説明

β鉄シリサイドの製造方法。

【課題】本発明は、生体に安全で環境負荷が少なく、資源的にも豊富な元素から構成されるシリサイド半導体としてのβ鉄シリサイドを製造する方法を提供する。
【解決手段】還元対象酸化物としての鉄酸化物,シリコン酸化物を主成分とする酸化物原料に鉄シリサイドのβ化促進剤として微量の銅もしくは銅酸化物を混合した後、加熱して溶融状態なった時点で還元剤としてシリコンを投入し、直接溶融還元することによりβ鉄シリサイドを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
近年、生体への毒性及び環境負荷の顕著な元素の使用を規制するRoHS指令などもあり,化合物半導体として多用されてきたヒ素,カドミウム,鉛などの使用が厳しく規制される傾向にある。そのため安全で環境負荷が少なく、資源的にも豊富な元素から構成されるシリサイド半導体が新たな機能材料として注目され、β鉄シリサイドを代表とする半導体は熱電素子及び光素子への応用が期待されている。
【背景技術】
【0002】
現在、熱電材料におけるβ鉄シリサイドの製造方法は、高純度の鉄及びシリコンの単体を出発原料として、所定の合金組成を得るために溶解した後、粉砕してから粉末冶金法によって製造されている。しかしながら、β鉄シリサイド(β相)へは包析変態(α+ε→β)などを伴うため反応速度が遅く、極めて長時間の熱処理(約120時間)が必要である。例えば、特許文献のようなFe−Si系熱電材料も提案されている。本発明では新たなβ鉄シリサイドの製造方法を検討し、鋭意研究を重ねた。
【特許文献】特開平8−274380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、これらの知見をもとにさらに鋭意研究を重ねた結果なされたものであり、本発明によれば、溶融還元プロセスにより、熱処理工程を経ずに、酸化物から一段階で直接β鉄シリサイドを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、被還元物として鉄酸化物とシリコン酸化物を主成分とする酸化物含有物に鉄シリサイドのβ化促進剤として微量の銅もしくは酸化銅あるいはその混合物を添加し加熱溶融した後、還元剤としてシリコンを投入し、直接還元することを特徴としている。
【0005】
また、被還元物として鉄酸化物とシリコン酸化物を主成分とし、主成分以外の酸化物としてカルシウム酸化物,アルミニウム酸化物,マグネシウム酸化物等の酸化物の一種類もしくは全てから構成される混合物に微量の銅もしくは酸化銅あるいはその混合物を添加しシリコンで直接還元することを特徴としている。
【0006】
また、被還元物として銅製錬工場から排出される銅スラグを主成分とし、シリコンで直接還元することを特徴としている。
【0007】
さらに、β鉄シリサイドの製造方法においては、(i)還元温度範囲が1200〜1700℃の範囲であり、(ii)還元時間が10分〜10時間の範囲であり、(iii)被還元物に含有する銅もしくは酸化銅の含有率が0.01〜20%の範囲であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、還元対象酸化物の主成分として鉄酸化物とシリコン酸化物に微量の銅もしくは酸化銅あるいはその混合物を添加加熱し、還元剤としてシリコンを用いて直接還元することにより、β鉄シリサイドを得ることができる。
【0009】
また、本発明によれば、還元対象酸化物の主成分として鉄酸化物とシリコン酸化物,カルシウム酸化物,アルミニウム酸化物,マグネシウム酸化物等の酸化物から構成される混合物に微量の銅もしくは酸化銅を添加し、還元剤としてシリコンを用いて直接還元することにより、β鉄シリサイドを得ることができる。
【0010】
さらに、本発明によれば、還元対象酸化物の主成分として銅製錬工場から排出される銅スラグに、還元剤としてシリコンを用いて直接還元することにより、β鉄シリサイドを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したβ鉄シリサイドの製造方法を説明する。
【0012】
図1は、本発明を適用したβ鉄シリサイド製造装置の一例を示す説明図である。被還元物1をアルミナタンマンるつぼ2中に挿入し、電気炉3の中央部に設置される。当該るつぼ2の上部に還元剤投入ランス4が設置され、還元剤を当該るつぼ2中に投入できる設備を構成し、また、操業中の温度は当該るつぼ2近傍に設置された測温用の熱電対5により測温制御される構造を有する。
【0013】
反応容器としてアルミナタンマンるつぼ2を用いたが、他の耐火物容器を用いても良い。
【0014】
被酸化物として市販の試薬による鉄酸化物とシリコン酸化物を用いたが、それ以外の酸化物としてカルシウム酸化物,アルミニウム酸化物,マグネシウム酸化物等を含有する酸化物に、シリコンを用いて直接還元製造することにより、β鉄シリサイドを製造することができる。
【0015】
被酸化物原料として銅製錬工場から排出する銅スラグに、シリコンを用いて直接還元製造することにより、β鉄シリサイドを製造することができる。
【0016】
鉄シリサイドのβ化促進材料として銅を用いたが、銅酸化物もしくは銅と銅酸化物の混合物でも良い。
【0017】
アルミナタンマンるつぼ2中に被還元物としての被酸化物を挿入した後、当該るつぼ2を電気炉3の中央部に設置する。また、当該るつぼ2上に還元剤のシリコンを投入するための還元剤ランス4を設置する。その後所定の温度まで電気炉3を昇温して被還元物としての被酸化物が溶融した後、当該るつぼ2上部に設置した還元剤ランス4から還元剤であるシリコン粉末を投入する。所定温度に一定時間保持した後冷却すると、当該るつぼ2中の被還元物1が還元剤であるシリコンにより還元されβ鉄シリサイドとスラグに分離し、β鉄シリサイドを得ることができる。
【0018】
上述のβ鉄シリサイドの製造方法を用いて、短時間で高純度のβシリサイドを得ることができる。
βシリサイドの製造条件としては、例えば、
(i)還元温度範囲が1200〜1700℃の範囲であり、
(ii)還元時間が10分〜10時間の範囲であり、
(iii)被還元物に含有する銅もしくは酸化銅の含有率が0.01〜20%の範囲で
の推奨される条件範囲で溶融還元処理を施すことによって、βシリサイドの製造方法を提供できる。
【0019】
実施例1として、還元対象物を市販の試薬により、
Fe−NaO−SiO(39.9−36.5−23.6wt%)、NaO/SiO=1.5、の組成物を調合し、温度1450℃、反応時間2hr、Si投入量を反応当量の1.2倍としたときに得られた試料の還元率は51.1%であった。同組成を用いて実験温度1500℃、Siを反応当量投入した結果,得られた試料はスラグと生成物相の二相分離状態で得られ、定量分析からは還元率99.2%、FeSi生成率99.7%と高い値を示した。X線回折による相の同定を行った結果、生成物相にはα−FeSi及びε−FeSi相の存在が確認され、半導体相であるβ−FeSi相は得られなかった。
【0020】
実施例2として、被還元物として銅製錬工場で実際に排出されている銅スラグを用い、組成Fe−SiO−CaO−Al−MgO−CuO−NaO(40.5−23.9−4.0−3.3−1.36−0.7−24.7wt%)、NaO/SiO=1.0、実験温度1500℃、反応時間3hrにおいてSiを反応当量投入し、得られた試料の、X線回折測定を行った結果、Si及び半導体相であるβ−FeSi相の生成が確認できた。
【0021】
実施例3として、還元対象物を市販の試薬を用いて調合し、鉄源としてFeを用い、組成Fe−SiO−NaO−CuO(20.0−39.3−40.6−0.2wt%)、NaO/SiO=1.0、実験温度1450℃、反応時間1hrにおいてSiを反応当量投入し、得られた試料のX線回折測定を行った結果、Si及び半導体相であるβ−FeSi相の生成が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】β鉄シリサイド製造装置の概略図である。
【符号の説明】
【0023】
1 被還元物
2 アルミナタンマンるつぼ
3 電気炉
4 還元剤投入ランス
5 熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被還元物として鉄酸化物とシリコン酸化物を主成分とする酸化物含有物に鉄シリサイドのβ化促進剤として微量の銅もしくは酸化銅あるいはその混合物を添加し加熱溶融した後、還元剤としてシリコンを投入し、直接還元することを特徴とするβ鉄シリサイドの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
被還元物として鉄酸化物とシリコン酸化物を主成分とし、主成分以外の酸化物としてカルシウム酸化物,アルミニウム酸化物,マグネシウム酸化物等の酸化物の一種類もしくは全てから構成される混合物に微量の銅もしくは酸化銅あるいはその混合物を添加しシリコンで直接還元することを特徴とするβ鉄シリサイドの製造方法。
【請求項3】
請求項1において、
被還元物として銅製錬工場から排出される銅スラグを主成分とし、シリコンで直接還元することを特徴とするβ鉄シリサイドの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のβ鉄シリサイドの製造方法において、
(i)還元温度範囲が1200〜1700℃の範囲であり、
(ii)還元時間が10分〜10時間の範囲であり、
(iii)被還元物に含有する銅もしくは酸化銅の含有率が0.01〜20%の範囲であることを特徴とするβ鉄シリサイドの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−239470(P2008−239470A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112382(P2007−112382)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(505133157)
【Fターム(参考)】