説明

γ−オリザノール可溶化液体組成物

【課題】γ−オリザノールを可溶化させ、経時的にも安定な液体組成物を提供すること。
【解決手段】γ−オリザノール、油成分および非イオン性界面活性剤を含有する液体組成物において、非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤およびポリグリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を用い、かつ、γ−オリザノール1質量部に対して油成分を2〜20質量部、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤を3〜40質量部およびポリグリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を4〜40質量部で配合したことを特徴とするγ−オリザノール可溶化液体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、医薬部外品及び食品の分野に応用しうるγ−オリザノールを安定に可溶化させた液体組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
γ−オリザノールは、高脂質血症、心身症(更年期障害、過敏性腸症候群)における身体症候並びに不安・緊張・抑欝の効能・効果があり、それ以外にも、抗酸化作用、紫外線吸収作用、脂質代謝改善作用等の作用があることが知られており、飲料をはじめとする様々な液体組成物中に配合されている。
【0003】
しかしながら、γ−オリザノールは、水に対して難溶性物質であり、これまでにもγ−オリザノールを液体組成物中に可溶化するための種々の方法が報告されている。例えば、γ−オリザノールをポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とビタミンEを用いて可溶化する技術が開示されている(特許文献1)。
【0004】
しかし、この技術では、実際にγ−オリザノールを可溶化することができない上、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は酸性領域で分解するため、おり(沈殿・濁りなど)を生じ易く、経時的な溶解安定性が充分に確保されているとはいえなかった。
【特許文献1】特開平7−41422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明はγ−オリザノールを可溶化させ、経時的にも安定な液体組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、γ−オリザノール、油成分および非イオン性界面活性剤を含有する液体組成物において、複数の非イオン性界面活性剤を用い、かつ、前記組成物に含有される各成分を特定の質量比で配合することによりγ−オリザノールを可溶化できることを見出した。また、このものが経時的にも安定であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明はγ−オリザノール、油成分および非イオン性界面活性剤を含有する液体組成物において、非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤およびポリグリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を用い、かつ、γ−オリザノール1質量部に対して油成分を2〜20質量部、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤を3〜40質量部およびポリグリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を4〜40質量部で配合したことを特徴とするγ−オリザノール可溶化液体組成物である。
【0008】
また、本発明はγ−オリザノール1質量部に対して油成分を2〜20質量部、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤を3〜40質量部およびポリグリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を4〜40質量部を混合することを特徴とするγ−オリザノールの可溶化方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、γ−オリザノールを可溶化させて配合した経時的にも安定な液体組成物を提供することができる。
【0010】
従って、この液体組成物はγ−オリザノールの有する高脂質血症、心身症(更年期障害、過敏性腸症候群)における身体症候並びに不安・緊張・抑欝の効能・効果や、抗酸化作用、紫外線吸収作用、脂質代謝改善作用等の作用を得るための各種医薬品、医薬部外品及び食品等に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のγ−オリザノール可溶化液体組成物(以下、「本発明組成物」という)に含有されるγ−オリザノールは、フェルラ酸とステロイド核をもつ不飽和トリテルペンアルコールとのエステルを総称したものである。本発明においてはいずれのγ−オリザノールも好適に用いることができる。また、本発明組成物におけるγ−オリザノールの配合量は0.005〜0.1質量%(以下、単に「%」という)、好ましくは0.005〜0.05%である。
【0012】
また、本発明組成物に含有される油成分としては、例えば、ビタミンE及びその誘導体、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンK、大豆油、カプリル酸トリグリセリド等の炭素数6〜12の飽和脂肪酸のトリグリセリドを主成分とする中鎖脂肪酸トリグリセリド、γ−リノレン酸等のトリグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。これらの中でも、ビタミンEまたはその誘導体、中鎖脂肪酸トリグリセリドが好ましい。なお、本発明においては中鎖脂肪酸トリグリセリドとして市販品を利用することもできる。上記した油成分は1種を用いるだけでなく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明組成物における油成分の配合量は、γ−オリザノール1質量部に対して2〜20質量部である。
【0013】
更に本発明において使用される非イオン性界面活性剤のうち、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が好ましく、特に酸化エチレンの平均付加モル数が約30〜120のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が好ましい。なお、本発明においてはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油として市販品を利用することもできる。また、本発明組成物におけるポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤の配合量はγ−オリザノール1質量部に対して3〜40質量部、好ましくは3〜20重量部である。なお、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤の配合量が、γ−オリザノール1質量部に対して3質量部未満ではγ−オリザノールが溶解せず、また、40質量部を超えると経時的に沈殿や浮遊物を生じることがある。
【0014】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤としては、例えば、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル、ヘキサグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノラウリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセンモノカプリル酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノリノレン酸エステル等が挙げられる。これらの中でも風味の点から、デカグリセリンモノミリスチン酸エステルおよびデカグリセリンモノステアリン酸エステルが好ましい。これらポリグリセリン脂肪酸エステルは、1種だけでなく、2種以上を配合してもよい。また、本発明組成物におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量は、γ−オリザノール1質量部に対して4〜40質量部、好ましくは4〜30質量部である。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量が、γ−オリザノール1質量部に対して4質量部未満では低pHにおいて沈殿や浮遊物を生じたり、γ−オリザノールの溶解安定性が充分ではないことがあり、また、40質量部を超えると沈殿や浮遊物を生じることがある。
【0015】
なお、本発明組成物において、ポリグリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤および油成分の質量比は1〜2:1:0.4〜1が好ましく、特に1.5〜1:1:0.4〜1がγ−オリザノールの溶解安定性の点から好ましい。
【0016】
更にまた、本発明組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で溶解補助剤や安定化剤を配合することもできる。溶解補助剤としては、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等の水溶性多価アルコールが挙げられる。また、安定化剤としてはポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の高分子が挙げられる。
【0017】
本発明組成物は、常法に従い、上記した各成分を混合することにより製造することができる。具体的には、γ−オリザノール、油成分、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤およびポリグリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を加温溶解し、これを攪拌することにより各成分を混合させ、γ−オリザノールを可溶化させればよい。
【0018】
斯くして得られる本発明組成物は、γ−オリザノールが可溶化されており、経時的にも安定である。また、本発明組成物はいずれのpHでも安定であるが、特に酸性から中性域、例えば、pH2.5〜7、好ましくはpH3〜5でも安定である。このpHの調整には、可食性の酸を用いることができ、具体的には、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、乳酸、コハク酸、アスコルビン酸などの有機酸及びそれらの塩類、塩酸、リン酸などの無機酸及びそれらの塩類などが挙げられる。これらのpH調整剤は1種を用いるだけでなく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
また、本発明組成物には、水、アルコール、ビタミン及びその塩類、ミネラル、アミノ酸及びその塩類、生薬及び生薬抽出物、ローヤルゼリー、カフェイン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、甘味剤、矯味剤、pH調整剤、保存剤、抗酸化剤、着色剤、香料等の飲食品または製剤に一般に使用される物質を、本発明の効果を損なわない範囲で配合することができ、常法により混合することで、飲料等の飲食品、シロップ剤、液剤などの経口製剤とすることができる。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例、比較例及び試験例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0021】
実 施 例 1
液体組成物の製造(1):
表1に示す処方の液体組成物を製造した。まず、非イオン性界面活性剤であるデカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノミリスチン酸エステルおよびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、酢酸トコフェロール、グリセリンおよびγ−オリザノールとを80℃にて加温溶解し、そのpHをクエン酸および4mol/Lの水酸化ナトリウムにより調整した。次に、全量を精製水で50mlとし、これらをガラス瓶に充填し、キャップを施し、実施品1〜8とした。これらを65℃恒温槽にて4週間保管後、性状安定性を目視により、下記の観察基準にて評価した。
【0022】
<性状安定性の観察基準>
( 内 容 ) (評価)
濁り、浮遊物及び沈殿何れもなし : −
濁り、浮遊物及び沈殿少量あり : +
濁り、浮遊物及び沈殿かなりあり : ++
【0023】
【表1】

【0024】
実施品1〜8は、γ−オリザノールに対して酢酸トコフェロール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油およびグリセリン脂肪酸エステルを特定の割合で配合しているのでγ−オリザノールをpHに拠らず可溶化できた。また、実施品1〜8は製造直後は勿論のこと、長期間安定保管した場合であっても沈殿や浮遊物を生じることはなかった。
【0025】
実 施 例 2
液体組成物の製造(2):
表2に示す処方の液体組成物を製造した。まず、非イオン性界面活性剤、中鎖脂肪酸トリグリセリドおよびγ−オリザノールを80℃にて加温溶解し、そのpHをクエン酸および4mol/Lの水酸化ナトリウムにより調整した。次に、全量を精製水で50mlとし、これらをガラス瓶に充填し、キャップを施し、実施品9〜14とした。これらを65℃恒温槽にて4週間保管後、実施例1と同様にして性状安定性を評価した。
【0026】
【表2】

【0027】
実施品9〜14は、γ−オリザノールに対して中鎖脂肪酸トリグリセリド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油およびグリセリン脂肪酸エステルを特定の割合で配合しているのでγ−オリザノールをpHに拠らず可溶化できた。また、実施品9〜14は製造直後は勿論のこと、長期間安定保管した場合であっても沈殿や浮遊物を生じることもなかった。
【0028】
比 較 例 1
比較液体組成物の製造(1):
表3に示す処方の比較液体組成物を製造した。まず、非イオン性界面活性剤およびγ−オリザノールを80℃にて加温溶解し、そのpHをクエン酸および4mol/Lの水酸化ナトリウムにより調整した。次に、全量を精製水で50mlとし、これらをガラス瓶に充填し、キャップを施し、比較品1〜4とした。これらを65℃恒温槽にて4週間保管後、実施例1と同様にして性状安定性を評価した。
【0029】
【表3】

【0030】
比較品は、γ−オリザノールに対してポリオキシエチレン硬化ヒマシ油およびグリセリン脂肪酸エステルを特定の割合で配合しているものの、油成分がないので、γ−オリザノールを長期間安定に可溶化することができず、濁りや沈殿、浮遊物を生じた。また、pHを変化させても同じ結果であった。
【0031】
比 較 例 2
比較液体組成物の製造(2):
表4に示す処方の比較液体組成物を製造した。まず、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、酢酸トコフェロールおよびγ−オリザノールを80℃にて加温溶解し、そのpHをクエン酸および4mol/Lの水酸化ナトリウムにより調整した。次に、全量を精製水で50mlとし、これらをガラス瓶に充填し、キャップを施し、比較品5、6とした。これらを65℃恒温槽にて4週間保管後、実施例1と同様にして性状安定性を評価した。
【0032】
【表4】

【0033】
比較品は、γ−オリザノールに対して酢酸トコフェロールおよびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を配合しているものの、ポリグリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を用いていないので、γ−オリザノールを可溶化することができず、保存した場合には、当然に濁りや沈殿、浮遊物を生じた。また、pHを変化させても同じ結果であった。
【0034】
比 較 例 3
比較液体組成物の製造(3):
表5に示す処方の比較液体組成物を製造した。まず、グリセリン脂肪酸エステル、油成分およびγ−オリザノールを80℃にて加温溶解し、そのpHをクエン酸および4mol/Lの水酸化ナトリウムにより調整した。次に、全量を精製水で50mlとし、これらをガラス瓶に充填し、キャップを施し、比較品7〜10とした。これらを65℃恒温槽にて4週間保管後、実施例1と同様にして性状安定性を評価した。
【0035】
【表5】

【0036】
比較品は、γ−オリザノールに対してグリセリン脂肪酸エステルおよび油成分を特定の割合で配合しているものの、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤を用いていないので、比較品7、8ではγ−オリザノールを可溶化することができず、また、比較品9、10もγ−オリザノールを長期間安定に可溶化することができず、濁りや沈殿、浮遊物を生じた。また、pHを変化させても同じ結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、γ−オリザノールを可溶化させ、経時的に安定に保つことができるので、これを含有させた医薬品、医薬部外品、保健機能を表示した食品及び食品の開発に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ−オリザノール、油成分および非イオン性界面活性剤を含有する液体組成物において、非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤およびポリグリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を用い、かつ、γ−オリザノール1質量部に対して油成分を2〜20質量部、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤を3〜40質量部およびポリグリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を4〜40質量部で配合したことを特徴とするγ−オリザノール可溶化液体組成物。
【請求項2】
ポリグリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤および油成分の質量比が、1〜2:1:0.4〜1である請求項1記載のγ−オリザノール可溶化液体組成物。
【請求項3】
油成分が、ビタミンEまたはその誘導体もしくは中鎖脂肪酸トリグリセリドである請求項1または2記載のγ−オリザノール可溶化液体組成物。
【請求項4】
ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油である請求項1〜3のいずれかに記載のγ−オリザノール可溶化液体組成物。
【請求項5】
ポリグリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤が、デカグリセリンモノステアリン酸エステルまたはデカグリセリンモノミリスチン酸エステルである請求項1〜4の何れかに記載のγ−オリザノール可溶化液体組成物。
【請求項6】
pHが3〜5である請求項1〜5の何れかに記載のγ−オリザノール可溶化液体組成物。
【請求項7】
γ−オリザノール1質量部に対して油成分を2〜20質量部、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤を3〜40質量部およびポリグリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を4〜40質量部を混合することを特徴とするγ−オリザノールの可溶化方法。


【公開番号】特開2008−120748(P2008−120748A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308211(P2006−308211)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【復代理人】
【識別番号】100086324
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 信夫
【Fターム(参考)】