線による電離
電流として、α線による電離電流を補正することにより、高精度にβ放射能を測定するこ
とができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るβ放射能測定装置の実施形態を示す構成図。
【図2】従来のβ放射能測定装置の一例を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るβ放射能測定装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は本発明に係るβ放射能測定装置の実施形態を示す構成図である。
【0014】
図1に示すように、測定対象物11は、α線源23およびβ線源24が設置された近傍
空間(周辺部)26と、この近傍空間26から離れた離間空間(中心部)27とが隔離板
28により互いに隔離して形成されている。
【0015】
この放射線源の近傍空間26における密閉板25には、近傍空間吸引パイプ29が連結
され、この近傍空間吸引パイプ29に吸引パイプ12が接続される一方、離間空間27に
おける密閉板25には、離間空間吸引パイプ30が連結され、この離間空間吸引パイプ3
0に吸引パイプ12が接続されている。
【0016】
そして、吸引ポンプ14を駆動し、近傍空間26から近傍空間吸引パイプ29および吸
引パイプ12を経て空気を吸引することにより、α線による電離が支配的となるα線電離
電流値が電離電流測定装置13により求められる一方、離間空間27から離間空間吸引パ
イプ30および吸引パイプ12を経て空気を吸引することにより、β線による電離が支配
的となるβ線電離電流値が電離電流測定装置13により求められる。
【0017】
また、データ処理装置16は、上記α線電離電流値とβ線電離電流値との比を求め、こ
の比と予め求めた基準の比率とを比較してα線およびβ線の放射能を評価する。
【0018】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0019】
測定対象物11は、例えばパイプのような内部に空間を有し、内部が放射能によって汚
染されているものとする。今、α線源23のエネルギ−が5〜6MeVとすると、空気中
での飛程は3.5cmから4.6cmであるので、5cmの距離でこれらのα線が停止す
る。したがって、測定対象物11の内表面近傍から5cm程度を境界として隔離板28が
設置される。
【0020】
測定対象物11の内表面から隔離板28までの近傍空間26の空気は、α線とβ線によ
って電離される一方、隔離板28から測定対象物11の離間空間27の空気はβ線によっ
て電離される。
【0021】
ここで、α線とβ線によって電離された測定対象物11の内表面近傍の空気は、吸引ポ
ンプ14により近傍空間吸引パイプ29および吸引パイプ12を経て電離電流測定装置1
3まで吸引され、β線とα線による電離イオンの電流値Aが測定される。
【0022】
一方、隔離板28から測定対象物11の離間空間27の空気は、吸引ポンプ14により
離間空間吸引パイプ30および吸引パイプ12を経て電離電流測定装置13まで吸引され
、β線による電流値Bが測定される。
【0023】
これら電流値A、電流値Bは、データ処理装置16に記録され、次に、この処理装置1
6により電流値A/電流値Bの比を計算し、この比と予め求めたβ線源のみで汚染された
測定対象物11の電流値A/電流値Bの基準値比とを比較する。
【0024】
ここで、基準電流値比に対する測定電流値比が1以下であれば、α線の混在が少ないの
で測定対象物11の電流値Bからβ放射能を求める。また、基準電流値比に対する測定電
流値比が1未満であれば、α線の混在があるので、測定対象物11の電流値Bからは前述
のようにしてβ放射能を求め、測定対象物11の電流値Aからは、測定対象物11の電流
値Bに補正係数を乗じて算出したβ線の寄与分の電流値を電流値Aから減算すれば、α線
の電離による電流値を得ることができ、α線の電離電流からα放射能への換算定数を使用
することにより、α放射能を算出する。
【0025】
このように構成された本実施形態において、測定対象物表面から5cmの位置に設置さ
れた隔離板28に対し、測定対象物11の離間空間27の空気の電離イオンを収集して測
定すれば、β線の電離に起因した電流が測定されるので、高精度にβ放射能の測定を行う
ことができる。
【0026】
なお、隔離板28の設置位置は、α線のエネルギ−、測定対象物11の寸法と深く関係
し、これらの関係に応じて測定対象物11の内表面から2cm、3cm、4cmに適宜設
置することも可能である。
【0027】
また、測定対象物11の内部を2個以上の隔離板により、3個以上の隔離領域を設定し
、これらの内部の空気をそれぞれ独立に吸引してイオン化による電流を測定し、前述した
ように、これらの電流値を比較すれば、β線のエネルギーに関するデータを収集すること
が可能となり、一段と高精度にβ放射能を評価することができる。
【0028】
このように本実施形態によれば、隔離板28によりα線の空気中の飛程より長い位置か
らの空気を吸引することによりα線の影響をなくして、β線のみにより電離したイオンを
測定しているので、高精度にβ放射能の測定を行うことができる。
【符号の説明】
【0029】
11 測定対象物
12 吸引パイプ
13 電離電流測定装置(電流値測定手段)
14 吸引ポンプ
15 測定対象物内の空気
16 データ処理装置
22 遮蔽板
23 α線源
24 β線源
25 密閉板
26 近傍空間
27 離間空間
28 隔離板
29 近傍空間吸引パイプ
30 離間空間吸引パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物から放出される放射線により電離した空気を吸引して電離電流値を測定して
β放射能を求めるβ放射能測定装置において、前記測定対象物の放射線源の近傍空間とこ
の近傍空間から離れた離間空間とを隔離する隔離板と、前記近傍空間から空気を吸引して
α線による電離が支配的となるα線電離電流値を求めるとともに、前記離間空間から空気
を吸引してβ線による電離が支配的となるβ線電離電流値を求める電流値測定手段と、前
記α線電離電流値とβ線電離電流値との比を求め、この比と予め求めた基準の比率とを比
較してα線およびβ線の放射能を評価する手段とを備えたことを特徴とするβ放射能測定
装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−236932(P2009−236932A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168220(P2009−168220)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【分割の表示】特願2000−282300(P2000−282300)の分割
【原出願日】平成12年9月18日(2000.9.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】