説明

もろみ熟成蒸留酒の製造方法

【課題】味にコクやまろやかさがあり、官能性の高いもろみ熟成蒸留酒の製造方法、該製造方法により製造したもろみ熟成蒸留酒の提供。
【解決手段】アルコール発酵後、蒸留開始前に、もろみを熟成させる期間を設けることを特徴とするもろみ熟成蒸留酒の製造方法、前記アルコール発酵に麹を利用することを特徴とするもろみ熟成蒸留酒の製造方法、前記もろみの熟成期間が2週間以上であることを特徴とするもろみ熟成蒸留酒の製造方法、前記もろみの熟成を、もろみと木質材とを接触させた状態で行うことを特徴とするもろみ熟成蒸留酒の製造方法、前記もろみの熟成を、木製の容器または内部に木製部材を有する容器で行なうことを特徴とするもろみ熟成蒸留酒の製造方法、及びこれらの製造方法により製造したもろみ熟成蒸留酒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、味にコクやまろやかさなどがあり、官能性の高い蒸留酒の製造方法、及び該製造方法により製造したもろみ熟成蒸留酒に関する。
【背景技術】
【0002】
焼酎、ウイスキー、ブランデー、スピリッツ類などの蒸留酒は、アルコールを含有する液体(発酵もろみや浸漬液などの液状物)を蒸留することによって製造される。そのため、蒸留直後は香りが刺激的であり、また味は荒々しい。そうした香味などを落ち着かせるため、通常は蒸留後に貯蔵する期間を設ける。
ウイスキーやブランデーなどの場合、蒸留後の貯蔵は数年から数十年にわたるため、タンクや樽などの容器で行われ、香味を落ち着かせるとともに樽香の付与や樽に由来する香味、例えばバニリンなどが付与される。また、樽に由来する着色もあり、これら全てが貯蔵の指標となっている。これら貯蔵は化学的/物理的な変化によるものである。また焼酎の場合は、蒸留後にタンクや甕などで貯蔵・熟成を行うことが一般的であるが、近年では樽に貯蔵した「樽貯蔵焼酎」などが多く販売されている。
【0003】
一方、醸造酒のなかでもワインにおいては、アルコール発酵後に熟成を行うことで、微生物が自己消化を起こし、酒質に影響を与えることが広く知られている。醸造酒の熟成は微生物的な変化と酵素的な変化を伴う。このように、蒸留酒と醸造酒では貯蔵・熟成を行う時期が異なっており、通常は蒸留酒の場合は蒸留後に一定期間時間を経過させること、醸造酒はアルコール発酵後に一定期間時間を経過させることを、それぞれ「貯蔵熟成期間」としている。
【0004】
焼酎では、例えば特許文献1に記載の方法では、仕込み工程の後、蒸留工程に先立って、最終次のもろみに生海苔を添加・混合して、5〜10日間熟成することによって、海苔の風味を生かした海苔焼酎の製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開昭62−29961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
木樽などの木製の容器で蒸留酒の樽貯蔵を行なうと、樽香だけでなく樽由来の色も蒸留酒に着色されるが、こと焼酎では、酒税法により色度制限がある。
また、特許文献1に記載の方法では、海苔の風味を生かせても、樽熟成ほど味にコクやまろやかさなどの官能性を高めることは難しく、樽香を付けることもできない。また、熟成期間も5〜10日間に限定されている。
更に、焼酎などの蒸留酒では、もろみを蒸留するため、揮発しにくい成分は蒸留液へは移行しない。そのため、蒸留酒の特徴は醸造酒に比べスッキリとした淡麗な味わいであり、逆に甘味や旨味、コク、味わい深さなどの官能性を蒸留酒へ付与することは難しいと考えられていた。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、蒸留酒に色付けすることなくまた木材由来のエグミ、苦味が付与されず、更には味にコクやまろやかさなどの官能性を高める蒸留酒の製造方法、該製造方法により製造した蒸留酒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、アルコール発酵後、蒸留前にもろみを熟成させる期間を設けることで、従来よりも味にコクやまろやかさ、乳感があり、官能性が高まることを見出し、更にはもろみを熟成させる容器に木製の容器を使用することで、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の構成を採用する。
【0008】
(1)本発明は、アルコール発酵後、蒸留開始前に、もろみを熟成させる期間を設けることを特徴とするもろみ熟成蒸留酒の製造方法を提供するものである。
(2)また、本発明は、前記アルコール発酵に麹を利用することを特徴とするもろみ熟成蒸留酒の製造方法を提供するものである。
(3)また、本発明は、前記もろみの熟成期間が2週間以上であることを特徴とするもろみ熟成蒸留酒の製造方法を提供するものである。
(4)また、本発明は、前記もろみの熟成を、もろみと木質材とを接触させた状態で行うことを特徴とするもろみ熟成蒸留酒の製造方法を提供するものである。
(5)また、本発明は、前記もろみの熟成を、木製の容器または内部に木製部材を有する容器で行なうことを特徴とするもろみ熟成蒸留酒の製造方法を提供するものである。
(6)また、本発明は、前記いずれか記載の蒸留酒の製造方法によって製造されたもろみ熟成蒸留酒を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のもろみ熟成蒸留酒の製造方法によれば、アルコール発酵終了後、蒸留開始前に、もろみを熟成させる期間を設けることで、酵母や麹菌などを始めとする微生物の自己消化が起こり、もろみ中のアミノ酸量等が増加し、それに起因して得られる蒸留酒の味において、従来よりもコクやまろやかさ、乳感があり、官能性を向上させることができる。
【0010】
また、本発明のもろみ熟成蒸留酒の製造方法によれば、前記アルコール発酵に麹を利用することで、麹が酵素を豊富に有するため、アルコール発酵終了後におけるもろみも酵素が豊富であり、アルコール発酵期間だけでは分解しきれなかったデンプンやタンパクなどの分解性に優れる。このように、増加した糖やアミノ酸が共存することで、例えばメイラード反応が進み、香気成分を変化させるため、官能性が向上するのではないかと推察される。更には、長い発酵熟成期間中には、自己消化し、死滅した酵母や麹菌以外にも、乳酸菌等のバクテリアが増加し、味や香味に影響を与えるという効果も有すると推察される。
【0011】
また、本発明のもろみ熟成蒸留酒の製造方法によれば、前記もろみの熟成期間が2週間以上であることで、風味や官能性の向上に対してより効果が高まる。
【0012】
また、本発明のもろみ熟成蒸留酒の製造方法によれば、前記もろみの熟成を、もろみと木質材とを接触させた状態や木製の容器または内部に木製部材を有する容器で行なうことで、蒸留前のもろみに樽香を付けることができ、その時もろみが木の色で着色されることがあっても、後の蒸留の際に色が除去されるため、色付けせずに樽香を付けた蒸留酒を製造することができる。樽由来のエグミ、苦味に関与するエラグ酸等がもろみに付与されたとしても、蒸留工程を行うことで、蒸留酒にはそれら成分がほとんど移行しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態例について詳細に説明する。
本発明におけるもろみ熟成蒸留酒とは、原料を酵母によりアルコール発酵させたもろみから蒸留して得られる酒であれば、特に限定されるものではない。例えば、焼酎、泡盛、ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、ラム、テキーラ、ジン、スピリッツ類、などが挙げられる。これらの中では麹を利用した蒸留酒が好ましく、焼酎、泡盛、スピリッツ類がより好ましい。
本発明はこのようなもろみ熟成蒸留酒の製造方法であって、アルコール発酵後、蒸留開始前に、もろみを熟成させる期間を設けることを特徴とする。
【0014】
<第1実施形態>
本実施形態に係るもろみ熟成蒸留酒の製造方法は、アルコール発酵に麹を利用する蒸留酒の製造方法であって、麹、主原料、酵母、水などを加えて発酵させ、もろみを作る仕込み工程と、もろみを熟成させるもろみ熟成工程と、熟成したもろみを蒸留して原酒を作製する蒸留工程と、得られた原酒を割水・濾過する割水・濾過工程と、割水・濾過された原酒を貯蔵・熟成工程とから概略構成されている。
【0015】
「仕込み工程」
仕込み工程は製造する酒類によって異なり、例えば単式蒸留焼酎では、一次仕込みと二次仕込みの2段階でアルコール発酵させてもろみを作る。
【0016】
一次仕込み、二次仕込み工程では、原料、麹、酵母、水を加えて25℃前後でトータル約15日間アルコール発酵を行う。
原料としては、穀類またはイモ類を用いる。麹菌としては、特に限定されず、白麹、黒麹、黄麹などいずれの麹菌であってもよい。また、固体麹、液体麹のいずれの麹であってもよい。液体麹は以下の特許文献を参考にした。
(特許文献)
麦液体麹:特許第3698795号
米液体麹:特許第3718678号
豆、芋液体麹:特許第3718679号
雑穀:特許第3718681号
【0017】
主原料としては、特に限定されないが、例えば、大麦、米、トウモロコシ、そば、栗、小麦、麦芽のような発芽穀類などの穀類、サツマイモ、ジャガイモなどの芋類、豆類、梅、桃、デーツ、バナナ、マンゴー、パイナップル、リンゴなどの果実、バニラビーンズ、シナモン、カモミール、シソなどのハーブ類、オークチップ等の木材、バター、チーズ、固形状のヨーグルトなどの固形状乳製品、さとうきび、バガス、黒糖など糖類原料作物が挙げられる。また、これらをロースト処理、凍結乾燥処理、カラメル化などした加工品であってもよい。
特に、単式蒸留焼酎の場合は、麦、米、そば、栗、芋類、豆類などが好ましい。
【0018】
「もろみ熟成工程」
もろみ熟成工程では、アルコール発酵により得られたもろみを容器に詰めて、もしくはそのまま一定期間熟成させる。このようにすることで、もろみ中の成分量が変化し、得られる蒸留酒の味において、従来よりもコクやまろやかさ、乳感といった官能性を向上させることができる。
【0019】
もろみの熟成期間は2週間以上であることが好ましく、より好ましくは2週間以上6ヶ月間以内であり、さらに好ましくは3〜4ヶ月間の範囲である。もろみの熟成期間をこのような範囲とすることで、酵母臭が抑制できるとともに、十分な熟成効果が得られる。3〜4ヶ月間の範囲が最も効果が高く、6ヶ月間を超えるともろみの成分にあまり変化がなくなる。
【0020】
本実施形態では、もろみの熟成を、もろみと木質材とを接触させた状態で行うことが好ましい。もろみと木質材とを接触させた状態とは、もろみの熟成を、木製の容器または内部に木製部材を有する容器で行なうことであってもよく、木質材を容器に投入した状態でもろみの熟成を行なうことであってもよい。このとき用いる木質材の木の種類としては、特に限定されないが、オーク、マツ(松)、スギ(杉)、ヒノキ(桧、檜)等が好ましい。
【0021】
木製の容器としては、例えば、木樽や木桶等がある。また、内部に木製部材を有する容器とは、もろみと木製部材が接する状態であれば、特に限定されない。例えば、容器の蓋や内壁等の全部または一部に木製部材を用いたものであってもよい。
内部に木製部材を有する容器として、具体的には、ステンレスやホーロー製のタンクの内壁を木板で被覆した容器や、木蓋をした甕等が例示できる。
このように、木製の容器または内部に木製部材を有する容器でもろみを熟成することで、蒸留前のもろみに樽香を付けることができ、その時もろみが容器の色で着色されることがあっても、後の蒸留工程の際に色が除去されるため、色付けせずに樽香を付けた蒸留酒を製造することができる。
【0022】
また、木製の容器以外であっても、もろみの熟成を木質材と接触させた状態で行えるよう、木の破片などの木質材を入れた容器であってもよい。
容器に投入する木質材は、木を容器に入る大きさに切断したものであってもよく、チップ等の木片状のものであってもよく、加工を施したものであってもよい。該加工は、木質材にもろみが接することにより、もろみに樽香を付与し得る状態に加工するものであればよい。例えば、生木をそのまま容器に入れてもよく、乾燥した木を容器に入れてもよく、燻した木を容器に入れてもよい。
【0023】
ただし、もろみを詰める容器は特に限定されるものではなく、木樽、木桶以外にも、タンク、瓶などの一般的な容器を用いることができる。タンクの場合は、ステンレス、ホーロー、甕などがある。なお、これら容器は仕込み工程から継続して使用してもよく、すなわち、もろみを詰め替えずにそのまま熟成させることができる。
【0024】
このもろみ熟成を行うことで、酸度、pH、アルコール濃度、比重などは若干変化するが、特にアミノ酸度を数倍に高くすることができる。
例えば、米を主原料とした焼酎では4ヶ月間もろみを熟成させると、熟成前に比べアミノ酸度が3倍以上になり、麦を主原料とした焼酎では4ヶ月間もろみを熟成させると、熟成前に比べアミノ酸度が2.5倍以上になる。
更には熟成中のもろみの酵素活性は大きく変化せず、熟成初期から末期まで一定量の酵素活性が維持されている。
【0025】
「蒸留工程」
蒸留工程では、もろみ熟成工程で熟成したもろみを蒸留機で蒸留して原酒を作製する。例えば、単式蒸留焼酎などは単式蒸留機を用いて行ない、常圧蒸留機、減圧蒸留機にいずれであってもよい。
常圧蒸留機の場合は、内部圧力は1気圧で発酵液は約85〜100℃で沸騰し、アルコールとともにもろみに含有されている色々な成分が留出する。減圧蒸留機の場合は、内部圧力は0.1〜0.2気圧ほどであり、発酵液は約40〜60℃で沸騰する。
【0026】
「割水・濾過工程」
割水・濾過工程では、蒸留工程で得られた原酒を割水・濾過する。蒸留工程で得られた原酒は、例えば単式蒸留焼酎の場合、アルコール濃度が40%程度であるため、水で割ってアルコール濃度を所望の濃度にする。この際に、割水前の原酒に溶解していた油脂等の成分が割水によって析出するため、濾過することでそのような析出成分を除去する。
【0027】
「貯蔵・熟成工程」
貯蔵・熟成工程では、割水・濾過された原酒を容器に詰めて貯蔵・熟成を行なう。このとき、蒸留の際の加熱により生じた独特の焦臭や辛味などの香味を落ち着かせる。
容器としては、瓶やタンク、樽、甕、などで行なう。
以上の蒸留工程から貯蔵・熟成工程の終了までは、例えば焼酎では通常1ヶ月から行なわれる。泡盛では3年以上貯蔵するものもあり、古酒と呼ばれる。
【0028】
このようにして、美味しいもろみ熟成蒸留酒が得られる理由は明らかではないが、酵素分解更には酵母等の微生物による自己消化により遊離アミノ酸が増えていることや、熟成容器由来、例えば樽などによる香気成分の付与など、微生物的、化学的変化の相乗効果により得られたのではないかと考えられる。通常のもろみよりもアミノ酸や香気成分等が豊富であるため、蒸留の際にアミノ酸の化学反応が進行して、香味成分が蒸留酒により移行しやすくなり、得られる蒸留酒のコクやまろやかさ、乳感といった味の複雑性を生み出し、官能性を向上させることができると考えられる。
特に、アルコール発酵に麹を利用することで、麹が酵素を豊富に有するため、アルコール発酵終了後におけるもろみも酵素が豊富であり、色々な分解性に優れる。
【0029】
<第2実施形態>
本実施形態に係るもろみ熟成蒸留酒の製造方法は、アルコール発酵に麦芽を利用する蒸留酒の製造方法であって、発芽、乾燥、糖化、発酵、もろみ熟成、蒸留、加水、貯蔵・熟成の各工程から概略構成されている。
大麦などの原料を水に浸し発芽させた後、ピートでいぶしながら乾燥させて発芽を止める。乾燥した麦芽を粉砕して温水を加え、60℃以上の温度で糖化させる。糖化により得られた糖化液を濾過し、酵母を加えてアルコール発酵させ、もろみを作る。このもろみを上記第1実施形態と同様に、一定期間熟成させる。その後、ポットスチル(単式蒸留機)で2回蒸溜し、加水により所望のアルコール濃度にする。例えば、ウイスキーは60%前後に調整する。さらに、樽に詰めて貯蔵・熟成を行ない、最後に加水・濾過を行なう。
【0030】
以上説明したように、本発明のもろみ熟成蒸留酒の製造方法によれば、アルコール発酵後、蒸留開始前に、もろみを熟成させる期間を設けることで、もろみ中の成分量が変化し、得られる蒸留酒の味において、従来よりもコクやまろやかさ、乳感といった官能性を向上させることができる。
また、もろみの熟成期間が2週間以上であることで、もろみ中のアミノ酸を十分に増量させることができ、風味や官能性の向上に対して、より効果が高まる。
さらに、もろみの熟成を、もろみと木質材とを接触させた状態で行なうことや、木製の容器または内部に木製部材を有する容器で行なうことで、蒸留前のもろみに樽香を付けることができ、その時もろみが木の色で着色されることがあっても、後の蒸留の際に色が除去されるため、色付けせずに樽香を付けた蒸留酒を製造することができる。
【実施例】
【0031】
次に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
実施例1として、米を主原料とした(焼酎)もろみを作製した。
【0033】
【表1】

【0034】
上記仕込み配合により蒸した米、汲み水、乳酸、麹を混合し、そこへ酵母を添加した1次仕込みを行い、25℃で4日発酵後、二次掛けを行い合計18日間でアルコール発酵を行った。アルコール発酵が終了したもろみを木樽またはタンクに詰め、22〜28℃にてもろみ熟成を4ヶ月間行ない、1ヶ月毎に酸度(ml)、pH、アルコール濃度(%)、比重、アミノ酸度(ml)を測定した。測定方法は西谷らの方法(第四回改正国税庁所定分析法注解、第229−231ページ、1993年。)に従い測定した。表2に結果を示す。
また、もろみ中のグルコアミラーゼ及び耐酸性αアミラーゼの酵素活性を1ヶ月毎に測定を行い、熟成0ヶ月を100とした時の相対活性を表3に示した。酵素活性の測定方法は西谷らの方法(第四回改正国税庁所定分析法注解、1993年。)に準じた。
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
実施例1の結果から、何れももろみ熟成の期間が長くなるにつれて、アミノ酸度は高くなることが示された。酸度(ml)、pH、アルコール濃度(%)、比重の値は、ほとんど変化が無なかった。もろみの酵素活性は0ヶ月と比較し、分析値が上下するものの、活性は熟成中も維持されていることが伺えた。
【0038】
(実施例2)
続いて、実施例2として、麦を主原料とした(焼酎)もろみを作製した。
【0039】
【表4】

【0040】
上記仕込み配合により蒸した麦、汲み水、乳酸、麹を混合し、そこへ酵母を添加した1次仕込みを行い、25℃で4日発酵後、二次掛けを行い合計18日間でアルコール発酵を行った。
アルコール発酵が終了した二次もろみを木樽に詰め、22〜28℃にてもろみ熟成を4ヶ月間行ない、1ヶ月毎に酸度(ml)、pH、アルコール濃度(%)、比重、アミノ酸度(ml)を測定した。結果を表5に示す。また、モロミのグルコアミラーゼ、耐酸性αアミラーゼも測定した。熟成0ヶ月の活性を100とした場合の相対活性結果を表6に示す。なお、何れの測定方法も実施例1と同じである。
【0041】
【表5】

【0042】
【表6】

【0043】
実施例の結果から、もろみ熟成の期間が長くなるにつれて、酸度(ml)、pH、アルコール濃度(%)、比重の値はわずかに高くなっていたが、アミノ酸度は1ヵ月目で1.66倍、2ヶ月目で2.12倍、4ヶ月目で2.50倍と顕著に高くなっていた。もろみの酵素活性は熟成0ヶ月と比較すると上下するものの、もろみ熟成中もある程度の活性が維持されていることが示唆された。
【0044】
(官能検査)
更に、実施例1で熟成したもろみについて、もろみの熟成期間が0、2、3ヶ月目のもろみを用い、蒸留、割水・濾過、の各工程を行い、焼酎を作製した。
また、木樽ではなくタンクを用いてもろみ熟成を行なった場合についても、もろみの熟成期間が2、3ヶ月目のもろみを用い、同様に蒸留、割水・濾過、の各工程を行い、焼酎を作製した。その他の条件や各工程は実施例1と同じである。
【0045】
このようにして得られた5種の焼酎について、官能検査を行なった。官能検査は、訓練された8名のパネリストで行い、まるみ、味わい深さ、コク、熟成感、樽香、乳感、まろやかさ、の各項目について、以下の3段階からなる評価基準にて評価を行なった。評価結果を、表7に示す。
「評価基準」
◎・・・とても良好。
△・・・やや良好。
×・・・不良。
【0046】
【表7】

【0047】
表7に示した結果から、もろみ熟成として樽熟成を行なったものでは、樽香について高い評価が得られた。また、樽熟成、タンク熟成の何れの場合であっても、0ヶ月目に比べまるみ、味わい深さ、コク、熟成感、乳感、まろやかさが向上することが示され、2ヶ月目よりも3ヶ月目のほうがより良好であり、深く芳醇な蒸留酒が得られることが示された。
【0048】
また、樽熟成とタンク熟成とを比較すると、パネリストからのコメントとして、樽熟成では、バランスも良い、口に含むと樽香が広がる、しょう油的な香り、後味がやわらかいなどのコメントが得られ、タンク熟成では、やわらか、まろやか、丸みあり、香りよりも味に熟成感がある、樽熟成よりはスッキリ、ライトなどのコメントが得られ、何れも良好な評価であった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係るもろみ熟成蒸留酒の製造方法は、蒸留酒全般に適用でき、特に麹を利用した蒸留酒に好適である。本発明を適用することにより、蒸留酒では表現することが難しい、味わい、特にコクやまろやかさ、乳感などを増し、官能性の高い蒸留酒が製造できるとともに、蒸留酒に色付けすることなく樽香を付けることができるため、特に焼酎などの光量規制のある蒸留酒の製造分野で利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール発酵後、蒸留開始前に、もろみを熟成させる期間を設けることを特徴とするもろみ熟成蒸留酒の製造方法。
【請求項2】
前記アルコール発酵に麹を利用することを特徴とする、請求項1記載のもろみ熟成蒸留酒の製造方法。
【請求項3】
前記もろみの熟成期間が2週間以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載のもろみ熟成蒸留酒の製造方法。
【請求項4】
前記もろみの熟成を、もろみと木質材とを接触させた状態で行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のもろみ熟成蒸留酒の製造方法。
【請求項5】
前記もろみの熟成を、木製の容器または内部に木製部材を有する容器で行なうことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のもろみ熟成蒸留酒の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載のもろみ熟成蒸留酒の製造方法によって製造されたもろみ熟成蒸留酒。


【公開番号】特開2009−142189(P2009−142189A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321771(P2007−321771)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】