説明

π電子系共役重合体組成物及びそれを用いるエレクトロクロミック表示素子

【課題】エレクトロクロミック表示素子の対向電極用として好適であり、π電子系共役重合体及びカーボンナノチューブを含む透明な組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1):


[式中、Xは、酸素原子、硫黄原子、−NH−及び−NR−(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基)からなる群から選択される少なくとも1種であり、Yは、酸素原子又は硫黄原子であり、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される少なくとも1種である。]で示される化合物を構成単位とするπ電子系共役重合体、及びカーボンナノチューブを含む組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π電子系共役重合体及びカーボンナノチューブを含み、電極用、特に対向電極用として好適で透明な組成物及びその製造方法、並びにそれを用いて得られるエレクトロクロミック表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では紙に変わる電子媒体として、紙の長所と、デジタル情報をそのまま扱えるディスプレイの長所とを融合した電子ペーパーの実現が期待されている。電子ペーパーに要求される特性としては、反射型の表示素子であること、高白反射率・高コントラスト比を有すること、高精細な表示ができること、表示にメモリ効果があること、低電圧で駆動できること、薄くて軽いこと、安価であることなどが挙げられる。
【0003】
電子ペーパーの表示方式としては、反射型液晶方式、電気泳動方式、2色ボール方式、エレクトロクロミック(以下、ECと略記することがある)方式などがある。反射型液晶方式には、二色性色素を用いたG−H型液晶方式や、コレステリック液晶方式等がある。この反射型液晶方式は、従来の透過型液晶方式と比較して、バックライトを使用しないために省消費電力であるという利点を有している。しかしながら、視野角依存性があり、また光反射効率も低いため、必然的に画面が暗くなってしまうという問題を有している。また、電気泳動方式や2色ボール方式は省消費電力で視野角依存性がないという利点を有しているものの、高いコントラストを得ることが難しく、フルカラー化を行う場合にはカラーフィルターを利用する並置混合法を適用する必要が生じ、反射率が低下して必然的に画面が暗くなるという問題点を有している。
【0004】
一方、EC方式は、電圧の印加によって可逆的な酸化還元反応を起こし、それに伴って生じる発色/消色を利用したものである。EC表示素子は、これまですでに、自動車の調光ミラーや、時計等に用いられている。このEC表示素子による表示は、偏光板等が不要であり、視野角依存性が無く、受光型で視認性に優れ、構造が簡易でかつ大型化も容易で、更には、材料の選択によって多様な色調の発光が可能であるという利点を有している。
【0005】
EC表示素子でフルカラー表示を行うために、減法混色に用いられるシアン(以下、Cと略記することがある)、マゼンタ(以下、Mと略記することがある)、イエロー(以下、Yと略記することがある)の発色が可能な色素を適用し、C、M、Y発色層を並列配置、または積層配置した構成とする方法が知られている。これにより、フルカラー発色が可能な表示装置が得られる。例えば、黒色は、C、M、Yを混色することにより表示できる。また、白色は、各色素を消色状態として透明にし、背景色を白色にすることにより表示できる。このようにEC表示素子はカラーフィルターを使用しないで電気的に発色/消色を繰り返すことができる反射型の表示素子であるため、その他の表示方式に対して、目に与える負担の点やコントラストの点などにおいて優れている。
【0006】
上記発色層を構成する素材の1つとして、π電子系共役重合体と呼ばれる素材の研究が進んでいる。π電子系共役重合体には、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチオフェン等、様々な種類があり、ポリマー発光ダイオード(薄膜ディスプレイ)、固体照明(solid state lighting)、有機光電池、メモリデバイス、有機電界効果トランジスタ、印刷エレクトロニクス、導体、レーザー、センサー、固体コンデンサ等を構成するための材料として有望である。このπ電子系共役重合体の中にはエレクトロクロミック特性を示すものがあり、そのようなものは、上記したEC表示素子の発色層を構成する素材となる可能性がある。π電子系共役重合体のエレクトロクロミック特性を利用して前述のC、M、Yの発色/消色によってフルカラー発色の可能なEC表示素子を得るためには、π電子系共役重合体のエレクトロクロミック特性がそれぞれC、M、Yの発色状態から無色に変化するものでなくてはならないとされている。
【0007】
一方、EC表示素子は、π電子系共役重合体のEC特性により発色/消色することで色変化を示すものであるが、このとき、π電子系共役重合体のECと同時に酸化もしくは還元反応が起こっており、EC表示素子全体として鑑みた時にはその対反応が起こっている必要があると考えられる。例えば、EC表示素子を、透明電極であるITO(indium tin oxide)、その上に製膜されたπ電子系共役重合体、支持電解質を含む溶媒、及びπ電子系共役重合体が製膜されている表示電極に対向する電極(以下、対向電極と略記することがある)という構成で形成した場合、π電子系共役重合体を酸化により消色させると、EC表示素子全体としての対反応である還元反応を起こしうる物質が存在しないために、溶媒または支持電解質の破壊を引き起こす恐れがあり、素子寿命を縮める結果になり好ましくないとされている。
【0008】
こういった課題に対して、対向電極上にある一定値以上の電荷量を蓄えうる物質を設けることでキャパシタンスを稼ぎ、π電子系共役重合体の酸化/還元に伴う電子の移動を補償することが試みられている(特許文献1参照)。また、別の例として、対向電極上に有機ラジカル化合物、例えば2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(以下、TEMPOと略記することがある)誘導体などを製膜し、π電子系共役重合体の酸化/還元に伴う電子の移動を補償することが試みられている(特許文献2参照)。
【0009】
しかしながら、前記特許文献1及び2のように、π電子系共役重合体の酸化/還元に伴う電子の移動をキャパシタンス、もしくは有機ラジカル化合物などで補償しようとすると、π電子系共役重合体の酸化/還元に伴う電子の移動の速度に追随することが出来ず、対向電極による電荷補償が律速になってしまい、EC表示素子全体の応答速度を低下させてしまうと言った課題も残されていた。
【0010】
前記のように、π電子系共役重合体の酸化/還元に伴う電子の移動を補償する場合、同種の材料を対向電極上に設けることが望ましいが、一般的なπ電子系共役重合体のエレクトロクロミック特性は発色状態間の色変化を示すものが殆どであり、前述の発色状態から無色に色変化する材料ですら極めて限定されていた。例えば、2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン(以下、EDOTと略記することがある)、1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オン(以下、TIOと略記することがある)などを構成単位とするπ電子系共役重合体が挙げられる(特許文献3、4参照)。つまり、酸化及び還元の状態において、電荷補償層が無色でなければ、発色層として機能するπ電子系共役重合体の色が対向電極上の着色によって乱されてしまい、EC表示素子全体として所望の発色を得ることが困難であった。
【0011】
一方、近年、導電性材料としてカーボンナノチューブ(以下、CNTと略記することがある)が注目を集めているが、CNTとπ電子系共役重合体は両者ともに有する豊富なπ電子によってπ−πスタックによる相互作用をすることが知られていた(特許文献5、及び非特許文献1参照)。前記文献によれば、ポリアルキルチオフェンなどのπ電子系共役重合体をCNTと溶液中で超音波処理により分散させることで、π電子系共役重合体とCNTを相互作用させることができるとされている。このようなπ電子系共役重合体とCNTの相互作用により、π電子系共役重合体/CNT複合体が形成されていると考えられる。また、EDOTとCNTを含む電解質溶液から電気化学重合させてEDOT/CNT複合体が得られることも知られていた(非特許文献2参照)。
【0012】
これらの結果として、前記特許文献5では、選択的光吸収物質とCNTが接触することによってπ電子系共役重合体/CNT複合体が形成されていると考えられ、これにより吸光度が増加するとされている。また、前記非特許文献1ではπ電子系共役重合体/CNT複合体の吸収スペクトルが緩慢になるとされており、前記非特許文献2では、π電子系共役重合体/CNT複合体の吸収スペクトルの吸収極大がシフトする、とされていた。このように、π電子系共役重合体とCNTが相互作用された結果、その複合体の吸収スペクトルには何らかの変化が見られることが示唆されていた。しかしながら、1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オン等で示される化合物を構成単位とするπ電子系共役重合体及びCNTを含む組成物については何ら記載されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−134318号公報
【特許文献2】特開2008−51947号公報
【特許文献3】特開2008−31430号公報
【特許文献4】特開2008−7771号公報
【特許文献5】特開2004−115778号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Organic Letters 2006, vol.8, No.24, p.5489-5492
【非特許文献2】Macromolecular Rapid Communications 2008, vol.29, p.1959-1964
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、有機エレクトロニクスやエレクトロクロミック表示素子の電極用、とりわけ対向電極用の電荷補償層として好適であり、π電子系共役重合体及びカーボンナノチューブを含む透明な組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、下記一般式(1):
【化1】

[式中、Xは、酸素原子、硫黄原子、−NH−及び−NR−(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基)からなる群から選択される少なくとも1種であり、Yは、酸素原子又は硫黄原子であり、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される少なくとも1種である。]
で示される化合物を構成単位とするπ電子系共役重合体、及びカーボンナノチューブを含む組成物であって、π電子系共役重合体100質量部に対するカーボンナノチューブの配合量が0.01〜20質量部であることを特徴とする組成物を提供することによって解決される。
【0017】
このとき、下記一般式(1):
【化2】

[式中、X、Y及びZは前記と同義である。]
で示される化合物、支持電解質及びカーボンナノチューブを含む溶液を電気化学的に重合することを特徴とする前記組成物の製造方法が本発明の好適な実施態様である。
【0018】
また、このとき、下記一般式(1):
【化3】

[式中、X、Y及びZは前記と同義である。]
で示される化合物、酸化剤及びカーボンナノチューブを含む溶液を化学酸化重合することを特徴とする前記組成物の製造方法が本発明の好適な実施態様である。
【0019】
また、このとき、本発明の組成物からなる膜が本発明の好適な実施態様であり、前記膜が対向電極上に形成されてなる対向電極積層体が本発明の好適な実施態様である。また、前記対向電極積層体を含むエレクトロクロミック表示素子も本発明の好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0020】
本発明による、π電子系共役重合体及びカーボンナノチューブを含む組成物は、有機エレクトロニクス素子の電極用として好適に用いることができる。特に、酸化及び還元による電気化学的な変化の際に無色透明状態を保持することができるため、エレクトロクロミック表示素子の対向電極用の電荷補償層としてより好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の好適な実施形態にかかるエレクトロクロミック表示素子の構成を示した図である。
【図2】実施例1におけるπ電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物からなる膜のエレクトロクロミック特性を示す図である。
【図3】図2における吸光度の最大値を0.1として縦軸方向に拡大した図である。
【図4】実施例1におけるπ電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物からなる膜のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図5】比較例2における1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オンを構成単位とする重合体からなる膜のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、下記一般式(1)で示される化合物を構成単位とし、該構成単位の有するチオフェン環の2,5−位の炭素原子が互いに結合した構造のπ電子系共役重合体、及びカーボンナノチューブを含む組成物であって、π電子系共役重合体100質量部に対するカーボンナノチューブの配合量が0.01〜20質量部であることを特徴とする組成物である。本発明において透明とは、膜厚100〜500nmにおける可視光の透過率が70%以上である状態のものをいう。また、本発明において無色とは、目視にて着色が認められない状態のものをいう。以下詳細について述べる。
【0023】
【化4】

[式中、Xは、酸素原子、硫黄原子、−NH−及び−NR−(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基又は置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基である)からなる群から選択される少なくとも1種であり、Yは、酸素原子又は硫黄原子であり、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される少なくとも1種である。]
【0024】
上記一般式(1)において、Xは、酸素原子、硫黄原子、−NH−及び−NR−(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基又は置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基である)からなる群から選択される少なくとも1種であり、Yは、酸素原子又は硫黄原子であり、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される1種である。
【0025】
ここで、Xにおける−NR−中のRは、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基又は置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基である。置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。当該炭素数1〜20のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。また、上記炭素数6〜20のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。これらの中でも、Rは置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基であることがより好ましい。
【0026】
上記一般式(1)において、Xは、原料の入手性や、製造方法の容易さなどの観点から、酸素原子または硫黄原子であることが好ましく、硫黄原子であることがより好ましい。
【0027】
また、上記一般式(1)において、Yは酸素原子または硫黄原子であり、原料の入手性等の観点から、Yは酸素原子であることが好ましい。
【0028】
一般式(1)において、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される1種である。Zは互いに同一であっても異なっていてもよい。置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基としては、その構造中にエーテル結合、エステル結合、アミド結合、スルホニル結合、ウレタン結合、チオエーテル結合等の炭素−炭素結合以外の結合が含まれていてもよく、また、二重結合、三重結合、脂環式炭化水素、複素環、芳香族炭化水素、複素芳香環等が含まれていてもよい。更に、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基等の置換基を有していてもよい。置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基としては、例えば、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数2〜20のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有してもよい炭素数3〜20のシクロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数3〜20のシクロアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数2〜20のアシル基、置換基を有してもよい炭素数7〜20のアリールアルキル基、置換基を有してもよい炭素数3〜20のアルキルシリル基、置換基を有してもよい炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよい炭素数1〜20の複素芳香環基等が挙げられる。
【0029】
上記炭素数1〜20のアルキル基としては、上述のRの説明のところで例示された炭素数1〜20のアルキル基を同様に用いることができる。
【0030】
上記炭素数2〜20のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等が挙げられる。
【0031】
上記炭素数6〜20のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
【0032】
上記炭素数3〜20のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基等が挙げられる。
【0033】
上記炭素数3〜20のシクロアルケニル基としては、例えば、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0034】
上記炭素数1〜20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基等が挙げられる。
【0035】
上記炭素数2〜20のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ベンゾイル基、ドデカノイル基、ピバロイル基等が挙げられる。
【0036】
上記炭素数7〜20のアリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基等が挙げられる。
【0037】
上記炭素数3〜20のアルキルシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基等が挙げられる。
【0038】
上記炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0039】
上記炭素数1〜20の複素芳香環基としては、例えば、チエニル基、フリル基、ピリジル基、イミダゾリル基、ピラジニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ピラゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンズイミダゾリル基等が挙げられる。
【0040】
これらの中でも、Zは水素原子であるか、または、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、特に、Zが水素原子である場合には、得られるπ電子系共役重合体の透明性が優れるものとなるため好ましい。またZは、全て同一の置換基であることが好ましい。
【0041】
本発明で用いられる上記一般式(1)で示される化合物を得る方法としては特に限定されず、例えば、2,5−ジブロモチオフェンを出発化合物として好適に合成することができる。以下、2,5−ジブロモチオフェンを出発化合物として、一般式(1)で示される化合物中のXが硫黄原子、Yが酸素原子、Zが水素原子のときの式(1a)で示される1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オンを得る方法について、下記化学反応式(I)を参照しながら説明する。
【0042】
【化5】

【0043】
上記化学反応式(I)で示されるように、まず、混酸(発煙硝酸と発煙硫酸)に2,5−ジブロモチオフェンに濃硫酸を加えた溶液を添加することにより、3位及び4位がニトロ化された2,5−ジブロモ−3,4−ジニトロチオフェンを得て、次いで、塩酸及びスズ(Sn)を用いて塩酸塩である3,4−ジアミノチオフェンジヒドロクロリドを得る反応が好適に採用される。更に得られた塩酸塩に対して炭酸ナトリウム等の塩基を用いることにより、3,4−ジアミノチオフェンを得て、尿素と反応させることにより、式(1a)で示される1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オンを得ることができる。
【0044】
本発明で使用されるCNTは、アーク放電法、化学気相成長法(以下CVD法と略記することもある)、レーザー・アブレーション法等によって作製されるが、いずれの方法によって得られたものであってもよい。また、CNTには1枚の炭素膜(グラッフェン・シート)が円筒状に巻かれた単層カーボンナノチューブ(以下SWCNTという)と、2枚以上の複数のグラッフェン・シートが同心円状に巻かれた多層カーボンナノチューブ(以下MWCNTという)とがあるが、本発明にはSWCNT、MWCNTのいずれも使用される。なかでもSWCNTは直径がMWCNTと比べて細いため(すなわちSWCNT1本当たりの体積はMWCNTと比べて小さいため)、CNTの占める体積密度が同じでもCNTの数密度はMWCNTよりもSWCNTの方が大きい。そのため、π電子系共役重合体とCNTが接触する面積が増えるのでSWCNTの方が本発明には好ましい。
【0045】
SWCNTやMWCNTを上記の方法で作製する際には、同時にフラーレンやグラファイト、非晶性炭素が副生産物として生成され、またニッケル、鉄、コバルト、イットリウムなどの触媒金属も残存するので、これらの不純物を精製することが好ましい。
【0046】
また、本発明で使用されるCNTの長さは特に限定されないが、π電子系共役重合体中のCNTの分散を良くするには短いものを、π電子系共役重合体及びCNTを含む組成物の導電性および発色層のπ電子系共役重合体の酸化/還元に伴う電荷の補償能を高めるには長いものを使用することが好ましい。たとえば、CNTの平均長さが好ましくは2μm以下、より好ましくは0.5μm以下のものを使用するとπ電子系共役重合体中のCNTの分散性が高まる。CNTは一般に紐状に形成されるので、短いCNTを使用するには短繊維状にカットすることが好ましい。一方例えば、CNTの平均長さが2μm以上のものを使用するとπ電子系共役重合体及びCNTを含む組成物の導電性が高まる。
【0047】
以上の不純物の精製や短繊維へカットする方法としては、硝酸、硫酸などによる酸処理とともに超音波処理を行うことが有効であり、またフィルターによる分離を併用することは純度を向上させる上でさらに好ましい。酸処理によって、CNT上にカルボキシル基などの極性置換基が導入されることもあるが、この極性置換基は後述する本発明におけるπ電子系共役重合体と強く相互作用する観点から、CNT上にカルボキシル基などの極性置換基が導入されることも本発明の好適な実施態様である。
【0048】
また本発明では、カットされたCNTだけではなく、あらかじめ短繊維状に作製されたCNTも好ましく使用される。このような短繊維状CNTは基板上に鉄、コバルトなどの触媒金属を形成し、その表面にCVD法により700〜900℃で炭素化合物を熱分解してCNTを気相成長させることによって基板表面に垂直方向に配向した形状で得られる。このようにして作製された短繊維状CNTは基板から剥ぎ取るなどの方法で取り出すことができる。また、短繊維状CNTはポーラスシリコンのようなポーラスな支持体や、アルミナの陽極酸化膜上に触媒金属を担持させ、その表面にCNTをCVD法にて成長させることもできる。触媒金属を分子内に含む鉄フタロシアニンのような分子を原料とし、アルゴン/水素のガス流中でCVD法を行うことによって基板上にCNTを作製する方法でも配向した短繊維状のCNTを作製することができる。
【0049】
本発明で用いられるCNTの直径は特に限定されないが、好ましくは1nm以上、100nm以下、より好ましくは50nm以下である。
【0050】
本発明で用いられるCNTの配合量は、π電子系共役重合体100質量部に対して0.01〜20質量部であることを特徴とする。CNTの配合量が0.01質量部未満の場合、π電子系共役重合体とCNTとを複合化させた際にπ電子系共役重合体とCNTとが特異的に相互作用する効果が低く、π電子系共役重合体及びCNTを含む組成物が透明性を保ったままで酸化/還元することができないおそれがある。すなわち、還元時にπ電子系共役重合体及びCNTを含む組成物が着色してしまうおそれがある。CNTの配合量は0.1質量部以上であることが好ましい。一方、CNTの配合量が20質量部を超える場合、π電子系共役重合体及びCNTを含む組成物が黒く着色してしまい、透明性を損なうとともに、電極上に製膜した際の強度が不足してしまい直ぐに電極上から剥がれ落ちてしまうおそれがある。CNTの配合量は10質量部以下であることが好ましい。
【0051】
本発明のπ電子系共役重合体及びCNTを含む組成物の製造方法としては、特に限定されず、上記一般式(1)で示される化合物、支持電解質及びカーボンナノチューブを含む溶液を電気化学的に重合することにより好適に製造される。具体的には、上記一般式(1)で示される化合物、支持電解質及びカーボンナノチューブを含む溶液を電気化学的に重合することにより電極上に前記化合物を構成単位とするπ電子系共役重合体、及びカーボンナノチューブを含む組成物からなる膜を形成することにより好適に製造される。
【0052】
ここで、上記一般式(1)で示される化合物、支持電解質及びカーボンナノチューブを含む溶液に用いられる溶媒としては、例えば、ニトロメタン、アセトニトリル、プロピレンカーボネート、ニトロベンゼン、シアノベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ジメチルスルホオキシド、γ−ブチロラクトン、ジメチルエーテル、水等が挙げられる。また、支持電解質として、例えば、リチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン等のアルカリ金属類のイオンや四級アンモニウムイオンといったカチオンと、過塩素酸イオン、四フッ化ホウ素イオン、六フッ化リンイオン、ハロゲン原子イオン、六フッ化ヒ素イオン、六フッ化アンチモンイオン、硫酸イオン、硫酸水素イオンといったアニオンとの組み合わせからなる支持電解質を用いた例が挙げられる。
【0053】
また、支持電解質を含む溶液の他の例として、例えば、陽イオンとして、イミダゾリウム塩類、ピリジニウム塩類等のアンモニウム系;ホスホニウム系イオン;無機系イオン;ハロゲン系イオンなどを用い、一方、陰イオンとして、フッ化物イオンやトリフラート等のフッ素系イオンなどを用いて、これらの陽イオンと陰イオンとを組み合わせたイオン液体に上記一般式(1)で示される化合物(モノマー成分)を溶解させたものを用いることもできる。
上記支持電解質を含む溶液における上記一般式(1)で示される化合物(モノマー成分)の含有率としては、採用する重合反応条件等により適宜設定することができるが、好ましくは0.001〜10モル/Lの範囲内であり、より好ましくは0.01〜1モル/Lの範囲内であり、更に好ましくは0.01〜0.1モル/Lの範囲内である。また、上記電解液における支持電解質の含有率としては、好ましくは0.01〜10モル/Lの範囲内であり、より好ましくは0.1〜5モル/Lの範囲内である。
【0054】
ここで、溶液中へのCNTの添加方法としては、直接、支持電解質を含む溶液に添加してもよいし、予めCNTを別溶媒中に分散させておいたものを適量添加してもよいが、CNTは凝集力が強いため、直接、支持電解質を含む溶液にCNTを添加するよりも、予めCNTを別溶媒中に分散させておいたものを適量添加する方法が好適に採用される。CNTを別溶媒中へ分散させる方法としては、可溶性導電性高分子、デオキシリボ核酸、シクロデキストリン、可溶性フラーレンなどの分散性添加剤を微量に用いることでCNTを溶媒中に分散できることが公知の技術として知られており、適用することができる。
【0055】
本発明で用いられる電極材料としては、特に限定されず、例えば、白金、金、ニッケル、銀等の金属;導電性高分子;セラミック;半導体;炭素、導電性ダイヤモンド等の導電性炭化物;ITO(indium tin oxide)、ATO(antimony doped tin dioxide)、AZO(aluminium doped zinc oxide)、ZnO(zinc oxide)等の金属酸化物などを用いることができる。
【0056】
ここで、上記電気化学重合において、電圧印加する際の電圧としては、採用する重合反応条件等により適宜設定することができるが、−3〜3Vの範囲内であることが好ましく、−1.5〜1.5Vの範囲内であることがより好ましい。電圧印加する際の温度としては、0〜80℃の範囲内であることが好ましく、15〜40℃の範囲内であることがより好ましい。
【0057】
上記のπ電子系共役重合体及びカーボンナノチューブを含む組成物は、上記一般式(1)で示される化合物を構成単位とするπ電子系共役重合体及びCNTのみから構成されていてもよいが、対向電極用透明材料としての性能を妨げない範囲内で、他の成分を含有していてもよい。このような他の成分としては、例えば、ビオローゲン及びその誘導体、プルシアンブルー及びその誘導体、酸化タングステン及びその誘導体などの酸化還元によりクロミック特性を有する化合物等が挙げられる。
【0058】
本発明のπ電子系共役重合体及びカーボンナノチューブを含む組成物の製造方法としては、特に限定されず、上記一般式(1)で示される化合物、酸化剤及びカーボンナノチューブを含む溶液を化学酸化重合することにより好適に製造される。具体的には、上記一般式(1)で示される化合物、酸化剤及びカーボンナノチューブを含む溶液を化学酸化重合することにより電極上に前記化合物を構成単位とするπ電子系共役重合体、及びカーボンナノチューブを含む組成物からなる膜を形成することにより好適に製造される。
【0059】
前記酸化剤とは、塩化第二鉄(FeCl)等に代表される遷移金属塩からなる酸化剤であれば特に限定されないが、例えば、塩化鉄(III)水和物、過塩素酸銅、過塩素酸鉄、p−トルエンスルホン酸第二鉄、ジイソプロピルナフタレンスルホン酸第二鉄塩などが挙げられる。化学酸化重合により重合させる場合には、用いられる酸化剤由来のアニオンをそのままドーパントとして用いることができる。例えば、前記酸化剤の場合では、塩化第二鉄、及び塩化鉄(III)水和物についてはClが、過塩素酸銅及び過塩素酸鉄についてはClOが、p−トルエンスルホン酸第二鉄及びジイソプロピルナフタレンスルホン酸第二鉄塩についてはスルホン酸アニオンが、ドーパントとして用いられることになる。
【0060】
このようにドーパントとしては、特に限定されず、例えば、PF、SbF、AsF等の5B族元素のハロゲン化アニオン;BF等の3B族元素のハロゲン化アニオン;I(I)、Br、Cl等のハロゲンアニオン;ClO等のハロゲン酸アニオン;AlCl、FeCl、SnCl等の金属ハロゲン化物アニオン;NOで示される硝酸アニオン;SO2−で示される硫酸アニオン;p−トルエンスルホン酸アニオン、ナフタレンスルホン酸アニオン、CHSO、CFSO等のスルホン酸アニオン;CFCOO、CCOO等のカルボン酸アニオン;および上記のアニオン種を主鎖または側鎖に有する変性ポリマーなどが挙げられる。ドーパントは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0061】
前記化学酸化重合は、溶媒の存在下で行われることが好ましい。かかる溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン等の飽和脂肪族または脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、キシレン、エチルトルエン等の芳香族炭化水素;ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ブチルメチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン溶媒などが挙げられる。上記溶媒は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、当該溶媒はハロゲン溶媒、もしくはエーテルであることが好ましい。当該溶媒の使用量は、前記一般式(1)で示される化合物1mmolに対して、1〜100mlの範囲内であることが好ましく、2〜70mlの範囲内であることがより好ましい。
【0062】
前記化学酸化重合する際の溶液中へのCNTの添加方法としては、直接、溶液に添加してもよいし、予めCNTを別溶媒中に分散させておいたものを適量添加してもよいが、CNTは凝集力が強いために、直接、溶液に添加するよりも、予めCNTを別溶媒中に分散させておいたものを適量添加する方法が好適に採用される。CNTを別溶媒中へ分散させる方法としては、可溶性導電性高分子、デオキシリボ核酸、シクロデキストリン、可溶性フラーレンなどの分散性添加剤を微量に用いることでCNTを溶媒中に分散できることが公知の技術として知られており、適用することができる。
【0063】
上記説明した本発明のπ電子系共役重合体及びカーボンナノチューブを含む組成物の好適な実施態様は、上記組成物からなる膜である。また、前記膜が対向電極上に形成されてなる対向電極積層体も本発明の好適な実施態様である。
【0064】
本発明のπ電子系共役重合体及びカーボンナノチューブを含む組成物は、有機エレクトロニクス素子の電極用として好適に用いることができ、エレクトロクロミック表示素子の対向電極用の電荷補償層としてより好適に用いることができる。上記エレクトロクロミック表示素子の好適な実施態様は、本発明のπ電子系共役重合体及びカーボンナノチューブを含む組成物からなる膜の層が対向電極上に形成されてなる対向電極積層体を含むエレクトロクロミック表示素子である。以下、好適な実施態様として図1を参照しながらエレクトロクロミック表示素子について説明する。
【0065】
図1に示すように、本発明の基本となるEC表示素子の例は、視認側から順に、第1絶縁性基板1(透明)、表示電極(第1の電極層)2(透明)、発色層(EC層)3、電解質層4(透明)、対向電極(第2の電極層)5上に形成されたπ電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物層8(透明)、第2絶縁性基板6(高反射率の材料)が形成される。このとき、対向電極5とπ電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物層8とから形成されてなる層が対向電極積層体である。すなわち、図1で示されるEC表示素子は、表示電極2と対向電極5が対向配置され、両電極間に発色層3及び電解質層4が挟持されている。そして、表示電極2と発色層3、発色層3と電解質層4、及び電解質層4と対向電極5上に形成されたπ電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物層8とは、直接接触している。スペーサー7は、発色層3及び電解質層4を取り囲むように形成され、電極間を所定の間隔に制御する。また、本実施の形態では、スペーサー7は、接着層としても機能し、表示電極2と対向電極5、又は第1絶縁性基板1と第2絶縁性基板6とを接着する。発色層3は、電界印加によって可逆的な酸化還元反応が起こり、それに伴った発色/消色が起こるものである。
【0066】
第1絶縁性基板1は、観察者から発色層3を視認できる必要があるため、透明である必要があり、具体的には70%以上の全光線透過率を有することが望ましい。さらに好ましくは80%以上の全光線透過率を有することが望ましい。第1絶縁性基板1としては、ガラス基板や、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、スチレン−メチルメタクリレート共重合体(MS)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などの樹脂基板を用いることができる。
【0067】
表示電極2は、上記と同様の理由によって、透明である必要があり、70%以上の全光線透過率を有することが望ましい。さらに好ましくは80%以上の全光線透過率を有することが望ましい。表示電極2としては、インジウム−錫酸化物(ITO)、アルミドープ錫酸化物(ATO)、アンチモンドープ亜鉛酸化物(AZO)、酸化亜鉛(ZnO)などの一般的に使用される金属酸化物からなる透明導電性膜を用いてもよい。さらには、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、ダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT)などの導電性炭化物、ポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体などの導電性高分子を透過率を低下させない程度に薄く積層したものを用いてもよい。
【0068】
発色層3には、π電子系共役モノマー由来のπ電子系共役重合体が用いられる。π電子系共役モノマーは、電気化学重合によって製膜可能な化合物であれば特に限定されないが、アセチレン、p−フェニレン、p−フェニレンオキシド、p−フェニレンスルフィド、p−フェニレンビニレン、ナフチレンビニレン、イソチアナフテン、ピロール、チオフェン、チオフェンビニレン、アルキルチオフェン、エチレンジオキシチオフェン、プロピレンジオキシチオフェン、アニリン、ペリナフタレン、オキサジアゾール、チアジル、アセン、フラン、アルキルフラン、セレノフェン、テルロフェン、アミノピレン、フェナントレン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、イソキサゾール、イソチアゾール、ベンゾトリアゾール構造を有するπ電子系共役モノマー、フルオレン構造を有するπ電子系共役モノマー、主鎖にホウ素原子を導入できる構造を有するπ電子系共役モノマー、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、キノリンに代表される芳香環の一部の炭素が窒素に置換されたπ電子系共役モノマー、ピランに代表される芳香環の一部の炭素が酸素に置換されたπ電子系共役モノマー、及びこれらの誘導体が例示できる。
【0069】
電解質層4としては、どのような形態の電解質であっても構わない。例えば溶液状のものならばイオン伝導度が大きいために応答速度、駆動電圧・電流を小さくすることが出来る。また、ゲル状及び固体状のものならば漏洩することがない信頼性の高い素子を提供することが出来る。溶液状の電解質としては、アセトニトリル、ブチロラクトン、炭酸プロピレン、テトラヒドロフランなどの有機溶媒に、支持電解質として、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBFなどのリチウム塩、(CBF、(CPF、NHBF、NHPFなどのアンモニウム塩、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸塩などを溶解させたものを用いることが出来る。
【0070】
上記のように、電解質中に支持電解質を含む場合、有機溶媒に対して、0.01〜5.0[モル/l]の支持電解質濃度であればよい。支持電解質濃度が0.01[モル/l]未満の場合、イオン伝導が不十分であり、応答速度が極度に遅くなるおそれがある。さらに、順電圧・逆電圧をかけて発色/消色を繰り返す際に、発色ムラが生じるなどの問題を起こすおそれがある。一方、支持電解質濃度が5.0[モル/l]を超える場合、支持電解質が飽和状態になり易く、析出してしまうおそれがある。
【0071】
また、電解質層4として、効率向上や安全性向上を目的に常温溶融塩(イオン液体)を用いてもよい。イオン液体としては、以下に示すアニオン及びカチオンの、任意の組み合わせのものを用いることが出来る。アニオンとしては、例えばテトラフルオロボーレート、ヘキサフルオロホスフェート、ビス(トリフルオロメチルスルホニルイミド)、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニルイミド)などを有する化合物が挙げられる。カチオンとしては、例えば、エチルメチルイミダゾリウムやメチルブチルイミダゾリウムなどのイミダゾリウム系カチオン、ブチルメチルピロリジニウムなどのピロリジニウム系カチオンやブチルピリジニウムなどのピリジニウム系カチオン、ブチルトリメチルアンモニウムやジエチルメトキシエチルメチルアンモニウムなどのアンモニウム系カチオンなどを有する化合物が挙げられる。イオン液体を用いることで、高速応答性、良好なメモリ性を実現することが出来る。
【0072】
また、固体状の電解質としては、Ta、MgFなどの固体電解質が用いられる。また、高分子固体電解質としては、ポリスチレンスルホン酸、ナフィオン(登録商標)などのようにイオン伝導を担う置換基を導入した高分子固体電解質を用いてもよいし、マトリクス(母材)高分子材料中に支持電解質を分散させたものを用いてもよい。マトリクス高分子としては、主鎖単位がそれぞれ−(C−C−O)−、−(C−C−N)−、−(C−C−S)−で表されるポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンスルフィドが挙げられる。これらを主鎖構造として、枝分かれがあってもよい。また、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデンクロライド、ポリカーボネートなども好ましく用いることができる。
【0073】
固体状の電解質によって電解質層4を形成する際には、前記マトリクス高分子に所要の可塑剤を加えてもよい。好ましい可塑剤としては、マトリクス高分子が親水性の場合には、水、エチルアルコール、イソプロピルアルコールおよびこれらの混合物等が好ましく、疎水性の場合にはプロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、スルホラン、ジメトキシエタン、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドンおよびこれらの混合物が好ましい。
【0074】
また、前記マトリクス高分子中に分散せしめる支持電解質としては、LiCl、LiBr、LiI、LiBF、LiClO、LiPF、LiCFSOなどのリチウム塩;KCl、KI、KBrなどのカリウム塩;NaCl、NaI、NaBrなどのナトリウム塩;或いはホウフッ化テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、ホウフッ化テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムハライドなどのテトラアルキルアンモニウム塩を挙げることが出来る。上述の4級アンモニウム塩(テトラアルキルアンモニウム塩)のアルキル鎖長は不揃いでもよい。
【0075】
また、π電子系共役重合体で形成される発色層3以外の発色層として、エレクトロクロミックを呈する材料であれば任意の材料を併用することができ、例えば無機系としてはIrOx、NiOx、WO、MoO、TiOなどが挙げられる。また、有機−無機複合材料としてはニッケルフタロシアニンなどが挙げられる。
【0076】
本発明において、π電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物層8は、対向電極5上に形成されることが好ましい。このことにより、酸化及び還元の状態において、対向電極5上に形成されたπ電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物層8を無色透明状態に維持することができる。その結果、発色層3におけるπ電子系共役重合体の発色状態に影響を与えないためエレクトロクロミック表示素子の発色が良好となる。ここで、対向電極5としては、透明であっても不透明であってもよく、種々の金属材料、高分子材料、セラミック材料および半導体材料などの導電性材料を用いることができる。一般的に高い電気伝導率に起因して、金属材料が好ましく、例えば、リチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、錫、銀、金、銅、ニッケル、パラジウム、白金、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、ニッケル、コバルトおよびこれらの酸化物ならびにそれらの組み合わせまたは合金を用いることができる。もちろん、対向電極5の材料は、これらに限定されない。特にITO、金、銀及び銅は高導電性及び化学的不活性であるため、より好適に用いられる。
【0077】
第2絶縁性基板6としては、透明であっても不透明であってもよく、種々の材料をもちいることができる。例えば、第2絶縁性基板6として、石英ガラス基板、白板ガラス基板などのガラス基板、セラミック基板、紙基板、木材基板を用いることが可能である。さらに、これらに限定されず、第2絶縁性基板6として、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどのエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、酢酸セルロースなどのセルロースエステル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(テトラフルオロエチレン−co−ヘキサフルオロプロピレン)などのフッ素ポリマー、ポリオキシメチレンなどのポリエーテル、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、メチルペンテンポリマーなどのポリオレフィン、およびポリイミド−アミドやポリエーテルイミドなどのポリイミドなどの合成樹脂基板を用いることができる。これら合成樹脂を基板として用いる場合には、容易に曲がらないような剛性基板状にすることも可能であるが、可撓性をもったフィルム状の構造とすることも可能である。また、対向電極5が十分な剛性を有する場合には、第2絶縁性基板6を設けなくてもよい。
【0078】
また、発色層3と電解質層4との間、もしくは電解質層4とπ電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物層8との間、もしくはπ電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物層8と対向電極5との間、もしくは対向電極5と第2絶縁性基板6との間、もしくは第2絶縁性基板6の背面などに高反射率の材料を積層させてもよい。これにより、外部から入射した光の反射効率を向上させることができる。そして、EC表示素子の視認性を向上させることができる。特に、対向電極5がITO、第2絶縁性基板6がガラスもしくはフィルムであることが材料の入手性、汎用性の観点から好ましく、この際には本発明におけるπ電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物層8が透明であるため、第2絶縁性基板6の背面に白色等の高反射率の材料を積層させることで簡便にEC表示素子を製造することができる。
【0079】
また、表示電極2と対向電極5との間に、電極同士が接触しショートすることを防ぐ目的で、絶縁層を設けてもよい。本発明では、絶縁層の好適な実施形態の一つとしてスペーサー7のような形状物が一例として挙げられる。絶縁層としては、電極間のバリアとして機能し得る任意の適切な材料を用いる。これにより、絶縁層は、電気バリアを提供し、電極間が電気的にショートすることを防ぎ得る。従って、絶縁層は、実質的にピンホールを含まず、そして約10Ωcm以上、好ましくは約1012Ωcm以上の電気抵抗を有する高抵抗率材料から作製されることが望ましい。また、適切な高抵抗率材料としては、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンおよびパリレン(parylen)が含まれるが、これらに限定されない。
【0080】
EC表示素子の製造方法としては特に限定されず、例えば、上記第1絶縁性基板1、表示電極2、発色層3、電解質層4、対向電極5、第2絶縁性基板6、スペーサー7、π電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物層8等の各構成部材をそれぞれ個別に用意し、これを組み立ててEC表示素子を製造することができる。中でも、電極上に所望のπ電子系共役重合体を含む層を予め形成し、当該層と電極とが一体となった部材を用いてEC表示素子を製造する方法が好ましい。より簡便にEC表示素子を製造することができることから、例えば、電解重合によって陽極である電極上でπ電子系共役重合体を重合し、得られたπ電子系共役重合体の膜を当該電極から取り除かずに電極とともにEC表示素子の構成部材として用いて、EC表示素子を製造することがより好ましい。
【実施例】
【0081】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0082】
[式(1a)で示される1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オンの合成]
【0083】
【化6】

【0084】
発煙硝酸11mlと発煙硫酸20mlを用いて混酸を調製した。これに、濃硫酸13mlを加えた溶液に、2,5−ジブロモチオフェン7.5g(31mmol)を徐々に滴下していき、水浴で温度を20〜30℃に保ちながら3時間攪拌した後、90gの氷の入った容器にフラスコ内の液を移して反応を停止させた。得られた固形物を濾別して、これをメタノールを用いて再結晶することにより2,5−ジブロモ−3,4−ジニトロチオフェンを得た。2,5−ジブロモチオフェンに基く収率は66%であった。得られた2,5−ジブロモ−3,4−ジニトロチオフェンに対して、12規定の濃塩酸を6.05ml/mmolの割合で添加した。得られた溶液を氷浴で温度を0℃に保ちながら、これに2,5−ジブロモ−3,4−ジニトロチオフェンに対して7.1当量のスズを徐々に添加し、添加後さらに2時間攪拌した。その後、生成した固形物を濾別して、固形物をジエチルエーテルで洗浄することにより3,4−ジアミノチオフェンの二塩酸塩を得た。2,5−ジブロモ−3,4−ジニトロチオフェンに基く収率は90%であった。
【0085】
3,4−ジアミノチオフェンジヒドロ−クロリドのH−NMR測定結果を以下に示す。
H−NMR(500MHz、DMSO、TMS)δ:6.95(2H,s)
【0086】
得られた3,4−ジアミノチオフェンの二塩酸塩を4ml/mmolに相当する量の水に溶解させ、これに2ml/mmolに相当する量の4規定炭酸ナトリウム水溶液を徐々に滴下し、滴下後さらに2時間攪拌した後、酢酸エチルを用いて生成物を有機相に分液抽出し、得られた有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去し、3,4−ジアミノチオフェンを得た。3,4−ジアミノチオフェンの二塩酸塩に基く収率は60%であった。
【0087】
3,4−ジアミノチオフェンのH−NMR測定結果を以下に示す。
H−NMR(500MHz、CDCl、TMS)δ:6.17(2H,s)、3.36(4H、s)
【0088】
得られた3,4−ジアミノチオフェンに対して1.1当量の尿素と10ml/mmolに相当する量のアミルアルコールを添加し、アルゴンガス雰囲気下、130℃で5時間還流させ反応を進行させた後、アミルアルコールを留去し、残渣を酢酸エチル/ヘキサン溶媒を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して、式(1a)で示される1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オンを得た。3,4−ジアミノチオフェンに基く収率は55%であった。
【0089】
1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オンのH−NMR測定結果を以下に示す。
H−NMR(500MHz、CDCl、TMS)δ:6.36(1H,s)
【0090】
[CNT分散液の調製]
アーク放電法によって作成された単層カーボンナノチューブ(以下、CNTと略記することがある)を63%硝酸にて85℃で2日間反応(湿式酸化)させた後、濾過によってCNTを精製、回収した。次に、上記のCNT20mg、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業社製)500mg、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液100gを混合し、1分間超音波照射し(装置名ULTRASONIC HOMOGENIZER MODEL UH−600SR、エスエムテー社製)、CNT分散液を得た。そして、このCNT分散液を中空糸膜(孔径200nm、膜面積105cm(SPECTRUM社製))にて循環濾過に供した。この後、CNT分散液を0.5wt%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加した0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液500mlで洗浄し、短いバンドルのCNTを除去した。この後、イソプロパノールを添加することで、CNT濃度が1200ppmのCNT分散液を得た。
【0091】
実施例1
0.01mmol(0.0014g)の1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オンと上記CNT分散液20μlを、0.1Mのテトラブチルアンモニウム過塩素酸塩を含む、1mlの炭酸プロピレン溶液に溶解/分散させた。次いで、25℃の温度下で、ジオマテック社製の陽極ITO電極およびニラコ社製の陰極白金電極を用いて銀/塩化銀参照電極に対して、−0.5〜1.3Vの範囲で100mV/secの挿引速度で電圧を印加し、電気化学的に重合させることにより、ITO電極上にπ電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物からなる膜を形成させた。
【0092】
得られた該組成物からなる膜を用いて、−0.5Vの電圧を印加した場合を発色時(脱ドーピング時)、0.5Vの電圧を印加した場合を中間時(半ドーピング時)、1.2Vの電圧を印加した場合を消色時(ドーピング時)として、それぞれの状態のUV−Visスペクトル(紫外可視吸収スペクトル)を測定することにより、当該組成物からなる膜のエレクトロクロミック特性を評価した。その結果を図2及び図3に示す。該図2及び図3に示されるように、実施例1において製造されたπ電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物からなる膜の酸化/還元によるエレクトロクロミック特性は可視光域に大きな吸収を持たない、つまり実質的に色変化が無く、無色透明であった。
【0093】
また、ITO電極上にπ電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物からなる膜を形成させたもののサイクリックボルタンメトリー測定を、ニラコ社製の陰極白金電極を用いて銀/塩化銀参照電極に対して、−0.5〜1.3Vの範囲で100mV/secの挿引速度で電圧を印加し、酸化−還元特性を評価した。その結果を図4に示す。図4で示されるように、実施例1において製造されたπ電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物からなる膜のサイクリックボルタモグラムから酸化/還元による電気化学的な変化が起こっていることが確認された。
【0094】
実施例2
0.02mmol(0.0028g)の1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オン、上記CNT分散液40μl、及び1当量(0.0032g)の塩化第二鉄(FeCl)を1mlのクロロホルムに添加し、室温で30min攪拌して反応させ、π電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物からなる膜を得た。得られた該組成物からなる膜を用いて、−0.5Vの電圧を印加した場合を発色時(脱ドーピング時)、0.5Vの電圧を印加した場合を中間時(半ドーピング時)、1.2Vの電圧を印加した場合を消色時(ドーピング時)として、それぞれの状態のUV−Visスペクトル(紫外可視吸収スペクトル)を測定することにより、当該組成物からなる膜のエレクトロクロミック特性を目視評価した。実施例2において製造されたπ電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物からなる膜の酸化/還元によるエレクトロクロミック特性は実質的に色変化が無く、無色透明であった。
【0095】
比較例1
0.01mmol(0.0014g)の2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン(以下、EDOTと略記することがある)と上記CNT分散液20μlを、0.1Mのテトラブチルアンモニウム過塩素酸塩を含む、1mlの炭酸プロピレン溶液に溶解/分散させた。次いで、ジオマテック社製の陽極ITO電極およびニラコ社製の陰極白金電極を用いて銀/塩化銀参照電極に対して、−0.5〜1.3Vの範囲で100mV/secの挿引速度で電圧を印加し、電気化学的に重合させることにより、ITO電極上にπ電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物からなる膜を形成させた。一方、EDOTを0.1Mテトラブチルアンモニウムパークロレート/プロピレンカーボネート溶液に0.01Mの濃度で溶解させ、ジオマテック社製の陽極ITO電極およびニラコ社製の陰極白金電極を用いて銀/塩化銀参照電極に対して、−1.0〜1.0Vの範囲で100mV/secの挿引速度で電圧を印加し、電気化学的に重合させることにより、ITO電極上にEDOTからなる重合体の膜を形成させた。上記2通りの手法で得られた膜の電気化学的特性、及び光学特性は何ら差異が無く、1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オンを用いた実施例1と比較してπ電子系共役重合体とカーボンナノチューブとが特異的な相互作用を示していないことが確認された。
【0096】
比較例2
0.01mmol(0.0014g)の1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オンを、0.1Mのテトラブチルアンモニウム過塩素酸塩を含む、1mlの炭酸プロピレン溶液に溶解/分散させた。次いで、ジオマテック社製の陽極ITO電極およびニラコ社製の陰極白金電極を用いて銀/塩化銀参照電極に対して、−0.5〜1.3Vの範囲で100mV/secの挿引速度で電圧を印加し、電気化学的に重合させることにより、ITO電極上に1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オン重合体の膜を形成させた。
【0097】
この膜とニラコ社製の陰極白金電極を用いて銀/塩化銀参照電極に対して、−0.5〜1.3Vの範囲で100mV/secの挿引速度で電圧を印加し、酸化−還元特性及び目視によるエレクトロクロミック特性を評価した。その結果を図5に示す。図5で示されるように、比較例2において製造された1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オンを構成単位とする重合体からなる膜のサイクリックボルタモグラムは、実施例1におけるサイクリックボルタモグラムと同じ傾向を示すものであったが、酸化/還元によるエレクトロクロミック特性は濃青色から灰色に変わるものであった。したがって、実施例1のように1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オン重合体とカーボンナノチューブとが特異的に相互作用をしておらず、実質的に無色のまま電気化学的な酸化/還元変化が起こっていない(酸化/還元による電気化学的な変化の際に、無色透明状態を維持することができなかった)ことが示された。
【0098】
比較例3
前記CNT分散液の調製法に従って、CNT濃度が6ppmのCNT分散液を用意し、0.01mmol(0.0014g)の1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オンと前記6ppmのCNT分散液20μlを、0.1Mのテトラブチルアンモニウム過塩素酸塩を含む、1mlの炭酸プロピレン溶液に溶解/分散させた。次いで、ジオマテック社製の陽極ITO電極およびニラコ社製の陰極白金電極を用いて銀/塩化銀参照電極に対して、−0.5〜1.3Vの範囲で100mV/secの挿引速度で電圧を印加し、電気化学的に重合させることにより、ITO電極上にπ電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物からなる膜を形成させた。
【0099】
この膜とニラコ社製の陰極白金電極を用いて銀/塩化銀参照電極に対して、−0.5〜1.3Vの範囲で100mV/secの挿引速度で電圧を印加し、酸化−還元特性及び目視によるエレクトロクロミック特性を評価した。比較例3において製造された1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オン重合体及びカーボンナノチューブを含む組成物のサイクリックボルタモグラムは、実施例1におけるサイクリックボルタモグラムと同じ傾向を示すものであったが、酸化/還元によるエレクトロクロミック特性は濃青色から灰色に変わるものであった。したがって、実施例1のように1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オン重合体とカーボンナノチューブとが特異的に相互作用をしておらず、実質的に無色のまま電気化学的な酸化/還元変化が起こっていない(酸化/還元による電気化学的な変化の際に、無色透明状態を維持することができなかった)ことが示された。これは、1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オン重合体100質量部に対するCNTの含有量が0.01質量部を下回っており、1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オン重合体とカーボンナノチューブとが特異的に相互作用している効果が低かったためと考えられる。
【0100】
比較例4
実施例1の手法に従って、1200ppmのCNT分散液を20μl使用する代わりに0.3ml使用した以外は同じ手法でπ電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物を準備すべく試みたが、溶液中でのCNTの分散状態の悪化、並びにCNT由来の黒色化が顕著であり、評価に適していなかった。これは、1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オン重合体100質量部に対するCNTの含有量が20質量部を上回っており、これ以上のCNTの添加は目的の透明性を損なう可能性が高いため好ましくないことが示された。
【符号の説明】
【0101】
1 第1絶縁性基板
2 表示電極
3 発色層
4 電解質層
5 対向電極
6 第2絶縁性基板
7 スペーサー
8 π電子系共役重合体/カーボンナノチューブ組成物層(電荷補償層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

[式中、Xは、酸素原子、硫黄原子、−NH−及び−NR−(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基)からなる群から選択される少なくとも1種であり、Yは、酸素原子又は硫黄原子であり、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される少なくとも1種である。]
で示される化合物を構成単位とするπ電子系共役重合体、及びカーボンナノチューブを含む組成物であって、π電子系共役重合体100質量部に対するカーボンナノチューブの配合量が0.01〜20質量部であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
下記一般式(1):
【化2】

[式中、X、Y及びZは前記と同義である。]
で示される化合物、支持電解質及びカーボンナノチューブを含む溶液を電気化学的に重合することを特徴とする請求項1記載の組成物の製造方法。
【請求項3】
下記一般式(1):
【化3】

[式中、X、Y及びZは前記と同義である。]
で示される化合物、酸化剤及びカーボンナノチューブを含む溶液を化学酸化重合することを特徴とする請求項1記載の組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の組成物からなる膜。
【請求項5】
請求項4記載の膜が対向電極上に形成されてなる対向電極積層体。
【請求項6】
請求項5記載の対向電極積層体を含むエレクトロクロミック表示素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−184550(P2011−184550A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50823(P2010−50823)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】