説明

うず巻形ガスケット

【課題】十分な強度と柔軟性とを有するフィラー材を備えると共に、高温酸化性雰囲気下で使用しても良好なシール性を発揮するうず巻形ガスケットを提供すること。
【解決手段】フィラー材と、フープ材とを重ね合せてうず巻状に巻いて形成したガスケット本体を備えるうず巻型ガスケットであって、該フィラー材がマイカ片を積層してなり、(i)該マイカ片の平均厚さが1.0〜3.0μmであり、(ii)厚さが4.0μm以下
である該マイカ片の割合が、その総数の90%以上であることを特徴とするうず巻形ガスケット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、うず巻形ガスケットに関し、より詳しくは、ガスケット本体のフィラー材にマイカを使用したうず巻形ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、うず巻形ガスケットは、図1に示すような構成となっている。すなわち、うず巻形ガスケットにおいては、フィラー材1と、断面がV字等の形状の薄い金属テープからなるフープ材2とを重ね合せてうず巻状に巻いて、巻き初めと巻き終りをフープ材2のみにて2〜3周の空巻きを行い、これをスポット溶接などによって固着することによって、ガスケット本体10を形成している。
【0003】
そして、このガスケット本体10の内周縁には、ガイド部材として、環状の金属板からなる内輪リング部材3を嵌合することによって固定している。また、ガスケット本体10の外周縁には、ガイド部材として、環状の金属板からなる外輪リング部材4を嵌合することによって固定している。
【0004】
なお、内輪リング部材3のみを有するものを、内輪付うず巻形ガスケット、外輪リング部材4のみを有するものを、外輪付うず巻形ガスケット、内輪リング部材3および外輪リング部材4の両方を有するものを、内外輪付うず巻形ガスケットと呼んでいる。
【0005】
前記フィラー材1としては、過去には石綿繊維紙が一般的に用いられていたが、世界的な脱石綿化の動きと共に、非石綿フィラーが用いられるようになった。こうして現在では、この非石綿フィラーとして、膨張黒鉛フィラー材やフッ素樹脂フィラー材が一般的に用いられている。しかし、膨張黒鉛フィラー材は400℃以上の酸化性雰囲気下では酸化焼失してしまい、フッ素樹脂フィラー材として最も代表的なPTFEも、その融点327℃よりも高温で使用すると、軟化あるいは熱分解してしまう。すなわち、膨張黒鉛フィラー材やフッ素樹脂フィラー材を用いたうず巻型ガスケットには、高温で使用するとフィラー材の酸化焼失などによりシール性が低下するという問題があった。
【0006】
このような問題点を解決するために、特開平6−249345号公報(特許文献1)には、フィラー材を、平均粒径0.1〜100.0μmの膨潤性雲母(膨潤性ナトリウムふっ素雲母)99.0〜99.7重量%と、無機繊維および/または結合材0.3〜10重量%とからなる組成物で形成したうず巻形ガスケットが開示されている。しかしながら、膨潤性雲母は抄造工程において水もしくは溶剤中で膨潤するため、(1)雲母の分散液の粘度が上昇して抄造が困難になる、(2)雲母自体の強度が低下し、うず巻形ガスケット製造時の巻きつけなどに対してフィラー材の十分な強度を確保するのが困難になる、あるいはうず巻形ガスケットに成形した後も金属フープ材の間からフィラー材が部分的に脱落するなどして、うず巻形ガスケットのシール性が低下するという問題があった。
【0007】
特開平11−351399号公報(特許文献2)には、このフィラー材として、内周部分および外周部分には補強材で補強された有機物量が5%以下のマイカテープを用い、中央部分に膨張黒鉛テープを用いたうず巻形ガスケットが開示されている。このうず巻形ガスケットにおいては、フィラー材をこのように構成したことにより、中央部分に配置された膨張黒鉛テープの酸化消失防止が図られているが、補強材であるクロスから透過漏洩が生じ、また高温で使用した場合に、補強材中の有機バインダや、マイカテープと補強材との接着剤が分解、消失することにより、シール性が低下するという問題があった。また、マイカテープの補強材として用いられる材料のうち、ガラスクロスは一般的に用いられる
が耐蒸気性に乏しく、炭素繊維や有機繊維のクロスは高温時に酸化して劣化を生じ、金属繊維などは柔軟性に欠けるため、補強材で補強されたマイカテープは使用範囲が狭く汎用性に乏しいという問題があった。
【特許文献1】特開平6−249345号公報
【特許文献2】特開平11−351399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記のような従来技術における問題点に鑑みてなされたものであり、十分な強度と柔軟性とを有するフィラー材を備えると共に、高温酸化性雰囲気下で使用しても良好なシール性を発揮するうず巻形ガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究し、マイカ片として、特定の厚さの分布を有する、薄いマイカ片を使用することにより上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
本発明のうず巻形ガスケットは、
フィラー材と、フープ材とを重ね合せてうず巻状に巻いて形成したガスケット本体を備えるうず巻型ガスケットであって、
該フィラー材がマイカ片を積層してなり、
(i)該マイカ片の平均厚さが1.0〜3.0μmであり、
(ii)厚さが4.0μm以下である該マイカ片の割合が、その総数の90%以上である
ことを特徴としている。
【0010】
前記マイカ片のアスペクト比は、130以上であることが好ましい。
前記フィラー材の厚さは、0.2〜1.0mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のうず巻形ガスケットは、十分な強度と柔軟性を有するフィラー材を備えると共に、高温酸化性雰囲気下で使用しても良好なシール性を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のうず巻形ガスケットについてさらに詳細に説明する。
本発明のうず巻形ガスケットは、特定のマイカ片とバインダとを含有するフィラー材と、フープ材とを重ね合せてうず巻状に巻いて形成したガスケット本体を備えている。
【0013】
[フィラー材]
(マイカ片)
前記フィラー材は、マイカ片を積層してなり、
(i)該マイカ片の平均厚さは1.0〜3.0μmであり、
(ii)厚さが4.0μm以下である該マイカ片の割合は、その総数の(すなわち、マイカ片総数の)90%以上、好ましくは95%以上である。
【0014】
なお、本明細書でいうマイカ片には、へき開面の最長幅が20μm以下の微小なマイカ片は含まないものとする。
上記(i)および(ii)で規定されるように、本発明では薄く、厚さの分布が狭いマイ
カ片が使用される。このため本発明のうず巻形ガスケットは、高温の酸化性雰囲気で使用しても高いシール性能を発揮する。
【0015】
より詳細には、本発明で用いられるフィラー材(すなわち、マイカテープ)は、マイカ片として上記のような薄く、厚さの分布が狭いマイカ片が積層した構造を有しているため
、従来のフィラー材(マイカテープ)よりも、所定のフィラー厚の中に積層されるマイカ片の数が多い。このため、本発明で用いられるフィラー材は、強度および柔軟性に優れるものと考えられる。したがって、このフィラー材は補強材を用いることなく使用できるため、補強材からの透過漏洩や補強材の劣化によるうず巻形ガスケットの性能低下の恐れがない。さらに、本発明で用いられるフィラー材(マイカテープ)は、使用されるマイカ片が薄く、しかも厚いマイカ片を実質上含んでいないことから、隙間の少ない緻密な積層構造を有している。このためフィラー材(マイカテープ)の透過漏洩が抑制され、本発明のうず巻形ガスケットは、高温で使用しても劣化が少なく安定して高いシール性能が得られるものと考えられる。
【0016】
また、前記マイカ片のアスペクト比は、好ましくは130以上、さらに好ましくは150以上である。なお、ここでいう「アスペクト比」とは、マイカ片のへき開面の平均最長幅をマイカ片の平均厚さで割った値(平均最長幅/平均厚さ)である。前記マイカ片のアスペクト比が上記範囲にあると、マイカ片が積層してなるフィラー材が、強度および柔軟性に優れる。なお、マイカ片のへき開面の平均最長幅は、湿式ふるい法により測定でき、マイカ片の平均厚さは、その断面の電子顕微鏡写真を撮影することにより測定できる。
【0017】
前記マイカは、膨潤性マイカと非膨潤性マイカに分類することができるが、抄造法によりフィラー材(マイカテープ)を形成する際に、膨潤性マイカを用いるとゲル化して抄造が困難となることがあるため、本発明では、前記マイカとして非膨潤性マイカを使用することが好ましい。
【0018】
また前記マイカとしては、軟質マイカ(フロゴパイト;Phlogopite)が好ましい。軟質マイカはマイカの中でも結晶水分解温度が高いため、軟質マイカを使用したうず巻形ガスケットは、高温での使用に一層適している。
【0019】
厚さの分布に関して上記(i)および(ii)の要件を満たす前記マイカ片は、たとえば

(1)マイカ片をふるいにかけて大まかな分級を行なって、へき開部幅が同程度であるマイカ片を調製した後、
(2)遠心分離などの手段によって、このマイカ片を重量に応じてさらに分類し、厚さが特定の範囲にあるマイカ片を選別する
などの方法より調製することができる。
【0020】
(バインダ)
前記フィラー材は、バインダ成分を含有している。このバインダ成分としては、たとえばメチルシリコーン系バインダ、フェニルシリコーン系バインダ等のシリコーン系のバインダ、あるいは水分散系フェノール樹脂等のフェノール系のバインダが挙げられ、これらの中でもシリコーン系バインダが好ましい。
【0021】
(フィラー材)
本発明で用いられるフィラー材は、前記マイカ片と、前記バインダと、必要に応じて界面活性剤等とを原料として用いて、抄造法などの従来公知の方法によって製造することができる。
【0022】
たとえば、所定量の前記マイカ片を水中に分散させた後、さらに前記バインダを添加してスラリー濃度を適宜調整し、得られたスラリー状物をチェストへ、次いで長網式抄造機や円網式抄造機等の抄造機へと導くことにより、前記マイカ片が積層されてなるフィラー材(マイカペーパー)が形成される。
【0023】
前記マイカ片および前記バインダの量は、好ましくはマイカ片が90重量%以上かつバインダが10重量%以下であり、さらに好ましくはマイカ片が94〜99重量%かつバインダが1〜6重量%である。
【0024】
フィラー材の厚さは、好ましくは0.2〜1.0mm、さらに好ましくは0.3〜0.6mmである。フィラー材の厚さが上記範囲よりも大きいと、フィラー材の柔軟性が低下して、ガスケット本体製造の際の巻きつけ工程においてフィラー材が折れて割れる場合があり、またガスケット本体においてフープ材部分が相対的に減少するために、ガスケット本体の強度が低下し、ガスケット本体が圧壊する場合がある。一方、上記範囲よりも小さいと、フープ材またはフランジシール面に対するフィラー材のなじみ性が低く、うず巻形ガスケットのシール性を確保できない場合がある。
【0025】
[フープ材]
前記フープ材としては、通常のうず巻形ガスケットに用いられるテープ状のフープ材を使用することができる。
【0026】
前記フープ材の材料としては、SUS304、SUS304L、SUS316、SUS316Lなどのステンレス鋼材や、アルミニウム、インコネル、ハステロイ等の単体金属および合金などが挙げられる。
【0027】
前記フープ材の厚みは、ガスケットの寸法や使用用途、要求性能などの条件によっても異なるが、通常は、0.1〜0.3mmの範囲に設定される。
前記フープ材の断面形状は、V字形やM字形などの屈曲線状をなすもののほか、円弧状や波形状などの曲線状のもの、直線部分と曲線部分とが組み合わされているものなども採用できる。
【0028】
[うず巻形ガスケット]
本発明のうず巻形ガスケットは、前記フィラー材と前記フープ材とを従来公知の方法でうず巻状に巻いて形成したガスケット本体を備えている。
【0029】
また前記ガスケット本体においては、前記フィラー材以外のフィラー材が併用されていてもよい。たとえば、内周部および外周部のみに前記フィラー材を使用し、中央部には従来の膨張黒鉛フィラー材を使用してガスケット本体が形成されていてもよい。
【0030】
本発明のうず巻型ガスケットは、さらに前記ガスケット本体の内周に嵌合される内輪リング部材および/または前記ガスケット本体の外周に嵌合される外輪リング部材を備えていてもよい。
【0031】
本発明のうず巻形ガスケットは、上記のような構造であることから、高酸化性雰囲気下でも良好なシール性を発揮するため、石油化学用シール材、石油精製プラント用シール材等の用途に有用である。
【0032】
[実施例]
以下、本発明に係るうず巻形ガスケットを実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0033】
<マイカ片の評価>
(厚さの分布)
マイカ片の電子顕微鏡写真を撮影し、マイカ片(100片)の厚さを測定することにより、マイカ片の厚さの分布を測定した。
【0034】
(アスペクト比)
湿式ふるい法による分級によりマイカ片(100片)の最長幅を測定し、この平均値をマイカ片の厚さの平均値で割った値(平均最長幅/平均厚さ)をアスペクト比とした。
【0035】
[製造例1]
軟質マイカ片A(厚さ4.0μm以下のマイカ片の割合:100%(図2参照)、アスペクト比:163、平均厚さ:2.0μm)94重量%およびバインダ(メチルシリコーン)4重量%を水に分散させ、抄造法により厚さ0.5mmのフィラー材Aを形成した。
【0036】
このフィラー材Aの表面を電子顕微鏡で観察したところ、図3に示すように、薄いマイカ片が滑らかに重なり合っていた。
[製造例2]
軟質マイカ片Aに替えて軟質マイカ片B(厚さ4.0μm以下のマイカ片の割合:69%(図2参照)、アスペクト比:109、平均厚さ:3.2μm)を用いた他は製造例1と同様にして、厚さ0.5mmのフィラー材Bを形成した。
【0037】
このフィラー材Bの表面を電子顕微鏡で観察したところ、図4に示すように厚いマイカ片が部分的に重なり合っていた。
【0038】
【表1】

【0039】
[実施例1]
厚さ0.2mm、幅5.3mmのSUS304製の薄板を、所定のガスケット高さ(4.5mm)となるように断面を略V字状に成形したフープ材と、幅を6.0mmに調整した製造例1のフィラー材とを用いて、内外輪付うず巻形ガスケット(ガスケット寸法:JIS10K25A)を作成した。
【0040】
具体的には、炭素鋼(SPCC)製の内輪の外径側にフープ材の端部をスポット溶接し、フープ材のみ2周巻きつけた後、フィラー材とフープ材とを重ねて巻きつけ、最後にフープ材のみを2周巻きつけて、所定のガスケット幅6.5cmとし、巻きつけたフープ材の外形側の端部はスポット溶接により固定し、さらに炭素鋼(SPCC)製の外輪を装着し、内外輪付うず巻形ガスケットを作成した。
【0041】
<試験方法>
(常温シール性能)
実施例1で作成したうず巻形ガスケットをSUS316L製のフランジ(適用フランジ規格:JIS B 2238)間に装着し、SNB7製のボルトを用いて、ガスケット締め付け面圧が70MPaとなるように段階的に締め付けて供試体を作成した。
【0042】
次いで、この供試体のシール性能を水没法により評価した。すなわち、この供試体のガスケット内径側に、内圧が1.0MPaとなるように窒素ガスを充填し、水中に供試体を10分間静置し、その間に供試体から漏洩した気泡を回収し、その量を測定した。結果を
表2に示す。
【0043】
(加熱後シール性能)
測定後、この供試体を電気炉に入れ、大気中で、420℃で1週間加熱した。加熱後に、この供試体を室温になるまで放冷し、次いで水中に供試体を10分間(10min)静置し、その間に供試体から漏洩した気泡を回収し、その量を測定した。なお漏洩量Qは、
漏洩量Q(ml/min)=採取された気泡の体積V(ml)/10(min)
として算出した。結果を表2に示す。
【0044】
[比較例1]
製造例1のフィラー材に替えて製造例2のフィラー材を使用した以外は実施例1と同様にして内外輪付うず巻形ガスケットを作成し、その常温シール性能および加熱後シール性能を評価した。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、従来のうず巻形ガスケットを示す一部切欠断面図である。
【図2】図2は、製造例1で使用したマイカ片A、および製造例2で使用したマイカ片Bの厚さについてのヒストグラムである。
【図3】図3は、フィラー材(マイカテープ)A表面の電子顕微鏡写真である。
【図4】図4は、フィラー材(マイカテープ)B表面の電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0047】
1・・・フィラー材
2・・・フープ材
3・・・内輪リング部材
4・・・外輪リング部材
10・・・ガスケット本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラー材と、フープ材とを重ね合せてうず巻状に巻いて形成したガスケット本体を備えるうず巻型ガスケットであって、
該フィラー材がマイカ片を積層してなり、
(i)該マイカ片の平均厚さが1.0〜3.0μmであり、
(ii)厚さが4.0μm以下である該マイカ片の割合が、その総数の90%以上である
ことを特徴とするうず巻形ガスケット。
【請求項2】
前記マイカ片のアスペクト比が130以上であることを特徴とする請求項1に記載のうず巻形ガスケット。
【請求項3】
前記フィラー材の厚さが0.2〜1.0mmであることを特徴とする請求項1または2に記載のうず巻形ガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−127178(P2007−127178A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319480(P2005−319480)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【出願人】(591230549)株式会社岡部マイカ工業所 (15)
【Fターム(参考)】