説明

はんだ合金およびこれを用いた接合体

【課題】 低温で酸化物材料と接合でき、優れた接合強度と気密性を有するSn−Bi−Mg系はんだ合金の特徴を維持しつつ、さらにはんだ合金の酸化により生じると思われる白濁化という経時変化をも抑制できる、新しいはんだ合金を提供する。
【解決手段】 本発明は、質量%で、Bi:30.0〜70.0%、Mg:0.01〜1.00%、Sb:0.05〜5.00%を含み、前記Mg/Sbの比が0.01〜0.40以下の関係を満たし、残部Snおよび不可避的不純物からなるはんだ合金である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばガラスやセラミックといった酸化物材料の接合に適用可能な低融点のはんだ合金およびこれを用いた接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス等の接合技術においては、接着およびシーリング(封止)に使用される手段として、鉛を使用したはんだ又は鉛ガラスフリットが主流であったが、環境問題により鉛の使用ができなくなってきている。また、「JISハンドブック(3)非鉄」に掲載されている各種のロウ材およびブレイジングシート等の一般のはんだ合金では、ガラスとはんだ合金の熱膨張係数の差によるガラスの収縮割れの問題や密着性の問題があった。
また、はんだ合金によるシーリングが必要な用途として、ペアガラス、真空容器またはガス封印容器等が存在し、これらの用途に適する無鉛合金はんだの開発が望まれていた。
そこで、本発明者らは、ガラス等の接合に用いる低融点の酸化物接合用はんだ合金として、Sn(スズ)とBi(ビスマス)を主成分としたものにMg(マグネシウム)を添加したはんだ合金を提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−101415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に開示されるSn−Bi−Mg系はんだ合金は、低い温度でガラスなどの酸化物材料と接合でき、優れた接合強度と気密性を有している。しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献1で提案したはんだ合金を水分の存在する大気中で長時間保持すると、はんだと被接合材との界面が白濁したように変色し、さらに接合界面にボイドが発生するという新たな問題を確認した。このようなはんだ合金の変化は、接合信頼性を劣化する恐れがある。
本発明の目的は、上記問題に鑑み、通常のはんだ合金との直接接合が困難なガラスやセラミックなどの酸化物材料とも接合可能なSn−Bi−Mg系はんだ合金の特性を維持しつつ、はんだ合金の経時変化を抑制できる、新しいはんだ合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、接合体を形成するはんだ合金の経時変化の問題を検討し、Sn−Bi−Mg系はんだ合金にSbを適量添加することで、はんだの経時変化を大きく改善できることを見出した。
【0006】
すなわち、質量%で、Bi:30.0〜70.0%、Mg:0.01〜1.00%、Sb:0.05〜5.00%を含み、前記Mg/Sbの比が0.01〜0.40以下の関係を満たし、残部Snおよび不可避的不純物からなることを特徴とするはんだ合金である。
また、前記Mg/Sbの比は、0.01〜0.30であることが好ましい。
また、本発明のはんだ合金は、質量%で、Bi:40.0〜60.0%であることが好ましい。
また、本発明のはんだ合金は、質量%で、Mg:0.10〜0.50%であることが好ましい。
また、本発明のはんだ合金は、質量%で、Sb:0.50〜4.00%であることが好ましい。
また、本発明のはんだ合金は、酸化物または酸化表面を有する部材を接合するのに適している。
また、本発明のはんだ合金により、酸化物または酸化表面を有する部材を強固に接合することができ、安価なはんだ接合体を提供することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のはんだ合金は、低い融点を有し、例えば熱的なダメージの軽減が必要な精密電子部品、ペアガラスやガラス容器等のシーリングに好適なものであり、さらにはんだ合金の経時変化を抑制し、接合信頼性を改善することができるため、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
上述したように、本発明の重要な特徴は、Sn−Bi−Mg系はんだ合金にSbを適量添加したはんだ合金を採用したことにある。
以下、本発明のはんだ合金の成分組成(質量%)を限定した理由について説明する。
【0009】
Bi:30.0〜70.0%
Biは、Snと同じく、はんだ合金の溶融温度の調整に作用する、本発明のはんだ合金を構成する基本元素である。Snに所定量Biを添加すると、共晶反応により融点を低下させることができる。本発明のはんだ合金では、液相線温度を200℃以下に抑えるために、Biの含有量を質量%で30〜70%とする。好ましくは40〜60%であり、より好ましくは、50〜60%である。
【0010】
Mg:0.01〜1.00%
Mgは、本発明のはんだ合金にとって必須元素であり、酸化物への接合をも可能とする元素である。本発明者らの検討では、所定量のMgを添加することにより、酸化物との濡れ性が劇的に向上し、ガラス等の酸化物との密着が可能となることを確認している。これは、Mgが酸素との親和性が高く、酸化物となる傾向が強いため、はんだ合金中のMgが接合対象となる酸化物と結合し、その結果、酸化物に対する濡れ性が向上するためと考えられる。
しかしながら、Mgが多すぎると、過度にドロスが発生し、ガラスなどの酸化物とはんだ合金の接合部にドロスが混入して接合信頼性が低下したり、はんだ中にドロスが含有されると、引張強度の低下を引き起こしたりすることが懸念される。そのため、本発明においてMgの含有量は、質量%で1.00%以下と規定した。また、Mgは、質量%で0.01%未満であると、酸化物材料と十分な接合強度が得られないため、0.01%以上必要である。好ましくは0.05〜0.60%、より好ましくは0.10〜0.50%である。
【0011】
Sb:0.05〜5.00%
Sbは、本発明のはんだ合金の経時変化を抑制するために最も重要な元素である。Sbを添加しないSn−Bi−Mg系はんだ合金中のMgは、Biとの金属間化合物であるMg−Bi系金属間化合物を形成する。このMg−Bi系金属間化合物は、Mg−Sb系金属間化合物と比較して酸化しやすく、接合部の白濁の要因となる。そのためMg−Bi系金属間化合物の析出を抑制する必要がある。そこで、本発明のはんだ合金は、Sn−Bi−Mg系はんだ合金に所定量のSbを添加することにより、積極的にMg−Sb系金属間化合物を析出させ、酸化しやすいMg−Bi系金属間化合物の析出を抑制することで、はんだ接合部の白濁の抑制効果を得ている。
Sbの含有量は、後述するようにMg量にも依存するが、少なすぎると白濁の抑制効果を十分に発揮できないため、0.05%以上必要である。さらに、経時変化の抑制効果を十分に得るためには、0.1%以上が好ましい。また、0.5%以上含有することがより好ましい。
一方、Sbの含有量の増加に伴い、はんだ合金の液相線が上昇する。さらに、多量のSb添加は、人体や環境への悪影響を及ぼす恐れもあるため、本発明では最大で5.00%以下とする。好ましくは4.00%以下であり、より好ましくは、3.00%以下である。
【0012】
Mg/Sb含有比率:0.01〜0.40以下
本発明のもう一つの重要な特徴は、はんだ合金中に含まれるMgとSbの含有比率を最適化したことである。以下その理由を詳しく説明する。
本発明のはんだ合金は、上述したSbをただ添加するだけでは、はんだ合金の白濁を十分に抑制することはできない。
はんだ合金中のMgの含有量が多すぎるまたは、Sbの含有量が少なすぎる場合においては、Mg−Bi系金属間化合物が、はんだ合金中に過度に析出してしまう。このような状態では、はんだ接合部の白濁を抑制することが難しくなる。
一方、Mgの含有量に対してSbの含有量が多すぎると、余剰となったSbがSnとの金属間化合物を形成し、その金属間化合物が粗大化することで、はんだ合金の機械的特性を低下することが懸念される。
したがって、本発明では、十分な白濁の抑制効果を得るために、はんだ合金中に含まれるMg/Sbの含有比率を0.01〜0.40以下とする。さらに長時間の経時変化の抑制を得るためには、0.05〜0.30以下であることが好ましく、より好ましくは、0.05〜0.20以下である。
【0013】
残部Snおよび不可避的不純物
Snは、Biと同じく、はんだ合金の溶融温度の調整に作用する、本発明のはんだ合金を構成する基本元素である。本発明のはんだ合金では、液相線温度を200℃以下に抑えるために、Snの含有量を、質量%で30〜70%とする。好ましくは、40〜60%であり、より好ましくは、50〜60%である。
また、不可避的不純物として、Fe、Co、Cr、VおよびMnは、はんだの濡れ性を阻害するため、これら元素の合計は、1質量%以下に規制することが好ましい。さらに好ましくは、合計で500質量ppm以下であることが望ましい。
また、GaおよびBは、ボイドの発生の原因となるため、これらの元素は、500質量ppm以下に規制することが好ましい。より好ましくは、100質量ppm以下であることが望ましい。
【0014】
本発明のはんだ合金は、ガラス等の酸化物の接合にのみ用いられるものではなく、酸化物−金属といった接合も可能である。例えば、各種ステンレス鋼、銅、Fe−Ni系合金やAlといった金属に対しても優れた接合能を有する。
また、本発明のはんだ合金は、酸化物材料を用いた接合部材に対して優れた接合強度と気密性を有する。例えば、Al(アルミナ)などのセラミックや、ソーダライム系などのガラスに対しては勿論のこと、これらに限らない酸化物に対しても優れた接合能を発揮できる。また、本発明のはんだ合金は、酸化物・窒化物表面に塗付することで、はんだ付けの下地処理の代替として用いることもできる。
【実施例】
【0015】
表1の組成になるように秤量した各元素を、Ar雰囲気中で高周波溶解を行い、その後鋳型へ流し込み、はんだ合金を作製した。なお、表1中に記載しない不可避的不純物であるFe、Co、Cr、VおよびMnは、合計で60ppmであり、ボイドの発生原因となるGaおよびBは、合計で0.3ppmであった。
そして、得られたはんだ合金は、以下に記する試験方法で評価した。また、本評価において、はんだ合金は、はんだ付けしやすいように直径3mmの線材と3mm角・長さ15mmの小片に加工して使用した。
【0016】
(評価試験1)
被接合材として、30mm角・厚さ3mmにカットしたホウケイ酸ガラス板(製品名TEMPAX)を用い、予めホットプレート上で165℃に加熱した。その後、はんだ合金をガラス板上に置き、295℃に加熱したはんだこて(黒田テクノ社製 超音波はんだ付け装置SUNBUNDER USM−III)に超音波振動を印加しながら、はんだ合金の厚みが100μmとなるようにガラス板一面に塗布して大気中で徐冷した。
そして、はんだ合金・ガラス板の接合界面の酸化により生じると思われるはんだ接合部の白濁の抑制効果を確認するために、加速環境試験として、85℃85RH%とした高温高湿試験機(楠本化成社製 HIFLEX TH401A)内で試験片を168時間放置した。
【0017】
加速環境試験後の試験片のはんだ接合部の白濁領域を評価した。はんだ接合部の白濁領域は、試験片のはんだ・ガラス板の接合界面をガラス側から観察し、30mm角のガラス板一面に対する白濁した面積を測定し、面積率で評価した。
表1に示すように、本発明例のはんだ接合部の白濁面積率は50%以下であるのに対して、比較例の白濁面積率は、すべて100%であった。これより、本発明のはんだ合金は、Mg/Sbの含有比率を0.18以下にすることで、はんだ接合部の白濁を抑制できることが確認できた。
【0018】
【表1】

【0019】
(評価試験2)
被接合材として、30mm角・厚さ3mmにカットしたホウケイ酸ガラス板(製品名TEMPAX)を用い、予めホットプレート上で165℃に加熱した。その後、表1の本発明例であるNo.5および比較例であるNo.12のはんだ合金をガラス板上に置き、295℃に加熱したはんだこて(黒田テクノ社製 超音波はんだ付け装置SUNBUNDER USM−III)に超音波振動を印加しながら、はんだ合金の厚みが100μmとなるようにガラス板一面に塗布して大気中で徐冷した。次に、室温まで冷却した試料のはんだ表面を5mm角の格子状の5×5のマス目になるようにカッターナイフで切れ目を入れ、ピール試験片を作製した。
そして、はんだの接合強度の経時変化を確認するために、加速環境試験として、85℃85RH%とした高温高湿試験機(楠本化成社製 HIFLEX TH401A)内で試験片を168時間放置した。
【0020】
加速環境試験前後の試験片のはんだ・ガラス板のピール試験を実施した。試験は、粘着テープ(ニチバン社製 CT−405AP−24)を試験片のはんだ側一面に貼り付け、3度の引き剥がし試験を行い、はんだの剥がれが生じた領域を数えた。なお、ピール試験は、5×5のマス目のうち、エッジ部分の影響を無視するために、中央部の3×3のマス目で評価した。
加速環境試験前では、評価対象の9マスの内、本発明例であるNo.5の剥離は2枚、比較例であるNo.12の剥離は0枚であり、それぞれ十分な接合強度を有していることが確認できた。
加速環境試験後では、本発明例であるNo.5の剥離は0枚、比較例であるNo.12の剥離は7枚であり、Sbを含有しない比較例は、経時変化により接合強度が低下していることを確認した。これより、本発明例のはんだ合金は、加速環境試験後においても十分な接合強度を有していることが確認できた。
【0021】
(評価試験3)
表1の、本発明例であるNo.8および比較例であるNo.16を用いて、50mm角・厚さ3mmのホウケイ酸ガラス板と、同じサイズで中心に直径3mmの穴を持つホウケイ酸ガラス板を2枚重ね、190℃に加熱した。その後、245℃に加熱したはんだこて(黒田テクノ社製 超音波はんだ付け装置SUNBUNDER USM−III)に超音波振動を印加しながら、ガラス板とガラス板の隙間から塗布幅が約3.0mmになるよう、はんだ合金を塗布した。この際、2枚のガラス板が0.4mm程度の隙間を有しておくように、2枚のガラス板の間には、厚さ0.4mmのステンレス箔をスペーサとして設置した。これにより、内部に770ccの空間を持つ気密封止試験片を作製した。
そして、作製した気密封止試験片は、Heリークディテクタ(日本真空技術(株)製HELIOT301)を用いて、試験片内を真空脱気しつつ、Heガスを各接合部へ吹き付けながら、そのリークレートを測定した。
また、はんだの経時変化による気密性の低下を確認するために、加速環境試験として、85℃85RH%とした高温高湿試験機(楠本化成社製 HIFLEX FH06C)内で試験片を168時間放置した気密封止試験片も同様に、Heリークディテクタでリークレートを測定した。
【0022】
加速環境試験前の気密封止試験片のリークレートは、本発明例であるNo.8が1.0×10−10Pa・m/s、比較例であるNo.16は8.8×10−11Pa・m/sという低い値が得られ、いずれも高い気密性を保つことが確認できた。
加速環境試験後の気密封止試験片は、リークレートが試験前とほぼ同等で、本発明例であるNo.8は1.2×10−10Pa・m/s、比較例であるNo.16は1.0×10−10Pa・m/sという低い値が得られ、いずれも高い気密性を保つことが確認できた。しかし、比較例であるNo.16の気密封止試験片の接合界面には、白濁が確認され、今回の試験時間以上の試験を続けるとリークが発生することが懸念される。一方、本発明例であるNo.8の気密封止試験片の接合界面には、殆ど白濁が確認されず、今回の試験時間以上の試験を続けても、比較例に比べるとリークは発生し難いと推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Bi:30.0〜70.0%、Mg:0.01〜1.00%、Sb:0.05〜5.00%を含み、前記Mg/Sbの比が0.01〜0.40以下の関係を満たし、残部Snおよび不可避的不純物からなることを特徴とするはんだ合金。
【請求項2】
前記Mg/Sbの比が0.05〜0.30であることを特徴とする請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項3】
質量%で、Bi:40.0〜60.0%であることを特徴とする請求項1または2に記載のはんだ合金。
【請求項4】
質量%で、Mg:0.10〜0.50%であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項5】
質量%で、Sb:0.50〜4.00%であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項6】
酸化物または酸化表面を有する部材を接合するものであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載のはんだ合金で酸化物または酸化表面を有する部材が接合されてなることを特徴とするはんだ接合体。

【公開番号】特開2011−230165(P2011−230165A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103169(P2010−103169)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】