説明

π電子共役系有機シラン化合物およびその合成方法

【課題】 簡便な製造方法により容易に結晶化させて有機薄膜を形成することができるとともに、得られた有機薄膜を基板表面に強固に吸着させて物理的な剥がれを防止して、かつ、高い秩序性、結晶性、電気伝導特性を有する有機薄膜を作製できるπ電子共役系有機シラン化合物およびその合成方法を提供すること。
【解決手段】 R−SiX(Rはσ共役系を形成する原子を含有する単環式複素環ユニットを含む有機基;X〜Xは加水分解により水酸基を与える基)で表されるπ電子共役系有機シラン化合物。R−Li(Rは上記と同義)の化合物、またはR−MgX(Rは上記と同義;Xはハロゲン原子)の化合物と、X−SiX(X〜Xは上記と同義;Xは水素原子、ハロゲン原子又は低級アルコキシ基)の化合物とを反応させる上記π電子共役系有機シラン化合物の合成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はπ電子共役系有機シラン化合物およびその合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無機材料を用いた半導体に対し、製造が簡単で加工しやすく、デバイスの大型化にも対応でき、かつ量産によるコスト低下が見込め、無機材料よりも多様な機能を有した有機化合物を合成できることから、有機化合物を用いた半導体(有機半導体)の研究開発が行われ、その成果が報告されている。
【0003】
なかでも、π電子共役系分子を含有する有機化合物を利用することにより、大きな移動度を有するTFTを作製することができることが知られている。この有機化合物としては、代表例としてペンタセンが報告されている(例えば、非特許文献1)。ここでは、ペンタセンを用いて有機半導体層を作製し、この有機半導体層でTFTを形成すると、電界効果移動度が1.5cm2/Vsとなり、アモルファスシリコンよりも大きな移動度を有するTFTを構築することが可能であるとの報告がなされている。
しかし、上記に示すような、アモルファスシリコンよりも高い電界効果移動度を得るための有機半導体層を作製する場合、抵抗加熱蒸着法や分子線蒸着法などの真空プロセスを必要とするため、製造工程が煩雑となるとともに、ある特定の条件下でしか結晶性を有する膜が得られない。また、基板上への有機化合物膜の吸着が物理吸着であるため、膜の基板への吸着強度が低く、容易に剥がれるという問題がある。更に、膜中での有機化合物の分子の配向をある程度制御するために、通常、あらかじめ膜を形成する基板にラビング処理等による配向制御が行われているが、物理吸着による成膜では、物理吸着した有機化合物と基板との界面での化合物分子の整合性や配向性を制御できるとの報告は未だなされていない。
【0004】
一方、このTFTの特性の代表的な指針となる電界効果移動度に大きな影響を及ぼす膜の規則性(結晶性・配向性)については、近年、その製造が簡便なことから、有機化合物を用いた自己組織化膜が着目され、その膜を利用する研究がなされている。自己組織化膜とは、有機化合物の一部を、基板表面の官能基と結合させたものであり、きわめて欠陥が少なく、高い秩序性すなわち結晶性を有した膜である。この自己組織化膜は、製造方法がきわめて簡便であるため、基板への成膜を容易に行うことができる。通常、自己組織化膜として、金基板上に形成されたチオール膜や、親水化処理により表面に水酸基を突出可能な基板(例えば、シリコン基板)上に形成されたケイ素系化合物膜が知られている。なかでも、耐久性が高い点で、ケイ素系化合物膜が注目されている。ケイ素系化合物膜は、従来から撥水コーティングとして使用されており、撥水効果の高いアルキル基や、フッ化アルキル基を有機官能基として有するシランカップリング剤が用いて成膜されていた。
しかし、自己組織化膜の導電性は、膜に含まれるケイ素系化合物中の有機官能基によって決定されるが、市販のシランカップリング剤には、有機官能基にπ電子共役系分子が含まれる化合物はなく、そのため自己組織化膜に導電性を付与することが困難である。したがって、TFTのようなデバイスに適した、π電子共役系分子が有機官能基として含まれるケイ素系化合物が求められている。また、電界効果移動度に大きな影響を与えるもう一つの因子として、材料である有機分子の電子物性が挙げられる。一般に有機薄膜中での電流の流れやすさは、有機薄膜中のある有機材料分子から別の有機材料分子への電子の移動しやすさにより大きく左右される。バンドギャップがより小さいほど、電流が流れやすくなるため、前記電子の移動しやすさは、有機材料分子の有する分子軌道(特にHOMO及びLUMO)によって大きく変化する。
【0005】
このようなケイ素系化合物として、分子の末端に官能基としてチオフェン環を1つ有し、チオフェン環が直鎖炭化水素基を介してケイ素原子と結合した化合物が提案されている(例えば、特許第2889768号公報:特許文献1)。
【非特許文献1】IEEE Electron Device Lett.,18,606-608(1997)
【特許文献1】特許第2889768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1にて提案されている化合物は、基板との化学吸着可能な自己組織化膜は作製可能であるが、TFTなどの電子デバイスに使用できる高い秩序性、結晶性、電気伝導特性を有する有機薄膜を必ずしも作製できなかった。
高い秩序性、すなわち、高い結晶性を得るためには、分子間に高い引力相互作用が働く必要がある。分子間力とは、引力項と反発項により構成されており、前者は分子間距離の6乗に、後者は分子間距離の12乗に反比例する。したがって、引力項と反発項を足し合わせた分子間力は図11に示す関係を有する。ここで、図11での極小点(図中の矢印部分)はファンデルワールス半径と呼ばれており、引力項と反発項との兼ね合いから最も分子間に高い引力が作用するときの分子間距離である。すなわち、より高い結晶性を得るためには、分子間距離を前記ファンデルワールス半径にできる限り近づけることが重要である。したがって、本来、抵抗加熱蒸着法や分子線蒸着法等の真空プロセスにおいては、ある特定の条件下においてのみ、π電子共役系分子同士の分子間相互作用をうまく制御することで、高い秩序性、すなわち結晶性が得られている。このように分子間相互作用により構築される結晶性でのみ、高い電気伝導特性を発現することが可能となる。
【0007】
一方、上記化合物は、Si−O−Siの2次元ネットワークを形成することで基板と化学吸着し、かつ、特定の長鎖アルキル同士の分子間相互作用による秩序性が得られる可能性はあるが、官能基である1つのチオフェン分子がπ電子共役系に寄与するのみであるため、分子間の相互作用が弱く、また電気伝導性に不可欠なπ電子共役系の広がりが非常に小さいという問題があった。仮に、上記官能基であるチオフェン分子の分子数を増やすことができたとしても、膜の秩序性を形成する因子が、長鎖アルキル部とチオフェン部との間で、分子間相互作用を整合一致させることは困難である。
【0008】
更に、電気伝導特性としては、官能基である1つのチオフェン分子では、HOMO−LUMOエネルギーギャップが大きく、有機半導体層としてTFT等に使用しても、十分なキャリア移動度が得られないという課題が存在していた。有機薄膜を用いたデバイスの特性は有機薄膜の秩序性、材料分子の電子物性の2項目から決定されるが、上記のように、従来は有機薄膜の秩序性の改善に関する報告が多く、有機薄膜の秩序性と材料分子の電子物性の双方を考慮した報告はほとんどなされていない。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、簡便な製造方法により容易に結晶化させて有機薄膜を形成することができるとともに、得られた有機薄膜を基板表面に強固に吸着させて物理的な剥がれを防止して、かつ、高い秩序性、結晶性、電気伝導特性を有する有機薄膜を作製できるπ電子共役系有機シラン化合物およびその合成方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明はまた、TFTのような半導体電子デバイスに用いた場合に、十分なキャリア移動度を確保することができる新規なπ電子共役系有機シラン化合物及びその合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、一般式(I);R−SiX (I)
(式中、Rは長周期型元素周期表における4A族、4B族、5B族および6B族元素からなる群から選択される原子を含有する単環式複素環ユニットを含み、置換基を有してもよい有機基である;X〜Xは加水分解により水酸基を与える基である)で表されるπ電子共役系有機シラン化合物に関する。
【0012】
本発明はまた、
一般式(II);R−Li (II)
(式中、Rは長周期型元素周期表における4A族、4B族、5B族および6B族元素からなる群から選択される原子を含有する単環式複素環ユニットを含み、置換基を有してもよい有機基である)で表される化合物、または
一般式(IV);R−MgX (IV)
(式中、Rは長周期型元素周期表における4A族、4B族、5B族および6B族元素からなる群から選択される原子を含有する単環式複素環ユニットを含み、置換基を有してもよい有機基である;Xはハロゲン原子である)で表される化合物と、
一般式(III);X−SiX (III)
(式中、X〜Xは加水分解により水酸基を与える基である;Xは水素原子、ハロゲン原子又は低級アルコキシ基である)で表される化合物とを反応させることを特徴とする上記π電子共役系有機シラン化合物を合成する方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一般式(I)の化合物は、当該化合物分子間で形成されるSi−O−Siの2次元ネットワーク化により、基板に化学吸着すると共に、膜の結晶化に必要な分子間相互作用(分子を近距離化させる力)が効率的に働くため、非常に高い安定性を有し、且つ、高度に結晶化された有機薄膜を形成できる。したがって、基板に物理吸着により作製した膜と比較して、より強固に膜を基板表面に吸着(固定)させて、物理的な剥がれを防止できる。しかも、一般式(I)の化合物は簡便に製造可能である。
また、有機薄膜を構成する化合物のシリル基由来のネットワークと上部を構成する有機残基が直接結合しており、かつシリル基由来のネットワークとπ共役系分子の分子間相互作用によって、高い秩序性(結晶性)結晶性を有する有機薄膜を形成することができる。
さらに、一般式(I)の化合物は、4A族、4B族、5B族および6B族元素からなる群、特にSi、Ge、Sn、P、Se、Te、TiおよびZrからなる群から選ばれるヘテロ原子を含む単環式複素環ユニットを少なくとも一つ以上含むため、LUMOが安定化された、電子の移動しやすい電子構造を有する。したがって、化合物分子間でのホッピング伝導により、キャリアの移動がスムーズに行われる。さらに、分子軸方向へも高い導電性が得られることで、導電性材料として、有機薄膜トランジスタ材料のみならず、太陽電池、燃料電池、センサー等に広く応用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(有機シラン化合物)
本発明のπ電子共役系有機シラン化合物は一般式(I);
−SiX (I)
で表されるものである。以下、当該化合物を有機シラン化合物(I)という。
【0015】
式(I)においてRは長周期型元素周期表における4A族、4B族、5B族および6B族元素からなる群から選択される原子を含有する単環式複素環ユニットを含んでなり、置換基を有してもよい有機基である。そのような原子を含有する単環式複素環において当該原子部位のσ軌道と当該複素環が有する2重結合部位、特にジエン部位のπ軌道との間でσ共役が達成されるため、当該原子を含有する単環式複素環は低いLUMOエネルギー準位を有する。その結果として、化合物の電気伝導特性(半導体特性)が顕著に向上するものと考えられる。一方、S,N,O,Cなどの原子のみで構成される化合物では上記のようなσ共役を達成できないので、化合物のLUMOが有効に安定化されず、結果として化合物の電気伝導特性(半導体特性)が比較的低くなると考えられる。
【0016】
長周期型元素周期表における4A族、4B族、5B族および6B族元素からなる群から選択される原子(以下、Y原子という)は単環式複素環に環構成原子として1個以上含有されればよく、好ましくは1〜2個含有される。そのようなY原子として、例えば、Si、Ge、Sn、P、Se、Te、TiおよびZrからなる群から選択される原子が挙げられる。
【0017】
上記Y原子を含有する単環式複素環としては5員環〜12員環が好ましく、より好ましくは5員環あるいは6員環である。
【0018】
単環式複素5員環ユニットの好ましい具体例として、例えば、以下のユニットが挙げられる。
【化1】

【0019】
上記具体例中、Yは共通して4A族および4B族元素で表される原子であり、例えば、Si、Ge、Sn、TiまたはZrである。
IIは共通して5B族元素で表される原子であり、例えば、Pである。
IIIは共通して6B族元素で表される原子であり、例えば、SeまたはTeである。
、YIIおよびYIIIのうちの1種のY基が1のユニットに2個以上含まれる場合、それらのY基はそれぞれ独立して上記範囲内で選択されればよい。
【0020】
単環式複素6員環ユニットの好ましい具体例として、例えば、以下のユニットが挙げられる。
【化2】

【0021】
上記具体例中、Y、YIIおよびYIIIは単環式複素5員環ユニットの上記具体例においてと同様である。
【0022】
上記単環式複素5員環ユニットおよび単環式複素6員環ユニットの具体例のうち左右対称性を有しないユニットは当該ユニットの鏡像異性体も包含して意味するものとする。
【0023】
原子を含有する単環式複素環ユニットは1つのRに1個以上含まれていればよく、例えば、1〜30個含まれてよい。特に、収率、経済性、量産化の観点から、Rは1〜9個の上記Y原子含有単環式複素環ユニットを含むことが好ましい。
【0024】
がY原子含有単環式複素環ユニットを複数個含む場合、それらのユニットは全て同種のものであってもよいし、または一部または全部が異種のものであってもよい。
【0025】
はπ電子共役を示す他の単環式複素環ユニットまたは/および単環式芳香族炭化水素環ユニットをさらに含んでもよい。
他の単環式複素環ユニットに含有される複素原子としては、例えば、酸素、窒素および硫黄原子が挙げられる。Rに含まれ得る他の単環式複素環ユニットの具体例として、例えば、フランのような酸素原子含有複素環、ピロール、ピリジン、ピリミジン、ピロリン、イミダゾリンおよびピラゾリン等の窒素原子含有複素環、チオフェンのような硫黄原子含有複素環、オキサゾールおよびイソキサゾール等の窒素及び酸素原子含有複素環、チアゾールおよびイソチアゾール等の硫黄及び窒素原子含有複素環等が挙げられる。なかでも、チオフェンが特に好ましい。
【0026】
に含まれ得る単環式芳香族炭化水素環ユニットの具体例として、ベンゼン環が挙げられる。
【0027】
がそのような他の単環式複素環ユニットまたは/および単環式芳香族炭化水素環ユニットを含む場合は、それらのユニットと前記Y原子含有単環式複素環ユニットとの合計数が、上記したY原子含有単環式複素環ユニット数の範囲内であればよい。
【0028】
が他の単環式複素環ユニットを複数個含む場合、それらのユニットは全て同種のものであってもよいし、または一部または全部が異種のものであってもよい。Rが単環式芳香族炭化水素環ユニットを複数個含む場合も同様である。
【0029】
に上記のようなY原子含有単環式複素環ユニット、他の単環式複素環ユニットおよび単環式芳香族炭化水素環ユニット等のユニットが複数個含まれる場合、それらのユニットは、直線状に結合されていても、または分岐状に結合されていてもよい。分岐状に結合されるとは、少なくとも1個のユニットが分岐点となり、当該ユニットに2個以上のユニットが結合されることを意味する。有機薄膜の結晶性(秩序性)の観点から好ましくは、直線状に結合されていることが好ましい。
【0030】
が複数種類のユニットを含む場合、複数種類のユニットは規則的な繰り返し単位で配列されて結合していてもよいし、またはランダムに配列されて結合していてもよい。
【0031】
また、Rを構成するユニットがY原子含有単環式複素環ユニット、他の単環式複素環ユニットおよび単環式芳香族炭化水素環ユニットのいずれであっても、ユニットの結合位置は、ユニットが5員環の場合には、2,5−位、3,4−位、2,3−位、2,4−位等のいずれでもよく、なかでも2,5−位が好ましい。この場合、特にY原子含有単環式複素環ユニットの結合位置は、上記以外に、1,1−位であってもよい。ユニットが6員環の場合には、1,4−位、1,2−位、1,3−位、2,3−位、2,4−位、2,5−位等のいずれでもよく、なかでも2,5−位が好ましい。なお、結合位置を示す上記値は、環が1個のヘテロ原子を有する場合は当該ヘテロ原子を基準に、環が2個以上のヘテロ原子を有する場合は分子量が最も大きいヘテロ原子を基準に、環がヘテロ原子を有しない場合は任意の炭素原子を基準にした値である。
【0032】
が複数個のユニットを含む場合、それらのユニットは直接的に結合されていてもよいし、またはビニレン基類によって間接的に結合されていてもよい。ビニレン基類は以下の炭化水素類の両端の水素原子を除いてなる2価の不飽和有機基である。ビニレン基類を与える炭化水素類としては、アルケン、アルカジエン、アルカトリエン等が挙げられる。アルケンとしては、炭素数2〜4の化合物、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられ、なかでもエチレンが好ましい。アルカジエンとしては、炭素数4〜6の化合物、ブタジエン、ペンタジエン、ヘキサジエン等が挙げられる。アルカトリエンとしては、炭素数6〜8の化合物、例えば、ヘキサトリエン、ヘプタトリエン、オクタトリエン等が挙げられる。
【0033】
が有していてもよい置換基としては、例えば、ヒドロキシル基、置換若しくは無置換のアミノ基、ニトロ基、シアノ基、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のシクロアルキル基、置換若しくは無置換のアルコキシ基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のアリールオキシ基、置換若しくは無置換のアルコキシカルボニル基、又は、カルボキシル基、エステル基等が挙げられる。これらの置換基のなかでも、立体障害により有機薄膜の結晶化を阻害しない基が好ましく、例えば炭素数1〜30、特に1〜4の直鎖アルキル基がより好ましい。
【0034】
式(I)中、X〜Xは加水分解により水酸基を与える基である。加水分解により水酸基を与える基としては、特に限定されるものではなく、例えば、ハロゲン原子又は低級アルコキシ基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、ヨウ素、臭素原子が挙げられる。低級アルコキシ基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基が挙げられる。例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、2−プロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられ、その一部が更に別の官能基(トリアルキルシリル基、他のアルコキシ基等)で置換されたものでもよい。X、X及びXは同一であっても、または一部または全部が異なっていてもよいが、全てが同一であることが好ましい。
【0035】
以上のような有機シラン化合物(I)の好ましい具体例として、例えば、以下の一般式(1)〜(11)で表される化合物が挙げられる。
【化3】

【0036】
【化4】

【0037】
一般式(1)〜(11)において以下に示す共通する番号の基および記号は同様の意味内容を有するものとする。
〜Rはそれぞれ独立して、前記「Rが有していてもよい置換基」の範囲内であればいずれの基であってもかまわないが、特に水素原子、炭素数1〜4の炭化水素基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基が好ましい。
各一般式において複数のRがある場合、それらのRはそれぞれ独立して上記範囲内から選択されればよい。
〜Xは式(I)においてと同様であり、それぞれ独立してフッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、2−プロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基またはtert−ブトキシ基である。好ましくは、塩素原子、メトキシ基、エトキシ基である。
【0038】
他の基および記号については以下、各式において個別に説明する。
一般式(1)中、YはSi,Ge,Se,Te,P,Sn,TiまたはZrであり、好ましくはSiまたはSeである。詳しくはYがSi,Ge,Sn,Ti,Zrのときは−Y(R−、YがPのときは−Y(R)−であり、YがSe、Teのときは−Y−である。ただし、Rは水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基であり、好ましくは水素原子、メチル基である。n1は1〜9、好ましくは2〜8の整数である。
【0039】
一般式(2)中、YはSeまたはTeである。詳しくはYがSe、Teのときは−Y−である。
n1は1〜9、好ましくは2〜8の整数である。
【0040】
一般式(3)中、YはSi,Ge,P,Sn,TiまたはZrであり、好ましくはSi,Pである。詳しくはYがSi,Ge,Sn,Ti,Zrのときは−Y(R)=、YがPのときは−Y=である。ただし、Rは式(1)においてと同様であり、好ましくは水素原子、メチル基である。
n1は1〜9、好ましくは2〜8の整数である。
【0041】
一般式(4)中、YおよびYはそれぞれ独立してSi,Ge,Sn,TiまたはZrであり、好ましくはSiである。
n1は1〜9、好ましくは2〜8の整数である。
【0042】
一般式(5)中、Y〜Yはそれぞれ独立してS,N,O,Si,Ge,Se,Te,P,Sn,TiまたはZrである。ただし、Y〜Yのうち少なくとも1個の基、好ましくは少なくともYはSi,Ge,Se,Te,P,Sn,TiまたはZrである。詳しくはYがSi,Ge,Sn,Ti,Zrのときは−Y(R−、YがN,Pのときは−Y(R)−であり、YがS、O、Se、Teのときは−Y−である。ただし、Rは式(1)においてと同様であり、好ましくは水素原子、メチル基である。詳しいYおよびYは上記詳しいYに準じるものとする。
n2+n3+n4は1〜9、好ましくは5〜9の整数である。但し、n2は1以上、好ましくは2以上であり、n3は1以上であり、n4は1以上、好ましくは2以上である。
【0043】
一般式(6)中、YはSi,Ge,Se,Te,P,Sn,TiまたはZrである。詳しくはYがSi,Ge,Sn,Ti,Zrのときは−Y(R−、YがPのときは−Y(R)−であり、YがSe、Teのときは−Y−である。ただし、Rは式(1)においてと同様であり、好ましくは水素原子、メチル基である。
およびZはそれぞれ独立してN,C,Si,Ge,P,Sn,TiまたはZrである。詳しくはZがC,Si,Ge,Sn,Ti,Zrのときは−Z(R)=、ZがN、Pのときは−Z=である。ただし、Rは式(1)においてと同様であり、好ましくは水素原子、メチル基である。詳しいZは上記詳しいZに準じるものとする。
n2+n3+n4は1〜9、好ましくは5〜9の整数である。但し、n2は1以上、好ましくは2以上であり、n3は1以上、好ましくは2以上であり、n4は1以上、好ましくは2以上である。
【0044】
一般式(7)中、Y10〜Y11はそれぞれ独立してS,N,O,Si,Ge,Se,Te,P,Sn,TiまたはZrである。ただし、Y10〜Y11のうち少なくとも1個の基はSi,Ge,Se,Te,P,Sn,TiまたはZrである。詳しくはY10がSi,Ge,Sn,Ti,Zrのときは−Y10(R−、Y10がN,Pのときは−Y10(R)−であり、Y10がS、O、Se、Teのときは−Y10−である。ただし、Rは式(1)においてと同様であり、好ましくは水素原子、メチル基である。詳しいY11は上記詳しいY10に準じるものとする。
n5+n6は1〜9、好ましくは5〜8の整数である。但し、n5は0以上、好ましくは1以上であり、n6は0以上、好ましくは1以上である。
【0045】
一般式(8)中、Y12はSi,Ge,Se,Te,P,Sn,TiまたはZrである。詳しくはY12がSi,Ge,Sn,Ti,Zrのときは−Y12(R−、Y12がPのときは−Y12(R)−であり、Y12がSe、Teのときは−Y12−である。ただし、Rは式(1)においてと同様であり、好ましくは水素原子、メチル基である。
はN,C,Si,Ge,P,Sn,TiまたはZrである。詳しくはZがC,Si,Ge,Sn,Ti,Zrのときは−Z(R)=、ZがN、Pのときは−Z=である。ただし、Rは式(1)においてと同様であり、好ましくは水素原子、メチル基である。
n5+n6は1〜9、好ましくは5〜8の整数である。但し、n5は1以上、好ましくは2以上であり、n6は0以上、好ましくは1以上である。
【0046】
一般式(9)中、Y13はSi,Ge,Se,Te,P,Sn,TiまたはZrである。詳しくはY13がSi,Ge,Sn,Ti,Zrのときは−Y13(R−、Y13がPのときは−Y13(R)−であり、Y13がSe、Teのときは−Y13−である。ただし、Rは式(1)においてと同様であり、好ましくは水素原子、メチル基である。
はN,C,Si,Ge,P,Sn,TiまたはZrである。詳しくはZがC,Si,Ge,Sn,Ti,Zrのときは−Z(R)=、ZがN、Pのときは−Z=である。ただし、Rは式(1)においてと同様であり、好ましくは水素原子、メチル基である。
n5+n6は1〜9、好ましくは5〜8の整数である。但し、n5は1以上、好ましくは2以上であり、n6は0以上、好ましくは1以上である。
【0047】
一般式(10)中、Y14〜Y15はそれぞれ独立してS,N,O,Si,Ge,Se,Te,P,Sn,TiまたはZrである。ただし、Y14〜Y15のうち少なくとも1個の基はSi,Ge,Se,Te,P,Sn,TiまたはZrである。詳しくはY14がSi,Ge,Sn,Ti,Zrのときは−Y14(R−、Y14がN,Pのときは−Y14(R)−であり、Y14がS、O、Se、Teのときは−Y14−である。ただし、Rは式(1)においてと同様であり、好ましくは水素原子、メチル基である。詳しいY15は上記詳しいY14に準じるものとする。
n5+n6は1〜9、好ましくは5〜8の整数である。但し、n5は0以上、好ましくは1以上であり、n6は0以上、好ましくは1以上である。
【0048】
一般式(11)中、Y16はSi,Ge,Se,Te,P,Sn,TiまたはZrである。詳しくはY16がSi,Ge,Sn,Ti,Zrのときは−Y16(R−、Y16がPのときは−Y16(R)−であり、Y16がSe、Teのときは−Y16−である。ただし、Rは式(1)においてと同様であり、好ましくは水素原子、メチル基である。
はN,C,Si,Ge,P,Sn,TiまたはZrである。詳しくはZがC,Si,Ge,Sn,Ti,Zrのときは−Z(R)=、ZがN、Pのときは−Z=である。ただし、Rは式(1)においてと同様であり、好ましくは水素原子、メチル基である。
n5+n6は1〜9、好ましくは5〜8の整数である。但し、n5は1以上、好ましくは2以上であり、n6は0以上、好ましくは1以上である。
【0049】
(合成方法)
以下、本発明の有機シラン化合物(I)の合成方法を説明する。
本発明の有機シラン化合物(I)は、
一般式(II);R−Li (II)
(式中、Rは前記式(I)においてと同義である)で表される化合物と、
一般式(III);X−SiX (III)
(式中、X、XおよびXは前記式(I)においてと同義である;Xは水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、ヨウ素または臭素原子)又は低級アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、2−プロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等)である)で表される化合物とを反応させるか、又は、
一般式(IV);R−MgX (IV)
(式中、Rは前記式(I)においてと同義である;Xはハロゲン原子である)で表される化合物と、
上記一般式(III)で表される化合物とをグリニヤール反応させることにより得ることができる。
【0050】
一般式(II)又は(IV)の化合物は、例えば、RH(式中、Rは前記式(I)においてと同義である)で表される化合物を、アルキルリチウムと反応させて得るか、あるいはR(式中、Rは前記式(I)においてと同義である;Xはハロゲン原子、例えば、フッ素、塩素、ヨウ素または臭素原子である)で表される化合物をアルキルマグネシウムハライド又は金属マグネシウム等と反応させて得ることができる。
【0051】
この反応で用いられるアルキルリチウムとしては、n−ブチルリチウム、s−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム等の低級(炭素数1〜4程度)アルキルリチウムが挙げられる。その使用量は化合物RH1モルに対して1〜5モルが好ましく、より好ましくは1〜2モルである。アルキルマグネシウムハライドとしてはエチルマグネシウムブロミド、メチルマグネシウムクロリド等が挙げられる。その使用量は原料化合物R1モルに対して1〜10モルが好ましく、より好ましくは1〜4モルである。
【0052】
一般式(II)の化合物と一般式(III)の化合物との反応、又は一般式(IV)の化合物と一般式(III)の化合物との反応に際して、反応温度は、例えば、−100〜150℃が好ましく、より好ましくは−20〜100℃である。反応時間は、例えば、0.1〜48時間程度である。反応は、通常、反応に影響のない有機溶媒中で行われる。反応に悪影響のない有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン等脂肪族又は芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒等が挙げられ、これらは単独で又は混合液として用いることができる。なかでも、ジエチルエーテルとTHFが好適である。反応は、任意に触媒を用いてもよい。触媒としては、白金触媒、パラジウム触媒、ニッケル触媒等、触媒として公知のものを用いることができる。
【0053】
以下、上記一般式(II)の化合物を得るための化合物RHの合成方法について後述の具体例(合成ルート1〜5)を参照しながら説明する。なお、上記一般式(IV)の化合物を得るための化合物Rの合成方法については、RHを、N−ブロモスクシンイミド、N−クロロスクシンイミド等のハロゲン化材によりハロゲン化することにより合成可能である。
【0054】
・前記一般式(1)の化合物においてシリル基がHに置換されたもの
以下では長周期型元素周期表における4A族、4B族、5B族および6B族元素からなる群から選択される原子(Y原子)としてSeまたはSiを含有する単環式複素環ユニットを含むRHの合成方法について説明するが、同様の手法を用いれば、Ge,Te,P,Sn,Ti,Zr等の他のヘテロ原子を含有する単環式複素環ユニットを含むRHも合成可能であることは明らかである。
【0055】
セレノフェン環に由来するユニットから構成される5員環の前駆体(RH)の合成方法としては、「Polymer (2003,44,5597-5603)」で報告がなされており、本発明においても、前記報告での方法に基づいて合成可能である。
また、シロール環に由来するユニットから構成される前駆体(RH)の合成方法としては、「Journal of Organometallic Chemistry (2002,653,223-228)」、「Journal of Organometallic Chemistry (1998,559,73-80)」、「Coordination Chemistry Reviews (2003,244,1-44)」の報告がなされており、本発明においても、前記報告での方法に基づいて合成である。
【0056】
原子含有単環式複素環ユニット(例えば、セレノフェン環ユニット、シロール環ユニット)の数は、出発原料として予め用意したY原子含有単環式複素環ユニットを含有する化合物の所定部位をハロゲン化し、得られたハロゲン化合物とY原子含有単環式ユニットを含有するグリニヤール試薬を用いてグリニヤール反応を行う操作を繰り返すことによって制御可能である(例えば、合成ルート1;第1〜第4反応式、合成ルート2;第1〜第2反応式、下記反応式A、合成ルート3;第1反応式参照)。
【0057】
【化5】

【0058】
合成ルート1の第1〜第4反応式では、セレノフェン環のみからなる前駆体(RH)の合成方法が示されており、セレノフェンの1量体から2あるいは3量体を合成する反応が示されている。この手法によりセレノフェン環の数を一つずつ増やすことが可能であるため、4量体以上の前駆体についても同様の反応を繰り返すことによって合成可能である。
合成ルート2の第1反応式、上記反応式A、および合成ルート3の第1反応式では、シロール環のみからなる前駆体の合成方法が示されており、シロールの1または2量体から2あるいは4〜6量体を合成する反応が示されている。この手法においても、シロール環の数を一つずつ増やすことが可能であるため、3量体あるいは7量体以上の前駆体についても同様の反応を繰り返すことによって合成可能である。
【0059】
また、グリニヤール試薬を適用する方法以外にも、適当な金属触媒(Cu、Al、Zn、Zr、Sn等)を利用したカップリングによってもRにおける単環式複素環ユニットの数を制御しつつRHを合成できる。
【0060】
・前記一般式(5)および(6)の化合物においてシリル基がHに置換されたもの
また、Rが3種類のブロック型ユニットを含有するブロック型のRHは、中央のブロックを含有する化合物の両端に、端のブロックを含有する化合物を結合させることにより合成可能である。その方法としては、例えば、Suzukiカップリングを使用する方法、あるいはグリニヤール反応を使用する方法がある。
【0061】
例えば、シロール環を有する化合物の両末端に、チオフェンあるいはベンゼン由来のユニットをそれぞれ結合させる方法(合成ルート4;第1〜第3反応式、合成ルート5;第1反応式参照)としては、まず、シロール環を有する化合物にn−BuLi、B(O−iPr)を付与することによって脱ブロモ化及びホウ素化させる。このときの溶媒は、エーテルが好ましい。また、ホウ素化させる場合の反応は、2段階であり、初期は反応を安定化させるために1段階目は−78℃で行い、2段階目は−78℃から室温に徐々に温度を上昇させることが好ましい。続いて、末端にハロゲン基(例えば、ブロモ基)を有する単純ベンゼン系化合物あるいは単純チオフェン系化合物と上記のホウ素化された化合物を、例えばトルエン溶媒中に展開させ、Pd(PPh、NaCOの存在下、85℃の反応温度にて、反応を完全に進行させれば、カップリングを起こさせることが可能である。なお、シロール環を有する化合物を用いる場合について説明したが、ヘテロ原子としてGe,Se,Te,P,Sn,Ti,Zrを含有する単環式複素環化合物についても、2,5−位の反応性はシロールと同様である。したがって、上記と同様の合成方法により、Ge,Se,Te,P,Sn,Ti,Zrをヘテロ原子として含有する単環式複素環化合物の両末端に、チオフェンあるいはベンゼン由来のユニットをそれぞれ結合させることができる。また、上記ではチオフェンあるいはベンゼン由来のユニットを結合させる場合について説明したが、チオフェンあるいはベンゼン由来のユニット部分が、前記Si、Ge,Se,Te,P,Sn,Ti,Zrをヘテロ原子として含む単環式複素環化合物に由来するユニットであってもかまわない。
【0062】
上記したRHのいずれの合成方法においても、予め所定の部位に所望の置換基(例えばアルキル基)を有する原料を用いることにより、RHに置換基を導入できる。例えば、合成ルート1において原料として2−オクタデシルセレノフェンを用いれば、2−オクタデシルターセレノフェンを得ることができる(第4反応式)。その後は、前記一般式(III)のシラン化合物と反応させることによって、所定の対応部位に所望の置換基を有する有機シラン化合物(I)を得ることができる。
【0063】
本発明の有機シラン化合物(I)の合成方法の具体例を合成ルート1〜5に示す。
【0064】
【化6】

【0065】
【化7】

【0066】
【化8】

【0067】
【化9】

【0068】
【化10】

【0069】
以上のようにして得られる有機シラン化合物(I)は、公知の手段、例えば転溶、濃縮、溶媒抽出、分留、結晶化、再結晶、クロマトグラフィー等により反応溶液から単離、精製することができる。
【0070】
(有機薄膜)
これら有機シラン化合物(I)は、例えば、以下のように膜とすることができる。
まず、有機シラン化合物(I)をヘキサン、クロロホルム、四塩化炭素等の非水系有機溶媒に溶解する。得られた溶液中に、有機薄膜を形成しようとする基板(好ましくは、水酸基、カルボキシル基等の活性水素を有する基板)を浸漬して、引き上げる。あるいは、得られた溶液を基板表面に塗布してもよい。その後、非水系有機溶媒で洗浄し、水洗し、放置するか加熱することにより乾燥して、有機薄膜を定着させる。
【0071】
基板には親水化処理により上記活性水素を付与してもよい。親水化処理は、例えば、過酸化水素と濃硫酸との混合溶液中に浸漬すること等によって行うことができる。
【0072】
得られた有機薄膜は、直接電気材料として用いてもよいし、更に電解重合等の処理を施して用いてもよい。有機薄膜は、本発明の有機シラン化合物(I)を用いることで、図1に示すようにSi−O−Siネットワーク化が起こるとともに、隣接分子間距離が小さくなり、かつ高度に秩序化(結晶化)される。また、Rの各ユニットが直線状に結合されている場合には、隣接分子におけるユニット同士は結合することなく、隣接分子環距離が更に小さくなり、より高度に結晶化された有機薄膜を得ることができる。
以下、本発明の有機シラン化合物及びその製造方法を実施例によりさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0073】
合成例1 前記一般式(1)(X=X=X=Cl、Y=Se、R=R=H、n1=3)で表されるターセレノフェントリクロロシランの合成(グリニヤール法)
前記合成ルート1に従った。詳しくは、まず、100mlナスフラスコにクロロホルム50mlとセレノフェン70mMを仕込み、温度を0℃とし、NBS(N−ブロモスクシンイミド)を20M加え1時間攪拌した。純水にて抽出した後、減圧下、80℃にて精製し、2−ブロモセレノフェンを得た。続いて、窒素雰囲気下の50mlナスフラスコに乾燥THF5ml、2−ブロモセレノフェン30mMを仕込み、マグネシウムを加えた後、2時間攪拌した。その後、触媒であるNi(dppp)Cl(ジクロロ[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II))及び2−ブロモセレノフェン30mMを含む乾燥THF5mlを加え、0℃にて12時間反応させた。純水にて抽出した後、フラッシュクロマトグラフィにて精製しジセレノフェンを得た。
次いで、100mlナスフラスコにクロロホルム50mlとジセレノフェン70mMを仕込み、温度を0℃とし、NBS(N−ブロモスクシンイミド)を70M加え1時間攪拌した。純水にて抽出した後、減圧下、80℃にて精製し、2−ブロモジセレノフェンを得た(収率50%)。続いて、窒素雰囲気下の50mlナスフラスコに乾燥THF5ml、ジセレノフェンの合成の中間体である2−ブロモセレノフェン7mMを仕込み、マグネシウムを加えた後、2時間攪拌した。その後、触媒であるNi(dppp)Cl(ジクロロ[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II))及び2−ブロモジセレノフェン3mMを含む乾燥THF5mlを加え、0℃にて12時間反応させた。純水にて抽出した後、フラッシュクロマトグラフィにて精製しターセレノフェンを得た(30%)。
さらに、100mlナスフラスコにクロロホルム50mlとターセレノフェン5mMを仕込み、温度を0℃とし、NBSを20M加え1時間攪拌した。純水にて抽出した後、減圧下、80℃にて精製し、2−ブロモターセレノフェンを合成した。さらに、窒素雰囲気下にて、200mlナスフラスコに乾燥THF5ml、2−ブロモターセレノフェン、マグネシウムを加えた後、2時間攪拌することにより、グリニヤール試薬を得た。
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた200mlナスフラスコにSiCl(テトラクロロシラン)20mM、トルエン50mlを仕込み、氷冷し、内温20℃以下にて、グリニヤール試薬を2時間かけて加え、滴下終了後、30℃にて1時間成熟を行った(グリニヤール反応)。
次いで、反応液を減圧にてろ過し、塩化マグネシウムを除いた後、ろ液からトルエン及び未反応のテトラクロロシランをストリップし、この溶液を蒸留して、標題化合物を40%の収率で得た。
【0074】
得られた化合物について、赤外吸収スペクトル測定を行ったところ、1080cm−1にSiC由来の吸収が観測され、化合物がSiC結合を有することが確認できた。
更に化合物の核磁気共鳴(NMR)測定を行った。得られた化合物を直接NMR測定することは、化合物の反応性が高いことより不可能であるため、化合物をエタノールと反応させ(塩化水素の発生を確認した)、末端の塩素をエトキシ基に変換した後、測定を行った。
7.7ppm(s) (1H、セレノフェン環由来)
7.2ppm〜7.1ppm(m)(6H、セレノフェン環由来)
3.8ppm〜3.7ppm(m)(6H、エトキシ基のメチレン基由来)
1.30ppm〜1.20ppm(m)(9H、エトキシ基のメチル基由来)
これらの結果から、得られた化合物が標題化合物であることを確認した。
【0075】
合成例2 前記一般式(1)(X=X=X=OCH、Y=Se、R=R=H、n1=4)で表されるクオーターセレノフェントリメトキシシランの合成
まず、窒素雰囲気下の50mlナスフラスコに乾燥THF5ml、合成例1の中間体である2−ブロモジセレノフェン5mMを仕込み、マグネシウムを加えた後、2時間攪拌した。その後、触媒であるNi(dppp)Cl及び2−ブロモジセレノフェン5mMを含む乾燥THF5mlを加え、0℃にて10時間反応させた。純水にて抽出した後、フラッシュクロマトグラフィにて精製しクオーターセレノフェンを得た(35%)。
続いて、100mlナスフラスコにクロロホルム50mlと、合成例2の中間体であるクオーターセレノフェン70mMを仕込み、温度を0℃とし、NBSを70M加え1時間攪拌した。純水にて抽出した後、減圧下、80℃にて精製し、2−ブロモクオーターセレノフェンを形成した(収率40%)。窒素雰囲気下にて、200mlナスフラスコに乾燥THF5ml、2−ブロモクオーターセレノフェン、マグネシウムを加えた後、2時間攪拌することにより、グリニヤール試薬を形成した。
さらに、攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた100mlナスフラスコにトリメトキシクロロシラン10mM、トルエン30mlを仕込み、氷冷したのち、グリニヤール試薬を2時間かけて加え、滴下終了後、30℃にて1時間成熟を行った(グリニヤール反応)。
次いで、反応液を減圧にてろ過し、塩化マグネシウムを除いた後、ろ液からトルエン及び未反応のトリメトキシクロロシランをストリップし、この溶液を蒸留して、標題化合物を45%の収率で得た。
【0076】
得られた化合物について、赤外吸収スペクトル測定を行ったところ、1090cm−1にSiC由来の吸収が観測され、化合物がSiC結合を有することが確認できた。
更に化合物の核磁気共鳴(NMR)測定を行った。
7.8ppm(s)(1H、セレノフェン環由来)
7.4ppm〜7.3ppm(m)(8H、セレノフェン環由来)
3.50ppm(m)(9H、メチル基由来)
これらの結果から、得られた化合物が標題化合物であることを確認した。
【0077】
合成例3 前記一般式(1)(X=X=X=OC、Y=Se、R=R=H、n1=8)で表されるオクチセレノフェントリエトキシシランの合成
まず、窒素雰囲気下の50mlナスフラスコに乾燥THF5ml、合成例2の中間体である2−ブロモクオーターセレノフェン5mMを仕込み、マグネシウムを加えた後、3時間攪拌した。その後、触媒であるNi(dppp)Cl及び前記2−ブロモクオーターセレノフェン5mMを含む乾燥THF5mlを加え、0℃にて12時間反応させた。純水にて抽出した後、フラッシュクロマトグラフィにて精製しオクチセレノフェンを得た(30%)。
続いて、100mlナスフラスコにクロロホルム50mlと、前記オクチセレノフェン10mMを仕込み、温度を0℃とし、NBSを10M加え1時間攪拌した。純水にて抽出した後、減圧下、80℃にて精製し、2−ブロモクオーターセレノフェンを形成した。
さらに、窒素雰囲気下にて、200mlナスフラスコに乾燥THF5ml、2−ブロモオクチセレノフェン、マグネシウムを加えた後、2時間攪拌することにより、グリニヤール試薬を形成した。さらに、攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた100mlナスフラスコにトリエトキシクロロシラン10mM、トルエン30mlを仕込み、氷冷したのち、グリニヤール試薬を2時間かけて加え、滴下終了後、30℃にて1時間成熟を行った(グリニヤール反応)。次いで、反応液を減圧にてろ過し、塩化マグネシウムを除いた後、ろ液からトルエン及び未反応のトリエトキシクロロシランをストリップし、この溶液を蒸留して、標題化合物を35%の収率で得た。
【0078】
得られた化合物について、赤外吸収スペクトル測定を行ったところ、1080cm−1にSiC由来の吸収が観測され、化合物がSiC結合を有することが確認できた。
更に化合物の核磁気共鳴(NMR)測定を行った。
7.7ppm(s)(1H、セレノフェン環由来)
7.2ppm〜7.1ppm(m)(16H、セレノフェン環由来)
3.8ppm〜3.7ppm(m)(6H、エトキシ基のメチレン基由来)
1.3ppm〜1.2ppm(m)(9H、エトキシ基のメチル基由来)
これらの結果から、得られた化合物が標題化合物であることを確認した。
【0079】
合成例4 置換基(メチル基)を有する前記一般式(1)(X=X=X=Cl、Y=Si、R=H、R=CH、n1=2)で表されるシロール化合物の合成
合成ルート2に従った。詳しくは、まず、20mMの2,5−ブロモ−3,4−ジメチル−1H−シロールをエタノール溶媒に溶解させた後、22mMブチルリチウムを含むエタノール溶液に加え、5位のブロモ基をLi基に変換させた後、12mMCuCNのTHF溶液を加え銅の酸化的付加を行った。続いて、30mMトリメチルエチレンジアミン及び100mMのパラ−ジニトロベンゼンを加えることにより2分子カップリングを達成し、収率60%で5’−ジブロモ−3,4,3’,4’テトラメチル−1H,1H’−[2,2’]ビシローリル(5,5’−dibromo−3,4,3’,4’tetramethyl−1H,1H’−[2,2’]bisilolyl)を得た。
続いて、窒素雰囲気下にて、200mlナスフラスコに乾燥THF5ml、前記5,5’−ジブロモ−3,4,3’,4’テトラメチル−1H,1H’−[2,2’]ビシローリル、マグネシウムを加えた後、1時間攪拌することにより、5位のみがMgと反応したグリニヤール試薬を形成した。さらに、攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた100mlナスフラスコにトリメチルクロロシラン10mM、THF30mlを仕込み、氷冷したのち、前記グリニヤール試薬を加え、30℃にて1時間成熟を行った。次いで、反応液を減圧にてろ過し、塩化マグネシウムを除いた後、ろ液からトルエン及び未反応のトリメチルクロロシランをストリップすることにより、5−トリメチルシリル−5’−ブロモ−3,4,3’,4’テトラメチル−1H,1H’−[2,2’]ビシローリルを合成した。続いて、前記5−トリメチルシリル−5’−ブロモ−3,4,3’,4’テトラメチル−1H,1H’−[2,2’]ビシローリルをTHF20mlに溶解させ、PHNMeを用いてトリメチルシリル基を脱離させることにより、5−ブロモ−3,4,3’,4’テトラメチル−1H,1H’−[2,2’]ビシローリルを得た。さらに、窒素雰囲気下にて、200mlナスフラスコに乾燥THF5ml、前記5−ブロモ−3,4,3’,4’テトラメチル−1H,1H’−[2,2’]ビシローリル、マグネシウムを加えた後、1時間攪拌することにより、グリニヤール試薬を形成したのち、攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた100mlナスフラスコにテトラクロロシラン10mM、THF30mlを仕込み、氷冷したのち、前記グリニヤール試薬を加え、30℃にて1時間成熟を行った。次いで、反応液を減圧にてろ過し、塩化マグネシウムを除いた後、ろ液からTHF及び未反応のテトラクロロシランをストリップすることにより標記化合物を30%の収率で得た。
【0080】
得られた化合物について、赤外吸収スペクトル測定を行ったところ、1080cm−1にSiC由来の吸収が観測され、化合物がSiC結合を有することが確認できた。
更に得られた化合物の核磁気共鳴(NMR)測定を行った。得られた化合物を直接NMR測定することは、化合物の反応性が高いことより不可能であるため、化合物をエタノールと反応させ(塩化水素の発生を確認した)、末端の塩素をエトキシ基に変換した後、測定を行った。
4.5ppm(m)(1H、シロール環由来)
4.3〜4.2ppm(m)(4H Siと直接結合した水素由来)
3.8ppm〜3.7ppm(m)(6H、エトキシ基のメチレン基由来)
2.0ppm〜1.9ppm(m)(12H、シロール環メチル基由来)
1.5ppm〜1.4ppm(m)(9H、エトキシ基のメチル基由来)
これらの結果から、得られた化合物が標題化合物であることを確認した。
【0081】
合成例5 置換基(メチル基)を有する前記一般式(1)(X=X=X=Cl、Y=Si、R=H、R=CH、n1=6)で表されるシロール化合物の合成
まず、合成例4と同様に、中間体である5,5’−ジブロモ−3,4,3’,4’テトラメチル−1H,1H’−[2,2’]ビシローリルを合成した。その後、合成ルート3に従った。詳しくは、まず、窒素雰囲気下にて、200mlナスフラスコに乾燥THF5ml、前記5,5’−ジブロモ−3,4,3’,4’テトラメチル−1H,1H’−[2,2’]ビシローリルを5mM、マグネシウムを加えた後、5時間攪拌することにより、グリニヤール試薬を形成した。続いて、攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた100mlナスフラスコに5−ブロモ−3,4,3’,4’テトラメチル−1H,1H’−[2,2’]ビシローリルを10mM、THF30mlを仕込み、氷冷したのち、前記グリニヤール試薬を加え、0℃にて15時間反応させた。純水にて抽出した後、フラッシュクロマトグラフィにて精製し、中間体(A)を合成した。
続いて、100mlナスフラスコにクロロホルム50mlと、前記中間体(A)10mMを仕込み、温度を0℃とし、NBSを10M加え1時間攪拌した。純水にて抽出した後、減圧下、80℃にて精製し、中間体(A)の一端の水素原子がブロモ化された化合物を形成した。窒素雰囲気下にて、200mlナスフラスコに乾燥THF5ml、前記中間体(A)の一端の水素原子がブロモ化された化合物を5mM、マグネシウムを加えた後、1時間攪拌することにより、グリニヤール試薬を形成した。攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた100mlナスフラスコにテトラクロロシラン5mM、THF30mlを仕込み、氷冷したのち、前記グリニヤール試薬を加え、30℃にて1時間成熟を行った。次いで、反応液を減圧にてろ過し、塩化マグネシウムを除いた後、ろ液からTHF及び未反応のテトラクロロシランをストリップすることにより標題化合物を20%の収率で得た。
【0082】
得られた化合物について、赤外吸収スペクトル測定を行ったところ、1100cm−1にSiC由来の吸収が観測され、化合物がSiC結合を有することが確認できた。)
更に得られた化合物の核磁気共鳴(NMR)測定を行った。得られた化合物を直接NMR測定することは、化合物の反応性が高いことより不可能であるため、化合物をエタノールと反応させ(塩化水素の発生を確認した)、末端の塩素をエトキシ基に変換した後、測定を行った。
4.4ppm(m)(1H、シロール環由来)
4.3ppm〜4.2ppm(m)(12H Siと直接結合した水素由来)
3.8ppm〜3.7ppm(m)(6H、エトキシ基のメチレン基由来)
2.1ppm〜2.0ppm(m)(36H、シロール環メチル基由来)
1.5ppm〜1.4ppm(m)(9H、エトキシ基のメチル基由来)
これらの結果から、得られた化合物が標題の化合物であることを確認した。
【0083】
準備例1 2−ブロモターチオフェンの合成
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた100mlガラスフラスコに、ターチオフェン1mMを四塩化炭素に溶解させた後、NBS、AIBN(アゾイソブチロニトリル)を加え、2.5時間攪拌した後に減圧濾過することによって、2−ブロモターチオフェンを得た。
【0084】
合成例6 置換基(メチル基)を有する前記一般式(5)(X=X=X=OC、Y=Y=S、Y=Si、R=H、中央の5員環のR=CH、両端の5員環のR=H、n2=n4=3、n3=2)で表されるシロール化合物の合成
まず、合成例4と同様に、中間体である5,5’−ジブロモ−3,4,3’,4’テトラメチル−1H,1H’−[2,2’]ビシローリルを合成した。その後、合成ルート4(m=3、n=2)の第2式以降の反応式に従った。詳しくは、攪拌器、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた500mlガラスフラスコに0.5mMのn−ブチルリチウムを仕込み、−78℃に冷却した後に前記5,5’−ジブロモ−3,4,3’,4’テトラメチル−1H,1H’−[2,2’]ビシローリルを滴下ロートを用いて30分かけて加え、リチウム化合物に変換した後、1.5mMのビス(ピナコラト)ジボロンを加え、12時間かけて、−78℃から室温まで容器の内温を上昇させることにより反応を進行させた。反応終了後、2M塩酸を加えることにより、ジボロン化合物(C)を合成した。さらに、前記ジボロン化合物(C)をトルエン溶液に溶解させたのち、3モル%Pd(PPh)及び少量の炭酸ナトリウム水溶液を含む攪拌器、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた200mlガラスフラスコに仕込み、準備例1にて合成した2−ブロモターチオフェンのトルエン溶液を滴下ロートを用いて加え、85℃で12時間反応させることによりシロール環の2位及び5”位がターチオフェンと直接結合した中間体(D)を形成した。
さらに、
続いて、100mlナスフラスコにクロロホルム50mlと、前記中間体(D)5mMを仕込み、温度を0℃とし、NBSを5M加え1時間攪拌した。純水にて抽出した後、減圧下、80℃にて精製し中間体(E)を形成した。窒素雰囲気下にて、200mlナスフラスコに乾燥THF5ml、前記中間体(E)を5mM、マグネシウムを加えた後、1時間攪拌することにより、グリニヤール試薬を形成した。その後、攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた100mlナスフラスコにトリエトキシクロロシラン5mM、THF30mlを仕込み、氷冷したのち、前記グリニヤール試薬を加え、30℃にて1時間成熟を行った。次いで、反応液を減圧にてろ過し、塩化マグネシウムを除いた後、ろ液からTHF及び未反応のテトラクロロシランをストリップすることにより標題化合物を15%の収率で得た。
【0085】
得られた化合物について、赤外吸収スペクトル測定を行ったところ、1090cm−1にSiC由来の吸収が観測され、化合物がSiC結合を有することが確認できた。)
更に得られた化合物の核磁気共鳴(NMR)測定を行った。
7.7ppm(s)(1H、チオフェン環由来)
7.3ppm〜7.2ppm(m)(12H、チオフェン環由来)
4.5ppm〜4.3ppm(m)(4H Siと直接結合した水素由来)
3.7ppm〜3.6ppm(m)(6H、エトキシ基のメチレン基由来)
2.2ppm〜2.1ppm(m)(12Hシロール環メチル基由来)
1.4ppm〜1.3ppm(m)(9H、エトキシ基のメチル基由来)
これらの結果から、得られた化合物が標題化合物であることを確認した。
【0086】
準備例2 4−ブロモクオーターフェニルの合成
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた100mlガラスフラスコに、クオーターフェニル0.5mMを四塩化炭素に溶解させた後、NBS、AIBNを加え、3時間攪拌した後に減圧濾過することによって、ブロモクオーターフェニルを得た。
【0087】
合成例7 置換基(メチル基)を有する前記一般式(6)(X=X=X=Cl、Y=Si、Z=Z=C、中央の5員環のR=CH、両端の6員環のR=H、n2=n4=4、n3=1)で表されるシロール化合物の合成
合成ルート5(m=4、n=1)に従った。詳しくは、2−ブロモターチオフェンの代わりに4−ブロモクオーターフェニルを用いたこと、85℃で12時間反応させる代わりに80℃で15時間反応させたこと、5,5’−ジブロモ−3,4,3’,4’テトラメチル−1H,1H’−[2,2’]ビシローリルの代わりに2,5−ジブロモ−3,4−ジメチル−1H−シロールを用いたこと、およびトリエトキシクロロシランの代わりにテトラクロロシランを用いたことを除き、合成例6と同様の手法により、標題化合物を合成した。
【0088】
得られた化合物について、赤外吸収スペクトル測定を行ったところ、1100cm−1にSiC由来の吸収が観測され、化合物がSiC結合を有することが確認できた。
更に得られた化合物の核磁気共鳴(NMR)測定を行った。得られた化合物を直接NMR測定することは、化合物の反応性が高いことより不可能であるため、化合物をエタノールと反応させ(塩化水素の発生を確認した)、末端の塩素をエトキシ基に変換した後、測定を行った。
7.6ppm〜7.5ppm(m)(8H、ベンゼン環由来)
7.5ppm〜7.4ppm(m)(20H、ベンゼン環由来)
7.2ppm(m)(1H、ベンゼン環由来)
7.1ppm(m)(4H、ベンゼン環由来)
4.3ppm(m)(2H Siと直接結合した水素由来)
3.8ppm〜3.7ppm(m)(6H、エトキシ基のメチレン基由来)
2.1ppm〜2.0ppm(m)(12H、シロール環のメチル基由来)
1.5ppm〜1.4ppm(m)(9H、エトキシ基のメチル基由来)
これらの結果から、得られた化合物が標題化合物であることを確認した。
【0089】
・準位エネルギーの検討
合成例1〜7に合成した有機シラン化合物のLUMO準位エネルギーは分子軌道計算により−2.6eVと見積もられる。一方、上記有機シラン化合物のLUMO準位エネルギーを光電子分光法を用いて評価したところ、いずれもLUMO準位が−2.5eV以下であることを確認できた。すなわち、いずれの化合物も、ヘテロ原子を含まない化合物と比較して、LUMOが安定化されることを確認した。つまり、上記有機シラン化合物は、ヘテロ原子を含まない化合物と比較して、小さなバンドギャップを有することが明らかであり、したがって上記有機シラン化合物は、高い半導体特性を有する化合物であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の有機シラン化合物は電気伝導特性(半導体特性)、配向性(結晶性・秩序性)および基板に対する密着性に優れているので、TFT、太陽電池、燃料電池、センサー等の半導体電子デバイスの製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】有機薄膜の分子配列を説明するための概念図である。
【図2】分子間距離と分子間力との関係を説明するための概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I);R−SiX (I)
(式中、Rは長周期型元素周期表における4A族、4B族、5B族および6B族元素からなる群から選択される原子を含有する単環式複素環ユニットを含む有機基である;X〜Xは加水分解により水酸基を与える基である)で表されるπ電子共役系有機シラン化合物。
【請求項2】
が、Si、Ge、Sn、P、Se、Te、TiおよびZrからなる群から選択される原子を含有する単環式複素環ユニットを含む有機基である請求項1に記載のπ電子共役系有機シラン化合物。
【請求項3】
が他の単環式複素環ユニットまたは/および単環式芳香族炭化水素環ユニットをさらに含む有機基である請求項1または2に記載のπ電子共役系有機シラン化合物。
【請求項4】
他の単環式複素環ユニットがチオフェン環ユニットであり、単環式芳香族炭化水素環ユニットがベンゼン環ユニットである請求項3に記載のπ電子共役系有機シラン化合物。
【請求項5】
が含有するユニットの合計数が1〜9である請求項1〜4のいずれかに記載のπ電子共役系有機シラン化合物。
【請求項6】
がユニット間にビニレン基を含む有機基である請求項1〜5のいずれかに記載のπ電子共役系有機シラン化合物。
【請求項7】
〜Xがそれぞれ独立してハロゲン原子または低級アルコキシ基である請求項1〜6のいずれかに記載のπ電子共役系有機シラン化合物。
【請求項8】
一般式(II);R−Li (II)
(式中、Rは長周期型元素周期表における4A族、4B族、5B族および6B族元素からなる群から選択される原子を含有する単環式複素環ユニットを含む有機基である)で表される化合物と、
一般式(III);X−SiX (III)
(式中、X〜Xは加水分解により水酸基を与える基である;Xは水素原子、ハロゲン原子又は低級アルコキシ基である)で表される化合物とを反応させることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のπ電子共役系有機シラン化合物を合成する方法。
【請求項9】
一般式(IV);R−MgX (IV)
(式中、Rは長周期型元素周期表における4A族、4B族、5B族および6B族元素からなる群から選択される原子を含有する単環式複素環ユニットを含む有機基である;Xはハロゲン原子である)で表される化合物と、
一般式(III);X−SiX (III)
(式中、X〜Xは加水分解により水酸基を与える基である;Xは水素原子、ハロゲン原子又は低級アルコキシ基である)で表される化合物とをグリニヤール反応させることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のπ電子共役系有機シラン化合物を合成する方法。
【請求項10】
長周期型元素周期表における4A族、4B族、5B族および6B族元素からなる群から選択される原子(Y)を含有する単環式複素環ユニットを含有する化合物の所定部位をハロゲン化し、得られたハロゲン化合物とY原子含有単環式複素環ユニットを含有するグリニヤール試薬を用いてグリニヤール反応を行う操作を繰り返すことによって、RにおけるY原子含有単環式複素環ユニットの数を制御することを特徴とする請求項8または9に記載のπ電子共役系有機シラン化合物の合成方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−28137(P2006−28137A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212921(P2004−212921)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】