説明

アクチュエータ

【課題】液圧源を備えていても鉄道車両の車体と台車の狭いスペースへの搭載が可能なアクチュエータを提供することである。
【解決手段】上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段におけるアクチュエータAは、鉄道車両の車体Bと台車Wとの間に介装されるシリンダCとシリンダCに液圧を供給する液圧源1とを備え、車体Bを台車Wに対して傾斜させるアクチュエータAであって、シリンダC内の二つの圧力室R1,R2を連通する流路14と、流路14の途中に設けた減衰力発生要素15と、同じく流路14の途中に設けた開閉弁16と、開閉弁16における弁体16aの背圧をドレーンするドレーン通路17と、ドレーン通路17の途中に設けられてドレーン通路17を選択的に開放および遮断するノーマルオープンの第一切換弁18と、同じくドレーン通路17の途中に設けられて選択的にドレーン通路17を開放および遮断する第二切換弁19とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車体と台車との間に介装されて車体を台車に対して傾斜させるアクチュエータの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が曲線区間を走行する場合、車体には曲線区間の曲率中心とは反対側に向く遠心力が作用する。この遠心力は、車両の走行速度が高くなればなるほど大きくなる。そこで、鉄道車両の軌道では、曲率中心側の内側レールと反対側の外側レールにカントと呼ばれる高低差を設けて、上記遠心力を緩和し、曲線走行時の鉄道車両の速度向上を図っている。
【0003】
しかしながら、カント量(各レールの高低差量)は一端設定されると変更することができず、走行速度が異なる鉄道車両が走行する線区では、高速走行する鉄道車両になればなるほど、カント量が不足して超過遠心力が鉄道車両に作用して、乗心地が悪化してしまうといった問題がある。
【0004】
そこで、近年では、振子式の車体傾斜装置や台車と車体との間に設けた気体バネを用いて車体を台車に対して傾斜させる車体傾斜装置を搭載するようにし、上記カント量不足による超過遠心力を緩和するため、鉄道車両が曲線区間を走行する際に、台車に対して車体を曲率中心側に傾けるようにして乗り心地の悪化を抑制することで、曲線区間での高速走行を実現している。
【0005】
このような車体傾斜装置にあっては、たとえば、車体と台車との間に制御シリンダといわれる空気圧で駆動される直動型のアクチュエータを介装し、このアクチュエータを伸縮させることで車体を台車に対して傾斜させるようになっている。また、車体傾斜装置では、車両速度が車体傾斜させる必要が無い程度に低い場合、カントの影響等によって車体が自然に傾斜してしまうと、乗り心地を悪化させてしまうため、車体傾斜を抑止する空気圧式の抑止シリンダを車体と台車との間に介装し、車体傾斜の必要が無い折には抑止シリンダで車体をロックするようにしている(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
また、この車体傾斜装置にあっては、特に積雪地帯を走行する際に、アクチュエータや抑止シリンダに付着した雪が当該アクチュエータや抑止シリンダの可動部分で圧縮されたり、アクチュエータや抑止シリンダが氷結したりしてアクチュエータや抑止シリンダの伸縮が阻害されるため、アクチュエータや抑止シリンダの全体を中空な振子梁内に収めるようにして、雪のアクチュエータや抑止シリンダへの付着や氷結を防止している。
【特許文献1】特開平8−268275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記アクチュエータは、その駆動を大きな圧縮性を持つ空気圧を利用して行うため、推力と応答性が不十分となって狙った車体傾斜角の確保が難しく、乗り心地を充分に向上することが難しいという問題を持っている。これを解消するには、アクチュエータには、空気圧ではなく、液圧で駆動するものを採用することが考えられる。
【0008】
ところが、アクチュエータおよび抑止シリンダが、鉄道車両が所持しているコンプレッサから供給される空気圧で駆動される形式であれば、アクチュエータおよび抑止シリンダ専用の空気圧源の設置が必要ないので、アクチュエータと抑止シリンダの両方を振子梁内の狭いスペースに収容することも可能であるが、アクチュエータをもともと鉄道車両に搭載されていない液圧源を使用して駆動する形式を採用する場合には、当該液圧源も上記振子梁内の狭いスペースに収容せねばならず装置全体が大型化してしまい、上記スペースへの収容が困難となってしまう。
【0009】
そこで、本発明は上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、液圧源を備えていても鉄道車両の車体と台車の狭いスペースへの搭載が可能であって、アクチュエータ機能、ダンパ機能および抑止シリンダ機能を併せ持つアクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段におけるアクチュエータは、鉄道車両の車体と台車との間に介装されるシリンダとシリンダに液圧を供給する液圧源とを備え、車体を台車に対して傾斜させるアクチュエータであって、シリンダ内の二つの圧力室を連通する流路と、流路の途中に設けた減衰力発生要素と、同じく流路の途中に設けた開閉弁と、開閉弁における弁体の背圧をドレーンするドレーン通路と、ドレーン通路の途中に設けられてドレーン通路を選択的に開放および遮断するノーマルオープンの第一切換弁と、同じくドレーン通路の途中に設けられて選択的にドレーン通路を開放および遮断する第二切換弁とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアクチュエータによれば、一つのシリンダをアクチュエータとしてもダンパとしても抑止シリンダとしても機能させるとともに、失陥時の要求にも応えることが可能であるので、液圧源を備えていても、アクチュエータの他に抑止シリンダを設ける必要のあった従来装置と比較して、大型とならず、車体と台車との間の狭いスペースへの搭載が可能となる。
【0012】
そして、従来装置と同等の鉄道車両への搭載性を確保しつつ、アクチュエータの作動流体を作動油等の液体とすることができるので、従来装置の問題であった、推進力不足を解消し、車体傾斜の応答性を向上させることができ、車両における乗り心地を飛躍的に向上することが可能となる。
【0013】
また、特に、このアクチュエータでは液圧源を備えていても従来装置と比較して大型とならないので、積雪地帯を走行する鉄道車両のように振子梁内へのアクチュエータの収容が充分に可能となる。
【0014】
さらに、一つのシリンダで鉄道車両がおかれている状況に適する機能を発揮させることができるので、抑止シリンダを別に備える必要が無く、アクチュエータを含む車体傾斜装置全体のコストを低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1は、一実施の形態におけるアクチュエータの液圧回路を示す図である。図2は、一実施の形態におけるアクチュエータを鉄道車両の車体と台車との間に介装した状態を示す図である。図3は、一実施の形態の一変形例におけるアクチュエータの液圧回路を示す図である。
【0016】
一実施の形態におけるアクチュエータAは、図1および図2に示すように、鉄道車両の車体Bと台車Wとの間に介装されるシリンダCと、シリンダCに液圧を供給する液圧源たる油圧ポンプ1と、シリンダCをダンパおよび抑止シリンダとしても機能させる抑止側回路13とを備えている。
【0017】
また、抑止側回路13は、シリンダC内の二つの圧力室R1,R2を連通する流路14と、流路14の途中に設けた減衰力発生要素15と、同じく流路14の途中に設けた開閉弁16と、開閉弁16における弁体16aの背圧をドレーンするドレーン通路17と、ドレーン通路17の途中に設けられてドレーン通路17を選択的に開放および遮断するノーマルオープンの第一切換弁18と、同じくドレーン通路17の途中に設けられて選択的にドレーン通路17を開放および遮断する第二切換弁19とを備えている。
【0018】
以下、各部について詳細に説明すると、シリンダCは、容器2と、容器2内に摺動自在に挿入されて容器2内に一方室R1および他方室R2の二つの圧力室を区画するピストン3と、ピストン3に連結されて容器2内に移動自在に挿入されるロッド4とを備えて構成され、一方室R1および他方室R2内には液体としての作動油が充填され、この実施の形態の場合、いわゆる両ロッド型の油圧シリンダとされている。なお、本実施の形態にあっては、シリンダCの作動には使用される液体は作動油とされているが、液体はアクチュエータAの作動に適するものであればよい。
【0019】
そして、油圧ポンプ1は、シリンダCをアクチュエータとして動作させるアクチュエータ回路5中に組み込まれ、アクチュエータ回路5は、ループ通路6と、ループ通路6中に設けた二つのソレノイド切換弁7,8と、ループ通路6から分岐する二つの分岐通路9,10と、分岐通路9,10のうち低圧側をアキュムレータ11に連通する低圧選択弁12とを備えて構成されている。
【0020】
詳細には、油圧ポンプ1は、シリンダCの一方室R1と他方室R2とを連通するループ通路6の途中に設けられ、この場合、双方向吐出型のポンプとして構成されている。なお、油圧ポンプ1で生じる漏れ油圧はアキュムレータ11で回収されるようになっている。
【0021】
また、ループ通路6の途中であって、油圧ポンプ1と一方室R1との間には、ノーマルクローズのソレノイド切換弁7が介装され、さらに、油圧ポンプ1と他方室R2との間にも、ノーマルクローズのソレノイド切換弁8が介装されている。
【0022】
ソレノイド切換弁7は、油圧ポンプ1と一方室R1とを連通する連通ポジションと、油圧ポンプ1から一方室R1への流れのみを許容する遮断ポジションとを備えたバルブ7aと、遮断ポジションを採るようにバルブ7aを附勢するバネ7bと、通電時にバルブ7aをバネ7bに対向して連通ポジションに切換えるソレノイド7cとを備えて構成され、他方のソレノイド切換弁8は、油圧ポンプ1と他方室R2とを連通する連通ポジションと、油圧ポンプ1から他方室R2への流れのみを許容する遮断ポジションとを備えたバルブ8aと、遮断ポジションを採るようにバルブ8aを附勢するバネ8bと、通電時にバルブ8aをバネ8bに対向して連通ポジションに切換えるソレノイド8cとを備えて構成されている。
【0023】
さらに、分岐通路9は、ループ通路6の途中であってソレノイド切換弁7と油圧ポンプ1との間から分岐し、他方の分岐通路10は、ループ通路6の途中であってソレノイド切換弁8と油圧ポンプ1との間から分岐しており、これら分岐通路9,10のうち、低圧側が低圧選択弁12によってアキュムレータ11へ連通される。
【0024】
低圧選択弁12は、分岐流路9をアキュムレータ11に連通する一方側連通ポジションと、分岐流路10をアキュムレータ11に連通する他方側連通ポジションと、分岐流路9,10の双方をアキュムレータ11に連通する双方連通ポジションとを備えたバルブ12aと、バルブ12aを他方側連通ポジションに切換えるように分岐流路9の圧力を作用させるパイロット通路12bと、バルブ12aを一方側連通ポジションに切換えるように分岐流路10の圧力を作用させるパイロット通路12cとを備え、中立位置では双方連通ポジションを採るように構成されている。
【0025】
したがって、分岐流路9側の圧力が分岐流路10側の圧力を上回ると、低圧選択弁12は、他方側連通ポジションを採って分岐流路10をアキュムレータ11に連通し、反対に、分岐流路10側の圧力が分岐流路9側の圧力を上回ると、低圧選択弁12は、一方側連通ポジションを採って分岐流路9をアキュムレータ11に連通する。
【0026】
すなわち、ソレノイド切換弁7,8をそれぞれ連通ポジションとして、開閉弁16が閉じている場合、油圧ポンプ1を一方室R1へ油圧を供給するように駆動すると、一方室R1内に油圧が供給されてシリンダCにおけるロッド4が、図1および図2中、右方へ推進され、車体Bを反時計周りに傾斜させることができ、反対に、ソレノイド切換弁7,8をそれぞれ連通ポジションとして、油圧ポンプ1を他方室R2へ油圧を供給するように駆動すると、他方室R2内に油圧が供給されてシリンダCにおけるロッド4が、図1および図2中、左方へ推進され、車体Bを時計周りに傾斜させることができる。つまり、当該アクチュエータAを、車体を傾斜させるアクチュエータとして機能させることができる。
【0027】
そして、油圧ポンプ1を一方室R1へ油圧を供給するように駆動する場合、油圧ポンプ1は、低圧側となる他方室R2から、あるいは、低圧選択弁12によって選択される分岐流路10を介してアキュムレータ11から、あるいは、その両方から作動油を吸い込んで、一方室R1側へ作動油を吐出する。反対に、油圧ポンプ1を他方室R2へ油圧を供給するように駆動する場合、油圧ポンプ1は、低圧側となる一方室R1から、あるいは、低圧選択弁12によって選択される分岐流路9を介してアキュムレータ11から、あるいは、その両方から作動油を吸い込んで、他方室R2側へ作動油を吐出する。
【0028】
したがって、油圧ポンプ1は、作動油の圧縮等による体積減少が生じても、アキュムレータ11から作動油の供給を受け、問題なく一方室R1および他方室R2のうち希望する圧力室へ油圧を供給することができる。
【0029】
また、シリンダCの推力発生方向が逆転する折には、一方室R1の圧力と他方室R2の圧力の高低が逆転するので、低圧選択弁12は、一端中立位置の双方連通ポジションを経由して切換わり、分岐流路9,10を一度アキュムレータ11に連通する。
【0030】
なお、低圧選択弁12は、作動油の温度上昇による内圧増大の防止、作動油の温度低下による負圧の防止、およびシリンダCの製作加工誤差による一方室R1と他方室R2の容積差によるアキュムレータからの作動油の供給等のために設けられている。
【0031】
また、この実施の形態の場合、シリンダCの変位(容器2に対するロッド4の変位)をセンシングするストロークセンサ30を備えており、ストロークセンサ30で検知するシリンダ変位に基づいて、図外の制御装置によって、油圧ポンプ1が駆動制御されるようになっており、このアクチュエータAの場合、車体傾斜角度が狙った角度になるように制御装置によって制御されることになる。
【0032】
つづいて、抑止側回路13について説明する。まず、シリンダC内の二つの圧力室R1,R2を連通する流路14は、減衰力発生要素15と開閉弁16とが設けられるメイン流路14aと、一方室R1からメイン流路14aに向かう流れのみを許容する一方側上流路14bと、他方室R2からメイン流路14aに向かう流れのみを許容する他方側上流路14cと、メイン流路14aから一方室R1へ向かう流れのみを許容する一方側下流路14dと、メイン流路14aから他方室R2へ向かう流れのみを許容する他方側下流路14eとを備えて構成されている。
【0033】
一方側上流路14bは、途中に一方室R1からメイン流路14aへ向かう作動油の流れのみを許容する逆止弁20を備え、この逆止弁20によって一方側上流路14bを一方室R1からメイン流路14aへ向かう一方通行の通路としている。他の他方側上流路14c、一方側下流路14d、他方側下流路14eの途中にも同様に、それぞれ逆止弁21,22,23が設けられ、それぞれ上記した通りの一方通行の通路となるように設定されている。
【0034】
本実施の形態にあっては、このように流路14が構成されることで、作動油は、メイン流路14aを一方側上流路14bおよび他方側上流路14cに接続されている方を上流として、一方側下流路14dおよび他方側下流路14eに接続されている下流側へ流れることになり、メイン流路14aも一方通行とされている。
【0035】
また、メイン流路14aの下流は、接続通路24を介して上述のアキュムレータ11に接続され、メイン流路14aの下流の圧力はアキュムレータ11と同圧となるように設定されている。
【0036】
そして、メイン流路14aの途中に設けられる減衰力発生要素15は、自身の上流側の圧力に応じて流路面積を調節する減衰バルブ15aと、当該減衰バルブ15に並列配置される固定絞り15bとで構成され、メイン流路14aの上流側の圧力が低いときには、減衰バルブ15aが開かず、作動油に固定絞り15bを通過させ、流量が増加して固定絞り15bによる圧力損失が大きくなり上流側の圧力が減衰バルブ15aのクラッキング圧を上回るようになると、減衰バルブ15aが開いて作動油は減衰バルブ15aをも介してメイン流路14aの下流側へ流れるようになる。このように、減衰力発生要素15は、作動油がメイン流路14aを流れる際に、この流れに減衰バルブ15aと固定絞り15bとで抵抗を与えて、シリンダCの伸縮を抑制する減衰力を発揮させる発生源として機能する。
【0037】
さらに、開閉弁16は、具体的には、弁体16aを有しており、弁体16aは、メイン流路14aの途中であって弁体16aの正面側に形成される弁座16bに附勢されて着座されている。また、弁体16aには、上記弁座16bよりも上流側の油圧を弁体16aの背面側に導く通路16cが設けられており、この通路16cの途中には絞り16dが設けられている。そして、この通路16cを介して、弁体16aの背面側、図1中では右端面側、に通過する作動油は、途中、第一切換弁18および第二切換弁19を介してドレーン通路17を通過してメイン流路14aの下流に排出されるようにしてある。
【0038】
他方、第一切換弁18は、スプリングオフセットのノーマルオープンの電磁式2位置切換弁として構成され、ドレーン通路17を開放する連通ポジションとドレーン通路17を遮断する遮断ポジションとを備えたバルブ18aと、連通ポジションを採るようにバルブ18aを附勢するバネ18bと、通電時にバルブ18aをバネ18bに対向して遮断ポジションに切換えるソレノイド18cとを備えて構成される。すなわち、第一切換弁18は、非通電時には連通ポジションを採って、弁体16aの背面側の作動油がドレーン通路17を介してメイン流路14aの下流への流れることを許容し、通電時には遮断ポジションを採って弁体16aの背面側の作動油がドレーン通路17を介してメイン流路14aの下流への流れることのみを阻止するようになっている。
【0039】
つづいて、第二切換弁19は、電磁式2位置切換弁として構成されており、詳しくは、ドレーン通路17を開放する連通ポジションとドレーン通路17を遮断する遮断ポジションとを備えたバルブ19aと、通電によって連通ポジションと遮断ポジションの切換が可能であって、非通電状態でも切換選択したポジションを維持する自己保持型のソレノイド19bとを備えて構成されている。また、第二切換弁19は、遮断ポジションにあっては、弁体16aの背面側の作動油がドレーン通路17を介してメイン流路14aの下流への流れることのみを阻止するようになっている。
【0040】
すなわち、この第二切換弁19にあっては、ソレノイド19bに通電することによって、連通ポジションと遮断ポジションとの交互に切換可能とされるとともに、図示しない永久磁石の磁力で直前の通電によって選択されたポジションを通電の維持を要せずに維持することが可能とされている。なお、第二切換弁19は、手動その他によって切換可能であって切換後に非通電であっても操作がなければ切換によって選択されたポジションを維持し続ける切換弁とされてもよい。
【0041】
そして、第二切換弁19は、連通ポジションを採る場合には、弁体16aの背面側の作動油がドレーン通路17を介してメイン流路14aの下流への流れることを許容し、遮断ポジションを採る場合には、弁体16aの背面側の作動油がドレーン通路17を介してメイン流路14aの下流への流れることを阻止するようになっている。
【0042】
このように、第一切換弁18あるいは第二切換弁19のいずれかが遮断ポジションを採る場合、ドレーン通路17が遮断されるため、開閉弁16の弁体16aの背面側の作動油は、メイン流路14aの下流へ移動できず、弁体16aの背圧がドレーンされないため、開閉弁16の弁体16aは弁座16bに着座したままロック状態となってメイン流路14aを遮断状態に維持することになり、第一切換弁18および第二切換弁19がともに連通ポジションをとるときのみドレーン通路17が開放されて開閉弁16の弁体16aの背面側の作動油がメイン流路14aの下流へ移動可能となって、弁体16aの背圧がドレーンされ、作動油が通路16cを通過する際の圧力損失によって弁体16aの正面側の圧力が背圧を上回って、弁体16aを後退させてメイン流路14aを開放状態にすることができる。
【0043】
なお、第一切換弁18および第二切換弁19における遮断ポジションにおいて、完全にドレーン通路17を遮断して双方向の流れを断つようにしてもよい。また、第一切換弁18および第二切換弁19の連通ポジションにおいては、図中にあるような固定絞りを設けなくともよいが、固定絞りを設けて作動油の通過に抵抗を与えることにより弁体16aが急激に移動しないようにして、開閉弁16の閉時における打音の発生や弁体16aのチャッタリングを防止することができる利点がある。
【0044】
そして、ソレノイド切換弁7,8が遮断ポジションであってアクチュエータ回路5側でシリンダCを駆動しない状態を考えると、開閉弁16がロックされてメイン流路14aが遮断状態に維持される場合、シリンダCの一方室R1と他方室R2との連通が断たれた状態となるので、シリンダCは伸縮不能なロック状態とされて、シリンダCを抑止シリンダとして機能させることができるようになる。
【0045】
さらに、ソレノイド切換弁7,8が遮断ポジションであってアクチュエータ回路5側でシリンダCを駆動しない状態を考えると、開閉弁16がアンロックされてメイン流路14aが開放状態に維持される場合、シリンダCが外力によって強制的に伸縮させられると、作動油は流路14を介して、一方室R1から他方室R2へ、あるいは、他方室R2から一方室R1へと移動可能となり、また、上記移動に際して必ずメイン流路14aの減衰力発生要素15を通過するので、シリンダCは外力による強制伸縮に対して伸縮を抑制する減衰力を発揮し、シリンダCをダンパとして機能させることができるようになる。
【0046】
なお、開閉弁16のロックおよびアンロックを問わず、シリンダCに伸縮方向の過大な入力があって、一方室R1あるいは他方室R2内の圧力が所定圧を超える異常高圧となると、減衰力発生要素15および開閉弁16を迂回してメイン流路14aの上流と下流とを連通するリリーフ弁25が開放動作して、異常高圧となった一方室R1あるいは他方室R2の一方の圧力を低圧側の他方へ逃がして、アクチュエータAのシステム全体を保護するようになっている。また、作動油の体積が減少する場合には、ソレノイド切換弁7,8が連通ポジション、遮断ポジションを問わずに一方室R1および他方室R2とアキュムレータ11との連通を許容するのでアキュムレータ11から一方室R1および他方室R2に作動油が供給されることになる。このように、この実施の形態のアクチュエータAでは、上記回路構成を採用することで、温度変化による作動油の体積補償される。このように、ソレノイド切換弁7,8における遮断ポジションにおいて、ループ通路6を遮断していても温度低下に伴う体積補償を行うことを可能とするためアキュムレータ11から一方室R1および他方室R2へ向かう流れを許容するようにしているが、当該体積補償をアクチュエータ回路5において行わない場合には、遮断ポジションにおいてループ通路6における双方向の流れを遮断するようにしてもよい。
【0047】
なお、この実施の形態においては、一方室R1および他方室R2からの作動油の流れに対して、減衰力発生要素15が設置されるメイン流路14aを一方通行に設定するために、上記したように、一方側上流路14b、他方側上流路14c、一方側下流路14dおよび他方側下流路14eを設置しているが、減衰力発生要素15が双方向流れを許容する場合には、図3に示すように、流路を単に一方室R1と他方室R2とを連通するループ状の流路26とし、この流路26の途中に双方向流れを許容する減衰力発生要素27と上述の開閉弁16を設け、さらに、開閉弁16の背圧をドレーンするドレーン通路28は、分岐させるとともに逆止弁29a,29bを介して、それぞれ一方室R1および他方室R2へ接続するようにしてもよい。
【0048】
さて、つづいて、このように構成されたアクチュエータAの作動について説明する。まず、鉄道車両が営業を終えて、パンタグラフを下げて車庫や留置線等の車両基地に滞泊、留置する場合、第二切換弁19のバルブ19aを遮断ポジションに切換える。なお、第二切換弁19へは、その後の通電を要せずに遮断ポジションに維持される。車両基地に滞泊、留置する場合には、上述のようにパンタグラフが下げられて、鉄道車両自体に全く電力供給されない状態とされるが、このような滞泊、留置状態では、アクチュエータAには、車体が横風などによって傾斜しないように、車体傾斜の阻止が要求される。
【0049】
これに対して、このアクチュエータAでは、第一切換弁18は連通ポジションとなるが、第二切換弁19のバルブ19aが遮断ポジションに切換えられることによって、開閉弁16はロックされ、また、アクチュエータ回路5におけるソレノイド切換弁7,8は車両に電力供給されないので、バネ7b,8bによって遮断ポジションに維持されるので、シリンダCはロック状態とされて、車体傾斜不能な状態に維持される。
【0050】
すなわち、鉄道車両が車両基地に滞泊、留置されて鉄道車両自体に全く電力供給されない状態にあっても、シリンダCはロックされて抑止シリンダとして機能して車体傾斜が阻止され、滞泊、留置時の要求を満足する。
【0051】
また、鉄道車両が営業を開始するため、車両基地にてパンタグラフを上げる場合、第二切換弁19のバルブ19aをソレノイド19cに一端通電して遮断ポジションから連通ポジションに切換える。なお、第二切換弁19へは、その後の通電を要せずに連通ポジションに維持される。
【0052】
営業を開始する場合、その後の車両の走行状態によって、第一切換弁18、ソレノイド切換弁7,8、油圧ポンプ1がそれぞれ以下のように駆動制御される。
【0053】
詳しく説明すると、(1)車両の走行速度が、たとえば、50km以下というように、低速度であって車体傾斜の必要が無い場合、車体傾斜を阻止するべく、抑止側回路13側では、第一切換弁18は、通電されて遮断ポジションとされて、シリンダCが抑止側回路13によって自由伸縮されないように維持しつつ、アクチュエータ回路5側によるシリンダCの駆動も成されないよう、ソレノイド切換弁7,8もそれぞれ非通電とされて遮断ポジションに維持され、油圧ポンプ1も駆動しない状態とされ、シリンダCは、車体傾斜を阻止する抑止シリンダとして機能する。
【0054】
(2)車両の走行速度が、たとえば、50km以上というように、高速度であって車体傾斜が必要とされる場合、抑止側回路13側では、第一切換弁18は、通電されて遮断ポジションとされて流路14を介しての一方室R1と他方室R2との連通が遮断された状態とされ、これに対して、アクチュエータ回路5側では、シリンダCを伸縮駆動させるべく、ソレノイド切換弁7,8がそれぞれ通電されて連通ポジションに切換えられ、油圧ポンプ1も駆動されて、車体Bを狙った角度に傾斜させるように、シリンダCの一方室R1あるいは他方室R2に油圧が供給されて伸縮駆動され、シリンダCは、車体傾斜をさせるアクチュエータとして機能する。このアクチュエータ機能を発揮する場合には、抑止側回路13のおける流路14を作動油が通過しないので、抑止側回路13がアクチュエータ回路5に干渉することが無く、シリンダCの伸縮の際に、作動油が流路14側に回りこんでエネルギ損失が生じてしまうことが防止される。
【0055】
(3)さらに、車両走行中にアクチュエータAへの電力供給を行えない状態、すなわち、失陥状態となった場合には、アクチュエータAには、車体Bが自然に傾斜することを許容するとともに、傾斜速度が速いと乗り心地を悪化させるので急激な車体傾斜を抑制するダンパ機能の発揮が要求される。
【0056】
そして、この場合、抑止側回路13では、第一切換弁18はバネ18bによって連通ポジションに維持され、第二切換弁19も上述のように連通ポジションに維持されているので、一方室R1と他方室R2とが流路14を介して連通状態とされる。他方のアクチュエータ回路5側では、ソレノイド切換弁7,8に通電されないので遮断ポジションに維持され、油圧ポンプ1も駆動しない状態となって、アクチュエータ回路5は、上記抑止側回路13に干渉しない状態となる。
【0057】
したがって、シリンダCにおける一方室R1と他方室R2とを作動油が行き来する際には、当該作動油の流れに減衰力発生要素15によって抵抗を与えることになるので、シリンダCはダンパとして機能することになる。
【0058】
すると、失陥時において鉄道車両がカント付きの曲線区間を走行する際には、アクチュエータAは、車体Bが曲率中心側へ自然に傾斜することを許容しつつ、車体Bの急激な傾斜を抑制するダンパ機能を発揮することになる。
【0059】
このように、鉄道車両が車両基地に滞泊、留置されて鉄道車両自体に全く電力供給されない状態ではシリンダCをロックしてアクチュエータAを抑止シリンダとして機能させる一方、走行中の失陥による電力供給されない状態に対しては、アクチュエータAを自然な車体傾斜を許容しつつ急激な傾斜を抑制するダンパとして機能させるのである。
【0060】
つまり、電力供給の無い二つの事象に対して、アクチュエータAは、その状況に応じて、抑止シリンダとしての機能とダンパとしての機能の異なる機能を発揮することが要求されるが、当該アクチュエータAは一つのシリンダCを用いて、これら要求に応えることができるとともに、車体傾斜時にはアクチュエータとしても機能する。
【0061】
すなわち、このアクチュエータAによれば、一つのシリンダCをアクチュエータとしてもダンパとしても抑止シリンダとしても機能させるとともに、失陥時の要求にも応えることが可能であるので、液圧源たる油圧ポンプ1を備えていても、アクチュエータの他に抑止シリンダを設ける必要のあった従来装置と比較して、大型とならないので、車体Bと台車Wとの間の狭いスペースへの搭載が可能となる。
【0062】
そして、従来装置と同等の鉄道車両への搭載性を確保しつつ、アクチュエータAの作動流体を作動油等の液体とすることができるので、従来装置の問題であった、推進力不足を解消し、車体傾斜の応答性を向上させることができ、車両における乗り心地を飛躍的に向上することが可能となる。
【0063】
また、特に、このアクチュエータAでは液圧源たる油圧ポンプ1を備えていても従来装置と比較して大型とならないので、積雪地帯を走行する鉄道車両のように振子梁内へのアクチュエータAの収容が充分に可能となる。
【0064】
さらに、このアクチュエータAは、一つのシリンダCで鉄道車両がおかれている状況に適する機能を発揮することができるので、ダンパや抑止シリンダを別に備える必要が無く、アクチュエータAを含む車体傾斜装置全体のコストを低減することが可能となる。
【0065】
なお、上記したところでは、車体傾斜の手法として、いわゆる振子式といわれる手法を採用する鉄道車両に、本実施の形態のアクチュエータAを適用しているが、車体Aと台車Wの間の左右のそれぞれに、二つのアクチュエータを縦置きに設置して、各アクチュエータを駆動して車体Bを傾斜させるような場合にも、本発明のアクチュエータAを適用することが可能であるのは当然である。
【0066】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】一実施の形態におけるアクチュエータの液圧回路を示す図である。
【図2】一実施の形態におけるアクチュエータを鉄道車両の車体と台車との間に介装した状態を示す図である。
【図3】一実施の形態の一変形例におけるアクチュエータの液圧回路を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1 液圧源たる油圧ポンプ
2 容器
3 ピストン
4 ロッド
5 アクチュエータ回路
6 ループ通路
7,8 ソレノイド切換弁
7a,8a,12a,18a,19a バルブ
7b,8b,18b バネ
7c,8c,18c ソレノイド
9,10 分岐通路
11 アキュムレータ
12 低圧選択弁
12b,12c パイロット通路
13 抑止側回路
14,26 流路
14a メイン流路
14b 一方側上流路
14c 他方側上流路
14d 一方側下流路
14e 他方側下流路
15,27 減衰力発生要素
15a 減衰バルブ
15b 固定絞り
16 開閉弁
16a 弁体
16b 弁座
16c 通路
16d 絞り
17,28 ドレーン通路
18 第一切換弁
19 第二切換弁
19b 自己保持型のソレノイド
20,21,22,23,29a,29b 逆止弁
24 接続通路
25 リリーフ弁
30 ストロークセンサ
A アクチュエータ
B 車体
C シリンダ
R1 圧力室たる一方室
R2 圧力室たる他方室
W 台車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車体と台車との間に介装されるシリンダとシリンダに液圧を供給する液圧源とを備え、車体を台車に対して傾斜させるアクチュエータにおいて、シリンダ内の二つの圧力室を連通する流路と、流路の途中に設けた減衰力発生要素と、同じく流路の途中に設けた開閉弁と、開閉弁における弁体の背圧をドレーンするドレーン通路と、ドレーン通路の途中に設けられてドレーン通路を選択的に開放および遮断するノーマルオープンの第一切換弁と、同じくドレーン通路の途中に設けられて選択的にドレーン通路を開放および遮断する第二切換弁とを備えたことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
流路は、減衰力発生要素と開閉弁が設けられるメイン流路と、一方の圧力室からメイン流路に向かう流れのみを許容する一方側上流路と、他方の圧力室からメイン流路に向かう流れのみを許容する他方側上流路と、メイン流路から一方の圧力室へ向かう流れのみを許容する一方側下流路と、メイン流路から他方の圧力室へ向かう流れのみを許容する他方側下流路とを備えてなることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
ドレーン通路は、一方側下流路あるいは他方側下流路に接続されることを特徴とする請求項2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
第二切換弁は、自己保持型ソレノイドで開放と遮断の切換える電磁式切換弁とされることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−137424(P2009−137424A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315569(P2007−315569)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】