説明

なめし革、その製造方法および製造装置

【課題】極めて柔軟で肌触りがよく、かつ、ホルマリンが検出されないなめし革およびその製造方法を提供する。
【解決手段】回転するドラムの中にいれた原料皮に対して、ホルマリンフリーなめし工程SP3において、グルタアルデヒドを用いてなめしを行う。その後に、なめし油としてのタラ油をドラムに入れ、回転させながら温度を上げて油なめし工程SP4を行う。ドラム1を加熱しながら回転させているので、皮がムラ無く完全に酸化し、処理も数時間と速い。ホルマリンを用いていないので、加工を終えた皮からホルマリンが検出されず、直接皮膚に触れても炎症を起こす等の問題は生じない。しかも、油なめし工程において加熱することにより、皮の繊維になめし油が完全に行き渡って離脱しにくくなり、革の肌触りが極めて柔軟ですべすべした感触となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルムアルデヒドが検出されず、かつ柔軟性を有するなめし革、その製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
なめし革は種々の用途に用いられているが、製品からホルムアルデヒドが湧出されるため、人体の皮膚に直接触れると炎症等の問題を起こす場合がある。
一方、なめし剤としてホルマリンを用いないホルマリンフリーなめしを行うことにより、製品からホルムアルデヒドが検出されないようにしたなめし革の製造方法も提案されている。この場合には、例えばグルタアルデヒドが用いられる。
例えば、特許文献1には、グルタアルデヒドなどを用いたホルマリンフリーのなめしを行う皮革の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−119700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば鹿皮を用いてホルマリンフリーなめしを行った場合、その肌触りが固く、例えば、化粧用布や化粧パフとして用いることはできなかった。一方において、皮の持つ保湿性は化粧を行う場合などに好適であり、その特質を利用するためのなめし革の製造方法の開発が望まれていた。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、極めて柔軟で肌触りがよく、かつ、ホルマリンが検出されないなめし革、その製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため本発明は、回転ドラムを用いてなめしを行うなめし革の製造方法において、ホルマリンフリーなめしが行われた皮を前記回転ドラムに入れ、なめし油を入れて温度を上げながら前記回転ドラムを回転させ、前記回転ドラム内で前記皮の酸化を促す工程を有し、前記工程においては、温度制御プログラムを実行するコンピュータが、外気の温度を検出する温度センサと前記回転ドラム内の温度を検出する温度センサの各検出結果を用いて前記回転ドラム内に設けられている加熱装置を自動制御することを特徴とする。
【0007】
また、上記製造方法によって製造されたなめし革は好適である。
【0008】
上述した課題を解決するため本発明は、ホルマリンフリーなめしが行われた皮が入れられる回転ドラムと、前記回転ドラム内に設けられる加熱装置と、前記回転ドラム内の温度を検出する温度センサと、外気温度を検出する温度センサと、前記回転ドラムを回転させた状態で、前記各温度センサの検出結果を用いて前記加熱装置を自動制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製造物であるなめし革からホルマリンが検出されず、かつ、極めて柔軟で肌触りの良いなめし革を製造することができる。したがって、化粧用布等に用いても、皮膚の炎症等が発生する恐れがなく、革のもつ保湿性を有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態の処理過程を示す工程図である。
【図2】同実施形態において用いられるドラム1の概略構成を示す概略図である。
【図3】同実施形態においてドラム1の加熱処理を行う装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の一実施形態における加工工程を示す工程図であり、工程は準備工程S1、なめし工程S2、仕上げ工程S3からなる。また、図2は、本実施形態において用いるドラム1の概略構成を示す概略図である。本実施形態においては、原料皮をドラム1内に入れて各種の処理を行う。
ドラム1は中空円筒状に形成され、両端面に軸2a,2bが取り付けられており、軸2a,2bが回転することにより、ドラム1が矢印Aの方向に回転するようになっている。ドラム1の内部には、側面から軸心方向に突き出す突起部や棚(図示略)が設けられており、これにより原料皮を攪拌するようになっている。
【0012】
また、軸2b内には同軸状に管が設けられ、各種の液体をドラム1内に注入可能になっている。この場合、ドラム1が回転している状態にあっても、液体の注入が可能になっている。また、ドラム1内には、図3に示す加熱装置5および温度センサ6が設けられている。8は操作者が各種の操作を行う操作部であり、スイッチ、コントロールつまみおよび表示部などが設けられている。7は制御部であり、操作部8の操作に基づき加熱装置5の発熱量の制御を行う。温度センサ6の出力信号は制御部7を介して操作部8に供給され、操作部8の表示部において温度表示がなされるようになっている。この場合、加熱装置5,温度センサ6と制御部7との間の配線は、軸2a(または2b)内の回転接点等を介して結線され、ドラム1が回転している状態にあっても電源供給や信号の授受が行えるようになっている。なお、ドラム1には原料皮を出し入れするための蓋構造があるが説明簡略のため図示を省略した。
【0013】
図1に示す準備工程S1は、皮革加工を行う際に、原料皮から不必要な部分を除去する工程であり、本実施形態においては表面中和処理SP1およびフレッシングSP2を行う。表面中和処理SP1は、皮の表面を中和させる処理であり、原料皮をドラム1に入れ、所定量を水と塩を加えて10分ほどドラム1を回転させる。さらに重曹水を加え、15分ほどドラム1を回転させる。この後、ドラム1から原料皮を取り出してフレッシング処理を行う。フレッシング処理は、皮の内面にある肉塊、脂肪塊、結合組織等を剥ぎ取る工程である。
【0014】
以上の処理の後に、図1に示すなめし工程S2に移行する。本実施形態におけるなめし工程S2では、ホルマリンを用いないホルマリンフリーなめし工程SP3、およびその後に行われる油なめし工程SP4を行う。
【0015】
ホルマリンフリーなめしSP3は、次の手順で行われる。まず、準備工程S1を終えた原料皮をドラム1に入れ、原料皮の1.5〜2倍程度の水、少量の塩、活性剤、硫酸を管から注入し、1時間ほど回転させる。その後、少量(原料皮重量の2〜10%程度、以下において分量を%表示する際はドラム内の皮重量に対する割合とする)の亜塩素酸ソーダを注入し、15時間ほどドラム1を回転させ漂白する。このようになめし剤を入れる前に漂白を行うのは、それ以前の工程において漂白が行われていても、未だ毛根部分の色が残っていることが多いためである。この塩素漂白処理によって毛根部まで漂白される。
そして、数パーセントのチヨ硫酸ナトリウム内容量を加えて中和させたのち、図示せぬ排水管からドラム1内の溶液を排水する。
【0016】
次に、所定量の水と10〜30%程度の塩をドラム1内に注入し、30分ほど回転させる。塩を用いるのは、原料皮が膨張してふやけるのを抑えるためである。この処理のちドラム1内の溶液を排水する。
そして、15〜40%の水と数%〜20%の無水ボウ硝を注入してドラム1を20分ほど回転させ、さらに、数%〜10%の蟻酸を加えて30分ほど回転を続ける。その後に、ドラム1内の溶液を排水する。
【0017】
次に、数%〜10%程度のグルタアルデヒドをドラム1に注入し3時間ほど回転させる。すなわち、グルタアルデヒドを用いたグルタなめしを行う。その後、ほぼ一夜経過させ、ドラム1内においてなめしを進行させる。
【0018】
その後において、ドラム1を約30分回転させ、少量の酢酸ソーダを加えて1時間ほどドラム1を回転させる。さらに、少量の重曹を注入して30分ほどドラム1を回転させるという処理を連続して3回行い、最後に再び重曹を注入して3時間ほどドラム1を回転させる。この処理により、中和が進行する。中和処理の後は一夜経過させし、再びドラム1を約30分回転させた後に水洗いを行う。水洗いは所定温度の水により2回に分けて行われる。ドラム1の回転時間は、最初が1時間程度、2回目が30分程度である。以上の処理により、ホルマリンを用いないなめし、すなわち、ホルマリンフリーなめし工程SP3が終了する。
【0019】
次に、皮を柔らかくするために、ドラム1内に少量の加脂剤を入れて1時間ほど回転させ、その後に蟻酸を入れて30分ほど回転させる。この処理の後は油なめし工程SP4に移行する。
まず、ドラム1に水を入れ、皮のコンディションを整える。すなわち、なめし油が染み込み易いように皮の状態を整える。そして、皮に水が馴染むまでドラム1を回転させる。次に、タラ油を入れドラム1内の温度を上げながら回転させる。温度調整は、操作者が図3に示す操作部8に表示されている温度を見ながら、操作部8の調整つまみやスイッチを操作して行う。この場合、外気の温度なども考慮しながら温度を上げて行く。このように、ドラム1内の温度を上げて回転させることで、ドラム1内の皮に対し、強制的に酸化が促進される。また、この処理により、皮の繊維に均一にタラ油が染みこんでゆき、タラ油は皮繊維から離脱しにくくなる。また、皮の表面は、しっとりした感触になる。
【0020】
上記処理においては、ドラム1内の温度は最大値を予め決め(例えば、55〜70°の範囲で所定値を決めておく)、その温度を超えないように調整する。そして、ドラム1を所定時間回転させた後は、温度を徐々に下げて所定温度(例えば45°〜60°の範囲で所定温度を決めておく)になった時点で脱脂・加脂工程SP5へ移行する。
【0021】
まず、ドラム1内の溶液を排水した状態で数%〜15%の溶剤系脱脂洗剤を入れ30分ほど回転させて洗浄を行う。その後、150〜200%の水、数%の苛性ソーダ、数%の活性剤を加え1時間ほど回転させて洗浄する。この処理は水洗いを挟んで3回行われる。最後の水洗いの後、少量の蟻酸を注入してドラム1を20分ほど回転させる。さらに、少量の蟻酸を加えて20分回転させる処理を3回行う。この処理により皮のph値が下がってくる。その後に、ドラム1内に数%〜15%程度の加脂剤を加えて1時間ほど回転させ、さらに少量の蟻酸を加えて20分ほど回転させる。そして、ドラム1から皮を取り出してガラ干しを行う。ガラ干しとは、皮を自然乾燥させる処理である。自然乾燥は、例えば、所定の竿などに皮を吊る、いわゆる吊り干しとして行われる。
【0022】
次に、空打ち・ステーキング処理SP6に移行する。まず、空打ち処理として、空のドラム1にガラ干しを終えた皮を入れて回転させる。ガラ干しさせた皮は固いが、ドラムに入れて回転させてアクションを与えることになり、柔らかくなってゆく。空打ち処理が終わった後は、ステーキングを行う。ステーキングは、皮を一枚、一枚柔らかくする処理であり、周知のステーキングマシンが用いられる。以上が空打ち・ステーキング処理SP6である。
【0023】
次いで、染み抜き・レタン処理SP7に進む。まず、空打ち・ステーキング処理SP6を終えた皮をドラム1内に入れ、その重量の400〜600%水と数%〜10%程度の溶剤系脱脂剤と数%の活性剤を注入し、2時間ほどドラム1を回転させる。さらに、700〜900%の水を入れて90分回転させて水洗いをする。その後、90〜120%の塩、少量の硫酸を入れて30分ほど回転させ、10〜20%の亜塩素を入れて15分ほど回転させる。そして、数%のチヨ硫酸ナトリウムを入れて1時間ほど回転させ、数%の重曹を加えて30分ほど回転させ、さらに数%の重曹を加えて90分ほど回転させる。その後、水温を変えて2回の水洗いを行う。水洗いは、例えば1回目が60分ほど、2回目が20分ほどである。以上が染み抜きの工程である。
【0024】
次に、ドラム1内に150〜200%の水と微量の蟻酸を入れて30分ほど回転させた後、なめし剤であるグルタアルデヒドを数%〜十数%加えて60分ほど回転させる。すなわち、再度のグルタなめしを行う。これは、その染み抜き工程においては、なめし油が抜け過ぎてしまうことがあるので、それを補うためである。グルタなめしの後は、ドラム1内に数%のソーダ灰を入れて30分ほど回転させ、さらに数%のソーダ灰を入れて3時間ほど回転させる。その後、一夜経過させる。
そして、ドラム1内に500〜600%程度の水を加えて30分ほど回転させ、数%〜15%の加脂剤を加えて1時間ほど回転させる。その後に、少量の蟻酸を加えて30分ほど回転させ、レタン処理が終了する。
【0025】
次に、再び空打ち・ステーキング処理SP8を行う。空のドラム1に染み抜き・レタン処理SP7を終えた皮を入れて回転させ、その後にドラム1から皮を取り出してステーキングマシンによるステーキングを行う。また、ゴムロール上に皮を搬送させ、紙を巻き付けたロールの間を加圧状態で通す。これを皮の表裏について行う。
【0026】
次いで、洗い・柔軟処理SP9に進み、ドラム1に皮と1000%程度の水を入れて20分回転させる。そして、排水の後に、400〜500%程度の水、10〜20%程度の石けん、数%の苛性ソーダを入れて40分回転させる。その後、微量の苛性ソーダを加えて1時間ほど回転させ、排水する。次に、ドラム1に600〜700%程度の水を入れて15分回転させ、排水の後に再び600〜700%程度の水を入れて20分ほど回転させて排水する。
そして、400〜500%程度の水と数%の柔軟剤をドラムに入れて数分回転させ、さらに、微量の蟻酸を加えて30分ほど回転させる。その後、微量の蟻酸を加えて30分ほど回転させ、さらに微量の蟻酸を加えて1時間ほど回転させる。次に、皮をドラムから出し、ガラ干しを行う。以上により、洗い・柔軟処理SP9が終了する。
【0027】
その後は、空打ち処理SP10を行い、所定のネットに皮を張って乾かし加工が完了し、なめし革ができあがる。
【0028】
(実施形態の効果)
上述した実施形態においては、油なめし工程SP4においてドラム1を加熱しながら回転させているので、皮がムラ無く完全に酸化し、処理も数時間と速い。
一方、従来においては、油なめしの後はドラムから皮を取り出して自然乾燥させているので、夏場は半日、冬場は3日ほどかかり、工程時間が安定しない。また、皮の完全な酸化が難しく、なめし油が繊維から離脱し易いという問題があった。上記実施例においては、作業時間に季節変動がなく、品質も安定させることができる。
【0029】
また、上記実施形態においては、ホルマリンを用いていないので、加工を終えた皮からホルマリンが検出されず、直接皮膚に触れても炎症を起こす等の問題は生じない。しかも、油なめし工程において加熱することにより、皮の繊維になめし油が完全に行き渡って離脱しにくくなり、皮の肌触りは極めて柔軟ですべすべした感触となる。
【0030】
(変形例)
上述した実施例は、油なめしにおけるドラム1の温度管理を操作者が温度表示を見ながら行ったが、図3に示すように外気の温度を検出する温度センサ10を設けるとともに、温度制御プログラムを実行するコンピュータを制御部7に組み込み、外気温度とドラム内温度(温度センサ6が検出する温度)とを検出しながら、自動制御するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1…ドラム、5…加熱装置、6…温度センサ、7…制御部、8…操作部、SP3…ホルマリンフリーなめし、SP4…油なめし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転ドラムを用いてなめしを行うなめし革の製造方法において、
ホルマリンフリーなめしが行われた皮を前記回転ドラムに入れ、なめし油を入れて温度を上げながら前記回転ドラムを回転させ、前記回転ドラム内で前記皮の酸化を促す工程を有し、
前記工程においては、温度制御プログラムを実行するコンピュータが、外気の温度を検出する温度センサと前記回転ドラム内の温度を検出する温度センサの各検出結果を用いて前記回転ドラム内に設けられている加熱装置を自動制御することを特徴とするなめし革の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のなめし革の製造方法によって製造されたなめし革。
【請求項3】
ホルマリンフリーなめしが行われた皮が入れられる回転ドラムと、
前記回転ドラム内に設けられる加熱装置
前記回転ドラム内の温度を検出する温度センサと、
外気温度を検出する温度センサと、
前記回転ドラムを回転させた状態で、前記各温度センサの検出結果を用いて前記加熱装置を自動制御する制御部と、を備えた
ことを特徴とするなめし革の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−138407(P2010−138407A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31445(P2010−31445)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【分割の表示】特願2004−90136(P2004−90136)の分割
【原出願日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(503422985)株式会社たかばん (1)
【Fターム(参考)】