説明

より適切な細胞変異体を選択可能な移動型容器を備えた連続培養装置

自然淘汰の過程を通じて、検査液における生細胞、又は任意の培養可能な生物の増殖率を(増殖速度及び/又は増殖収率を、増加させることにより)増加させる方法及び装置であって、a)培養培地を含むフレキシブルな滅菌チューブ(7)と、b)前記チューブ(97)を、使用済み培養物(下流領域)、増殖している培養物(成長チャンバ)、及び新たな培養培地(上流領域)を含む別々の複数領域に分割する可動な複数ゲート(複数クランプ)(3、4、5)のシステムと、c)前記成長チャンバの一部とそれに関連する培養物とを挟み付けて前記成長チャンバから分離することができるように、且つ未使用培地を含む新たなチューブの一部を、前記成長チャンバ内に既に存在する前記培養物の一部とそれに関連する培地とに結合できるように、前記複数ゲート及び前記チューブを動かす手段(13)と、を備えることを特徴とする装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
記載の発明は、液体又は半固体培地において、特有の代謝特性及び増殖率の増加に伴って、生細胞の選択を可能とする方法及び装置を提供する。選択の工程(適応進化)に対しては、遺伝的に変異した生物(突然変異体)が個体群に現れ、同じ起源のその他の変異体と競合する。最も高い増殖率を有するものは、経時的に相対的比率が増加し、増殖率の増加に伴い個体群(及び個体)となる。この工程は、産業的な生産能力又は学術目的に用いられる生物のパーフォーマンスを強化させ得る。
【背景技術】
【0002】
増殖率(適応度)の増加を選択するには、持続的増殖が必要とされる。これは、増殖している培養物を定期的に希釈することで達成される。これは、先行技術においては二つの方法で達成されてきた。即ち、段階希釈と連続培養である。これらは、主に希釈の程度が異なる。
【0003】
段階培養は、少量の増殖培養物を、新たな増殖培地を含むより大きな容器へ繰り返し移送させることを含む。培養物がその新しい容器で増殖して飽和に達したら、その工程を繰り返す。文献(非特許文献1:Lenski & Travisano: Dynamics of adaptation and diversification : a 10000-generation experiment with bacterial populations. 1994. Proc Natl Acad Sci USA. 15: 6808-14)では、この方法を用いて持続的培養の最長実験を実現した。実験では、長年にわたって増殖率の順調な伸びが明白に実証された。この方法は、通常、かなりの労働投資を伴って手動で行われ、また外部環境への暴露により汚染される。段階培養も、次節に記載されるように、非効率的である。
【0004】
選択率、又は増殖率の伸び率、は個体群サイズに左右される(非特許文献2:Fisher: The Genetical Theory of Natural Selection. 1930. Oxford University Press, London, UK)。更に、個体群サイズが急激に変動する連続移送(serial transfer)のような状況では、選択は、個体群の調和平均(
【0005】
【数1】

)に比例し(非特許文献3:Wright: Size of Population and breeding structure in relation to evolution. 1938. Science 87: 430-431)、故にその周期の間、最低の個体群により近似できる。
[p02]
個体群サイズは維持可能であるので、選択は連続培養を介してより効率的に行われる。段階希釈とは区別される連続培養では、少量の増殖している培養物が、定期的に等量の新たな増殖培地と置換されるように、相対的に少ない容積を必要とする。この方法では、周期的に希釈する間、有効個体群サイズの最小サイズを増加させることで、そのサイズを最大化する。連続培養を可能とする装置は、特定の時間間隔で希釈を行う場合には、「ケモスタット(chemostats)」と称され、培養物が特定の密度まで増殖した場合に自動的に希釈を行う場合には、「タービドスタット(turbidostats)」と称される。
【0006】
簡単のため、以下、両種の装置を「ケモスタット」という文言で分類する。ケモスタットは、1950年代に二つのグループにより同時に発明された(非特許文献4:Novick & Szilard: Description of the chemostat. 1950. Science 112: 715-716)及び(非特許文献5:Monod: La technique de la culture continue- Theorie et applications. 1950. Ann. Inst. Pasteur 79: 390--410)。ケモスタットは、短期間における増殖率の急激な伸びを実証するのに使われてきた(非特許文献6:Dykhuizen DE. Chemostats used for studying natural selection and adaptive evolution. 1993. Methods Enzymol. 224: 613-31)。
【0007】
従来のケモスタットでは、耐希釈性(静置)変異体が意図せずして選択されることにより、増殖率(適応度)増加の選択を長期間維持することができない。これらの変異体は、ケモスタットの表面に付着することで耐希釈性を有することができる。そうすることで、より高い増殖率の個体を含むより粘着性が低い個体を打ち負かしてしまい、装置の本来の目的が妨げられてしまう(非特許文献7:Chao & Ramsdell: The effects of wall populations on coexistence of bacteria in the liquid phase of chemostat cultures,. 1985. J. Gen. Microbiol. 131: 1229-36)。
【0008】
連続培養における耐希釈性を避けるために、一つの方法及びケモスタット装置(遺伝子工学:the Genetic Engine)が発明された(特許文献1:PASTEUR INSTITUTE [FR] & MUTZEL RUPERT [DE]により出願された米国特許US 6,686,194-B1)。この方法は、バルブ制御された流体移送を用いて、周期的に増殖する培養物を二つのケモスタットの間で移動させ、培養物の活発な増殖期に各々を殺菌、洗浄可能とする。定期的な殺菌周期は、耐希釈性変異体を死滅させることで耐希釈性変異体の選択を防ぐ。この方法及び装置では目的が達成されるが、滅菌(密閉)環境内で、幾つかの流体における独立した複雑な操作が必要となる。その環境は、腐食性(苛性)で且つ潜在的に非常に活性であり、バルブを素早く損傷させ、保存及び廃棄物処理問題を引き起こすようなもの(NaOH)を含む。
【0009】
【非特許文献1】Lenski & Travisano: Dynamics of adaptation and diversification : a 10000-generation experiment with bacterial populations. 1994. Proc Natl Acad Sci USA. 15: 6808-14
【非特許文献2】Fisher: The Genetical Theory of Natural Selection. 1930. Oxford University Press, London, UK
【非特許文献3】Wright: Size of Population and breeding structure in relation to evolution. 1938. Science 87: 430-431
【非特許文献4】Novick & Szilard: Description of the chemostat. 1950. Science 112: 715-716
【非特許文献5】Monod: La technique de la culture continue- Theorie et applications. 1950. Ann. Inst. Pasteur 79: 390--410
【非特許文献6】Dykhuizen DE. Chemostats used for studying natural selection and adaptive evolution. 1993. Methods Enzymol. 224: 613-31
【非特許文献7】Chao & Ramsdell: The effects of wall populations on coexistence of bacteria in the liquid phase of chemostat cultures,. 1985. J. Gen. Microbiol. 131: 1229-36
【特許文献1】US 6,686,194-B1[p03]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明は、耐希釈性変異体からの干渉を受けずに、生物(細菌、古細菌、真核生物及びウイルスを含む)の連続培養のための改良された(並びに完全に独立した)方法及び装置を提供することを課題とする。その他のケモスタットのように、当該装置は、新たな増殖培地を用いて増殖培養物を定期希釈する手段と、培養物と外部環境との間でガス交換し、殺菌する、ケモスタット又はタービドスタットのいずれかとしての自動操作とを備える。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、殺菌又は洗浄機能を含み、流体移送をせずに当該目的を達成するよう設計されている。これは、保存と、苛性溶媒の使用により生じる複雑な流体移送とを含む、殺菌及び洗浄に係る危険及び困難を回避する限り、先行技術に対する本発明に特有の利点を表す。
【0012】
連続培養は、増殖培地が充填された伸縮自在な(フレキシブル)滅菌チューブ内部で実現される。培地及びチャンバ表面は相互に静的であり、両方が、定期的に且つ同時に、「複数ゲート」、即ち、培養された生物のチューブ領域間における移動を防ぐ複数クランプにより、チューブが滅菌状態で細分化される位置、を介したチューブのぜん動運動により置換される。UVゲートも(任意で)、安全性を追加するために培養容器の上流及び下流に加えることができる。
【0013】
本発明の方法及び装置は、希釈工程と相前後して発生するその影響を受けた表面の置換としての、ケモスタット表面への耐希釈性変異体の付着に対して、周期的というよりむしろ連続的に選択を行う限り、先行技術における改良品である。
【0014】
チューブは、飽和した(完全に増殖した)培養物を含む領域と、新たな培地を含む領域と、及びこれら二領域の間の、増殖培養物が新たな培地と混合されて希釈される成長チャンバと称される領域とが存在するように、一時的に細分化される。複数ゲートは周期的にチューブ上のあるポイントから解放され、他のポイントで取って代わられる。よって増殖培養物は、その関連成長チャンバ表面及び付着した静的生物とともに、成長チャンバからの単離により除去され、新たな培地及び新たなチャンバ表面で置換される。この方法により、静的変異体は、選択が行われている領域(成長チャンバ)から除去されて、特に対抗選択される。
[p04]
包括的及び制限的ではないが、一つの可能な概略構成は、以下に記載のような幾つかの構成要素を含むであろう。以下、図面を参照して好適な実施例に基づいて本発明を例示的に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、装置の可能な構成の概略図を示す。ここで、
(1)は、装置における異なる複数領域を含むフレキシブルチューブを表し、その領域とは、上流の新たな培地(7)と、成長チャンバ(10)と、サンプリングチャンバ(11)と、処理済みの増殖培養領域(15)とであり、
(2)は、ユーザにより決定された条件に従って温度規制を可能とするサーモスタット制御ボックスを表し、ここで、
a.前記成長チャンバ(10)と、
b.前記サンプリングチャンバ(11)と、
c.前記成長チャンバ(10)の開始点を規定する上流ゲート(3)と、
d.前記成長チャンバ(10)の終点と前記サンプリングチャンバ(11)の開始点を規定する下流ゲート(4)と、
e.前記サンプリングチャンバ(11)の終点を規定する第2下流ゲート(5)と、
f.ユーザ又は自動制御システムをして、増殖している培養物の光学密度の監視、並びにフィードバック制御システムの動作を可能ならしめ、培養密度(タービドスタット機能)に基づいて、チューブ(1)の制御された移動を可能ならしめる濁度計(6)と、
g.一又は複数のアジテータと、
を設けてよい。
aからgに挙げた装置要素は、サーモスタット制御ボックスの外部、又はその非存在下に設けられてもよいことに留意すべきである。
(7)は、未使用のフレキシブルチューブにおける新たな培地を表し、
(8)は、動作の際に、新たな培地とチューブとを施行するために、新たな培地が充填されたチューブを搭載したバレルを表し、
(12)は、任意の紫外線ゲートを表し、
(13)は、動作の自動化及び制御を可能とする、光学密度濁度計、温度測定規制装置、アジテータ、及び傾斜モータ等の、複数の異なる監視又は動作インターフェースと通信する通信手段と接続されたコンピュータからなるコントロールシステムを表し、
(14)は、処理済みの増殖培養物が充填されたチューブを含むチューブを巻きつけた、任意の処理バレルを表し、
(15)は、前記サンプリングチャンバの下流に位置する、処理済みの増殖培養物を表す。
【0016】
図2は、装置の二つの可能な位置を示しており、前記サーモスタット制御ボックス(2)及び前記培養チャンバに係る前記装置のその他の部品を、撹拌目的、ガス循環及び除去目的、並びに、底部に沈殿して希釈を免れてしまうかもしれない粒状(凝集)細胞の除去を保障する目的で、さまざまな程度に傾斜できることを例示する。
【0017】
図3から図9は、前記サーモスタット制御ボックス(2)内で所定の位置にある前記フレキシブルチューブ(1)であって、ゲート(3)、(4)、及び(5)を介して前記チューブが全工程の間とどまり、また前記チューブがそのぜん動運動に従って移動する、当該複数ゲートを介して挿入された前記フレキシブルチューブ(1)を表す。
【0018】
図3は、連続培養のために生物を注入する以前の、前記フレキシブルチューブの全ての領域が新たな培地で充填された装置の状態T0を表す。
【0019】
図4は、生物菌の注入直後の前記フレキシブルチューブの状態T1を表す。
【0020】
図5は、前記ゲート(3)及び(4)により限定される前記成長チャンバ(10)として規定される領域において培養物が増殖する増殖期である装置の状態T2を表す。
【0021】
図6は、成長チャンバ領域(10)のうち、等量のチューブ、培地、及び増殖培養物の移送と同時に、新たなチューブ及び培地をゲート3の移動を介して取り込み、ゲート4の移動によりサンプリングチャンバ領域(11)へ取り込む、第2増殖周期の開始を決定するチューブと関連培地の最初のぜん動運動直後の装置の状態T3を表す。チューブと、チューブ内の培地と、その培地で増殖した任意の培養物が一緒に移動することを認識することが重要である。流体移送は、新たな培地及び増殖培養物が、成長チャンバ領域内で撹拌により相互に混じりあう場合にのみ起こるものである。
【0022】
図7は、第2増殖周期である装置の状態T4を表す。この周期の間、チューブのぜん動運動後に成長チャンバ内に残っている生物は、このステップで、残りの培養物と混合された新たな培地にある栄養物を用いて増殖可能である。
【0023】
図8は、成長チャンバ領域(10)のうち、等量のチューブ、培地、及び増殖培養物の移送と同時に、新たなチューブ及び培地をゲート3の移動を介して取り込み、ゲート4の移動によりサンプリングチャンバ領域(11)へ取り込む、第3増殖周期の開始を決定する、チューブ及び含有培地の第2ぜん動運動直後の装置の状態T5を表す。
【0024】
図9は、第3増殖周期である装置の状態T6を表す。このステップは状態T4と同等であり、更なる動作の反復特性を示す。選択された生物のサンプルは、シリンジ又はその他の検索装置を用いて、サンプリングチャンバ領域(11)から任意の時間に除去してもよい。
【0025】
図10は、二つの積み重ねられた歯がフレキシブルチューブを締め付ける構成で、ゲートを決定する、歯の考えられ得る側面図である。複数ゲートはまた、ゲートを介して生物の移動を防ぎ、チューブに沿った様々な位置において配置と除去が交互に行われ得る、可動式ベルトに対して押し付ける単一歯、取り外し可能なクランプ又は他の機構によって決定できる。
[P06]
装置の基本動作を図3から図9に示す。
【0026】
新たな滅菌培地のチューブ(前記ゲート(3)、(4)、及び(5)により領域A−Hに分割される)を搭載した後の、本発明の装置に対する一つの潜在的構成を図1に示す。
【0027】
選択された生物の装置への植菌は、当該生物を、注入(図4、領域B)により成長チャンバ(図3)に取り込むことで実施される。その後、培養物は、所望の密度まで増殖することが可能であり、連続培養が開始される(図5)。
【0028】
連続培養は、チューブにおけるゲートを備えた複数領域の反復運動により進行するであろう。これは、複数ゲート、チューブ、培地、及びチューブ内部の任意の培養物における同時に起こる運動(移動)を含む。チューブは、常に同じ方向に移動するであろう。新たな培地を含む未使用のチューブ(以下、「上流」の成長チャンバ(7)と称する)は、成長チャンバへ移動し、そこに残っている培養物と混ざることで、そこに含まれる生物が更に増殖するための基質となる。成長チャンバ領域への取り込み前は、この培地及びその関連チューブは、上流ゲート(3)によって成長チャンバから分離されて滅菌状態が維持されるであろう。増殖培養物を含む使用済チューブは、同時に「下流」へ移動され、下流ゲート(4)により成長チャンバから分離されるであろう。
【0029】
ゲートの構成自体は、本出願に特有な点ではない。例えば、ある構成においては、同時に移動する多数の歯を有するチェーンで、ゲートを設計できる。或いは、別の構成においては、図1に示すように、相異なる同期したチェーンで分離できる。ゲートは、図10に記載のように、積み重ねられた状態で二つの歯がチューブを締め付ける構成のシステムからなり、歯の接触面における精度によって、チューブの領域GとHの間の汚染が回避される。別の構成においては、図3から図9における符号3、4、及び5に示すように、一つの歯をチューブの一方の面に押さえつけ、それにより、ぜん動運動の間にチューブが滑動する固定胴体に、当該チューブがしっかり押さえつけられることで、滅菌ゲートを得ることができる。
[p07]
前記サーモスタット制御ボックス(2)は、加熱及び冷却装置と一体となった温度計等の公知の手段により得られる。
【0030】
培養物の増殖に必要とされる、又は実験で設定されるエアレーション(ガス交換)は、ガス透過性チューブを使用して、直接、機械的補助無しに実現される。例えば、フレキシブルガス透過性チューブは、シリコンで作成できるが、これに限定されない。周囲雰囲気交換、或いは成長チャンバ又は全ケモスタットに接触する人工的に規定された雰囲気(液体又はガス)との交換により、エアレーションを実現できる。実験が嫌気性を要求する場合には、フレキシブルチューブは、ガス不透過性とすることができる。例えば、フレキシブルガス不透過性チューブは、被覆または処理されたシリコンで作成できるが、これに限定されない。
【0031】
嫌気性進化条件に対して、チューブの複数領域は、ガス交換の動力学を制御するために、特定の制御された大気領域において制限することもできる。これは、前記サーモスタット制御ボックスを気密にし、その後中性ガスをそれに注入する、又は雰囲気制御された部屋に完全な装置を配置することにより実現できる。
【0032】
静的変異体の対抗選択は、増殖培地とともに成長チャンバ表面を置換することにより実現される。
【0033】
更に装置は、重力に対して様々な方向で動作可能に設計される。即ち、図2に示されるように、360度までの範囲で傾斜している。
【0034】
耐希釈性変異体は、凝集細胞が上流に沈殿する場合は、チャンバ壁に付着するよりはむしろ互いに付着しあうことにより希釈を回避してもよく、それによりチャンバからの除去を回避してもよい。従って、チューブは一般に下方に傾斜していることが望ましく、チューブが移動する間、成長チャンバから除去される領域に向かって、凝集細胞が沈殿することになる。この構成は、重力に対して下流ゲートが上流ゲートよりも下にあるように装置を傾斜させることを含む。
[p08]
成長チャンバは、実験者が選択した条件に従って、減圧又は過剰に加圧できる。圧力調整には、異なる方法を用いることができる。例えば、上流端部から、成長チャンバにわたって、新たな培地及びチューブを真空に、又はこれらに加圧空気を加える。チューブの減圧及び過剰な加圧の別の方法は、成長チャンバの上流でチューブの締め付け及びロックを交互に行うことで実施することができる。
【0035】
培地がガス透過性チューブに含まれる場合、培地内に気泡が形成されてもよい。これらの気泡は、チューブの密閉領域上部に上昇し、その領域(及びこれを規定するゲート)の移動によってその領域が成長チャンバか、サンプリングチャンバか、又はケモスタットの終点へ至るまで、そこにトラップされるであろう(図6、夫々、領域D−C、B又はA)。装置が下方に傾斜している場合は、このような気泡は、成長チャンバ又はサンプリングチャンバにたまり、培養物に置き換わっている。装置は、チューブの移動の間に、周期的に上方に傾斜させるよう設計されている。これにより、たまったガスを前記チャンバから除去することができる。
【0036】
装置の傾斜運動、及び/又は外部装置(9)による成長チャンバの振動を用いて、成長チャンバ内の細胞の凝集を減少できる。或いは、一又は複数の撹拌子を、殺菌前に、新たな培地を充填したチューブ内に含めることができ、培養動作の間、磁気的に撹拌できる。
【0037】
培養チャンバの長さと比較して、上流ゲートにより規定された新たな培地の領域の比例長さは、一周期の間に実現される希釈の程度を規定するであろう。
【0038】
希釈頻度は、タイミングにより決定でき(ケモスタット機能)、又はフィードバック制限により決定できる。これにより、成長チャンバにおける培養物の密度が、濁度計(図1−符号6)で測定され、濁度が閾値に達する際に希釈周期が生じる(タービドスタット機能)。
【0039】
サンプリングチャンバは、増殖培養物を回収可能としている。これは、実験結果を分析し、更なる培養、保存、又は機能的な実施のために、増殖率を上げながら生物を回収するため、或いは個体群のカウント、培地の化学成分の確認、増殖培養物のpHの計測等のその他の目的のためである。成長チャンバ内部のpHを終始監視するために、チューブは、その壁部に埋め込まれた/ちりばめたpHメータラインを構成上含むことができる。
[p09]
本発明の装置において、増殖培地として任意の形態の液体又は半固体材料を用いることができる。半固体増殖基質を使用できることは、先行技術を超えた注目に値する進歩である。選択工程により改良された代謝工程を規定する増殖培地は、ユーザにより選択及び規定されうる。
【0040】
必要であれば、装置は複数の増殖チャンバを含めることができる。従って、一つの増殖チャンバの下流ゲートは、別の増殖チャンバの上流ゲートとなる。これにより、例えば、ある生物が第1チャンバで唯一増殖し、その後、第2チャンバにおける第2生物(又はウィルス)の栄養源となることができる。
【0041】
本発明の装置及び方法により、研究者及び製品開発者は、培養可能な生細胞株を検査液において持続的増殖(連続培養)を介して進化させることができる。その結果生じる改良された生物は、新たな株又は種を構成できる。これら新たな生物は、培養の過程で得られる変異体により識別でき、これらの変異体によりその新たな生物はその原種の遺伝子型特徴から区別することができる。本発明の装置及び方法により、研究者は任意の生体における新たな株を、自然淘汰の過程を通じて増殖率を増加させながら個体を分離することにより選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、装置の可能な構成の概略図を示す。
【図2】図2は、装置の二つの可能な位置を示す。
【図3】図3は、連続培養のために生物を注入する以前の、前記フレキシブルチューブの全ての領域が新たな培地で充填された装置の状態T0を表す。
【図4】図4は、生物菌の注入直後の前記フレキシブルチューブの状態T1を表す。
【図5】図5は、前記ゲート(3)及び(4)により限定される前記成長チャンバ(10)として規定される領域において培養物が増殖する増殖期である装置の状態T2を表す。
【図6】図6は、成長チャンバ領域(10)のうち、等量のチューブ、培地、及び増殖培養物の移送と同時に、新たなチューブ及び培地をゲート3の移動を介して取り込み、ゲート4の移動によりサンプリングチャンバ領域(11)へ取り込む、第2増殖周期の開始を決定するチューブと関連培地の最初のぜん動運動直後の装置の状態T3を表す。
【図7】図7は、第2増殖周期である装置の状態T4を表す。
【図8】図8は、成長チャンバ領域(10)のうち、等量のチューブ、培地、及び増殖培養物の移送と同時に、新たなチューブ及び培地をゲート3の移動を介して取り込み、ゲート4の移動によりサンプリングチャンバ領域(11)へ取り込む、第3増殖周期の開始を決定する、チューブ及び含有培地の第2ぜん動運動直後の装置の状態T5を表す。
【図9】図9は、第3増殖周期である装置の状態T6を表す。このステップは状態T4と同等であり、更なる動作の反復特性を示す。
【図10】図10は、二つの積み重ねられた歯がフレキシブルチューブを締め付ける構成で、ゲートを決定する、歯の考えられ得る側面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 チューブ
2 サーモスタット制御ボックス
3、4、5 ゲート
6 濁度計
7 上流の新たな培地
10 成長チャンバ
11 サンプリングチャンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然淘汰の過程を通じて、検査液における生細胞、又は任意の培養可能な生物の増殖率を(増殖速度及び/又は増殖収率を、増加させることにより)増加させる装置であって、
a)培養培地を含むフレキシブルな滅菌チューブと、
b)前記チューブを、使用済み培養物(下流領域)、増殖している培養物(成長チャンバ)、及び新たな培養培地(上流領域)を含む別々の複数領域に分割する可動な複数ゲート(複数クランプ)のシステムと、
c)前記成長チャンバの一部とそれに関連する培養物とを挟み付けて前記成長チャンバから分離することができるように、且つ未使用培地を含む新たなチューブの一部を、前記成長チャンバ内に既に存在する前記培養物の一部とそれに関連する培地とに結合できるように、前記複数ゲート及び前記チューブを動かす手段と、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記チューブは、フレキシブルであり、挟み付けと、複数に分けられるチャンバへの分離とを可能とすることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記チューブは、実験の種類に応じて、ガス透過性であり、例えば主にシリコンからなり、前記培養された生物と外部環境との間のガス交換を可能とすることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記チューブは、前記実験が嫌気性を要求する場合、ガス不透過性であり、前記チューブと外部環境との間のガス交換を防止することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記チューブは、透明又は半透明であり、濁度測定を可能とすることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記成長チャンバチューブ並びにそれに関連する培地及び培養物は、実験要件の必要に応じ周囲雰囲気に対して減圧又は過剰な加圧が可能であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記チューブは、pHメータを前記チューブ構成又は内面に含めることにより、培地のpH測定が可能であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記成長チャンバチューブ並びにそれに関連する培地及び培養物は、実験条件の必要に応じて加熱又は冷却が可能であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記成長チャンバチューブ並びにそれに関連する培地及び培養物は、公知のいずれかの方法で撹拌可能又は静止状態で維持可能であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記チューブは、一又は複数の撹拌子を撹拌の目的で含むことができることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記チューブの複数領域は、特定の制御された大気領域に制限可能であり、ガス交換の動力学を制御することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記成長チャンバチューブ並びにそれに関連する培地及び培養物は、請求項1−cに記載の機能を介して、気泡を除去するために上方に又は凝集細胞を除去するために下方に、傾斜できることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項13】
自然淘汰の過程を通じて、検査液における生細胞、又は任意の培養可能な生物の増殖率を(増殖速度及び/又は増殖収率を、増加させることにより)増加させる方法であって、
a)滅菌増殖培地を含む滅菌チューブに、スターター(種菌)培養物を滅菌注入することにより上述の成長チャンバに初期培養物を提供する工程と、
b)実験要件に従って増殖条件を維持する工程と、
c)ある一定期間及びそれに関連する前記培養物が増殖した後、等量の新たな培地と増殖培養物とを(夫々)、前記成長チャンバとして規定された複数領域の中へ又は外へ、移動させるように、上述の複数ゲートの位置を調整し、増殖培養物の残りの部分が、新たな培地の注入された部分と混合し且つ増殖し続けることを可能とする工程と、
d)実験が終わるまで工程b)及びc)を再現し、増殖率の増加に伴った変異体の選択及び連続培養を実現する工程と、
e)要求に応じてサンプリングチャンバから増殖培養物のサンプルを回収する工程と、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項14】
前記複数ゲート、前記チューブ、並びに前記チューブ内の前記培養物及び前記培地における同時のぜん動運動を適用することにより、ある量の新たな培地を、等量の培養物が前記成長チャンバの他端部を介して単離され除去される間に、前記成長チャンバに供給することが可能となり、増殖周期を終了させ、新たな周期を始めることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
一つの実験は、考えられ得る単離成長チャンバの汚染なしに且つ考えられ得る耐希釈性個体群の増殖無しに、実験者が要求するだけ増殖周期を含むことができることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
操作の間、実験者は、温度、圧力、光学密度、化学的酸性度、撹拌、及び各種ガスを用いたエアレーションを含む実験要件に従って、増殖条件を維持できることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記装置を傾斜させることと、複数のアジテータを動作させることとを組み合わせることで、生物の凝集を防止又は抑制するために前記増殖培養物を混合する撹拌が適切になることを特徴とする請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−522825(P2007−522825A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500924(P2007−500924)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【国際出願番号】PCT/US2005/005616
【国際公開番号】WO2005/083052
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(506286537)
【住所又は居所原語表記】6716 SW 100th Lane, Gainesville, FL 32608, United States of America
【Fターム(参考)】