説明

ころ軸受

【課題】 ころ軸受1の保持器7のポケット8内における摩耗粉のかみ込み及び滞留を防止することにより、ころ6に圧痕や油膜切れが生じないようにして、長寿命化を図る。
【解決手段】 外方部材3と内方部材5との間に、ころ6と保持器7とを組み込んだ状態において、ころ6の外周面に、保持器7の柱部9に設けた、ころ6の脱落防止用の内側突起部11及び外側突起部12が常に接触しないように、外輪軌道2の径と、内輪軌道4の径、保持器7の内外径と、柱部9の内側突起部11及び外側突起部12との位置並びに寸法関係を規定することにより、ころ6の外周面と保持器7の柱部9との間に形成される隙間を潤滑油がスムーズに流通するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遊星歯車減速装置に用いて好適なころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ころ軸受21は、図5〜図7に示すように、内周面に円筒形の外輪軌道22を有する外方部材23と、外周面に円筒形の内輪軌道24を有する内方部材25と、これら外輪軌道22と内輪軌道24との間に転動自在に設けた複数のころ26とからなる。
【0003】
ころ26は、全体が円筒状に形成された保持器27に転動自在に保持されている。保持器27は、周方向に所定間隔でころ26を収容するポケット28を有し、周方向に隣り合う各ポケット28間に柱部29と、柱部29の軸方向の両側に円環部30とを備えている。
【0004】
保持器27の柱部29には、内径側と外径側とに、ころ26の抜け落ちを防止する内側突起部31と外側突起部32を設けている。
【0005】
例えば、柱部29の軸方向中間部と軸方向両端の3か所には、径方向内外に延びる油道33A、33Bが、内側突起部31と外側突起部32が形成された部分を除いて設けられる。そして、保持器27の径方向内側から外側に遠心力によって潤滑油を前記各油道33A、33Bを介して流通させることにより、潤滑油の流れやころ軸受21内における潤滑油の油量を確保している。
【0006】
このように構成されるころ軸受21は、例えば、遊星歯車減速装置の各減速歯車機構における遊星歯車(外方部材23)を支持ピン(内方部材25)によって軸支する場合に使用される。
【0007】
このような場合、外方部材23と保持器27との間に形成される隙間が外側油路34を形成し、内方部材25と保持器27との間に形成される隙間が内側油路35を形成し、遊星歯車減速装置の外形を構成するハウジング内の潤滑油が、外側油路34と内側油路35を通ってころ軸受21の各ポケット28内に流入する。そして、流入した潤滑油は、遊星歯車が回転するときに生じる遠心力によって、各油道33A、33Bを介して保持器27の径方向内側から外側に向けて流れる。これにより、ころ軸受21の潤滑性が高められている。
【0008】
ところで、上記のような遊星歯車減速装置に、ころ軸受21を使用した場合、運転中に歯車の噛合い面等から摩耗粉やシール部材のシール片等の塵埃が発生し、この塵埃が、潤滑油の流れに乗ってころ軸受21の各ポケット28内に浸入する。
【0009】
ところが、ころ軸受21の各ポケット28を仕切る柱部29には、ころ26の抜け落ちを防止する内側突起部31と外側突起部32を設けている。
【0010】
このため、ころ26が、柱部9の内側突起部31と外側突起部32に接触しながら回転すると、ころ26の外表面の潤滑油が内側突起部31と外側突起部32によって掻き落とされると共に、ころ26と内側突起部31及び外側突起部32の接触部分に塵埃が滞留する。
【0011】
その結果、各ポケット28内のころ26は、内側突起部31と外側突起部32の部分に滞留した塵埃、とりわけ、鉄粉等の金属摩耗粉とすれ合い早期に摩耗するという問題があった。
【0012】
特に近年、歯車減速装置メーカではコスト削減の流れから、歯車の仕上げ加工の省略等で表面粗さが大きくなっており、歯車のかみ合いにより粗さの突起が脱落するなどして、多量の摩耗粉が発生しているケースが多々見受けられる。したがって、金属摩耗粉によるころの摩耗を防止することが重要な課題になっている。
【0013】
このような摩耗粉対策として、特許文献1及び特許文献2には、ポケット28の柱部9の壁面に、異物や摩耗粉を捕捉する溝36を設けるということが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平8−184320号公報
【特許文献2】特開2006−112584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところが、上記のように、ポケット28の壁面に溝36を設け、異物や摩耗粉を溝36により捕捉するようにしても、溝36の開口端縁と、ころとの間でやはり摩耗粉のかみ込みが生じるため、かみ込んだ摩耗粉により、ころが早期に破損するという問題がある。
【0016】
そこで、この発明は、多量の摩耗粉が介在する使用箇所においても、ころと保持器柱部の内側突起部及び外側突起部で摩耗粉をかみ込むことなく、且つ保持器のポケット内における摩耗粉の滞留を防止することにより、ころに圧痕や油膜切れが生じないようにして、ころ軸受の長寿命化を図ることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記の課題を解決するために、この発明は、内周面に円筒形の外輪軌道を有する外方部材と、外周面に円筒形の内輪軌道を有する内方部材と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けた複数のころと、このころを周方向に所定間隔で保持する保持器とからなり、保持器が、ころを収容するポケットを周方向に所定間隔で形成した全体が円筒状で、周方向に隣り合う各ポケット間に柱部と、この柱部の軸方向の両側に円環部を備え、柱部の軸方向両側の内径側と外径側とに、ころの抜け落ちを防止する内側突起部と外側突起部を設けたころ軸受において、外輪軌道径と、内輪軌道径と、保持器の内外径と、柱部の内側突起部及び外側突起部との位置並びに寸法関係を、外輪軌道径と内輪軌道径の間にころと保持器を組み込んだ状態において、ころの外周面と、柱部に設けた内側突起部及び外側突起部とが非接触状態となるように規定したことを特徴とする。
【0018】
上記のように、外輪軌道径と内輪軌道径の間にころと保持器とを組み込んだ状態において、ころの外周面と、柱部に設けた内側突起部及び外側突起部とが非接触状態になるようにするには、外輪軌道径と、内輪軌道径と、保持器の内外径と、柱部の内側突起部及び外側突起部との位置並びに寸法関係を次のように規定する。
【0019】
即ち、前記外輪軌道径をA、保持器の外径寸法をB、内輪軌道径をF、保持器内径寸法をG、ころをポケットの中央に位置させた状態でころと柱部との周方向隙間をL、L=0の時の外側突起部ところの最小隙間をD、内側突起部ところの最小隙間をEとした時に、A−B=C、G−F=H、D>C、E>C、C≠0、H≠0の関係を満足するようにする。
【0020】
前記外輪軌道と保持器の外径との間に形成される外側油路の隙間間隔よりも、内輪軌道と保持器の内径との間に形成される内側油路の隙間間隔を大きく設定することが望ましい。
【0021】
前記保持器の材料は、樹脂材料又は鉄製材料によって形成される。
【0022】
前記樹脂材料としては、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド等を使用することができ、グラスファイバーにより繊維強化してもよい。
【0023】
この発明に係るころ軸受は、遊星歯車減速装置に使用することができ、その場合、外方部材を遊星歯車、内方部材を支持ピンとして使用される。
【発明の効果】
【0024】
この発明のころ軸受は、外輪軌道径と内輪軌道径の間にころと保持器とを組み込んだ状態において、ころの外周面と、柱部に設けた内側突起部及び外側突起部とが非接触状態であるため、内側突起部と外側突起部によってころの外表面の潤滑油が掻き取られず、且つ互いに摩耗粉をかみ込み合わない。また、内側突起部と外側突起部の部分に潤滑油中に混入した金属摩耗粉等の塵埃が滞留せず、潤滑油がころとポケットの隙間をスムーズに流れる。
【0025】
したがって、この発明の転がり軸受は、ころに圧痕や油膜切れが生じ難いので、金属摩耗粉が発生しやすい遊星歯車減速装置に使用しても、長寿命である。
【0026】
また、前記外輪軌道と保持器の外径との間に形成される外側油路の隙間間隔よりも、内輪軌道と保持器の内径との間に形成される内側油路の隙間間隔を大きく設定することにより、内側油路から外側油路への潤滑油の流通が多くなるので、冷却効果も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明に係るころ軸受の一実施形態を部分的に示す平面図である。
【図2】図1のII−II線の断面図である。
【図3】図1のIII−III線の断面図である。
【図4】この発明に係るころ軸受の潤滑油の流れを示す拡大断面図である。
【図5】従来のころ軸受を部分的に示す平面図である。
【図6】図5のVI−VI線の断面図である。
【図7】図5のVII−VII線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明の実施の形態について図1〜図4に基づいて説明する。
ころ軸受1は、内周面に円筒形の外輪軌道2を有する外方部材3と、外周面に円筒形の内輪軌道4を有する内方部材5と、これら外輪軌道2と内輪軌道4との間に転動自在に設けた複数のころ6とからなる。
【0029】
ころ6は、金属材料等から円筒状体として形成され、針状ころ、棒状ころ等として構成され、全体が円筒状に形成された保持器7に規則正しく配列して保持されている。
【0030】
保持器7は、周方向に所定間隔でころ6を規則正しく収容する矩形状のポケット8を有し、樹脂材料を射出成形等の手段を用いることにより形成される。保持器7は、ポケット8が内径側から外径側に貫通するように形成され、周方向に隣り合う各ポケット8間に柱部9と、柱部9の軸方向の両側に円環部10を備える。
【0031】
保持器7を形成する樹脂材料としては、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド等を使用することができ、グラスファイバーにより繊維強化してもよい。
【0032】
保持器7の柱部9には、軸方向両側の内径側と外径側とに、ころ6の抜け落ちを防止する内側突起部11と外側突起部12を設けている。
【0033】
柱部9の軸方向中間部と軸方向両端の3か所には、径方向内外に延びる油道13A、13Bが、内側突起部11と外側突起部12が形成された部分を除いて設けられる。そして、保持器7の径方向内側から外側に遠心力によって潤滑油を前記各油道13A、13Bを介して流通させることにより、潤滑油の流れやころ軸受1内における潤滑油の油量を確保している。
【0034】
この発明は、外方部材3と内方部材5との間に、ころ6と保持器7とを組み込んだ状態において、ころ6の外周面に、保持器7の柱部9に設けた内側突起部11及び外側突起部12が常に接触しないように、外輪軌道2の径と、内輪軌道4の径と、保持器7の内外径と、柱部9の内側突起部11及び外側突起部12との位置並びに寸法関係をそれぞれ次のように規定している。
【0035】
即ち、図3に示すように、外輪軌道2の径をA、保持器7の外径寸法をB、内輪軌道4の径をF、保持器7の内径寸法をG、ころ6と柱部9との周方向隙間をLとし、L=0の時の外側突起部12ところ6の最小隙間をD、内側突起部11ところ6の最小隙間をEとした時に、A−B=C、G−F=H、D>C、E>C、C≠0、H≠0の関係を満足させている。
【0036】
この条件において、外方部材3と内方部材5との間に、ころ6と保持器7とを組み込んだ状態において、ころ6の外周面に、保持器7の柱部9に設けた内側突起部11及び外側突起部12が常に接触しないので、図4に矢印Xで示すように、ころ6の外周面と保持器7の柱部9の隙間を潤滑油がスムーズに流通し、内側突起部11と外側突起部12によってころ6の外表面の潤滑油が掻き取られず、また、内側突起部11と外側突起部12の部分に潤滑油中に混入した金属摩耗粉等の塵埃が滞留しない。
【0037】
図1〜図4に示す実施形態では、前記外輪軌道2と保持器7の外径との間に形成される外側油路14の隙間間隔よりも、内輪軌道4と保持器7の内径との間に形成される内側油路15の隙間間隔を大きく設定している。
【0038】
これにより、内側油路15から外側油路14への潤滑油の流通が多くなり、潤滑油による冷却効果も向上する。
【産業上の利用可能性】
【0039】
この発明のころ軸受1は、例えば、遊星歯車減速装置の各減速歯車機構における遊星歯車(外方部材3)を支持ピン(内方部材5)によって軸支する場合に使用される。
【0040】
このような場合、外方部材3と保持器7との間に形成される隙間が外側油路14を形成し、内方部材5と保持器7との間に形成される隙間が内側油路15を形成し、遊星歯車減速装置の外形を構成するハウジング内の潤滑油が、外側油路14と内側油路15を通ってころ軸受1内に流入する。そして、流入した潤滑油は、遊星歯車が回転するときに生じる遠心力によって、各油道13A、13Bを介して保持器7の径方向内側から外側に向けて流れる。これにより、ころ軸受1の潤滑性が高められている。
【符号の説明】
【0041】
1 ころ軸受
2 外輪軌道
3 外方部材
4 内輪軌道
5 内方部材
6 ころ
7 保持器
8 ポケット
9 柱部
10 円環部
11 内側突起部
12 外側突起部
13A 油道
13B 油道
14 外側油路
15 内側油路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に円筒形の外輪軌道を有する外方部材と、外周面に円筒形の内輪軌道を有する内方部材と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けた複数のころと、このころ周方向に所定間隔で保持する保持器とからなり、保持器が、ころを収容するポケットを周方向に所定間隔で形成した全体が円筒状で、周方向に隣り合う各ポケット間に柱部と、この柱部の軸方向の両側に円環部を備え、柱部の軸方向両側の内径側と外径側とに、ころの抜け落ちを防止する内側突起部と外側突起部を設けたころ軸受において、外輪軌道径と、内輪軌道径と、保持器の内外径と、柱部の内側突起部及び外側突起部との位置並びに寸法関係を、外輪軌道径と内輪軌道径の間にころと保持器とを組み込んだ状態において、ころの外周面と、柱部に設けた内側突起部及び外側突起部とが非接触状態となるように規定したことを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
前記外輪軌道径をA、保持器の外径寸法をB、内輪軌道径をF、保持器内径寸法をG、ころをポケットの中央に位置させた状態でころと柱部との周方向隙間をL、L=0の時の外側突起部ところの最小隙間をD、内側突起部ところの最小隙間をEとした時に、下記式を満足する請求項1記載のころ軸受。
A−B=C、G−F=H、D>C、E>C、C≠0、H≠0
【請求項3】
前記外輪軌道と保持器の外径との間に形成される外側油路の隙間間隔よりも、内輪軌道と保持器の内径との間に形成される内側油路の隙間間隔を大きく設定している請求項1又は2記載のころ軸受。
【請求項4】
前記保持器の材料が樹脂材料である請求項1〜3のいずれかに記載のころ軸受。
【請求項5】
前記保持器の材料が鉄製材料である請求項1〜3のいずれかに記載のころ軸受。
【請求項6】
前記樹脂材料がポリアミド66又はポリアミド46である請求項4に記載のころ軸受。
【請求項7】
前記樹脂材料がポリエーテルエーテルケトン又はポリフェニレンサルファイドである請求項4に記載のころ軸受。
【請求項8】
前記樹脂材料を、グラスファイバーにより繊維強化している請求項6又は7に記載のころ軸受。
【請求項9】
前記請求項1〜8のいずれかに記載のころ軸受を使用した遊星歯車減速装置。
【請求項10】
前記外方部材を遊星歯車、内方部材を支持ピンとした請求項9記載の遊星歯車減速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−68281(P2013−68281A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207739(P2011−207739)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】