説明

アイドリングストップ車両の制御装置

【課題】アイドルストップ車両において、アイドルストップ禁止制御と発電抑制制御を巧妙に組み合わせて、更なる燃費向上を図ることにある。
【解決手段】エンジン1により駆動されバッテリ3及び電気負荷4に給電する発電機2を備え、所定のエンジン自動停止条件が成立すると上記エンジン1を自動的に停止させるアイドルストップ車両の制御装置において、上記バッテリ3の充放電電流積算値ΣIを検出する電流積算値検出手段5,6,7と、所定の条件で上記発電機2の発電作動を抑制させると共に、上記電流積算値検出手段5,6,7により検出された上記積算値ΣIが放電側に第1所定値0以上で第3所定値αAh以下のとき上記発電作動の抑制を禁止する発電抑制制御手段5と、上記電流積算値検出手段5,6,7により検出された上記積算値が上記第1所定値より放電側の第2所定値(放電量例えばβAhに相当する値)以上であるときは上記エンジン自動停止条件が成立しても上記エンジンの自動停止を禁止する自動停止制御手段5とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドリングストップ車両の制御装置に関する。詳しくは、アイドリングストップ禁止制御と発電抑制制御とを巧妙に組み合わせたものである。
【背景技術】
【0002】
信号停止時などにエンジンを自動的に停止するアイドリングストップ車においては、バッテリの上がりを防ぐため、バッテリの充放電をモニターし、放電量が閾値を超えた場合に、アイドリングストップを禁止してバッテリに充電するアイドリングストップ禁止制御を採用している(特許文献1)。
【0003】
更に燃費を向上させるために、アイドリングストップ車において、加速時に発電機(オルタネータ)による発電を抑制する発電抑制制御を適用する工夫もなされている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2001−173480
【特許文献2】特開2001−173481
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、常にアイドリングストップ禁止制御と発電抑制制御を併用すると、アイドリングストップ禁止に入る確率が高くなり、それ故に燃費が向上しない可能性がある。
ここで、アイドリングストップ禁止制御における閾値としての放電量は、実走行での放電量分布に対しかなり余裕があることが、本発明者による試験結果により明らかとなった。
【0005】
例えば、図4に示すように、本発明者による試験結果では、アイドリングストップによる放電量分布は、アイドルストップ禁止制御の閾値よりもはるかに低い放電量で最大となっている。
図4の下段は放電量に対するアイドリングストップの頻度(Frequency)の関係を示すグラフであり、図4の上段は放電量に対するアイドリングストップの累計(Accumulation)との関係を示すグラフである。
【0006】
図4に示すように、アイドリングストップ禁止制御における閾値としての放電量と、アイドリングストップの累計80%の生じる放電量との間には、かなりの余裕Mがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の請求項1に係るアイドルストップ車両の制御装置は、エンジンにより駆動されバッテリ及び電気負荷に給電する発電機を備え、所定のエンジン自動停止条件が成立すると上記エンジンを自動的に停止させるアイドルストップ車両の制御装置において、上記バッテリの充放電電流積算値を検出する電流積算値検出手段と、所定の条件で上記発電機の発電作動を抑制させると共に、上記電流積算値検出手段により検出された上記積算値が放電側に第1所定値以上であるときは上記発電作動の抑制を禁止する発電抑制制御手段と、上記電流積算値検出手段により検出された上記積算値が上記第1所定値より放電側の第2所定値以上であるときは上記エンジン自動停止条件が成立しても上記エンジンの自動停止を禁止する自動停止制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決する本発明の請求項2に係るアイドルストップ車両の制御装置は、請求項1において、前記電流積算値検出手段は、電気負荷の消費電流を検出する消費電流検出手段と、上記発電機により発電される発電電流を検出する発電電流検出手段と、上記消費電流検出手段で検出される消費電流と上記発電電流検出手段で検出される発電電流との差を積算する積算手段とから構成されることを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決する本発明の請求項3に係るアイドルストップ車両の制御装置は、請求項1又は2において、前記発電抑制制御手段は、上記所定条件として、減速時以外の場合に発電作動を抑制させることを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決する本発明の請求項4に係るアイドルストップ車両の制御装置は、請求項1又は2において、前記発電抑制制御手段は、上記所定条件として、上記電気負荷による消費電流と略同等の発電電流となるよう上記発電機を制御することを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決する本発明の請求項5に係るアイドルストップ車両の制御装置は、請求項1又は2において、上記発電抑制制御手段は、発電作動の抑制が一旦禁止となると、上記積算値が上記第1所定値よりも充電側の第3所定値になるまで、発電作動の抑制の禁止を継続することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に係るアイドルストップ車両の制御装置においては、所定の条件で発電機の発電作動が抑制されるため、該抑制時にはエンジンの発電機駆動負荷が軽減され燃費を向上できるし、充放電電流積算値が放電側に第1所定値以上である時は発電作動の抑制は禁止されるのでバッテリの放電が進むことなく、効率良く充電を優先させることができバッテリの過放電を適切に防止できる。
しかも、エンジンの自動停止を禁止する閾値となる第2所定値は第1所定値より放電側に設定されているため、発電抑制の禁止により積算値が第2所定値に達し難くすることができる。
このため、エンジンの自動停止機能に大きな影響を与えることなく発電抑制を行うことができ、総合的に燃費を向上できる。
【0013】
本発明の請求項2に係るアイドルストップ車両の制御装置においては、請求項1と同様な効果を奏するほか、請求項1における電流積算値検出手段をより具体的な手段で実現できるという効果を奏する。
【0014】
本発明の請求項3に係るアイドルストップ車両の制御装置においては、請求項1又は2と同様な効果を奏するほか、更に、減速時の回生エネルギを有効活用した発電を行いながらと燃費も向上できるという効果を奏する。
【0015】
本発明の請求項4に係るアイドルストップ車両の制御装置においては、請求項1又は2と同様な効果を奏するほか、更に、必要量だけ発電するのでバッテリの負担を最小限にしながら燃費を向上できるという効果を奏する。
【0016】
本発明の請求項5に係るアイドルストップ車両の制御装置においては、請求項1又は2と同様な効果を奏するほか、更に、バッテリの充電が優先されてバッテリを効率良く回復させることができるし制御ハンチングも防止できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のアイドリングストップ車両の制御装置は、例えば、図1に示すようにECU5等でハードウェア的に実現しても良いが、図2に示すフローチャートでソフトウェア的に実現しても良い。
【0018】
例えば、本発明の電流積算値検出手段、発電抑制制御手段及び自動停止制御手段は図1に示すECU5により具体的に実現することができ、ECU5はオルタネータ2の発電電流Igを検出する電流センサ6、電気負荷4の消費電流Icを検出する電流センサ7をそれぞれ消費電流検出手段、放電電流検出手段とし、消費電流Icと発電電流Igとの差ΔI(=Ic−Ig)を積算して、充放電電流積算値ΣI(=ΣI+ΔI)を求める積算手段を含むものである。
【0019】
また、ECU5である発電抑制制御手段は、充放電電流積算値が第1所定値と第3所定値の間において発電抑制制御を行い、更に、ECU5である自動停止制御手段は、第1所定値より放電側の第2所定値以上の時にはアイドルストップ禁止制御を行うものである。
【0020】
具体的には、図4に示すように、アイドリング禁止制御における閾値としての放電量と、アイドリングストップの累計80%の生じる放電量との間の差Mを使って発電抑制制御を行うものである。
この場合には、上記Mの範囲内で発電抑制制御を行い、発電抑制制御の放電分に上乗せしてアイドリングストップ禁止制御を行う。ただし、アイドリングストップ禁止となる放電積算値は、従来と同じが望ましい。
【実施例1】
【0021】
本発明の一実施例に係るアイドルストップ車両の制御装置について、図1及び図2を参照して説明する。
図1は本実施例のアイドルストップ車両の概略構成図、図2は制御過程を示すフローチャートである。
【0022】
図1に示すように、エンジン1には発電機(オルタネータ)2が設けられ、オルタネータ2はエンジン1により駆動され、バッテリ3及び電気負荷4に給電を行い、ECU5の指令に基づいて発電率が制御される。
充放電可能なバッテリ3にはオルタネータ2からの電力が供給されて充電されると共に、電気負荷4にはオルタネータ2及びバッテリ3から適宜電力が供給される。
【0023】
オルタネータ2からバッテリ3までの経路には電流センサ6が設けられ、電流センサ6によりオルタネータ2の発電電流Igが検出される。また、電流センサ6の電気負荷4側におけるバッテリ3から電気負荷4までの経路には電流センサ7が設けられ、電流センサ7により電気負荷4の消費電流Icが検出される。
また、バッテリ3には電圧センサ8が設けられ、電圧センサ8によりバッテリ3の電圧が検出される。そして、バッテリ3から給電されるスタータモータ11によりエンジン1が始動されるようになっている。
【0024】
ECU5は、図2(a)(b)に示すフローチャートに示すように、電流センサ6で検出されたオルタネータ2の発電電流Ig、電流センサ7で検出された電気負荷4の消費電流Icに基づいて、アイドルストップ制御と発電抑制制御を組み合わせて、最適な発電量になるように最小発電電力のDUTY0%から最大発電電力のDUTY100%の間でオルタネータ2を制御する。
【0025】
先ず、アイドリングストップ制御が許可か否か判定し(ステップS1)、アイドリングストップ制御が不許可の場合、つまり、アイドリングストップ禁止制御の場合には、自動的に発電抑制制御も不許可とする。
アイドリングストップ制御とは、所定のエンジン自動停止条件が成立するとエンジン1を自動的に停止する制御を言い、アイドリングストップ禁止制御とは、所定のエンジン自動停止条件が成立する場合でも、アイドリングストップ禁止条件が成立すると、エンジン1の自動停止を禁止する制御を言う。そして、この場合のアイドルストップ禁止条件は、充放電電流積算値がβAh以上であるという設定になっている。
【0026】
次に、アイドリングストップ制御が許可される状態のときには、発電抑制制御が許可(発電抑制制御許可=1)か否か判定する(ステップS2)。
発電抑制制御とは、所定の条件でオルタネータ2の発電作動を抑制する制御を言う。
【0027】
引き続き、発電抑制制御が許可されるときには、減速時(減速=1)か否か判定し(ステップS3)、減速時には目標DUTY100%で回生発電を行う(ステップS4)。
減速時の定義は、図2(b)に示す通りである。即ち、車速Vs>0km/hrであり(ステップT1)、かつ、アクセルペダルを全閉状態に戻している(ステップT2)場合である。
【0028】
減速時以外では、発電電流Ig=消費電流Icとなるように目標DUTYを±1%変化させる(ステップS6,8)。ここでは±1%としたが、100%以下の任意の数値でも良い。
但し、発電電流Igと消費電流Icとの差が小さいとき、即ち、Ic−Ig<k1が成り立ち(ステップS5)、Ic−Ig>k2が成り立つとき(ステップS7)は不感帯として、目標DUTYを操作しない(ステップS9)。
【0029】
更に、放電電流Icから発電電流Igを差し引いた充放電電流ΔI(=Ic−Ig)を求め(ステップS10)、更に、充放電電流ΔIを積算した充放電電流積算値ΣI(=ΣI+ΔI)を求める(ステップS11)。
但し、
g:発電電流
c:放電電流(消費電流)
ΔI=放電電流−発電電流
ΣI:電流積算値(+が放電、−が充電)
である。
【0030】
そして、充放電電流積算値ΣI(+が放電、−が充電)が、ΣI>αAhを満たすか否か判定し(ステップS12)、ΣI>αAh(α<β)を満たすときは、バッテリ3の放電がかなり進みすぎているので充電を優先すべく、発電抑制制御を取り消し、(発電抑制制御許可=0)、発電抑制制御を不許可とする(ステップS13)。
この後、発電抑制制御が不許可とステップS2で判定されると、目標DUTY100%で発電制御を行うことになる(ステップS16)。
【0031】
また、ΣI>αAhを満たさないと判定されたときは、充放電電流積算値ΣI≦0を満たすか否か判定し(ステップS14)、充放電電流積算値ΣIが0より小さいときには、発電抑制制御を許可(発電抑制制御許可=1、ステップS15)し、充放電電流積算値ΣIが0以上、α以下のときには(0≦ΣI≦α)、発電抑制制御の許可・不許可は変更しない。
結局、0<ΣI≦αAhのときには、既に発電抑制制御が許可されていれば、バッテリ3の放電は進みすぎていないから、オルタネータ2の駆動負荷を軽減すべく発電抑制制御許可(発電抑制制御許可=1)を継続し、発電抑制制御が不許可になっていれば、ΣI≦αAhになるまで不許可が継続することになる。
発電抑制制御許可のときには、上述したように、最適な発電量になるように最小発電電力のDUTY0%から最大発電電力のDUTY100%の間でオルタネータ2を制御する(ステップS3〜ステップS9)。
【0032】
このように説明したように、本実施例に係るアイドルストップ車両の制御装置によれば、例えば、充放電電流積算値ΣIが0からαAhになるまでは発電抑制制御を行い燃費を向上させることが出来る。
また、アイドリングストップ若しくは発電抑制制御により、αAhを越えて放電した場合には、発電抑制制御を禁止して目標DUTY100%で発電し、発電抑制制御で放電側に推移することがないようにできる。
【0033】
更に、充放電電流積算値ΣIがαAhを越えて放電側となったときには、発電抑制制御を禁止しているため、充電側へ移行し易くなり、アイドリングストップ禁止制御における閾値として設定される放電量β(>α)に相当する値を超えにくくなるので、アイドリングストップ禁止制御に至る可能性は低くなる。
つまり、アイドリングストップに大きな影響を与えることなく、発電抑制制御を行い総合的に燃費を向上できる。
【0034】
図3に、本実施例における実走行時の充放電電流積算値の挙動を示す。
図3に示すように、放電が進んだ場合に発電抑制制御禁止となり、過放電を未然に防止して、アイドルストップ禁止制御に至ることを防止できている。そのため、本実施例によれば、アイドルストップ制御と発電抑制制御の利点を最大限に活用でき、総合的な燃費が向上することが判る。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、アイドリングストップ車両の制御装置として広く利用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施例に係るアイドルストップ車両の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施例に係るアイドルストップ車両の制御過程を示すフローチャートである。
【図3】10・15モード5回連続時の充放電電流積算値の挙動を示すグラフである。
【図4】図4の下段は放電量に対するアイドリングストップの頻度(Frequency)の関係を示すグラフ、図4の上段は放電量に対するアイドリングストップの累計(Accumulation)との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0037】
1 エンジン
2 発電機(オルタネータ)
3 電機負荷
4 ECU
6,7 電流センサ
8 電圧センサ
11 スタータモータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動されバッテリ及び電気負荷に給電する発電機を備え、所定のエンジン自動停止条件が成立すると上記エンジンを自動的に停止させるアイドルストップ車両の制御装置において、上記バッテリの充放電電流積算値を検出する電流積算値検出手段と、所定の条件で上記発電機の発電作動を抑制させると共に、上記電流積算値検出手段により検出された上記積算値が放電側に第1所定値以上であるときは上記発電作動の抑制を禁止する発電抑制制御手段と、上記電流積算値検出手段により検出された上記積算値が上記第1所定値より放電側の第2所定値以上であるときは上記エンジン自動停止条件が成立しても上記エンジンの自動停止を禁止する自動停止制御手段とを備えたことを特徴とするアイドルストップ車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記電流積算値検出手段は、電気負荷の消費電流を検出する消費電流検出手段と、上記発電機により発電される発電電流を検出する発電電流検出手段と、上記消費電流検出手段で検出される消費電流と上記発電電流検出手段で検出される発電電流との差を積算する積算手段とから構成されることを特徴とするアイドルストップ車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記発電抑制制御手段は、上記所定条件として、減速時以外の場合に発電作動を抑制させることを特徴とするアイドルストップ車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1又は2において、前記発電抑制制御手段は、上記所定条件として、上記電気負荷による消費電流と略同等の発電電流となるよう上記発電機を制御することを特徴とするアイドルストップ車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1又は2において、上記発電抑制制御手段は、発電作動の抑制が一旦禁止になると、上記積算値が上記第1所定値よりも充電側の第3所定値になるまで禁止を継続することを特徴とするアイドルストップ車両の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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