説明

アクリルエマルジョンおよびその製造方法

【課題】種々素材に対して良好なヌレ性、相溶性、接着性を有するアクリルエマルジョンの製造方法を提供する。
【解決手段】α−メチルスチレンダイマー1.0モルに対し0.020〜0.400モルの重合開始剤を使用して、アクリル酸アルキルエステルを含むアクリル単量体が塊状重合したアクリルプレポリマーの存在下で、下記構造式で示される基を含む単量体、エポキシ基含むアクリル単量体、または特定の2級アミンを含むアクリル単量体を乳化重合するアクリルエマルジョンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
種々素材に対して良好なヌレ性、相溶性、接着性を有するアクリルエマルジョンおよびその製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂は、その原料となるアクリル単量体の種類が豊富で付着性、接着性、硬度、透明性、耐光性、耐候性、耐薬品性等の物理的性質、化学的性質を随意にコントロールできることから、ディスプレイ、レンズなどの光学用塗、光学フィルム用途、これらに使用する粘・接着剤用途、塗料、シーリング材、紙力増強剤、歯科材料、航空機や自動車部材の接着剤等、幅広く応用され、用いられている。
【0003】
アクリル樹脂は、一般に重合時の発熱が大きく、また重合が進むにつれ高粘度となるため、工業的には水や有機溶媒を媒体とする溶液重合や乳化重合、懸濁重合などの除熱が比較的容易な方法で製造されることが多い。また、鋳込み等特殊な用途で使用される場合には部分重合したシロップとして使用されることもある。
【0004】
アクリル単量体のラジカル重合を利用してアクリルマクロモノマーを製造方法、およびABCまたはABAブロック共重合体の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に開示されている技術は、メタクリル酸アルキルエステル、および、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、3級アミノ基などを有するメタクリル単量体が共重合されるものであり、例えば、ポリプロピレン樹脂、ナイロン樹脂、ノリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、PPS樹脂などの有機高分子材料市場で主要な位置を占めるプラスチック類、あるいは、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂などとの相溶性、ヌレ性、接着性などの機能向上に配慮されていない。
【0006】
特許文献1が提案する技術では、アクリル単量体に対する2,4−ジフェニル−1−4−メチル−1−ペンテンおよび重合開始剤の使用量が示されているが、2,4−ジフェニル−1−4−メチル−1−ペンテン(α−メチルスチレンダイマー)に対する重合開始剤の使用量は規定されていない。したがって、ラジカル重合でアクリルマクロモノマー、およびアクリル共重合体を製造する際の除熱が大きい課題となり、アクリルマクロモノマーおよびアクリル共重合体の製造方法が限定される。すなわち、除熱が容易な有機溶剤を媒体とする溶液重合または水を媒体とする乳化重合などの製造方法でアクリルマクロモノマーおよびアクリル共重合体を製造する場合に限定される。
【0007】
特許文献1に提案されている技術に従いアクリルマクロモノマーおよびアクリル共重合体を溶液重合で製造する場合には、製造中の攪拌、除熱の懸念から低分子量で、有機溶剤を多量に含む低濃度のアクリルマクロモノマーおよびアクリル共重合体のみが製造可能であり、用途限定されるばかりでなく、工業的にメリットが少ない。多量の有機溶剤を含有することは、環境負荷の観点からも好ましくない。
【特許文献1】特開2000−169531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
難接着性とされる無極性プラスチックであるポリプロピレンに代表されるポリオレフィン、極性を有しエンジニアリングプラスチックとして広く使用されているナイロンに代表されるポリアミドなどの種々素材に対して、良好なヌレ性、相溶性、接着性を有するアクリルエマルジョンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、α−メチルスチレンダイマー1.0モルに対し0.020〜0.400モルの重合開始剤を使用して、下記構造式で示される
【0010】
【化1】

【0011】
(ここで、R1は炭素原子数4〜12個のアルキル基を表す。)
アクリル酸アルキルエステルを含むアクリル単量体が塊状重合したアクリルプレポリマーの存在下で、下記構造式で示される
【0012】
【化2】

【0013】
(ここで、Xは水素原子またはメチル基を表し、Yは下記の化学構造
【0014】
【化3】

【0015】
または、下記の化学構造
【0016】
【化4】

【0017】
(ここで、R2は水素原子(H)、または、下記の化学構造
【0018】
【化5】

【0019】
【化6】

【0020】
【化7】

【0021】
を表す。)を表す。)
1種以上のビニル単量体を含むアクリル単量体を乳化重合するアクリルエマルジョンの製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、アクリル酸アルキルエステルを含むアクリル単量体を塊状重合したアクリルプレポリマーの存在下、特定の嵩高い化学構造を有する化合物を乳化重合するアクリルエマルジョンの製造方法であり、本発明により得られるアクリルエマルジョンは、難接着性とされる無極性プラスチックであるポリプロピレンに代表されるポリオレフィン、極性を有しエンジニアリングプラスチックとして広く使用されているナイロンに代表されるポリアミドなどの種々素材に対して良好なヌレ性、相溶性、接着性を有する。
【0023】
本発明で製造されるアクリルエマルジョンは、例えば、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂などの異種高分子材料の相溶化ポリマーとして有用である。また、本発明で製造されるアクリルエマルジョンは、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタンウイスカーなどの機能性補強材とマトリックス樹脂との分散安定化や相溶性、接着性を高めてより高強度な複合材料を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、α−メチルスチレンダイマー1.0モルに対し0.020〜0.400モルの重合開始剤を使用して、下記構造式で示される
【0025】
【化8】

【0026】
(ここで、R1は炭素原子数4〜12個のアルキル基を表す。)
アクリル酸アルキルエステルを含むアクリル単量体が塊状重合したアクリルプレポリマーの存在下で、下記構造式で示される
【0027】
【化9】

【0028】
(ここで、Xは水素原子またはメチル基を表し、Yは下記の化学構造
【0029】
【化10】

【0030】
または、下記の化学構造
【0031】
【化11】

【0032】
(ここで、R2は水素原子(H)、または、下記の化学構造
【0033】
【化12】

【0034】
【化13】

【0035】
【化14】

【0036】
を表す。)を表す。)
1種以上のビニル単量体を含むアクリル単量体を乳化重合するアクリルエマルジョンの製造方法である。
【0037】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーの製造に使用されるα−メチルスチレンダイマーは、下記構造式で示され、
【0038】
【化15】

【0039】
2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンである。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、α−メチルスチレンダイマーは、日本油脂(株)、五井化成(株)、本州化学工業(株)、旭化成ファインケム(株)などで製造され、上市されているものを任意に選択し、使用することができる。
【0040】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマー製造時に使用するα−メチルスチレンダイマーは、好ましくは、アクリルプレポリマーに使用するアクリル単量体の80重量%以上がアクリレートモノマーであるとき、可逆的付加開列型連鎖移動剤(一般にRAFT剤といわれる。RAFTはReversible Addition-Fragmentation Chain Transferの略である。以下、RAFT剤ともいう。)として作用し、適切な重合条件をとれば重合率の増加とともに直線的に数平均分子量が増大するいわゆるリビングラジカル重合でラジカル重合反応が進行する。
【0041】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマー製造に使用される重合開始剤は、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物、2,2´−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]などの有機アゾ系重合開始剤などが例示できる。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、これらの重合開始剤は、単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0042】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、これらの重合開始剤のなかでは、好ましくは、2,2´−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]などの有機アゾ系重合開始剤が推奨され、アクリルプレポリマー製造時の安全性が確保され、プレポリマーとしてのラジカル重合性が良好となる。
【0043】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、α−メチルスチレンダイマー1.0モルに対し、重合開始剤を0.020〜0.400モル、好ましくは、0.050〜0.335モル、さらに好ましくは、0.010〜0.250モル使用するのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、重合開始剤の使用量が0.020モル未満の場合には、アクリルプレポリマー製造時に工業的にリーズナブルな製造時間で、実用的に満足できる重合率が得られない。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、重合開始剤の使用量が0.400モルを超える場合には、アクリルプレポリマー製造時の除熱、攪拌が困難となり、アクリルプレポリマーを安全に、安定して製造することができない。
【0044】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーの実用的に満足できる重合率は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であるのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーの重合率が85%以上であれば、アクリルエマルジョン製造中に凝集物の発生が少なく、ポリプロピレンやナイロンに対する相溶性、ヌレ性によりシャープな性能を発揮するアクリルエマルジョンが製造される傾向が見られる。
【0045】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマー製造時の重合温度制御をより安全に行うために、重合開始剤は、アクリルプレポリマーに使用するアクリル単量体100重量部に対して、好ましくは、0.05〜5重量部、より好ましくは、0.08〜3重量部、さらに好ましくは、0.10〜2.5重量部使用するのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、重合開始剤の使用量が0.05〜5重量部のとき、異常な重合反応や急激な発熱が起こりにくくなる傾向が見られる。
【0046】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーは塊状重合で製造される。
【0047】
本発明のアクリルプレポリマーの製造方法では、アクリルプレポリマーを製造する塊状重合とは、アクリル酸アルキルエステルを含むアクリル単量体、α−メチルスチレンダイマー、および、α−メチルスチレンダイマー1.0モルに対し0.020〜0.4000モル使用される重合開始剤をアクリルプレポリマー製造容器に仕込み、所定の重合温度に加熱し、攪拌、温度制御を行いながら、所定の重合率になるまでラジカル重合を行う製造方法である。
【0048】
一般的な塊状重合の場合には、急激に発生する大きい重合熱と、重合の進行とともに急激に上昇する粘度のため、攪拌、除熱が困難となり、暴走反応や爆発に至ることが多々見られる。重大災害に繋がる危険をはらんでおり、安全に、安定して生産することが最大の使命である工業生産では課題が多い。また、攪拌、除熱不足は、局部的加熱によるポリマーの焼け、高重合度化など品質の悪化を起こしやすい。
【0049】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーの製造が、α−メチルスチレンダイマー1.0モルに対し、重合開始剤を0.020〜0.400モル使用して塊状重合が行われるため、アクリルプレポリマー製造時の攪拌、除熱不足による暴走反応、局部加熱による品質の悪化などの懸念が払拭され、安全に、安定してアクリルプレポリマーを製造できる。
【0050】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、α−メチルスチレンダイマーは、好ましくは、可逆的付加開裂型連鎖移動剤として、および、重合抑制剤として作用する。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマー製造時に、α−メチルスチレンダイマー1.0モルに対し、重合開始剤を0.020〜0.400モル使用することで、α−メチルスチレンダイマーの重合抑制剤としての機能がジシクロペンテニルオキシエチルアクリレートを含むアクリル単量体の重合速度を適性に制御し、急速な重合反応による急激な発熱、粘度上昇を緩和し、工業的レベルでの温度制御が可能となり安全、安定してアクリルプレポリマーが製造できる。
【0051】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマー製造容器の不活性ガス置換された気相部酸素濃度が、好ましくは、0.0vol%≦気相部酸素濃度≦8.0vol%、より好ましくは、0.02vol%≦気相部酸素濃度≦8.0vol%、さらにより好ましくは、0.02vol%≦気相部酸素濃度≦6.0vol%の雰囲気下に実施されるのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマー製造時の気相部酸素濃度が0.0vol%≦気相部酸素濃度≦8.0vol%であれば、気相部でアクリル単量体が重合反応を起こすことがなく、安全に、効率よくアクリルプレポリマーを製造することができる。
【0052】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法のでは、アクリルプレポリマー製造時の重合系中の酸素濃度は、「デジタル酸素濃度計 XO−326ALB」(新コスモス電機(株)の酸素濃度測定器)を使用し測定した。また、本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、本発明で使用される不活性ガスは、窒素ガス、ヘリウムガスなど市販されているもののなかから任意に選択することができる。
【0053】
さらに、本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマー製造時の不活性ガスまたは不活性ガス/空気の混合ガスの吹き込みを行って気相部酸素濃度を制御する場合には、不活性ガスまたは不活性ガス/空気の混合ガスがアクリル単量体のラジカル重合が開始されない程度に十分低い温度であることが推奨される。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、この観点から、不活性ガスまたは不活性ガス/空気の混合ガスの温度は低ければ低いほど望ましいが、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは25℃以下であることが推奨される。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、不活性ガスまたは不活性ガス/空気の混合ガスの温度が好ましくは40℃以下であれば、アクリルプレポリマー製造容器気相部に存在するアクリル単量体蒸気が冷却され、アクリル単量体がアクリルプレポリマー製造容器気相部、器壁、コンデンサー等でラジカル重合を起こしにくくなる傾向が見られ、アクリルプレポリマー製造がより安全に実施できる傾向が見られる。
【0054】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーを製造する重合温度は、好ましくは、50〜100℃、より好ましくは、60〜100℃、さらに好ましくは、70〜98℃であるのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマー製造時の重合温度が50〜100℃のとき、攪拌、除熱が定量的に実施できる傾向が見られ、安全、安定して製造が可能である傾向が見られる。また、例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチルのような比較的低沸点のアクリル単量体を共重合する場合であっても、製造中にモノマー蒸気が大量に発生することがなくより安全に製造が可能となる傾向が見られる。
【0055】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーの製造は、所定重合温度まで、好ましくは、60〜300分、より好ましくは、90〜300分、さらに好ましくは、90〜180分かけて昇温し、塊状重合を行うのが推奨される。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマー製造時において、所定重合温度までの昇温時間が好ましくは60〜300分のとき、ラジカル重合反応が定量的に、より速く進み、攪拌、除熱がいっそう容易となり、より安全に製造作業が実施できる傾向が見られる。本発明のアクリルエマルジョンの製造法方法では、特筆すべきは、アクリルプレポリマー製造時の昇温時間が90分以上であれば、α−メチルスチレンダイマーのRAFT剤としての機能がよりいっそう顕著となり、重合率の増加とともに直線的に数平均分子量が増大する傾向が見られ、アクリルプレポリマーの製造がリビングラジカル重合で進行する傾向が顕著となる。すなわち、製造されたアクリルプレポリマーを乳化重合時に使用することで、ABブロック共重合体の生成が容易となり、ポリプロピレン、ナイロンなどに対する相溶性、ヌレ性、接着性がいっそう改善される傾向が見られる。
【0056】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーは、下記構造式で示される
【0057】
【化16】

【0058】
(ここで、R1は炭素原子数4〜12個のアルキル基を表す。)
アクリル酸アルキルエステルを含むアクリル単量体を使用する。
【0059】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリル酸アルキルエステルは、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸イソボルニルなどが例示される。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、これらのアクリル単量体は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0060】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、これらのアクリル酸アルキルエステルのなかでは、好ましくは、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニルが例示される。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーに、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニルなどの嵩高い脂環式構造を有するアクリル単量体が使用されることで、アクリルエマルジョンのポリプロピレン、ナイロンなどへの相溶性、ヌレ性、接着性が向上する。
【0061】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーに使用されるアクリル酸アルキルエステルは、アクリルプレポリマーに使用されるアクリル単量体の合計量を100重量%として、好ましくは、20〜100重量%、より好ましくは、20〜98重量%、さらに好ましくは、30〜95重量%使用されるのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーに使用されるこれらのアクリル酸アルキルエステルの使用量が20〜100重量%のとき、アクリルエマルジョンのポリプロピレン、ナイロンなどへの相溶性、ヌレ性、接着性が向上する。
【0062】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーには、下記構造式で示される
【0063】
【化17】

【0064】
(ここで、R1は炭素原子数4〜12個のアルキル基を表す。)
アクリル酸アルキルエステルの他にも、好ましくは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ターシャリーブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸イソボルニルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシル基含有アクリルル単量体、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノメタクリレートなどの水酸基含有アクリル単量体、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートなどの3級アミノ基含有アクリル単量体、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジンなどのヒンダードアミノ基含有アクリル単量体、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、ダイアセトンアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、4−メタクリルアミドエチルエチレンウレアなどのアミド基含有アクリル単量体、2−メタクリロイルオキシエチル−エチレンウレアなどのウレア基含有アクリル単量体、アクリル酸グリシジル、アクリル酸メチルグリシジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチルグリシジル、ビニルベンジルグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有アクリル単量体、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシアクリレート、ジシクロペンテニルオキシメタクリレートなどのジシクロペンタジエン誘導体アクリル単量体などのアクリル単量体が使用できる。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、これらのアクリル単量体は、単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0065】
本発明のアクリルエマルジョンの製造法方法では、アクリルプレポリマーに使用される下記構造式で示される
【0066】
【化18】

【0067】
(ここで、R1は炭素原子数4〜12個のアルキル基を表す。)
アクリル酸アルキルエステル以外のアクリル単量体のなかでは、アクリルプレポリマーの製造をリビングラジカル重合で行い、ラジカル重合活性なアクリルプレポリマーを製造するために、アクリレート単量体の使用が推奨される。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーに好ましく使用されるアクリレート単量体は、アクリル酸、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、ダイアセトンアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミドなどのアクリルアミド誘導体、アクリル酸グリシジル、ビニルベンジルグリシジルエーテル、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレートなどが例示される。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、これらのアクリレート単量体が使用されれば、アクリルプレポリマーの製造がリビングラジカル重合で進行し、ラジカル重合活性なアクリルプレポリマーとなって、乳化重合でブロック共重合体が効率よく製造できる傾向が見られる。
【0068】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーの数平均分子量は、好ましくは、500〜80000、より好ましくは、1000〜60000、さらに好ましくは、2000〜60000であるのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーの数平均分子量が、好ましくは、500〜80000のとき、アクリルエマルジョンのポリプロピレン、ナイロン、ポリエステルなどへの相溶性、ヌレ性、接着性が向上する傾向が見られる。
【0069】
ここで、本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)「HLC−8220GPC」(東ソー(株)の試験装置)を使用し、キャリアーをテトラヒドロフラン、分子量スタンダードとしてポリスチレンを用い測定した。
【0070】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、本発明で用いられるアクリルプレポリマーは、通常、ラジカル重合活性なアクリル共重合体となる。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーの存在下に新たなアクリル単量体をラジカル重合するので、アクリルプレポリマー(Aセグメント)と新たにラジカル重合したアクリル単量体から製造されるアクリルポリマー(Bセグメント)とからなるABブロック共重合体が生成する場合が多い。
【0071】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルプレポリマーの存在下で、下記構造式で示される
【0072】
【化19】

【0073】
(ここで、Xは水素原子またはメチル基を表し、Yは下記の化学構造
【0074】
【化20】

【0075】
または、下記の化学構造
【0076】
【化21】

【0077】
(ここで、R2は水素原子(H)、または、下記の化学構造
【0078】
【化22】

【0079】
【化23】

【0080】
【化24】

【0081】
を表す。)を表す。)
1種以上のビニル単量体を含むアクリル単量体を乳化重合してアクリルエマルジョンを製造する。
【0082】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、下記構造式で示される
【0083】
【化25】

【0084】
(ここで、Xは水素原子またはメチル基を表し、Yは下記の化学構造
【0085】
【化26】

【0086】
または、下記の化学構造
【0087】
【化27】

【0088】
(ここで、R2は水素原子(H)、または、下記の化学構造
【0089】
【化28】

【0090】
【化29】

【0091】
【化30】

【0092】
を表す。)を表す。)
ビニル単量体としては、Xが水素原子のとき、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル、アクリル酸、アクリル酸グリシジル、4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、N−(2−アクリロイルエチル)エチレンウレア、Xがメチル基のとき、メタクリル酸、メタクリル酸グリシジル、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアなどが例示される。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、これらのビニル単量体は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0093】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、これらのビニル単量体のなかでは、アクリルエマルジョンの耐薬品性、耐水性などの化学的性質、架橋性の点から、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル、メタクリル酸、メタクリル酸グリシジル、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアが望ましい。
【0094】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、これらのビニル単量体は、アクリルプレポリマーとの合計量を100重量%として、好ましくは、0.5〜60重量%、より好ましくは、0.5〜55重量%、さらに好ましくは、0.5〜50重量%使用するのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、ビニル単量体の使用量が0.5〜60重量%のとき、アクリルエマルジョンの架橋性、貯蔵安定性が向上し、ポリプロピレン、ナイロンなどの高分子材料、ガラス繊維、炭素繊維などの無機素材に良好な相溶性、ヌレ性、接着性を発揮する傾向が見られる。
【0095】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、ビニル単量体として好ましく用いられるo−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル(以下、ビニルベンジルグリシジルエーテルとも言う)は、乳化重合に使用されるアクリル単量体の合計量を100重量%として、好ましくは3〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは5〜25重量%使用するのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテルの使用量が3〜50重量%のとき、アクリルエマルジョンのナイロン、ポリエステルのような極性ポリマーへの相溶性、ヌレ性がより一層向上する傾向が見られ、架橋性がより一層向上して強靱なポリマーとなる傾向が見られる。
【0096】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、特定のアクリルプレポリマーの存在下で、特定のビニル単量体を含むアクリル単量体を乳化重合する。
【0097】
すでに記載したように、本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、特定のビニル単量体のなかでは、アクリルエマルジョンの耐薬品性、耐水性などの化学的性質、架橋性の点から、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル、メタクリル酸、メタクリル酸グリシジル、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアが望ましい。
【0098】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、メタクリル酸は、乳化重合に使用するアクリル単量体の合計量を100重量%として、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは3〜16重量%、さらに好ましくは5〜12重量%使用するのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、メタクリル酸の使用量が1〜25重量%のとき、アクリルエマルジョン製造時に凝集が起こりにくくなる傾向が見られる。また、アクリルエマルジョンの凝集力が向上し、鉄、アルミニウム合金、ガラス、モルタルなどの金属、無機材料へのヌレ性、接着性が向上する傾向が見られる。
【0099】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、メタクリル酸グリシジルは、乳化重合に使用するアクリル単量体の合計量を100重量%として、好ましくは3〜50重量%、より好ましくは3〜45重量%、さらに好ましくは3〜30重量%使用するのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、メタクリル酸グリシジルの使用量が3〜50重量%のとき、アクリルエマルジョンのナイロン、ポリエステルのような極性ポリマーへの相溶性、ヌレ性が向上する傾向が見られ、架橋性が向上して強靱なポリマーとなる傾向が見られる。また、同時に、鉄、アルミニウム合金、ガラス、モルタルなどの金属、無機材料へのヌレ性、接着性が向上する傾向が見られる。
【0100】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンは、乳化重合に使用するアクリル単量体の合計量を100重量%として、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは3〜28重量%、さらに好ましくは3〜25重量%使用するのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの使用量が0.5〜30重量%のとき、アクリルエマルジョンのナイロン、ポリエステルのような極性ポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリオレフィン類への相溶性、ヌレ性が向上する傾向が見られ、架橋性が向上して強靱なポリマーとなる傾向が見られる。また、炭素繊維、ガラス繊維、チタンウィスカーなどの機能繊維のマトリックス樹脂中への分散性、接着性を向上し、強靱な繊維強化複合材料を与える傾向が見られる。
【0101】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアは、乳化重合に使用するアクリル単量体の合計量を100重量%として、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは1.5〜28重量%、さらに好ましくは3〜25重量%使用するのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアの使用量が1〜30重量%のとき、アクリルエマルジョンのナイロン、ポリエステルのような極性ポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリオレフィン類への相溶性、ヌレ性が向上する傾向が見られ、架橋性が向上して強靱なポリマーとなる傾向が見られる。また、炭素繊維、ガラス繊維、チタンウィスカーなどの機能繊維のマトリックス樹脂中への分散性、接着性を向上し、強靱な繊維強化複合材料を与える傾向が見られる。
【0102】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、乳化重合するアクリル単量体が、下記構造式で示される
【0103】
【化31】

【0104】
ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートを含むことが望ましい。
【0105】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートは、「FANCRYL FA−512M」(日立化成工業の製品)、「QM−657」(ロームアンドハース社の製品)など上市されているもののなかから任意に選択できる。
【0106】
本発明のアクリルエマルジョンでは、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートは、乳化重合に使用するアクリル単量体の合計量を100重量%として、好ましくは20〜98重量%、より好ましくは20〜95重量%、さらに好ましくは30〜95重量%使用するのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートの使用量が20〜98重量%のとき、アクリルエマルジョンの相溶性、ヌレ性、接着性などの機能がいっそう良化する傾向が見られる。
【0107】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、好ましくは、嵩高い分子構造およびジシクロペンタジエンに由来するアリル性不飽和結合を有するジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートが使用されることにより、ポリプロピレン樹脂、ナイロン樹脂、ノリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、PPS樹脂などの有機高分子材料市場で主要な位置を占めるプラスチック類、あるいは、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂など種々素材への相溶性、接着性、ヌレ性が改善、向上する傾向が見られる。また、鉄、アルミニウム、マグネシウム、チタンなどの合金類との接着性が良好であり、優れた防錆性を発揮する傾向が見られる。
【0108】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、特定のアクリルプレポリマーの存在下、特定のビニル単量体を含むアクリル単量体を乳化重合して製造する。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、乳化重合は、モノマー滴下法、エマルジョン滴下法、シード乳化重合などよく知られているいずれの乳化重合で製造してもよい。
【0109】
乳化重合は、通常、アクリル単量体を水中に安定に乳化、分散するためにドデシルベンゼンスルホン酸などの陰イオン性乳化剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどの非イオン性乳化剤を使用し、あるいは陽イオン性乳化剤を使用し、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの水溶性過硫酸塩を重合開始剤とし、重合温度30〜100℃で行われる。
【0110】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、好ましくは水溶性有機アゾ系重合開始剤を使用し、好ましくは分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤を使用し乳化重合するのが望ましい。
【0111】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、乳化重合に水溶性有機アゾ系重合開始剤が使用されるとき、乳化重合中および製造されるアクリルエマルジョンのpHが、通常、4.0〜10.0となり、乳化重合中およびアクリルエマルジョン保存中に、例えば、エポキシ基、アルコキシシラン基など機能性ポリマーとして有用な官能基で、高活性な官能基が反応により消失することがなく、製造されるアクリルエマルジョンを高活性で、機能性の高いポリマーとして長期にわたり使用できる傾向が見られる。
【0112】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、乳化重合時および製造されるアクリルエマルジョンのpH/25℃は、好ましくは、4.0〜10.0、より好ましくは、4.5〜9.8、さらに好ましくは、4.5〜9.7であることが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、乳化重合時および製造されるアクリルエマルジョンのpH/25℃が、好ましくは、4.0〜10.0のとき、乳化重合中および製造されたアクリルエマルジョンの保存中に活性で、機能付与に有効な官能基が消失することなく、相溶化ポリマー、接着剤などとして適用されるまで長期にわたり安定に保持される傾向が見られる。
【0113】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、水溶性有機アゾ系重合開始剤として、下記構造式で示される
【0114】
【化32】

【0115】
2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]などの分子中にイミダゾリン基を有する水溶性有機アゾ系重合開始剤、下記構造式で示される
【0116】
【化33】

【0117】
2,2−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、下記構造式で示される
【0118】
【化34】

【0119】
2,2−アゾビス[2−メチル−N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレートなどの分子中にアミド基−C(O)NH−、アミジン基−C(N)NH−を有する水溶性有機アゾ系重合開始剤などが例示される。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、これらの水溶性有機アゾ系重合開始剤は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0120】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、アクリルエマルジョンのpHを好ましくは4.0〜10.0に調節するために、好ましくは下記構造式で示される
【0121】
【化35】

【0122】
2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]が推奨される。
【0123】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、水溶性有機アゾ系重合開始剤は、乳化重合するビニル単量体を含むアクリル単量体の合計量を100重量部として、好ましくは0.1〜5.0重量部、より好ましくは0.15〜2.5重量部、さらに好ましくは0.2〜2.0重量部使用するのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、水溶性有機アゾ系重合開始剤の使用量が0.1〜5.0重量部のとき、凝集物の発生が少なく、重合速度も適度に調節されて未反応モノマー量が少なくなる傾向が見られる。
【0124】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤は、上市されているものの中から任意に選択することができる。上市されている分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤としては、「ラテムルPD−104」(ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム)(花王の製品)、「アクアロンKH−1025」(第一工業製薬の製品)、「アデカリアソーブSR−1025」((α−スルホ−ω−((1−アルコキシメチル−2−プロペニルオキシ)エトキシ−ポリオキシ−1,2−エタンジイル)のアンモニウム塩の25%水溶液)(旭電化工業の製品)などが例示される。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、これらの分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0125】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、乳化重合用乳化剤として分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤が使用されるとき、乳化安定性がよく、残存モノマーの少ないアクリルエマルジョンが製造される傾向が見られる。
【0126】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、より好ましくは、下記構造式で示される
【0127】
【化36】

【0128】
(ここで、R2は炭素原子数8〜24個のアルキル基を表す。)
分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤が推奨される。
【0129】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、下記構造式で示される
【0130】
【化37】

【0131】
(ここで、R2は炭素原子数8〜24個のアルキル基を表す。)
分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤として、「アデカリアソーブSR−1025」などが例示される。
【0132】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、さらに好ましくはR2が−C1123である(α−スルホ−ω−((1−ウンデカンオキシメチル−2−プロペニルオキシ)エトキシ−ポリオキシ−1,2−エタンジイル)のアンモニウム塩が望ましい。
【0133】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、これらの分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤が使用されるとき、乳化安定性がきわめて良好で、残存モノマー量の少ないアクリルエマルジョンが製造される傾向が見られる。また、アクリルエマルジョンの粒子径コントロールが容易であり、機能性が高められたアクリルエマルジョンが製造できる傾向が見られる。
【0134】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤は、アクリルプレポリマー、ビニル単量体を含むアクリル単量体、および、分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤の合計量を100重量%として、好ましくは1〜20重量%、より好ましくは1.5〜20重量%、さらに好ましくは1.8〜16重量%使用されるのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤の使用量が1〜20重量%のとき、乳化安定性が良好で、乳化重合がスムースに進行し、凝集物の少ないアクリルエマルジョンが製造できる傾向が見られる。
【0135】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法で製造したアクリルエマルジョンは、乳化重合に水溶性有機アゾ系重合開始剤、分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤を使用したとき、ビニル単量体の官能基がカルボキシル基の場合には(例えば、メタクリル酸)、アクリルエマルジョンのpH/25℃が4.0〜7.0となり、ビニル単量体の官能基がエポキシ基の場合には(例えば、ビニルベンジルグリシジルエーテル、メタクリル酸グリシジル)、アクリルエマルジョンのpH/25℃が6.0〜8.0となり、ビニル単量体の官能基がアミノ基の場合には(例えば、4−メタクリロイルオキシエチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン)、アクリルエマルジョンのpH/25℃が8.0〜10.0となり、ビニル単量体の官能基がウレア基の場合には(例えば、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア)、アクリルエマルジョンのpH/25℃が7.0〜10.0となる。
【0136】
このことから、本発明のアクリルエマルジョンの製造方法で製造したアクリルエマルジョンでは、通常、アクリルプレポリマー(A)がアクリルエマルジョン粒子内殻により多く存在し、乳化重合するビニル単量体を含むアクリル単量体からなるポリマー(B)がアクリルエマルジョン粒子外殻により多く存在する、さらにAとBとが炭素原子−炭素原子の共有結合で結合したABブロック共重合体であると推察される。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法で製造したアクリルエマルジョンは、この特異なアクリルエマルジョン構造、および、ポリマーモルホロジーを有するため、ポリプロピレン、ポリイソプレンに代表されるポリオレフィン、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ノニル樹脂などに代表されるエンジニアリングプラスチック、および、これらのポリマーアロイなどに対する相溶性、ヌレ性および接着性がより強調され発現されるものと推察される。同時に、鉄、アルミニウム合金、銅合金、チタン合金、マグネシウム合金などへのヌレ性や接着性、防蝕性が発揮される。
【実施例】
【0137】
以下に実施例で本発明の詳細を説明する。なお、以下の実施例では、評価方法、測定方法等を次の通りとした。
【0138】
1)加熱残分(%)
JIS K 5407:1997にしたがって測定した。なお、測定は140℃で1時間加熱乾燥した。
【0139】
2)重合率(%)
JIS K 5407:1997にしたがって加熱残分を測定、これを重合率とした。なお、測定は140℃で1時間加熱乾燥した。
【0140】
3)pH/25℃
pHメーターを使用して25℃で測定した。
【0141】
4)粒子径(nm)
大塚電子製の濃厚粒径アナライザー「FPAR−1000」を使用して測定した。
【0142】
5)数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)「HLC−8220GPC」(東ソー(株)の試験装置)を使用し、キャリアーをテトラヒドロフラン、分子量スタンダードとしてポリスチレンを用い測定した。分子量分布は、Mw/Mnで算出した。
【0143】
6)付着性
JIS K 5400:1997にしたがって碁盤目試験を行った。
【0144】
アクリルエマルジョンをイオン交換水で濃度が20%になるよう希釈し、「DYNOL406」(エアー・プロダクツ社の塗料添加剤;消泡、ヌレ剤)を1.0%添加した後、ポリプロピレン製テストピースに塗膜厚が10μmになるよう塗布した。140℃で30分間乾燥し、付着性試験を行った。
【0145】
7)酸素濃度(vol%)
デジタル酸素濃度計XO−326ALB(新コスモス電機(株)の測定装置)を使用して測定した。
【0146】
8)アクリルプレポリマーのリビングラジカル重合性
アクリルプレポリマー製造中にサンプリングを行い重合率−数平均分子量のグラフを作成した。重合率の増加に対し数平均分子量がほぼ直線的に増加したものをリビングラジカル重合性が良好(○)とした。一方、数平均分子量が重合初期からほとんど増加しない場合はリビングラジカル重合性が不良(△)、または、数平均分子量が減少したものをリビングラジカル重合性なし(×)とした。○の場合に、アクリルエマルジョン製造に適しており、合格とした。
【0147】
9)耐溶剤性
アクリルエマルジョンをイオン交換水で濃度が20%になるよう希釈し、「DYNOL406」(エアー・プロダクツ社の塗料添加剤;消泡、ヌレ剤)を1.0%添加した後、ポリプロピレン製テストピースに塗膜厚が10μmになるよう塗布した。140℃で30分間乾燥した。アセトンを含ませた脱脂綿で塗膜を擦り、塗膜の溶解状態を評価した。
○ 50回以上擦っても塗膜に変化はなかった。耐溶剤性良好で合格とした
△ 20回で、塗膜が白化したが溶解はしなかった。合格とした
× 数回擦っただけで塗膜が溶解した。耐溶剤性不良で不合格とした。
【0148】
10)アクリルエマルジョンの安定性
アクリルエマルジョンを23℃で1週間静置し、分離、沈殿の状態を評価した。
○ 分離、沈殿せず、安定であった(合格)
× 分離が起こり、上層部にクリア層ができた(不合格)。
【0149】
実施例1
攪拌機、窒素ガス吹き込み口、還流冷却器、温度センサーを備えた2L四つ口フラスコに窒素ガスを吹き込みフラスコ内の酸素濃度が3.0vol%以下であることを確認した。以後、アクリルプレポリマーP−1製造中は窒素ガスの吹き込みを継続した。フラスコ内気相部温度は25℃であった。
【0150】
フラスコに、アクリル酸シクロヘキシル1000g、α−メチルスチレンダイマー(MSD)28.5g、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)10.0gを仕込んだ。このとき、アクリル単量体混合物の液温は22℃、気相部酸素濃度は2.0vol%以下であった。昇温を開始し、30℃から重合温度の95℃まで120分で昇温した。昇温後、8時間重合を行い、アクリルプレポリマーP−1を塊状ラジカル重合で製造した。
【0151】
アクリルプレポリマーP−1製造中は、急激な発熱、粘度上昇は見られず、安全に製造できた。また、アクリルプレポリマーは良好なリビングラジカル重合性を示した。
【0152】
アクリルプレポリマーP−1は、重合率98.5%、数平均分子量25200、重量平均分子量46600、分子量分布1.85であった。
【0153】
重合処方の詳細、アクリルプレポリマーP−1の特性値等を表1に示した。なお、表中、(1)はアクリル単量体、(2)RAFT剤であるα−メチルスチレンダイマー(MSD)、(3)は重合開始剤、(4)はアクリルプレポリマーの重合条件、(5)はアクリルプレポリマーの特性値を示した。
【0154】
攪拌機、窒素ガス吹き込み口、還流冷却器、温度センサーを備えた1L四つ口フラスコに窒素ガスの吹き込みを行い、フラスコ内を窒素ガス置換した。この後、アクリルエマルジョンAE−1製造中は窒素ガスの吹き込みを継続した。
【0155】
アクリルエマルジョンAE−1の組成、製造方法、特性値を表3に示した。フラスコに、窒素ガスのバブリングを行いあらかじめ脱酸素した表3の(3)イオン交換水(初期仕込み)118.5gを仕込み、昇温を開始した。60℃で表3の(5)重合開始剤2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]1.0gを添加し、60分間60℃で攪拌を行い、重合開始剤をイオン交換水に溶解した。昇温を開始し、63℃に昇温した。
【0156】
表3の(1)アクリルプレポリマーP−125g、(2)アクリル単量体混合物(ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート65g、イソボルニルメタクリレート5g、メタクリル酸5g)75g、(3)イオン交換水(乳化用)45.1g、(4)「アデカリアソーブSR−1025」(旭電化工業製の分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤)21.1gの混合物を、乳化機を使用し、5000回転で10分間乳化し、プレエマルジョンを製造した。
【0157】
プレエマルジョンの30重量%をフラスコに添加し、75℃に昇温した。75℃で60分間乳化重合を行った後、プレエマルジョンの残量70重量%を2時間でフラスコ内にフィードした。フィード終了後、さらに60分間乳化重合を行い、40℃以下に冷却し、(3)イオン交換水(希釈用)114.3gを添加してアクリルエマルジョンAE−1を製造した。
【0158】
アクリルエマルジョンAE−1は、加熱残分は24.2%、pH/25℃は4.6、粒子径は110nmであった。
【0159】
表3に示した通り、アクリルエマルジョンAE−1は、アクリルプレポリマーにアクリル酸シクロヘキシルが、アクリルエマルジョンにジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートが使用されているため、ポリプロピレンへの相溶性、ヌレ性、付着性が良好であった。アクリルエマルジョンの安定性も良好であった。耐溶剤性は、実用上は許容できる範囲であった。
【0160】
表3中、(1)はアクリルプレポリマー、(2)は、アクリル単量体、(3)はイオン交換水、(4)アデカリアソーブSR−1025は分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤である「アデカリアソーブSR−1025」(旭電化工業製)、(5)は分子中にイミダゾリン結合を有する水溶性有機アゾ系重合開始剤(2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン])、(6)はアクリルエマルジョンの特性値、(7)はポリプロピレンに対する付着性、耐溶剤性、およびアクリルエマルジョンの安定性を示した。
【0161】
実施例2〜20
アクリルプレポリマーの組成、製造条件を表1(アクリルプレポリマーP−2〜P−4)の通り変える以外は実施例1と同様にしてアクリルプレポリマーP−2〜P−4を製造した。アクリルエマルジョンの組成、製造方法を表3(アクリルエマルジョンAE−2〜AE−7)、表4(アクリルエマルジョンAE−8〜AE−13)、表5(アクリルエマルジョンAE−14〜AE−20)の通り変える以外は実施例1と同様にしてアクリルエマルジョンAE−2〜AE−20を製造した。
【0162】
表1中、(1)はアクリル単量体、(2)RAFT剤であるα−メチルスチレンダイマー、(3)は重合開始剤、(4)はアクリルプレポリマーの重合条件、(5)はアクリルプレポリマーの特性値を示した。
【0163】
表3、表4、表5中、(1)はアクリルプレポリマー、(2)はアクリル単量体、(3)はイオン交換水、(4)アデカリアソーブSR−1025は分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤である「アデカリアソーブSR−1025」(旭電化工業製)、(5)は分子中にイミダゾリン結合を有する水溶性有機アゾ系重合開始剤(2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン])、(6)はアクリルエマルジョンの特性値、(7)はポリプロピレンに対する付着性、耐溶剤性、および、アクリルエマルジョンの安定性を示した。
【0164】
表1に示したとおり、アクリルプレポリマーは攪拌、除熱など製造上の問題、トラブルなく安全に製造できた。また、良好なリビングラジカル重合性を示した。
【0165】
表3、表4、表5に示したとおり、アクリルエマルジョンも何らの問題なく製造できた。また、アクリルプレポリマーにアクリル酸シクロヘキシルが、アクリルエマルジョンにジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートが使用されているため、ポリプロピレンへの相溶性、ヌレ性が良好で、付着性に優れていた。アクリルエマルジョンの安定性も良好であった。官能基としてカルボキシル基(メタクリル酸)、エポキシ基(メタクリル酸グリシジル、ビニルベンジルグリシジルエーテル)を使用したアクリルエマルジョンは実用上問題とならないレベルの耐溶剤性を示した。
【0166】
アミノ基(4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン)、ウレア基(N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア)は良好な耐溶剤性を示した。
【0167】
カルボキシル基含有アクリル単量体(メタクリル酸)を乳化重合したアクリルエマルジョンはpH/25℃が低くなり酸性サイドとなった。エポキシ基含有アクリル単量体(メタクリル酸グリシジル、ビニルベンジルグリシジルエーテル)を乳化重合したアクリルエマルジョンはpH/25℃が中性〜弱アルカリ性になった。アミノ基含有アクリル単量体(4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン)を乳化重合したアクリルエマルジョンはpH/25℃がアルカリサイドとなった。ウレア基含有アクリル単量体(N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア)を乳化重合したアクリルエマルジョンはpH/25℃が弱アルカリ性〜アルカリ性になった。全てのアクリルエマルジョンがリビングラジカル重合で製造したアクリルプレポリマーの存在下で乳化重合を行い、ブロック共重合体を製造するというコンセプト通りとなり、設計通りのpH/25℃を示した。
【0168】
製造したアクリルエマルジョンは良好な耐溶剤性を示した。特に、アミノ基含有アクリル単量体(4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン)を乳化重合したアクリルエマルジョン、ウレア基含有アクリル単量体(N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア)を乳化重合したアクリルエマルジョンは耐溶剤性が良好であった。さらに、表5に示したとおり、アクリルプレポリマーにも官能基が使用されている場合、優れた耐溶剤性を有していた。
【0169】
比較例1
攪拌機、窒素ガス吹き込み口、還流冷却器、温度センサーを備えた2L四つ口フラスコに窒素ガスを吹き込みフラスコ内の酸素濃度が3.0vol%以下であることを確認した。以後、アクリルプレポリマーP−5製造中は窒素ガスの吹き込みを継続した。フラスコ内気相部温度は25℃であった。
【0170】
フラスコに、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート1000g、α−メチルスチレンダイマー95.0g、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)10.0gを仕込んだ。このとき、アクリル単量体混合物の液温は22℃、気相部酸素濃度は2.0vol%以下であった。昇温を開始し、30℃から重合温度の85℃まで120分で昇温した。昇温後、4時間重合を行い、アクリルプレポリマーP−5を塊状ラジカル重合で製造した。
【0171】
アクリルプレポリマーP−5製造中は、急激な発熱、粘度上昇は見られず、安全に製造できた。アクリルプレポリマーP−5製造中、重合率の上昇とともに数平均分子量の低下が起こった。アクリルプレポリマーP−5はリビングラジカル重合性を示さなかった。
【0172】
アクリルプレポリマーP−5は、重合率98.8%、数平均分子量8300、重量平均分子量18500、分子量分布2.23であった。
【0173】
重合処方の詳細、アクリルプレポリマーP−5の特性値等を表2に示した。なお、表中、(1)はアクリル単量体、(2)はRAFT剤であるα−メチルスチレンダイマー、(3)は重合開始剤、(4)はアクリルプレポリマーの重合条件、(5)はアクリルプレポリマーの特性値を示した。アクリルエマルジョンAE−21の組成、製造方法、特性値を表6に示した。
【0174】
攪拌機、窒素ガス吹き込み口、還流冷却器、温度センサーを備えた1L四つ口フラスコに窒素ガスの吹き込みを行い、フラスコ内を窒素ガス置換した。この後、アクリルエマルジョンAE−21製造中は窒素ガスの吹き込みを継続した。
【0175】
フラスコに、窒素ガスのバブリングを行いあらかじめ脱酸素した表5の(3)イオン交換水(初期仕込み)118.5gを仕込み、昇温を開始した。60℃で表5の(5)重合開始剤2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]1.0gを添加し、60分間60℃で攪拌を行い、重合開始剤をイオン交換水に溶解した。昇温を開始し、63℃に昇温した。
【0176】
表6の(1)アクリルプレポリマーP−525g、(2)アクリル単量体混合物(ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート65g、イソボルニルメタクリレート5g、メタクリル酸5g)75g、(3)イオン交換水(乳化用)45.1g、(4)「アデカリアソーブSR−1025」(旭電化工業製の分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤)21.1gの混合物を乳化機を使用し、5000回転で10分間乳化し、プレエマルジョンを製造した。
【0177】
プレエマルジョンの30重量%をフラスコに添加し、75℃に昇温した。75℃で60分間乳化重合を行った後、プレエマルジョンの残量70重量%を2時間でフラスコ内にフィードした。フィード終了後、さらに60分間乳化重合を行い、40℃以下に冷却し、(3)イオン交換水(希釈用)114.3gを添加してアクリルエマルジョンAE−21を製造した。
【0178】
アクリルエマルジョンAE−21は、加熱残分は23.4%、pH/25℃は4.6、粒子径は580nmであった。アクリルエマルジョンAE−21は粒子径が異常に大きく、アクリルエマルジョンの安定も不良であった。また、耐溶剤性が実用に供するには劣っていた。
【0179】
表6中、(1)はアクリルプレポリマー、(2)はアクリル単量体、(3)はイオン交換水、(4)アデカリアソーブSR−1025は分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤である「アデカリアソーブSR−1025」(旭電化工業製)、(5)は分子中にイミダゾリン結合を有する水溶性有機アゾ系重合開始剤(2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン])、(6)はアクリルエマルジョンの特性値、(7)はポリプロピレンに対する付着性、耐溶剤性、および、アクリルエマルジョンの安定性を示した。
【0180】
比較例2〜4
アクリルプレポリマーの組成、製造条件を表2(アクリルプレポリマーP−5〜P−8)の通り変える以外は比較例1と同様にしてアクリルプレポリマーP−5〜P−8を製造した。アクリルエマルジョンの組成、製造方法を表6(アクリルエマルジョンAE−21〜AE−24)の通り変える以外は比較例1と同様にしてアクリルエマルジョンAE−21〜AE−24を製造した。
【0181】
表2中、(1)はアクリル単量体、(2)RAFT剤であるα−メチルスチレンダイマー、(3)は重合開始剤、(4)はアクリルプレポリマーの重合条件、(5)はアクリルプレポリマーの特性値を示した。
【0182】
表6中、(1)はアクリルプレポリマー、(2)はアクリル単量体、(3)はイオン交換水、(4)アデカリアソーブSR−1025は分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤である「アデカリアソーブSR−1025」(旭電化工業製)、(5)は分子中にイミダゾリン結合を有する水溶性有機アゾ系重合開始剤(2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン])、(6)はアクリルエマルジョンの特性値、(7)はポリプロピレンに対する付着性、耐溶剤性、および、アクリルエマルジョンの安定性を示した。
【0183】
表2のアクリルプレポリマーP−8の製造に見られるとおり、RAFT剤であるα−メチルスチレンダイマーと重合開始剤の使用量比が適切でない場合、急激で大きい重合熱のためアクリルプレポリマーの塊状重合は実施できなかった。
【0184】
アクリルエマルジョンAE−21〜AE−24は、使用されるアクリルプレポリマーP−5、P−6、P−7にアクリル酸アルキルエステル単量体が使用されていないため、アクリルエマルジョンの粒子内ポリマーのマクロ相分離を原因とすると思われるが、粒子径が異常に肥大化し、分離、沈殿傾向が起こった。アクリルエマルジョンAE−21〜AE−24は1週間以内で、エマルジョンのクリア層分離が起こった。
【0185】
表6に示したとおり、アクリルエマルジョンAE−21〜AE−24はアクリルプレポリマー、エマルジョンともにジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートが使用されているため、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートの分子構造に起因してポリプロピレンへの相溶性、ヌレ性、付着性が良好であった。一方、アクリルプレポリマーにアクリル酸アルキルエステル単量体が使用されていないため、アクリルプレポリマーの製造がリビングラジカル重合で進行せず、したがって、アクリルエマルジョンAE−21〜AE−24はアクリルプレポリマーと乳化重合したアクリル単量体との混合物となっており、このためアクリルエマルジョン粒子が肥大化し安定性が悪化した。また、耐溶剤性も実用レベルに遠くおよばないものとなった。
【0186】
【表1】

【0187】
【表2】

【0188】
【表3】

【0189】
【表4】

【0190】
【表5】

【0191】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−メチルスチレンダイマー1.0モルに対し0.020〜0.400モルの重合開始剤を使用して、下記構造式で示される
【化1】

(ここで、R1は炭素原子数4〜12個のアルキル基を表す。)
アクリル酸アルキルエステルを含むアクリル単量体が塊状重合したアクリルプレポリマーの存在下で、下記構造式で示される
【化2】

(ここで、Xは水素原子またはメチル基を表し、Yは下記の化学構造
【化3】

または、下記の化学構造
【化4】

(ここで、R2は水素原子(H)、または、下記の化学構造
【化5】

【化6】

【化7】

を表す。)を表す。)
1種以上のビニル単量体を含むアクリル単量体を乳化重合するアクリルエマルジョンの製造方法。
【請求項2】
重合開始剤として水溶性有機アゾ系重合開始剤を使用し、乳化剤として分子中にアリル基を有する陰イオン性反応性乳化剤を使用する請求項1に記載のアクリルエマルジョンの製造方法。
【請求項3】
乳化重合するアクリル単量体が、下記構造式の
【化8】

ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートを含む請求項1または2のいずれかに記載のアクリルエマルジョン。

【公開番号】特開2010−84106(P2010−84106A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257912(P2008−257912)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】