説明

う蝕予防剤

【課題】新規な歯根面う蝕予防剤及びこれを含む口腔用組成物を提供する。
【解決手段】フラバノン類及び/又はその配糖体、例えば、ヘスペリジンからなる歯根面う蝕予防剤。および、該歯根面う蝕予防剤を配合してなる、好ましくは、塗布剤の口腔用組成物。該歯根面う蝕予防剤及び該口腔用組成物は、歯根面の象牙質に発生するう蝕における象牙質のコラーゲン分解を阻害し、さらに象牙質のミネラル溶出(脱灰)を抑制し、かつ再石灰化を促進する効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯根面う蝕予防剤に関し、詳細には、歯根面の象牙質に発生するう蝕における象牙質のコラーゲン分解を阻害し、さらには象牙質のミネラル溶出(脱灰)を抑制し、かつ象牙質の再石灰化を促進することを特徴とする歯根面う蝕予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕は、歯表面にある歯垢(プラーク)内の微生物(特にストレプトコッカス・ミュータンス)が飲食物中の糖を代謝して酸を生成し、この酸が歯のミネラルを溶出し侵食することによって発生する。
【0003】
このう蝕を予防するための技術としては、従前より歯表面へのプラークの付着防止や、歯表面に付着したプラークの除去(ブラッシング)、殺菌剤や抗菌剤等によるプラーク中の微生物の死滅化、又は砂糖等の摂取調節或いは代替糖の摂取等、微生物による歯のミネラル溶出を防ぐことに着目したう蝕予防が主流となっている。
【0004】
しかしながら、このようなう蝕予防は一般に歯エナメル質に発生するう蝕に対して行われるものであり、歯根面の象牙質に発生するう蝕(歯根面う蝕)に対しては必ずしも同じように有効とはならない。
【0005】
なぜならば、歯根面の象牙質に発生するう蝕は、口腔内の微生物が産生する酸によりミネラルが溶け出すことだけではなく、この象牙質に多量に含まれる有機質であるコラーゲンの分解が起こることがその進行の原因と考えられており(非特許文献1,2)、有機質をほとんど含まない歯エナメル質に発生するう蝕とは基本的に異なるものだからである。事実、歯根面の象牙質から実際にコラーゲン分解酵素の活性が確認されたという報告もある(非特許文献3〜5)。
【0006】
これにより、たとえ歯質ミネラルの溶出を単に防いだとしても、象牙質コラーゲンの分解が進行すれば歯根面のう蝕はさらに悪化することになる。このコラーゲンが分解されてしまえば、逆にミネラルが沈着する際の足場材も失うことになるため、再石灰化も生じにくくなり、う蝕の治癒又は回復においても非常に不利となる。
【0007】
したがって、歯根面の象牙質に発生するう蝕を予防するためには、象牙質コラーゲンの分解を抑制しなければならず、その上でさらにミネラルの溶出(脱灰)を抑制し、そしてそのミネラルの再吸収(再石灰化)を促進することが必要となる。
【0008】
このような観点から歯根面う蝕の予防に対する研究はほとんどなされておらず、これまでに歯根面のう蝕を対象としたものとしては、例えば水溶性アルミニウム化合物、フッ化物及び水溶性カルシウム化合物を配合する口腔用組成物が挙げられる(特許文献1,2)。しかしながら、これらは歯根面の露出により生じる象牙質の知覚過敏を抑制すると同時にフッ化物の効果によりう蝕を抑制するものであり、象牙質のコラーゲン分解についてはなんらの記載もされていない。
【0009】
また、口腔内におけるコラーゲンの分解阻害については、例えばマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)阻害の効果を有するものとして、ドキシサイクリンのようなテトラサイクリン系抗生物質が示されている(非特許文献6)。しかし、これらは歯周炎や歯肉炎等の歯周病の治療又は予防に有用なものであるとされており、脱灰や再石灰化に関する効果や歯根面のう蝕への有効性に関しては特に具体的に示されてはいない。さらには合成物質であるテトラサイクリン系抗生物質特有の副作用や体内での耐性菌の出現リスクを考慮すれば、これら抗生物質を長期間口腔に適用させることは好ましくない。
【0010】
これに対して、天然物由来のMMPs阻害剤については、ヒノキチオール(特許文献3)、アビエチン酸(特許文献4)、ヒスチジン(特許文献5)、フラボン類又はアントシアニジン類(特許文献6)のようなものが開示されているが、これらについてもいずれも歯周組織に対する効果しか示されておらず、歯根面のう蝕による象牙質のミネラル溶出の抑制等に関しては、なんらの記載も提案もされてはいない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、歯根面の象牙質に発生するう蝕における象牙質のコラーゲン分解を阻害し、さらには象牙質のミネラル溶出(脱灰)を抑制し、かつ再石灰化を促進することを特徴とする歯根面う蝕予防剤及びこれを含む口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、フラバノン類及び/又はその配糖体を適用させることにより、歯根面のう蝕による歯の象牙質のコラーゲン分解が効果的に阻害され、さらには象牙質のミネラル溶出(脱灰)が相乗的に抑制され、かつ再石灰化が促進されることを見出し、歯根面う蝕予防剤として本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、下記の態様を含むものである。
項1.フラバノン類及び/又はその配糖体からなる歯根面う蝕予防剤。
項2.フラバノン類及び/又はその配糖体がヘスペリジンであることを特徴とする項1に記載の歯根面う蝕予防剤。
項3.項1又は2に記載の歯根面う蝕予防剤を配合してなる口腔用組成物。
項4.塗布剤であることを特徴とする項3に記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の歯根面う蝕予防剤は、フラバノン類及び/又はその配糖体を有効成分とすることによって、歯根面の象牙質に発生するう蝕における象牙質のコラーゲン分解を阻害し、かつ象牙質の脱灰を抑制し、かつ再石灰化を促進することが可能となる。さらには、本発明に係る歯根面う蝕予防剤を配合することにより、口腔分野における歯根面う蝕予防用口腔用組成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、各条件の牛歯根部象牙質ブロックに対する再石灰化効果を示したマイクロラジオグラフである。
【図2】図2は、「コラゲナーゼ」の牛歯根部象牙質ブロックを再石灰化処理した場合のマイクロラジオグラフの画像解析から得られたミネラルプロファイルである。
【図3】図3は、「コラゲナーゼ+HPN」牛歯根部象牙質ブロックを再石灰化処理した場合のマイクロラジオグラフの画像解析から得られたミネラルプロファイルである。
【図4】図4は、「コラゲナーゼ+フィチン酸」牛歯根部象牙質ブロックを再石灰化処理した場合のマイクロラジオグラフの画像解析から得られたミネラルプロファイルである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明をさらに詳細に説明する。
【0019】
本発明に係る歯根面う蝕予防剤は、歯根面の象牙質に発生するう蝕の予防に用いるものである。歯根面とは、一般に、歯肉に包埋された歯牙の根元部分(歯根)の表面であり、エナメル質で覆われていない部分を示すものである。歯根面う蝕とは、この歯根面に集中的に発生するう蝕であることを言い、例えば、歯周病等の歯肉退縮によって歯根面が露出したときによく発生すると言われている。また、歯根面う蝕は、エナメル質で覆われていない象牙質に発生することから、象牙質う蝕とも言われている。
【0020】
本発明に用いるフラバノン類及び/又はその配糖体は、その化学構造の基本骨格として2−フェニルクロマノン骨格を持つもので、特に限定されるものではなく、合成品あるいは天然物由来品として得られるものであればよい。これについては、ヘスペリジン、ヘスペレチン、ネオヘスペリジン、エリオシトリン、ネオエリオシトリン、アロマデンドリン、タキシホリン、アンペロプシン、アスチルビン、ピノバンクシン、エンゲリチン、ピノセンブリン、ナリルチン、ナリンギン、ナリンゲニン、サリプルピン、プルニン、サクラニン、サクラネチン、イソサクラネチン、エリオジクチオール、マットイシノール、シリビン、及びイソシリビン等が挙げられ、これらの配糖体や光学異性体やメトキシ基、メチル基等を導入したものが挙げられる。その中でもヘスペリジン、ヘスペレチンが好ましく、その中でも特にヘスペリジンが好ましい。また、フラバノン類及び/又はその配糖体は、これらを1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0021】
本発明において、ヘスペリジンとは、ヘスペレチン(5,7,3’−トリヒドロキシ−4’−メトキシフラバノン)の7位の水酸基にルチノース(L−ラムノシル−(α1→6)−D−グルコース)がβ結合したもののことである。このヘスペリジンは、フラバノン類の中でもフラボノイドの一種であり、温州ミカン(Citrus unshiu)やオレンジ(Citrus aurantium L)等の柑橘類の外皮から抽出・単離されたものを用いることができ、毛細血管の透過性強化、出血予防、血圧調整等の生理作用を有するビタミンPとして、また消炎・鎮痛作用あるいは動脈硬化、高血圧等を改善する作用を有する物質として医薬品、化粧品等に供することができる。また、ヘスペリジンは、他のフラボノイドと比較すれば、好塩基球細胞の脱顆粒をほとんど抑制せず、結腸細胞の機能に対する作用も弱いため、細胞自体に及ぼす直接的な作用も弱いと考えられており、そのため副作用の心配もない。本発明に用いるヘスペリジンは、和光純薬工業株式会社(商品名「ヘスペリジン」)等から商業的に入手できる。
【0022】
このヘスペリジンは、ヘスペレチンをアグリコンとし、これに糖が結合した配糖体を構成するものであるが、これに、さらにグルコース、マルトース、フルクトース、ラムノース、ラクトース等の糖が結合したヘスペリジン糖付加物等も存在しており、これらのヘスペリジン糖付加物も用いることができる。このヘスペリジン糖付加物は、東洋精糖株式会社(商品名「αG−ヘスペリジン PA−T」)等から商業的に入手できる。
【0023】
本発明においては、さらにイノシトールリン酸類も用いることができる。本発明に用いるイノシトールリン酸類については、特に限定されるものではなく、例えばイノシトール1リン酸、イノシトール2リン酸、イノシトール3リン酸、イノシトール4リン酸、イノシトール5リン酸、イノシトール6リン酸(フィチン酸)等が挙げられる。その中でも特にフィチン酸が好ましい。また、イノシトールリン酸類は、これらを1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0024】
本発明のフィチン酸は、フィチン酸そのものを含むフィチン酸化合物であれば特に限定されるものでもなく、その遊離酸基を塩基で中和したものやエステル化したもの等も用いることができる。具体的なフィチン酸化合物としては、例えば、フィチン酸、フィチン酸ナトリウム、フィチン酸カリウム、フィチン酸リチウム、フィチン酸マグネシウム、フィチン酸カルシウム、フィチン酸アンモニウム、フィチン酸のエタノールアミン中和物、フィチン酸とアルコールのエステル類等が挙げられる。
【0025】
本発明には、さらにステロイド類も用いることができる。本発明に用いるステロイド類は、特に限定されるものではなく、例えばヒドロコルチゾン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロンアセトニド、フルオシノロンアセトニド、酢酸ヒドロコルチゾン、酢酸プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、酢酸デキサメタゾン、ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、フルメタゾン、フルオロメトロン、プロピオン酸ベクロメタゾン、フルオシノロン、アムシノニド、吉草酸酢酸プレドニゾロン、吉草酸デキサメタゾン、酢酸コルチゾン、酢酸ジフロラゾン、ジフルプレドナート、ジプロピオン酸ベタメタゾン、デスオキシメタゾン、ハルシノニド、ビバル酸フルメタゾン、ファルネシル酸プレドニゾロン、ブデソニド、フランカルボン酸モメタゾン、フルオシノニド、フルドロキシコルチド、酢酸フルオシノロンアセトニド、プロピオン酸アルクロメタゾン、プロピオン酸クロベタゾール、プロピオン酸デキサメタゾン、プロピオン酸デプロドン、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、メチルプレドニゾロン等が挙げられる。この中でも、ヒドロコルチゾン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロンアセトニド、フルオシノロンアセトニド、酢酸ヒドロコルチゾン、酢酸プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、酢酸デキサメタゾン、ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、フルメタゾン、フルオロメトロン、プロピオン酸ベクロメタゾンが好ましく、その中でも特にヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾンが好ましい。また、ステロイド類は、これらを1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0026】
本発明には、さらにビグアナイド系薬剤も用いることができる。本発明に用いるビグアナイド系薬剤は、特に限定されるものではなく、例えばビグアナイド系薬剤としては、クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、酢酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン等のクロルヘキシジン類等を挙げることができる。この中でも、クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、酢酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジンが好ましく、その中でも特にグルコン酸クロルヘキシジンが好ましい。また、グルコン酸塩は、これらを1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0027】
本発明には、さらにシステイン誘導体も用いることができる。本発明に用いるシステイン誘導体は、システイン自体を含むものではなく、特に限定されるものではないが、例えばN−アセチル−L−システイン、DL−ホモシステイン、L−システインメチルエステル、L−システインエチルエステル、N−カルバモイルシステイン、システアミン、システインの2量体であるシスチン及びこれらの塩酸塩等の塩類が挙げられる。その中でも特にエチルシステイン及びメチルシステイン又はこれらの塩が好ましい。また、システイン誘導体は、これらを1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0028】
本発明には、さらにブドウ種子エキスも用いることができる。本発明に用いるブドウ種子エキスは、本発明の所期の効果を得られるものであれば、特に限定せずに使用することができる。例えば、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)の種子を原料として抽出等により得ることができる。ブドウ種子エキスを抽出する抽出溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;酢酸エチルエステル等の低級アルキルエステル;ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素;その他エチルエーテル、アセトン、酢酸等の公知の溶媒を挙げることができる。これら溶媒は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて使用することもでき、通常用いられているような公知の抽出方法を採用することができる。
【0029】
本発明のブドウ種子エキスは、抽出液をそのまま用いてもよく、減圧乾燥、凍結乾燥等の通常の手段により濃縮、あるいは乾固して用いてもよい。また、抽出液を向流分配法、液体クロマトグラフィー等を用いて精製して使用することもできる。本発明に用いるブドウ種子エキスは、キッコーマン株式会社(商品名「グラヴィノール」)、インディナ社(商品名「ロイコセレクト」)等から商業的に入手できる。
【0030】
本発明には、さらにナフトキノン類も用いることができる。本発明に用いるナフトキノン類、特に限定されるものではなく、例えばジュグロン、ローソン、フィロキノン、メナキノン、メナジオン、プルンバギン、フチオコール、エキノクロムA、アルカニン、シコニン等が挙げられる。その中でも特にジュグロンが好ましい。また、ナフトキノン類は、これらを1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0031】
これらの本発明に用いる歯根面う蝕予防剤は、歯牙の審美性又はう蝕の治癒・回復への影響等も考慮して象牙質のみならずエナメル質に対しても、着色、変色、変質、変性等を生じさせないものであることが好ましい。
【0032】
本発明では、これらの歯根面う蝕予防剤をそれぞれ単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。これらは、自体公知の方法により、必要に応じて種々の公知成分を配合し、塗布剤、バーニッシュ剤、軟膏剤、パスタ剤、ゲル剤、貼付剤分散系ペースト外用剤、液体外用剤、洗口剤、含漱剤等の外用剤組成物として提供でき、また、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル、液剤、シロップ、ドライシロップ、吸入剤、口腔内崩壊剤、ロゼンジ、トローチ剤、ドロップ剤等の内服組成物としても提供することができる。これらの外用剤組成物及び内服組成物は、通常の製造方法によって製造することができ、特に口腔用に用いられるのが好ましい。
【0033】
これらの組成物の中でも、歯根面のう蝕という局部の疾患に対し、患部への薬剤到達量が高く、効果的な剤型を考えれば、局部外用剤として使用できる口腔用組成物であることが好ましく、特に口腔内において唾液等により洗い流されにくいようなコーティング剤様の塗布剤が好ましい。その他、本発明の歯根面う蝕予防剤を用いて口腔用組成物とする場合には、歯磨剤(練歯磨、液体歯磨、液状歯磨等)、洗口剤、口腔用ゲル剤、スプレー製剤等の形態でも提供することができる。また、本発明に係る歯根面う蝕予防剤は、組成物の全量に対して0.0001〜10重量%、好ましくは0.001〜5重量%配合することにより、効果的に象牙質コラーゲンの分解を抑制し、かつミネラル溶出(脱灰)も防ぐことができる。歯根面う蝕予防剤の配合量が0.0001重量%よりも少ない場合は満足する効果が得られず、一方10重量%よりも多い場合は製剤上或いはコスト的にも不利である。かかる口腔用組成物も本発明の範囲内である。
【0034】
本発明の歯根面う蝕予防剤を用いて塗布剤とする場合には、コーティング用基剤に含まれるセラック、メタアクリル酸コポリマー、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、アミノアルキルメタアクリレートコポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボシキメチルエチルセルロース、ゼイン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、フマル酸・ステアリン酸・ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート・ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910混合物、カルボキシルビニルポリマー等を用いることができる。これらの配合量は適宜設定することができるが、通常、組成物全量に基づいて0.0001〜70重量%程度を配合できる。
【0035】
さらに本発明の歯根面う蝕予防剤を用いて塗布剤とする場合には、小筆、刷毛、スポンジ、ローラー、シリンジ、スプレー、霧吹き、極細繊維を使用した拭き取り材、歯磨成分を含浸させた棒状の清掃具あるいはシート、テープ状の清掃具、またチューイング刷掃される歯磨剤、ペン型アプリケーター等を利用することもできる。
【0036】
また、塗布剤とする場合は、上記の成分以外にも他の成分を配合することができ、例えば、粘稠剤、界面活性剤、甘味剤、香味剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0037】
例えば、粘稠剤としては、エタノール、グリセリン、ソルビット、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、パラチニット等を、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて配合することができる。
【0038】
界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて配合できる。
【0039】
甘味剤としては、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、グリチルリチン、キシリット、スクラロース、キシリトール、パラチノース、パラチニット、エリスリトール、マルチトール等を配合することができる。これらの甘味剤は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて配合することができる。
【0040】
香味剤としては、メントール、アネトール、オイゲノール、リモネン、ペパーミントオイル、スペアミントオイル、シオネール、チモール、シトロネロール等が挙げられる。これらの香味剤は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて配合することができる。
【0041】
その他、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム等のフッ素化合物;デキストラナーゼ、ムタナーゼ、アミラーゼ等の酵素;酢酸−dl−α−トコフェロール、アスコルビン酸又はその塩等のビタミン類;トラネキサム酸、ε−アミノカプロン酸、アラントイン、グリチルリチン酸類、グリチルレチン酸、クロルヘキシジン塩類、トリクロサン、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等の他の有効成分や、パラベン類等の防腐剤、着色剤、pH調整剤等を、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて配合することができる。これら成分の配合量も、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、各例中の配合量は、特に規定がない限り重量%を示す。
【0043】
<象牙質のコラーゲン分解に対する阻害効果及び象牙質の脱灰抑制効果の測定>
測定用検体として冷蔵保存の牛歯根部を用い、これを切断して歯科用レジンに包埋した。歯表面は研磨紙にて研磨した後、1.0mMリン酸で10秒撹拌し水道水でよく漱いだ。歯表面を一定面積露出させ、歯表面が乾ききらないように水滴を滴下しておき、これを牛歯根部象牙質ブロックとして実験に供した。
【0044】
牛歯根部象牙質ブロックを脱灰液(塩化カルシウム:1.5mM、リン酸2水素カリウム:0.9mM、酢酸:50mM、pH5.0)に37℃で16時間浸漬した後、再石灰化液(塩化カルシウム:1.5mM、リン酸2水素カリウム:0.9mM、塩化カリウム:130mM、HEPES:20mM、pH7.0)に37℃で8時間浸漬し、これを8日間繰り返し行った。再石灰化液の方にコラゲナーゼを5.5μg/mLになるように加え、さらに各種被検化合物を2mg/mLになるように加えた。
【0045】
各種被検化合物による象牙質コラーゲンの分解阻害効果を調べるため、上記の操作により得られた8日後の再石灰化液に含まれるコラーゲン量を、コラーゲンに一定量含有されるヒドロキシプロリンを指標としてアミノ酸分析装置(DIONEX アミノ酸分析システム DXA−500)を用いて測定した。コラーゲン分解阻害率(%)は、各種測定値を、被検化合物を加えなかった再石灰化液(コントロール)のコラーゲン量測定値で割ったものを用い、100%からこれを減じたものとした。評価基準としては、以下の通りとした。
5:コラーゲン分解阻害率が75%以上
4:コラーゲン分解阻害率が60%以上75%未満
3:コラーゲン分解阻害率が45%以上60%未満
2:コラーゲン分解阻害率が30%以上45%未満
1:コラーゲン分解阻害率が30%未満
【0046】
さらに、各種被検化合物による象牙質の脱灰抑制効果を調べるため、上記の操作により得られた8日後の脱灰液に含まれるカルシウム量(脱灰量)を原子吸光光度計(島津製作所 原子吸光光度計 AA−6300)を用いて測定した。脱灰抑制効果の測定としては、牛歯根部象牙質ブロック個体間の脱灰量の差を補正するために、1日目の脱灰量測定値を基準として8日後の脱灰量の相対値を算出して行った。この脱灰抑制効果の評価は、各種被検化合物における脱灰量相対値(a)、被検化合物を加えなかった場合(コントロール1)の脱灰量相対値(b)、及び被検化合物もコラゲナーゼも加えなかった場合(コントロール2)の脱灰量相対値(c)を用いて、以下の基準の通りに行った。
5:(b−a)/(b−c)が1以上
4:(b−a)/(b−c)が0.75以上1未満
3:(b−a)/(b−c)が0.5以上0.75未満
2:(b−a)/(b−c)が0.25以上0.5未満
1:(b−a)/(b−c)が0以上0.25未満
0:(b−a)/(b−c)が0未満
【0047】
また、象牙質コラーゲンの分解阻害効果及び脱灰抑制効果の評価に加えて、上記の操作により得られた8日後の牛歯根部象牙質ブロックについて、目視での外観調査により着色の有無を調べた。そして、以下の通りの基準を設けて、総合評価を行った。得られた結果を以下の表1に示す。
◎:コラーゲン分解阻害及び脱灰抑制がいずれも「5」であり、着色がなかったもの
○:コラーゲン分解阻害及び脱灰抑制の一方が「5」で、他方が「3」又は「4」であり、着色がなかったもの
△:コラーゲン分解阻害及び脱灰抑制の一方が「5」で、他方が「3」以上であるが、着色があったもの
×:「◎」、「○」、又は「△」に該当しないもの
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示した通り、被検化合物の中でも、ヘスペリジン(実施例1)、フィチン酸(実施例2)、酢酸ヒドロコルチゾン(実施例3)、塩酸クロルヘキシジン(実施例4)は、コラーゲン分解阻害及び脱灰抑制の両方とも最も高い効果を示し、さらに牛歯根部象牙質ブロックへの着色も見られなかった。また、デキサメタゾン(実施例5)、塩酸エチルシステイン(実施例6)、塩酸メチルシステイン(実施例7)も、コラーゲン分解阻害及び脱灰抑制について両方とも高い効果を示し、着色も見られなかった。しかし、ブドウ種子エキス(実施例8)及びジュグロン(実施例9)は、コラーゲン分解阻害及び脱灰抑制の効果は両方とも高いものの、牛歯根部象牙質ブロックへの着色が見られた。また、比較例に係る被検化合物は全て、コラーゲン分解阻害及び脱灰抑制の両方ともに高い効果を示すものはなかった。この中で、L−ヒスチジン(比較例5)やグルタチオン(比較例6)はコラーゲン分解阻害効果が高いものの、脱灰抑制効果は全く見られず、逆にトラネキサム酸(比較例8)は、脱灰抑制効果は高いがコラーゲン分解阻害効果が低いことが示された。
【0050】
<各種被検化合物添加における象牙質のコラーゲンに対する再石灰化効果の測定>
測定用検体として、前記試験を行った後の牛歯根部象牙質ブロックを用いた。すなわち、「再石灰化液に被検化合物を添加せずコラゲナーゼ(5.5μg/mL)のみを含有させた」条件で前記試験を行って得られた牛歯根部象牙質ブロックを「コラゲナーゼ」と、「再石灰化液にヘスペリジン(2mg/mL)とコラゲナーゼ(5.5μg/mL)を含有させた」条件で前記試験を行って得られた牛歯根部象牙質ブロックを「コラゲナーゼ+HPN」と、「再石灰化液にフィチン酸(2mg/mL)とコラゲナーゼ(5.5μg/mL)を含有させた」条件で前記試験を行って得られた牛歯根部象牙質ブロックを「コラゲナーゼ+フィチン酸」として、下記の試験に供した。
【0051】
前記の各牛歯根部象牙質ブロックを再石灰化液(塩化カルシウム:1.5mM、リン酸2水素カリウム:0.9mM、塩化カリウム:130mM、HEPES:20mM、NaF:2ppm、pH7.0)に37℃で2週間浸漬し、再石灰化処理を行った。その際、再石灰化の状態を対比させやすくするために、表面に露出している象牙質面の半分部分をネイルエナメル(ビューティーマックスネイルベース&トップコート:マックスファクター株式会社)にてコーティングして再石灰化液と接触しないようにした。
【0052】
前記再石灰化処理をした後、各種牛歯根部象牙質ブロックを象牙質面に垂直に100μmの厚さに切断した。得られた100μm薄切片試料をX線撮影装置(軟X線撮影装置HB−50:ハイテックス株式会社)を用いた横断マイクロラジオグラフィー(TMR)法にて評価した。評価する薄切片試料を高解像度フィルムに圧着しX線照射し、得られたマイクロラジオグラフから再石灰化の状態を観察した。得られた結果を図1に示す。また、画像解析により、ミネラルプロファイルを得た。得られた結果を図2〜4に示す。
【0053】
図1に示した通り、コラゲナーゼ処理のみの薄切片試料は再石灰化処理を行った部位において、すでに有機質の崩壊が起こっており、再石灰化の余地がなく、再石灰化処理後のミネラル層は健全象牙質よりも下がったままとなっていることがわかった。
【0054】
一方、被検化合物の中でも、ヘスペリジン(実施例1)を作用させた薄切片試料は、再石灰化処理を行っていない部分と比較して、有意に再石灰化が進んでおり、健全象牙質と同程度の位置までミネラル層が回復していることが観察された。図3のグラフを見ても分かるとおり、80%以上のミネラル密度になるまでの距離が7μmであり、図2のコラゲナーゼ処理のみの群の21μmよりも有意に改善されていることからも明らかである。以上の結果より、ヘスペリジンは再石灰化を阻害することなくコラーゲン分解阻害及び脱灰抑制効果を示すことが確認された。
【0055】
また、ヘスペリジンと同様にコラーゲン分解阻害及び脱灰抑制の両方とも高い効果を示したフィチン酸(実施例2)を作用させた薄切片試料においては再石灰化処理を行ったにも拘らず再石灰化は認められず(図1)、ミネラル密度も低いまま(図4)であった。
【0056】
このことから、単にコラーゲン分解阻害及び脱灰抑制効果を持つだけではなく、再石灰化においてもその作用を阻害しない事が明白であり、ヘスペリジンは非常に高価の高い歯根面う蝕予防剤であることが言える。
【0057】
以下、本発明の歯根面う蝕予防剤を用いた口腔用組成物を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。また、特に断らない限り配合量は重量%である。
【0058】
実施例10 塗布剤
成分 配合量
セラック 10.0
エチルアルコール 40.0
ヘスペリジン 1.0
フッ化ナトリウム 0.2
香料 1.5
水酸化ナトリウム 適量
精製水 残部
合計 100.0
【0059】
実施例11 練歯磨
成分 配合量
第2リン酸カルシウム 30.0
グリセリン 10.0
ソルビトール 20.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5
カラギーナン 0.5
サッカリンナトリウム 0.1
香料 1.0
安息香酸ナトリウム 0.3
ヘスペリジン 1.0
ビタミンE 0.05
油溶性甘草エキス 0.05
精製水 残部
合計 100.0
【0060】
実施例12 液体歯磨剤
成分 配合量
ソルビット 10.0
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60) 5.0
香料 0.05
サッカリンナトリウム 0.01
グルコン酸クロルヘキシジン 0.05
クエン酸ナトリウム 0.05
ヘスペリジン 1.0
酢酸トコフェロール 0.02
フッ化ナトリウム 0.05
ウンデカラクトン 0.05
精製水 残部
合計 100.0
【0061】
実施例13 洗口液
成分 配合量
エタノール 10.0
グリセリン 5.0
クエン酸 0.01
クエン酸ナトリウム 0.1
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60) 0.5
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
香料 0.2
ヘスペリジン 1.0
ビタミンE 0.05
ビタミンC 0.01
精製水 残部
合計 100.0
【0062】
実施例14 口腔用ゲル
成分 配合量
カルボキシメチルセルロース 0.2
グリセリン 40.0
ヘスペリジン 1.0
ビタミンE 0.05
精製水 残部
合計 100.0
【0063】
実施例15 マウススプレー
成分 配合量
グリセリン 15.0
エタノール 10.0
塩化セチルピリジニウム 0.3
トレハロース 5.0
ステビアエキス 0.1
ヘスペリジン 1.0
クエン酸 適量
クエン酸ナトリウム 適量
l−メントール 2.0
香料 0.1
精製水 残部
合計 100.0

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラバノン類及び/又はその配糖体からなる歯根面う蝕予防剤。
【請求項2】
フラバノン類及び/又はその配糖体がヘスペリジンであることを特徴とする請求項1に記載の歯根面う蝕予防剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の歯根面う蝕予防剤を配合してなる口腔用組成物。
【請求項4】
塗布剤であることを特徴とする請求項3に記載の口腔用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−256341(P2009−256341A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73076(P2009−73076)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】