説明

うっ血判定装置、脈波測定装置及びうっ血判定方法

【課題】測定部位がうっ血状態となっていることを判定する技術を提供する。
【解決手段】うっ血判定装置は、生体に装着される装着部位、又は当該生体の脈波を測定する測定部位の姿勢及び動きに応じた物理量を取得する第1取得手段と、前記測定部位に照射された光が当該測定部位を透過又は反射した光の受光量に基づく測定信号を取得する第2取得手段と、前記第1取得手段において取得された前記物理量と前記第2取得手段で取得された前記測定信号とが予め定められた条件を満たす場合に前記測定部位がうっ血状態であると判定する判定手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、うっ血判定装置、脈波測定装置及びうっ血判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、脈波を測定する部位に一定の押圧を加えて内圧波形を測定する圧脈波センサーが開示されている。この圧脈波センサーは、静脈血の還流路を確保すべく、圧脈波センサーの周囲の生体部位と圧脈波センサーとの間に非押圧領域が形成されるように装着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−224064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、腕などの測定部位にベルトを巻きつけて脈波センサーを固定するような場合には、上記特許文献1のように非押圧領域を設けることで、うっ血した状態(以下、うっ血状態という)とならないようにすることができる。しかしながら、測定対象者が腕を下方に長時間垂らしている場合には、測定部位の周辺がうっ血状態となり脈波の測定に悪影響を及ぼす。
本発明は、測定部位がうっ血状態であるか否かを判定する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るうっ血判定装置は、生体に装着される装着部位、又は当該生体の脈波を測定する測定部位の姿勢及び動きに応じた物理量を取得する第1取得手段と、前記測定部位に照射された光が当該測定部位を透過又は反射した光の受光量に基づく測定信号を取得する第2取得手段と、前記第1取得手段において取得された前記物理量と前記第2取得手段で取得された前記測定信号とが予め定められた条件を満たす場合に前記測定部位がうっ血状態であると判定する判定手段とを備えることを特徴とする。この構成によれば、測定部位がうっ血状態であるか否かを判定することができる。
【0006】
また、本発明に係るうっ血判定装置は、上記うっ血判定装置において、前記第1取得手段は、前記装着部位又は前記測定部位の姿勢及び動きに応じた加速度を前記物理量として取得し、前記判定手段は、前記予め定められた条件として、前記第1取得手段が取得した前記加速度に基づく前記装着部位又は前記測定部位の姿勢が重力方向に傾いた姿勢であること、前記加速度の変動幅が予め定められた範囲内であること、及び、非うっ血状態での脈波の測定結果を示す基準信号に対する前記測定信号の振幅の変動幅が予め定められた範囲内であることの各条件を満たすとともに、当該各条件を満たしている状態が一定時間継続していることの条件を満たす場合に前記うっ血状態であると判定することとしてもよい。この構成によれば、測定部位がうっ血状態であるか否かを的確に判定することができる。
【0007】
また、本発明に係るうっ血判定装置は、上記うっ血判定装置において、前記加速度の変動幅に対する前記予め定められた範囲は脈波の測定対象に応じて定められた範囲であることとしてもよい。
この構成によれば、脈波の測定対象となる生体に適した判定を行うことができる。
【0008】
また、本発明に係る脈波測定装置は、上記いずれかのうっ血判定装置と、脈波を測定する測定部位に装着され、当該測定部位に光を照射し、照射した光が当該測定部位を透過又は反射した光の受光量に基づく測定信号を前記うっ血判定装置に出力する受発光手段と、前記うっ血判定装置における判定結果と前記測定信号とに基づいて前記生体の脈波を示す脈波信号を出力する出力手段とを備えることを特徴とする。この構成によれば、うっ血状態に応じた脈波信号を出力することができる。
【0009】
また、本発明に係るうっ血判定方法は、装着された生体の部位における姿勢及び動きに応じた物理量を検出する検出ステップと、脈波を測定する測定部位に光を照射し、当該測定部位を透過又は反射した光の受光量を示す測定信号を出力する測定ステップと、前記検出ステップで検出された前記物理量と、前記測定ステップから出力された前記測定信号とが予め定められた条件を満たす場合に前記測定部位がうっ血状態であると判定する判定ステップとを有することを特徴とする。この構成によれば、測定部位がうっ血状態であるか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る脈波測定装置の外観を表す図である。
【図2】実施形態に係る脈波測定装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】実施形態における制御部の機能ブロックを表す図である。
【図4】実施形態における装着部位の姿勢を説明する図である。
【図5】実施形態に係る脈波測定装置の全体動作を表す動作フロー図である。
【図6】実施形態における判定処理Aの動作フロー図である。
【図7】実施形態における判定処理Bの動作フロー図である。
【図8】(a)は加速度信号の波形例を示す図である。(b)は、(a)の加速度信号に基づく移動標準偏差の波形を示す図である。
【図9】(a)は脈波の測定信号の波形例を示す図である。(b)は、(a)の測定信号に基づく移動標準偏差の波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<構成>
図1は、本実施形態に係る脈波測定装置の外観を示す図である。図1(a)は、脈波測定装置1を上面から見た図である。脈波測定装置1は、生体2の手首に装着される装置本体10と、脈波を測定する測定部位に装着される脈波センサー20とをケーブル30で接続して構成されている。本実施形態では、脈波センサー20は、図1(b)に示すように、人差指の根元の手のひら側にバンド40によって固定される。
【0012】
装置本体10には、ディスプレイ15と脈波測定装置1を操作するための操作スイッチ16が設けられている。また、装置本体10には3軸の加速度センサー17が内蔵されている。加速度センサー17は、加速度を検出する3軸の方向が図1(a)のXYZ軸と一致するように設けられ、加速度センサー17に加わる力によって生じるXYZ軸方向の加速度を検出する。具体的には、図1(a)において、装置本体10の左右方向(手の延在方向)とX軸が対応し、装置本体10の上下方向(手首の幅方向)とY軸とが対応し、XY軸と直交する紙面に垂直な方向(装置本体10のディスプレイ15から手首に向かう方向)とZ軸とが対応する。本実施形態では、装置本体10は、本発明のうっ血判定装置として機能し、装置本体10が装着される手首が装着部位に相当する。以下、脈波測定装置1の各構成を脈波センサー20、装置本体10の順に説明する。
【0013】
図2は、脈波測定装置1の構成を表すブロック図である。脈波センサー20は、受発光部210及び駆動部220有する。受発光部210は、例えば青色光の波長の光を発するLED(Light Emitting Diode)などの発光素子と、青色光の光を受光するフォトダイオードなどの受光素子とを有する。駆動部220は、発光素子の発光強度と発光タイミングを制御する制御信号がアナログ制御回路(不図示)から供給され、この制御信号の振幅に応じた大きさの電流を受発光部210の発光素子に供給する。
【0014】
図1(b)において、測定部位(指)と接触している脈波センサー20の部分には、ガラス板などの光を透過させる透過板(図示略)が設けられており、透過板の下方に受発光部210が設けられている。受発光部210の発光素子は、透過板の方向が光軸方向となるように固定され、受発光部210の受光素子は、透過板の方向に受光面が向くように固定されている。発光素子から発した光は透過板を透過して測定部位に照射され、測定部位から反射した光を透過板を介して受光素子が受光する。受光素子は、受光量に応じた大きさの電流の測定信号をケーブル30を介して装置本体10に送出する。
【0015】
測定部位における血管は、心拍と同周期で膨張と収縮を繰り返しており、血管の膨張と収縮の周期と同じ周期で発光素子から発せられた光の吸収量が増減し、その増減に合わせて反射光の強度が変化する。そのため、受光素子に流れる電流は測定部位における血管の容積変化を示す成分を有するものとなっている。
【0016】
装置本体10は、制御部110、信号処理部120、計時部130、クロック供給部140、表示部150、操作部160、姿勢検出部170、及び記憶部180を有する。制御部110は、CPU(Central Processing Unit)とメモリ(ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory))を有し、ROMに記憶されている制御プログラムをCPUが実行することにより制御部110と接続されている各部を制御する。具体的には、制御部110は、測定部位がうっ血状態か否かを判定する判定処理と、測定部位の状態に応じた脈波信号を出力する出力処理とを行う。制御部110の機能の詳細については後述する。
【0017】
信号処理部120は、第1信号処理部120a(図3)と第2信号処理部120b(図3)とを有する。第1信号処理部120aは、第1取得手段として機能する。第1信号処理部120aは、脈波センサー20の受発光部210から出力される測定信号を取得して増幅するアンプ(図示略)と、増幅した信号を予め定められたサンプリング周波数で量子化するA/D変換回路(図示略)とを有する。第2信号処理部120bは、第2取得手段として機能する。第2信号処理部120bは、後述する加速度センサー17から出力される加速度を示す信号(以下、加速度信号と言う)を取得して予め定められたサンプリング周波数で量子化するA/D変換回路(図示略)を有する。なお、本実施形態において加速度は本発明の物理量の一例である。
【0018】
計時部130は、クロック供給部140の計時クロック信号をカウントして時刻を計時する。クロック供給部140は、発振回路と分周回路とを有し、発振回路によって基準クロック信号を制御部110へ供給するとともに、分周回路により計時用の計時クロック信号を生成して制御部110へ供給する。表示部150は、ディスプレイ15を有し、制御部110の制御の下、計時部130で計時された時刻の情報や脈波を測定するためのメニュー画面、測定結果などの各種画像を表示する。操作部160は、操作スイッチ16を有し、操作スイッチ16が操作された操作信号を制御部110へ送出する。姿勢検出部170は、加速度センサー17を有し、加速度センサー17において検出される各軸方向の加速度を示す加速度信号を出力する。記憶部180は、後述する判定処理に用いられる閾値のデータや波形データなどの各種データを記憶する。
【0019】
次に、制御部110の機能について説明する。図3は、制御部110における判定処理と出力処理の機能を実現するための機能ブロックと他の一部の構成とを表す図である。制御部110は、判定部111と脈波出力部112とを有する。判定部111は、判定手段として機能する。判定部111は、第2信号処理部120bで加速度信号をA/D変換した各データ(以下、加速度データという)に基づいて、装着部位が安静状態(体動を殆ど受けていない状態)であるか否かの判定(以下、第1判定という)と、測定部位がうっ血しやすい姿勢か否か(装着部位が重力方向に傾いた姿勢か否か)の判定(以下、第2判定という)を行うと共に、第1信号処理部120aからの測定信号をA/D変換した各データ(以下、測定データという)に基づいて測定部位における血管の容積の変化が一定以上か否かの判定(以下、第3判定という)を行う。以下、各判定について説明する。
【0020】
第1判定は、第1判定条件に基づいて装着部位が安静状態か否か判定する。第1判定条件は、加速度データに基づいて算出した加速度の変動幅が記憶部180内の閾値以下であることを条件とする。判定部111は、第1判定条件を満たす場合に安静状態と判定する。加速度の変動幅は、本実施形態では、各軸方向の加速度データについての移動標準偏差を用いるが、各軸方向の加速度についての移動平均値など、加速度の変位を表す指標であればこれに限らない。
【0021】
第2判定は、第2判定条件に基づいてうっ血しやすい姿勢か否か判定する。ここで、装着部位の姿勢と各軸方向の加速度との関係について説明する。図4(a)(b)は、測定対象者Aが矢印Pの方向に向いて立っている状態を示している。この図において、XYZ軸は、図1と同様に装置本体10における加速度センサー17の検出軸の方向を示している。図4(a)は、測定対象者Aが装置本体10の装着部位aを水平にしている状態であり、図4(b)は、測定対象者Aが腕を下ろして装着部位aを重力方向に傾けている状態である。
図4(a)の状態では、加速度センサー17は、Z軸方向に重力Gが加わり、検出されるXYZ軸の各加速度成分(ax、ay、az)は、ax=0m/s2、ay=0m/s2、az=9.8m/s2となる。図4(b)の姿勢では、加速度センサー17は、X軸方向に重力加速度が加わり、検出されるXYZ軸の各加速度成分(ax、ay、az)は、ax=9.8m/s2、ay=0m/s2、az=0m/s2となる。このように、装着部位を重力方向に傾けた姿勢となっている場合には、X軸方向の加速度成分は重力加速度に相当する値となる。図4(b)のように、装着部位aを重力方向に傾けた姿勢では指先の方から上腕に向けて血液が戻りにくくなるため、このような姿勢のときはうっ血しやすい。そのため、第2判定条件は、X軸方向の加速度データが重力方向に相当する値となっていることを条件とし、判定部111は、第2判定条件を満たす場合に測定部位がうっ血しやすい姿勢であると判定する。
【0022】
第3判定は、第3判定条件に基づいて測定部位における血管の容積の変化が一定以上か否か判定する。第3判定条件は、測定データから算出した測定信号の変動幅が記憶部180内の閾値以下であることを条件とする。測定信号の変動幅は、本実施形態では、装着部位を水平にした姿勢で体動を殆ど受けていない状態で脈波を測定したときの測定信号(以下、基準信号という)の振幅に対する測定信号の振幅の比である。記憶部180には、この基準信号の波形データが予め記憶されている。判定部111は、第3判定条件を満たす場合に測定部位における血管の容積の変化が一定以上ではないと判定する。上述したように、測定部位における血管は心拍と同周期で膨張と収縮を繰り返し、測定信号は血管の容積変化の成分を含む。うっ血している場合には静脈血が増加するため測定部位における静脈の血管の容積は増加するが、動脈と静脈の血流量が減少することで動脈と静脈の血管の膨張と収縮が弱まり、うっ血していない場合と比べて測定部位における血管の容積の変化量も小さくなる。その結果、うっ血している場合には、測定信号の振幅はうっ血していない場合よりも小さくなる。なお、測定信号の変動幅としては、測定信号の移動標準偏差や移動平均値など、測定信号の振幅の変化を表す指標であればよい。
【0023】
判定部111は、第1判定条件、第2判定条件、第3判定条件を全て満たす場合に、計時部130により計時を開始し、各判定条件を満たしている状態が一定時間継続している場合(第4判定条件)に測定部位がうっ血状態であると判定する。
【0024】
脈波出力部112は、適応フィルタ処理部112aと解析部112bとを有する。適応フィルタ処理部112aは、うっ血状態の場合には、第1信号処理部120aから出力される測定データと、第2信号処理部120bから出力された加速度データを適応フィルタに通して、体動ノイズを除去してその結果を解析部112bに出力し、非うっ血状態の場合には、第1信号処理部120aから出力される測定データの信号を脈波信号として解析部112bに出力する。
【0025】
体動ノイズを除去する適応フィルタは、脈波データを入力信号とし、加速度データを学習信号としたLMS(Least Mean Square)アルゴリズムなどの周知の適応アルゴリズムを用いてもよい。体動除去アルゴリズムの学習信号となる加速度データは、加速度センサー17で検出される加速度信号に基づく各加速度データ(ax,ay,az)から合成加速度a=(ax2+ay2+az21/2を求めた結果であってもよい。また、適応フィルタを2回に分けて使い、1回目にはX軸の加速度成分を学習信号とし、2回目には、X軸の加速度成分を除去した出力を入力信号とし、Y軸の加速度成分を学習信号としても良い。
【0026】
解析部112bは、適応フィルタ部112aに出力された体動ノイズ除去済の脈波信号から脈拍間隔及び脈拍数を計算する。具体的には、解析部112bは、脈拍信号の波形において所定時間毎のFFTを計算し、スペクトルパワーが最も強い周波数を所定時間内の脈波の周波数とする。さらに、その周波数の逆数をもって、所定時間内の平均脈拍間隔を示す情報を表示部150に出力する。
【0027】
<動作例>
以下、本実施形態に係る脈波測定装置1の動作例を説明する。図5は、脈波測定装置1の動作フローを示す図である。脈波測定装置1の制御部110は、操作部160を介して脈波を測定する操作を受付けると(ステップS10:YES)、脈波センサー20において、測定部位に光を照射し、測定部位で反射された光を受光して受光量に応じた測定信号の出力を開始させるとともに、加速度センサー17において、装置本体10の装着部位における加速度を検出して加速度信号の出力を開始させる(ステップS11)。なお、制御部110は、操作部160を介して脈波を測定する操作を受付けなければ(ステップS10:NO)、操作がなされるまで待機する。
【0028】
制御部110は、脈波センサー20及び加速度センサー17から測定信号と加速度信号が出力されると、第1判定、第2判定、及び第3判定を含む判定処理Aを開始する(ステップS12)。ここで、判定処理Aの動作フローを図6に示す。制御部110は、まず第1判定を行う。具体的には、制御部110は、加速度センサー17から出力された加速度信号を第2信号処理部120bにおいてA/D変換し、時系列の各加速度データ(ax,ay,az)を取得してRAMに記憶し、各軸方向の加速度データについて、一定時間ごと(例えば3秒ごと)の移動標準偏差を加速度の変動幅として算出する(ステップS201)。そして、制御部110は、各軸方向の加速度の移動標準偏差が記憶部180内に記憶されている閾値以下である場合には安静状態であると判定し(ステップS202:YES)、ステップS203の第2判定の処理に移行する。
【0029】
制御部110は、各加速度データのうち、X軸方向の加速度データaxが重力加速度に相当する値である場合にはうっ血しやすい姿勢であると判定し(ステップS203:YES)、ステップS204の第3判定の処理に移行する。具体的には、制御部110は、脈波センサー20から出力される測定信号を第1信号処理部120aにおいてA/D変換し、第1信号処理部120aから時系列の各測定データを取得してRAMに記憶する。そして、制御部110は、測定データに基づく測定信号の振幅を求め、記憶部180内の基準信号の波形データを用いて、基準信号の振幅に対する測定信号の振幅の比を測定信号の振幅の変動幅として算出する(ステップS204)。そして、制御部110は、基準信号の振幅に対する測定信号の振幅の比が閾値(1/3乃至1/4)以下である場合(ステップS205:YES)、測定部位における血管の容積の変化が一定以上ではないと判定する。また、制御部110は、ステップS202、ステップS203、ステップS205において否定的な判定を行った場合には(ステップS202:NO、ステップS203:NO、ステップS205:NO)、ステップS206に処理を移行する。
【0030】
制御部110は、第1判定から第3判定までの判定結果を順次メモリに記憶し(ステップS206)、脈波の測定を終了する操作が操作部160を介してなされるまで(ステップS207:NO)、上述したステップS201〜S206の処理を繰り返し行う。制御部110は、脈波の測定を終了する操作が操作部160を介してなされたときに(ステップS207:YES)、処理を終了する。判定処理Aの動作は以上の通りである。図5に戻り、説明を続ける。
【0031】
制御部110は、ステップS12における判定結果をメモリから読み出し、第4判定の判定処理Bを行う(ステップS13)。以下、判定処理Bの動作について説明する。図7は、判定処理Bの動作フローである。制御部110は、ステップS12における判定結果をメモリから読み出し、第1判定から第3判定までの判定結果がいずれも肯定的である場合には(ステップS301:YES)、計時部130により計時を開始する(ステップS302)。そして、制御部110は、所定時間(例えば20秒間)が経過するまで、メモリから判定結果を順次読み出し、読み出した判定結果がいずれも肯定的な判定結果であるか否か確認する(ステップS303、ステップS304:NO)。制御部110は、所定時間が経過するまでいずれの判定結果も肯定的である場合、所定時間が経過した際に測定部位がうっ血状態であると判定する(ステップS303:YES、ステップS305)。また、制御部110は、ステップS301又はステップS303において第1判定から第3判定までの判定結果がいずれも肯定的でない場合(ステップS301:NO又はステップS303:NO)、非うっ血状態であると判断して(ステップS306)、判定処理Bを終了する。判定処理Bの動作は以上の通りである。以下、図5に戻り説明を続ける。
【0032】
制御部110は、ステップS13の判定処理Bの判定結果に基づいて脈波信号を出力する処理を行う(ステップS14)。具体的には、制御部110は、ステップS13においてうっ血状態であると判断した場合には、うっ血状態と判断した期間の各加速度データ(ax,ay,az)から合成加速度aを算出し、合成加速度aにフィルタ係数列wを畳み込んだ演算結果をノイズ波形として生成する。そして、制御部110は、第1信号処理部120aから出力される測定データの波形信号からノイズ波形信号を減算した結果を脈波信号とし、ノイズ成分を含まない脈波信号となるようにフィルタ係数列wを更新する。また、制御部110は、ステップS13において非うっ血状態であると判断した場合には、非うっ血状態であると判断した期間の測定データの波形信号を脈波信号とする。制御部110は、ステップS14において特定した脈波信号の波形におけるピークの時間間隔を脈拍間隔とし、脈拍信号の波形において所定時間毎のピークの出現頻度を脈拍数として検出し、検出した脈拍間隔と脈拍数とを示す画像を表示部150に表示させる(ステップS15)。
【0033】
上記したように、本実施形態では、加速度センサー17からの出力信号と脈波センサー20からの出力信号とに基づいて測定部位がうっ血状態か否か判定する。このように、加速度と脈波の測定結果とからうっ血状態を判定できることは、発明者らの以下の実験結果にも現われている。
【0034】
図8(a)及び図9(a)は、脈波測定装置1を用いて脈波の測定を行ったときの加速度信号と測定信号の波形を表す図である。この例では、脈波測定装置1を装着した測定対象者が、最初の30秒間は安静状態で装着部位を略水平にした姿勢をとり(期間A)、その後60秒間は装着部位を下に向けて指先を重力方向に向けたうっ血しやすい姿勢をとり(期間B)、その後40秒間は装着部位を下に向けた状態で手を前後に振る動作を行い(期間C)、最後の20秒間は安静状態で装着部位を略水平にした姿勢をとる(期間D)という一連の動作を行った。
【0035】
図8(a)において、加速度「700〜750」は重力加速度に相当する値であり、加速度「512」付近が加速度センサー17の3軸の原点に相当する値である。期間Aでは、Z軸方向の加速度成分が重力加速度に相当する値で推移し、X軸の加速度成分は原点付近の値で推移している。Y軸の加速度成分値は512よりやや下回り、測定装置が装着されて肘が少しねじれていることを示している。期間Aから期間Bに移行した時(30秒)には各軸方向の加速度は大きく変動し、その後はいずれの軸方向の加速度もほとんど変動していない。期間Bでは、装着部位を下に向けて指先を重力方向に向けたため、X軸に重力加速度がかかり、ほぼ重力加速度に相当する値で推移している。Y軸、Z軸の加速度成分が512より高い水準で推移しているのは、Y軸とZ軸とが成す平面が少し傾いて、完全に水平になっていないことを示している。この状態は、図8(b)に示す、図8(a)の加速度について算出した移動標準偏差の波形にも現われている。すなわち、図8(b)において、装置本体1の装着部位を水平にした姿勢から重力方向に傾けた姿勢となったとき、手を傾けたときの力の方向に応じて3軸の各加速度成分は大きく変動し、移動標準偏差も大きな値となる。手を重力方向に傾けた後は手は動かされていないため、どの軸方向の加速度成分も殆ど変化なく低いレベル(0〜5)で推移している。期間Bから期間Cに移行すると、期間Bにおける3軸の加速度成分の大小関係を維持した状態で、手を振る力の大きさに応じて各軸方向の加速度及び移動標準偏差は変動している。期間Cから期間Dに移行すると、期間Aと同様にZ軸方向の加速度成分が重力加速度に相当する値で推移している。
【0036】
一方、図9(a)に示す脈波の測定信号の波形は、図8(a)に示す各期間における加速度に応じた波形となっている。具体的には、期間A、Dは安静状態であるため、この期間における測定信号は一定周期で安定した波形となっており、これらの期間ではうっ血していない。期間Aから期間Bに移行後、振幅が徐々に小さくなっている。期間Bは、図8(a)に示すように装着部位を重力方向に向けたうっ血しやすい姿勢且つ安静状態である。この状態は血液還流が鈍くなるため、静脈血に含まれる還元ヘモグロビンの増加により、発光素子から発せられる光に対する吸収量が増え、反射光量が減少する。また、動脈と静脈の血流量が減少することにより血管の膨張と収縮が弱まるので、血管の容積変化を表す脈波振幅が小さくなり、その結果、期間Aよりも振幅が1/3乃至1/4以下となっている。この現象は、図9(b)に示す、図9(a)の波形データについての移動標準偏差の波形にも現われている。移動標準偏差は、測定部位における皮下血管内の血液の厚みの変化量を表す。つまり、うっ血していない場合には、心拍のリズムに沿って、動脈血は上腕から測定部位を通過して指先へ向かい、静脈血は指先から測定部位を通過して上腕へ流れるが、うっ血状態になると動脈及び静脈の血液量の変化が小さくなるため移動標準偏差の振幅が小さくなる。従って、期間B(30秒〜80秒)ではうっ血状態となっていることが分かる。
次に、期間Cは、うっ血しやすい姿勢で手を前後に振る動作を行っているため、図8(a)の波形で示すように体動によって加速度が大きく変動し、測定信号も体動の影響を受けて安静状態よりも振幅が大きく変動して波形が乱れているが、手を振る動作によって血液が流れやすくなりうっ血状態とはなっていない。
【0037】
上述した実施形態では、装置本体10が装着された装着部位の動きや姿勢に応じた加速度と、測定部位を流れる血液の量に応じて変化する測定信号の振幅とに基づいて、測定部位がうっ血状態となっているか否かを判定することができる。また、うっ血状態の場合には、うっ血状態によるノイズ成分が除去された脈波信号を出力するためより正確に脈波を測定することができる。
【0038】
<変形例>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、以下のように変形させて実施してもよい。また、以下の変形例を組み合わせてもよい。
【0039】
(1)上述した実施形態では、安静状態であるか否かを判定するための閾値が記憶部180に記憶されている例を説明したが、測定対象となる生体に応じた閾値が記憶されていてもよいし、記憶部180内の閾値を利用者が操作部160を介して調整できるように構成してもよい。測定対象によっては安静状態にしようとしても震えなどの体動が生じる場合があるため、測定対象ごとに閾値を調整できるようにすることで、より正確に安静状態であるか否かを判定することができる。
【0040】
(2)上述した実施形態では、装置本体10の側に加速度センサー17が設けられている例を説明したが、例えば脈波センサー20を収納する筐体などに加速度センサー17が設けられていてもよい。この場合、装置本体10とケーブル30を介して加速度センサー17からの加速度信号を取得するように構成する。
【0041】
(3)上述した実施形態では、受発光部210は、青色光の波長の光を発する発光素子と発光素子が発した光を受光する受光素子とで構成される例を説明したが、発光素子が発する光は、緑色光、赤外光、近赤外光などでもよい。
【0042】
(4)上述した実施形態における脈波センサー20は、測定部位に照射した光の反射光を受光する例を説明したが、測定部位に照射して透過した光を受光するように構成してもよい。
【0043】
(5)上述した実施形態では、姿勢検出部170において3軸の加速度センサー17を有し、3軸の加速度センサー17において装着部位の姿勢や動きに応じた物理量を検出する例を説明したが、物理量を検出するセンサーとしては2軸の加速度センサーやジャイロセンサーを用いるようにしてもよい。
【0044】
(6)上述した実施形態では、脈波測定装置1は、装置本体10と脈波センサー20とをケーブル30で接続して構成される例であったが、装置本体10と脈波センサー20とを一体に構成して、例えば測定対象者の手首に装着するようにしてもよい。
【0045】
(7)上述した実施形態では、装置本体10は腕時計のように手首に装着する例を説明したが、装置本体10は、例えば携帯電話機や携帯情報端末などの装置でもよい。この場合、装置本体10と脈波センサー20とを無線通信により接続するように構成してもよい。
【0046】
(8)上述した実施形態では、脈波測定装置1を例に説明したが、装置本体10の信号処理部120と制御部110の機能を有するうっ血判定装置において、生体に装着された姿勢検出部170と脈波センサー20から、装着部位又は測定部位における加速度、測定部位における測定信号を無線又は有線通信により取得し、取得した加速度と測定信号とを用いて測定部位がうっ血状態であるか否か判定するようにしてもよい。
【0047】
(9)上述した実施形態では、脈波センサー20が装着される測定部位は人差指の例を説明したが、手の甲、手首、上腕でもよい。
【符号の説明】
【0048】
1・・・脈波測定装置、10・・・装置本体、15・・・ディスプレイ、16・・・操作スイッチ、17・・・加速度センサー、20・・・脈波センサー、30・・・ケーブル、40・・・バンド、110・・・制御部、111・・・判定部、112・・・脈波出力部、112a・・・適応フィルタ処理部、112b・・・解析部、120・・・信号処理部、120a・・・第1信号処理部、120b・・・第2信号処理部、130・・・計時部、140・・・クロック供給部、150・・・表示部、160・・・操作部、170・・・姿勢検出部、180・・・記憶部、210・・・受発光部、220・・・駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に装着される装着部位、又は当該生体の脈波を測定する測定部位の姿勢及び動きに応じた物理量を取得する第1取得手段と、
前記測定部位に照射された光が当該測定部位を透過又は反射した光の受光量に基づく測定信号を取得する第2取得手段と、
前記第1取得手段において取得された前記物理量と前記第2取得手段で取得された前記測定信号とが予め定められた条件を満たす場合に前記測定部位がうっ血状態であると判定する判定手段と
を備えることを特徴とするうっ血判定装置。
【請求項2】
前記第1取得手段は、前記装着部位又は前記測定部位の姿勢及び動きに応じた加速度を前記物理量として取得し、
前記判定手段は、前記予め定められた条件として、前記第1取得手段が取得した前記加速度に基づく前記装着部位又は前記測定部位の姿勢が重力方向に傾いた姿勢であること、前記加速度の変動幅が予め定められた範囲内であること、及び、非うっ血状態での脈波の測定結果を示す基準信号に対する前記測定信号の振幅の変動幅が予め定められた範囲内であることの各条件を満たすとともに、当該各条件を満たしている状態が一定時間継続していることの条件を満たす場合に前記うっ血状態であると判定することを特徴とする請求項1に記載のうっ血判定装置。
【請求項3】
前記加速度の変動幅に対する前記予め定められた範囲は脈波の測定対象に応じて定められた範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載のうっ血判定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のうっ血判定装置と、
脈波を測定する測定部位に装着され、当該測定部位に光を照射し、照射した光が当該測定部位を透過又は反射した光の受光量に基づく測定信号を前記うっ血判定装置に出力する受発光手段と、
前記うっ血判定装置における判定結果と前記測定信号とに基づいて前記生体の脈波を示す脈波信号を出力する出力手段と
を備えることを特徴とする脈波測定装置。
【請求項5】
装着された生体の部位における姿勢及び動きに応じた物理量を検出する検出ステップと、
脈波を測定する測定部位に光を照射し、当該測定部位を透過又は反射した光の受光量を示す測定信号を出力する測定ステップと、
前記検出ステップで検出された前記物理量と、前記測定ステップから出力された前記測定信号とが予め定められた条件を満たす場合に前記測定部位がうっ血状態であると判定する判定ステップと
を有するうっ血判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−94222(P2013−94222A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236943(P2011−236943)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】