説明

ねじ軸形成方法及びボールねじ機構のねじ軸

【課題】
より低コストでボールねじ機構のねじ軸を製造できるねじ軸形成方法及びぞれにより形成されたねじ軸を提供する。
【解決手段】
縮径部10aの外径は、軸線方向外方に向かうにつれて漸次減少しているので、被加工部Waの対応する端部に向かうにつれて、その塑性変形量が減少し、その端部から軸線方向にはみ出す余肉部の形成が抑制されることとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば一般産業用機械に組付けられたり、或いは自動車に使用されたりするボールねじ機構のねじ軸、及びそれを加工するためのねじ軸形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両等の省力化が進み、例えば自動車のトランスミッションやパーキングブレーキなどを手動でなく、電動モータの力により行うシステムが開発されている。そのような用途に用いる電動アクチュエータには、電動モータから伝達される回転運動を高効率で軸線方向運動に変換するために、ボールねじ機構が用いられる場合がある。
【0003】
ここで、ボールねじ機構のねじ軸を製造する転造加工として、通し転造方式とインフィード転造方式が知られている。通し転造方式は、ロールダイスを被転造物に押し当てて転造する際、ロールダイスのリード角と被転造物のリード角に少しの角度差を設けて転造する方式である。ロールダイス又は被転造物を相対的に回転させると、上記リード角の差によってロールダイスと被転造物が相対的に移動しながら転造する、いわゆる歩き現象を生じ、ロールダイスや被転造物を相対的に回転させるとき強制的に軸心方向に動かすことなく自動的に転造を行うことができる(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−300675号公報
【特許文献2】特開平9−133195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1、2は、比較例による通し転造加工を示す図である。図1(a)に示すように、通し転造加工は、回転する一対の転造ダイスRD,RD間に、被加工部Waと支持部Wb、Wbとを有する円筒状ワークWを軸線方向に通過させることにより、円筒状ワークWの被加工部Waに雄ねじ溝CWを形成するものである。従って、図1(b)に示すように、それにより形成される雄ねじ溝CWは全長にわたって同じ形状を有する。かかる通し転造加工によれば、被加工部Waを拡大して示す図1(c)に示すように、被加工部Waの端部が塑性変形することで、軸線方向にせりだした余肉部Wcが生じる。しかるに、被加工部Waに隣接した支持部Wbに軸受BRG(点線)を設けようとすると、余肉部Wcに干渉する恐れがあるので、転造加工後に切削や研削等の後加工で余肉部Wcを削除することが行われている。ところが、支持部Wbとの間に形成された余肉部Wcの切削や研削等は加工が難しく、また径の小さな工具を用いなくてはならず、工具の早期損耗を招く恐れがある。更に余肉部Wcの取り代が大きいと、後加工の手間や時間がかかるという問題もある。
【0005】
これに対し、図2(a)に示すように、円筒状ワークWの被加工部Waの端部に、予め面取り部Wdを設けることも考えられる。かかる場合、円筒状ワークWを、図1に示す転造ダイスRD,RDを用いて通し転造加工を行ったとき、面取り部Wdが形成されているために、図2(b)に示すように、被加工部Waの端部は転造ダイスRD,RDが接触せず、塑性変形がなされないので、余肉部の形成が抑制される。しかしながら、面取り部Wdを形成する前加工が必要となるという問題がある。又、図2(c)に示すように、支持部Wbに軸受BRGを設けた場合、被加工部Waの端部と軸受BRGの内輪との接触部Aの面積が小さくなり、応力が高くなって、被加工部Waの端部又は軸受BRGの内輪の変形を招く恐れがある。これに対し、支持部Wbの外径φSを小さくすれば、被加工部Waの端部と軸受BRGの内輪との接触部Aの面積は増大するが、その分支持部Wbの強度が低下するという問題がある。
【0006】
一方、特許文献2に示すように、インフィード転造ダイスの形状を特殊なものとすることで、両端に切り上がりを形成したねじ軸を形成することができ、それにより端部の塑性変形量を抑えて余肉の形成を抑制することができる。しかしながら、特許文献2に示すダイスは製造が困難であり、ねじ軸のコストが増大するという問題がある。なお、切削加工や研削加工で、ボールねじ機構のねじ軸を形成することも考えられ、かかる加工によれば、ねじ溝の両端を切り上げるように加工することが任意であるため、端部の塑性変形量を抑えて余肉の形成を抑制することができる。しかしながら、切削加工や研削加工は時間がかかって生産効率が悪いという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、より低コストでボールねじ機構のねじ軸を製造できるねじ軸形成方法及びぞれにより形成されたねじ軸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のねじ軸形成方法は、ボールねじ機構のねじ軸の雄ねじ溝を形成するねじ軸形成方法において、
前記雄ねじ溝を形成するねじ加工部の外径は全長にわたって一様であり、且つ軸線方向端部の少なくとも一方における外径が外方に向かうにつれて縮径した形状を有するインフィード転造ダイスを、素材に対して軸線直角方向に相対移動することで転造を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のねじ軸形成方法によれば、前記雄ねじ溝を形成するねじ加工部の外径は全長にわたって一様であり、且つ軸線方向端部の少なくとも一方における外径が外方に向かうにつれて縮径した形状を有するインフィード転造ダイスを、素材に対して軸線直角方向に相対移動することで転造を行うので、前記インフィード転造ダイスにおける外径が一様なねじ加工部により、溝底が一様な雄ねじ溝を形成することができ、且つ軸線方向端部の少なくとも一方における外径が外方に向かうにつれて縮径しているので、素材に面取り等を予め加工することなく、被加工部の余肉を抑えることができる。
【0010】
更に、前記インフィード転造ダイスの軸線方向端部を、前記素材の被加工部の軸線方向端部に対応させて転造すると好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図3は、本実施の形態にかかるインフィード転造ダイスから形成されたねじ軸を用いたボールねじ機構の一例を示す断面図である。
【0012】
不図示のモータの回転軸に連結され且つ雄ねじ溝1aを有するねじ軸1を包囲するようにして、円筒状のナット2が配置されている。ナット2は、不図示のハウジングに対して回転のみ可能に支持されており、内周面に雌ねじ溝2aを形成している。複数のボール3が、対向する両ねじ溝1a、2a間に形成された螺旋状の転走路内を転動自在となるように配置されている。ナット2には、転走路の一端から他端へとボール3を戻すチューブ4が配置されている。ねじ軸1と、ナット2と、ボール3とでボールねじ機構を構成する。
【0013】
ボールねじ機構の動作を説明すると、不図示のモータによりねじ軸1が回転駆動されたとき、転走路を転動し且つチューブ4を介して転走路の一端から他端へと循環するボール3により、かかる回転運動がナット2の軸線方向運動に効率よく変換されるようになっている。
【0014】
次に、ねじ軸の加工態様について説明する。図4は、インフィード転造ダイス10を示す図である。本実施の形態のインフィード転造ダイス10は、図4に示すように、軸線方向の長さBを有する略円筒状であるが、その右端には、外径が外側に行くにつれて漸次減少する縮径部10aが形成されている。即ち縮径部10aの外形は、テーパ角θのテーパ状となっている。縮径部10aの長さは、インフィード転造ダイス10の全長Bの1/6〜1/5程度であると望ましい。インフィード転造ダイス10の外周には、雄ねじ溝1aと同じリードであり且つ対応する断面形状のねじ加工部10bが全周にわたって形成されている。
【0015】
図5は、本実施の形態のインフィード転造ダイス10を用いて、ワークWを転造加工する工程を示す図であるが、一対のインフィード転造ダイス10はそれぞれ半分のみが図示されている。図6(a)は、インフィード転造ダイス10により形成されたねじ軸1の側面図であり、図6(b)は、図6(a)のねじ軸の矢印VIB部を拡大して示す図である。ワークWは、外径φDである中央の被加工部Waと、外径φd(D>d)である両端の支持部Wbとを有しており、被加工部Waには面取りは形成されていない。
【0016】
まず、図5(a)に示すように、一対のインフィード転造ダイス10、10の間に、ワークWをセットする。このとき、縮径部10aの端部は、被加工部Waの端部と一致させることが望ましい。又、縮径部10aの形成されていない端部(左端)は、被加工部Waの端部より軸線方向外方に、例えば5mm程度はみ出していることが望ましい。
【0017】
更に、図5(b)に示すように、同じ方向に回転するインフィード転造ダイス10を軸線直角方向に互いに接近させると、それにより回転するワークWの表面の切り込みが始まるが、ワークWに対して軸線方向に相対移動させることなく、ワークWの被加工部Waを、インフィード転造ダイス10の外周により加工することができる。このとき、被加工部Waの外周には、ねじ加工部10bにより雄ねじ溝1aが形成される。所定寸法の雄ねじ溝1aが形成されるたとき、インフィード転造ダイス10,10をワークWより離隔させることで、図5(c)に示すように、転造加工が終了する。
【0018】
本実施の形態によれば、縮径部10aの外径は、軸線方向外方に向かうにつれて漸次減少しているので、図6に示すように、被加工部Waの対応する端部に向かうにつれて、その塑性変形量が減少し、その端部から軸線方向にはみ出す余肉部の形成が抑制されることとなるので、軸受BRGとの干渉を回避できるとともに、両者の接触面積を確保して応力低減を図れる。又、縮径部10aのねじ加工部10bにより、被加工部Waの両端に、外径との差が漸次減少する(即ち切り上がった)不完全ねじ部1cが形成されるので、組立後のねじ軸及びナットの脱落防止として利用できるので、別個に脱落防止治具等を設ける必要がなく、手間とコストを削減できる。又、雄ねじ溝1aの溝底径は一様である。なお、被加工部Waの端部外径は、その中央部の外径よりも大きくなるが、ナット2の内径より小さければ問題は生じない。
【0019】
図7は、変形例にかかるインフィード転造ダイス10’を、加工後のワークWと共に示す図である。本変形例のインフィード転造ダイス10’は、上述した実施の形態に対して、両端に縮径部10a、10aを形成しているので、同様な構成については同じ符号を付すことで説明を省略する。上述した実施の形態と同様に、同様のインフィード転造ダイス10’がワークWを挟んで一対設けられているが、図では片方のみ示している。
【0020】
本変形例においては、縮径部10a、10aの端部は、被加工部Waの両端と一致させて加工を行うことが望ましい。その場合には、インフィード転造ダイス10’の全長Bは、被加工部Waの全長bに等しくなる。図8に示すように、縮径部10a、10aを用いて加工を行うと、被加工部Waの両端は、端部に向かうにつれて、その塑性変形量が減少し、その端部から軸線方向にはみ出す余肉部の形成が抑制されることとなる。本変形例では、ワークWの被加工部Waの両端に不完全ねじ部1cが形成される。本変形例によれば、ワークWに対して適切なインフィード転造ダイス10の全長Bを設定することで、インフィード転造時のバランスが取れるため有効径のテーパ発生や曲りを抑制する効果がある。
【0021】
以上、本発明を実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定して解釈されるべきではなく、適宜変更・改良が可能であることはもちろんである。例えば、インフィード転造ダイスにおいて、第1の加工領域Xの加工ねじ部のねじピッチと、第2の加工領域Y、Yの加工ねじ部のねじピッチと異ならせても良い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1(a)は、比較例として示すインフィード転造ダイス及びワークを示す図である。図1(b)は、転造加工されたワークWの側面図である。図1(c)は、図1(b)のワークWの矢印IBで示す部位を拡大して示す図である。
【図2】図2(a)は、別なワークWの被加工部Waの端部拡大図である。図2(b)は、転造加工後における被加工部Waの端部拡大図である。図2(c)は、支持部Wbに軸受BRGを取り付けた状態で示す図である。
【図3】本実施の形態にかかるインフィード転造ダイスから形成されたねじ軸を用いたボールねじ機構の一例を示す断面図である。
【図4】インフィード転造ダイス10を示す図である。
【図5】本実施の形態のインフィード転造ダイス10を用いて、ワークWを転造加工する工程を示す図である。
【図6】図6(a)は、インフィード転造ダイス10により形成されたねじ軸1の側面図であり、図6(b)は、図6(a)のねじ軸の矢印VIB部を拡大して示す図である。
【図7】変形例にかかるインフィード転造ダイス10’を、加工後のワークWと共に示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 ねじ 軸
1a 雄ねじ溝
2 ナット
2a 雌ねじ溝
3 ボール
4 チューブ
10、10’ インフィード転造ダイス
10a 縮径部
10b ねじ加工部
W ワーク
Wa 被加工部
Wb 支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材に対して転造加工を施すことで、ボールねじ機構のねじ軸の雄ねじ溝を形成するねじ軸形成方法において、
前記雄ねじ溝を形成するねじ加工部の外径は全長にわたって一様であり、且つ軸線方向端部の少なくとも一方における外径が外方に向かうにつれて縮径した形状を有するインフィード転造ダイスを、素材に対して軸線直角方向に相対移動することで転造を行うことを特徴とするねじ軸形成方法。
【請求項2】
前記インフィード転造ダイスの軸線方向端部を、前記素材の被加工部の軸線方向端部に対応させて転造することを特徴とする請求項1に記載のねじ軸形成方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のねじ軸形成方法により転造加工されたことを特徴とするボールねじ機構のねじ軸。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−111740(P2007−111740A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305916(P2005−305916)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】