説明

がんの治療および診断の標的遺伝子としてのERCC6L

がん、特に肺癌を発症する素因を診断することを目的とする方法を、本明細書に記載する。本発明は、ERCC6Lの発現レベルをがんの指標として利用する診断法を提供する。本発明はさらに、がん、例えば肺癌などの、ERCC6L関連疾患の治療において有用な治療物質をスクリーニングする方法を提供する。本発明はさらに、細胞増殖を阻害し、ERCC6L関連疾患の1つまたは複数の症状を、治療または緩和する方法を提供する。本発明はまた、二本鎖分子、ならびにそれらを含むベクターおよび組成物も特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は2009年8月25日に出願された米国仮特許出願第61/275,198号の恩典を主張し、その全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、がん、特に肺癌などのERCC6Lの過剰発現と関連したがんを検出および診断する方法、ならびにそのようながんを治療および予防する方法に関する。本発明はまた、ERCC6L関連がんを治療および予防するための候補物質をスクリーニングする方法に関する。さらに本発明は、ERCC6L遺伝子発現を減少させる二本鎖分子およびその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
肺癌は最もよく見られるがんであり、1年当たりのがんの新規症例1,090万例のうち135万例を占める。肺癌はがん関連疾患による死亡原因の第1位でもあり、世界的に見てがん関連死670万例のうち118万例を占める(非特許文献1)。この10年の間に、パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビン、およびビノレルビンを含む新たに開発された細胞傷害剤が出現して、進行性NSCLC(非小細胞肺癌)患者に複数の治療選択肢が提供されるようになった;しかしながら、新たな投与レジメンはそれぞれ、シスプラチンに基づく治療法と比較してわずかな延命効果しかもたらすことができない(非特許文献2)。
【0004】
最近になって、抗EGFRモノクローナル抗体または抗VEGFモノクローナル抗体であるセツキシマブ(Erbitux)またはベバシズマブ(Avastin)、およびゲフィチニブ(Iressa)およびエルロチニブ(Tarceva)などのEGFRチロシンキナーゼの小分子阻害剤を含む分子標的剤が、臨床使用について調べられ、および/または承認された(非特許文献3、4)。これらの剤は再発性NSCLCに対してある程度は活性を示すものの、延命効果を受け得る患者の数にはまだ限界がある。SCLC(小細胞肺癌)患者はファーストラインの多剤併用化学療法に好ましく反応する一方、短期間のうちに再発する場合が多い。限局期疾患(LD)患者の20%しか、集学的治療で治癒することができず、また進展期疾患(ED)患者の5%未満しか、初期診断後の5年生存を達成することができない(非特許文献5)。したがって、肺癌に対して、より選択的でかつ効果的な分子標的剤の開発などの、新たな治療戦略が待ち望まれている。
【0005】
ヒトのがんを診断、治療、および予防するための新規分子標的をスクリーニングする過程において、本発明者らは、レーザーマイクロダイセクションと共に、27,648個の遺伝子または発現配列タグ(EST)を含むcDNAマイクロアレイを用いて、101症例の肺癌の網羅的ゲノム発現プロファイリングを行い、肺癌治療のためのいくつかの候補分子標的およびバイオマーカーを見出した(特許文献1〜2、非特許文献6〜9)。これらのうち、ERCC6L(除去修復交差相補げっ歯類修復欠損、相補群6様(excision repair cross−complementing rodent repair deficiency, complementation group 6−like);「PICH」とも称される)は特に注目に値する。
【0006】
ERCC6Lは、Plk1の相互作用パートナーおよび基質であるSNF2 ATPaseファミリーのメンバーとして同定された(非特許文献10)。最近の報告から、ERCC6Lはチェックポイントシグナル伝達の必須の成分であり、連鎖状のセントロメア関連DNAに結合して、姉妹キネトコア間に発生する張力をモニターすることが実証されている(非特許文献10)。しかしながらこれまで、ERCC6Lと発がんとの間の関係は確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
引用リスト
【特許文献1】WO2004/031413
【特許文献2】WO2007/013665
【非特許文献】
【0008】
引用リスト
【非特許文献1】Jemal A, Siegel R, Ward E, et al. CA Cancer J Clin. 2008;58:71-96.
【非特許文献2】Schiller JH, Harrington D, Belani CP, et al. Eastern Cooperative Oncology Group. N Engl J Med 2002;346:92-8.
【非特許文献3】Dowell J, Minna JD, Kirkpatrick P. Nat Rev Drug Discov 2005;4:13-4.
【非特許文献4】Pal SK, Pegram M. Anticancer Drugs 2005;16:483-94.
【非特許文献5】Chute JP, Chen T, Feigal E, Simon R, Johnson BE: J Clin Oncol 1999;17:1794-801.
【非特許文献6】Daigo Y, Nakamura Y. Gen Thorac Cardiovasc Surg 2008;56:43-53.
【非特許文献7】Kikuchi T, Daigo Y, Katagiri T, et al. Oncogene 2003;22:2192-205.
【非特許文献8】Kakiuchi S, Daigo Y, Tsunoda T, Yano S, Sone S, Nakamura Y. Mol Cancer Res 2003;1:485-99.
【非特許文献9】Taniwaki M, Daigo Y, Ishikawa N, et al. Int J Oncol 2006;29:567-75.
【非特許文献10】Baumann C, et al. Cell 2007;128:101-114.
【発明の概要】
【0009】
本発明は、ERCC6Lが臨床肺癌組織において過剰発現するという、マイクロアレイ解析およびRT−PCRによる発見に関する。本明細書において実証されるように、がん細胞株におけるsiRNAによる内在性ERCC6Lの機能的ノックダウンは、がん細胞の増殖の劇的な抑制をもたらし、このことから、がん細胞の生存能の維持におけるその必須の役割が示唆される。ERCC6Lは成体正常器官ではほとんど発現しないため、ERCC6Lは有害作用が最小である新規治療アプローチのための適切かつ有望な分子標的であると考えられる。
【0010】
したがって、対象由来の生体試料中のERCC6Lの発現レベルを測定することにより、対象におけるがん、特に肺癌を診断するか、またはそのようながんの素因を判定する方法を提供することは、本発明の1つの目的である。正常対照レベルと比較してERCC6Lの発現レベルが上昇していることにより、対象ががん、特に肺癌に罹患しているか、またはそのようながんを発症するリスクがあることが示される。本発明の方法において、適切なプローブまたはプライマーセットによってERCC6L遺伝子を検出することができ、あるいは抗ERCC6L抗体によってERCC6Lタンパク質を検出することができる。
【0011】
ERCC6L遺伝子の転写産物または翻訳産物を検出するための試薬を含むキットを提供することは、本発明のさらなる目的である。
ERCC6L遺伝子の転写産物に結合する核酸、またはERCC6L遺伝子の翻訳産物に結合する抗体を含む、がんを診断または検出するための試薬を提供することは、本発明のなおさらなる目的である。
がんを診断または検出するための試薬を製造するための、ERCC6L遺伝子の転写産物に結合する核酸、またはERCC6L遺伝子の翻訳産物に結合する抗体の使用を提供することは、本発明のなおさらなる目的である。
【0012】
ERCC6L遺伝子を過剰発現する細胞の増殖を阻害する候補物質を同定する方法を提供することは、本発明のなおさらなる目的であり、そのような物質は、がんなどのERCC6L関連疾患の治療および/または予防において有用である。本発明の方法はインビトロまたはインビボで行うことができ、ERCC6Lポリペプチドへの結合活性、ERCC6L遺伝子の発現レベル、ERCC6Lポリペプチドの生物学的活性、または該遺伝子産物の転写調節領域下で制御されるレポーター遺伝子の発現レベルもしくはレポーター遺伝子の活性を指標として用いることができる。ERCC6Lポリペプチドに結合するか、あるいはERCC6Lの発現もしくは活性、またはレポーター遺伝子の発現もしくは活性を抑制する物質を、がんを治療および/もしくは予防するため、またはがん細胞の増殖を阻害するための候補物質として同定することができる。検出するERCC6Lポリペプチドの生物学的活性は、好ましくは細胞増殖活性(細胞増殖増強活性)である。試験物質の非存在下における対照レベルと比較してERCC6Lポリペプチドの生物学的活性が低下することにより、該試験物質を用いて肺癌の症状を軽減するか、または肺癌を治療および/もしくは予防し得ることが示される。
【0013】
ERCC6L遺伝子の発現および/またはERCC6Lタンパク質の機能を阻害する剤を投与することにより、がんを治療および/もしくは予防するため、またはERCC6Lを過剰発現するがん性細胞の増殖を阻害するための方法を提供することは、本発明のなおさらなる目的である。好ましくは、剤は阻害性核酸(例えば、アンチセンス、リボザイム、二本鎖分子、アプタマー)である。剤は、二本鎖分子を提供するための核酸分子またはベクターであってもよい。ERCC6L遺伝子の発現を阻害するのに十分な量で二本鎖分子を標的細胞に導入することにより、該遺伝子の発現を阻害し得る。したがって、本発明の特に好ましい態様において、本方法は、ERCC6L遺伝子に対する二本鎖分子、またはそのような分子をコードするベクターの薬学的有効量を対象に投与する段階を含み、該二本鎖分子は、ERCC6L遺伝子を発現する細胞に導入された場合にERCC6L遺伝子の発現および細胞増殖を阻害する。
【0014】
薬学的に許容される担体、およびERCC6L遺伝子に対する1種もしくは複数種の二本鎖分子またはそのような分子をコードするベクターを含む活性剤を含む、ERCC6L関連がんの治療および/または予防に適した薬学的組成物を提供することは、本発明のなおさらなる目的である。本発明の文脈において、ERCC6Lに対する二本鎖分子は、ERCC6L遺伝子を発現する細胞に導入された場合にERCC6L遺伝子の発現を阻害することができる上、それによって誘導される細胞増殖を阻害することもできる。好ましい態様において、治療および/または予防を受けるがんは、NSCLCおよびSCLCを含む肺癌である。NSCLCの例には、肺腺癌(ADC)および肺扁平上皮癌(SCC)が含まれる。
【0015】
本発明の二本鎖分子は好ましくはセンス鎖およびアンチセンス鎖から構成され、該センス鎖は、SEQ ID NO:7および8からなる群より選択される標的配列に相当するヌクレオチド配列を含み、該アンチセンス鎖は該センス鎖に相補的である配列を含む。該分子のセンス鎖とアンチセンス鎖は互いにハイブリダイズして、二本鎖分子を形成する。ERCC6L遺伝子を発現する細胞に導入された場合に、本発明の二本鎖分子はERCC6L遺伝子の発現および細胞増殖を阻害する。
本発明の方法および材料は、がんの明白な臨床症状が検出される前にがんを同定することができ、有害作用のないがん治療との関連において用いることができる。
【0016】
本発明の1つまたは複数の局面は特定の目的を満たすことができる一方、1つまたは複数の他の局面は特定の他の目的を満たすことができることが、当業者によって理解されよう。各目的は、本発明のすべての局面に、あらゆる点で等しく当てはまらない場合がある。したがって、前述の目的は、本発明の任意の1つの局面に関して択一的に考慮することができる。本発明のこれらおよびその他の目的および特徴は、添付の図面および実施例と併せて以下の詳細な説明を読んだ場合に、より十分に明らかになるであろう。しかしながら、前述の本発明の概要および以下の詳細な説明はいずれも好ましい態様のものであり、本発明および本発明のその他の代替的な態様を限定するものではないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の様々な局面および適用は、以下の図面の簡単な説明、ならびに本発明の詳細な説明およびその好ましい態様を考慮することで、当業者に明白となるであろう。
【0018】
【図1】図1は、肺癌および正常組織におけるERCC6L発現を示す。パートAは、正常肺組織と比較した、NSCLC(ADCおよびSCC)およびSCLCの臨床試料におけるERCC6Lの過剰発現を実証する半定量的RT−PCRの結果を示す。肺癌試料のmRNAから調製された各一本鎖cDNAの適切な希釈物を、量の対照としてβ−アクチン(ACTB)発現のレベルを用いて調製した。パートBは、肺癌細胞株におけるERCC6Lの発現を実証する半定量的RT−PCRの結果を示す。パートCは、いくつかの肺癌細胞株はERCC6を強く発現するが:大部分の正常ヒト組織は発現しないことを実証する、ERCC6Lのノーザンブロット解析の結果を示す。パートDは、DAPIで共染色したCOS−7細胞における、抗mycによって検出された外因性ERCC6Lタンパク質の細胞内局在性を示す。
【図2】図2は、ERCC6Lを過剰発現する肺癌細胞の増殖に及ぼす、ERCC6Lに対するsiRNAの効果を示す。パートAは、si−ERCC6L(si−#Aまたはsi−#B)に応答するが対照siRNA(LUCまたはEGFP)には応答しない、SBC−5細胞におけるERCC6L発現に及ぼすノックダウン効果を確認する、半定量的RT−PCR解析の結果を示す。パートBは、特異的siRNAまたは対照プラスミドをトランスフェクトしたSBC−5細胞のコロニー形成アッセイの結果を示す。パートCは、si−ERCC6L(si−#Aまたはsi−#B)、si−LUC、またはsi−EGFPに応答したSBC−5細胞のMTTアッセイの結果を示す。アッセイはすべて3連のウェルで3回実施した。
【図3】図3は、COS−7細胞へのERCC6L導入による細胞増殖の増強を示す。パートAは、COS−7細胞におけるERCC6Lの一過性発現を確認するウェスタンブロット解析の結果を示す。パートBは、COS−7細胞でのERCC6Lの一過性発現における増殖促進効果を示す。アッセイは3連のウェルで3回実施した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
態様の説明
本明細書に記載の方法および材料と類似したまたは同等の任意の方法および材料を、本発明の態様の実施または試験において用いることができるが、好ましい方法、装置、および材料を以下に記載する。しかしながら、本発明の材料および方法を記載する前に、本明細書に記載される特定のサイズ、形状、寸法、材料、方法論、プロトコール等は慣行的な実験法および最適化に従って変更可能であるため、本発明がこれらに限定されないことが理解されるべきである。本記載において用いられる専門用語は特定の種類または態様を説明する目的のためのみのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図されないことも、また理解されるべきである。
【0020】
本明細書において言及される各出版物、特許、または特許出願の開示は、その全体が参照により明確に組み入れられる。しかしながら、本明細書におけるいずれも、本発明が先行発明によりそのような開示に先行する権利を与えられないことの承認として解釈されるべきではない。
矛盾する場合には、定義を含めて本明細書が優先する。加えて、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定を意図するものではない。
【0021】
定義:
本明細書で用いられる「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その」という単語は、特に他に具体的に指示がない限り「少なくとも1つ」を意味する。
物質(例えば、ポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド等)に関連して本明細書で用いられる「単離された」および「精製された」という用語は、その物質が、天然源中に他に含まれ得る少なくとも1つの物質を実質的に含まないということを示す。したがって、単離されたまたは精製された抗体とは、そのタンパク質(抗体)の由来元である細胞もしくは組織源に由来する、炭水化物、脂質、もしくは他の混入タンパク質などの細胞材料を実質的に含まないか、または化学合成された場合には、化学的前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含まない抗体を指す。「細胞材料を実質的に含まない」という用語は、ポリペプチドがそこから単離されるかまたは組換えによって産生される細胞の細胞成分から該ポリペプチドが分離されている、ポリペプチドの調製物を含む。したがって、細胞材料を実質的に含まないポリペプチドは、(乾燥重量で)約30%、20%、10%、または5%未満の異種タンパク質(本明細書では「混入タンパク質」とも称される)を有するポリペプチドの調製物を含む。ポリペプチドが組換えによって作製される場合、ポリペプチドは同様に好ましくは培養液を実質的に含まず、培養液がタンパク質調製物の体積の約20%、10%、または5%未満であるポリペプチドの調製物を含む。ポリペプチドが化学合成によって作製される場合、ポリペプチドは好ましくは化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まず、タンパク質の合成に関与した化学的前駆体または他の化学物質がタンパク質調製物の体積の(乾燥重量で)約30%、20%、10%、5%未満であるポリペプチドの調製物を含む。特定のタンパク質調製物が単離されたまたは精製されたポリペプチドを含むことは、例えば、タンパク質調製物のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびそのゲルのクマシーブリリアントブルー染色等の後に単一のバンドが出現することによって示すことができる。好ましい態様において、本発明の抗体は単離されているかまたは精製されている。
【0022】
「単離された」または「精製された」cDNA分子などの核酸分子は、組換え技法によって作製された場合には、他の細胞材料もしくは培養液を実質的に含まなくてよく、または化学合成された場合には、化学的前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含まなくてよい。
【0023】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は本明細書において互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。本用語は、天然アミノ酸ポリマーに加えて、1つまたは複数のアミノ酸残基が修飾残基であるか、または非天然残基、例えば対応する天然アミノ酸の人工的な化学的模倣体である、アミノ酸ポリマーに適用される。
【0024】
「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。天然アミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされる天然アミノ酸、および細胞内で翻訳後に修飾された天然アミノ酸(例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、およびO−ホスホセリン)である。「アミノ酸類似体」という語句は、天然アミノ酸と同じ基本化学構造(水素、カルボキシ基、アミノ基、およびR基に結合したα炭素)を有するが、修飾R基または修飾骨格を有する、化合物(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニン、スルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)を指す。「アミノ酸模倣体」という語句は、一般的なアミノ酸とは異なる構造を有するが、類似した機能を有する、化学物質を指す。
アミノ酸は、本明細書において、IUPAC−IUB生化学命名法委員会(Biochemical Nomenclature Commission)の推奨する、公知の3文字表記または1文字表記により言及されてもよい。
【0025】
「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」、および「核酸分子」という用語は、特に他に具体的に指示がない限り互換的に用いられ、アミノ酸と同様に、一般に受け入れられている1文字コードにより参照される。アミノ酸と同様に、それらは天然核酸ポリマーおよび非天然核酸ポリマーの両方を包含する。ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸、または核酸分子は、DNA、RNA、またはそれらの組み合わせから構成され得る。
【0026】
特記しない限り、「がん」という用語は、ERCC6L遺伝子を過剰発現するがんを指す。ERCC6Lを過剰発現するがんの例には、SCLCおよびNSCLCを含む肺癌が含まれるが、これに限定されない。NSCLCには、腺癌(ADC)および扁平上皮癌(SCC)が含まれるが、これらに限定されない。
【0027】
本明細書で用いられる「二本鎖分子」という用語は、例えば、短鎖干渉RNA(siRNA;例えば二本鎖リボ核酸(dsRNA)または低分子ヘアピンRNA(shRNA))、および短鎖干渉DNA/RNA(siD/R−NA;例えば、DNAとRNAの二本鎖キメラ(dsD/R−NA)またはDNAとRNAの低分子ヘアピンキメラ(shD/R−NA))を含む、標的遺伝子の発現を阻害する核酸分子を指す。本明細書において、「二本鎖分子」は、「二本鎖核酸」、「二本鎖核酸分子」、「二本鎖ポリヌクレオチド」、および「二本鎖ポリヌクレオチド分子」とも称される。
【0028】
ERCC6L遺伝子およびERCC6Lタンパク質:
本発明は、ERCC6Lをコードする遺伝子が、非がん性組織と比較してがんにおいて過剰発現するという発見に一部基づいている。
ERCC6Lポリヌクレオチドのヌクレオチド配列およびERCC6Lポリペプチドのアミノ酸配列は当業者に公知であり、例えばGenBank(商標)などのウェブサイト上の遺伝子データベースから得られる。ERCC6Lポリヌクレオチドの例示的なヌクレオチド配列はSEQ ID NO:9に示され、ERCC6Lポリペプチドの例示的なアミノ酸配列はSEQ ID NO:10に示される。配列データはまた、例えば、GenBankアクセッション番号BC11486またはNM_017669を介して入手可能である。当業者は、ERCC6L配列がこれらの配列に限定される必要がないこと、および以下に記載するように本発明において変種(例えば、機能的同等物および対立遺伝子変種)を用いることができることを認識するであろう。
【0029】
本発明の1つの局面によれば、機能的同等物もまた「ERCC6Lポリペプチド」と見なされる。本明細書において、タンパク質(例えば、ERCC6Lポリペプチド)の「機能的同等物」とは、そのタンパク質と同等の生物学的活性を有するポリペプチドである。すなわち、ERCC6Lタンパク質の生物学的能力を保持する任意のポリペプチドを、本発明においてそのような機能的同等物として用いてもよい。そのような機能的同等物には、ERCC6Lタンパク質の天然アミノ酸配列に対して1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、または挿入されたものが含まれる。あるいは、ポリペプチドは、各タンパク質の配列と少なくとも約80%の相同性(配列同一性とも称される)、より好ましくは少なくとも約90%〜95%の相同性、多くの場合には約96%、97%、98%、または99%の相同性を有するアミノ酸配列から構成され得る。他の態様において、ポリペプチドは、ERCC6L遺伝子の天然ヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ得る。
【0030】
本発明のポリペプチドには、その産生に用いた細胞もしくは宿主または利用した精製法に応じて、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無、または形態に差異があってもよい。それでもなお、本発明のヒトERCC6Lタンパク質と同等の機能を有する限り、これは、本発明の範囲内である。
【0031】
「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、典型的には核酸の複雑な混合物中で、核酸分子がその標的配列とはハイブリダイズするが、その他の配列とは検出可能な程度にハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、別々の状況では異なり得る。配列が長いほど、より高温で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する広範な手引きは、Tijssen, Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Probes, 「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays」(1993)において見出される。一般的に、ストリンジェントな条件は、所定のイオン強度およびpHにおける特定の配列の熱融解温度(Tm)よりも約5〜10℃低くなるように選択される。Tmとは、標的に相補的なプローブの50%が平衡状態で標的配列とハイブリダイズする(所定のイオン強度、pH、および核酸濃度における)温度である(標的配列が過剰に存在するので、Tmでは、プローブの50%が平衡状態で占有される)。ストリンジェントな条件はまた、不安定化剤、例えばホルムアミドの添加によって達成させてもよい。選択的または特異的ハイブリダイゼーションに関して、陽性シグナルはバックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくはバックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例として、以下が挙げられる:50%ホルムアミド、5×SSC、および1%SDS、42℃でインキュベーション、あるいは5×SSC、1%SDS、65℃でインキュベーション、加えて0.2×SSCおよび0.1%SDSにおいて50℃で洗浄。
【0032】
本発明の文脈において、ヒトERCC6Lタンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーション条件は、当業者によって慣行的に選択され得る。例えば「Rapid−hyb緩衝液」(Amersham LIFE SCIENCE)を用いてプレハイブリダイゼーションを68℃で30分間またはそれ以上行い、標識プローブを添加して、68℃で1時間またはそれ以上加温することにより、ハイブリダイゼーションを行ってもよい。それに続く洗浄段階は、例えば低ストリンジェント条件下で行うことができる。例示的な低ストリンジェント条件としては、42℃、2×SSC、0.1%SDS、好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられる。しばしば高ストリンジェント条件が好ましく用いられる。例示的な高ストリンジェント条件としては、室温で2×SSC、0.01%SDSにおける20分間の洗浄を3回行った後に、37℃で1×SSC、0.1%SDSにおける20分間の洗浄を3回行い、50℃で1×SSC、0.1%SDSにおける20分間の洗浄を2回行うことが挙げられる。しかしながら、温度および塩濃度などのいくつかの要素がハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼし得るため、当業者は必要なストリンジェンシーを達成するためにこれらの要素を適切に選択することができる。
【0033】
一般的に、タンパク質中の1つ、2つ、またはそれ以上のアミノ酸の改変は、そのタンパク質の機能に影響しない。実際に、変異タンパク質または改変タンパク質(すなわち、1個、2個、または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、および/または付加によって改変されたアミノ酸配列から構成されるペプチド)は、元の生物学的活性を保持することが知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 81: 5662-6 (1984);Zoller and Smith, Nucleic Acids Res 10:6487-500 (1982);Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 79: 6409-13 (1982))。したがって当業者は、単一のアミノ酸もしくはわずかな割合のアミノ酸を変更する、アミノ酸配列に対する個々の付加、欠失、挿入、もしくは置換、またはタンパク質の変化により類似の機能を有するタンパク質が生じる「保存的改変」であると見なされるものが、本発明の文脈において許容されることを認識するであろう。したがって、1つの態様において、本発明のペプチドは、ERCC6L配列において1個、2個、またはさらにはそれ以上のアミノ酸が付加、挿入、欠失、および/または置換されているアミノ酸配列を有し得る。
【0034】
タンパク質の活性が維持される限り、アミノ酸変異の数は特に限定されるわけではない。しかしながら、アミノ酸配列の5%またはそれ未満を変更することが一般的に好ましい。したがって、好ましい態様において、そのような変異体において変異させるアミノ酸の数は、一般的には30アミノ酸またはそれ未満、好ましくは20アミノ酸またはそれ未満、より好ましくは10アミノ酸またはそれ未満、より好ましくは5もしくは6アミノ酸またはそれ未満、さらにより好ましくは3もしくは4アミノ酸またはそれ未満である。
【0035】
変異させるアミノ酸残基は、アミノ酸側鎖の特性が保存される別のアミノ酸に変異させることが好ましい(保存的アミノ酸置換として知られるプロセス)。アミノ酸側鎖の特性の例としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、および以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖が挙げられる:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);ならびに芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)。機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換表が、当技術分野において周知である。例えば、以下の8群はそれぞれ、互いに対して保存的置換であるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins 1984を参照されたい)。
【0036】
そのような保存的改変ポリペプチドは、本発明のERCC6Lタンパク質に含まれる。しかしながら本発明はこれらに限定されず、該ERCC6Lタンパク質は、該ERCC6Lタンパク質の少なくとも1つの生物学的活性が保持されている限り、非保存的改変物を含む。さらに、改変タンパク質は、多型バリアント、種間相同体、およびこれらのタンパク質の対立遺伝子によってコードされるものを排除しない。
【0037】
さらに、本発明のERCC6L遺伝子は、該ERCC6Lタンパク質のそのような機能的同等物をコードするポリヌクレオチドを包含する。該ERCC6Lタンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離するために、ハイブリダイゼーションに加えて、該タンパク質をコードするDNA(SEQ ID NO:9)の配列情報に基づいて合成されたプライマーを用いる、遺伝子増幅法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用することができる。それぞれヒトERCC6L遺伝子およびタンパク質と機能的に同等であるポリヌクレオチドおよびポリペプチドは通常、元のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列に対して高い相同性を有する。「高い相同性」とは典型的に、40%またはそれ以上、好ましくは60%またはそれ以上、より好ましくは80%またはそれ以上、さらにより好ましくは90%〜95%またはそれ以上、さらにより好ましくは96%、97%、98%、99%またはそれ以上の相同性を指す。特定のポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相同性は、「Wilbur and Lipman, Proc Natl Acad Sci USA 80: 726-30 (1983)」におけるアルゴリズムに従うことによって決定することができる。
【0038】
がんを診断する方法:
ERCC6L遺伝子の発現は、肺癌において特異的に上昇することが見出された(図1A、B)。ノーザンブロット解析により、ERCC6Lは正常組織では発現しないが、肺癌細胞株において強く発現することが示された(図1C)。したがって、本明細書において同定されたERCC6L遺伝子ならびにそれらの転写産物および翻訳産物は、試料中のERCC6Lの発現を測定することにより、肺癌などのがんのマーカーとして診断上有用である。対象由来の試料と正常試料との間でERCC6L遺伝子の発現レベルを比較することにより、がんを診断または検出することができる。より詳細には、本発明は、対象におけるERCC6Lの発現レベルを測定することにより、がん、より詳細にはERCC6L関連がんの存在、またはそのようながんを発症する素因を検出、診断、および/または判定する方法を提供する。
【0039】
したがって本発明は、対象におけるがんを検出または診断する方法を提供し、該方法は、対象由来の生体試料中のERCC6L遺伝子の発現レベルを測定する段階を含み、該遺伝子の正常対照レベルと比較して該レベルが上昇していることにより、該試料中にがん細胞が存在することまたはその疑いがあることが示され、次いで該対象ががんに罹患しているか、またはがんを発症するリスクがあることが示唆される。
ERCC6L遺伝子の発現レベルは、任意の公知の方法によって測定することができ、その例には、
(a) ERCC6L遺伝子のmRNAを検出する段階;
(b) ERCC6L遺伝子によってコードされるタンパク質を検出する段階;および
(c) ERCC6L遺伝子によってコードされるタンパク質の生物学的活性を検出する段階
が含まれる。
【0040】
好ましい態様において、本発明の方法によって診断されるがんは、NSCLCおよびSCLCを含む肺癌である。NSCLCには、肺腺癌(ADC)および肺扁平上皮癌(SCC)が含まれる。
本発明に従って、対象の状態を調べるための中間的な結果が提供され得る。そのような中間的な結果を付加的な情報と組み合わせて、対象が疾患に罹患していると診断する上で、医師、看護師、または他の関係者を補助することができる。したがって本発明は、がんの診断マーカーとしてのERCC6Lの使用を意図する。
【0041】
あるいは、本発明は、対象由来の組織中のがん性細胞を検出または同定するために用いることができ、該遺伝子の正常対照レベルと比較して該発現レベルが上昇していることを特徴とするそのような細胞によって、該組織中にがん細胞が存在することまたはその疑いがあることが示される。ERCC6L発現の結果を付加的な情報と組み合わせて、対象が疾患に罹患していると診断する上で、医師、看護師、または他の医療関係者を補助することができる。言い換えれば、本発明は、対象が疾患に罹患していると診断するのに有用な情報を医師に提供し得る。例えば、本発明に従って、対象から採取された組織中のがん細胞の存在に関して疑いがある場合には、ERCC6L遺伝子の発現レベルに加えて、組織病理学、血中の公知の腫瘍マーカーのレベル、および対象の臨床経過等を含む疾患の様々な局面を考慮して、臨床決定に至ることができる。例えば、血中のいくつかの周知の診断的肺腫瘍マーカーは、IAP、ACT、BFP、CA19−9、CA50、CA72−4、CA130、CEA、KMO−1、NSE、SCC、SP1、Span−1、TPA、CSLEX、SLX、STN、およびCYFRAである。すなわち、本発明のこの特定の態様において、遺伝子発現解析の結果は、対象の疾患状態をさらに診断するための中間的な結果として役立つ。
【0042】
以下の方法[1]〜[10]が、本発明にとって特に関心対象となる:
[1] 対象由来の生体試料中のERCC6L遺伝子の発現レベルを測定する段階を含む、対象におけるがんを検出または診断する方法であって、該遺伝子の正常対照レベルと比較して該レベルが上昇していることにより、該対象ががんに罹患しているか、またはがんを発症するリスクがあることが示される、方法。
[2] 発現レベルが正常対照レベルよりも少なくとも10%高い、[1]記載の方法。
[3] 発現レベルが、
(a) ERCC6L遺伝子のmRNAを検出する工程、
(b) ERCC6L遺伝子によってコードされるタンパク質を検出する工程、および
(c) ERCC6L遺伝子によってコードされるタンパク質の生物学的活性を検出する工程
の中より選択される方法によって検出される、[1]記載の方法。
[4] がんが肺癌である、[1]記載の方法。
[5] 発現レベルが、前記遺伝子の遺伝子転写物に対するプローブのハイブリダイゼーションを検出することにより測定される、[3]記載の方法。
[6] 発現レベルが、遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体の結合を検出することによって、該遺伝子の発現レベルとして測定される、[3]記載の方法。
[7] 生体試料が生検試料、痰、または血液を含む、[1]記載の方法。
[8] 対象由来の生体試料が上皮細胞を含む、[1]記載の方法。
[9] 対象由来の生体試料ががん細胞を含む、[1]記載の方法。
[10] 対象由来の生体試料ががん性上皮細胞を含む、[1]記載の方法。
【0043】
本発明のがんを診断する方法を以下に、より詳細に説明する。
本発明の方法によって診断を受ける対象は、好ましくは哺乳動物である。例示的な哺乳動物には、例えばヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシが含まれるが、これらに限定されない。
【0044】
診断を受ける対象から生体試料を採取して、診断を行うことが好ましい。ERCC6Lの目的の転写産物または翻訳産物を含む限り、任意の生物学的材料を測定のための生体試料として用いることができる。生体試料には、がんを診断することが望まれるかまたはがんに罹患していることが疑われる身体組織、ならびに生検試料、血液、痰、および尿などの体液が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、生体試料は、上皮細胞、より好ましくはがん性上皮細胞、またはがん性である疑いがある組織に由来する上皮細胞を含む細胞集団を含有している。さらに、必要に応じて、採取された身体組織または体液から細胞を精製し、その後これを生体試料として用いてもよい。好ましい態様において、生体試料は、診断を受ける対象から採取された肺細胞または肺組織を含み得る。
【0045】
本発明に従って、対象由来の生体試料中のERCC6Lの発現レベルを測定する。発現レベルは、当技術分野で公知の方法を用いて、転写(核酸)産物レベルで測定することができる。例えば、ERCC6LのmRNAを、ハイブリダイゼーション法(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション)によってプローブを用いて定量してもよい。検出は、チップまたはアレイ上で行うことができる。アレイの使用は、ERCC6Lを含む複数の遺伝子(例えば、様々ながん特異的遺伝子)の発現レベルを検出するのに好ましい。当業者は、ERCC6Lの配列情報を利用して、そのようなプローブを調製することができる。例えば、ERCC6LのcDNAをプローブとして用いてもよい。必要に応じて、色素、蛍光物質、および同位体などの適切な標識でプローブを標識してもよく、該遺伝子の発現レベルをハイブリダイズした標識の強度として検出してもよい。
【0046】
さらに、増幅に基づく検出法(例えば、RT−PCR)によりプライマーを用いて、ERCC6Lの転写産物を定量してもよい。そのようなプライマーもまた、該遺伝子の入手可能な配列情報に基づいて調製することができる。例えば、「実施例」で用いられるプライマー(SEQ ID NO 1および2)を、RT−PCRまたはノーザンブロットによる検出に使用してもよいが、本発明はそれらに限定されない。
【0047】
具体的には、本発明の方法に用いられるプローブまたはプライマーは、ストリンジェント、中程度にストリンジェント、または低ストリンジェントな条件下で、ERCC6LのmRNAとハイブリダイズする。本明細書で用いられる「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、プローブまたはプライマーがその標的配列とはハイブリダイズするが、その他の配列とはハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は配列に依存し、異なる状況下では異なると考えられる。より長い配列の特異的ハイブリダイゼーションは、短い配列よりも高い温度で観察される。一般に、ストリンジェントな条件の温度は、所定のイオン強度およびpHにおける特定の配列の融解温度(Tm)よりも約5℃低くなるように選択される。Tmとは、平衡状態で、標的配列に相補的なプローブの50%が標的配列とハイブリダイズする(所定のイオン強度、pH、および核酸濃度における)温度である。標的配列は一般に過剰に存在するため、Tmでは、平衡状態でプローブの50%が占有される。典型的に、ストリンジェントな条件とは、pH7.0〜8.3において塩濃度がナトリウムイオン約1.0 M未満、典型的にはナトリウムイオン(または他の塩)約0.01〜1.0 Mであり、短いプローブまたはプライマー(例えば、10〜50ヌクレオチド)に関しては、温度が少なくとも約30℃であり、より長いプローブまたはプライマーに関しては少なくとも約60℃である条件である。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドなどの不安定化剤の添加によって達成してもよい。
【0048】
あるいは、本発明の診断のために翻訳産物を検出することもできる。例えば、ERCC6Lタンパク質の量を測定してもよい。翻訳産物として該タンパク質の量を測定する方法には、該タンパク質を特異的に認識する抗体を用いる免疫測定法が含まれる。抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであってよい。さらに、断片がERCC6Lタンパク質への結合能を保持する限り、抗体の任意の断片または改変物(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')2、Fv等)を検出に用いることもできる。タンパク質を検出するためのこのような種類の抗体を調製する方法は、当技術分野において周知であり、本発明において任意の方法を使用して、そのような抗体およびそれらの同等物を調製し得る。
【0049】
ERCC6L遺伝子の発現レベルをその翻訳産物に基づいて検出する別の方法として、ERCC6Lタンパク質に対する抗体を用いる免疫組織化学的解析により、染色強度を観察してもよい。すなわち、強力な染色の観察により、該タンパク質の存在の増加、およびそれと同時にERCC6L遺伝子の高発現レベルが示される。
【0050】
さらに、診断の精度を向上させるために、ERCC6L遺伝子の発現レベルに加えて、その他のがん関連遺伝子、例えばがんにおいて差次的に発現することが知られている遺伝子の発現レベルを測定してもよい。
生体試料中のERCC6L遺伝子を含むがんマーカー遺伝子の発現レベルは、それが、対応するがんマーカー遺伝子の対照レベルから例えば10%、25%、もしくは50%上昇するか;または1.1倍超、1.5倍超、2.0倍超、5.0倍超、10.0倍超、もしくはそれ以上まで上昇している場合に、上昇していると見なされ得る。
【0051】
対照レベルは、疾患状態(がん性または非がん性)が判明している一名/複数名の対象から予め採取し保存しておいた試料を用いることにより、試験生体試料と同時に測定してもよい。あるいは、対照レベルは、疾患状態が判明している対象由来の試料中のERCC6L遺伝子の予め測定された発現レベルを解析することによって得られた結果に基づいて、統計的方法により決定してもよい。さらに、対照レベルは、以前に試験された細胞に由来する発現パターンのデータベースであってもよい。さらに、本発明の1つの局面に従って、生体試料中のERCC6L遺伝子の発現レベルを、複数の参照試料から測定される複数の対照レベルと比較してもよい。対象由来の生体試料の組織型と類似の組織型に由来する参照試料から測定された対照レベルを用いることが好ましい。さらに、疾患状態が判明している集団におけるERCC6L遺伝子の発現レベルの基準値を用いることが好ましい。基準値は、当技術分野において公知の任意の方法によって得てもよい。例えば、平均値 +/− 2 S.D.または平均値 +/− 3 S.D.の範囲を基準値として用い得る。
本発明の文脈において、がん性でないと判明している生体試料から測定された対照レベルは「正常対照レベル」と称される。一方、対照レベルががん性生体試料から測定される場合には、これは「がん性対照レベル」と称される。
【0052】
ERCC6L遺伝子の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇しているか、またはがん性対照レベルと類似している場合、対象をがんに罹患しているか、またはがんを発症するリスクがあると診断し得る。さらに、複数のがん関連遺伝子の発現レベルを比較する場合、試料とがん性である参照との間の遺伝子発現パターンが類似していることにより、対象ががんに罹患しているか、またはがんを発症するリスクがあることが示される。
【0053】
試験生体試料の発現レベルと対照レベルの差を、その発現レベルが細胞のがん性状態または非がん性状態に応じて異ならないことが判明している対照核酸、例えばハウスキーピング遺伝子の発現レベルに対して正規化することができる。例示的な対照遺伝子には、β−アクチン、グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素、およびリボソームタンパク質P1が含まれるが、これらに限定されない。
【0054】
本発明において、ERCC6Lが有用な診断マーカーであるばかりでなく、がん治療に適した標的であることも明らかにされる。したがって、ERCC6Lを標的とするがん治療が、本発明によって達成され得る。本発明において、ERCC6Lを標的とするがん治療とは、がん細胞におけるERCC6Lの活性および/または発現の抑制または阻害を指す。ERCC6Lを標的とするがん治療には、任意の抗ERCC6L剤を用いることができる。本発明において、抗ERCC6L剤は以下の物質または有効成分を含む:
(a) 本発明の二本鎖分子、
(b) それをコードするDNA、および
(c) それをコードするベクター。
【0055】
したがって好ましい態様において、本発明は、(i) 対象が抗ERCC6L剤で治療すべきがんを有するかどうかを診断し、かつ/または(ii) ERCC6Lを標的とするがん治療のために対象を選択する方法を提供し、該方法は、
a) 治療すべきがんを有する疑いのある対象から採取されたがん細胞または組織中のERCC6Lの発現レベルを測定する段階;
b) ERCC6Lの発現レベルを正常対照レベルと比較する段階;
c) ERCC6Lの発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇している場合に、該対象が治療すべきがんを有すると診断する段階;および
d) 段階c)において対象が治療すべきがんを有すると診断される場合に、がん治療のために該対象を選択する段階
を含む。
【0056】
あるいは、そのような方法は、
a) 治療すべきがんを有する疑いのある対象から採取されたがん細胞または組織中のERCC6Lの発現レベルを測定する段階;
b) ERCC6Lの発現レベルをがん性対照レベルと比較する段階;
c) ERCC6Lの発現レベルががん性対照レベルと類似しているかまたは同等である場合に、該対象が治療すべきがんを有すると診断する段階;および
d) 段階c)において対象が治療すべきがんを有すると診断される場合に、がん治療のために該対象を選択する段階
を含む。
【0057】
がんを診断するためのキット:
本発明はまた、がんを診断するためのキットを提供し、このキットはまた、がん治療の有効性を評価および/またはモニターするのにも有用であり得る。本発明はまた、本発明の二本鎖分子またはそれをコードするベクターで治療され得るがんに罹患している対象を判定するためのキットを提供し、このキットはまた、そのようながん治療の有効性を評価および/またはモニターするのにも有用であり得る。好ましくは、本発明のキットによって診断されるがんは、NSCLCおよびSCLCを含む肺癌である。より好ましくは、本キットは、対象由来の生体試料中のERCC6L遺伝子の発現レベルを検出するための少なくとも1つの試薬を含み、該試薬は、
(a) ERCC6L遺伝子のmRNAを検出するための試薬;
(b) ERCC6Lタンパク質を検出するための試薬;および
(c) ERCC6Lタンパク質の生物学的活性を検出するための試薬
からなる群より選択され得る。
【0058】
ERCC6L遺伝子のmRNAを検出するのに適した試薬には、ERCC6L mRNAの一部に対する相補的配列を有するオリゴヌクレオチドのような、ERCC6L mRNAに特異的に結合するか、または該mRNAを同定する核酸が含まれる。このような種類のオリゴヌクレオチドは、ERCC6L mRNAに特異的であるプライマーおよびプローブによって例証される。このような種類のオリゴヌクレオチドは、当技術分野において周知の方法に基づいて調製し得る。必要に応じて、ERCC6L mRNAを検出するための試薬を固体基質上に固定化してもよい。さらに、ERCC6L mRNAを検出するための2つ以上の試薬をキットに含めてもよい。
【0059】
一方、ERCC6Lタンパク質を検出するのに適した試薬には、ERCC6Lタンパク質に対する抗体が含まれる。抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであってよい。さらに、断片がERCC6Lタンパク質への結合能を保持する限り、抗体の任意の断片または改変物(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')2、Fv等)を試薬として用いることもできる。タンパク質を検出するためのこのような種類の抗体を調製する方法は、当技術分野において周知であり、本発明において任意の方法を使用して、そのような抗体およびそれらの同等物を調製し得る。さらに、直接連結または間接標識技法により、抗体をシグナル発生分子で標識してもよい。標識、および抗体を標識し、それらの標的に対する抗体の結合を検出する方法は当技術分野において周知であり、任意の標識および方法を本発明に使用してもよい。さらに、ERCC6Lタンパク質を検出するための2つ以上の試薬をキットに含めてもよい。
【0060】
さらに、例えば、生体試料中の発現したERCC6Lタンパク質による細胞増殖活性を測定することにより、生物学的活性を測定することができる。例えば、対象由来の生体試料の存在下で細胞を培養し、次に増殖の速度を検出することにより、または細胞周期もしくはコロニー形成能を測定することにより、生体試料の細胞増殖活性を測定することができる。必要に応じて、ERCC6L mRNAを検出するための試薬を固体基質上に固定化してもよい。さらに、ERCC6Lタンパク質の生物学的活性を検出するための2つ以上の試薬をキットに含めてもよい。
【0061】
本キットは、前述の試薬のうちの2つ以上を含み得る。さらに、本キットは、ERCC6L遺伝子に対するプローブまたはERCC6Lタンパク質に対する抗体を結合させるための固体基質および試薬、細胞を培養するための培地および容器、陽性および陰性対照試薬、ならびにERCC6Lタンパク質に対する抗体を検出するための二次抗体を含み得る。例えば、がんに罹患しているかまたは罹患していない対象から採取された組織試料は、有用な対照試薬として役立ち得る。本発明のキットは、緩衝液、希釈液、フィルター、針、シリンジ、および使用説明書を備えた包装封入物(例えば、文書、テープ、CD−ROM、URL等)を含む、商業上および使用者の観点から望ましいその他の材料をさらに含み得る。これらの試薬等は、ラベルを貼った容器中に提供され得る。適切な容器には、ボトル、バイアル、および試験管が含まれる。該容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成され得る。
【0062】
本発明の1つの態様として、試薬がERCC6L mRNAに対するプローブである場合には、該試薬を多孔性ストリップなどの固体基質上に固定化して、少なくとも1つの検出部位を形成させてもよい。多孔性ストリップの測定または検出領域は、それぞれが核酸(プローブ)を含む複数の部位を含み得る。検査ストリップはまた、陰性および/または陽性対照用の部位を含み得る。あるいは、対照部位は、検査ストリップとは別のストリップ上に位置し得る。任意で、異なる検出部位は異なる量の固定化核酸を含み得る、すなわち、第1検出部位ではより大量の固定化核酸を、および以降の部位ではより少量の固定化核酸を含み得る。試験試料を添加すると、検出可能なシグナルを呈する部位の数により、試料中に存在するERCC6L mRNAの量の定量的指標が提供される。検出部位は、適切に検出可能な任意の形状で構成してもよく、典型的には、検査ストリップの幅全体にわたるバーまたはドットの形状である。
【0063】
本発明のキットは、陽性および/もしくは陰性対照試料、ならびに/またはERCC6L標準試料をさらに含み得る。本発明の陽性対照試料は、ERCC6L陽性試料を回収することによって調製し得る。そのようなERCC6L陽性試料は、例えば、A427、NCI−H1781、A549、LC319等の肺腺癌細胞(ADC)株;NCI−H26、EBC−1、NCI−H520、NCI−H2170等の肺扁平上皮癌(SCC)細胞株;およびDMS114、DMS273、SBC−3、SBC−5、H196、H446等のSCLC細胞株を含む、樹立された肺癌細胞株から得てもよい。あるいは、ERCC6L陽性試料は、肺線癌組織、肺扁平上皮癌組織、およびSCLC組織を含む臨床肺癌組織から得てもよい。あるいは、陽性対照試料は、カットオフ値を決定し、そのカットオフ値よりも多くのERCC6L mRNAまたはタンパク質の量を含む試料を調製することにより、調製してもよい。本明細書において、「カットオフ値」という語句は、正常範囲とがん性範囲を分割する値を指す。例えば、当業者は、受信者動作特性(ROC)曲線を用いてカットオフ値を決定し得る。本発明のキットは、ERCC6L mRNAまたはポリペプチドのカットオフ値量を含むERCC6L標準試料を含み得る。反対に、陰性対照試料は、非がん性細胞株もしくは正常肺組織などの非がん性組織から調製してもよく、またはカットオフ値未満のERCC6L mRNAもしくはタンパク質を含む試料を調製することにより、調製してもよい。
【0064】
あるいは、本発明は、がんを診断するための診断試薬を調製するための試薬の使用を提供する。ある態様において、試薬は、
(a) ERCC6L遺伝子のmRNAを検出するための試薬;
(b) ERCC6Lタンパク質を検出するための試薬;および
(c) ERCC6Lタンパク質の生物学的活性を検出するための試薬
からなる群より選択され得る。
具体的には、そのような試薬は、ERCC6Lポリヌクレオチドとハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、またはERCC6Lポリペプチドに結合する抗体である。
【0065】
抗がん物質のスクリーニング:
本発明を通じて、ERCC6Lががん細胞の増殖に関与することが実証された。したがって、ERCC6L遺伝子の発現レベルおよび/またはERCC6Lポリペプチドの生物学的活性を抑制する物質は、がんを治療および/または予防するのに有用であると予測される。そのような物質は、ERCC6L遺伝子、該遺伝子によってコードされるポリペプチド、または該遺伝子の転写調節領域を用いてスクリーニングすることができる。したがって本発明はまた、ERCC6L遺伝子、ERCC6Lポリペプチド、または該遺伝子の転写調節領域を用いて、がんを治療および/または予防するための候補物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0066】
本発明の文脈において、本発明のスクリーニング法により同定される物質は、任意の化合物またはいくつかの化合物を含む組成物であってよい。さらに、本発明のスクリーニング法に従って細胞またはタンパク質に曝露させる試験物質は、単一の物質であっても、または物質の組み合わせであってもよい。本方法において物質の組み合わせを用いる場合には、物質を連続して接触させてもよいし、または同時に接触させてもよい。
【0067】
本発明のスクリーニング法によってスクリーニングされる物質は、がんを治療および/もしくは予防する、ならびに/またはがん細胞の増殖を阻害するのに適した候補物質であり得る。本発明において、がんは好ましくは、ERCC6L過剰発現との関連によって特徴づけられる。したがって、スクリーニングされる物質は好ましくは、ERCC6L過剰発現と相関または関連するがんに適用され得る。好ましい態様において、ERCC6L過剰発現と相関または関連するがんは、NSCLCおよびSCLCを含む肺癌である。NSCLCには、肺腺癌(ADC)および肺扁平上皮癌(SCC)が含まれるが、これらに限定されない。
【0068】
本発明のスクリーニング法においては、任意の試験物質、例えば細胞抽出物、細胞培養物上清、発酵微生物の生成物、海洋生物由来の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成微小分子化合物(アンチセンスRNA、siRNA、リボザイム、およびアプタマー等の核酸構築物を含む)、および天然化合物を使用することができる。本発明の試験物質は、(1)生物学的ライブラリー法、(2)空間的にアドレス可能なパラレル固相ライブラリー法または溶液相ライブラリー法、(3)逆重畳積分を必要とする合成ライブラリー法、(4)「一ビーズ一化合物」ライブラリー法、および(5)アフィニティークロマトグラフィー選択を用いる合成ライブラリー法を含む、当技術分野で既知のコンビナトリアルライブラリー法における多数のアプローチのいずれかを用いて得ることもできる。アフィニティークロマトグラフィー選択を用いる生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、他の4つのアプローチは物質のペプチドライブラリー、非ペプチドオリゴマーライブラリー、または化合物の低分子ライブラリーにも適用可能である(Lam, Anticancer Drug Des 1997, 12: 145-67)。分子ライブラリーを合成する方法の例は、当技術分野において見つけることができる(DeWitt et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90: 6909-13、Erb et al., Proc Natl Acad Sci USA 1994, 91: 11422-6、Zuckermann et al., J Med Chem 37: 2678-85, 1994、Cho et al., Science 1993, 261: 1303-5、Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33: 2059、Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33: 2061、Gallop et al., J Med Chem 1994, 37: 1233-51)。化合物のライブラリーは、溶液中(Houghten, Bio/Techniques 1992, 13: 412-21を参照されたい)、または、ビーズ(Lam, Nature 1991, 354: 82-4)、チップ(Fodor, Nature 1993, 364: 555-6)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、および同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al., Proc Natl Acad Sci USA 1992, 89: 1865-9)、もしくはファージ(Scott and Smith, Science 1990, 249: 386-90、Devlin, Science 1990, 249: 404-6、Cwirla et al., Proc Natl Acad Sci USA 1990, 87: 6378-82、Felici, J Mol Biol 1991, 222: 301-10、米国特許出願第2002103360号)の表面に提供され得る。
【0069】
本発明のスクリーニング法のいずれか1つによってスクリーニングされた物質の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換により変換された化合物は、本発明のスクリーニング法によって得られる物質に含まれる。
さらに、本発明のスクリーニング法によって得られた候補物質がタンパク質である場合には、該タンパク質をコードするDNAを得るために、該タンパク質の全アミノ酸配列を決定して、該タンパク質をコードする核酸配列を推定してもよく、または得られたタンパク質の部分アミノ酸配列を解析して、その配列に基づいてオリゴDNAをプローブとして調製し、そのプローブを用いてcDNAライブラリーをスクリーニングして、該タンパク質をコードするDNAを得てもよい。得られたDNAは、がんを治療または予防するための候補物質の調製におけるその有用性を確認され得る。
【0070】
本明細書に記載されるスクリーニングにおいて用いられる試験物質はまた、ERCC6Lタンパク質またはインビボで元のタンパク質の生物学的活性を欠くその部分ペプチドに特異的に結合する抗体であってもよい。
試験物質ライブラリーの構築は当技術分野で周知であるが、本スクリーニング法のための試験物質の同定およびそのような物質のライブラリー構築に関するさらなる指針を、本明細書において以下に提供する。
【0071】
(i) 分子モデリング:
試験物質ライブラリーの構築は、求められる特性を有することが既知である物質の分子構造、および/または、ERCC6Lタンパク質の分子構造を知ることでより容易になる。さらなる評価に適した試験物質を予備スクリーニングするための1つのアプローチは、試験物質とその標的の間の相互作用のコンピュータモデリングを利用することである。
コンピュータモデリング技術により、選択した分子の三次元原子構造の可視化、および該分子と相互作用すると考えられる新たな物質の合理的設計が可能になる。三次元の構築は典型的に、選択した分子のX線結晶解析またはNMRイメージングのデータに依存する。分子ダイナミクスは力場データを必要とする。コンピュータグラフィックシステムによって、新たな物質が標的分子にどのように結合するかを予測することが可能になり、該物質および該標的分子の構造の実験的操作が結合特異性を改善できるようになる。軽微な変化を一方または両方に加えた場合に、分子−物質間の相互作用がどうなるのかを予測するには、通常は分子設計プログラムと使用者との間にユーザーフレンドリーなメニュー形式のインターフェースを備えた、分子力学ソフトウェアおよび計算集約型(computationally intensive)コンピュータが必要である。
【0072】
上記に概説される分子モデリングシステムの例には、CHARMmプログラムおよびQUANTAプログラム(Polygen Corporation,Waltham,Mass)が含まれる。CHARMmは、エネルギー最小化および分子ダイナミクスの機能を実行する。QUANTAは分子構造の構築、グラフィックモデリング、および分析を実行する。QUANTAにより、互いに対する分子のインタラクティブな構築、修飾、可視化、および挙動分析が可能になる。
【0073】
多数の論文が、特異的タンパク質と相互作用する薬物のコンピュータモデリングに関して発表しており、例えばRotivinen et al. Acta Pharmaceutica Fennica 1988, 97: 159-66、Ripka, New Scientist 1988, 54-8、McKinlay & Rossmann, Annu Rev Pharmacol Toxiciol 1989, 29: 111-22、Perry & Davies, Prog Clin Biol Res 1989, 291: 189-93、Lewis & Dean, Proc R Soc Lond 1989, 236: 125-40, 141-62、および核酸成分のモデル受容体に関するAskew et al., J Am Chem Soc 1989, 111: 1082-90を含む。
【0074】
化学物質をスクリーニングおよび図式化する他のコンピュータプログラムは、BioDesign, Inc.(Pasadena,Calif.)、Allelix, Inc(Mississauga,Ontario,Canada)、およびHypercube, Inc.(Cambridge,Ontario)等の企業から市販されている。例えば、DesJarlais et al., J Med Chem 1988, 31: 722-9、Meng et al., J Computer Chem 1992, 13: 505-24、Meng et al., Proteins 1993, 17: 266-78、Shoichet et al., Science 1993, 259: 1445-50を参照されたい。
【0075】
後述のように、推定インヒビターが同定されたら、コンビナトリアル化学技術を用いて、同定された推定インヒビターの化学的構造に基づいて任意の数の変異体を構築することができる。得られた推定インヒビターすなわち「試験物質」のライブラリーを、がんが肺癌である、がんを治療および/もしくは予防する、ならびに/またはがんの術後再発を防止するのに適した、試験物質を同定するための本発明の方法を用いて、スクリーニングしてもよい。
【0076】
(ii) コンビナトリアル化学合成:
試験物質のコンビナトリアルライブラリーは、既知のインヒビター中に存在するコア構造の知識を含む合理的薬物設計プログラムの一部として作製することができる。このアプローチにより、適当なサイズにライブラリーを維持することが可能になり、これによってハイスループットスクリーニングが容易になる。代替的に、ライブラリーを構成する分子ファミリーの全順列を単に合成することにより、単純な、特に短い重合体分子ライブラリーを構築してもよい。この後者のアプローチの一例は、全ペプチドが6アミノ酸長のライブラリーである。そのようなペプチドライブラリーは6アミノ酸ごとの配列順列を含み得る。このタイプのライブラリーは、線形コンビナトリアル化学ライブラリーと称される。
【0077】
コンビナトリアル化学ライブラリーの調製は当業者に周知であり、化学合成または生物学的合成のいずれによって作成することができる。コンビナトリアル化学ライブラリーには、ペプチドライブラリー(例えば米国特許第5,010,175号、Furka, Int J Pept Prot Res 1991, 37: 487-93、Houghten et al., Nature 1991, 354: 84-6を参照されたい)が非限定的に含まれる。化学的多様性ライブラリーを作成するための他の化学を使用することもできる。そのような化学としては、ペプチド(例えば国際公開公報第91/19735号)、コード化ペプチド(例えば国際公開公報第93/20242号)、ランダムバイオオリゴマー(random bio−oligomer)(例えば国際公開公報第92/00091号)、ベンゾジアゼピン(例えば米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピン、およびジペプチドなどのダイバーソマー(diversomer)(DeWitt et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90: 6909-13)、ビニローグ(vinylogous)ポリペプチド(Hagihara et al., J Amer Chem Soc 1992, 114: 6568)、グルコース骨格を有する非ペプチド性(nonpeptidal)ペプチド模倣体(Hirschmann et al., J Amer Chem Soc 1992, 114: 9217-8)、低分子化合物ライブラリーの類似有機合成(Chen et al., J. Amer Chem Soc 1994, 116: 2661)、オリゴカルバメート(oligocarbamate)(Cho et al., Science 1993, 261: 1303)、および/またはペプチジルホスホネート(peptidylphosphonate)(Campbell et al., J Org Chem 1994, 59: 658)、核酸ライブラリー(Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology 1995 supplement; Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, USAを参照されたい)、ペプチド核酸ライブラリー(例えば米国特許第5,539,083号を参照されたい)、抗体ライブラリー(例えば、Vaughan et al., Nature Biotechnology 1996, 14(3): 309-14、および国際出願PCT/US96/10287号を参照されたい)、糖質ライブラリー(例えば、Liang et al., Science 1996, 274: 1520-22、米国特許第5,593,853号を参照されたい)、ならびに有機低分子ライブラリー(例えば、ベンゾジアゼピン(Gordon EM. Curr Opin Biotechnol. 1995 Dec 1; 6(6): 624-31.)、イソプレノイド(米国特許第5,569,588号)、チアゾリジノンおよびメタチアゾノン(metathiazanone)(米国特許第5,549,974号)、ピロリジン(米国特許第5,525,735号および同第5,519,134号)、モルホリノ化合物(米国特許第5,506,337号)、ベンゾジアゼピン(米国特許第5,288,514号)等を参照されたい)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0078】
コンビナトリアルライブラリーの調製のための装置は市販されている(例えば、357 MPS,390 MPS,Advanced Chem Tech,Louisville KY、Symphony,Rainin,Woburn,MA、433A Applied Biosystems,Foster City,CA、9050 Plus,Millipore,Bedford,MAを参照されたい)。加えて、数多くのコンビナトリアルライブラリーがそれ自体で市販されている(例えば、ComGenex、Princeton,N.J.、Tripos,Inc.、St.Louis,MO、3D Pharmaceuticals、Exton,PA、Martek Biosciences、Columbia,MD等を参照されたい)。
【0079】
(iii) その他の候補:
別のアプローチは、ライブラリーを作成するために組換えバクテリオファージを使用する。この「ファージ法」(Scott & Smith, Science 1990, 249: 386-90、Cwirla et al., Proc Natl Acad Sci USA 1990, 87: 6378-82、Devlin et al., Science 1990, 249: 404-6)を用いて、非常に大きなライブラリーを構築することができる(例えば106個〜108個の化学物質)。第2のアプローチは、主として化学的な方法を使用するが、Geysenの方法(Geysen et al., Molecular Immunology 1986, 23: 709-15、Geysen et al., J Immunologic Method 1987, 102: 259-74)、およびFodor et al.の方法(Science 1991, 251: 767-73)がその例である。Furka et al.(14th International Congress of Biochemistry 1988, Volume #5, Abstract FR: 013; Furka, Int J Peptide Protein Res 1991, 37: 487-93)、Houghten(米国特許第4,631,211号)、およびRutter et al.(米国特許第5,010,175号)は、アゴニストまたはアンタゴニストとして試験可能なペプチドの混合物を生成する方法を記載している。
【0080】
アプタマーは、特定の分子標的に強く結合する核酸からなる巨大分子である。TuerkおよびGold(Science. 249: 505-510 (1990))は、アプタマー選択のためのSELEX(指数関数的濃縮によるリガンドの系統的進化)法を開示している。SELEX法では、核酸分子の大きなライブラリー{例えば、1015個の異なる分子)をスクリーニングに使用することができる。
【0081】
I. タンパク質に基づくスクリーニング法
本発明は、ERCC6Lポリペプチドを用いて、がんの治療および/または予防に適用可能な候補物質をスクリーニングする方法を提供する。本発明のスクリーニング法との関連において、用いられるERCC6Lポリペプチドは、例えば、精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、担体と結合した形態、または他のポリペプチドと融合した融合タンパク質であってよい。さらに、ERCC6Lポリペプチドは、組換えポリペプチド、天然由来のタンパク質、またはその部分ペプチドであってよい。
【0082】
改変ペプチドが元のポリペプチドの少なくとも1つの生物学的活性を保持する限り、天然のERCC6Lポリペプチドに加えて、該ポリペプチドの機能的同等物も、本発明のスクリーニングに用いられるERCC6Lポリペプチドに含まれ得る。ERCC6Lポリペプチドの生物学的活性の例には、細胞増殖活性、ヘリカーゼ活性、ATPase活性、およびPlk1結合活性が含まれるが、これらに限定されない。そのような機能的同等物の好ましい例は、「ERCC6L遺伝子およびERCC6Lタンパク質」という表題の項に上記してある。例えば、そのような機能的同等物の好ましい例には、ERCC6Lポリペプチドのヘリカーゼドメイン(例えば、SEQ ID NO:10の61〜631)を含むポリペプチドが含まれる。
【0083】
連結過程および連結された物質が元のポリペプチドおよび/または断片の生物学的活性を妨げない限り、前記ポリペプチドを他の物質にさらに連結させてもよい。使用可能な物質には、例えば、ペプチド、脂質、糖および糖鎖、アセチル基、天然および合成のポリマー等が含まれる。このような種類の修飾を行って、付加的な機能を付与すること、または該ポリペプチドおよび断片を安定化し得る。本発明の方法に用いられるポリペプチドは、従来の精製法により天然タンパク質として自然界から、または選択されたアミノ酸配列に基づいて化学合成を通して得てもよい。例えば、この合成に採用できる従来のペプチド合成法には、以下のものが含まれる:
1)Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966;
2)The Proteins, Vol. 2, Academic Press, New York, 1976;
3)ペプチド合成,丸善,1975;
4)ペプチド合成の基礎と実験,丸善,1985;
5)医薬品の開発(続 第14巻)ペプチド合成,広川書店,1991;
6)国際公開公報第99/67288号;および
7)Barany G. & Merrifield R.B., Peptides Vol. 2, 「Solid Phase Peptide Synthesis」, Academic Press, New York, 1980, 100-118。
【0084】
あるいは、関心対象のポリペプチドを産生するための任意の公知の遺伝子工学的方法を適応して、前記タンパク質を得てもよい(例えば、Morrison J., J Bacteriology 1977, 132: 349-51;Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymology (eds. Wu et al.) 1983, 101: 347-62)。例えば、最初に、目的タンパク質を発現可能な形態で(例えば、プロモーターを含む調節配列の下流に)コードするポリヌクレオチドを含む適切なベクターを調製し、適切な宿主細胞に形質転換し、次に該宿主細胞を培養して、該タンパク質を産生させる。より具体的には、pSV2neo、pcDNA I、pcDNA3.1、pCAGGS、またはpCD8などの、外来遺伝子を発現させるためのベクターに、ERCC6Lポリペプチドをコードする遺伝子を挿入することにより、該遺伝子を宿主(例えば、動物)細胞等で発現させる。発現用に、プロモーターを用いることができる。例えばSV40初期プロモーター(Rigby in Williamson (ed.), Genetic Engineering, vol. 3. Academic Press, London, 1982, 83-141)、EF−αプロモーター(Kim et al., Gene 1990, 91:217-23)、CAGプロモーター(Niwa et al., Gene 1991, 108:193)、RSV LTRプロモーター(Cullen, Methods in Enzymology 1987, 152:684-704)、SRαプロモーター(Takebe et al., Mol Cell Biol 1988, 8:466)、CMV最初期プロモーター(Seed et al., Proc Natl Acad Sci USA 1987, 84:3365-9)、SV40後期プロモーター(Gheysen et al., J Mol Appl Genet 1982, 1:385-94)、アデノウイルス後期プロモーター(Kaufman et al., Mol Cell Biol 1989, 9:946)、HSV TKプロモーター等を含む、一般的に用いられている任意のプロモーターを使用することができる。ERCC6Lポリペプチドを発現させるための宿主細胞へのベクターの導入は、任意の従来の方法、例えばエレクトロポレーション法(Chu et al., Nucleic Acids Res 1987, 15:1311-26)、リン酸カルシウム法(Chen et al., Mol Cell Biol 1987, 7:2745-52)、DEAEデキストラン法(Lopata et al., Nucleic Acids Res 1984, 12:5707-17;Sussman et al., Mol Cell Biol 1985, 4:1641-3)、Lipofectin法(Derijard B, Cell 1994, 7:1025-37;Lamb et al., Nature Genetics 1993, 5:22-30;Rabindran et al., Science 1993, 259:230-4)等に従って行うことができる。
ERCC6Lポリペプチドはまた、インビトロで、従来のインビトロ翻訳システムを用いて産生してもよい。
【0085】
(i) ERCC6L結合物質のスクリーニング:
本発明の文脈において、正常器官ではERCC6L遺伝子は発現しないにもかかわらず、肺癌においてERCC6L遺伝子の過剰発現が検出された(図1)。したがって、ERCC6L遺伝子およびそれによってコードされるタンパク質を用いて、本発明は、ERCC6Lポリペプチドに結合する物質をスクリーニングする方法を提供する。ERCC6Lはがんにおいて発現するため、ERCC6Lポリペプチドに結合する物質はがん細胞の増殖を抑制し、そのためがんを治療および/または予防するのに有用であると予測される。したがって本発明はまた、ERCC6Lポリペプチドを用いて、がん細胞の増殖を抑制する候補物質をスクリーニングする方法、およびがんを治療または予防するための候補物質をスクリーニングする方法を提供する。特に、このスクリーニング方法の1つの態様は、
(a) 試験物質をERCC6Lポリペプチドと接触させる段階;
(b) 該ポリペプチドと該試験物質との間の結合活性を検出する段階;および
(c) 該ポリペプチドに結合する試験物質を選択する段階
を含む。
【0086】
あるいは、本発明に従って、がんを治療および/または予防するための試験物質の潜在的治療効果を評価または推定することもできる。ある態様において、本発明は、がんを治療および/もしくは予防する、ならびに/またはERCC6Lの過剰発現と関連するがんを阻害するための試験物質の治療効果を評価または推定する方法を提供し、該方法は、
(a) 試験物質を、ERCC6Lのポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b) 該ポリペプチドと該試験物質との間の結合活性を検出する段階;および
(c) 物質が該ポリペプチドに結合する場合に示される潜在的治療効果と該試験物質を相関させる段階
を含む。
【0087】
本発明の文脈において、治療効果は試験物質とERCC6Lタンパク質の結合レベルと相関し得る。例えば、試験物質がERCC6Lタンパク質に結合する場合には、該試験物質を、必要な治療効果を有する候補物質として同定または選択することができる。あるいは、試験物質がERCC6Lタンパク質に結合しない場合には、該試験物質を、有意な治療効果を有さないと特徴づけることができる。
本発明の方法を以下に、より詳細に説明する。
【0088】
スクリーニングに用いられるERCC6Lポリペプチドは、組換えポリペプチドもしくは天然由来のタンパク質、またはその部分ペプチドであってよい。試験物質と接触させるポリペプチドは、例えば、精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、担体と結合した形態、または他のポリペプチドと融合した融合タンパク質であってよい。
好ましい態様において、本発明によって用いられる試験物質は、抗体などのタンパク質または合成化合物であってよい。ERCC6Lポリペプチドに結合する物質をスクリーニングする方法として、当業者に周知の多くの方法を用いてもよい。そのようなスクリーニングは、例えば免疫沈降法によって行うことができる。
【0089】
免疫沈降法を用いる場合には、ERCC6Lポリペプチドは抗体認識部位を含むことが好ましい。本発明のスクリーニング法に用いられるERCC6Lポリペプチドは、上記のように調製することができる。
あるいは、ERCC6L遺伝子によってコードされるポリペプチドは、その特異性が明らかになっているモノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)を該ポリペプチドのN末端またはC末端に導入することによって、モノクローナル抗体のエピトープを含む融合タンパク質として発現させることができる。市販のエピトープ−抗体システムを用いることができる(Experimental Medicine 13: 85-90(1995))。その複数のクローニング部位を使用することによって、例えばβ−ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)等との融合タンパク質を発現することができるベクターが、市販されている。また、融合によってERCC6Lポリペプチドの特性が変わらないように、数アミノ酸〜12アミノ酸からなる小さなエピトープのみを導入することによって調製された、融合タンパク質も報告されている。エピトープ、例えばポリヒスチジン(Hisタグ)、インフルエンザ凝集素HA、ヒトc−myc、FLAG、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV−GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7タグ)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSVタグ)、Eタグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)等、およびこれらを認識するモノクローナル抗体は、ERCC6Lポリペプチドに結合するタンパク質をスクリーニングするためのエピトープ−抗体システムとして使用することができる(Experimental Medicine 13: 85-90(1995))。
【0090】
免疫沈降において、適当な界面活性剤を使用して調製された細胞溶解物にこれらの抗体を加えることによって、免疫複合体が形成される。免疫複合体は、ERCC6Lポリペプチドと、該ポリペプチドとの結合能を含むポリペプチドと、抗体とからなる。上記エピトープに対する抗体の使用に加えて、ERCC6Lポリペプチドに対する抗体を使用して免疫沈降を実施することもでき、該抗体は上述のように調製することができる。抗体がマウスIgG抗体である場合、例えばプロテインAセファロースまたはプロテインGセファロースによって免疫複合体を沈降させることができる。ERCC6L遺伝子によってコードされるポリペプチドを、GSTなどのエピトープとの融合タンパク質として調製する場合、免疫複合体は、ERCC6Lポリペプチドに対する抗体の使用と同じように、これらのエピトープと特異的に結合する物質、例えばグルタチオン−セファロース4Bを用いて形成することができる。
【0091】
免疫沈降は、例えば文献(Harlow and Lane, Antibodies, 511-52, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York(1988))の方法に従ってまたは準じて実施することができる。
SDS−PAGEは免疫沈降タンパク質の解析に一般的に使用され、結合したタンパク質を、適当な濃度のゲルを用いて該タンパク質の分子量によって解析することができる。ERCC6Lポリペプチドに結合したタンパク質は、クマシー染色または銀染色などの一般的な染色法では検出が困難であるため、放射性同位体、35S−メチオニンまたは35S−システインを含有する培養培地中で細胞を培養する段階、細胞中のタンパク質を標識する段階、該タンパク質を検出する段階により、該タンパク質に対する検出感度を向上させることができる。タンパク質の分子量が明らかである場合、標的タンパク質をSDS−ポリアクリルアミドゲルから直接精製することができ、その配列を決定することができる。
【0092】
ERCC6Lポリペプチドを用いて該ポリペプチドに結合するタンパク質をスクリーニングする方法として、ウェスト−ウェスタンブロット解析(Skolnik et al., Cell 65: 83-90(1991))を用いることができる。詳細には、ファージベクター(例えば、ZAP)を使用して、ERCC6Lポリペプチドに結合するタンパク質を発現すると予測される培養細胞からcDNAライブラリーを調製し、LB−アガロース上で該タンパク質を発現させ、発現したタンパク質をフィルター上に固定し、精製されかつ標識されたERCC6Lポリペプチドを上記のフィルターと反応させ、ERCC6Lポリペプチドに結合したタンパク質を発現するプラークを標識に従って検出することにより、ERCC6Lポリペプチドに結合するタンパク質を得ることができる。本発明のポリペプチドは、ビオチンとアビジンとの結合を利用することにより、あるいはERCC6L、またはERCC6Lポリペプチドに融合させた、ペプチドもしくはポリペプチド(例えば、GST)に特異的に結合する抗体を利用することにより、標識し得る。放射性同位体または蛍光等を使用する方法もまた、用いてもよい。
【0093】
あるいは、本発明のスクリーニング法の別の態様では、細胞を利用するツーハイブリッドシステムを用いてもよい(「MATCHMAKERツーハイブリッドシステム」、「哺乳動物MATCHMAKERツーハイブリッドアッセイキット」、「MATCHMAKERワンハイブリッドシステム」(Clontech);「HybriZAPツーハイブリッドベクターシステム」(Stratagene);参考文献「Dalton and Treisman, Cell 68: 597-612 (1992)」、「Fields and Sternglanz, Trends Genet 10: 286-92 (1994)」)。
【0094】
ツーハイブリッドシステムでは、本発明のポリペプチドをSRF結合領域またはGAL4結合領域と融合させ、酵母細胞で発現させる。本発明のポリペプチドに結合するタンパク質を発現すると予測される細胞から、ライブラリーが発現した際にVP16またはGAL4転写活性化領域と融合するように、cDNAライブラリーを調製する。次にこのcDNAライブラリーを上記の酵母細胞に導入し、検出された陽性クローンからライブラリーに由来するcDNAを単離する(本発明のポリペプチドに結合するタンパク質が酵母細胞で発現された場合、この2つの結合によってレポーター遺伝子が活性化され、陽性クローンが検出されるようになる)。cDNAによってコードされるタンパク質は、上記のようにして単離されたcDNAを大腸菌(E.coli)に導入し、該タンパク質を発現させることによって調製することができる。レポーター遺伝子としては、HIS3遺伝子のほかに、例えばAde2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子等を用いることができる。
【0095】
ERCC6Lポリペプチドに結合する物質を、アフィニティークロマトグラフィーを用いてスクリーニングしてもよい。例えば、ERCC6Lポリペプチドをアフィニティーカラムの担体上に固定化し、試験物質を含む組成物をカラムに供し得る。本明細書における組成物は、例えば細胞抽出物、細胞溶解物、抗体ライブラリー等であってよい。試験物質を負荷した後にカラムを洗浄し、ERCC6Lポリペプチドに結合した物質を回収することができる。試験物質がタンパク質である場合には、得られたタンパク質のアミノ酸配列を解析して、その配列に基づいてオリゴDNAを合成し、そのオリゴDNAをプローブとして用いてcDNAライブラリーをスクリーニングして、該タンパク質をコードするDNAを取得する。
【0096】
表面プラズモン共鳴現象を使用するバイオセンサーを、結合した物質を検出または定量するための手段として本発明において用いてもよい。このようなバイオセンサーを使用すると、ごく微量のポリペプチドのみを用いて、標識を行わずに、ERCC6Lポリペプチドと試験物質との間の相互作用を表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。そのため、BIAcoreなどのバイオセンサーを用いて、ERCC6Lポリペプチドと試験物質との間の結合を評価することが可能である。
【0097】
固定化されたERCC6Lポリペプチドを、合成化学物質、または天然物質バンク、またはランダムファージペプチドディスプレイライブラリーに曝露した際に結合する分子をスクリーニングする方法、およびERCC6Lタンパク質に結合するタンパク質のみならず化学物質(アゴニストおよびアンタゴニストを含む)も単離するための、コンビナトリアルケミストリー技法に基づくハイスループットを用いたスクリーニング方法(Wrighton et al., Science 273: 458-64 (1996);Verdine, Nature 384: 11-13 (1996);Hogan, Nature 384: 17-9 (1996))は、当業者に周知である。
【0098】
(ii) ERCC6Lの生物学的活性を抑制する物質のスクリーニング:
本発明の文脈において、ERCC6Lタンパク質は、がん細胞の細胞増殖を促進する活性を有すると特徴づけられる(図3)。この生物学的活性を指標として用いて、本発明は、ERCC6Lを発現するがん細胞の増殖を抑制する物質をスクリーニングする方法、ならびにがん、特に肺癌などのERCC6−L関連がんを治療および/または予防するための物質をスクリーニングする方法を提供する。したがって本発明は、以下のような段階を含む、ERCC6L遺伝子によってコードされるポリペプチドを用いて、がんを治療および/または予防するための候補物質をスクリーニングする方法を提供する:
(a) 試験物質を、ERCC6Lのポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド(ERCC6Lポリペプチド)またはその断片と接触させる段階;
(b) 段階(a)の該ポリペプチドまたは該断片の生物学的活性を検出する段階;および
(c) 試験物質の非存在下で検出された、ERCC6Lのポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド(ERCC6Lポリペプチド)の生物学的活性と比較して、該ポリペプチドまたは該断片の生物学的活性を抑制する試験物質を選択する段階。
【0099】
本発明に従って、ERCC6Lの生物学的活性(例えば、細胞増殖活性)の抑制における試験物質の治療効果、またはがんを治療および/もしくは予防するための候補物質の治療効果を評価し得る。したがって本発明はまた、ERCC6Lポリペプチドまたはその断片を用いて、ERCC6Lの生物学的活性を抑制する候補物質、またはがんを治療および/もしくは予防するための候補物質をスクリーニングする方法を提供し、該方法は以下の段階を含む:
a) 試験物質をERCC6Lポリペプチドまたはその機能的断片と接触させる段階;および
b) 段階(a)の該ポリペプチドまたは断片の生物学的活性を検出する段階、および
c) b)の生物学的活性を該試験物質の治療効果と相関させる段階。
【0100】
あるいは、ある態様において、本発明は、がんの治療および/もしくは予防、ならびに/またはERCC6Lの過剰発現と関連したがんの増殖の阻害における試験物質の治療効果を評価または推定する方法を提供し、該方法は、
(a) 試験物質をERCC6Lポリペプチドまたはその機能的断片と接触させる段階;
(b) 段階(a)の該ポリペプチドまたは断片の生物学的活性を検出する段階;および
(c) 物質が、該試験物質の非存在下で検出された、ERCC6L遺伝子のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物学的活性と比較して、該ポリペプチドの生物学的活性を抑制する場合に示される潜在的治療効果と、該試験物質とを相関させる段階
を含む。
【0101】
そのようながんには肺癌が含まれる。
本発明の文脈において、治療効果はERCC6Lポリペプチドまたはその機能的断片の生物学的活性と相関し得る。例えば、試験物質が、該試験物質の非存在下で検出されたレベルと比較して、ERCC6Lポリペプチドまたはその機能的断片の生物学的活性を抑制または阻害する場合には、該試験物質を、治療効果を有する候補物質として同定または選択することができる。あるいは、試験物質が、該試験物質の非存在下で検出されたレベルと比較して、ERCC6Lポリペプチドまたはその機能的断片の生物学的活性を抑制または阻害しない場合には、該試験物質を、有意な治療効果を有さない物質として同定し得る。
本発明の方法を以下に、より詳細に説明する。
【0102】
ERCC6Lタンパク質の生物学的活性を抑制する限り、任意のポリペプチドをスクリーニングに用いることができる。そのような生物学的活性には、ERCC6Lタンパク質の細胞増殖(cell−proliferating)活性(本明細書において、「細胞増殖(cell proliferative)活性」、「細胞増殖増強活性(cell proliferation enhancing activity)」、または「細胞増殖促進活性(cell proliferation promoting activity)」とも称される)、ヘリカーゼ活性、ATPase活性、およびPlk1結合活性が含まれる。例えば、ERCC6Lタンパク質を用いることができ、またこれらのタンパク質と機能的に同等のポリペプチドを用いることもできる。このようなポリペプチドは、細胞によって内因的または外因的に発現され得る。
【0103】
別の局面において、本発明はまた、上記の「スクリーニング」の項に記載される方法に続くスクリーニング法を提供し、該方法は、
a) 試験物質をERCC6Lポリペプチドまたはその断片と接触させる段階;
b) 該ポリペプチドまたは断片と該試験物質との間の結合を検出する段階;
c) 該ポリペプチドに結合する試験物質を選択する段階;
d) 段階c)で選択された試験物質をERCC6Lポリペプチドまたはその断片と接触させる段階;
e) 該ポリペプチドまたは断片の生物学的活性を、該物質の非存在下で検出された生物学的活性と比較する段階;および
f) 該ポリペプチドの生物学的活性を抑制する試験物質を、肺癌を治療または予防するための候補物質として選択する段階
を含む。
【0104】
このスクリーニングによって単離された物質は、ERCC6L遺伝子によってコードされるポリペプチドのアンタゴニストの候補である。「アンタゴニスト」という用語は、ポリペプチドに結合することによってその機能を阻害する分子を指す。この用語はまた、ERCC6Lをコードする遺伝子の発現を減少させるかまたは阻害する分子を指す。さらに、このスクリーニングによって単離された物質は、ERCC6Lポリペプチドと分子(DNAおよびタンパク質を含む)のインビボ相互作用を阻害する物質の候補である。
【0105】
本発明の方法において検出される生物学的活性が細胞増殖である場合には、例えば、ERCC6Lポリペプチドを発現する細胞を調製し、その細胞を試験物質の存在下で培養し、細胞増殖の速度を決定すること、細胞周期を測定すること等によって、および例えば図3に示される生存細胞またはコロニー形成活性を測定することによって、それを検出することができる。ERCC6Lを発現する細胞の増殖速度を低下させる物質を、がんを治療または予防するための候補物質として選択する。
【0106】
より具体的には、本方法は、
(a) 試験物質を、ERCC6Lを過剰発現する細胞と接触させる段階;
(b) 細胞増殖活性を測定する段階;および
(c) 試験物質の非存在下における細胞増殖活性と比較して、細胞増殖活性を低下させる試験物質を選択する段階
を含む。
好ましい態様において、本発明の方法は、
(d) ERCC6Lを発現しないか、またはほとんど発現しない細胞に影響を及ぼさない試験物質を選択する段階
をさらに含み得る。
【0107】
本明細書において定義される「生物学的活性を抑制する」という語句は、物質の非存在下と比較して、好ましくはERCC6Lの生物学的活性の少なくとも10%の抑制、より好ましくは少なくとも25%、50%、または75%の抑制、および最も好ましくは90%の抑制である。
【0108】
好ましい態様では、ERCC6Lポリペプチドを発現しない対照細胞が用いられる。したがって本発明はまた、ERCC6Lポリペプチドまたはその断片を用いて、細胞増殖を阻害する候補物質、またはERCC6L関連疾患を治療および/もしくは予防するための候補物質をスクリーニングする方法を提供し、以下のような段階を含む:
a) 試験物質の存在下で、ERCC6Lポリペプチドまたはその機能的断片を発現する細胞、およびERCC6Lポリペプチドまたはその機能的断片を発現しない対照細胞を培養する段階;
b) 該タンパク質を発現する細胞および対照細胞の生物学的活性を検出する段階;ならびに
c) 対照細胞において、および試験物質の非存在下で検出された増殖と比較して、該タンパク質を発現する細胞において生物学的活性を阻害する試験物質を選択する段階。
本明細書において明らかにされるように、ERCC6Lの生物学的活性を抑制することにより、細胞増殖が減少する。したがって、ERCC6Lの生物学的活性を阻害する候補物質をスクリーニングすることにより、がんを治療および/または予防する可能性を有する候補物質を同定することができる。これらの候補物質ががんを治療または予防する可能性は、がんのための治療物質、治療化合物、または治療剤を同定するための二次および/またはさらなるスクリーニングによって評価し得る。例えば、ERCC6Lタンパク質の生物学的活性を阻害する物質ががんの活性もまた阻害する場合には、そのような物質はERCC6L特異的治療効果を有すると結論づけられ得る。
【0109】
II. ERCC6Lの発現を変更する物質のスクリーニング:
本発明の文脈において、siRNAによるERCC6Lの発現の減少は、がん細胞の増殖の阻害を引き起こす(図2ABC)。したがって本発明は、ERCC6Lの発現を阻害する物質をスクリーニングする方法を提供する。ERCC6Lの発現を阻害する物質は、がん細胞の増殖を抑制すると予測され、よってがん、特に肺癌などのERCC6L関連がんを治療または予防するのに有用である。したがって本発明はまた、がん細胞の増殖を抑制する物質をスクリーニングする方法、およびがんを治療または予防するための候補物質をスクリーニングする方法を提供する。本発明の文脈において、そのようなスクリーニングは、例えば以下の段階を含み得る:
(a) 試験物質を、ERCC6Lを発現する細胞と接触させる段階;および
(b) 対照と比較してERCC6Lの発現レベルを低下させる試験物質を選択する段階。
【0110】
本発明の文脈において、そのようなスクリーニングは、例えば以下の段階を含み得る:
a) 試験物質を、ERCC6L遺伝子を発現する細胞と接触させる段階;
b) ERCC6L遺伝子の発現レベルを検出する段階;および
c) b)の発現レベルを該試験物質の治療効果と相関させる段階。
【0111】
本発明の文脈において、治療効果はERCC6L遺伝子の発現レベルと相関し得る。例えば、試験物質が、該試験物質の非存在下で検出されたレベルと比較して、ERCC6L遺伝子の発現レベルを低下させる場合には、該試験物質を、治療効果を有する候補物質として同定または選択し得る。あるいは、試験物質が、該試験物質の非存在下で検出されたレベルと比較して、ERCC6L遺伝子の発現レベルを低下させない場合には、該試験物質を、有意な治療効果を有さない物質として同定し得る。
本発明の方法を以下に、より詳細に説明する。
【0112】
ERCC6Lを発現する細胞には、例えば肺癌から樹立された細胞株、またはERCC6L発現ベクターをトランスフェクトした細胞株が含まれる;そのような細胞のいずれかを、本発明の上記スクリーニングに用いることができる。発現レベルは、当業者に周知の方法、例えばRT−PCR、ノーザンブロットアッセイ、ウェスタンブロットアッセイ、免疫染色、およびフローサイトメトリー解析によって評価することができる。本明細書において定義される「発現レベルを低下させる」という語句は、物質の非存在下における発現レベルと比較して、ERCC6Lの発現レベルの好ましくは少なくとも10%の低下、より好ましくは少なくとも25%、50%、または75%のレベル低下、および最も好ましくは少なくとも95%のレベル低下である。本明細書における物質には、化合物、二本鎖ヌクレオチド等が含まれる。二本鎖ヌクレオチドの調製は以下に記載する。本スクリーニング方法において、ERCC6Lの発現レベルを低下させる物質を、がんの治療または予防に用いられる候補物質として選択することができる。
【0113】
あるいは、本発明のスクリーニング法は以下の段階を含み得る:
(a) 試験物質を、ERCC6Lの転写調節領域および該転写調節領域の制御下で発現するレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と接触させる段階;
(b) 該レポーター遺伝子の発現または活性を測定する段階;ならびに
(c) 該レポーター遺伝子の発現または活性を低下させる試験物質を選択する段階。
【0114】
適切なレポーター遺伝子および宿主細胞は、当技術分野で周知である。例示的なレポーター遺伝子には、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、イソギンチャクモドキ(Discosoma sp.)赤色蛍光タンパク質(DsRed)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、lacZ、およびβ−グルクロニダーゼ(GUS)が含まれるが、これらに限定されず、宿主細胞はCOS7、HEK293、HeLa等である。スクリーニングに必要とされるレポーター構築物は、レポーター遺伝子配列をERCC6L遺伝子の転写調節領域に連結することにより調製することができる。本明細書におけるERCC6L遺伝子の転写調節領域は、転写開始部位から少なくとも500 bp上流、好ましくは1000 bp、より好ましくは5000または10000 bp上流までの領域である。転写調節領域を含むヌクレオチドセグメントは、ゲノムライブラリーから単離することができ、またはPCRによって増幅することができる。スクリーニングに必要とされるレポーター構築物は、レポーター遺伝子配列をERCC6L遺伝子の転写調節領域に連結することにより調製することができる。転写調節領域を同定する方法、およびアッセイプロトコールもまた周知である(Molecular Cloning third edition chapter 17, 2001, Cold Springs Harbor Laboratory Press)。
【0115】
前記レポーター構築物を含むベクターを宿主細胞に導入し、該レポーター遺伝子の発現または活性を、当技術分野で周知の方法により(例えば、ルミノメーター、吸光度計、フローサイトメーター等を用いて)検出する。本明細書において定義される「発現または活性を低下させる」とは、試験物質の非存在下と比較して、レポーター遺伝子の発現または活性の好ましくは少なくとも10%の低下、より好ましくは少なくとも25%、50%、または75%の低下、および最も好ましくは少なくとも95%の低下である。
【0116】
あるいは、ある態様において、本発明はまた、がんの治療もしくは予防、またはERCC6Lの過剰発現と関連したがんの阻害に及ぼす試験物質の治療効果を評価または推定する方法を提供し、該方法は、
(a) 試験物質を、ERCC6Lの転写調節領域および該転写調節領域の制御下で発現するレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と接触させる段階;
(b) 該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を測定する段階;ならびに
(c) 試験物質が該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を低下させる場合に示される潜在的治療効果と該試験物質とを相関させる段階
を含む。
【0117】
本発明に従って、細胞増殖の阻害に及ぼす試験物質の治療効果、またはERCC6L関連疾患を治療もしくは予防するための候補物質の治療効果を評価し得る。したがって本発明はまた、がん細胞の増殖を抑制する候補物質をスクリーニングする方法、およびERCC6L関連疾患を治療または予防するための候補剤をスクリーニングする方法を提供する。
【0118】
別の局面に従って、本発明は以下の段階を含む方法を提供する:
(a) 試験物質を、ERCC6L遺伝子の転写調節領域および該転写調節領域の制御下で発現するレポーター遺伝子から構成されるベクターを導入した細胞と接触させる段階;
(b) 該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を検出する段階;ならびに
(c) (b)の発現レベルを該試験物質の治療効果と相関させる段階。
【0119】
本発明において、治療効果は前記レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性と相関し得る。例えば、試験物質が、該試験物質の非存在下で検出されたレベルと比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を低下させる場合には、該試験物質を、治療効果を有する候補物質として同定または選択し得る。あるいは、試験物質が、該試験物質の非存在下で検出されたレベルと比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を低下させない場合には、該試験物質を、有意な治療効果を有さない物質として同定し得る。
【0120】
(i) ERCC6Lポリペプチドに結合する;(ii) ERCC6Lポリペプチドの生物学的活性(例えば、細胞増殖活性)を抑制する/低下させる;または(iii) ERCC6L遺伝子の発現レベルを低下させる候補物質をスクリーニングすることにより、がん(例えば、肺癌)を治療または予防する可能性を有する候補物質を同定することができる。これらの候補物質の治療可能性は、がんのための治療物質を同定するための二次および/またはさらなるスクリーニングによって評価し得る。例えば、ERCC6Lポリペプチドに結合する物質ががんの上記の活性を阻害する場合には、そのような物質はERCC6L特異的治療効果を有すると結論づけられ得る。
【0121】
二本鎖分子:
本明細書で用いる場合、「単離された二本鎖分子」という用語は、標的遺伝子の発現を阻害する核酸分子を指し、例えば、低分子干渉RNA(siRNA;例えば、二本鎖リボ核酸(dsRNA)または低分子ヘアピンRNA(shRNA))および低分子干渉DNA/RNA(siD/R−NA;例えば、DNAとRNAの二本鎖キメラ(dsD/R−NA)またはDNAとRNAの低分子ヘアピンキメラ(shD/R−NA))を含む。
【0122】
本明細書で用いられる「標的配列」は、遺伝子を発現する細胞に該配列を標的とする本発明の二本鎖核酸分子が導入された場合に、mRNA全体の翻訳の抑制をもたらす、遺伝子のmRNAまたはcDNA配列内のヌクレオチド配列である。標的配列に相当する配列を含む二本鎖ポリヌクレオチドが、遺伝子を発現している細胞において該遺伝子の発現を阻害する場合に、遺伝子のmRNAまたはcDNA配列内のヌクレオチド配列は標的配列であると判定され得る。遺伝子発現を抑制する二本鎖ポリヌクレオチドは、標的配列および2〜5ヌクレオチド長の3'オーバーハング(例えば、uu)からなってよい。
【0123】
標的配列がcDNA配列によって示される場合、標的配列を規定するために、二本鎖cDNAのセンス鎖配列、すなわちmRNA配列がDNA配列に変換された配列が用いられる。二本鎖分子は、標的配列に相当する配列を有するセンス鎖、および該標的配列に対する相補配列を有するアンチセンス鎖からなり、アンチセンス鎖はセンス鎖と相補配列においてハイブリダイズし、二本鎖分子を形成する。
本明細書において、「〜に相当する」という語句は、二本鎖分子のセンス鎖を構成する核酸の種類に応じて標的配列を変換することを意味する。例えば、標的配列がDNA配列で示され、二本鎖分子のセンス鎖がRNA領域を有する場合には、該RNA領域内の塩基「t」は塩基「u」に置き換えられる。一方、標的配列がRNA配列で示され、二本鎖分子のセンス鎖がDNA領域を有する場合には、該DNA領域内の塩基「u」は塩基「t」に置き換えられる。本発明の文脈において、標的配列は主にDNAで示される。言い換えれば、本発明はまた、その標的配列が、DNAで示されるがRNAに置き換えることができるSEQ ID NO:7またはSEQ ID NO:8を含むか、またはこれらに限定される二本鎖分子を提供する。
【0124】
同様に、二本鎖分子のアンチセンス鎖に関して、標的配列に対する相補配列は、アンチセンス鎖を構成する核酸の種類に応じて規定され得る。
二本鎖分子は、標的配列に相当する配列およびそれに対する相補配列に加えて、2〜5ヌクレオチド長を有する1つもしくは2つの3'オーバーハング(例えば、uu)、および/または、センス鎖とアンチセンス鎖とを連結してヘアピン構造を形成するループ配列を有してよい。
【0125】
本明細書で使用される「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨害する二本鎖RNA分子を指す。RNAが転写される鋳型をDNAとする技術を含む、siRNAを細胞に導入する標準的な技術を用いる。siRNAには、ERCC6Lセンス核酸配列(「センス鎖」とも称される)、ERCC6Lアンチセンス核酸配列(「アンチセンス鎖」とも称される)、またはその両方が含まれる。単一転写産物が、標的遺伝子のセンス核酸配列と相補的なアンチセンス核酸配列との両方、例えばヘアピンを有するように、siRNAを構築してもよい。siRNAはdsRNAまたはshRNAのいずれかであり得る。
【0126】
本明細書で使用される「dsRNA」という用語は、互いに対する相補配列で構成され、且つ二本鎖RNA分子を形成するように相補配列を介して共にアニーリングしている、2つのRNA分子の構築物を指す。2本の鎖のヌクレオチド配列は、標的遺伝子配列のタンパク質コード配列から選択される「センス」または「アンチセンス」RNAだけでなく、標的遺伝子の非コード領域から選択されるヌクレオチド配列を有するRNA分子も含んでよい。
【0127】
本明細書で使用される「shRNA」という用語は、互いに対して相補的である第1の領域および第2の領域、即ちセンス鎖およびアンチセンス鎖からなる、ステムループ構造を有するsiRNAを指す。領域の相補性および指向性の程度は、塩基対形成が領域間で起こるのに十分であり、第1の領域および第2の領域がループ領域によって連結され、該ループ領域内のヌクレオチド(またはヌクレオチド類似体)間の塩基対形成の欠失によってループが生じる。shRNAのループ領域は、センス鎖とアンチセンス鎖との間に介在する一本鎖領域であり、「介在一本鎖」とも称され得る。
【0128】
本明細書で使用される「siD/R−NA」という用語は、RNAとDNAの両方からなる二本鎖ポリヌクレオチド分子を指し、RNAとDNAのハイブリッドおよびキメラを含み、標的mRNAの翻訳を妨害する。本明細書中で、ハイブリッドとは、DNAからなるポリヌクレオチドとRNAからなるポリヌクレオチドとが互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成する分子を示し、一方キメラとは、二本鎖分子を構成する鎖の一方または両方がRNAおよびDNAを含有できるものを示す。siD/R−NAを細胞に導入する標準的な技術が用いられる。siD/R−NAには、ERCC6Lセンス核酸配列(「センス鎖」とも称される)、ERCC6Lアンチセンス核酸配列(「アンチセンス鎖」とも称される)またはその両方が含まれる。単一転写産物が、標的遺伝子由来のセンス核酸配列および相補的アンチセンス核酸配列の両方、例えばヘアピンを有するように、siD/R−NAを構築することができる。siD/R−NAはdsD/R−NAまたはshD/R−NAのいずれかであり得る。
【0129】
本明細書で使用される「dsD/R−NA」という用語は、互いに対する相補配列からなり、且つ二本鎖ポリヌクレオチド分子を形成するように相補配列を介して共にアニーリングしている、2つの分子の構築物を指す。2本の鎖のヌクレオチド配列は、標的遺伝子配列のタンパク質コード配列から選択される「センス」または「アンチセンス」ポリヌクレオチド配列だけでなく、標的遺伝子の非コード領域から選択されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドも含み得る。dsD/R−NAを構築する2つの分子の一方または両方がRNAおよびDNAの両方からなる(キメラ分子)か、あるいは代替的に、分子の一方がRNAからなり、もう一方がDNAからなる(ハイブリッド二本鎖)。
【0130】
本明細書で使用される「shD/R−NA」という用語は、互いに対して相補的である第1の領域および第2の領域、即ちセンス鎖およびアンチセンス鎖からなる、ステムループ構造を有するsiD/R−NAを指す。領域の相補性および指向性の程度は、領域間で塩基対形成が起こるのに十分であり、第1の領域および第2の領域がループ領域によって連結し、該ループ領域内のヌクレオチド(またはヌクレオチド類似体)間の塩基対形成の欠失によってループが生じる。shD/R−NAのループ領域は、センス鎖とアンチセンス鎖との間に介在する一本鎖領域であり、「介在一本鎖」とも称され得る。
本明細書で用いられる「単離された核酸」とは、その元の環境(例えば、天然のものであれば自然環境)から取り出され、したがってその天然状態から人工的に変化した核酸である。本発明の文脈において、単離された核酸の例には、DNA、RNA、およびそれらの誘導体が含まれる。
【0131】
標的mRNAにハイブリダイズするERCC6L遺伝子に対する二本鎖分子は、通常は該遺伝子の一本鎖mRNA転写物と結合し、それによってERCC6Lタンパク質の翻訳を妨げ、したがって該タンパク質の発現を阻害することにより、ERCC6L遺伝子によってコードされるERCC6Lタンパク質の産生を低減または阻害する。本明細書で記述したように、いくつかのがん細胞株におけるERCC6L遺伝子の発現が、dsRNAによって阻害された(図2)。したがって本発明は、ERCC6L遺伝子を発現する細胞に導入された場合に、該遺伝子の発現を阻害し得る単離された二本鎖分子を提供する。二本鎖分子の標的配列は、以下に言及されるものなどのsiRNA設計アルゴリズムにより設計することができる。
ERCC6L標的配列の例は、SEQ ID NO:7または8などの核酸を含む。
【0132】
以下の二本鎖分子[1]〜[18]が、本発明において特に関心対象となる:
[1] 細胞に導入された場合にERCC6Lのインビボ発現および細胞増殖を阻害する単離された二本鎖分子であって、互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成するセンス鎖およびそれに相補的なアンチセンス鎖から構成される、単離された二本鎖分子;
[2] SEQ ID NO:7または8の標的配列と一致するmRNAに対して作用する、[1]記載の二本鎖分子;
[3] センス鎖がSEQ ID NO:7または8の標的配列に相当するヌクレオチド配列を含む、[2]記載の二本鎖分子;
[4] センス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約100ヌクレオチド対未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、[3]記載の二本鎖分子;
[5] センス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約75ヌクレオチド対未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、[4]記載の二本鎖分子;
[6] センス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約50ヌクレオチド対未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、[5]記載の二本鎖分子;
[7] センス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約25ヌクレオチド対未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、[6]記載の二本鎖分子;
[8] センス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約19〜約25ヌクレオチド対の長さを有する二本鎖分子を形成する、[7]記載の二本鎖分子;
[9] 介在一本鎖によって連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を有する単一ポリヌクレオチドから構成される、[1]記載の二本鎖分子;
[10] 一般式
5'−[A]−[B]−[A']−3'
を有し、式中、[A]は、SEQ ID NO:7または8の標的配列に相当するヌクレオチド配列を含むセンス鎖であり、3〜23ヌクレオチドから構成される介在一本鎖であり、かつ[A']は、該標的配列に相補的な配列を含むアンチセンス鎖である、[9]記載の二本鎖分子;
[11] RNAから構成される、[1]記載の二本鎖分子;
[12] DNAおよびRNAの両方から構成される、[1]記載の二本鎖分子;
[13] DNAポリヌクレオチドとRNAポリヌクレオチドのハイブリッドである、[12]記載の二本鎖分子;
[14] センス鎖およびアンチセンス鎖がそれぞれDNAおよびRNAから構成される、[13]記載の二本鎖分子;
[15] DNAとRNAのキメラである、[12]記載の二本鎖分子;
[16] アンチセンス鎖の3'末端に隣接する領域、またはセンス鎖の5'末端に隣接する領域とアンチセンス鎖の3'末端に隣接する領域の両方がRNAである、[15]記載の二本鎖分子;
[17] 隣接領域が9〜13ヌクレオチドから構成される、[16]記載の二本鎖分子;ならびに
[18] 3'オーバーハングを含む、[2]記載の二本鎖分子。
【0133】
本発明の二本鎖分子について、以下でより詳細に説明する。
細胞における標的遺伝子発現の阻害能を有する二本鎖分子を設計するための方法は公知である。(例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第6,506,559号を参照されたい。)例えば、siRNAを設計するためのコンピュータプログラムは、Ambionのウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から利用可能である。
コンピュータプログラムは、以下のプロトコールに基づいて、二本鎖分子のための標的ヌクレオチド配列を選択する。
【0134】
標的部位の選択:
1. 転写物のAUG開始コドンから始めて、AAジヌクレオチド配列について下流を探索する。潜在的なsiRNA標的部位として、個々のAAおよび3'側に隣接する19ヌクレオチドの出現を記録する。Tuschlらは、5'および3'非翻訳領域(UTR)ならびに開始コドン近傍(75塩基以内)の領域は、調節タンパク質結合部位がより多い可能性があること、ならびにUTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体がsiRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨げ得ることから、これらに対するsiRNAの設計を推奨していない。
2.潜在的な標的部位を適切なゲノムデータベース(ヒト、マウス、ラット等)と比較し、他のコード配列と有意な相同性を有する全ての標的配列を検討から外す。基本的には、www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/におけるNCBIサーバー上で得られるBLASTを使用する(Altschul SF, et al., Nucleic Acids Res 1997 Sep 1, 25(17):3389-402)。
3.合成に適格である標的配列を選択する。遺伝子の長さに沿っていくつかの標的配列を選択して評価することが一般的である。
【0135】
上記のプロトコールを用いて、ERCC6L遺伝子に関して、本発明の単離された二本鎖分子の標的配列はSEQ ID NO:7および8として設計された。
上記の標的配列を標的とする二本鎖分子はそれぞれ、該標的遺伝子を発現する細胞の増殖を抑制する能力について調べられた。したがって本発明は、ERCC6L遺伝子に関して、SEQ ID NO:7および8の配列を標的とする二本鎖分子を提供する。
本発明の二本鎖分子は単一の標的ERCC6L遺伝子配列に指向性を有してもよいし、または複数の標的ERCC6L遺伝子配列に指向性を有してもよい。
【0136】
ERCC6L遺伝子の上記の標的配列を標的とする本発明の二本鎖分子は、該標的配列の核酸配列および/または該標的配に対する相補配列を含有する単離されたポリヌクレオチドを含む。ERCC6L遺伝子を標的とするポリヌクレオチドの例には、SEQ ID NO:7もしくは8の配列、および/またはこれらのヌクレオチドに対する相補配列を含有するものが含まれる;しかしながら、本発明はこの例に限定されず、改変分子がERCC6L遺伝子の発現を抑制する能力を保持する限り、前述の核酸配列における軽微な改変は許容される。本明細書において、核酸配列に関連して用いられる「軽微な改変」という語句は、該配列に対する核酸の1個、2個、または数個の置換、欠失、付加、または挿入を示す。
【0137】
1つの態様において、二本鎖分子は2つのポリヌクレオチドからなり、一方のポリヌクレオチドは標的配列に相当する配列、すなわちセンス鎖を有し、もう一方のポリペプチドは該標的配列に対する相補配列、すなわちアンチセンス鎖を有する。センス鎖ポリヌクレオチドとアンチセンス鎖ポリヌクレオチドは、互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成する。そのような二本鎖分子の例には、dsRNAおよびdsD/R−NAが含まれる。
【0138】
別の態様において、二本鎖分子は、標的配列に相当する配列、すなわちセンス鎖と、該標的配列に対する相補配列、すなわちアンチセンス鎖の両方を有するポリヌクレオチドからなる。一般的に、センス鎖とアンチセンス鎖は介在鎖によって連結され、互いにハイブリダイズしてヘアピンループ構造を形成する。そのような二本鎖分子の例には、shRNAおよびshD/R−NAが含まれる。
言い換えれば、本発明の二本鎖分子は、標的配列のヌクレオチド配列を有するセンス鎖ポリヌクレオチド、および該標的配列に相補的なヌクレオチド配列を有するアンチセンス鎖ポリヌクレオチドから構成され、両ポリヌクレオチドが互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成する。該ポリヌクレオチドを含む二本鎖分子において、鎖の一方または両方のポリヌクレオチドの一部がRNAであってもよく、標的配列がDNA配列で規定される場合には、該標的配列およびそれに対する相補配列内のヌクレオチド「t」は「u」に置き換えられる。
【0139】
本発明の1つの態様において、本発明のそのような二本鎖分子は、センス鎖およびアンチセンス鎖からなるステムループ構造を含む。センス鎖とアンチセンス鎖は、ループによって結合され得る。したがって本発明はまた、介在一本鎖によって連結されたかまたは介在一本鎖が隣接しているセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含む単一ポリヌクレオチドから構成される二本鎖分子も提供する。
【0140】
本発明において、ERCC6L遺伝子を標的とする二本鎖分子は、標的配列として、SEQ ID NO:7および8より選択される配列を有し得る。したがって、本発明の二本鎖分子の好ましい例には、ポリヌクレオチドおよびそれに対する相補配列、ならびに、SEQ ID NO:7および8に相当する配列およびそれに対する相補配列を有するポリヌクレオチドが含まれる。
本発明の文脈において、核酸の置換、欠失、付加、および/または挿入に適用される場合の用語「数個」とは、3〜7個、好ましくは3〜5個、より好ましくは3〜4個、更により好ましくは3個の核酸残基を意味し得る。
【0141】
本発明に従って、本発明の二本鎖分子を、実施例において利用される方法を用いてその能力について試験することができる。本明細書に後述する実施例では、ERCC6L遺伝子のmRNAの様々な部分のセンス鎖またはそれに相補的なアンチセンス鎖からなる二本鎖分子を、標準的な方法に従って、がん細胞株におけるERCC6L遺伝子産物の産生を低減させる能力についてインビトロで試験した。さらに、例えば、候補分子の非存在下で培養した細胞と比較した、該候補二本鎖分子と接触させた細胞におけるERCC6L遺伝子産物の減少を、例えば、実施例1:「半定量的RT−PCR」の下で記載されるERCC6L mRNAに対するプライマーを用いるRT−PCRによって、検出することができる。次に、インビトロ細胞ベースのアッセイにおいてERCC6L遺伝子産物の産生を低減させる配列を、細胞増殖に対する阻害効果について試験することができる。その後、インビトロ細胞ベースのアッセイにおいて細胞増殖を阻害する配列を、がんを有する動物、例えばヌードマウス異種移植モデルを用いてインビボでの能力について試験し、ERCC6L遺伝子産物の産生の低減およびがん細胞増殖の低減を確認することができる。
【0142】
単離されたポリヌクレオチドがRNAまたはその誘導体である場合、ヌクレオチド配列において塩基「t」は「u」に置き換えるものとする。本明細書で使用される「相補性」という用語は、ポリヌクレオチドのヌクレオチド単位間のワトソンクリック型またはフーグスティーン型の塩基対形成を指し、「結合」という用語は、2つのポリヌクレオチド間の物理的なまたは化学的な相互作用を意味する。ポリヌクレオチドが修飾ヌクレオチドおよび/または非リン酸化ジエステル結合を含む場合、これらのポリヌクレオチドもまた同じように互いに結合できる。一般的に、相補的なポリヌクレオチド配列は、適当な条件下でハイブリダイズして、ほとんどまたは全くミスマッチを含まない安定な二重鎖を形成する。さらに、本発明の単離されたポリヌクレオチドのセンス鎖およびアンチセンス鎖は、ハイブリダイゼーションによって二本鎖分子またはヘアピンループ構造を形成することができる。1つの好ましい態様において、このような二重鎖は10個のマッチあたりわずか1個のミスマッチしか含有しない。1つの特に好ましい態様において、二重鎖の鎖が完全に相補的である場合、このような二重鎖はミスマッチを含有しない。
【0143】
ERCC6Lに関して、ポリヌクレオチドは好ましくは7006ヌクレオチド長未満である。例えばERCC6L遺伝子に関して、ポリヌクレオチドは500ヌクレオチド長未満、200ヌクレオチド長未満、100ヌクレオチド長未満、75ヌクレオチド長未満、50ヌクレオチド長未満、または25ヌクレオチド長未満である。本発明の単離されたポリヌクレオチドは、ERCC6L遺伝子に対する二本鎖分子を形成するため、または、二本鎖分子をコードする鋳型DNAを調製するために有用である。二本鎖分子を形成するためにポリヌクレオチドを使用する場合、該ポリヌクレオチドは19ヌクレオチドより長くてよく、好ましくは21ヌクレオチドより長くてよく、より好ましくは約19〜25ヌクレオチド長である。
【0144】
したがって本発明は、センス鎖およびアンチセンス鎖から構成される二本鎖分子を提供し、該センス鎖は、標的配列に相当するヌクレオチド配列である。好ましい態様において、センス鎖は標的配列でアンチセンス鎖とハイブリダイズして、19〜25ヌクレオチド対の長さを有する二本鎖分子を形成する。
【0145】
二本鎖分子は、該二本鎖分子を細胞に導入した場合にRISC複合体のmRNAにおける相同配列を同定するためのガイドとして役立つ。同定された標的RNAはダイサーのヌクレアーゼ活性によって切断および分解され、これにより該二本鎖分子は最終的に、該RNAによってコードされるポリペプチドの産生(発現)を低下させるかまたは阻害する。したがって、本発明の二本鎖分子は、ERCC6L遺伝子のmRNAとストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする一本鎖を生成できる能力によって定義することができる。本明細書において、二本鎖分子から生成された一本鎖とハイブリダイズするmRNAの部分は「標的配列」または「標的核酸」または「標的ヌクレオチド」と称される。本発明の文脈において、「標的配列」のヌクレオチド配列は、mRNAのRNA配列を用いてだけでなく、該mRNAから合成されたcDNAのDNA配列を用いても示すことができる。
【0146】
本発明の二本鎖分子は、1つまたは複数の修飾ヌクレオチドおよび/または非リン酸化ジエステル結合を含有してもよい。当技術分野において周知である化学修飾は、二本鎖分子の安定性、利用可能性および/または細胞取り込みを増大させることができる。当業者は、本発明の分子に組み込まれ得る他の種類の化学修飾も認識するであろう(国際公開公報第03/070744号、国際公開公報第2005/045037号)。1つの態様では、分解耐性の向上または取り込みの改善を与えるために、修飾を用いてもよい。このような修飾の例には、ホスホロチオエート結合、2'−O−メチルリボヌクレオチド(特に二本鎖分子のセンス鎖上で)、2'−デオキシ−フルオロリボヌクレオチド、2'−デオキシリボヌクレオチド、「普遍的塩基(universal base)」ヌクレオチド、5'−C−メチルヌクレオチド、および逆デオキシ脱塩基残基(inverted deoxybasic residue)の組み込み(US20060122137)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0147】
別の態様において、二本鎖分子の安定性を向上させるために、または標的化効率を増大させるために修飾を用いることができる。そのような修飾の例には、二本鎖分子の相補鎖2つの間の化学架橋結合、二本鎖分子の鎖の3'末端または5'末端の化学修飾、糖修飾、核酸塩基修飾および/または骨格修飾、2−フルオロ修飾リボヌクレオチドおよび2'−デオキシリボヌクレオチドが含まれる(国際公開公報第2004/029212号)が、これらに限定されるわけではない。別の態様において、標的mRNAにおけるおよび/または相補的二本鎖分子鎖における相補的ヌクレオチドに対する親和性を増減するために修飾を用いることができる(国際公開公報第2005/044976号)。例えば、非修飾ピリミジンヌクレオチドを2−チオピリミジン、5−アルキニルピリミジン、5−メチルピリミジン、または5−プロピニルピリミジンに置換することができる。さらに、非修飾プリンを7−デアザプリン、7−アルキルプリン、または7−アルケニルプリンに置換することができる。別の態様において、該二本鎖分子が3'オーバーハングを有する二本鎖分子である場合、3'末端ヌクレオチド突出ヌクレオチドを、デオキシリボヌクレオチドで置換することができる(Elbashir SM et al., Genes Dev 2001 Jan 15, 15(2): 188-200)。さらなる詳細については、US20060234970などの公開文献が入手可能である。本発明は、これらの例には限定されず、得られる分子が標的遺伝子の発現を阻害する能力を保持している限り、任意の既知の化学修飾を本発明の二本鎖分子に対して利用することができる。
【0148】
さらに、本発明の二本鎖分子はDNAおよびRNAの両方を含み得る(例えばdsD/R−NAまたはshD/R−NA)。特に、DNA鎖とRNA鎖とのハイブリッドポリヌクレオチドまたはDNA−RNAキメラポリヌクレオチドは、安定性の増大を示す。DNAとRNAとの混合、即ちDNA鎖(ポリヌクレオチド)とRNA鎖(ポリヌクレオチド)からなるハイブリッド型二本鎖分子、一本鎖(ポリヌクレオチド)の一方または両方にDNAおよびRNAの両方を含むキメラ型二本鎖分子等を、二本鎖分子の安定性を向上させるために形成してもよい。
【0149】
DNA鎖とRNA鎖とのハイブリッドは、標的遺伝子を発現している細胞に導入した場合に該遺伝子の発現を阻害できる限り、センス鎖がDNAでありアンチセンス鎖がRNAであるかまたはその反対である構造のいずれかである。好ましくは、センス鎖のポリヌクレオチドはDNAであり、アンチセンス鎖のポリヌクレオチドはRNAである。また、キメラ型二本鎖分子は、遺伝子を発現する細胞に導入した場合に標的遺伝子の発現を阻害する活性を有する限り、センス鎖とアンチセンス鎖の両方がDNAおよびRNAからなる構造、またはセンス鎖とアンチセンス鎖のいずれか一方がDNAおよびRNAからなる構造である。二本鎖分子の安定性を向上させるために、該分子は可能な限り多くのDNAを含有することが好ましいが、標的遺伝子発現の阻害を誘導するためには、発現の十分な阻害を誘導する範囲内で分子がRNAであることが必要である。
【0150】
キメラ型二本鎖分子の好ましい例として、二本鎖分子の上流部分領域(即ちセンス鎖またはアンチセンス鎖内の標的配列またはその相補配列に隣接する領域)はRNAである。好ましくは、上流部分領域とは、センス鎖の5'側(5'末端)およびアンチセンス鎖の3'側(3'末端)を示す。あるいは、センス鎖の5'末端および/またはアンチセンス鎖の3'末端に隣接する領域を、上流部分領域と称する。即ち、好ましい態様では、アンチセンス鎖の3'末端に隣接する領域、または、センス鎖の5'末端に隣接する領域とアンチセンス鎖の3'末端に隣接する領域との両方がRNAからなる。例えば、本発明のキメラまたはハイブリッド型二本鎖分子は以下の組み合わせを含む。
センス鎖:5'−[−−−DNA−−−]−3'
3'−(RNA)−[DNA]−5':アンチセンス鎖、
センス鎖:5'−(RNA)−[DNA]−3'
3'−(RNA)−[DNA]−5':アンチセンス鎖、および
センス鎖:5'−(RNA)−[DNA]−3'
3'−(−−−RNA−−−)−5':アンチセンス鎖。
【0151】
好ましくは上流部分領域は、二本鎖分子のセンス鎖またはアンチセンス鎖内で、標的配列またはこれに対する相補配列の末端から数えて9〜13ヌクレオチドからなるドメインである。さらに、そのようなキメラ型二本鎖分子の好ましい例には、少なくともポリヌクレオチドの上流半分の領域(センス鎖では5'側領域およびアンチセンス鎖では3'側領域)がRNAでありかつもう半分がDNAである、19〜21ヌクレオチド鎖長を有するものが含まれる。そのようなキメラ型二本鎖分子では、アンチセンス鎖全体がRNAである場合、標的遺伝子の発現を阻害する効果がかなり高くなる(US20050004064)。
【0152】
本発明の文脈において、二本鎖分子は、ヘアピン、例えばショートヘアピンRNA(shRNA)および、DNAとRNAからなるショートヘアピン(shD/R−NA)を形成してもよい。shRNAまたはshD/R−NAは、RNA干渉を介して遺伝子発現を停止するのに使用することができる緊密なヘアピンターンを作製する、RNAの配列またはRNAとDNAの混合物の配列である。shRNAまたはshD/R−NAは、一本鎖上にセンス標的配列とアンチセンス標的配列とを含み、これらの配列はループ配列によって分かれている。一般的に、ヘアピン構造は細胞機構によって切断されてdsRNAまたはdsD/R−NAとなり、続いてRNA誘導型サイレンシング複合体RISCと結合する。この複合体は、dsRNAまたはdsD/R−NAの標的配列に一致するmRNAと結合し、これを切断する。
【0153】
ヘアピンループ構造を形成するために、任意のヌクレオチド配列からなるループ配列を、センス配列とアンチセンス配列との間に配置することができる。したがって、本発明は、一般式
5'−[A]−[B]−[A']−3'
を有し、[A]は標的配列に相当するヌクレオチド配列を含むセンス鎖であり、[B]は介在一本鎖であり、[A']は該標的配列に対する相補配列を含むアンチセンス鎖である、二本鎖分子も提供する。標的配列は、例えばERCC6Lに関するSEQ ID NO:7および8のヌクレオチド配列の中より選択され得る。
【0154】
本発明はこれらの例には限定されず、[A]における標的配列は、標的ERCC6L遺伝子の発現を抑制する能力を該二本鎖分子が保持する限り、これらの例に由来する改変配列であり得る。領域[A]は領域[A']とハイブリダイズし、領域[B]からなるループを形成する。介在一本鎖部分[B]、即ちループ配列は、好ましくは3〜23ヌクレオチド長であり得る。例えばループ配列は以下の配列の中より選択することができる(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html)。さらに、23個のヌクレオチドからなるループ配列は活性siRNAも提供する(Jacque JM et al., Nature 2002 Jul 25, 418(6896): 435-8, Epub 2002 Jun 26):
CCC、CCACC、またはCCACACC:Jacque JM et al., Nature 2002 Jul 25, 418(6896): 435- 8, Epub 2002 Jun 26;
UUCG:Lee NS et al., Nat Biotechnol 2002 May, 20(5): 500-5、Fruscoloni P et al., Proc Natl Acad Sci USA 2003 Feb 18, 100(4): 1639-44, Epub 2003 Feb 10;および
UUCAAGAGA:Dykxhoorn DM et al., Nat Rev Mol Cell Biol 2003 Jun, 4(6): 457-67。
【0155】
ヘアピンループ構造を有する本発明の好ましい二本鎖分子の例を以下に示す。以下の構造において、ループ配列は、AUG、CCC、UUCG、CCACC、CTCGAG、AAGCUU、CCACACC、およびUUCAAGAGAの中より選択されることができる;しかしながら、本発明はこれらに限定されない:
CUGCACAACCAACUCUUUG−[B]−CAAAGAGUUGGUUGUGCAG
(標的配列SEQ ID NO:7の場合)。
AUGUUAAUCAAUAACUGGC−[B]−GCCAGUUAUUGAUUAACAU
(標的配列SEQ ID NO:8の場合)。
【0156】
さらに、二本鎖分子の阻害活性を高めるために、いくつかのヌクレオチドを標的配列のセンス鎖および/またはアンチセンス鎖の3'末端に、3'オーバーハングとして付加することができる。3'オーバーハングを構成するヌクレオチドの好ましい例には「t」および「u」が含まれるが、これらに限定されない。付加するヌクレオチドの数は、少なくとも2個、一般的には2〜10個、好ましくは2〜5個である。付加されたヌクレオチドは、二本鎖分子のアンチセンス鎖の3'末端において一本鎖を形成する。二本鎖分子が単一ポリヌクレオチドからなり、ヘアピンループ構造を形成する場合には、3'オーバーハング配列を該単一ポリヌクレオチドの3'末端に付加することができる。
【0157】
二本鎖分子を調製するための方法は特に限定されないが、当技術分野で既知の任意の化学合成法を使用することが好ましい。化学合成法に従って、一本鎖のセンスポリヌクレオチドおよびアンチセンスポリヌクレオチドを別々に合成した後、それらを適当な方法により共にアニーリングして二本鎖分子を得る。アニーリングに関する具体例には、合成した一本鎖ポリヌクレオチドを好ましくは少なくとも約3:7のモル比で、より好ましくは約4:6のモル比で、最も好ましくは実質的に等モル量(即ち約5:5のモル比)で混合することが含まれる。次に、混合物を二本鎖分子が解離する温度まで加熱した後、徐々に冷ます。アニーリングした二本鎖ポリヌクレオチドは、当技術分野で既知の通常利用される方法によって精製することができる。精製法の例には、アガロースゲル電気泳動を利用する方法、または、残存する一本鎖ポリヌクレオチドが任意で、例えば適当な酵素を用いる分解によって取り除かれる方法が含まれる。
【0158】
その発現を独立して、あるいは時間的または空間的な様式で調整することができるように、ERCC6L配列に隣接する調節配列は同一であってもまたは異なっていてもよい。ERCC6L遺伝子鋳型を、例えば核内低分子RNA(snRNA)U6由来のRNAポリIII転写ユニットまたはヒトH1 RNAプロモーターを含有するベクターにクローニングすることによって、二本鎖分子を細胞内で転写することができる。
あるいは、二本鎖分子のコード配列を、適切な細胞内での該二本鎖分子の発現を支持する調節配列(例えば、核内低分子RNA(snRNA)U6由来のRNAポリIII転写ユニットまたはヒトH1 RNAプロモーター)を該コード配列に隣接して含むベクター内にクローニングすることによって、その発現を独立して、あるいは時間的または空間的な様式で調整することができるように、該二本鎖分子を細胞内で転写してもよい。二本鎖分子のコード配列に隣接する調節配列は同一であってもまたは異なっていてもよい。二本鎖分子を産生することができるベクターについての詳細を以下に述べる。
【0159】
本発明の二本鎖分子を含むベクター:
上記したように、本発明は、本明細書に記載される二本鎖分子の1つまたは複数を含むベクター、およびそのようなベクターを含む細胞を意図する。
以下の[1]〜[10]のベクターが、本発明にとって特に関心対象となる:
[1] 細胞に導入された場合にERCC6Lのインビボ発現および細胞増殖を阻害する二本鎖分子をコードするベクターであって、当該分子が、互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成するセンス鎖およびそれに相補的なアンチセンス鎖から構成される、ベクター;
[2] SEQ ID NO:7または8の標的配列と一致するmRNAに対して作用する二本鎖分子をコードする、[1]記載のベクター;
[3] センス鎖がSEQ ID NO:7または8の標的配列に相当する配列を含む、[1]記載のベクター;
[4] 二本鎖分子をコードする[3]記載のベクターであって、該二本鎖分子のセンス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約100ヌクレオチド対未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、ベクター。
[5] 二本鎖分子をコードする[4]記載のベクターであって、該二本鎖分子のセンス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約75ヌクレオチド対未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、ベクター。
[6] 二本鎖分子をコードする[5]記載のベクターであって、該二本鎖分子のセンス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約50ヌクレオチド対未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、ベクター。
[7] 二本鎖分子をコードする[6]記載のベクターであって、該二本鎖分子のセンス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約25ヌクレオチド対未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、ベクター。
[8] 二本鎖分子をコードする[7]記載のベクターであって、該二本鎖分子のセンス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約19〜約25ヌクレオチド対の長さを有する二本鎖分子を形成する、ベクター。
[9] 二本鎖分子が、介在一本鎖によって連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を有する単一ポリヌクレオチドから構成される、[1]記載のベクター;
[10] 一般式
5'−[A]−[B]−[A']−3'
を有する二本鎖分子をコードし、式中、[A]は、SEQ ID NO:7または8の標的配列に相当する配列を含むセンス鎖であり、[B]は3〜23ヌクレオチドから構成される介在一本鎖であり、かつ[A']は、該標的配列に相補的な配列を含むアンチセンス鎖である、[9]記載のベクター。
【0160】
本発明のベクターは好ましくは、発現可能な形態で本発明の二本鎖分子をコードする。本明細書において、「発現可能な形態で」という語句は、細胞に導入されると、ベクターが該分子を発現することを示す。好ましい態様において、ベクターは、二本鎖分子の発現に必要な調節エレメントを含む。本発明のそのようなベクターは、本発明の二本鎖分子を産生させるために用いることができ、またはがんを治療するための有効成分として直接用いることができる。
【0161】
本発明のベクターは、例えば、ERCC6L配列を、調節配列が(DNA分子の転写によって)両方の鎖の発現を可能にする様式でERCC6L配列に機能的に連結されるように発現ベクターにクローニングすることによって、作製することができる(Lee NS et al., Nat Biotechnol 2002 May, 20(5): 500-5)。例えば、mRNAに対してアンチセンスであるRNA分子が第1のプロモーター(例えばクローニングされるDNAの3'末端に隣接するプロモーター配列)によって転写され、該mRNAに対するセンス鎖であるRNA分子が第2のプロモーター(例えば該クローニングされるDNAの5'末端に隣接するプロモーター配列)によって転写される。センス鎖とアンチセンス鎖とがインビボでハイブリダイズして、遺伝子をサイレンシングするための二本鎖分子構築物を生成する。代替的に、二本鎖分子のセンス鎖およびアンチセンス鎖をそれぞれコードする2つのベクター構築物を利用してセンス鎖とアンチセンス鎖とをそれぞれ発現させた後、二本鎖分子構築物を形成させる。さらに、クローニングした配列は、二次構造(例えばヘアピン)を有する構築物、即ち標的遺伝子のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を含有するベクターの単一転写産物をコードしてもよい。
【0162】
本発明のベクターはまた、標的細胞のゲノムへの安定した挿入を達成するためのものを包含してもよい(例えば相同的組換えカセットベクターの説明に関しては、Thomas KR & Capecchi MR, Cell 1987, 51: 503-12を参照されたい)。例えば、Wolff et al., Science 1990, 247: 1465-8、米国特許第5,580,859号、同第5,589,466号、同第5,804,566号、同第5,739,118号、同第5,736,524号、同第5,679,647号、および国際公開公報第98/04720号を参照されたい。DNAベースの送達技術の例には、「ネイキッドDNA」、促進性(ブピバカイン、ポリマー、ペプチドに仲介される)送達、カチオン性脂質複合体、および、粒子仲介性(「遺伝子銃」)または圧力仲介性の送達が含まれる(例えば米国特許第5,922,687号を参照されたい)。
【0163】
本発明のベクターには、例えばウイルス性または細菌性のベクターが含まれる。発現ベクターの例には、牛痘ウイルスまたは鶏痘ウイルスなどの弱毒化ウイルス宿主が含まれる(例えば米国特許第4,722,848号を参照されたい)。このアプローチは、例えば二本鎖分子をコードするヌクレオチド配列を発現させるためのベクターとしての、牛痘ウイルスの使用を伴う。標的遺伝子を発現する細胞に導入されると、組換え牛痘ウイルスが分子を発現し、それにより該細胞の増殖を抑制する。使用することのできるベクターの別の例にはカルメット・ゲラン桿菌(Bacille Calmette Guerin;BCG)が含まれる。BCGベクターはStover et al., Nature 1991, 351: 456-60に記載される。広範な他のベクターが、二本鎖分子の治療的投与および生成に有用である。例には、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、チフス菌(Salmonella typhi)ベクター、無毒化炭疽菌毒素ベクター等が含まれる。例えば、Shata et al., Mol Med Today 2000, 6: 66-71、Shedlock et al., J Leukoc Biol 2000, 68: 793-806、およびHipp et al., In Vivo 2000, 14: 571-85を参照されたい。
【0164】
本発明の二本鎖分子を用いて、がん細胞の増殖を阻害するもしくは減少させるか、またはがんを治療する方法:
本発明において、ERCC6Lに対するdsRNAを、細胞増殖を阻害する能力について試験した。ERCC6Lに対するdsRNAは(図2B、C)、いくつかのがん細胞株において該遺伝子の発現を効果的にノックダウンし、これは細胞増殖の抑制と一致した。
したがって本発明は、ERCC6Lの発現の阻害を介してERCC6L遺伝子の機能障害を誘導することによって、がん細胞の増殖を阻害する方法を提供する。ERCC6L遺伝子発現は、ERCC6L遺伝子を特異的に標的とする本発明の前述の二本鎖分子のいずれかによって阻害され得る。
【0165】
本発明の二本鎖分子およびベクターががん性細胞の細胞増殖を阻害するそのような能力により、それらを肺癌などのがんを治療する方法に用いることができることが示される。したがって本発明は、ERCC6L遺伝子に対する二本鎖分子または該分子を発現するベクターを投与することにより、正常器官ではERCC6L遺伝子が最小限に検出された(図1C)という理由で有害作用を引き起こすことなく、がんを有する患者を治療する方法を提供する。
【0166】
以下の方法[1]〜[32]が、本発明にとって特に関心対象となる:
[1] がん細胞の増殖を阻害するかまたはがんを治療する方法であって、該がん細胞または該がんが少なくとも1つのERCC6L遺伝子を発現し、該方法が、ERCC6L遺伝子を過剰発現する細胞において該遺伝子の発現および細胞増殖を阻害する少なくとも1つの単離された二本鎖分子、またはそのような二本鎖分子をコードするベクターを投与する段階を含み、該二本鎖分子が、互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成するセンス鎖およびそれに相補的なアンチセンス鎖から構成される、方法;
[2] 二本鎖分子が、SEQ ID NO:7または8の標的配列と一致するmRNAにおいて作用する、[1]記載の方法;
[3] センス鎖がSEQ ID NO:7または8の標的配列に相当する配列を含む、[2]記載の方法;
[4] 治療すべきがんが肺癌である、[1]記載の方法;
[5] 二本鎖分子のセンス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約100ヌクレオチド対未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、[3]記載の方法;
[6] 二本鎖分子のセンス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約75ヌクレオチド対未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、[5]記載の方法;
[7] 二本鎖分子のセンス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約50ヌクレオチド対未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、[6]記載の方法;
[8] 二本鎖分子のセンス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約25ヌクレオチド対未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、[7]記載の方法;
[9] 二本鎖分子のセンス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約19〜約25ヌクレオチド対の長さを有する二本鎖分子を形成する、[8]記載の方法;
[10] 二本鎖分子が、介在一本鎖によって連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含む単一ポリヌクレオチドから構成される、[1]記載の方法;
[11] 二本鎖分子が、一般式
5'−[A]−[B]−[A']−3'
を有し、式中、[A]は、SEQ ID NO:7または8の標的配列に相当する配列を含むセンス鎖であり、[B]は3〜23ヌクレオチドから構成される介在一本鎖であり、かつ[A']は、該標的配列に相補的な配列を含むアンチセンス鎖である、[10]記載の方法;
[12] 二本鎖分子がRNAである、[1]記載の方法;
[13] 二本鎖分子がDNAおよびRNAの両方を含む、[1]記載の方法;
[14] 二本鎖分子がDNAポリヌクレオチドとRNAポリヌクレオチドのハイブリッドである、[13]記載の方法。
[15] センス鎖およびアンチセンス鎖ポリヌクレオチドがそれぞれDNAおよびRNAから構成される、[14]記載の方法;
[16] 二本鎖分子がDNAとRNAのキメラである、[13]記載の方法;
[17] アンチセンス鎖の3'末端に隣接する領域、またはセンス鎖の5'末端に隣接する領域とアンチセンス鎖の3'末端に隣接する領域の両方がRNAから構成される、[16]記載の方法;
[18] 隣接領域が9〜13ヌクレオチドから構成される、[17]記載の方法;
[19] 二本鎖分子が3'オーバーハングを含む、[1]記載の方法;
[20] 二本鎖分子が、該分子に加えて、トランスフェクション増強剤および薬学的に許容される担体を含む組成物中に含まれる、[1]記載の方法;
[21] 二本鎖分子がベクターによってコードされる、[1]記載の方法;
[22] ベクターによってコードされる二本鎖分子が、SEQ ID NO:7または8の標的配列と一致するmRNAにおいて作用する、[21]記載の方法;
[23] ベクターによってコードされる二本鎖分子のセンス鎖が、SEQ ID NO:7および8の中より選択される標的配列に相当する配列を含む、[22]記載の方法;
[24] 治療すべきがんが肺癌である、[21]記載の方法;
[25] ベクターによってコードされる二本鎖分子が約100ヌクレオチド対未満の長さを有する、[23]記載の方法;
[26] ベクターによってコードされる二本鎖分子が約75ヌクレオチド対未満の長さを有する、[25]記載の方法;
[27] ベクターによってコードされる二本鎖分子が約50ヌクレオチド対未満の長さを有する、[26]記載の方法;
[28] ベクターによってコードされる二本鎖分子が約25ヌクレオチド対未満の長さを有する、[27]記載の方法;
[29] ベクターによってコードされる二本鎖分子が約19〜約25ヌクレオチド対の長さを有する、[28]記載の方法;
[30] ベクターによってコードされる二本鎖分子が、介在一本鎖によって連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含む単一ポリヌクレオチドから構成される、[21]記載の方法;
[31] ベクターによってコードされる二本鎖分子が、一般式
5'−[A]−[B]−[A']−3'
を有し、式中、[A]は、SEQ ID NO:7または8の標的配列に相当する配列を含むセンス鎖であり、[B]は3〜23ヌクレオチドから構成される介在一本鎖であり、かつ[A']は、該標的配列に相補的な配列を含むアンチセンス鎖である、[30]記載の方法;ならびに
[32] ベクターによってコードされる二本鎖分子が、該分子に加えて、トランスフェクション増強剤および薬学的に許容される担体を含む組成物中に含まれる、[21]記載の方法。
【0167】
本発明の方法を以下に、より詳細に説明する。
ERCC6L遺伝子を発現する細胞の増殖は、該細胞をERCC6L遺伝子に対する二本鎖分子、該分子を発現するベクター、またはこれを含む組成物と接触させることによって阻害され得る。その細胞をトランスフェクション剤とさらに接触させてもよい。適切なトランスフェクション剤は、当技術分野において公知である。「細胞増殖の阻害」という語句は、細胞が、該分子に曝露されていない細胞と比較して、より低速で増殖するか、または細胞の生存率が低下することを示す。細胞増殖は、当技術分野において公知の方法によって、例えばMTT細胞増殖アッセイ法を用いて測定してもよい。
細胞が本発明の二本鎖分子の標的遺伝子を発現または過剰発現する限り、いかなる種類の細胞の増殖も、本発明の方法に従って抑制し得る。例示的な細胞には肺癌が含まれる。
【0168】
したがって、ERCC6Lに関連する疾患に罹患しているか、または該疾患を発症するリスクのある患者を、本発明の二本鎖分子、該分子を発現する少なくとも1つのベクター、または該分子を含む組成物の投与により治療し得る。例えば、がん患者を本発明の方法に従って治療し得る。がんの型は、診断される腫瘍の特定の型に従って、標準的な方法によって同定することができる。より好ましくは、本発明の方法によって治療を受ける患者は、RT−PCRまたは免疫測定法により、患者由来の生検標本中のERCC6Lの発現を検出することによって選択される。好ましくは、本発明の治療の前に、対象由来の生検標本は、当技術分野で公知の方法、例えば免疫組織化学的解析またはRT−PCRにより、ERCC6L遺伝子の過剰発現について確認される。
【0169】
細胞増殖を阻害し、それによってがんを治療する本発明の方法によれば、複数種類の二本鎖分子(またはこれを発現するベクターもしくはこれを含む組成物)の投与の間、該分子はそれぞれ異なる構造を有してよいが、ERCC6Lの同一標的配列と一致するmRNAにおいて作用し得る。あるいは、複数種類の二本鎖分子は、同一遺伝子の異なる標的配列と一致するmRNAにおいて作用し得る。あるいは、例えば、本方法は、ERCC6Lの1つ、2つ、またはそれ以上の標的配列に指向性を有する二本鎖分子を利用してもよい。
【0170】
細胞増殖を阻害するために、本発明の二本鎖分子を、該分子と対応するmRNA転写物との結合を達成するための形態で、細胞に直接導入してもよい。あるいは、上記のように、二本鎖分子をコードするDNAをベクターとして細胞に導入してもよい。二本鎖分子およびベクターを細胞に導入するために、トランスフェクション増強剤、例えばFuGENE(Roche diagnostics)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(Wako pure Chemical)を使用してもよい。
【0171】
治療により、ERCC6L遺伝子の発現の低下、または対象におけるがんの大きさ、有病率、もしくは転移能の低下などの臨床的恩恵がもたらされる場合に、該治療は「有効」とみなされる。治療を予防的に適用する場合、「有効」とは、がんの形成が遅延もしくは阻害されるか、またはがんの臨床症状が予防もしくは緩和されることを意味する。有効性は、特定の腫瘍型を診断または治療するための任意の公知の方法と共同して判定される。
【0172】
本発明の方法および組成物が「予防(preventionおよびprophylaxis)」の文脈において有用である限り、そのような用語は本明細書において互換的に用いられ、疾患による死亡率または罹患率の負荷を軽減させる任意の作用を指す。予防(preventionおよびprophylaxis)は、「第一次、第二次、および第三次の予防レベル」で行われ得る。第一次の予防(preventionおよびprophylaxis)は疾患の発生を回避するのに対し、第二次および第三次レベルの予防(preventionおよびprophylaxis)は、疾患の進行および症状の出現を予防(preventionおよびprophylaxis)することに加え、機能の回復および疾患関連の合併症の低減によって、既に確立された疾患の悪影響を低下させることを目的とした活動を包含する。あるいは、予防(preventionおよびprophylaxis)は、特定の障害の重症度を緩和すること、例えば腫瘍の増殖および転移を低減させることを目的とした広範囲の予防的療法を含み得る。
【0173】
がんの治療および/もしくは予防、ならびに/またはその術後再発の予防は、以下の段階、例えばがん細胞の外科的切除、がん性細胞の増殖の阻害、腫瘍の退行または退縮、寛解の誘導およびがんの発生の抑制、腫瘍退縮、ならびに転移の低減または阻害などのいずれかを含む。がんの効果的な治療および/または予防は、死亡率を低下させ、がんを有する個体の予後を改善し、血中腫瘍マーカーのレベルを低下させ、かつがんに伴う検出可能な症状を緩和する。例えば、症状の軽減または改善は効果的な治療の構成要素であり、かつ/または、予防は10%、20%、30%、もしくはそれ以上の軽減もしくは安定な疾患を含む。
【0174】
本発明の二本鎖分子は、準化学量論的な量でERCC6L mRNAを分解することが理解される。いずれかの理論に束縛されるわけではないが、本発明の二本鎖分子は、触媒的な様式で標的mRNAの分解を引き起こすと考えられる。したがって、標準的ながん治療に比べて本発明は、治療効果を発揮するために、がん部位またはその近くに、有意に少ない二本鎖分子が送達される必要がある。
【0175】
当業者は、対象の体重、年齢、性別、疾患の種類、症状および他の状態;投与経路などの要素;ならびに投与が局所的であるのか全身的であるのかを考慮することにより、所定の対象に投与されるべき本発明の二本鎖分子の有効量を、容易に決定することができる。概して、本発明の二本鎖分子の有効量は、約1ナノモル(nM)〜約100nM、好ましくは約2nM〜約50nM、より好ましくは約2.5nM〜約10nMの、がん部位またはその近傍での細胞間濃度である。より多いまたはより少ない量の二本鎖分子も投与可能であることが意図される。特定の状況に関して必要となる正確な投与量は、当業者によって容易かつ慣行的に決定され得る。
本発明の方法を用いて、ERCC6L遺伝子を発現するがん;例えば、肺癌の、増殖または転移を阻害することができる。具体的には、ERCC6L遺伝子(例えば、SEQ ID NO:7および8)の標的配列を含む二本鎖分子が、がんの治療のために特に好ましい。
【0176】
がんを治療するために、本発明の二本鎖分子を該二本鎖分子とは別の薬学的組成物と組み合わせて対象に投与することもできる。代替的に、本発明の二本鎖分子を、がんを治療するために設計された別の治療法と組み合わせて対象に投与することができる。例えば、本発明の二本鎖分子は、がんの治療またはがん転移の予防に現在利用されている治療法(例えば放射線療法、外科的手術、および、シスプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、ダウノルビシン、またはタモキシフェンなどの化学療法剤を用いた治療)と組み合わせて投与することができる。
【0177】
本方法において、二本鎖分子を、送達試薬と組み合わせたネイキッド二本鎖分子として、または該二本鎖分子を発現する組換えプラスミドもしくはウイルスベクターとして、対象に投与することができる。
本発明の二本鎖分子と組み合わせて投与するのに適した送達試薬には、Mirus Transit TKO親油性試薬、リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、またはポリカチオン(例えばポリリシン)またはリポソームが含まれる。好ましい送達試薬はリポソームである。
【0178】
リポソームは、肺腫瘍組織などの特定の組織への二本鎖分子の送達を支援でき、かつまた該二本鎖分子の血中半減期も増大させ得る。本発明の文脈における使用に適したリポソームは標準的な小胞形成脂質から形成されてもよく、これは一般に、中性のまたは負に帯電したリン脂質および、コレステロールなどのステロールを含む。一般に脂質の選択は、所望のリポソームのサイズおよび血流中におけるリポソームの半減期などの要素を考慮して導かれる。リポソームの調製に関しては、例えばSzoka et al., Ann Rev Biophys Bioeng 1980, 9: 467、および米国特許第4,235,871号、同第4,501,728号、同第4,837,028号、および同第5,019,369号に記載されたような様々な方法が知られており、その開示全体が参照により本明細書に引用される。
【0179】
好ましくは、本発明の二本鎖分子を封入するリポソームは、該リポソームをがん部位に送達することができるリガンド分子を含む。腫瘍または小胞内皮細胞に多く存在する受容体に結合するリガンド、例えば腫瘍抗原または内皮細胞表面抗原と結合するモノクローナル抗体が好ましい。
特に好ましくは、本発明の二本鎖分子を封入するリポソームは、例えばその構造の表面に結合したオプソニン化阻害部分を有することによって、単核マクロファージおよび網内系によるクリアランスを回避するように修飾する。1つの態様では、本発明のリポソームは、オプソニン化阻害部分およびリガンドの両方を含み得る。
【0180】
本発明のリポソームを調製するのに用いるオプソニン化阻害部分は典型的に、リポソーム膜と結合する巨大な親水性ポリマーである。本明細書で使用されるように、オプソニン化阻害部分は、化学的にまたは物理的にリポソーム膜に付着すると、例えば脂質可溶性アンカーの膜自体へのインターカレーションによって、または膜脂質の活性基への直接結合によって、リポソーム膜と「結合」する。これらのオプソニン化阻害親水性ポリマーは、例えばその開示全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,920,016号に記載されるように、マクロファージ−単球系(「MMS」)および網内系(「RES」)によるリポソームの取り込みを有意に低減する保護表面層を形成する。したがって、オプソニン化阻害部分で修飾されたリポソームは非修飾リポソームよりもずっと長く循環中に残存する。このため、そのようなリポソームは「ステルス」リポソームと呼ばれることもある。
【0181】
ステルスリポソームは、多孔性または「漏出性(leaky)」の微小血管系が流れ込む組織内に蓄積することが知られている。したがって、そのような微小血管系欠損を特徴とする標的組織、例えば固形腫瘍では効率的にこれらのリポソームが蓄積する。Gabizon et al., Proc Natl Acad Sci USA 1988, 18: 6949-53を参照されたい。さらに、RESによる取り込みの低減は、肝臓および脾臓への有意な蓄積を妨害することによってステルスリポソームの毒性を低下させる。したがって、オプソニン化阻害部分で修飾された本発明のリポソームは、本発明の二本鎖分子を腫瘍細胞に送達することができる。
【0182】
リポソームを修飾するのに適したオプソニン化阻害部分は、好ましくは、分子量約500ダルトン〜約40000ダルトン、より好ましくは約2000ダルトン〜約20000ダルトンの水溶性ポリマーである。そのようなポリマーには、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコール(PPG)誘導体;例えばメトキシPEGまたはPPG、およびステアリン酸PEGまたはステアリン酸PPG;ポリアクリルアミドまたはポリN−ビニルピロリドンなどの合成ポリマー;直鎖、分岐鎖またはデンドリマーのポリアミドアミン;ポリアクリル酸;多価アルコール、例えば、カルボン酸基またはアミノ基が化学結合したポリビニルアルコールおよびポリキシリトール、ならびに、ガングリオシドGMなどのガングリオシドが含まれる。PEG、メトキシPEGもしくはメトキシPPGのコポリマー、またはそれらの誘導体も好適である。さらに、オプソニン化阻害ポリマーはまた、PEGと、ポリアミノ酸、多糖、ポリアミドアミン、ポリエチレンアミン、またはポリヌクレオチドのいずれかとのブロックコポリマーであり得る。オプソニン化阻害ポリマーは、アミノ酸またはカルボン酸を含有する天然多糖、例えばガラクツロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、ヒアルロン酸、ペクチン酸、ノイラミン酸、アルギン酸、カラギーナン;アミノ化多糖またはオリゴ糖(直鎖または分岐鎖);あるいは、たとえばカルボン酸基の連結が得られたカルボン酸の誘導体と反応させた、カルボキシル化多糖またはカルボキシル化オリゴ糖でもあり得る。
【0183】
好ましくは、オプソニン化阻害部分はPEG、PPG、またはその誘導体である。PEGまたはPEG誘導体で修飾されたリポソームは「PEG化リポソーム」と呼ばれることもある。
オプソニン化阻害部分は、多くの既知の技術のいずれか1つによってリポソーム膜と結合させることができる。例えば、PEGのN−ヒドロキシスクシンイミドエステルは、ホスファチジル−エタノールアミン脂質可溶性アンカーと結合し、続いて膜と結合することができる。同様に、デキストランポリマーは、Na(CN)BHおよび溶媒混合物、例えば比率30:12のテトラヒドロフランと水を用いる60℃での還元アミノ化によって、ステアリルアミン脂質可溶性アンカーで誘導体化することができる。
【0184】
本発明の二本鎖分子を発現するベクターが上記で述べられた。本発明の二本鎖分子を少なくとも1つ発現するそのようなベクターもまた、直接、または、Mirus Transit LT1親油性試薬、リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、またはポリカチオン(例えばポリリシン)またはリポソームを含む好適な送達試薬と組み合わせて、投与することができる。本発明の二本鎖分子を発現する組換えウイルスベクターを患者のがん領域に送達する方法は当技術分野内である。
【0185】
本発明の二本鎖分子は、該二本鎖分子をがん部位に送達するのに適した任意の手段によって、対象に投与することができる。例えば二本鎖分子は、遺伝子銃、電気穿孔法、または他の好適な非経口投与経路もしくは腸内投与経路によって投与することができる。
好適な腸内投与経路には、経口送達、直腸送達、または鼻腔内送達が含まれる。
【0186】
好適な非経口投与経路には、小胞内投与および静脈内投与(例えば静脈ボーラス注射、静脈注入、動脈内ボーラス注射、動脈内注入および血管系へのカテーテル点滴注入);組織周囲および組織内注射(例えば腫瘍組織周囲注射および腫瘍内注射);皮下注入を含む皮下注射または皮下沈着(例えば浸透圧ポンプによる);例えばカテーテルもしくは他の留置装置(placement device)(例えば、多孔性、非孔性またはゼラチン様の材料を含む、坐剤またはインプラント)によるがん部位の領域またはその近傍への直接適用;ならびに吸入が含まれる。二本鎖分子またはベクターの注射または注入は、がん部位またはその近傍で行うことが好ましい。
【0187】
本発明の二本鎖分子は、単回投与量または複数回投与量で投与することができる。本発明の二本鎖分子の投与が注入による場合、該注入は、単回の持続投与量であってもよく、または複数回の注入によって送達することもできる。がん部位のまたはその近傍の組織内へ、二本鎖分子を直接注射することが好ましい。がん部位のまたはその近傍の組織へ、二本鎖分子を複数回注射することが特に好ましい。
【0188】
当業者はまた、本発明の二本鎖分子を所定の対象に投与するための適当な投与レジメンを容易に決定することもできる。例えば二本鎖分子を、例えばがん部位またはその近傍での単回注射または沈着として、対象に一回で投与することができる。代替的に、二本鎖分子を、約3日〜約28日、より好ましくは約7日〜約10日の期間にわたり、1日1回または2回、対象に投与することができる。好ましい投与レジメンでは、二本鎖分子を7日間、1日1回、がん部位またはその近傍に注射する。投与レジメンに複数回投与が必要とされる場合、対象に投与される二本鎖分子の有効量は、投与レジメン全体を通して投与される二本鎖分子の総量を含むことができることが理解される。
【0189】
本発明において、ERCC6Lを過剰発現するがんを、
(a)本発明の二本鎖分子、
(b)それをコードするDNA、および
(c)それをコードするベクター
からなる群より選択される少なくとも1つの有効成分によって治療することができる。
【0190】
がんには、肺癌が非限定的に含まれる。したがって、有効成分としての本発明の二本鎖分子の投与の前に、治療されるがん細胞または組織におけるERCC6Lの発現レベルが、同じ臓器の正常細胞と比較して増大しているか否かを確認することが好ましい。したがって、1つの態様において、本発明は、ERCC6Lを(過剰)発現しているがんを治療するための方法を提供し、該方法は、
i)治療されるがんを有する対象から入手したがん細胞または組織におけるERCC6Lの発現レベルを測定する段階;
ii)ERCC6Lの該発現レベルを正常対照と比較する段階;ならびに
iii)正常対照と比較してERCC6Lを過剰発現するがんを有する対象に対して、
(a)本発明の二本鎖分子、
(b)それをコードするDNA、および
(c)それをコードするベクター
からなる群より選択される少なくとも1つの成分を投与する段階
を含む。
あるいは本発明は、ERCC6Lを過剰発現するがんを有する対象への投与に用いるための、
(a)本発明の二本鎖分子、
(b)それをコードするDNA、および
(c)それをコードするベクター
からなる群より選択される少なくとも1つの成分を含む医薬組成物も提供する。言い換えれば、本発明は、治療される対象を
(a)本発明の二本鎖分子、
(b)それをコードするDNA、または
(c)それをコードするベクター
を用いて同定するための方法をさらに提供し、該方法は、対象由来のがん細胞または組織におけるERCC6Lの発現レベルを測定する段階を含んでよく、該遺伝子の正常対照レベルと比較した該レベルの増大により、該対象が、
(a)本発明の二本鎖分子、
(b)それをコードするDNA、または
(c)それをコードするベクター
によって治療されうるがんを有することが示される。
【0191】
本発明のがん治療法を、以下でより詳細に説明する。
本方法によって治療される対象は、好ましくは哺乳動物である。例示的な哺乳動物には、例えば、ヒト、非ヒト霊長動物、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマおよびウシが非限定的に含まれる。
【0192】
本発明に従って、対象から採取したがん細胞または組織におけるERCC6Lの発現レベルが測定される。発現レベルは、当技術分野で既知の方法を用いて、転写(核酸)産物レベルとして測定することができる。例えば、ERCC6LのmRNAを、プローブを用いて、ハイブリダイゼーション法(例えばノーザンハイブリダイゼーション)によって定量してもよい。検出は、チップまたはアレイ上で実施してもよい。ERCC6Lの発現レベルの検出に関しては、アレイの使用が好ましい。当業者は、ERCC6Lの配列情報を利用して、そのようなプローブを調製することができる。例えば、ERCC6LのcDNAをプローブとして使用してもよい。必要に応じて、色素、蛍光物質、および同位元素などの適切な標識でプローブを標識してもよく、該遺伝子の発現レベルを、ハイブリダイズした標識の強度として検出してもよい。
さらに、ERCC6L(例えばSEQ ID NO:9)の転写産物を、プライマーを用いて増幅に基づく検出法(例えばRT−PCR)によって定量してもよい。そのようなプライマーは、該遺伝子についての入手可能な配列情報に基づいて調製してもよい。
【0193】
具体的には、本発明の方法に用いられるプローブまたはプライマーは、ストリンジェントな条件下、中程度にストリンジェントな条件下、または低ストリンジェントな条件下で、ERCC6LのmRNAとハイブリダイズする。本明細書で用いる「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、プローブまたはプライマーがその標的配列とはハイブリダイズするが、他の配列とはハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、様々な状況下で異なる。より長い配列の特異的ハイブリダイゼーションは、より短い配列よりも高温で観察される。一般に、ストリンジェントな条件の温度は、所定のイオン強度およびpHにおける特定の配列の熱融解温度(Tm)よりも約5℃低くなるように選択される。Tmとは、(所定のイオン強度、pH、および核酸濃度のもとで)その標的配列に相補的なプローブの50%が平衡状態で該標的配列とハイブリダイズする温度である。Tmにおいて標的配列は一般に過剰に存在するため、プローブの50%が平衡状態で占められる。典型的には、ストリンジェントな条件とは、pH7.0〜8.3において塩濃度がナトリウムイオン約1.0M未満、典型的にはナトリウムイオン(または他の塩)約0.01〜1.0Mであり、かつ温度が、短いプローブまたはプライマー(例えば、10〜50ヌクレオチド)に関しては少なくとも約30℃、およびより長いプローブまたはプライマーに関しては少なくとも約60℃である条件である。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドなどの不安定化剤の添加によって達成してもよい。
【0194】
あるいは、本発明の診断のために翻訳産物を検出してもよい。例えば、観察されたタンパク質(SEQ ID NO:10)の量を測定してもよい。翻訳産物としてのタンパク質の量を測定するための方法には、該タンパク質を特異的に認識する抗体を使用するイムノアッセイ法が含まれる。抗体はモノクローナルでもポリクローナルでもよい。さらに、抗体の任意の断片または修飾抗体がERCC6Lタンパク質との結合能を保持している限り、該断片または修飾(例えばキメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')2、Fv等)を検出に使用することができる。該タンパク質の検出のためにこれらの種類の抗体を調製する方法が当技術分野で周知であり、そのような抗体およびその等価物を調製するために本発明において任意の方法を利用することができる。
【0195】
ERCC6L遺伝子の発現レベルをその翻訳産物に基づいて検出するための別の方法として、ERCC6Lタンパク質に対する抗体を用いる免疫組織化学解析によって、染色強度を測定してもよい。即ちこの測定において、強い染色は、タンパク質の存在量/レベルの増大を示すと同時に、ERCC6L遺伝子の高い発現レベルを示す。
がん細胞における標的遺伝子、例えばERCC6L遺伝子の発現レベルは、該標的遺伝子の対照レベル(例えば、正常細胞におけるレベル)よりも、例えば10%、25%、もしくは50%増大していれば;または1.1倍超、1.5倍超、2.0倍超、5.0倍超、10.0倍超、もしくはそれ以上に増大していれば、増大したと判定することができる。
【0196】
疾患状態(がん性または非がん性)が既知である対象(複数可)から以前に採取して保存していた試料(複数可)を使用することによって、がん細胞と同時に対照レベルを決定してもよい。さらに、治療されるがんを有する臓器の非がん性領域から採取した正常細胞を正常対照として使用してもよい。代替的に、疾患状態が既知である対象の試料において以前に測定されたERCC6L遺伝子の発現レベル(複数可)を解析することによって得られた結果に基づき、統計学的方法によって対照レベルを決定してもよい。さらに対照レベルは、以前に試験された細胞由来の発現パターンのデータベースに由来することもできる。その上、本発明の一局面によれば、生物試料におけるERCC6L遺伝子の発現レベルを、複数の参照試料から決定した複数の対照レベルと比較することができる。対象由来の生物試料の組織型と類似した組織型に由来する参照試料から決定した対照レベルを用いることが好ましい。さらに、疾患状態が既知である群におけるERCC6L遺伝子の発現レベルの標準値を用いることが好ましい。標準値は、当技術分野で既知の任意の方法によって得ることができる。例えば、平均値 +/− 2S.D.または平均値 +/− 3S.D.の範囲を標準値として使用することができる。
【0197】
本発明の文脈において、がん性でないと判明している生体試料から測定された対照レベルは「正常対照レベル」と称される。一方、対照レベルががん性生体試料から測定される場合には、これは「がん性対照レベル」と称される。
ERCC6L遺伝子の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇しているか、またはがん性対照レベルと類似している/同等である場合、対象は治療すべきがんを有すると診断され得る。
【0198】
本発明の二本鎖分子を含む組成物:
上記に加えて、本発明はまた、本発明の二本鎖分子または該分子をコードするベクターを含む薬学的組成物を提供する。以下の組成物[1]〜[32]が、本発明にとって特に関心対象となる:
[1] ERCC6L遺伝子の発現および細胞増殖を阻害する少なくとも1つの単離された二本鎖分子、またはそのような二本鎖分子をコードするベクターを含む、がん細胞の増殖を阻害するかまたはがんを治療するための組成物であって、該がんおよび該がん細胞がERCC6L遺伝子を発現し、さらに該分子が、互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成するセンス鎖およびそれに相補的なアンチセンス鎖から構成される、組成物。
[2] 二本鎖分子が、SEQ ID NO:7または8の標的配列と一致するmRNAにおいて作用する、[1]記載の組成物;
[3] 二本鎖分子、センス鎖が、SEQ ID NO:7または8の標的配列に相当する配列を含む、[2]記載の組成物;
[4] 治療すべきがんが肺癌である、[1]記載の組成物;
[5] 二本鎖分子のセンス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約100ヌクレオチド対未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、[3]記載の組成物;
[6] 二本鎖分子のセンス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約75ヌクレオチド対未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、[5]記載の組成物;
[7] 二本鎖分子のセンス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約50ヌクレオチド対未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、[6]記載の組成物;
[8] 二本鎖分子のセンス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約25ヌクレオチド対未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、[7]記載の組成物;
[9] 二本鎖分子のセンス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、約19〜約25ヌクレオチド対の長さを有する二本鎖分子を形成する、[8]記載の組成物;
[10] 二本鎖分子が、介在一本鎖によって連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む単一ポリヌクレオチドから構成される、[1]記載の組成物;
[11] 二本鎖分子が、一般式
5'−[A]−[B]−[A']−3'
を有し、式中、[A]は、SEQ ID NO:7または8の標的配列に相当する配列を含むセンス鎖配列であり、[B]は3〜23ヌクレオチドからなる介在一本鎖であり、かつ[A']は、該標的配列に相補的な配列を含むアンチセンス鎖である、[10]記載の組成物;
[12] 二本鎖分子がRNAである、[1]記載の組成物;
[13] 二本鎖分子がDNAおよび/またはRNAである、[1]記載の組成物;
[14] 二本鎖分子がDNAポリヌクレオチドとRNAポリヌクレオチドのハイブリッドである、[13]記載の組成物;
[15] センス鎖およびアンチセンス鎖ポリヌクレオチドがそれぞれDNAおよびRNAから構成される、[14]記載の組成物;
[16] 二本鎖分子がDNAとRNAのキメラである、[13]記載の組成物;
[17] アンチセンス鎖の3'末端に隣接する領域、またはセンス鎖の5'末端に隣接する領域とアンチセンス鎖の3'末端に隣接する領域の両方がRNAから構成される、[14]記載の組成物;
[18] 隣接領域が9〜13ヌクレオチドから構成される、[17]記載の組成物;
[19] 二本鎖分子が3'オーバーハングを含む、[1]記載の組成物;
[20] トランスフェクション増強剤および薬学的に許容される担体を含む、[1]記載の組成物。
[21] 二本鎖分子がベクターによってコードされ、かつ組成物中に含まれる、[1]記載の組成物;
[22] ベクターによってコードされる二本鎖分子が、SEQ ID NO:7または8の標的配列と一致するmRNAにおいて作用する、[21]記載の組成物;
[23] ベクターによってコードされる二本鎖分子のセンス鎖が、SEQ ID NO:7または8の標的配列に相当する配列を含む、[22]記載の組成物;
[24] 治療すべきがんが肺癌である、[21]記載の組成物;
[25] ベクターによってコードされる二本鎖分子が約100ヌクレオチド未満の長さを有する、[23]記載の組成物;
[26] ベクターによってコードされる二本鎖分子が約75ヌクレオチド対未満の長さを有する、[25]記載の組成物;
[27] ベクターによってコードされる二本鎖分子が約50ヌクレオチド対未満の長さを有する、[26]記載の組成物;
[28] ベクターによってコードされる二本鎖分子が約25ヌクレオチド対未満の長さを有する、[27]記載の組成物;
[29] ベクターによってコードされる二本鎖分子が約19〜約25ヌクレオチド対の長さを有する、[28]記載の組成物;
[30] ベクターによってコードされる二本鎖分子が、介在一本鎖によって連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含む単一ポリヌクレオチドから構成される、[21]記載の組成物;
[31] 二本鎖分子が、一般式
5'−[A]−[B]−[A']−3'
を有し、式中、[A]は、SEQ ID NO:7または8の標的配列に相当する配列を含むセンス鎖であり、[B]は3〜23ヌクレオチドから構成される介在一本鎖であり、かつ[A']は、[A]に相補的な配列を含むアンチセンス鎖である、[30]記載の組成物;ならびに
[32] トランスフェクション増強剤および薬学的に許容される担体を含む、[21]記載の組成物。
【0199】
本発明の適切な組成物を以下にさらに詳細に説明する。
本発明の二本鎖分子は好ましくは、当技術分野で公知の技法に従って、対象に投与する前に薬学的組成物として製剤化する。本発明の薬学的組成物は、少なくとも無菌であり、かつ発熱物質を含まないことを特徴とする。本明細書で用いられる「薬学的組成物」は、ヒトおよび獣医学使用のための製剤を含む。本発明の薬学的組成物を調製する方法は、例えば、Remington's Pharmaceutical Science, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa. (1985)に記載されているように、当技術分野における技術の範囲内であり、その開示全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0200】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体媒体と混合された、本発明の二本鎖分子もしくはそれをコードするベクター(例えば、0.1〜90重量%)、または該分子の薬学的に許容される塩を含む。生理学的に許容される好ましい担体媒体は、水、緩衝水、通常の生理食塩水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸等である。
【0201】
本発明によれば、組成物は複数種類の二本鎖分子を含んでよく、該分子はそれぞれ、ERCC6Lの同じ標的配列または異なる標的配列に指向性を有し得る。例えば、組成物はERCC6Lに指向性を有する二本鎖分子を含み得る。あるいは、例えば、組成物は、1つ、2つ、またはそれ以上の標的配列ERCC6Lに指向性を有する二本鎖分子を含み得る。
【0202】
さらに、本発明の組成物は、1つまたは複数の二本鎖分子をコードするベクターを含み得る。例えば、ベクターは、1種類、2種類、または数種類の本発明の二本鎖分子をコードし得る。あるいは、本発明の組成物は、そのそれぞれが異なる二本鎖分子をコードする複数種類のベクターを含み得る。
さらに、本発明の二本鎖分子は、本発明の組成物中にリポソームとして含まれ得る。リポソームの詳細に関しては、「二本鎖分子を用いてがんを治療する方法」という表題の項を参照されたい。
【0203】
本発明の薬学的組成物はまた、従来の薬学的賦形剤および/または添加剤も含み得る。適切な薬学的賦形剤には、安定剤、抗酸化剤、浸透圧調整剤、緩衝液、およびpH調整剤が含まれる。適切な添加剤には、生理学的に生体適合性のある緩衝液(例えば、トロメタミン塩酸塩)、キレート剤(例えば、DTPAまたはDTPA−ビスアミドなど)もしくはカルシウムキレート錯体(例えば、カルシウムDTPA、CaNaDTPA−ビスアミド)の添加、または任意で、カルシウム塩もしくはナトリウム塩の添加(例えば、塩化カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、または乳酸カルシウム)が含まれる。本発明の薬学的組成物は、液体形態での使用のために包装することができ、または凍結乾燥することもできる。
固体組成物には、従来の非毒性固体担体、例えば、医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム等を用いることができる。
【0204】
例えば、経口投与のための固体薬学的組成物は、上記の担体および賦形剤のいずれか、ならびに10〜95%、好ましくは25〜75%の本発明の二本鎖分子の1つまたは複数を含み得る。エアロゾル(吸入)投与のための薬学的組成物は、上記のようにリポソーム中に封入される0.01〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の本発明の二本鎖分子の1つまたは複数、および噴霧剤を含み得る。必要に応じて、担体、例えば鼻腔内送達の場合はレシチンを含めることもできる。
上記に加えて、本発明の組成物は、本発明の二本鎖分子のインビボ機能を阻害しない限り、他の薬学的有効成分を含み得る。例えば、本組成物は、がんを治療するために従来用いられている化学療法薬を含み得る。
【0205】
別の態様において、本発明は、ERCC6L遺伝子の発現を特徴とするがんを治療するための薬学的組成物を製造する際の、本発明の二本鎖核酸分子の使用を提供する。例えば、本発明は、ERCC6L遺伝子を発現するがんを治療するための薬学的組成物を製造するための、細胞におけるERCC6L遺伝子の発現を阻害する二本鎖核酸分子の使用に関し、ここで該分子は、互いにハイブリダイズして二本鎖核酸分子を形成するセンス鎖およびそれに相補的なアンチセンス鎖を含み、かつSEQ ID NO:7または8の配列を標的とする。
本発明はさらに、ERCC6L遺伝子を発現するがんを治療する際に使用するための、本発明の二本鎖核酸分子を提供する。
【0206】
あるいは、本発明はさらに、ERCC6L遺伝子の発現を特徴とするがんを治療するための薬学的組成物を製造するための方法または過程を提供し、ここで該方法または過程は、有効成分としての、ERCC6L遺伝子を過剰発現する細胞における該遺伝子の発現を阻害する二本鎖核酸分子と共に薬学的または生理学的に許容される担体を製剤化する段階を含み、該分子は、互いにハイブリダイズして二本鎖核酸分子を形成するセンス鎖およびそれに相補的なアンチセンス鎖を含み、かつSEQ ID NO:7または8の配列を標的とする。
【0207】
別の態様において、本発明は、ERCC6L遺伝子の発現を特徴とするがんを治療するための薬学的組成物を製造するための方法または過程を提供し、ここで該方法または過程は、有効成分と薬学的または生理学的に許容される担体とを混合する段階を含み、該有効成分は、ERCC6L遺伝子を過剰発現する細胞における該遺伝子の発現を阻害する二本鎖核酸分子であり、該分子は、互いにハイブリダイズして二本鎖核酸分子を形成するセンス鎖およびそれに相補的なアンチセンス鎖を含み、かつSEQ ID NO:7または8の配列を標的とする。
【0208】
以下に、実施例を参照しながら本発明をより詳細に説明する。しかしながら、以下の材料、方法、および実施例は本発明の局面を説明するのみであり、本発明の範囲を限定することを決して意図するものではない。したがって、本発明の実施または試験において、本明細書に記載の方法および材料と類似または同等の方法および材料を用いることができる。
【0209】
特記しない限り、本明細書で用いられる科学技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって共通して理解されている意味と同じ意味を有する。本発明の実施または試験において、本明細書に記載の方法および材料と類似または同等の方法および材料を用いることができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。本明細書で引用した出版物、特許出願、特許、および他の参考文献はすべて、その全体が参照により組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含めて本明細書が優先する。加えて、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定を意図するものではない。
【実施例】
【0210】
本発明を以下の実施例においてさらに説明するが、この実施例は特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定するものではない。
【0211】
実施例1:一般的方法
肺癌細胞株および組織試料
本研究で用いたヒト肺癌細胞株は以下の通りであった:肺腺癌であるA427、NCI−H1781、A549、およびLC319;肺扁平上皮癌(SCC)であるNCI−H226、EBC−1、NCI−H520、およびNCI−H2170;ならびにSCLCであるDMS114、DMS273、SBC−3、SBC−5、H196、およびH446。細胞はすべて、10% FCSを補充した適切な培地中で単層で培養し、5% COを含む加湿大気中で37℃で維持した。ヒト末梢気道上皮細胞(SAEC)は、Cambrex Bio Science, Incから購入した最適化培地中で培養した。原発性肺癌組織試料は、以前に記載されている通りに、インフォームドコンセントを得て入手していた(Kikuchi T, et al. Oncogene 2003;22:2192-205.、Taniwaki M et al. Int J Oncol 2006;29:567-75.)。本研究および全臨床材料の使用は、個々の施設内倫理委員会によって承認された。
【0212】
半定量的逆転写−PCR
製造業者のプロトコールに従ってTRIzol試薬(Life Technologies, Inc.)を用いて、培養細胞から全RNAを抽出した。抽出したRNAをDNase I(Nippon Gene)で処理し、オリゴ(dT)プライマーおよびSuperScript IIを用いて逆転写した。以下のERCC6L特異的合成プライマーを用いて、または内部対照としてのβ−アクチン(ACTB)特異的プライマーを用いて、半定量的逆転写−PCR(RT−PCR)実験を行った:ERCC6L、5'−AAAAATCCAGGAGGCCCTAA−3'(SEQ ID NO:1)および5'−AGATCTTTCTTGCCTTAAGCCTG−3'(SEQ ID NO:2);ACTB、5'−GAGGTGATAGCATTGCTTTCG−3'(SEQ ID NO:3)および5'−CAAGTCAGTGTACAGGTAAGC−3'(SEQ ID NO:4)。PCR反応は、産物強度が増幅の対数期の範囲内に入るように、サイクル数を最適化した。
【0213】
ノーザンブロット解析
ヒト多組織ブロット(BD Biosciences Clontech)を、ERCC6Lの32P標識PCR産物とハイブリダイズさせた。ERCC6LのcDNAプローブは、上記のプライマーを用いてRT−PCRにより調製した。供給業者の推奨に従って、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄を行った。増感BASスクリーン(Bio−Rad)を用いて、室温で30時間、ブロットをオートラジオグラフ撮影した。
【0214】
免疫蛍光解析
細胞をカバーガラス(Becton Dickinson Labware)上にプレーティングし、4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBS中の0.1% Triton X−100を用いて室温で3分間の透過処理を行った。非特異的な結合を、CASBLOCK(ZYMED)により室温で10分間ブロッキングした。次いで細胞を、3% BSAを含むPBSで希釈したマウスモノクローナル抗myc抗体の一次抗体と共に室温で60分間インキュベートした。PBSで洗浄した後、細胞をAlexa Fluor 488結合二次抗体(Molecular Probes)により室温で60分間染色した。PBSでさらに洗浄した後、各標本を4',6'−ジアミジン−2'−フェニルインドール二塩酸塩(DAPI)を含むVectashield(Vector Laboratories, Inc.)で封入し、スペクトル共焦点スキャンシステム(TSC SP2 AOBS;Leica Microsystems)で可視化した。
【0215】
RNA干渉アッセイ
本発明らは、哺乳動物細胞中で低分子干渉RNA(siRNA)を合成するように設計された、ベクターに基づくRNA干渉系であるpsiH1BX3.0を以前に確立した(Suzuki C et al. Cancer Res 2003;63:7038-41.)。LipofectAMINE 2000(Invitrogen) 30μLを用いて、siRNA発現ベクター10μgを肺癌細胞株SBC−5にトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を、適切な濃度のジェネティシン(G418)の存在下で7日間培養し;コロニー数をギムザ染色により計数し;処理の7日後に、細胞の生存率を臭化3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムアッセイにより評価した。簡潔に説明すると、細胞計数キット−8溶液(Dojindo)を1/10体積の濃度で各ディッシュに添加し、プレートを37℃でさらに2時間インキュベートした。次いで、490 nmおよび参照としての630 nmの吸光度を、マイクロプレートリーダー550(Bio−Rad)で測定した。ERCC6L mRNA発現の抑制を確認するために、標準的プロトコールに従って、以下のERCC6L特異的合成プライマーを用いて半定量的RT−PCR実験を行った。RNA干渉のための合成オリゴヌクレオチドの標的配列は、以下の通りであった:対照1(ルシフェラーゼ/LUC:ホタル(Photinus pyralis)ルシフェラーゼ遺伝子)、5'−CGTACGCGGAATACTTCGA−3'(SEQ ID NO:5);対照2(EGFP:遺伝子、オワンクラゲ(Aequorea victoria)GFPの変異体)、5'−GAAGCAGCACGACTTCTTC−3'(SEQ ID NO:6);siRNA−ERCC6L−#A、5'−CTGCACAACCAACTCTTTG−3'(SEQ ID NO:7); siRNA−ERCC6L−#B、5'−ATGTTAATCAATAACTGGC−3'(SEQ ID NO:8)。
【0216】
ウェスタンブロッティング
細胞を、プロテアーゼ阻害剤カクテルセットIII(Calbiochem)を含む放射性免疫沈降測定緩衝液[50 mmol/L Tris−HCl(pH 8.0)、150 mmol/L NaCl、1% NP40、0.5%デオキシコール酸−Na、0.1% SDS]中で溶解した。タンパク質試料をSDS−ポリアクリルアミドゲルにより分離し、Hybond−ECLニトロセルロース膜(GE Healthcare Bio−Sciences)上に電気ブロットした。ブロットを、マウスモノクローナル抗myc抗体と共にインキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(GE Healthcare Bio−Sciences)を用いて、抗原−抗体複合体を検出した。高感度化学発光ウェスタンブロッティング検出試薬(GE Healthcare Bio−Sciences)により、タンパクバンドを可視化した。
【0217】
細胞増殖アッセイ
ERCC6Lの全コード配列を、pcDNA3.1 myc−Hisプラスミドベクター(Invitrogen)の適切な部位にクローニングした。myc−Hisタグ化ERCC6Lを発現するプラスミドまたはモックプラスミドのいずれかをトランスフェクトしたCOS−7細胞を、適切な濃度のジェネティシン(G418)の存在下で、10% FCSを含むDMEM中で8日間培養した。細胞の生存率をMTTアッセイにより評価した;簡潔に説明すると、細胞計数キット−8溶液(DOJINDO)を1/10体積の濃度で各ディッシュに添加し、プレートを37℃でさらに2時間インキュベートした。次いで、参照としての450 nmの吸光度をマイクロプレートリーダー550(BIO−RAD)で測定した。
【0218】
実施例2:肺腫瘍および正常組織におけるERCC6L発現
肺癌の治療剤および/または診断バイオマーカーを開発するための新規標的分子を探索するため、cDNAマイクロアレイ解析により、101例の肺癌試料の半数超で3倍またはそれ以上の発現レベルを示す遺伝子を最初にスクリーニングした(Daigo Y, et al. Gen Thorac Cardiovasc Surg 2008;56:43-53.;Kikuchi T, et al. Oncogene 2003;22:2192-205.;Kakiuchi S, et al. Mol Cancer Res 2003;1:485-99.;Kakiuchi S, et al. Hum Mol Genet 2004;13:3029-43.;Kikuchi T, et al. Int J Oncol 2006; 28:799-805.;Taniwaki M, et al. Int J Oncol 2006;29:567-75.)。
スクリーニングした27,648個の遺伝子の中で、調べた肺癌の大多数においてERCC6Lの過剰発現が同定され、15例の付加的な肺癌組織のうち10例において、および14例の肺癌細胞株のうち13例において、半定量的RT−PCR実験によりそのトランス活性化が確認された(図1Aおよび1B)。ノーザンブロット解析により、ERCC6Lは正常組織では発現しないが、肺癌細胞株において強く発現することが示された(図1C)。免疫蛍光解析を行い、COS−7細胞における外因性ERCC6Lの細胞内局在性を調べた。ERCC6Lは主に細胞質において、および核において弱く検出された(図1D)。
【0219】
実施例3:ERCC6Lに対するsiRNAによる肺癌細胞の増殖の阻害
ERCC6Lが肺癌細胞の増殖または生存に必須であるかどうかを評価するため、対照プラスミド(ルシフェラーゼ(LUC)およびEGFPに対するsiRNA)に加えて、ERCC6Lに対するsiRNAを発現するようにプラスミドを構築し(si−ERCC6L−#Aおよびsi−ERCC6L−#B)、ERCC6Lを強く発現するSBC−5細胞およびA549細胞にそれらをトランスフェクトした。si−ERCC6L−#Aまたはsi−ERCC6L−#Bをトランスフェクトした細胞におけるERCC6L−mRNAレベルは、いずれかの対照siRNAをトランスフェクトした細胞と比較して有意に低下した(図2A)。生細胞数の有意な減少が観察された(図2Bおよび2C)。
【0220】
実施例4:ERCC6Lの増殖促進効果
腫瘍形成におけるERCC6Lの潜在的役割を明らかにするため、ERCC6Lを発現するように設計されたプラスミド(pcDNA3.1/myc−His Aベクター)またはモックベクターを調製した。哺乳動物細胞の増殖に及ぼすERCC6Lの効果を判定するため、内因性ERCC6Lをほとんど発現しないCOS−7細胞を用いて、一過性トランスフェクタントを作製した。外因性ERCC6Lを一過性に発現するこの細胞は、モックベクターをトランスフェクトした細胞と比較して有意な増殖促進を示した(図3Aおよび3B)。
【0221】
考察
がん治療のための新規分子標的の同定および特徴づけが近年促進されていることにより、新たな種類の抗がん剤の開発に多大な関心が寄せられている(Daigo Y, et al. Gen Thorac Cardiovasc Surg 2008;56:43-53.;Kikuchi T, et al. Oncogene 2003;22:2192-205.;Kakiuchi S, et al. Mol Cancer Res 2003;1:485-99.;Kakiuchi S, et al. Hum Mol Genet 2004;13:3029-43.;Kikuchi T, et al. Int J Oncol 2006; 28:799-805.;Taniwaki M, et al. Int J Oncol 2006;29:567-75.)。
【0222】
これまでに多くの標的療法が肺癌に関して調べられているが、応答する腫瘍型の範囲および治療の有効性は依然として非常に限定されている。分子標的薬は、作用機序が明確であるために、有害作用が最小であり、悪性細胞に対する特異性が高いと予測される。この目的へのアプローチとして有望な戦略は、がん細胞で過剰発現する遺伝子を効率的に同定するためのゲノム全域にわたる発現解析の能力と、RNAi技法による機能喪失効果のハイスループットスクリーニングを併用することである(Suzuki C, et al. Cancer Res 2003;63:7038-41.;Ishikawa N, et al. Clin Cancer Res 2004;10:8363-70.;Kato T, et al. Cancer Res 2005;65:5638-46.;Furukawa C, et al. Cancer Res 2005;65:7102-10.;Ishikawa N, et al. Cancer Res 2005;65:9176-84.;Suzuki C, et al. Cancer Res 2005;65:11314-25.;Ishikawa N, et al. Cancer Sci 2006;97:737-45.;Takahashi K, et al. Cancer Res 2006;66:9408-19.;Hayama S, et al. Cancer Res 2006;66:10339-48.)。
この併用アプローチを用いて、ERCC6Lが臨床肺癌試料および細胞株において頻繁に過剰発現すること、ならびにその遺伝子産物が肺癌細胞の増殖および進行において不可欠な役割を果たすことが示された。
【0223】
本発明において、ERCC6L発現をノックダウンするための特異的siRNAで肺癌細胞を処理すると、がん細胞の増殖が抑制された。本発明者らはまた、発がんにおけるこの経路の意義を支持するさらなる証拠を示した;例えば、ERCC6Lの発現により、インビトロにおいて細胞の増殖が有意に促進された。得られた結果から、ERCC6Lが肺癌細胞の重要な増殖因子である可能性が高いことが示唆されたが、多くのがん細胞におけるERCC6L発現レベルの上昇の根底にある分子機構は依然として明らかにされていない。ERCC6Lはがん特異的抗原の1つとして分類されるため、分子標的薬によるERCC6L活性の選択的阻害は、有害事象のリスクが最小であり、かつがんに対して強力な生物学的活性を有すると予測される有望な治療戦略となり得る。
要約すると、ERCC6Lの活性化は、がん細胞の増殖のための特異的な機能的役割を有する。データから、肺癌患者の治療のために、ERCC6Lの発がん活性を特異的に標的とするように新規抗がん剤を設計する可能性が強く示唆される。
【0224】
産業上の利用可能性
本明細書において提供されるデータは、がんの包括的理解を高め、新規診断戦略の開発を促進し、かつ治療剤および予防剤のための分子標的の同定に手掛かりを与える。そのような情報は、腫瘍形成のより深い理解に寄与し、がんの診断、治療、および最終的には予防の新規戦略を開発するための指標を提供する。
【0225】
詳細には、レーザーキャプチャーダイセクションとゲノム全域にわたるcDNAマイクロアレイの組み合わせを用いる、本明細書に記載されるがんの遺伝子発現解析により、正常器官と比較してがんにおいて顕著に上昇する遺伝子としてERCC6Lが同定された。したがって、これはがんの予防および治療との関連において有用である。例えば、その差次的発現を考えると、がん、特に肺癌を同定および検出するための分子診断マーカーとして、ERCC6Lを好都合に使用することができる。したがって、ERCC6L遺伝子およびそれによってコードされるタンパク質は、がんの診断キットおよびアッセイにおいて有用である。
【0226】
本発明はさらに、細胞増殖が、ERCC6L遺伝子を特異的に標的とする二本鎖核酸分子によって抑制され得ることを実証する。したがって、この二本鎖核酸分子は、抗がん調剤の開発に有用である。さらに、ERCC6Lポリペプチドは抗がん調剤の開発の有用な標的である。例えば、ERCC6Lタンパク質の発現を阻止するか、またはその活性を妨げる物質は、抗がん剤、特に肺癌治療用の抗がん剤として治療上有用であり得る。
本明細書で引用した出版物、データベース、配列、特許、および特許出願はすべて、参照により本明細書に組み入れられる。
【0227】
本発明を詳細にかつその特定の態様に関して説明してきたが、前述の説明は本質的に、例示的かつ説明的なものであって、本発明およびその好ましい態様を説明することを意図していることが理解されるべきである。当業者は、日常的な実験を通して、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な変更および修正がその中でなされ得ることを容易に認識するであろう。したがって本発明は、上記の説明によってではなく、添付の特許請求の範囲およびそれらの同等物によって規定されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象由来の生体試料中のERCC6L遺伝子の発現レベルを測定する段階を含む、対象におけるがんまたはがんを発症する素因を検出または診断する方法であって、該遺伝子の正常対照レベルと比較して該レベルが上昇していることにより、該対象ががんに罹患しているか、またはがんを発症するリスクがあることが示され、該発現レベルが、
(a) ERCC6L遺伝子のmRNAを検出すること;
(b) ERCC6L遺伝子によってコードされるタンパク質を検出すること;および
(c) ERCC6L遺伝子によってコードされるタンパク質の生物学的活性を検出すること
からなる群より選択される方法のいずれか1つによって測定される、方法。
【請求項2】
前記上昇が前記正常対照レベルよりも少なくとも10%高い、請求項1記載の方法。
【請求項3】
対象由来の生体試料が生検試料である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
がんが肺癌である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
(a) ERCC6L遺伝子のmRNAを検出するための試薬;
(b) ERCC6L遺伝子によってコードされるタンパク質を検出するための試薬;および
(c) ERCC6L遺伝子によってコードされるタンパク質の生物学的活性を検出するための試薬
からなる群より選択される試薬を含む、がんを診断するためのキット。
【請求項6】
試薬が、ERCC6Lの遺伝子転写物に対するプローブもしくはプライマーセット、またはERCC6L遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体である、請求項5記載のキット。
【請求項7】
がんを治療および/もしくは予防するため、またはがん細胞の増殖を阻害するための候補物質をスクリーニングする方法であって、
(a) 試験物質をERCC6Lポリペプチドまたはその断片と接触させる段階;
(b) 該ポリペプチドまたは該断片と該試験物質との間の結合活性を検出する段階;および
(c) 該ポリペプチドまたは該断片に結合する試験物質を、がんを治療または予防するための候補物質として選択する段階
を含む、方法。
【請求項8】
がんを治療および/もしくは予防するため、またはがん細胞の増殖を阻害するための候補物質をスクリーニングする方法であって、
(a) 試験物質を、ERCC6L遺伝子を発現する細胞と接触させる段階;
(b) 段階(a)の細胞におけるERCC6L遺伝子の発現レベルを検出する段階;および
(c) 試験物質の非存在下で検出されたERCC6L遺伝子の発現レベルと比較して、段階(b)で検出された発現レベルを低下させる試験物質を選択する段階
を含む、方法。
【請求項9】
がんを治療および/もしくは予防するため、またはがん細胞の増殖を阻害するための候補物質をスクリーニングする方法であって、
(a) 試験物質をERCC6Lポリペプチドまたはその断片と接触させる段階;
(b) 段階(a)の該ポリペプチドまたは該断片の生物学的活性を検出する段階;および
(c) 試験物質の非存在下で検出された生物学的活性と比較して、段階(b)で検出された該ポリペプチドまたは該断片の生物学的活性を抑制する試験物質を選択する段階
を含む、方法。
【請求項10】
生物学的活性が細胞増殖活性である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
がんを治療および/もしくは予防するため、またはがん細胞の増殖を阻害するための候補物質をスクリーニングする方法であって、
(a) 試験物質を、ERCC6L遺伝子の転写調節領域および該転写調節領域の制御下で発現するレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と接触させる段階;
(b) 段階(a)の該レポーター遺伝子の発現または活性を測定する段階;ならびに
(c) 試験物質の非存在下における発現および/または活性レベルと比較して、段階(b)で検出された該レポーター遺伝子の発現および/または活性レベルを低下させる物質を選択する段階
を含む、方法。
【請求項12】
がんが肺癌である、請求項7、8、9、および11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
センス鎖およびそれに相補的なアンチセンス鎖を含む単離された二本鎖分子であって、該鎖が互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成し、該センス鎖がSEQ ID NO:7および8からなる群より選択される標的配列に相当するヌクレオチド配列を含み、該二本鎖分子が、ERCC6L遺伝子を発現する細胞に導入された場合に該遺伝子の発現および細胞増殖を阻害する、単離された二本鎖分子。
【請求項14】
センス鎖が標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、19〜25ヌクレオチド対の長さを有する二本鎖分子を形成する、請求項13記載の二本鎖分子。
【請求項15】
センス鎖および/またはアンチセンス鎖の3'において1つまたは2つの3'オーバーハングを有する、請求項13記載の二本鎖分子。
【請求項16】
一本鎖ヌクレオチド配列によって連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む単一ポリヌクレオチドである、請求項13記載の二本鎖分子。
【請求項17】
前記ポリヌクレオチドが、一般式
5'−[A]−[B]−[A']−3'
を有し、式中、[A]はセンス鎖であり;[B]は約3〜約23ヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり;かつ[A']はアンチセンス鎖である、請求項16記載の二本鎖分子。
【請求項18】
[A]が、SEQ ID NO:7および8からなる群より選択されるヌクレオチド配列に相当するヌクレオチド配列を含む、請求項17記載の二本鎖分子。
【請求項19】
請求項13〜18のいずれか一項記載の二本鎖分子をコードするベクター。
【請求項20】
対象におけるがんを治療および/または予防する方法であって、該方法が、ERCC6L遺伝子に対する二本鎖分子またはそれをコードするベクターの薬学的有効量および薬学的に許容される担体を該対象に投与する段階を含み、該二本鎖分子が、ERCC6L遺伝子を発現する細胞に導入された場合にERCC6L遺伝子の発現および細胞増殖を阻害する、方法。
【請求項21】
二本鎖分子が請求項13記載のものである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
ベクターが請求項19記載のものである、請求項20記載の方法。
【請求項23】
治療すべきがんが肺癌である、請求項20記載の方法。
【請求項24】
がんを治療および/または予防するための組成物であって、該組成物が、ERCC6L遺伝子に対する二本鎖分子またはそれをコードするベクターの薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含み、該二本鎖分子が、ERCC6L遺伝子を発現する細胞に導入された場合にERCC6L遺伝子の発現および細胞増殖を阻害する、組成物。
【請求項25】
二本鎖分子が請求項13記載のものである、請求項24記載の組成物。
【請求項26】
ベクターが請求項19記載のものである、請求項24記載の組成物。
【請求項27】
治療すべきがんが肺癌である、請求項24記載の組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2013−502901(P2013−502901A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510472(P2012−510472)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【国際出願番号】PCT/JP2010/005206
【国際公開番号】WO2011/024441
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】