説明

めっき付きプラスチック部品の処理方法

【課題】めっき付きプラスチック部品を粉砕することなく、プラスチック部材と金属めっきに分離可能であり、しかも純度と歩留りを向上でき、資源の有効利用を図ることが可能なめっき付きプラスチック部品の処理方法を提供する。
【解決手段】プラスチック部材10の表面に金属めっき11が形成されためっき付きプラスチック部品12の処理方法において、金属めっき11を、プラスチック部材10を溶融又は熱分解させることなく急速加熱し、プラスチック部材10と金属めっき11との熱膨張差により、プラスチック部材10の表面から金属めっき11の部分又は全部を剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき付きプラスチック部品(プラスチック部材の表面に金属めっきが施されためっき付きプラスチック部品のみならず、この金属めっきの表面に更に塗料の膜が形成された塗膜付きめっきプラスチック部品も含む)を効率よく処理する方法に係り、更に詳細には、プラスチック部材とその表面に施された金属めっきを効率よく分離するめっき付きプラスチック部品の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や家電製品等には、種々の形状に成形されたプラスチック部材の表面に金属めっきを施した部品や製品(即ち、めっき付きプラスチック部品ともいう)が、多く使用されている(例えば、特許文献1、2参照)。なお、使用後は、このめっき付きプラスチック部品を、埋立てや焼却により処分したり、また高炉等で溶解やガス化により処理(サーマルリサイクル等)していた。
しかし、めっき付きプラスチック部品を、埋立て処分や焼却処分する場合、資源であるプラスチック部材を廃棄することになるため、資源の有効利用が図れなかった。そこで、めっき付きプラスチック部品を粉砕した後、例えば、比重差(水等の液体)を用いた浮沈分離や、風力分離、磁力選別、また色を確認して分離、等の種々の方法を利用して、プラスチック部材と金属めっきを分離していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−200687号公報
【特許文献2】特開2005−336614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した各分離方法は、めっき付きプラスチック部品を事前に粉砕処理する必要があるため、プラスチック部材と金属めっきとの分離効率が悪く(純度は高くても99.9%程度)、またその歩留りも悪かった(約70%程度)。更に、めっき付きプラスチック部品の粉砕処理にコストがかかり、不経済であった。
なお、金属めっきの表面に、更に塗装(塗膜)が施されている場合には、溶剤を使用して塗装を溶解除去する場合もあり、溶剤によりプラスチック部材が損傷して、品質が低下する恐れもあった。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、めっき付きプラスチック部品を粉砕することなく、プラスチック部材と金属めっきに分離可能であり、しかも純度と歩留りを向上でき、資源の有効利用を図ることが可能なめっき付きプラスチック部品の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係るめっき付きプラスチック部品の処理方法は、プラスチック部材の表面に金属めっきが形成されためっき付きプラスチック部品の処理方法において、
前記金属めっきを、前記プラスチック部材を溶融又は熱分解させることなく急速加熱し、前記プラスチック部材と前記金属めっきとの熱膨張差により、前記プラスチック部材の表面から前記金属めっきの部分又は全部を剥離する。
【0007】
本発明に係るめっき付きプラスチック部品の処理方法において、前記プラスチック部材の裏面側を冷却することが好ましい。
【0008】
本発明に係るめっき付きプラスチック部品の処理方法において、前記金属めっきの加熱処理は、温度が300℃以上の雰囲気下で行うのがよい。
ここで、前記金属めっきの加熱処理は、該金属めっきの表面に熱風を吹き付けて行うことができる。
また、前記金属めっきの加熱処理は、加熱炉内を通過させて行うことができる。
そして、前記金属めっきの加熱処理は、過熱水蒸気により行うことができる。
【0009】
本発明に係るめっき付きプラスチック部品の処理方法において、前記金属めっきの加熱処理は、電磁誘導加熱により行うこともできる。
【0010】
本発明に係るめっき付きプラスチック部品の処理方法において、前記金属めっきの表面には、更に塗料の膜が形成されていてもよい。
【0011】
本発明に係るめっき付きプラスチック部品の処理方法において、前記金属めっきの加熱処理後に該金属めっきを塩化第二鉄液で溶解処理して、該塩化第二鉄液の廃液からめっき金属を回収することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るめっき付きプラスチック部品の処理方法は、金属めっきを、プラスチック部材を溶融又は熱分解させることなく急速加熱するので、プラスチック部材と金属めっきとの熱膨張差により、プラスチック部材の表面から金属めっきの部分又は全部を剥離することができる。従って、めっき付きプラスチック部品を粉砕することなく、プラスチック部材と金属めっきに分離できるので、それぞれの回収率を100%に極めて近づけることができ、しかも不純物の混入も少ないため、その純度を100%に近づけることができる。また、めっき付きプラスチック部品は、大きなサイズ(例えば、破砕することなくそのままの状態)でプラスチック部材と金属めっきに分離可能であるため、粉砕処理に要するコストも不要になる。
以上のことから、高純度のプラスチック部材と金属めっきを高回収率で得ることができるため、再利用でき、資源の有効利用が図れる。
【0013】
また、プラスチック部材の裏面側を冷却する場合、金属めっきの急速加熱に伴うプラスチック部材の温度上昇を抑制できるため、熱膨張差を用いた分離の効果が高められると共に、プラスチック部材の溶融に伴う金属めっきとの接着も抑制、更には防止できる。
【0014】
そして、金属めっきの加熱処理を、温度が300℃以上の雰囲気下で行う場合、金属めっきを瞬時に温度上昇させることができ、その結果、プラスチック部材と金属めっきとの間に、瞬時に歪みを発生させることができる。
ここで、金属めっきの表面に熱風を吹き付ける場合、簡単な構成で加熱処理ができる。
また、加熱炉内を通過させる場合、めっき付きプラスチック部品を連続的に加熱処理できるので、大量処理が可能になる。
そして、過熱水蒸気により行う場合、簡単な構成で加熱処理ができる。
【0015】
また、金属めっきの加熱処理を、電磁誘導加熱により行う場合、金属めっきのみが加熱されるため、プラスチック部材と金属めっきとの分離精度を更に向上できる。
そして、金属めっきの表面に、更に塗料の膜が形成される場合、この膜を剥がすことなく、プラスチック部材の表面から金属めっきを剥離して、プラスチック部材を回収できるので、例えば、溶剤を使用して膜を溶解除去する必要がなく、良好な品質のプラスチック部材を回収できる。
更に、金属めっきの加熱処理後に金属めっきを塩化第二鉄液で溶解処理して、塩化第二鉄液の廃液からめっき金属を回収する場合、めっき金属を容易に回収できる。これにより、金属めっきの表面に、更に塗膜(塗料の膜)が施されている場合は、この塗膜も回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係るめっき付きプラスチック部品の処理方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るめっき付きプラスチック部品の処理方法は、プラスチック部材10の表面に金属めっき11が形成されためっき付きプラスチック部品12の処理方法であり、金属めっき11を、プラスチック部材10を溶融又は熱分解させることなく急速加熱し、プラスチック部材10と金属めっき11との熱膨張差により、プラスチック部材10の表面から金属めっき11の部分(一部)又は全部を剥離する方法である。以下、詳しく説明する。
【0018】
加熱処理するめっき付きプラスチック部品12は、例えば、自動車や家電製品等に使用した使用済みの部品や製品であるが、部品や製品の製造過程で発生する不良品(例えば、検査不合格品等)や残材でもよい。
このめっき付きプラスチック部品12のプラスチック部材10は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂で構成されたものがあり、具体的には、(1)エンジニアリングプラスチック又はスーパーエンジニアリングプラスチック、(2)ポリオレフィン樹脂(類)、(3)これらのプラスチックのポリマーアロイ物又はポリマーブレンド物、等で構成されたものがある。なお、これら(1)〜(3)のいずれか1又は2以上で構成されたものでもよい。
【0019】
上記した(1)エンジニアリングプラスチック又はスーパーエンジニアリングプラスチックには、(a)ナイロン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、(b)ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、(c)ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、液晶ポリマー、等がある。
また、(2)ポリオレフィン樹脂(類)には、(a)ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、(b)アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、(c)アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、メチルメタクリレートブタジエンスチレン共重合樹脂(MBS樹脂)、等がある。
【0020】
上記したプラスチックのうち特に好ましいのは、ゴム含有のスチレン系樹脂、例えば上記したポリスチレンを用いたゴム強化ポリスチレン(HI樹脂)、ABS樹脂、MBS樹脂、等であり、とりわけ、ABS樹脂が有利である。この理由は、金属めっきが容易であり、成形加工性がよく、適度な物性を有した安価な汎用樹脂として多岐にわたって使用(例えば、自動車部品や家電製品の部品、又はパチンコやスロットルマシーン等の趣味娯楽関係の製品)され、まとめて収集され易いためである。
なお、プラスチックへの金属めっき処理の目的は、プラスチックが元来有していない金属の硬度、光沢、熱伝導性、高級感等を得ることにあり、自動車への利用では、例えば、ヘッドライトハウジング、ドアハンドル、グリル、ホイルキャップ、エンブレム等がある。
【0021】
このプラスチック部材10の表面には、単一金属、二種以上の金属、又は合金の金属成分で構成される金属めっき11が、例えば、0.1μm〜200μm程度の厚みで施されている。
ここで、単一又は二種以上の金属には、例えば、銅、ニッケル、クロム、錫、鉛、ルテニウム、アルミニウム、又はインジウムがある。なお、二種以上の金属とは、例えば、銅の無電解めっきを行った上に、更にニッケルを電気めっきする場合のように、二種以上の金属を複数層に積層してめっきした場合の金属が含まれる。
また、合金には、例えば、銅、ニッケル、クロム、錫、鉛、又はルテニウムを主体とした(例えば、80質量%以上、更には90質量%以上含む)合金がある。
これら金属めっき11は、従来公知の電気めっきと無電解めっきのいずれの方法を用いて形成されたものでもよく、まためっき浴を使用しないCVD(化学蒸着)やPVD(物理蒸着)等を用いて形成されたものでもよい。
【0022】
以上に示したように、加熱処理するめっき付きプラスチック部品12は、プラスチック部材10の表面に金属めっき11が施されたものであるが、この金属めっき11の表面に、更に塗料の膜(以下、塗膜ともいう)13が形成された塗膜付きめっきプラスチック部品でもよい。
この塗膜13は、金属めっき11の表面に、例えば、100μm以下程度の厚みで形成されている。ここで、塗膜13には、塗装(例えば、白色、黒色、メタリック等)による膜や、金属めっき11の表面に貼付されたフィルム等がある。
【0023】
以上に示したプラスチック部材10の表面から、金属めっき11を剥離する方法について説明する。
まず、めっき付きプラスチック部品12を洗浄処理して、金属めっき11の表面に付着したごみや汚れを除去する。なお、めっき付きプラスチック部品12は、そのままの状態で洗浄処理することが好ましいが、例えば、従来公知の破砕機を使用して、一辺が10cm程度の大きさとなるように破砕処理(粗破砕)してもよい。
次に、上記しためっき付きプラスチック部品12を、金属めっき11の表面側(プラスチック部材10とは反対側であり、塗膜13がある場合は塗膜13の表面側)から急速加熱する。
このめっき付きプラスチック部品12を構成するプラスチック部材10と金属めっき11の界面は、物理的な接着であり、接着強度は弱い。
【0024】
また、めっき付きプラスチック部品12を構成する金属めっき11の熱膨張率(熱膨張係数、線膨張率、又は線膨張係数ともいう)は、急速加熱されないプラスチック部材10と比べて、例えば、数十/℃〜数百/℃程度と、大きい。例えば、金属めっきによく使用される銅は16.8×10−6/℃、ニッケルは12.8×10−6/℃、クロムは6.8×10−6/℃である。なお、プラスチック部材によく使用されるABS樹脂の熱膨張率は60〜130×10−6/℃である。
従って、金属めっき11の表面を急速に加熱することで、金属めっき11を急激に膨張させ、金属めっき11とプラスチック部材10の接着界面に、プラスチック部材10と金属めっき11の熱膨張差に伴う寸法変化による歪みを発生させ、この応力で、両者を部分的又は全体的に、瞬時に効率よく剥離できる。
【0025】
この急速加熱は、プラスチック部材が熱可塑性樹脂で構成されていれば、プラスチック部材を溶融させることなく、またプラスチック部材が熱硬化性樹脂で構成されていれば、プラスチック部材を熱分解させることなく行う必要がある。即ち、プラスチック部材の表面温度(金属めっきの付着面側の温度)が、このプラスチック部材の溶融温度未満又は熱分解温度未満となるように、瞬間的に急速加熱する必要がある。
具体的には、金属めっき11の加熱処理を、温度が300℃以上(好ましくは、400℃以上)の雰囲気下で行う(必ずしも、金属めっき11の表面温度が300℃以上になる必要はない)。この加熱処理は、プラスチック部材の溶融又は熱分解が発生しないように短時間で行う必要があり、例えば、1分以内で処理するのが好ましく、更に好ましくは30秒以内、最も好ましくは10秒以内で行う。
【0026】
一方、上記した雰囲気温度の上限値は設定していないが、プラスチック部材の溶融や熱分解を抑制、更には防止するには、700℃(好ましくは、650℃)程度である。
なお、雰囲気温度を高く設定した場合は、プラスチック部材10の溶融や熱分解を抑制、更には防止するため、加熱処理時間を短くする必要がある(例えば、雰囲気温度が600℃の場合、加熱処理時間は1〜3秒程度である)。
また、上記した加熱処理の際の温度と時間は、プラスチック部材と金属めっきの種類に応じて、適宜変更するのがよい。
【0027】
これにより、プラスチック部材の溶融又は熱分解を防止し、例えば、プラスチック部材から剥離した金属めっきのプラスチック部材への再接着を防ぐことができる。
特に、金属めっきは熱伝導性がよいため、プラスチック部材に熱が伝わりその表面温度が上昇し易いので、この点に注意が必要である。従って、プラスチック部材が溶融又は熱分解しないように、場合によっては、プラスチック部材の裏面側(金属めっきの付着面とは反対側)を、水や冷風等で冷却してもよい。
【0028】
上記した加熱処理には、例えば、以下に示す方法がある。
1)金属めっき11の表面に、温度が300℃以上の熱風を吹き付ける。
2)金属めっき11の表面に、温度が300℃以上の過熱水蒸気を吹き付ける。
3)雰囲気温度を300℃以上に調整したトンネル炉等の加熱炉内に、めっき付きプラスチック部品を通過させる。
4)インダクションヒータを用いた電磁誘導加熱により金属めっきを発熱させる。
なお、上記した3)の加熱炉内に、熱風又は過熱水蒸気の吹き付けノズルを複数設け、めっき付きプラスチック部品の加熱処理を行うこともできる。また、加熱炉は、プラスチック部材の酸化を防ぐため、炉内に不活性ガスを充満させたり、また真空加熱炉を使用することもできる。更に、加熱炉は、横型又は縦型でもよい。
【0029】
この急速加熱による加熱処理は、少なくとも1回行えばよいが、この加熱処理を行っためっき付きプラスチック部品を冷却して、再度急速加熱による加熱処理(同じ条件でも異なる条件でもよい)を行うサイクルを、1回又は2回以上の複数回(例えば、5回以下)繰り返すことで、金属めっきの剥離効果が更に高められる。
なお、上記した加熱処理は、金属めっきの表面に、更に塗料の膜(厚みが、例えば、100μm以下程度)が形成されためっき付きプラスチック部品についても適用できる。
【0030】
この場合、膜に含まれるプラスチック成分の熱伝導性が悪いため、プラスチック部材(例えば、ABS樹脂)の表面についた金属めっきの表面温度が上がりにくい。従って、膜が形成されためっき付きプラスチック部品は、膜が形成されていないめっき付きプラスチック部品よりも、処理時間を長くできるため、プラスチック部材からの金属めっきの剥離効率も良好にできる。
以上の方法により、金属めっき11に歪みを与えて、図1に示すように、プラスチック部材10の表面から金属めっき11の一部又は全部を、剥離させることができる。
【0031】
更に、前記した金属めっき11の一部又は全部を剥離させためっき付きプラスチック部品12を、塩化第二鉄液、又は塩酸が添加された塩化第二鉄液に浸漬して、この塩化第二鉄液に金属めっき11を溶解させることが好ましい。これにより、例えば、銅、ニッケル、クロムの分離回収が可能になる。なお、金属めっき11を溶かす液には、塩化第二鉄以外の他のハロゲン化第二鉄を含む液を使用することも可能である。
上記したように、めっき付きプラスチック部品12は、金属めっき11の表面側から急速加熱されているので、この加熱により、金属めっき11の溶解速度も速くできる。
【0032】
ここで、金属めっきを塩化第二鉄液に溶解させるに際しては、加熱処理しためっき付きプラスチック部品を塩化第二鉄液中に浸漬(例えば、1〜15時間程度)させ、図1中の矢印に示すように、金属めっきとプラスチック部材との間に液を浸透させることが好ましいが、例えば、金属めっきに、塩化第二鉄液を連続的に噴霧したり、連続的に接触(液を垂らす又は液を流す)させてもよい。また、金属めっきの表面に、塗料の膜が形成されている場合は、この膜に対して予め傷をつけ(孔をあけ)、プラスチック部材と金属めっきとの間に、塩化第二鉄液が浸入するようにすることが好ましい。
【0033】
使用する塩化第二鉄液中の塩化第二鉄(FeCl)の濃度は、概ね10質量%以上(望ましくは30質量%以上)でよいが、経済性を考慮すれば、60質量%以下(好ましくは55質量%以下)である。なお、塩化第二鉄を溶解させるに際しては、この液を加熱してもよい。また、塩化第二鉄液中に、更に塩酸(HCl)を添加する場合は、塩酸の濃度を、5質量%以上20質量%以下とする。
上記した塩化第二鉄液と、塩酸が添加された塩化第二鉄液には、新たに製造した新液(再生液を含む)と、新液を使用した後の廃液(例えば、塩化銅や塩化ニッケルが溶存している液、更には塩化第一鉄が存在している液)のいずれも使用できる。
【0034】
これにより、金属めっき11中の各種金属は塩化物を形成し、塩化第二鉄液に溶解するので、この塩化第二鉄液の廃液からめっき金属(金属成分)を回収できる。
この方法としては、従来公知の方法を使用でき、例えば、金属めっきの金属成分が、銅とニッケルを含んでいる場合には、特開平6−127946号公報に記載の方法を使用できる。また、錫、インジウム等も、同様の方法を使用できる。なお、クロムとアルミニウムは、水酸化物として回収される。
【0035】
このように、金属めっき11を塩化第二鉄液に溶解させることで、金属めっき11の付着がないプラスチック部材10が得られる。また、金属めっき11を塩化第二鉄液に溶解させることで、金属めっき11と塗膜13も分離して、塗膜13の成分も回収できる。
なお、得られたプラスチック部材は、その後、弱酸にて洗浄を行い、水洗いも行う。
また、プラスチック部材に形成されているめっき層の一部が酸化される等して、表面に金属化合物が形成されている場合には、上記した塩化第二鉄液での処理を行う前に、金属めっきを急速加熱しためっき付きプラスチック部品を、塩酸で処理して金属めっき層の表面の金属化合物を除去する。
【0036】
この塩酸液には、10〜35質量%(更に好ましくは、15〜35質量%)の塩酸を含む液を使用するのがよいが、更に濃度が高い場合であっても本発明は適用できる。なお、塩酸の代わりに硫酸や硝酸を使用することもできるが、塩酸の方が後処理が容易である。
この場合の塩酸による酸洗時間は、常温で4〜10分程度が好ましいが、濃度によって異なる。
そして、洗浄(酸洗)処理しためっき付きプラスチック部品を、塩化第二鉄液、又は塩酸が添加された塩化第二鉄液に、例えば、8〜30分程度浸漬し、この塩化第二鉄液に金属めっきを溶解させる。なお、塩化第二鉄液は、連続的に噴霧したり、連続的に接触(液を垂らす又は液を流す)させてもよい。
【0037】
以上の方法により、めっき付きプラスチック部品12を粉砕することなく、プラスチック部材10と金属めっき11に分離でき、しかも純度と歩留りを向上でき、資源の有効利用が図れる。
得られたプラスチック部材10は、例えば、1〜10mmの適当な大きさに粉砕して分別し、そのまま原料として使用したり、またバージン材料(未使用材料)に適量混ぜて使用したり、更に加熱し溶融してペレットとすることができる。
【実施例】
【0038】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、めっき付きプラスチック部品として、ABS樹脂製のプラスチック部材の表面に、無電解のニッケルめっき、電解銅めっき、電解ニッケルめっき、及び電解クロムめっきの金属めっきが順次形成された(合計厚み100μm程度)製品を処理した。
【0039】
(第1の実施例)
処理するめっき付きプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に白色塗料(塗膜)が形成されている。このめっき付きプラスチック部品の表面に、450℃の熱風を3秒間吹き付けて急速加熱したところ、塗膜付きの金属めっき層が、プラスチック部材の表面から剥離した。そして、これを冷却した後、再度450℃の熱風を3秒間吹き付ける急速加熱を行ったところ、塗膜付きの金属めっき層が、プラスチック部材の表面から更に浮いてきた。更に、この冷却と加熱処理を複数回繰り返すと、プラスチック部材と金属めっき層とが完全に剥離した。
【0040】
(第2の実施例)
処理するめっき付きプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に黒色塗料(塗膜)が形成されている。このめっき付きプラスチック部品の表面に、450℃の熱風を3秒間吹き付けて急速加熱したところ、塗膜付きの金属めっき層が、プラスチック部材の表面から剥離した。そして、これを冷却した後、再度450℃の熱風を3秒間吹き付ける急速加熱を行ったところ、塗膜付きの金属めっき層が、プラスチック部材の表面から更に浮いてきた。更に、この冷却と加熱処理を複数回繰り返すと、プラスチック部材と金属めっき層とが完全に剥離した。
【0041】
(第3の実施例)
処理するめっき付きプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更にメタリック塗料(塗膜)が形成されている。このめっき付きプラスチック部品の表面に、450℃の熱風を3秒間吹き付けて急速加熱したところ、塗膜付きの金属めっき層が、プラスチック部材の表面から剥離した。そして、これを冷却した後、再度450℃の熱風を3秒間吹き付ける急速加熱を行ったところ、塗膜付きの金属めっき層が、プラスチック部材の表面から更に浮いてきた。更に、この冷却と加熱処理を複数回繰り返すと、プラスチック部材と金属めっき層とが完全に剥離した。
【0042】
(第4の実施例)
処理するめっき付きプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に白色塗料(塗膜)が形成されている。このめっき付きプラスチック部品の表面に、400℃の熱風を5秒間吹き付けて急速加熱したところ、塗膜付きの金属めっき層が、プラスチック部材の表面から剥離した。そして、これを冷却した後、再度400℃の熱風を5秒間吹き付ける急速加熱を行ったところ、塗膜付きの金属めっき層が、プラスチック部材の表面から更に浮いてきた。更に、この冷却と加熱処理を複数回繰り返すと、プラスチック部材と金属めっき層とが完全に剥離した。
【0043】
(第5の実施例)
処理するめっき付きプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に黒色塗料(塗膜)が形成されている。このめっき付きプラスチック部品を、450℃の雰囲気に加熱されたマッフル炉に装入し30秒間保持して急速加熱したところ、塗膜付きの金属めっき層が、プラスチック部材の表面から剥離した。そして、これを冷却した後、再度450℃の雰囲気に加熱されたマッフル炉に装入し30秒間保持する急速加熱を行ったところ、塗膜付きの金属めっき層が、プラスチック部材の表面から更に浮いてきた。更に、この冷却と加熱処理を複数回繰り返すと、プラスチック部材と金属めっき層とが完全に剥離した。
【0044】
(第6の実施例)
処理するめっき付きプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に黒色塗料(塗膜)が形成されている。このめっき付きプラスチック部品を、500℃の雰囲気に加熱されたマッフル炉に装入し30秒間保持して急速加熱したところ、塗膜付きの金属めっき層が、プラスチック部材の表面から剥離した。そして、これを冷却した後、再度500℃の雰囲気に加熱したマッフル炉に装入し30秒間保持する急速加熱を行ったところ、塗膜付きの金属めっき層が、プラスチック部材の表面から更に浮いてきた。更に、この冷却と加熱処理を複数回繰り返すと、プラスチック部材と金属めっき層とが完全に剥離した。
【0045】
(第1の比較例)
処理するめっき付きプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に白色塗料(塗膜)が形成されている。このめっき付きプラスチック部品の表面に450℃の熱風を20秒間吹き付ける長時間の加熱を行ったところ、塗膜付きの金属めっき層が、プラスチック部材の表面から部分的に剥離したが、プラスチック部材が溶融して金属めっき層に接着し、プラスチック部材から金属めっき層が剥がれにくくなった。そして、これを冷却した後、再度450℃の熱風を20秒間吹き付ける長時間の加熱を行っても、プラスチック部材と金属めっき層とを分離できなかった。
【0046】
(第2の比較例)
処理するめっき付きプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に白色塗料(塗膜)が形成されている。このめっき付きプラスチック部品の表面に、450℃の熱風を3秒間吹き付けて急速加熱したところ、塗膜付きの金属めっき層が、プラスチック部材の表面から剥離した。そして、これを冷却した後、450℃の熱風を20秒間吹き付ける長時間の加熱を行ったところ、プラスチック部材が溶融して金属めっき層に接着し、プラスチック部材から金属めっき層が剥がれにくくなった。更に、これを冷却した後、再度450℃の熱風を20秒間吹き付ける長時間の加熱を行っても、プラスチック部材と金属めっき層とを分離できなかった。また、加熱時間が長くなったため、塗膜が茶色に変色した。
【0047】
(第3の比較例)
処理するめっき付きプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に黒色塗料(塗膜)が形成されている。このめっき付きプラスチック部品の表面に、450℃の熱風を3秒間吹き付けて急速加熱したところ、塗膜付きの金属めっき層が、プラスチック部材の表面から剥離した。そして、これを冷却した後、450℃の熱風を20秒間吹き付ける長時間の加熱を行ったところ、プラスチック部材が溶融して金属めっき層に接着し、プラスチック部材から金属めっき層が剥がれにくくなった。
【0048】
(第4の比較例)
処理するめっき付きプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に黒色塗料(塗膜)が形成されている。このめっき付きプラスチック部品を、550℃の雰囲気に加熱されたマッフル炉に装入し30秒間保持して加熱したところ、塗膜付きの金属めっき層が、プラスチック部材の表面から剥離した。なお、炉内の保持時間は、前記した第6の実施例と同じであるが、雰囲気温度を、第6の実施例よりも高めに設定していたため、プラスチック部材を構成するABS樹脂の分解がみられた。
【0049】
以上のことから、金属めっきを、プラスチック部材を溶融又は熱分解させることなく急速加熱することで、めっき付きプラスチック部品を粉砕することなく、プラスチック部材と金属めっきに分離可能であり、しかも純度と歩留りを向上でき、資源の有効利用が図れることを確認できた。
【0050】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明のめっき付きプラスチック部品の処理方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、本発明のめっき付きプラスチック部品の処理方法で処理するめっき付きプラスチック部品は、前記した実施の形態で示した具体的なプラスチック部材や金属めっきの種類に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0051】
10:プラスチック部材、11:金属めっき、12:めっき付きプラスチック部品、13:塗料の膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック部材の表面に金属めっきが形成されためっき付きプラスチック部品の処理方法において、
前記金属めっきを、前記プラスチック部材を溶融又は熱分解させることなく急速加熱し、前記プラスチック部材と前記金属めっきとの熱膨張差により、前記プラスチック部材の表面から前記金属めっきの部分又は全部を剥離することを特徴とするめっき付きプラスチック部品の処理方法。
【請求項2】
請求項1記載のめっき付きプラスチック部品の処理方法において、前記プラスチック部材の裏面側を冷却することを特徴とするめっき付きプラスチック部品の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のめっき付きプラスチック部品の処理方法において、前記金属めっきの加熱処理は、温度が300℃以上の雰囲気下で行うことを特徴とするめっき付きプラスチック部品の処理方法。
【請求項4】
請求項3記載のめっき付きプラスチック部品の処理方法において、前記金属めっきの加熱処理は、該金属めっきの表面に熱風を吹き付けて行うことを特徴とするめっき付きプラスチック部品の処理方法。
【請求項5】
請求項3記載のめっき付きプラスチック部品の処理方法において、前記金属めっきの加熱処理は、加熱炉内を通過させて行うことを特徴とするめっき付きプラスチック部品の処理方法。
【請求項6】
請求項3記載のめっき付きプラスチック部品の処理方法において、前記金属めっきの加熱処理は、過熱水蒸気により行うことを特徴とするめっき付きプラスチック部品の処理方法。
【請求項7】
請求項1又は2記載のめっき付きプラスチック部品の処理方法において、前記金属めっきの加熱処理は、電磁誘導加熱により行うことを特徴とするめっき付きプラスチック部品の処理方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のめっき付きプラスチック部品の処理方法において、前記金属めっきの表面には、更に塗料の膜が形成されていることを特徴とするめっき付きプラスチック部品の処理方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のめっき付きプラスチック部品の処理方法において、前記金属めっきの加熱処理後に該金属めっきを塩化第二鉄液で溶解処理して、該塩化第二鉄液の廃液からめっき金属を回収することを特徴とするめっき付きプラスチック部品の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−122229(P2011−122229A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283125(P2009−283125)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000233734)株式会社アステック入江 (25)
【Fターム(参考)】