説明

ひび割れを抑止した複合鋼床版

【課題】 鋼床版に溶接した主桁腹板などの補剛材の直上に発生する曲げひび割れの発生を抑止すると共に、主桁などの補剛部材の直上にひび割れが発生したときにも雨水が鋼床版の鋼製基板まで浸入しないようにするひび割れ抑止型鋼床版橋を提供する。
【解決手段】 主桁、横桁、横リブなどを含む補剛部材の腹板15を下面に溶接した鋼床版デッキ11の上面に接着剤でコンクリート舗装もしくはモルタル舗装でなる基層12を合成した複合鋼床版において、主桁などの補剛部材腹板の基層上面に繊維基材を芯にした繊維シート18を接着し防水膜を形成して、その上から表層14を舗装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基層としてモルタルあるいはコンクリートを舗装した複合鋼製床版において、主桁など補剛部材直上の負曲げ領域に発生しやすいひび割れの成長を抑止すると共にひび割れの影響を抑制するようにした、橋梁などに用いる複合鋼床版に関する。
【背景技術】
【0002】
高架道路や橋梁などに広く採用されている鋼床版橋の路面舗装は、通常、防水性の高いグースアスファルトなどで基層を形成し、その上に表層としてアスファルト層を形成することにより行っている。
従来の一般的な鋼床版は、鋼板製のデッキプレートに複数のUリブなどの補剛部材を溶接した構造を有し、このデッキプレートの上面に密度の高いグースアスファルトを舗装し、その上に透水性のある通常のアスファルトを舗装して表層とする。表層には、走行性の観点から排水性アスファルトや密粒度アスファルトを用いたアスファルト舗装が施される場合も多い。
【0003】
なお、近年、縦リブ間隔を拡大しデッキプレートを厚くすることにより、鋼床版製造工程を合理化する傾向にある。しかし、縦リブ間隔が広がると、輪荷重が縦リブの間に嵌り込んだときに局所変形による応力が大きくなって、鋼床版デッキプレートと縦リブの溶接部に疲労亀裂が発生しやすくなる。これを防止するためには、デッキプレートの板厚をさらに増加することが有効であるが、経済性に問題が残る。
【0004】
これに対して、鋼床版デッキプレートの疲労耐久性を向上させるため、基層を柔らかいグースアスファルトで形成する代わりに、剛性の高いコンクリート舗装あるいはモルタル舗装で基層を形成して、鋼床版と基層の複合体で剛性を向上させる複合鋼床版も採用されるようになってきた。
コンクリートと合成された複合鋼床版でも、輪荷重に起因する大きな曲げモーメントが繰り返し作用すると、コンクリートに多数のクラックが発生する。クラックの発生によりコンクリート層の剛性と強度が低下するため、鋼床版の剛性と強度も低下し、輪荷重による歪み量が増加したり、振動しやすくなるだけでなく、クラックを通って雨水が浸入して鋼板製のデッキプレートの腐食が進行し複合鋼床版としての耐久性が低下する問題がある。
【0005】
特許文献1には、クラックが発生しにくいゴムラテックスモルタル層を備えることにより、耐久性、防水性、防錆性に優れ、剛性を高めることができる複合鋼床版を開示している。開示された複合鋼床版は、鋼板製デッキプレートの下面に複数の補剛部材を溶接した鋼床版の上面にゴムラテックスモルタル層を打設したものである。ゴムラテックスモルタル層は、接着力に優れるためデッキプレートとの密着性も良く弾性もあるためクラックも発生しにくい。
しかし、ゴムラテックスモルタル層は、ひび割れが生じて鋼床版の耐久性を劣化させるおそれがある。
【0006】
特許文献2には、コンクリート舗装やモルタル舗装におけるひび割れを抑制し進行を阻止するため、炭素繊維などを使った繊維強化プラスチックスで形成した格子筋を基層中に挿入する工法が開示されている。
開示された工法によって、ひび割れが小さくなり、ひび割れや剥離が発生した場合でも飛散を防止する効果があるとされる。
【0007】
しかし、開示された鋼床版でも、輪荷重の載荷状態においては車両の走行方向と平行に設けられた主桁の直上部にひび割れが生じる。ひび割れを伝う雨水は防水工によっても止水できず、表層から鋼床版デッキプレートまで貫通するひび割れを伝って雨水が浸入し鋼床版が経年劣化することは避けられない。
また、開示工法は、薄い基層中に厚みのある格子筋を精度良く配置する必要があったり、フィニッシャーの振動により格子筋が移動するなど、施工性が悪いうえ、破壊したときに格子筋面で基層が分離する肌分かれが発生するなどの問題があった。
【特許文献1】特開2006−009353号公報
【特許文献2】特開2007−162417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、鋼床版の補剛部材、特に主桁腹板の直上に発生する曲げひび割れの発生を抑止する構成を提供することである。また、本発明が解決しようとする課題は、主桁などの直上にひび割れが発生したときにも、雨水が鋼床版デッキプレートまで浸入することを防止する構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の鋼床版は、主桁、横桁、横リブのいずれかを含む補剛部材の腹板を下面に溶接した鋼床版デッキプレートの上面にコンクリートもしくはモルタルを舗装してなる基層を合成した複合鋼床版において、補剛部材腹板の上方の基層上面に繊維基材を芯にした繊維シートを接着し、繊維シートの上に防水膜を形成した鋼床版である。鋼床版の上からアスファルトなどの表層を舗装して、ひび割れ抑止型鋼床版橋を構成する。
【0010】
本発明の鋼床版は、ひび割れを生じやすい補剛部材腹板の直上の基層と表層の間に繊維シートが介装されているため、コンクリートあるいはモルタル層にひび割れが生じても、ひび割れが進展することを防止する。また、ひび割れが生じても、繊維シートに施された防水膜が表層のひびを伝って浸入する雨水を阻むので雨水が基層に至ることを防止する。したがって、鋼床版デッキプレートの劣化を防止し鋼床版の耐久性が向上する。
【0011】
繊維基材は、ポリエステル、ナイロン、ポリビニルアルコール(商標名ビニロン)、アラミドなどの有機合成繊維、ガラス繊維や炭素繊維の無機繊維を用いて、織物、編物、不織布、組布、ネットなどに形成したものであることが好ましい。
特に、アラミド繊維あるいはガラス繊維の織物、不織布、ネットを用いたときに、ひび割れの進展に対する抑止性能が高く、鋼床版の耐久性が高くなることが分かっている。
【0012】
繊維シートは、熱、可視光や紫外線などの光、湿気などを加えることにより、硬化が促進される樹脂に繊維基材を埋め込んで構成するものであることが好ましい。また、繊維基材に硬化促進樹脂を塗布して構成するものであってもよい。
繊維シートは、予め樹脂の中に繊維基材を埋め込んだもので、樹脂が硬化しないように保護膜で包んで保護したプレプリグ状態で供給され、施工時に保護膜を除去して接着剤で基層に貼付し促進硬化させて形成するようにしたものであってもよい。
このようなプリプレグ繊維シートは、施工前には柔らかく施工面の凹凸に合わせて変形して密着し、適用後にランプや電熱器などで硬化させることにより基層面に固着させるので、現場における施工が容易で短時間にできるため、交通規制が必要な補修工事に用いる場合にも有利である。
【0013】
なお、繊維シートは、防水用アスファルトを介して基層上面に配置することもできる。たとえば、接着性の高いアスファルト系の塗膜防水材(たとえば、ニチレキ株式会社製商品名フレッシュコート)で繊維基材を包み込んで繊維シートとして防水膜を兼ねることもできる。
また、繊維基材を樹脂に包んで形成した未硬化の繊維シートを塗膜防水材で基層表面に固定することもできる。
【0014】
なお、実施工において施工する防水膜は、表層の滑り防止のため、溶剤型橋面舗装用接着剤(たとえば、ニチレキ株式会社製商品名カチコート)を塗布した上にアスファルト系塗膜防水材を塗布したアスファルト系防水工を施すことが好ましい。
表層のアスファルト舗装は、アスファルト系防水工を介して基層に接合するため、表層がタイヤの摩擦力で引きずられる場合にも、基層に粘着して剥離しない。
【0015】
なお、本発明の鋼床版橋は、主桁直上のひび割れに対して保護するばかりでなく、横桁や横リブの直上に発生するひび割れについても、ひびの進行を抑止し、ひび割れに雨水が浸入することを阻止することができることはいうまでもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、実施例を用いて本発明の複合鋼床版について詳細に説明する。図1は本実施例を用いたひび割れ抑止型鋼床版橋の一部切り欠き斜視図、図2はひび割れ抑止構造部分の施工状況の1例を表す斜視図、図3は施工部分の側面断面図、図4は繊維シートの施工方法を説明する一部側面断面図、図5は別の繊維シート施工方法を説明する一部側面断面図、図6は繊維シートの効果を確認する試験の結果を表す表である。
【0017】
本実施例は、高架式高速道路や橋梁部に使用される鋼床版橋10で、鋼床版デッキプレート11の上面に従来のグースアスファルトに代えてゴムラテックスを混入したモルタルを敷設して基層12を形成した床版を使用したものである。
【0018】
ゴムラテックス、はスチレンブタジエンゴムを主剤とするセメントモルタル混和用乳剤で、セメントペーストやモルタル混和時に水と混和して用いる接着増強剤である。
基層12のゴムラテックスモルタル層は、ゴムラテックスを混入したモルタルからなり、付着性能が高くデッキプレートと一体化することで複合板となりグースアスファルトに比べて鋼床版としての曲げ剛性が向上するので、鋼床版デッキプレートを増厚させることなく、低コストで高い疲労耐久性を持たせることができる。また、ゴムラテックスモルタルは防水性が高いので、鋼床版の腐食を抑制することができる。
【0019】
基層12の表面には、アスファルト系塗膜防止材で形成した防水膜13を塗布し、その上に表層14として透水性のよいアスファルト層を打設して、車両の走行性を向上させる。
鋼床版デッキプレート11には、主桁15、横桁16、横リブ17など、鋼床版の下面に溶接されて垂直方向の変形を防止する部材が当設されている。また、鋼床版デッキプレート12の剛性を高めるため、Uリブ19が添設されている。
車両が橋梁の張り出し部などを走行するときに、主桁などの補剛部材直上部分の基層表層に負曲げモーメントが働くため、ゴムラテックスルモルタル複合鋼床版橋であっても、ひび割れ30の発生を抑止することができない場合がある。
【0020】
本実施例の鋼床版を適用した鋼床版橋10は、ゴムラテックスモルタルの基層12上面の主桁などの直上領域にひび割れ防止用の繊維シート20を接着剤で貼着敷設したものである。
本実施例における鋼床版橋10は、鋼板製デッキプレート11の下面に、主桁15、横桁16、横リブ17などの部材を溶接した鋼製床版を用いて、この鋼製床版の上面に適当な厚さのゴムラテックスモルタル層を形成して基層12とする。さらに、主桁15、横桁16、横リブ17を溶接した位置の直上領域にこれを覆う大きさの繊維シート20を接着し、基層12の全面に溶剤型橋面舗装用接着剤(たとえば、ニチレキ株式会社製商品名カチコート)を塗布した上にアスファルト系塗膜防水材(たとえば、ニチレキ株式会社製商品名フレッシュコート)を塗布して防水膜13とし、その上に表層14を舗装する。
【0021】
繊維シート20は、繊維基材を樹脂母材で包んで、あるいは、繊維基材を促進硬化性樹脂で貼り付けることにより、シート状にしたもので、施工現場で形成することもできる。
繊維基材は、ここでは織物、編物、ネットをいい、アラミド繊維、炭素繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ガラス繊維などの織布やネットを、それぞれの特性に応じて選択して使用することができる。特に、ポリビニルアルコール繊維、アラミド繊維あるいはガラス繊維を用いたときに、ひび割れの進展に対する抑止性能が高く鋼床版の耐久性が高い。
【0022】
樹脂は、現場施工時間を短縮するために、熱、光、湿気などを与えると硬化促進する促進硬化性樹脂であることが好ましい。促進硬化性樹脂には、たとえば、熱で硬化する熱硬化型エポキシ系樹脂、紫外線や可視光線により硬化促進する光硬化型エポキシ系樹脂やアクリル系樹脂、湿気で硬化促進する水中硬化型エポキシ系樹脂などの接着剤がある。
なお、光促進硬化型樹脂を母材に使用する場合、樹脂を含浸した際に繊維基材が光を透過する必要があるため、透明性の劣る繊維を適用する場合にはネットとすることが好ましい。
【0023】
工事現場において繊維シート20を形成する場合は、図4に示すように、基層12表面の繊維シートを形成させる主桁腹板の直上位置に溶剤型橋面舗装用接着剤(例えばカチコート)などの接着剤24を塗布し、接着剤を塗布した部分に繊維基材21を敷き、さらに接着剤25を重ねて塗布して、接着剤を固化させる。
なお、各種の促進硬化性樹脂を用いて基層12表面に繊維基材を貼り付けることにより繊維シート20を形成してもよい。
また、接着性の高いアスファルト系の塗膜防水材で繊維基材を包み込んで防水膜を兼ねた繊維シート20とすることもできる。
【0024】
なお、光促進硬化型樹脂を接着剤として利用すると、現場でメタルハライドランプやブラックライトなど適合する光を照射することにより硬化促進して高速硬化するので、施工時間の短縮に効果がある。
繊維シート20が形成された後で、繊維シート20の部分を含む基層12全面に防水工を施して、上に表層を舗装して鋼床版橋を完成させる。
【0025】
繊維シート20は、図5に示すように、予め工場で現場施工しやすいプリプレグシート23の形態に形成することもできる。プリプレグシート23は、促進硬化性樹脂22で繊維基材21を包んでシート状にし、現場で剥がせる保護膜(図示しない)を表面に貼り付けたもので、現場に搬入するまで硬化せず、現場で保護膜を剥がし基層12の表面に当てて均して、光照射など所定の処理を行うと硬化するものであることが好ましい。
【0026】
促進硬化性樹脂22を使ったプリプレグシート23は、現場の目的位置に接着剤で固定するまで柔らかく、変形して対象形状に適合するが、メタルハライドランプ26やブラックライトなどを使って必要な光を照射することにより急速に硬化する。したがって、繊維シート20の品質が一定するうえ、施工も簡単になり施工時間も短くなるので、施工管理が容易になる。
なお、接着剤24もプリプレグシートの母材と同じ硬化促進機構を有する促進硬化型樹脂にすると、繊維シート20と基層12の接合と繊維シート20の硬化を同じプロセスで一挙に実施することができ、施工時間の短縮に効果がある。
【0027】
図6は、繊維シートの効果を確認する試験の結果を表す表である。
試験は、繊維シート材料および工法についてひび割れ抑止効果を評価したもので、図6の表は従来方法と比較した結果を示している。ここで、すだれ基材とは、繊維を1方向に引き揃え、引き揃えた繊維をタテ編み、絡み織、接着用不織布などで目止めした基材をいう。なお、ここでは目止めの方法を限定していない。
【0028】
試験で用いた試料は、1辺500mmの正方形をした厚さ15mmの鉄板の上に45mm厚のゴムラテックスモルタル層を形成した複合鋼床版サンプルを用意し、そのゴムラテックスモルタル層表面に各種の繊維シート補強材を貼付して作成した物である。表層モルタルがない状態で試験した。
試験では、試料の鉄板面側から荷重を載荷して負曲げ応力によりゴムラテックスモルタル層に発生するひび割れ状態を観察した。
【0029】
図6の表は、繊維シート補強材として選択した繊維基材の材質と形態について、光硬化型樹脂中に繊維基材を埋め込んでシート状にしたプリプレグシートを使い基層に接着剤で接合してメタルハライドランプを照射して硬化させる方法と、繊維基材を溶剤型橋面舗装用接着剤(ニチレキ株式会社製カチコート)で基層に固定しアスファルト系塗膜防水材(ニチレキ株式会社製フレッシュコート)で防水膜を形成する防水工を施工する方法のいずれかを選んだときについて、負曲げ荷重で発生するひび割れ状態、などの補強材性能を示す。
【0030】
プリプレグシートと防水工の欄は、採用の有無を○×で表し、実験結果の欄では、補強材の耐熱性、ひび割れ、防水性能について、また、総合的な性能を評価した一般的評価の欄では、耐久性、施工性、経済性について、劣る×、中間△、優れる○で表している。なお、ひび割れ状態を示す欄において、○がひび割れを分散して小さな幅で複数のひび割れが生じること(分散型)を表すのに対して、◎は1本の小幅のひび割れが生じること(拘束型)を示す。
なお、比較のため、補強材を添設しない場合(繊維基材を使用しない)と、炭素繊維補強樹脂の格子筋をゴムラテックスモルタル層中に埋め込んだ試料(繊維基材はCFRP格子筋)について、同じ評価を行った結果を表記してある。
【0031】
この試験結果から、ポリビニルアルコール繊維(商品名ビニロン)、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ガラス繊維など、採用した繊維基材について、補強材を添設しない場合と比べると、ひび割れが小さくなり、防水性能が向上して、耐久性も向上することが分かる。ただし、ポリビニルアルコールやポリエステルは耐熱性が十分でないため、防水工で180℃から200℃の溶融アスファルトを掛けるときの熱で弱化して、大きなひび割れが生じる場合がある。特に、ビニロンネットとポリエステルラッセル編みを防水工で接合する場合に補強材の劣化が見られた。
【0032】
また、公知のCFRP格子筋をゴムラテックスモルタル層中に埋め込んだ試料では、ひび割れも小さく耐熱性もよいが、格子筋表面で剥離が生じやすく防水性能が低下し、耐久性も十分でない上、現場施工時に高度な施工精度を要することから施工性が悪く経済性に劣る。したがって、この公知技術と比較すると、繊維シートを利用する補強材では、耐久性、施工性、経済性において優れることが明確になった。また、特にアラミドネットプリプレグシート、ガラスすだれプリプレグシートを採用した場合は、ひび割れ状態もCFRP格子筋より優れていることが分かった。
【0033】
上記のように、主桁、横桁、横リブなどを下面に溶接したデッキプレートの上面にゴムラテックスモルタル層を形成した複合鋼床版橋において、車両荷重が載荷されるときに主桁などの直上部分に負曲げ応力が発生する。
本発明のひび割れ抑止型鋼床版橋は、繊維シートがこの負曲げ応力を拡散緩和して、主桁等の直上部分に生じるひび割れの発生を抑制し、また、ひび割れを起こしたときにもひび割れ幅の拡大に対する抵抗となるので、ひび割れの発生と拡大を抑制する効果がある。
【0034】
さらに、ひび割れが発生してもひび割れ部分が繊維シートで覆われ、シートの下面や表面に施された防水膜、あるいは繊維シートを構成する樹脂層が破損されずに残るので、ひび割れを伝って浸入する雨水が基層部分に浸透するのを防ぎ、鋼床版デッキプレートの腐食を防止することができる。
したがって、鋼床版橋の耐久性を向上させることができる。
【0035】
また、基層が破壊されたときにも、繊維シートが破砕片の飛散を防止するので、鋼床版橋の経年劣化の進行を抑えることができる。
なお、本実施例の構成は、供用中の既設鋼床版橋に施工して増強するためにも利用できる。この場合、施工が比較的容易で迅速に完了することができるため、交通規制を必要とする時間が短くて利用しやすい利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る鋼床版の1実施例を用いたひび割れ抑止型鋼床版橋の一部切り欠き斜視図である。
【図2】本実施例におけるひび割れ抑止構造部分の施工状況の1例を表す斜視図である。
【図3】本実施例におけるひび割れ抑止構造の施工部分の側面断面図である。
【図4】本実施例における繊維シートの施工方法を説明する一部側面断面図である。
【図5】本実施例における別の繊維シート施工方法を説明する一部側面断面図である。
【図6】本実施例における繊維シート材料および工法についてひび割れ抑止効果を評価した表である。
【符号の説明】
【0037】
10 鋼床版橋
11 鋼床版デッキプレート
12 基層
13 防水膜
14 表層
15 主桁
16 横桁
17 横リブ
19 Uリブ
20 繊維シート
21 繊維基材
22 促進硬化性樹脂
23 プリプレグシート
24 接着剤
25 接着剤
26 メタルハライドランプ
30 ひび割れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主桁、横桁、横リブのいずれかを含む補剛部材の腹板を下面に溶接した鋼床版デッキプレートの上面にコンクリートもしくはモルタルを舗装してなる基層を合成した複合鋼床版において、該補剛部材の腹板の上方に繊維基材を有する繊維シートを接着して、該繊維シートの上に防水膜を形成したことを特徴とする複合鋼床版。
【請求項2】
前記繊維基材は、合成繊維、炭素繊維、ガラス繊維のいずれかを含む繊維の織物、編物、不織布、組布、ネットのいずれかであることを特徴とする請求項1記載の複合鋼床版。
【請求項3】
前記繊維シートは光、熱、湿気のいずれかにより硬化が促進される樹脂と前記繊維基材とを含んでなるものであることを特徴とする請求項1又は2記載の複合鋼床版。
【請求項4】
前記繊維シートは硬化しないように保護膜を設けた状態で供給し、施工時に保護膜を除去して接着剤で前記基層に貼付し硬化させて形成したものであることを特徴とする請求項3記載の複合鋼床版。
【請求項5】
前記繊維シートは、アスファルト系塗膜防水材を用いて基層上面に接着したものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の複合鋼床版。
【請求項6】
前記表層は、前記繊維シートを貼付した基層の表面に溶剤型橋面舗装用接着材の上にアスファルト系塗膜防水材が形成されたアスファルト系防水工を介してアスファルトを舗装したものであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の複合鋼床版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−185492(P2009−185492A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25529(P2008−25529)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【出願人】(592182698)株式会社竹中道路 (14)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【出願人】(505389695)首都高速道路株式会社 (47)
【Fターム(参考)】