説明

アクリル系合成繊維およびその製造方法ならびに繊維製品

【課題】アクリル系合成繊維の製造時の操業性および加工性を損なうことなく、優れた保温性を有するアクリル系合成繊維およびその製造方法を提供する。
【解決手段】アクリル系重合体が繊維軸方向に沿って3層以上接合された多層構造を有するアクリル系複合繊維であって、該複合構造が遠赤外線放射微粒子含有量5重量%以上30重量%以下である層11および遠赤外線放射微粒子含有量1重量%以下の層12を含み、繊維全体の遠赤外線放射微粒子含有量が3重量%以上15重量%以下であることを特徴とするアクリル系合成繊維およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遠赤外線を多く放射し、保温性良好なアクリル系合成繊維およびその製造方法ならびに繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冬季にはその寒さをしのぐため、厚くかつ重い衣服を着用していた。しかし、近年は特に若年層でファッション性を重視する傾向が強まり、冬季でも薄着であることが多くなった。そのため、薄くても保温性が高い保温下着の需要が高まっている。
【0003】
従来の保温下着は伸縮性良好な生地を起毛し、空気層を設けることにより保温性を確保していたが、さらにその保温性を高めるため、通常より多くの遠赤外線を発生する繊維の開発が進められている。
【0004】
例えば、特許文献1では遠赤外線を発生する微粒子をアクリル系合成繊維全体に均一に練り込んでいる。保温効果を得るためには練り込み量を多くする必要があり、一方練り込み量を多くすると繊維製造時の操業性(主に口金圧上昇率)および加工性(紡績性)が悪化しやすい。そこで、特許文献2にあるように芯鞘構造とし、芯部に高濃度の蓄熱剤を練り込むなどの方法が試みられている。この方法であれば加工性は問題ないと思われるが、精密な口金を用いるため、口金ユニット自体が高価格になり、加えて口金圧上昇率が大きく、操業性に劣る。
【0005】
また、特許文献3は遠赤外線放射セラミックスを含有させてなる繊維であり、基本的に特許文献1と同様に繊維中に均一に微粒子を練り込んでいるが、微粒子含有紡糸原液と微粒子不含紡糸原液を使用して複合紡糸することができることも記載されている。しかしながら、ここでの複合紡糸においては、特許文献2と同様に精密な口金が必要であり口金ユニット自体が高価格で操業性が劣る(口金圧上昇率が大きい)。
【特許文献1】特公平4−74454号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2000−96346号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特許第2580715号公報(特許請求の範囲、第4欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では従来のアクリル系合成繊維の製造時の操業性および加工性を損なうことなく、優れた保温性を有するアクリル系合成繊維およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討した結果、遠赤外線放射微粒子(以後、遠赤微粒子と略す)を繊維に均一に練り込むのではなく、少なくとも一つの遠赤微粒子を5重量%以上30重量%以下含むアクリル系重合体、および少なくとも一つの遠赤微粒子を1重量%以下含むアクリル系重合体を繊維軸方向に沿って3層以上に接合して複合紡糸するというように遠赤微粒子を繊維中に局在化して存在させることにより製造時の操業性および製品加工時の加工性と遠赤外線放射性(保温性)を両立できることを見いだした。
【0008】
すなわち本発明は、アクリル系重合体が繊維軸方向に沿って3層以上接合された多層構造を有するアクリル系複合繊維であって、該複合構造が遠赤微粒子含有量5重量%以上30重量%以下である層および遠赤微粒子含有量1重量%以下の層を含み、繊維全体の遠赤微粒子含有量が3重量%以上15重量%以下であることを特徴とするアクリル系合成繊維であり、さらに 少なくとも一つの遠赤微粒子含有量5重量%以上30重量%以下のアクリル系重合体、および少なくとも一つの遠赤微粒子含有量1重量%以下のアクリル系重合体を、繊維軸方向に沿って3層以上に接合して複合紡糸することを特徴とする請求項1記載のアクリル系合成繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、遠赤微粒子を層状に局在化することにより、微粒子同士の距離が小さくなり遠赤微粒子同士の相互作用により、繊維全体に遠赤微粒子を均一に練り込んだ場合より高い遠赤外線放射効果が得られる。また、芯鞘繊維のように複雑な口金を用いることがなく製造できるので、操業性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明で使用するアクリル系重合体としては、アクリロニトリルを30重量%以上含有するアクリル系ポリマーで繊維形成能を有していれば良い。アクリロニトリル以外の共重合成分としてはアクリル酸、メタクリル酸およびそれらのアルキルエステル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、スチレン、塩化ビニリデンなどのビニル系化合物の他に、ビニルスルホン酸、アクリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、パラスチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸およびそれらの塩類を用いることができる。
【0012】
上記アクリル系重合体は懸濁重合、溶液重合、乳化重合等のいずれの方法によって製造されたものでもよい。また、溶媒は上記アクリル系重合体を溶解するものであればよく、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトン等の有機系溶媒や硝酸、ロダン酸ソーダ、塩化亜鉛等の無機塩水溶液等の無機系溶媒が好ましく用いられる。
【0013】
本発明で使用する遠赤微粒子としては、遠赤外線を多く放射する微粒子であれば、いずれも使用することができるが、本発明では実施例に記載の方法で測定した場合、γ−アルミナを超える遠赤外線量を発生する微粒子のことをいう。このような微粒子としてはAl、Si、Li、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wの窒化吻、珪化物、炭化物及び酸化物のいずれかを1種以上含む混合物が挙げられ、好ましくは、Al、Si、Mg、Zr、Crの珪化物、炭化物及び酸化物から選ばれる1種以上の化合物の混合物である。好ましい具体例としては、炭化珪素、炭化ジルコニウム、アルミノケイ酸ナトリウム、トルマリンなどが挙げられ、最も好ましくは、アルミノケイ酸ナトリウムおよび/もしくはトルマリンである。なお、遠赤微粒子の粒径は0.3〜2.0μmの範囲であることが好ましい。これは通常、アクリル繊維に遠赤微粒子を練り込む場合、溶媒に分散し、分散液として練り込むが(以降、この遠赤微粒子分散液を遠赤分散液と略す)、0.3μm未満であると遠赤分散液調製時に凝集しやすく、2.0μmを超えると遠赤微粒子が繊維断面積の大きな部分を占めることになり、繊維強度が低下する場合がある。さらに好ましくは0.4〜0.7μmである。この範囲であれば、分散性、繊維強度ともに良好である。
【0014】
本発明のアクリル系複合繊維は、遠赤微粒子含有量5重量%以上30重量%以下である層および遠赤微粒子含有量1重量%以下の層を含み、繊維全体の遠赤微粒含有量が3重量%以上15重量%以下であることが重要である。
【0015】
ここで遠赤微粒子含有量5重量%以上30重量%以下のアクリル系重合体は、遠赤微粒子濃度が5重量%未満であると遠赤外線放射効果が発揮できない。含有量は好ましくは8〜20重量%、さらに好ましくは10〜15重量%である。遠赤微粒子が多いほど遠赤外線放射効果は強くなるが、その反面、口金圧が上がり易くなるなど操業性が悪化し、繊維強度も低下する場合があるので、30重量%以下にすることにより操業性が良好で繊維強度も優れた繊維を得ることができる。一方、遠赤微粒子含有量1重量%以下のアクリル系重合体は、好ましくは遠赤微粒子を全く含まないアクリル系重合体であり、含んだとしても1重量%以下を含むものである。さらに、繊維全体に含まれる遠赤微粒子濃度は3重量%以上15重量%以下である必要がある。遠赤微粒子を層状に練り込むことで効果的に遠赤外線を放射させることはできるが、その場合でも3重量%未満では遠赤外線放射効果が小さい。15重量%以下とすることにより繊維断面中で遠赤微粒子を含む層の割合がそれほど大きくならないので、繊維物性を阻害することがない。
【0016】
以下、本発明の繊維の製造方法を説明する。
【0017】
本発明の繊維を製造する方法としては、少なくとも一つの遠赤微粒子含有量5重量%以上30重量%以下のアクリル系重合体、および少なくとも一つの遠赤微粒子含有量1重量%以下のアクリル系重合体を、繊維軸方向に沿って3層以上に接合して複合紡糸する。
【0018】
アクリル系重合体をアクリル系重合体を溶解する溶媒に溶解して紡糸原液を製造する。
溶媒はアクリル重合体の重合溶媒をそのまま使用することもできる。すなわち、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトン等の有機系溶媒や硝酸、ロダン酸ソーダ、塩化亜鉛等の無機塩水溶液等の無機系溶媒が好ましく用いられる。これら溶媒に溶解し、紡糸原液とする。紡糸原液中の重合体濃度は通常10〜30重量%に設定する。
【0019】
この紡糸原液中に繊維形成能および操業性を阻害しないその他の添加剤を練り込んでも構わない。例えば、酸化チタン、酸化アンチモンなどの金属酸化物、紫外線吸収剤、染料、顔料などであるが、これらに限らない。
【0020】
遠赤微粒子は、溶媒分散液としてアクリル系重合体の紡糸原液に練り込むことによって、アクリル系重合体に添加することができる。分散溶媒は、紡糸原液の溶媒と同じであっても異なっていてもかまわないが、溶媒回収を簡単にできる点から、紡糸原液と同じ溶媒を使用することが好ましい。分散濃度は凝集せず、流動性を確保できる範囲で可能な限り高くすることが好ましい。具体的には15重量%以上、50重量%以下、好ましくは20重量%以上、50重量%以下、さらに好ましくは25重量%以上、50重量%以下である。好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは25重量%以上である。分散はホモミキサーもしくはプロペラ撹拌機で容器中の溶媒を攪拌しながら、遠赤微粒子を投入する。投入完了し、均一に分散した液をサンドグラインダーにて処理することが好ましい。特に高濃度に分散する場合はサンドグラインダー処理した方が紡糸時の口金圧上昇も少ない。
【0021】
遠赤微粒子含有量5重量%以上30重量%以下のアクリル系重合体と遠赤微粒子含有量1重量%以下のアクリル系重合体を複合紡糸する方法を図2により説明する。図2は本発明の繊維を製造するための複合紡糸装置の一実施態様の概略平面図である。まず、遠赤微粒子含有量5重量%以上30重量%以下のアクリル系重合体を含む紡糸原液(1)と遠赤微粒子含有量1重量%以下の、好ましくは遠赤微粒子を含まないアクリル系重合体を含む紡糸原液(2)を用意する。これら2種の紡糸原液を図2の紡糸装置を用いて混合する。二種の紡糸原液(1)、(2)は各々ろ過部(図示せず)を通過した後、スタティックミキサー(3)に供給され、混練される。このスタティックミキサー(3)によって、紡糸原液(1)(2)は3層以上に積層される。スタティックミキサー(3)で多層に積層された後、を通って口金ユニット(4)に入り、紡糸孔(5)より流出されフィラメント群として吐出される。ここでスタティックミキサーの段数が多すぎると遠赤微粒子含有量の違う2種の原液が過剰に混合され、均一化し、目的の層状構造とならないので、注意が必要である。紡糸に用いるスタティックミキサー(3)は、例えばケニックス社製「スタティックミキサー」、東レエンジニアリング社製「ミキシングユニット」、スルーザー社製ミキシングエレメントなど公知のものが用いられる。多層構造を有する繊維の形状は、紡糸孔の形状により丸断面,三角断面,偏平などの任意の形状を選択することができる。
【0022】
紡糸孔(5)より吐出された以降は公知の方法にて繊維化する。凝固方法としては、紡糸口金孔から吐出された重合体を空気または不活性雰囲気中に吐出した後、熱で溶媒を気化し凝固する乾式紡糸、または紡糸口金孔から吐出された重合体を凝固浴中に直接吐出する湿式紡糸および紡糸口金孔から吐出された重合体を一旦空気または不活性雰囲気中に吐出した後、凝固浴に導入する乾湿式紡糸が採用でき、紡糸以降熱延伸、水洗、乾燥緻密化させ油剤を付与し、捲縮および熱緩和処理を施した後、カットされ紡績用繊維を得ることができる。
【0023】
かくして、本発明の、アクリル系重合体が繊維軸方向に沿って3層以上接合された多層構造を有するアクリル系複合繊維を得ることができる。ここで、多層構造とは、繊維の長手方向に延在する第1のアクリル系重合体の層が、繊維の長手方向に延在する第2のアクリル系重合体の層と接触し、第2のアクリル系重合体は任意に1つ以上の別のアクリル系重合体層と接触する繊維を意味する。
【0024】
本発明の3層以上接合された多層構造を有するアクリル系複合繊維の一実施態様を図1に示す。図1は本発明の一実施態様の繊維の横断面概略図である。遠赤微粒子含有量5重量%以上30重量%以下のアクリル系重合体(11)と遠赤微粒子含有量1重量%以下のアクリル系重合体(12)が層状に接合された多層構造を形成している。図1にあるようにアクリル系重合体(11)とアクリル系重合体(12)を3層以上複合紡糸し、繊維外周部にアクリル系重合体(12)外側に露出するようにすることが好ましい。それによって従来のアクリル系合成繊維と同程度の加工性を得ることができる。
【0025】
また、本発明の繊維において、地層状に遠赤微粒子含有量5重量%以上30重量%以下のアクリル系重合体と遠赤微粒子含有量1重量%以下のアクリル系重合体からなる層が3層以上積み重なり、それを繊維断面に応じて、切り抜いたとき、各層は直線状である必要はなく、曲線や波線状でも構わないし、層の厚みは一定である必要はない。しかし、各層の両端は繊維外周に接しているか、もしくは繊維外周からの距離が繊維断面に外接する円の直径の1/6以内である必要がある。
【実施例】
【0026】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。
本発明および実施例における特性値の測定・判定方法は以下のとおりである。
【0027】
<遠赤外線放射特性>
遠赤外線協会指定方法で測定した値をいう。すなわち、赤外分光光度計(FT−IR)にて4〜20μmの波長領域における、積分分光放射率を測定したものである。ステープルを紡績し、綿番手30番の紡績糸としたものを60g/mに丸編みしたものを測定サンプルとする。遠赤微粒子の積分分光放射率を測定する場合は添加剤を直径25mm×厚さ2mmのコイン状に圧縮し、測定サンプルとする。測定は35℃の雰囲気で行い、装置はパーキンエルマー社製を用いた。
【0028】
<繊維全体の遠赤微粒子含有量>
絶乾した繊維の質量を測定した後、灰化させる。灰化は繊維を700℃で5時間処理して行う。灰化前後の質量から下記式1にて計算する。
繊維全体の微粒子濃度(%)=(灰分重量(g)/絶乾した繊維の重量(g))×100・・・・(式1)。
【0029】
<各層の遠赤微粒子含有量>
各層の遠赤微粒子を含む紡糸原液を水中に細くたらし、ラーメン状に固化した後、溶媒および水を完全に蒸発させ(絶乾)、質量を測定した後、灰化させる。灰化方法は上記と同じである。灰化前後の質量から下記式2にて計算する。
各層の微粒子濃度(%)=(灰分重量(g)/絶乾した固形物の重量(g))×100・・・・(式2)。
【0030】
<操業性(口金圧上昇率)>
紡糸開始から24時間後の口金圧を測定し、その上昇率で評価した。0.3
MPa/日以下が良好なレベルである。口金圧は図2中の3(スタティックミキサー)および4(口金ユニット)の間に圧力計を設置し、測定した。
【0031】
<後加工性(紡績性)>
紡績工程での静電気、ネップ、スライバー強度および編み立て性などから総合的に判断した。遠赤微粒子未添加品を◎として対比し、かなり良好◎、良好○、劣る△、悪い(操業困難)×とした。◎および○が通常の紡績が操業できるレベルである。
【0032】
(実施例1)
繊維を形成するポリマーとして、アクリロニトリル(AN)/アクリル酸メチル(MEA)/メタクリルスルホン酸ナトリウム(SMAS)=95.5/4.2/0.3(mol%)を用い、これを溶媒ジメチルスルホキシド(DMSO)にポリマー濃度25重量%になるように溶解して紡糸原液を得た。遠赤微粒子として、アルミノ珪酸ナトリウムである“シルトンAMT” (登録商標)(水澤化学工業(株))を用いた。これをホモミキサーにてDMSO(ジメチルスルホキシド)溶媒に分散した後、分散安定化剤として上記ポリマーを添加し、遠赤分散液を得た。分散液中の比率は、“シルトン”/ポリマー/DMSO=26/2/72(重量%)であった。
【0033】
上記紡糸原液をプロペラ攪拌機で攪拌しながら、遠赤微粒子含有量がポリマーに対して
5重量%になるように上記遠赤分散液を加えた。この遠赤微粒子を含む紡糸原液と含ま
ない紡糸原液を図2に示す装置にて東レエンジニアリング社製「ミキシングユニット」を
用いて複合紡糸した。口金にはφ0.05mm×70000Hを使用し、紡糸浴はDMSO濃度57重量%、温度30℃の水溶液とした。
【0034】
紡糸原液を紡糸浴中に口金より押し出し、凝固させた。次いで凝固したトウを順次DMSO濃度が低下する数段の浴にて、脱溶媒させながら、5倍延伸した。延伸後、水洗機にて完全にDMSOを除き、膠着防止油剤を付与した。その後、乾燥緻密化、クリンプ付与したものを51mmにカットし、2.2dtexのステープルを得た。繊維全体の遠赤微粒子含有量、口金上昇率、遠赤外線の積分分光放射率を測定した結果を表1に示す。表中の測定項目「局在部遠赤微粒子(%)」もしくは「局在部の面積割合(%)」の“局在部”とは本発明の遠赤微粒子を5重量%以上30重量%以下含むアクリル系重合体部分を指す。また、参考値として、繊維断面積中に占める遠赤微粒子を含む部分の面積も合わせて記載する。ただし、該面積は平均値であり、同じ繊維においても切断する場所により、変動する。24時間で口金圧は0.80MPaから0.90MPaに上昇した。紡糸時の口金圧上昇率も小さく、得られたサンプルの後加工性も良好で赤外線放射率も未添加品に比
較して大きい。本実施例にて得られた原綿を紡績し、靴下に加工した。遠赤微粒子未添加(比較例5)と比較して、保温性が良好であった。
【0035】
(実施例2および3)
遠赤微粒子含有量をそれぞれ10重量%、20重量%に変更した以外は、実施例1と同じ条件で実施例2および3のステープルを調製した。測定結果を表1に示す。口金圧上昇率も小さく、後加工性ともに良好で、実施例1より多くの遠赤外線が発生した。
【0036】
(実施例4)
遠赤微粒子としてトルマリンを使用した以外は実施例1と同じ条件で実施例4のステープルを調製した。測定結果を表1に示す。口金圧上昇率も小さく、後加工性ともに良好で、同量の遠赤微粒子を練り込んだ実施例1より多くの遠赤外線が発生した。
【0037】
(比較例1)
遠赤微粒子含有量3重量%に変更し、単一の紡糸原液をスタティックミキサーを使用しない以外は、実施例1と同じ条件でステープルを調製した。結果を表1に示す。口金圧上昇率は良好であったが、繊維摩擦が大きく、後加工性(紡績性)が悪かった。
【0038】
(比較例2)
遠赤微粒子含有量10重量%に変更し、遠赤外線放射微粒子含有量10重量%のアクリル系重合体を芯として、芯鞘型口金を用いた以外は、実施例1と同じ条件でステープルを調製し、芯鞘型のステープルを得た。結果を表1に示す。遠赤微粒子を芯型に局在化させたことにより、高効率に遠赤外線が放射されているが、口金圧上昇率が大きく、頻繁に口金交換が必要であった。
【0039】
(比較例3,4)
遠赤微粒子含有量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同じ条件でステープルを調製した。結果を表1に示す。繊維全体の遠赤微粒子量が少ない比較例3は積分分光放射率が小さい。層中の遠赤微粒子含有量が多く、繊維全体のも多い比較例4は口金詰まりが多発し、安定操業できなかった。
【0040】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により得られるアクリル系合成繊維は優れた保温性を有し、かつ、製造時の操業性および紡績などの後加工性も良好である。そのため、本発明のアクリル系合成繊維は特に保温下着、靴下など保温性を要求される製品に最適である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施態様の繊維の横断面概略図である。
【図2】図2は本発明の繊維を製造するための複合紡糸装置の一実施態様の概略平面図である。
【符号の説明】
【0043】
1:遠赤微粒子含有量5重量%以上30重量%以下のアクリル系重合体を含む紡糸原液
2:遠赤微粒子含有量1重量%以下のアクリル系重合体を含む紡糸原液
3:スタティックミキサー
4:口金ユニット
5:紡糸孔
11:遠赤微粒子含有量5重量%以上30重量%以下のアクリル系重合体を含む層
12:遠赤微粒子含有量1重量%以下のアクリル系重合体を含む層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系重合体が繊維軸方向に沿って3層以上接合された多層構造を有するアクリル系複合繊維であって、該複合構造が遠赤外線放射微粒子含有量5重量%以上30重量%以下である層および遠赤外線放射微粒子含有量1重量%以下の層を含み、繊維全体の遠赤外線放射微粒子含有量が3重量%以上15重量%以下であることを特徴とするアクリル系合成繊維。
【請求項2】
遠赤外線放射微粒子がAl、Si、Mg、Zr、Crの珪化物、炭化物及び酸化物から選ばれる1種以上の化合物の混合物であることを特徴とする請求項1記載のアクリル系合成繊維。
【請求項3】
遠赤外線放射微粒子がアルミノケイ酸ナトリウムおよび/もしくはトルマリンであることを特徴とする請求項1もしくは2記載のアクリル系合成繊維。
【請求項4】
少なくとも一つの遠赤外線放射微粒子含有量5重量%以上30重量%以下のアクリル系重合体、および少なくとも一つの遠赤外線放射微粒子含有量1重量%以下のアクリル系重合体を、繊維軸方向に沿って3層以上に接合して複合紡糸することを特徴とする請求項1記載のアクリル系合成繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか記載のアクリル系合成繊維からなる繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−270390(P2007−270390A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98560(P2006−98560)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】