説明

アクリル系染色繊維、及びその製造方法。

【課題】収縮して硬化する等の風合いを低下させることなく、抜染し難い青色の抜染性を改善したアクリル系合成繊維を提供する。
【解決手段】重合体(A)と重合体(B)の総量が100重量部であり、アクリロニトリル40〜80重量%、アクリロニトリルと共重合可能なハロゲン含有モノマー20〜60重量%、スルホン酸基含有モノマー0〜5重量%を含有する重合体(A)70〜99.9重量%と、アクリロニトリル5〜70重量%とその他共重合可能なモノマー20〜94重量%とスルホン酸基含有モノマー1〜40重量%を含有する重合体(B)0.1〜30重量%を混合した重合組成物を含有するアクリル系合成繊維を用いて、該繊維を抜染用カチオン染料で染色する際にカチオン系活性剤を使用し染色した後、抜染用捺染糊で抜染処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抜染用カチオン染料とカチオン系活性剤を用いて染色したアクリル系染色繊維とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系合成繊維は、独特の獣毛様風合いを有しそのソフト感、嵩高さ等の特徴を生かし、また加工の容易さから、ボアー、シール、フリース、ハイパイル等の分野に広く使用されている。しかしながら、アクリル系合成繊維はアクリル合成繊維に比べて抜染性が不十分であり、そのため意匠性が制約される問題があり、これまで抜染性を改善する種々の試みがなされてきた。この抜染性を改善する方法として、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらのアルキルエステル類を0.2〜5重量%含有するアクリル系合成繊維が提案されており(特許文献1)、この方法によりある程度抜染処理後の白度は改善されるものの、抜染処理にかかる蒸熱処理時間はまだなお長く、加工性に問題が残され、実用上必ずしも十分な性能ではなかった。また、20℃での水への溶解度が1%以上のモノマーとスルホン酸基含有モノマーからなる比較的親水性の高い重合体を混合する方法が提案されており(特許文献2)、この方法により、抜染処理後の白度はかなり改善され、また抜染処理にかかる蒸熱処理時間も短縮されている。しかしながら、この方法でも、赤色や黄色の抜染性は優れているものの青色の抜けが不十分という問題があり、特に比較的低い染料濃度で染色された中濃色や淡色では残った青色が目立ち商品性が低下する。また、抜染処理時に抜染用捺染糊にカチオン系活性剤を混合する方法が提案されているが(特許文献3)、この方法により青色の抜染性は改善されるが、抜染時に繊維が収縮し風合いが硬くなる問題が残る。
【特許文献1】特開2003−183931号公報
【特許文献2】特開2005−314841号公報
【特許文献3】特開2000−355886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
以上に述べたように、従来のアクリル系合成繊維は青色の抜染性が不十分であり、また抜染用捺染糊の量を増やしたり、それにカチオン系活性剤を加えたりして無理に青色の抜染性を改善しようとすると、繊維が収縮して硬化する等風合いが低下した。従って、本発明の目的は、ソフトな風合を持つと同時に、抜染処理部分の白度が良好であり、抜染に必要な蒸熱処理時間が短く加工性に優れたアクリル系抜染繊維材料を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は、重合体(A)と重合体(B)の総量が100重量部であり、アクリロニトリル40〜80重量%とアクリロニトリルと共重合可能なハロゲン含有モノマー20〜60重量%およびスルホン酸基含有モノマー0〜5重量%を含有する重合体(A)70〜99.9重量部に、アクリロニトリル5〜70重量%とその他共重合可能なモノマー20〜94重量%とスルホン酸基含有モノマー1〜40重量%を含有する重合体(B)0.1〜30重量部を混合した重合組成物を含有するアクリル系合成繊維100重量部、抜染用カチオン系染料0.001〜10重量部、及びカチオン系活性剤0.001〜10重量部を含有することを特徴とするアクリル系染色繊維に関する(請求項1)、
本発明は、抜染用カチオン系染料の量が0.01〜6重量部、及びカチオン系活性剤の量が0.01〜6重量部であることを特徴とする請求項1に記載のアクリル系染色繊維に関する(請求項2)、
本発明は、前記重合体(B)に含まれるその他共重合可能なモノマーがアクリル酸エステルであることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載のアクリル系染色繊維に関する(請求項3)、
本発明は、前記重合体(B)に含まれるスルホン酸基含有モノマーが2−アクリルアミドー2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のアクリル系染色繊維に関する(請求項4)、
本発明は、前記重合体(B)に含まれるスルホン酸基含有モノマーがメタリルスルホン酸ナトリウムと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムとを併用することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系染色繊維に関する(請求項5)、
本発明は、カチオン系活性剤が第4級アンモニウム化合物であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載のアクリル系染色繊維に関する(請求項6)、
本発明は、第4級アンモニウム化合物が、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドであることを特徴とする請求項6に記載のアクリル系染色繊維に関する(請求項7)、
本発明は、重合体(A)と重合体(B)の総量が100重量部であり、アクリロニトリル40〜80重量%とアクリロニトリルと共重合可能なハロゲン含有モノマー20〜60重量%およびスルホン酸基含有モノマー0〜5重量%を含有する重合体(A)70〜99.9重量部に、アクリロニトリル5〜70重量%とその他共重合可能なモノマー20〜94重量%とスルホン酸基含有モノマー1〜40重量%を含有する重合体(B)0.1〜30重量部を混合した重合組成物を含有するアクリル系合成繊維100重量部、抜染用カチオン系染料0.001〜10重量部、及びカチオン系活性剤0.001〜10重量部を、60〜120℃で染色して得られる事を特徴とするアクリル系染色繊維の製造方法に関する(請求項8)、
本発明は、染色時の温度が90〜110℃である事を特徴とする請求項8に記載のアクリル系染色繊維の製造方法に関する(請求項9)、
本発明は、前記重合体(B)に含まれるその他共重合可能なモノマーがアクリル酸エステルであることを特徴とする請求項8又は請求項9のいずれかに記載のアクリル系染色繊維の製造方法に関する(請求項10)、
本発明は、前記重合体(B)に含まれるスルホン酸基含有モノマーが2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムであることを特徴とする請求項8〜請求項10のいずれかに記載のアクリル系染色繊維の製造方法に関する(請求項11)、
本発明は、前記重合体(B)に含まれるスルホン酸基含有モノマーがメタリルスルホン酸ナトリウムと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムとを併用することを特徴とする請求項8〜請求項10のいずれかに記載のアクリル系染色繊維の製造方法に関する(請求項12)、
本発明は、カチオン系活性剤が、第4級アンモニウム化合物であることを特徴とする請求項8〜請求項12のいずれかに記載のアクリル系染色繊維の製造方法に関する(請求項13)、
本発明は、第4級アンモニウム化合物が、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドであることを特徴とする請求項13に記載のアクリル系染色繊維の製造方法に関する(請求項14)、
本発明は、請求項1〜請求項7のいずれかに記載のアクリル系染色繊維を含むアクリル系合成繊維材料を抜染剤で抜染したアクリル系抜染繊維材料に関する(請求項15)、ものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明のアクリル系染色繊維は、抜染処理後にもソフトな風合を持つと同時に、抜染処理部分の白度が良好であり、抜染に必要な蒸熱処理時間が短く加工性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明における重合体(A)は、アクリロニトリル40〜80重量%、アクリロニトリルと共重合可能なハロゲン含有モノマー20〜60重量%、スルホン酸基含有モノマー0〜5重量%からなるが、アクリロニトリルと共重合可能なハロゲン含有モノマーとしては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン等が挙げられる。中でも、塩化ビニル、塩化ビニリデンが好ましく、それらを単独で用いてもよいし、併用してもよい。また、スルホン酸基含有モノマーとしては、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、イソプレンスルホン酸及びこれらのアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0007】
本発明の重合体(A)において、アクリロニトリルを40〜80重量%用いることが好ましいが、繊維の加工性を良好にする為には、アクリロニトリルの含有量が40重量%以上が好ましく、軟化点を下げ十分な染色性を得る為には、アクリロニトリルの含有量が80重量%以下である事が好ましい。また、本発明の重合体(A)において、ハロゲン含有モノマーを20〜60重量%用いる事が好ましいが、繊維にがさつきを生じず触感を良好にする為にはハロゲン含有モノマーの含有量は20重量%以上が好ましく、疎水性を低くし十分な染色性を得る為にはハロゲン含有モノマーの含有量は60重量%以下が好ましい。
【0008】
さらに、本発明の重合体(A)において、スルホン酸含有モノマーを0〜5重量%用いる事が好ましく、繊維にポイドや膠着が生じず強度の低下を防ぐ為には、スルホン酸含有モノマーの含有量が5重量%以下である事が好ましい。
【0009】
本発明における重合体(B)は、アクリロニトリル5〜70重量%とその他共重合可能なモノマー20〜94重量%とスルホン酸基含有モノマー1〜40重量%からなる。
【0010】
本発明の重合体(B)において、アクリロニトリルを5〜70重量%用いる事が好ましいが、繊維の耐熱性を推持する為には、アクリロニトリルの含有量が5重量%以上である事が好ましく、繊維中のポイド発生を抑制する為にはアクリロニトリルの含有量が70重量%以下である事が好ましい。
【0011】
本発明の重合体(B)において、その他共重合可能なモノマーとしては、アクリル酸やメタクリル酸及びそれらの低級アルキルエステル、NまたはN,N−アルキル置換したアミノアルキルエステルやグリシジルエステル、アクリルアミドやメタクリルアミド及びそれらのNまたはN,N−アルキル置換体、アクリル酸、メタクリル酸やイタコン酸等に代表されるカルボキシル基含有ビニル単量体およびそれらのナトリウム、カリウムまたはアンモニウム塩等のアニオン性ビニル単量体、アクリル酸やメタクリル酸の4級化アミノアルキルエステルをはじめとするカチオン性ビニル単量体、あるいはビニル基含有低級アルキルエーテル、酢酸ビニルに代表されるビニル基含有低級カルボン酸エステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン等に代表されるハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン類、さらにはスチレン等が好ましく、これらのモノマーを単独もしくは2種以上混合して用いる事ができる。本発明において、その他の共重合可能なモノマーを20〜94重量%用いる事が好ましいが、十分な抜染性を得る為には、その他の共重合可能なモノマーの含有量は20重量%以上である事が好ましく、繊維にポイドや膠着が生じるのを防ぐ為には、その他の共重合可能なモノマーの含有量は94重量%以下である事が好ましい。特に、染色性、抜染性の点で、その他共重合可能なモノマーとしてアクリル酸エステルを用いる事が好ましい。アクリル酸エステルとしてはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等が好ましく、これらのモノマーを単独もしくは2種以上混合して用いる事ができる。
【0012】
重合体(B)においてスルホン酸含有モノマーとは、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸またはこれらの金属塩類およびアミン塩類等が好ましく、単独もしくは2種以上混合して用いる事ができる。本発明の重合体(B)において、スルホン酸含有モノマーを1〜40重量%用いる事が好ましく、抜染性を良好にする為には、スルホン酸含有モノマーの含有量は1重量%以上が好ましく、繊維中にポイドや膠着を生じず強度の低下を防ぐ為には、スルホン酸含有モノマーの含有量は40重量%以下である事が好ましい。特に、本発明の重合体(A)との相溶性の点で、前記重合体(B)に含まれるスルホン酸基含有モノマーが2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムまたはメタリルスルホン酸ソーダと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムとの併用が好ましい。
【0013】
本発明の重合体(A)、重合体(B)は、重合開始剤として概知の化合物、例えばパーオキシド系化合物、アゾ系化合物、または各種のレドックス系化合物を用い、乳化重合、懸濁重合、溶液重合等一般的なビニル重合方法により得る事ができる。
【0014】
本発明の重合体(A)、重合体(B)は、有機溶剤、例えばアセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドあるいは無機溶剤、例えば塩化亜鉛、硝酸、ロダン塩に溶解させて紡糸原液とする。この紡糸原液に、酸化チタンまたは着色用顔料のような無機及び/又は有機の顔料、防鎮、着色紡糸、耐候性等に効果のある安定剤等を紡糸に支障をきたさない限り使用することも可能である。
【0015】
本発明の重合体(A)と重合体(B)の混合割合は、重合体(A)と重合体(B)の総量100重量部に対して重合体(B)が0.1〜30重量部である事が好ましいが、十分な抜染性を得る為には、重合体(B)は0.1重量部以上である事が好ましく、繊維にボイドや膠着の発生を防ぎ、繊維の強度、加工性を良好にする為には、30重量部以下である事が好ましい。
【0016】
本発明のアクリル系合成繊維の製造方法は、常法の湿式あるいは乾式の紡糸法でノズルより紡出し、延伸、乾燥を行う。また必要に応じ更に延伸、熱処理を行ってもよい。
【0017】
本発明のアクリル系合成繊維とは、繊維中に80重量%未満のアクリロニトリルを含有する合成繊維である。
【0018】
本発明のアクリル合成繊維とは、繊維中に80重量%以上のアクリロニトリルを含有する合成繊維である。
【0019】
本発明のアクリル系染色繊維とは、上記のアクリル系合成繊維を抜染用カチオン染料及び各種染色用助剤を用いて常法の浸染方式もしくは連染方式を用いて染色したものである。
【0020】
本発明のアクリル系合成繊維材料とは、アクリル系合成繊維やアクリル系染色繊維を使用して成る原綿、原糸、フィラメント、織物、編物、有毛布帛、不織布及びこれらを使用した衣類、リビング資材類、産業資材類等をいう。
【0021】
本発明のアクリル系抜染繊維材料とは、上記のアクリル系合成繊維材料を抜染処理したものである。
【0022】
本発明は、重合体(A)と重合体(B)を含有するアクリル系合成繊維を、抜染用カチオン染料を用いて染色する際に、カチオン系活性剤を共存させることを特徴とする。
【0023】
本発明でいう抜染処理とは、白色抜染処理又は着色抜染処理の事である。
【0024】
本発明でいう白色抜染処理は、抜染用カチオン染料で染色された、アクリル系染色繊維や、アクリル系合成繊維材料に、第一塩化錫又は加工錫やジンクホルムアルデヒドスルホキシレート等の亜鉛系抜染剤を含んだ抜染用捺染糊を印捺し蒸熱処理によって印捺部の染料を還元し、無色に分解して染色部を白色にする方法である。
【0025】
本発明でいう着色抜染処理は、抜染用カチオン染料で染色された、アクリル系染色繊維や、アクリル系合成繊維材料に、塩化第一錫又は加工錫等の錫系抜染剤及び耐還元性染料を含んだ抜染用捺染糊を印捺し蒸熱処理によって印捺部分の染料を還元し、無色の形に分解すると同時に耐還元性染料を染色して新たに別色を発現する方法である。
【0026】
本発明でいう抜染用カチオン染料とは、還元性抜染剤、即ち、塩化第一錫及び加工錫等の錫系抜染剤、又はジンクホルムアルデヒドスルホキシレート等の亜鉛系抜染剤によって還元分解出来るカチオン染料であり、例えば、染料構造中にアゾ基(−N=N−)を発色団として1個以上もつカチオン染料である。
【0027】
本発明で使用する抜染用捺染糊としては、従来から通常の抜染処理に用いられるものであり、一般的には抜染剤、染色酸、糊剤、更に着色抜染の場合にはさし色染料及び染料溶解剤を目的に応じて配合した粘性の水溶液である。詳しくは、抜染剤としては、塩化第一錫等の錫系抜染剤、ジンクホルムアルデヒドスルホキシレート等の亜鉛系抜染剤を用いる事が好ましい。染色酸は不揮発性有機酸が好ましく、酒石酸、リンゴ酸等が一般的である。糊剤は一般捺染において用いられるものであれば何れも使用出来、例えば、繊維素誘導体糊料であるカルボキシメチルセルロースやシラツ系の加工糊料、天然海草類のアルギン酸、合成糊料であるポリビニールアルコール等が挙げられる。更に、さし色染料としては抜染剤によって還元分解されない耐還元性カチオン染料であり、その染料の溶解剤としては尿素が一般的に用いられる。
【0028】
本発明でいう抜染性とは、白色抜染処理の場合は抜染処理部分の白色の白度及び染色部に白抜きされた模様の輪郭の鮮明さを意味し、着色抜染処理の場合は抜染部分の染料分解と同時に染着する着抜用染料(耐還元性染料)本来の発色性、及び染色部に別色に染色された模様の輪郭の鮮明さを意味する。
【0029】
本発明でいうカチオン系活性剤は、通常、アクリル系合成繊維をカチオン染料を用いて染色する際に、緩染・均染剤として使用する第4級アンモニウム化合物であり、芳香族アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等の種類があるが、特には好ましいのは、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドである。
【0030】
本発明における重合体(A)は、ハロゲン含有モノマーを含有するため、疎水性が高く、抜染性が不良である。そこで従来の技術では、抜染性を改良する為、本発明における重合体(B)の様な、親水性が高く、染料との染着座席となるスルホン酸含有モノマーを含有した抜染性が良好な重合体を混合させる事で、抜染性の改善を行ってきた。しかし、前記重合体(A)と前記重合体(B)を含有するアクリル系染色繊維を、抜染処理した場合、前記重合体(B)に染着した染料は、容易に抜染処理する事は可能であるが、前記重合体(A)に染着した染料は、抜染処理が困難である為、繊維全体として抜染性を評価した場合、抜染性が不十分となる。
【0031】
さらに、前記重合体(B)の抜染性は、黄色抜染用カチオン染料(以後、黄色抜染染料と記す)、赤色抜染用カチオン染料(以後、赤色抜染染料と記す)、青色抜染用カチオン染料(以後、青色抜染染料と記す)の3原色で大きな差はないが、前記重合体(A)の抜染性は、黄色抜染染料、赤色抜染染料、青色抜染染料の3原色によって異なり、黄色抜染染料、例えばAizen Cathilon Discharge Yellow NLH(保土谷化学工業(株)製)と、赤色抜染染料、例えばAizen Cathilon Red CD−FGLH(保土谷化学工業(株)製)と、青色抜染染料、例えばAstrazon Blue FGGL(Dystar Japan Ltd.製)の抜染性を比較した場合、青色抜染染料の抜染性は著しく不良な傾向にある。
【0032】
従って、前記重合体(A)と前記重合体(B)を含有するアクリル系合成繊維を、青色抜染染料を含む処方で染色、抜染した場合、前記重合体(A)に染着した青色抜染染料が完全に抜染されない為、青味が残り、著しく抜染性が不良になる。
【0033】
そこで本発明では、前記重合体(A)と前記重合体(B)を含有するアクリル系合成繊維を、青色抜染染料を含む抜染染料で染色する場合、カチオン系活性剤、例えば、ASTRAGAL PAN(ランクセス(株)製)を用いる事により、抜染性が良好になる事を見出した。なお、該カチオン系活性剤の効果は明確ではないが、カチオン系活性剤は、青色抜染染料より染着速度が速い為、前記重合体(A)の染着座席に先に染着し封鎖し、それにより、青色抜染染料は、前記重合体(A)への染着が困難になり、染色吸尽性が高く、かつ抜染性の良好な前記重合体(B)に染着し、その結果、繊維全体としての抜染性が良好になると推定している。
【0034】
また、カチオン系活性剤と同様に、黄色抜染染料と赤色抜染染料も、染着速度が青色抜染染料と比較して速く、抜染性も比較的良好な為、前記重合体(A)と前記重合体(B)を含有するアクリル系合成繊維を、青色抜染染料を用いても抜染性が良好になるように染色する為には、前記重合体(A)の染着座席を封鎖する程度の、黄色抜染染料と赤色抜染染料を用いても良い。
【0035】
ゆえに、カチオン系活性剤を用いて、前記重合体(A)と前記重合体(B)を含有するアクリル系合成繊維の抜染性が良好になる様に染色する為には、カチオン系活性剤、及び、黄色抜染染料、及び、赤色抜染染料の総量が前記重合体(A)の染着座席を封鎖できる量を用いる事が好ましい。
【0036】
従って、カチオン系活性剤を用いて染色する事で、あらゆる色相で、かつ淡色から濃色に染色した、前記重合体(A)と前記重合体(B)を含有するアクリル系染色繊維を、抜染性良好にする事ができる。
【0037】
本発明において、抜染性が良好なアクリル系染色繊維は、前記重合体(A)と前記重合体(B)を含有するアクリル系合成繊維100重量部と、抜染性が良好でかつ淡色以上に発色させる為に抜染用カチオン染料を0.001重量部以上と、抜染性を良好にする為にカチオン系活性剤を0.001重量部とを含有する事が好ましく、さらに好ましくは、前記重合体(A)と前記重合体(B)を含有するアクリル系合成繊維100重量部と、抜染用カチオン染料を0.01重量部以上と、カチオン系活性剤とを0.01重量部以上を含有する事が好ましい。
【0038】
本発明において、抜染性が良好なアクリル系染色繊維は、前記重合体(A)と前記重合体(B)を含有するアクリル系合成繊維100重量部と、抜染性が良好でかつ染色処理後の堅牢性を良好にする為に抜染用カチオン染料を10重量部以下と、カチオン系活性剤が前記重合体(A)の染着座席だけでなく前記重合体(B)の染着座席まで封鎖して染色不能にならないようにする為にカチオン系活性剤を10重量%以下とを含有する事が好ましく、さらに好ましくは、前記重合体(A)と前記重合体(B)を含有するアクリル系合成繊維100重量部と、抜染用カチオン染料を6重量部以下と、カチオン系活性剤を6重量部以下とを含有する事が好ましい。
【0039】
本発明において、抜染性が良好なアクリル系染色繊維は、前記重合体(A)と前記重合体(B)を含有するアクリル系合成繊維100重量部と、抜染性が良好でかつ淡色以上に発色させる為に抜染用カチオン染料を0.001重量部以上と、抜染性を良好にする為にカチオン系活性剤を0.001重量部とを、染色可能な温度である60℃以上で染色して得られる事が好ましく、さらに好ましくは、前記重合体(A)と前記重合体(B)を含有するアクリル系合成繊維100重量部と、抜染用カチオン染料を0.01重量部以上と、カチオン系活性剤を0.01重量部以上とを、90℃以上で染色して得られる事が好ましい。
【0040】
本発明において、抜染性が良好なアクリル系染色繊維は、前記重合体(A)と前記重合体(B)を含有するアクリル系合成繊維100重量部と、抜染性が良好でかつ染色処理後の堅牢性を良好にする為に抜染用カチオン染料を10重量部以下と、カチオン系活性剤が前記重合体(A)の染着座席だけでなく前記重合体(B)の染着座席まで封鎖して染色不能にならないようにする為にカチオン系活性剤を10重量%以下とを、染色後に繊維中に空隙が生じて発色性が低下しないように120℃以下で染色して得られる事が好ましく、さらに好ましくは、前記重合体(A)と前記重合体(B)を含有するアクリル系合成繊維100重量部と、抜染用カチオン染料を6重量部以下と、カチオン系活性剤を6重量部以下とを110℃以下で染色して得られる事が好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、実施例の記載に先立って、染色方法、抜染処理方法、評価法について説明する。
(1)染色方法
染色機(オーバーマイヤー)に繊維を、詰め密度0.3g/mlでセットし、浴比が1:15になるようイオン交換水を加える。次に、カチオン系染色機の循環装置を稼動させつつ、染色助剤として、ウルトラリン酸(ウルトラMT−110:御弊島化学製)を、イオン交換水に対して0.3g/Lになるよう加える。抜染性を良好にする為に、カチオン系活性剤を加える場合は、ASTRAGAL PAN(ランクセス(株)製)を任意量この時に加える。
【0042】
次に、50℃まで浴温度を5℃/分で昇温し、任意の染料処方にて計量した染料を熱湯で希釈して投入した。次いで70℃まで5℃/分で昇温した。さらに、90℃まで2℃/分で昇温し、90℃で30分ホールドした。その後、98℃に2℃/分で昇温し、98℃で60分ホールドした。その後5℃/分の速度で50℃まで冷却し、水洗、50℃で1時間乾燥して染色糸を得た。
(2)白色抜染処方と抜染性評価(簡易方法)
(2−1)短繊維の白色抜染処方と抜染速度評価
抜染剤として塩化第一錫(和光純薬工業(株)製)10重量%、水90重量%を混合して抜染剤溶液を調製した。この抜染剤溶液200mlをポット染色機にセットして昇温し、沸騰後、染色した短繊維2gを投入し、抜染処理を行った。この繊維を十分に開繊して
2g計り取り、直径40mm、高さ20mmの測定面(底部)が無色透明のガラスで形成された試料台にいれ、分光測色計CM−2600d(コニカミノルタセンシング株式会社)を使用して抜染処理後の色相を測定した。なお本実施例・比較例では、抜染後に青味が残っているものを抜染性不良とし、短繊維投入後にb値が0以上になるまでの経過時間を抜染時間とし、その時間が短いほど抜染性に優れると評価した。
(3)白色抜染処方と抜染性評価(パイル評価方法)
(3−1)ハイパイル作成
繊維を混綿、調湿した後、Kodama Tech Co, Ltd.製オープナー、Howa Machinery Ltd.Nagoya製カードを用いてスライバーを作成した。次いでMayer社製ハイパイル編織機でスライバーニツティングを行い、岩倉精機社製シャーリングマシーンでパイル部をカットして、パイル長を一定に揃えた後、パイルの裏面にアクリル酸エステル系接着剤を付着させ、Hirano Tecseed社製テンターを用いて130℃、5分で接着剤を乾燥させた。その後、岩倉精機社製ポリッシャーマシーン、シャーリングマシーンでポリッシヤー仕上げ及びシャーリングを行ってパイル長15mmのハイパイルに仕上げた。
(3−2)ハイパイルの白色抜染処方(カチオン系活性剤を含まない)
抜染用捺染糊は、塩化第一錫(和光純薬工業(株)製)15重量%、尿素(和光純薬工業(株)製)5重量%、Meyprogum NP−25(三晶(株)製)11.4重量%、水68.6重量%を混合して調製した。調整した抜染用捺染糊を、ローラー捺染機を用いて200〜300g/mの印捺量でハイパイル原反のパイル面に印奈し、約98℃の蒸し機内で蒸熱処理を15分間実施した後、水洗、乾燥を行った。次いで、ハイパイル原反のパイル乱れ及び風合いを改善するために、ポリッシング処理、シャーリング処理を行い、ハイパイル生地を最終製品の形態に整え、抜染ハイパイルを得た。
(3−3)ハイパイルの白色抜染処方(カチオン系活性剤を含む)
抜染用捺染糊は、ASTRAGAL PAN(ランクセス(株)製)1.5重量%、塩化第一錫(和光純薬工業(株)製)15重量%、尿素(和光純薬工業(株)製)5.0重量%、Meyprogum NP−25(三晶(株)製)11.4重量%、水67.1重量%を混合して調製した。調整した抜染用捺染糊を、ローラー捺染機を用いて200〜300g/mの印捺量でハイパイル原反のパイル面に印奈し、約98℃の蒸し機内で蒸熱処理を15分間実施した後、水洗、乾燥を行った。次いで、ハイパイル原反のパイル乱れ及び風合いを改善するために、ポリッシング処理、シャーリング処理を行い、ハイパイル生地を最終製品の形態に整え、抜染ハイパイルを得た。
(3−4)抜染ハイパイルの抜染性評価
上記(3−2)(3−3)のようにして得られた抜染ハイパイルの抜染性を以下に示す方法で評価した。
【0043】
抜染性は、抜染ハイパイル表面部の抜染処理された部位が、パイル表面部を覆うように毛並みを整え、その上に無色透明のガラス板を置き、分光測色計CM−2600d(コニカミノルタセンシング株式会社)を使用して抜染処理後の色相を測定した。なお本実施例・比較例では、抜染部に青味が残っているものを抜染性不良とし、抜染処理後にb値が0以上になっているものを、抜染性が優れると評価した。評価基準は以下の通りである。
【0044】
[○] 抜染部のb値が0以上(抜染部に青味がない)であり、抜染性が良好
[×] 抜染部のb値が0未満(抜染部に青味がある)であり、抜染性が不良
(3−5)抜染ハイパイル風合評価
抜染ハイパイルの風合は、官能評価により実施した。評価基準は以下の通りである。
[○]ソフトで滑らかな風合
[△]ややガサツキ感のある風合
[×]ガサツキ感の大きな風合
(製造例1)
内容積20Lの耐圧重合反応装置にイオン交換水12000g、ラウリル硫酸酸ナトリウム54g、亜硫酸25.8g、亜硫酸水素ナトリウム13.2g、硫酸鉄0.06g、アクリロニトリル(以下ANと略す。)294g、塩化ビニル(以下VCと略す。)
3150gを投入し、窒素置換した。重合機内温を50℃に調整し、開始剤として過硫酸アンモニウム2.1gを投入し、重合を開始した。途中、AN2526g、スチレンスルホン酸ナトリウム(以下3Sと略す。)30g、過硫酸アンモニウム13.8gを追加しながら、重合時間5時間10分で重合した。その後、未反応VCを回収し、ラテックスを重合機より払い出し、塩析、熱処理、ろ過、水洗、脱水、乾燥し、重合体1を得た。
【0045】
次に、内容積5Lの耐圧重合反応装置にアセトン1400g、水930g、AN
150g、アクリル酸メチル(以下MAと略す。)540g、2−アクリルアミド−2−メチルプロバンスルホン酸ソーダ(以下SAMと略す。)300g、メタリルスルホン酸ソ―ダ(以下MXと略す。)10gを投入し、窒素置換した。重合機内温度を55℃に調整し、開始剤として2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)5gを投入し重合を開始した。途中、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)10gを追加しながら16時間重合し、その後70℃に昇温し6時間重合させ重合体濃度30重量%の重合体2の溶液を得た。重合体1が30重量%になるようにアセトンを加え、溶解した重合体1の溶液に、重合体2の溶液を重合体の重量比が重合体1:重合体2=96:4の比率になるように混合した物を紡糸原液とした。得られた、紡糸原液を0.08mmφ、8500孔の口金を通して25℃、30重量%のアセトン水溶液中に吐出し、さらに25℃、20重量%アセトン水溶液中で2.0倍に延伸した後60℃で水洗した。ついで130℃で乾燥、更に125℃で1.8倍に延伸し、さらに、145℃で緩和熱処理を行い、3dtexのアクリル系合成繊維を得た。続いて、得られたアクリル系合成繊維にクリンプを付与して44mmにカットした。
【0046】
(製造例2)
内容積5Lの耐圧重合反応装置にアセトン2100g、水230g、AN150g、MA830g、SAM20gを投入し製造例1の重合体2と同様の方法で重合し、重合体3の溶液を得た。製造例1で得た重合体1が30重量%になるようにアセトンを加え溶解した重合体1の溶液に、重合体3の溶液を重合体の重量比が重合体1:重合体3=90:10の比率になるように混合した物を紡糸原液とした。得られた、紡糸原液を製造例1と同様の方法を用いて紡糸しアクリル系合成繊維を得た。
【0047】
(製造例3)
内容積5Lの耐圧重合反応装置にアセトン1750g、水580g、AN500g、MA400g、SAM100gを投入し製造例1の重合体2と同様の方法で重合し、重合体4の溶液を得た。製造例1で得た重合体1が30重量%になるようにアセトンを加え、溶解した重合体1の溶液に、重合体4の溶液を重合体の重量比が重合体1:重合体4=
90:10の比率になるように混合した物を紡糸原液とした。得られた、紡糸原液を製造例1と同様の方法を用いて紡糸しアクリル系合成繊維を得た。
【0048】
(製造例4)
製造例1で得た重合体1が30重量%になるようにアセトンを加え、溶解した重合体1の溶液を紡糸原液とした。得られた、紡糸原液を製造例1と同様の方法を用いて紡糸しアクリル系合成繊維を得た。
【0049】
【表1】

製造例1〜3で得られた、アクリル系合成繊維の組成を表1に示す。
【0050】
(製造例5)
製造例1で得られたアクリル系合成繊維を、下記のカチオン系活性剤と抜染用カチオン染料を用いて、上記「(1)染色方法」に記載した方法で染色した。
カチオン系活性剤:
ASTRAGAL PAN(ランクセス(株)製)・・・3.0%omf
抜染用カチオン染料:
Astrazon Blue FGGL(Dystar Japan Ltd.製)
・・・0.5%omf
(製造例6)
製造例1で得られたアクリル系合成繊維を、下記のカチオン系活性剤と抜染用カチオン染料を用いて、上記「(1)染色方法」に記載した方法で染色した。
カチオン系活性剤:
ASTRAGAL PAN(ランクセス(株)製)・・・5.0%omf
抜染用カチオン染料:
Astrazon Blue FGGL(Dystar Japan Ltd.製)
・・・0.5%omf
(製造例7)
製造例1で得られたアクリル系合成繊維を、下記の抜染用カチオン染料を用いて、上記「(1)染色方法」に記載した方法で染色した。
抜染用カチオン染料:
Astrazon Blue FGGL(Dystar Japan Ltd.製)
・・・0.5%omf
(製造例8〜10)
製造例1〜3で得られたアクリル系合成繊維を、カチオン系活性剤と抜染用カチオン染料を用いて、上記「(1)染色方法」に記載した方法でグレー色に染色した。
カチオン系活性剤:
ASTRAGAL PAN(ランクセス(株)製)・・・3.0%omf
抜染用カチオン染料:
Aizen Cathilon Discharge Yellow NLH
(保土谷化学工業(株)製)・・・0.45%omf
Aizen Cathilon Red CD−FGLH(保土谷化学工業(株)製)
・・・0.19%omf
Astrazon Blue FGGL(Dystar Japan Ltd.製)
・・・0.11%omf
製造例1、製造例2、製造例3のアクリル系合成繊維を上記条件で染色したものを、それぞれ、製造例8、製造例9、製造例10とする。
【0051】
(製造例11〜13)
製造例1〜3で得られたアクリル系合成繊維を、抜染用カチオン染料を用いて、上記「(1)染色方法」に記載した方法でグレー色に染色した。
抜染用カチオン染料:
Aizen Cathilon Discharge Yellow NLH
(保土谷化学工業(株)製)・・・0.45%omf
Aizen Cathilon Red CD−FGLH(保土谷化学工業(株)製)
・・・0.19%omf
Astrazon Blue FGGL(Dystar Japan Ltd.製)
・・・0.11%omf
製造例1、製造例2、製造例3のアクリル系合成繊維を上記条件で染色したものを、それぞれ、製造例11、製造例12、製造例13とする。
【0052】
(製造例14)
製造例4で得られたアクリル系合成繊維を、抜染用カチオン染料を用いて、上記「(1)染色方法」に記載した方法でグレー色に染色した。
抜染用カチオン染料:
Aizen Cathilon Discharge Yellow NLH
(保土谷化学工業(株)製)・・・0.45%omf
Aizen Cathilon Red CD−FGLH(保土谷化学工業(株)製)
・・・0.19%omf
Astrazon Blue FGGL(Dystar Japan Ltd.製)
・・・0.11%omf
製造例4のアクリル系合成繊維を上記条件で染色したものを、製造例14とする。
【0053】
(製造例15)
製造例4で得られたアクリル系合成繊維を、カチオン系活性剤と抜染用カチオン染料を用いて、上記「(1)染色方法」に記載した方法でグレー色に染色した。
カチオン系活性剤:
ASTRAGAL PAN(ランクセス(株)製)・・・1.0%omf
抜染用カチオン染料:
Aizen Cathilon Discharge Yellow NLH
(保土谷化学工業(株)製)・・・0.45%omf
Aizen Cathilon Red CD−FGLH(保土谷化学工業(株)製)
・・・0.19%omf
Astrazon Blue FGGL(Dystar Japan Ltd.製)
・・・0.11%omf
製造例4のアクリル系合成繊維を上記条件で染色したものを、製造例15とする。
【0054】
(製造例16)
製造例4で得られたアクリル系合成繊維を、カチオン系活性剤と抜染用カチオン染料を用いて、上記「(1)染色方法」に記載した方法でグレー色に染色した。
カチオン系活性剤:
ASTRAGAL PAN(ランクセス(株)製)・・・3.0%omf
抜染用カチオン染料:
Aizen Cathilon Discharge Yellow NLH
(保土谷化学工業(株)製)・・・0.45%omf
Aizen Cathilon Red CD−FGLH(保土谷化学工業(株)製)
・・・0.19%omf
Astrazon Blue FGGL(Dystar Japan Ltd.製)
・・・0.11%omf
製造例4のアクリル系合成繊維を上記条件で染色したものを、製造例16とする。
【0055】
(製造例17〜23)
製造例8〜13、15で染色したアクリル系染色繊維を、上記(3−1)ハイパイル作成に記載した方法で、ハイパイルに加工した。製造例8、製造例9、製造例10、製造例11、製造例12、製造例13、製造例15のアクリル系染色繊維を用いたハイパイルを、それぞれ、製造例17、製造例18、製造例19、製造例20、製造例21、製造例22、製造例23とする。
【0056】
(実施例1〜5)
製造例5、6、8〜10で得られた、アクリル系染色繊維を、上記「(2)白色抜染処方と抜染性評価(簡易方法)」に記載した方法で抜染速度を評価した。その結果を表2に示す。染色の際にカチオン系活性剤を用いる事で、抜染性が良好になり、抜染時間が
30分以下となった。抜染時間が30分以下であれば、実際にハイパイルに加工した後、上記記載の「(3−2)ハイパイルの白色抜染処方(カチオン系活性剤を含まない)」の抜染方法で抜染処理をしても、問題なく白色に抜染処理できるレベルであると判断できる。
【0057】
(比較例1〜4)
製造例7、11〜13で得られた、アクリル系染色繊維を、上記「(2)白色抜染処方と抜染性評価(簡易方法)」に記載した方法で抜染速度を評価した。その結果を表2に示す。染色の際にカチオン系活性を用いないと抜染性が不良になり、抜染時間が40分以上となった。抜染時間が30分を超えると、実際にハイパイルに加工してからの一般的な抜染処理条件では、白色に抜染処理する事は困難である。
【0058】
(比較例5)
製造例14で得られた、アクリル系染色繊維を、上記「(2)白色抜染処方と抜染性評価(簡易方法)」に記載した方法で抜染速度を評価した。製造例14で得られた、アクリル系染色繊維は、請求項に示す重合体(B)を含有しない為、抜染用カチオン染料は、抜染性が不良な前記の重合体1に染着し、抜染性は不良になり、抜染時間が40分以上となった。抜染時間が30分を超えると、実際にハイパイルに加工してからの一般的な抜染処理条件では、白色に抜染処理する事は困難である。
【0059】
(比較例6)
製造例15で得られた、アクリル系染色繊維を、上記「(2)白色抜染処方と抜染性評価(簡易方法)」に記載した方法で抜染速度を評価した。製造例15で得られた、アクリル系染色繊維は、請求項に示す重合体(B)を含有しない為、抜染用カチオン染料は、カチオン系活性剤と共に、抜染性が不良な前記の重合体1に染着し、抜染性は不良になり、抜染時間が40分以上となった。抜染時間が30分を超えると、実際にハイパイルに加工してからの一般的な抜染処理条件では、白色に抜染処理する事は困難である。
【0060】
(比較例7)
製造例4で得られたアクリル系合成繊維を製造例16に示す方法で染色した場合、製造例4で得られたカチオン系合成繊維は、請求項に示す重合体(B)を含有せず、また、カチオン系活性剤は、抜染用カチオン染料より染色速度が速く、かつ、過剰に存在する為、カチオン系活性剤が先に前記の重合体1に含まれる染料が結合する部位を封鎖してしまい、抜染用カチオン染料はアクリル系合成繊維に染着されず、染色できなかった。
【0061】
【表2】

(実施例6〜8)
製造例17〜19で作成したハイパイルを、上記「((3−2)ハイパイルの白色抜染処方(カチオン系活性剤を含まない)」記載の方法で抜染処理し、「(3−4)抜染ハイパイルの抜染性評価」に記載した方法で抜染性を評価し、さらに、上記「(3−5)抜染ハイパイル風合評価」に記載した方法で抜染ハイパイルの風合いを評価した。その結果を表3に示す。染色の際にカチオン系活性を用いる事で、ハイパイル加工品の抜染性も良好で、かつ、抜染後の風合いも良好であった。
【0062】
(比較例8〜11)
製造例20〜23で作成したハイパイルを、上記「((3−2)ハイパイルの白色抜染処方(カチオン系活性剤を含まない)」記載の方法で抜染し、「(3−4)抜染ハイパイルの抜染性評価」に記載した方法で抜染性を評価し、さらに、上記「(3−5)抜染ハイパイル風合評価」に記載した方法で抜染後のハイパイルの風合いを評価した。その結果を表3に示す。抜染後の風合いは良好であったが、染色の際にカチオン系活性剤を用いなかった為、抜染ハイパイル抜染性は、青味が残り、抜染性不良となった。
【0063】
(比較例12〜14)
製造例20〜22で作成したハイパイルを、上記「((3−3)ハイパイルの白色抜染処方(カチオン系活性剤を含む)」記載の方法で抜染処理し、「(3−4)抜染ハイパイルの抜染性評価」に記載した方法で抜染性を評価し、さらに、上記「(3−5)抜染ハイパイル風合評価」に記載した方法で抜染ハイパイルの風合いを評価した。その結果を表3に示す。カチオン系活性含んだ抜染用捺染糊を用いると、ハイパイル加工品の抜染性は良好となるが、抜染処理後の風合いは、抜染用捺染糊が付着した毛先部分が収縮してしまい、抜染処理後の再仕上げ工程で毛先部分が伸びない為、ガサツキ感の大きな風合になった。
【0064】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体(A)と重合体(B)の総量が100重量部であり、アクリロニトリル40〜80重量%とアクリロニトリルと共重合可能なハロゲン含有モノマー20〜60重量%およびスルホン酸基含有モノマー0〜5重量%を含有する重合体(A)70〜99.9重量部に、アクリロニトリル5〜70重量%とその他共重合可能なモノマー20〜94重量%とスルホン酸基含有モノマー1〜40重量%を含有する重合体(B)0.1〜30重量部を混合した重合組成物を含有するアクリル系合成繊維100重量部、抜染用カチオン系染料0.001〜10重量部、及びカチオン系活性剤0.001〜10重量部を含有することを特徴とするアクリル系染色繊維。
【請求項2】
抜染用カチオン系染料の量が0.01〜6重量部、及びカチオン系活性剤の量が0.01〜6重量部であることを特徴とする請求項1に記載のアクリル系染色繊維。
【請求項3】
前記重合体(B)に含まれるその他共重合可能なモノマーがアクリル酸エステルであることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載のアクリル系染色繊維。
【請求項4】
前記重合体(B)に含まれるスルホン酸基含有モノマーが2−アクリルアミドー2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のアクリル系染色繊維。
【請求項5】
前記重合体(B)に含まれるスルホン酸基含有モノマーがメタリルスルホン酸ナトリウムと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムとを併用することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系染色繊維。
【請求項6】
カチオン系活性剤が第4級アンモニウム化合物であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載のアクリル系染色繊維。
【請求項7】
第4級アンモニウム化合物が、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドであることを特徴とする請求項6に記載のアクリル系染色繊維。
【請求項8】
重合体(A)と重合体(B)の総量が100重量部であり、アクリロニトリル40〜80重量%とアクリロニトリルと共重合可能なハロゲン含有モノマー20〜60重量%およびスルホン酸基含有モノマー0〜5重量%を含有する重合体(A)70〜99.9重量部に、アクリロニトリル5〜70重量%とその他共重合可能なモノマー20〜94重量%とスルホン酸基含有モノマー1〜40重量%を含有する重合体(B)0.1〜30重量部を混合した重合組成物を含有するアクリル系合成繊維100重量部、抜染用カチオン系染料0.001〜10重量部、及びカチオン系活性剤0.001〜10重量部を、60〜120℃で染色して得られる事を特徴とするアクリル系染色繊維の製造方法。
【請求項9】
染色時の温度が90〜110℃である事を特徴とする請求項8に記載のアクリル系染色繊維の製造方法。
【請求項10】
前記重合体(B)に含まれるその他共重合可能なモノマーがアクリル酸エステルであることを特徴とする請求項8又は請求項9のいずれかに記載のアクリル系染色繊維の製造方法。
【請求項11】
前記重合体(B)に含まれるスルホン酸基含有モノマーが2−アクリルアミドー2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムであることを特徴とする請求項8〜請求項10のいずれかに記載のアクリル系染色繊維の製造方法。
【請求項12】
前記重合体(B)に含まれるスルホン酸基含有モノマーがメタリルスルホン酸ナトリウムと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムとを併用することを特徴とする請求項8〜請求項10のいずれかに記載のアクリル系染色繊維の製造方法。
【請求項13】
カチオン系活性剤が、第4級アンモニウム化合物であることを特徴とする請求項8〜請求項12のいずれかに記載のアクリル系染色繊維の製造方法。
【請求項14】
第4級アンモニウム化合物が、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドであることを特徴とする請求項13に記載のアクリル系染色繊維の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載のアクリル系染色繊維を含むアクリル系合成繊維材料を抜染剤で抜染したアクリル系抜染繊維材料。

【公開番号】特開2009−228188(P2009−228188A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78772(P2008−78772)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】