説明

アクリル系樹脂積層体

【課題】表面硬度、表面平滑性、及び鏡面光沢に優れ、かつ取り扱い性、靱性及び耐衝撃性に優れる金属光沢を有するアクリル樹脂積層体を提供する。
【解決手段】重量平均分子量40000以上のメタクリル系樹脂(A)と、粘度平均重合度200〜4000のポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドでアセタール化してなる、アセタール化された繰返し単位が全繰返し単位に対して65〜85モル%含まれ且つ炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化された繰返し単位/炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化された繰返し単位のモル比が90/10〜0/100であるポリビニルアセタール樹脂(B)とを、99/1〜51/49の質量比(A)/(B)で含有してなるアクリル系樹脂成形体;および該成形体の少なくとも一つの面に備えられた金属および/または金属酸化物からなる層を有するアクリル系樹脂積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系樹脂積層体に関するものである。より詳細に、本発明は、アクリル系樹脂成形体の少なくとも一つの面に金属および/または金属酸化物の層を備えてなり、表面硬度、表面平滑性および鏡面光沢に優れ、かつ取り扱い性、靭性および耐衝撃性に優れる、金属光沢を有するアクリル系樹脂積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装、家電品の外装、壁紙などの基材には、メタリック調などの意匠性を付与したり、耐傷つき性の付与、耐候性の付与などを目的として、金属や金属酸化物の膜と樹脂成形体とからなる積層体、好ましくは積層フィルムが貼り合わせられている。その中でもアクリル系樹脂積層体、好ましくはアクリル系樹脂積層フィルムは、耐候性・表面硬度に優れることから広範囲の分野において用いられている。
【0003】
しかし、メタクリル系樹脂のみからなる成形体、特にフィルムは非常に脆く、製膜が困難であるばかりでなく、取扱い性が非常に悪く、製膜と同時にトリミングする際、製膜後にフィルムを切断する際、フィルムを基材と貼り合わせる際、あるいは、基材と貼り合わせた後にバリを除去する際、に割れるなどの不具合を生じることがあった。そのため、該成形体には、靭性や耐衝撃性の改善が求められていた。
【0004】
このメタクリル系樹脂のみからなる成形体の脆さを改善するために、メタクリル系樹脂に、架橋されたコア−シェル型粒子を配合し、それを用いて成形してなるアクリル系樹脂成形体が提案されている。
例えば、特許文献1には、架橋されたアクリル酸アルキルエステル重合体の存在下でメタクリル酸アルキルエステルとアクリル酸アルキルエステルをグラフト共重合して得られる2層型のコア−シェル型粒子を配合したアクリル系樹脂成形体が提案されている。この2層型のコア−シェル型粒子をブレンドしたアクリル系樹脂成形体は、一般的に表面硬度が低い。その改善のために、3層型のコア−シェル型粒子(特許文献2)およびそれをブレンドしたアクリル系樹脂成形体(特許文献3、4)が提案されている。アクリル系樹脂成形体の表面硬度が高くなると、耐傷つき性が向上し、保護フィルムなどとして有利になる。
【0005】
しかし、架橋されたコア−シェル型粒子自体は流動性がないので、該コアーシェル型粒子をメタクリル系樹脂にブレンドした組成物を用いて、例えば、Tダイを用いた溶融成形あるいはインフレーション成形などを行った場合には、成形体の表面からコア−シェル型粒子の一部分が高さ数十nm〜100nm程度の円丘状に突出することは避けられない。この突出がアクリル系樹脂成形体の表面平滑性を低下させる。
特に3層型のコア−シェル型粒子は一般的に2層型のコア−シェル型粒子に比べ変形しにくいため、3層型のコア−シェル型粒子を用いたアクリル系樹脂成形体は、2層型のコア−シェル型粒子を用いたものに比べ、その表面硬度は高くなるものの、表面平滑性の低下は顕著であった。
フィルムの表面平滑性の低下は、製膜後にフィルムを切断する際、フィルムを基材と貼り合わせる際、あるいは、基材と貼り合わせた後にバリを除去する際等におけるフィルムの割れやすさを増大させる傾向にする。
【0006】
また、アクリル系樹脂成形体の一つの面に金属および/または金属酸化物の層を形成する場合に、成形体の表面平滑性は非常に重要な影響を及ぼす。すなわち、成形体の表面平滑性は、その表面に形成された金属および/または金属酸化物の層の表面平滑性にそのまま影響し、ひいては積層体の取扱い性や鏡面光沢などの意匠性に影響する。
さらに、射出成形同時貼合法により、金属および/または金属酸化物の層を形成させたアクリル系樹脂成形体で他の樹脂表面を加飾する場合に、アクリル系樹脂成形体の表面平滑性の低さが表面光沢の顕著な低下を引き起こすので、この点からも非常に高い表面平滑性が要求される。。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭56−27378号公報
【特許文献2】特公昭55−27576号公報
【特許文献3】特許3287255号公報
【特許文献4】特許3287315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、アクリル系樹脂成形体の少なくとも一つの面に金属および/または金属酸化物の層を備えてなる、表面硬度、表面平滑性および鏡面光沢に優れ、かつ取り扱い性、靭性および耐衝撃性に優れる、金属光沢を有するアクリル系樹脂積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定のメタクリル系樹脂と特定のポリビニルアセタール樹脂とを特定の質量比で含有する成形体の少なくとも一つの面に、金属または金属酸化物を製膜することによって、表面硬度および取扱い性に優れ、しかも靭性、耐衝撃性および表面平滑性に優れる、金属光沢を有するアクリル系樹脂積層体が得られることを見出した。本発明は、この知見に基づき、さらに検討し完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明によれば、重量平均分子量40000以上のメタクリル系樹脂(A)と、 粘度平均重合度200〜4000のポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドでアセタール化してなる、アセタール化された繰返し単位が全繰返し単位に対して65〜85モル%含まれ且つ炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化された繰返し単位/炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化された繰返し単位のモル比が90/10〜0/100であるポリビニルアセタール樹脂(B)とを、 99/1〜51/49の質量比(A)/(B)で含有してなるアクリル系樹脂成形体; および 該成形体の少なくとも一つの面に備えられた金属および/または金属酸化物からなる層 を有するアクリル系樹脂積層体が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアクリル系樹脂積層体は、表面硬度、表面平滑性および鏡面光沢に優れ、かつ取り扱い性、靭性(低速引張靭性)および耐衝撃性に優れるものである。本発明の積層体は、この特長を活かして、意匠性の要求される製品に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のアクリル系樹脂積層体は、メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)とを含有してなるアクリル系樹脂成形体、および該成形体の少なくとも一つの面に備えられた金属および/または金属酸化物からなる層 を有するものである。
【0013】
本発明に用いられるメタクリル系樹脂(A)は、メタクリル酸エステルを含有する単量体混合物を重合することによって得られる。
メタクリル酸エステルとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ミリスチルメタクリレート、パルミチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレートなどが挙げられる。これらのメタクリル酸エステルは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらのうち、アルキル基の炭素数が1〜4であるアルキルメタクリレートが好ましく、メチルメタクリレートが特に好ましい。
メタクリル酸エステル以外の単量体としては、アクリル酸エステルが挙げられる。またメタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体が挙げられる。
【0014】
アクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、ミリスチルアクリレート、パルミチルアクリレート、ステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレートなどが挙げられる。これらのうち、アルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートが好ましい。これらのアクリル酸エステルは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0015】
メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルと共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレンなどのジエン系化合物;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4−ジメチルスチレン、ハロゲンで核置換されたスチレン、1−ビニルナフタレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレンなどのビニル芳香族化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、無水マレイン酸、マレイン酸イミド、モノメチルマレエート、ジメチルマレエートなどを挙げることができる。
これらのエチレン性不飽和単量体は単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0016】
本発明に用いられるメタクリル系樹脂(A)は、メタクリル酸エステル単位の割合が、耐候性の観点から、50〜100質量%であることが好ましく、80〜99.9質量%であることがより好ましい。
また、メタクリル系樹脂(A)の耐熱性の観点から0.1〜20質量%の範囲でアクリル酸エステル単位を含有することが好ましい。
【0017】
本発明に用いられるメタクリル系樹脂(A)は、強度特性および溶融性の点から、重量平均分子量が、40,000以上、好ましくは40,000〜1,000,000であり、より好ましくは80,000〜500,000である。本発明に用いられるメタクリル系樹脂(A)は、分子鎖が線状のものであっても良いし、分子鎖に分岐を有するものであっても良いし、分子鎖に環状構造を有するものであっても良い。
【0018】
メタクリル系樹脂(A)は、α,β−不飽和化合物を重合させることができる方法であれば特にその製法によって制限されないが、ラジカル重合によって製造されたものが好ましい。重合法としては、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合などが挙げられる。
【0019】
重合時に用いられるラジカル重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスγ−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、クミルパーオキサイド、オキシネオデカノエート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルクミルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの過酸化物が挙げられる。重合開始剤は、全単量体100質量部に対して通常、0.05〜0.5質量部用いられる。重合は、通常50〜140℃の温度で、通常2〜20時間行われる。
【0020】
メタクリル系樹脂(A)の分子量を制御するためには、連鎖移動剤を使用することができる。連鎖移動剤としては、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、エチルチオグリコエート、メルカプトエタノール、チオ−β−ナフトール、チオフェノール等が挙げられる。連鎖移動剤は、全単量体に対し通常0.005〜0.5質量%の範囲で使用される。
【0021】
ポリビニルアセタール樹脂(B)は、通常、化1に表される繰り返し単位を有する樹脂である。
【0022】
【化1】

【0023】
化1中、R3はアセタール化反応に用いた炭素数3以下のアルデヒド由来のアルキル残基または水素原子、R4はアセタール化反応に用いた炭素数4以上のアルデヒド由来のアルキル残基(なお、アルキル残基R3およびR4の炭素数は、アセタール化反応に用いたアルデヒドの炭素数から1を引いた整数iとなる。iがゼロのときはR3は水素原子である。)、k3は炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合、k4は炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合、lはビニルアルコール単位のモル割合、mは酢酸ビニル単位のモル割合である。ただし、lおよび/またはmはゼロであってもよい。
各繰返し単位は、化1に示す配列順序によって特に制限されず、ランダムに配列されていてもよいし、ブロック状に配列されていてもよいし、テーパー状に配列されていてもよい。
【0024】
なお、繰返し単位のモル%は、ポリビニルアセタール樹脂の製造原料であるポリビニルアルコール樹脂中の主鎖の炭素2個からなる単位(例えば、ポリビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位、エチレン単位など)を一繰返しとして計算されたものである。例えば、化1に示すポリビニルアセタール樹脂では、全繰返し単位(=k3+k4+l+m)に対する、炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化された繰返し単位のモル%(k(AA))が、式:(k3/(k3+k4+l+m))×100 によって求められ、炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化された繰返し単位のモル%(k(BA))が、式:(k4/(k3+k4+l+m))×100 によって求められ、ビニルアルコールの繰返し単位のモル%(k(VA))が、式:(l/(k3+k4+l+m))×100 によって求められ、酢酸ビニルの繰返し単位のモル%(k(AV))が、式:(m/(k3+k4+l+m))×100 によって求められる。
【0025】
本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂(B)は、ポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドでアセタール化することによって得ることができる。
【0026】
ポリビニルアセタール樹脂(B)の製造に用いられるポリビニルアルコール樹脂は、粘度平均重合度が、200〜4,000、好ましくは300〜3,000、より好ましくは500〜2,000である。ポリビニルアルコール樹脂の粘度平均重合度が200未満であると、得られるポリビニルアセタール樹脂の力学物性が不足し、本発明のアクリル系樹脂積層体の力学物性、特に靭性が不足する傾向があり、取扱い性が悪くなる傾向がある。一方、ポリビニルアルコール樹脂の粘度平均重合度が4,000を超えるとメタクリル系樹脂と溶融混練する際の溶融粘度が高くなり、製造が困難になる傾向がある。
【0027】
ポリビニルアルコール樹脂は、その製法によって特に限定されず、例えば、ポリ酢酸ビニル等をアルカリ、酸、アンモニア水等によりけん化することにより製造されたものを用いることができる。
【0028】
ポリビニルアルコール樹脂は、完全けん化されたものであってもよいが、部分的にけん化されたもの、すなわち部分けん化ポリビニルアルコール樹脂であってもよい。けん化度は80mol%以上であることが好ましく、97モル%以上であることがさらに好ましく、99.5モル%以上であることが特に好ましい。
【0029】
また、上記ポリビニルアルコール樹脂として、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、部分けん化エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂等の、ビニルアルコール単位とこれに共重合可能なモノマー単位とからなる共重合体を用いることができる。さらに、一部にカルボン酸等が導入された変性ポリビニルアルコール樹脂を用いることができる。
これらポリビニルアルコール樹脂は、一種単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
ポリビニルアセタール樹脂(B)の製造に用いられる炭素数3以下のアルデヒドとしては、例えばホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒドなどが挙げられる。これら炭素数3以下のアルデヒドは1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。これら炭素数3以下のアルデヒドのうち、製造の容易さの観点から、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)およびホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)を主体とするものが好ましく、アセトアルデヒドが特に好ましい。
【0031】
ポリビニルアセタール樹脂(B)の製造に用いられる炭素数4以上のアルデヒドとしては、ブチルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。これら炭素数4以上のアルデヒドは1種単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらアルデヒドのうち、製造の容易さの観点からブチルアルデヒドを主体とするものが好ましく、ブチルアルデヒドが特に好ましい。
【0032】
ポリビニルアルコール樹脂のアセタール化を、ブチルアルデヒドで行った場合、アセタール化されたビニルアルコールの繰返し単位のモル割合はブチラール化度と呼ばれる。また、アセトアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコールの繰返し単位のモル割合はアセトアセタール化度、ホルムアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコールの繰返し単位のモル割合はホルマール化度と呼ばれる。
【0033】
例えば、ブチルアルデヒド、アセトアルデヒドおよびホルムアルデヒドでアセタール化して得られたポリビニルアセタール樹脂において、ブチルアルデヒドでアセタール化して得られたビニルアセタール単位のモル割合をk(BA)、アセトアルデヒドでアセタール化して得られたビニルアセタール単位のモル割合をk(AA)、ホルムアルデヒドでアセタール化して得られたビニルアセタール単位のモル割合をk(FA)、ビニルアルコール単位のモル割合をl、および酢酸ビニル単位のモル割合をmであるとしたとき、ブチラール化度は、 式:(k(BA)/{k(BA)+k(AA)+k(FA)+l+m})×100で求められる。アセトアセタール化度は、式:(k(AA)/{k(BA)+k(AA)+k(FA)+l+m})×100で求められる。ホルマール化度は、式:(k(FA)/{k(BA)+k(AA)+k(FA)+l+m})×100で求められる。
【0034】
ポリビニルアルコール樹脂のアセタール化反応は、公知の方法で行うことができる。例えば、ポリビニルアルコール樹脂の水溶液とアルデヒドとを酸触媒の存在下、アセタール化反応させて樹脂粒子を析出させる水媒法;ポリビニルアルコール樹脂を有機溶媒中に分散させ、酸触媒の存在下、アルデヒドでアセタール化反応させ、この反応液をポリビニルアセタール樹脂に対して貧溶媒である水等により析出させる溶媒法などが挙げられる。これらのうち、水媒法が好ましい。
アセタール化に用いられるアルデヒドは、すべてを同時に仕込んでも良いし、1種類づつを別々に仕込んでも良い。また、酸触媒の添加も、全てを同時に仕込んでも良いし、1種類づつを別々に仕込んでも良い。さらに、アルデヒドと酸触媒の添加順序も特に制限されない。
【0035】
アセタール化反応に用いる酸触媒は特に限定されず、例えば、酢酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸類;硝酸、硫酸、塩酸等の無機酸類;炭酸ガス等の水溶液にした際に酸性を示す気体;陽イオン交換体や金属酸化物等の固体酸触媒などが挙げられる。
【0036】
ポリビニルアセタール樹脂(B)の炭素数4以上のアルデヒドおよび炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化された繰返し単位の合計(総アセタール化度)は、JIS K6728(1977年)に記載の方法に則って、ビニルアルコール単位の質量割合(l0)および酢酸ビニル単位の割合(m0)を滴定によって求め、アセタール化されたビニルアルコール単位の質量割合(k0)をk0=1−l0−m0によって求め、これからビニルアルコール単位のモル割合(l)および酢酸ビニル単位のモル割合(m)を計算し、k=1−l−mの計算式によりアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合(k)を計算し、総アセタール化度(mol%)=k/(k+l+m)×100によって求めても良いし、ポリビニルアセタール樹脂を重水素化ジメチルスルフォキサイドに溶解し、1H−NMR、13C−NMRを測定して算出しても良い。
【0037】
本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂(B)は、炭素数4以上のアルデヒドおよび炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化された繰返し単位の合計(総アセタール化度)が、全繰返し単位に対して65〜85モル%であることが好ましく、70〜85モル%であることがより好ましく、80〜85モル%であることが特に好ましい。アセタール化された繰返し単位の合計が全繰返し単位に対して65モル%を下回ると、本発明に係るアクリル系樹脂成形体の力学物性、特に靭性と耐衝撃性が不足する。一方、85モル%を超えるポリビニルアセタール樹脂を製造する場合には非常に長い時間を要するため、経済的に不利である。
【0038】
また、好適なポリビニルアセタール樹脂(B)は、ビニルアルコール単位を通常17〜45モル%含み、ビニルアセテート単位を通常0〜5モル%、好ましくは0〜3モル%含む。
【0039】
水媒法及び溶媒法等において生成したポリビニルアセタール樹脂(B)のスラリーは、通常、酸触媒によって酸性を呈している。酸触媒を除去する方法として、該スラリーの水洗を繰り返し、pHを通常5〜9、好ましくは6〜9、さらに好ましくは6〜8に調整する方法;該スラリーに中和剤を添加して、pHを通常5〜9、好ましくは6〜9、さらに好ましくは6〜8に調整する方法;アルキレンオキサイド類等を添加する方法などが挙げられる。
【0040】
上記酸触媒除去のために用いる化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属化合物やアンモニア、アンモニア水溶液が挙げられる。また、アルキレンオキサイド類としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド;エチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類が挙げられる。
【0041】
次に中和により生成した塩、アルデヒドの反応残渣などを除去する。除去方法は特に制限されず、脱水と水洗を繰り返すなどの方法が通常用いられる。
残渣等が除去された含水状態のポリビニルアセタール樹脂は、必要に応じて乾燥され、さらに、必要に応じてパウダー状、顆粒状あるいはペレット状に加工され、成形に供される。パウダー状、顆粒状あるいはペレット状に加工される際に、減圧状態で脱気することによりアルデヒドの反応残渣や水分などを低減しておくことが好ましい。
【0042】
本発明に用いられるアクリル系樹脂成形体において、メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)との質量比(A)/(B)は、99/1〜51/49である。本発明のアクリル系樹脂積層体の靭性、取扱い性および表面硬度の観点から、質量比(A)/(B)は、95/5〜60/40であることが好ましく、90/10〜60/40であることがより好ましい。
【0043】
ポリビニルアセタール樹脂(B)の割合が1質量%を下回ると、本発明のアクリル系樹脂積層体の靭性や耐衝撃性などの力学物性が低下傾向になり、積層体の取扱い性が悪くなる傾向がある。一方、ポリビニルアセタール樹脂(B)の割合が49質量%を上回ると、本発明のアクリル系樹脂積層体の表面硬度が不足する傾向になる。
【0044】
本発明に用いられるアクリル系樹脂成形体に、必要に応じて各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、加工助剤、帯電防止剤、着色剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、艶消し剤などを添加してもよい。なお、本発明のアクリル系樹脂積層体の力学物性および表面硬度の観点から軟化剤や可塑剤は多量に添加しないことが好ましい。
【0045】
これら添加剤のうち、紫外線吸収剤は、耐候性を向上させる目的で好ましく添加することができる。紫外線吸収剤の種類は特に限定されないが、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、またはトリアジン系のものが好ましい。
紫外線吸収剤の添加量は、メタクリル系樹脂(A)の質量とポリビニルアセタール樹脂(B)の質量の合計に対して、通常0.1〜10質量%、好ましくは0.3〜5質量%、さらに好ましくは0.3〜2.0質量%である。
【0046】
なお、上記添加剤は、溶融混練前のメタクリル系樹脂(A)および/またはポリビニルアセタール樹脂(B)に添加されていてもよいし、メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)とを溶融混練する際に添加してもよいし、メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)を含む混合物を作製し、これを成形する際に添加してもよい。また、メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)と上記添加剤を混合し、直接にアクリル系樹脂成形体を作製してもよい。
【0047】
本発明を構成するアクリル系樹脂成形体は、メタクリル系樹脂(A)が連続相を形成していることが好ましい。メタクリル系樹脂(A)が連続相を形成していることにより、メタクリル系樹脂(A)に由来する良好な耐熱性および高い表面硬度を持ったアクリル系樹脂積層体が得られる。
【0048】
本発明に係るアクリル系樹脂成形体は、四酸化ルテニウムで電子染色したときに透過型電子顕微鏡にて観察される、染色された分散相が存在することが好ましい。該分散相は小さい方が好ましく、平均径は通常200nm以下、好ましくは100nm以下、特に好ましくは50nm以下である。なお、50nm以下という場合には、二つの成分が互いに完全相溶して、分散粒子が観察されない場合をも含む。
染色された分散相には、ポリビニルアセタール樹脂(B)が含まれていると考えられる。一方、染色されていない連続相はメタクリル系樹脂(A)によって形成されていると考えられる。
なお、アクリル系樹脂成形体の相構造の観察は、まずミクロトームを用いて超薄切片を作製し、次いで四酸化ルテニウムで電子染色し、透過型電子顕微鏡を用いて行う。
【0049】
本発明に用いられるアクリル系樹脂成形体は、その製法によって特に制限されないが、上記したメタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)とを、上記の質量比(A)/(B)で溶融混練し、成形することによって得ることが好ましい。
【0050】
特に、メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)とに対して、最大せん断速度10sec-1以上のせん断をかけながら樹脂温度140℃以上で溶融混練し、次いで120℃以下の温度に冷却する工程をさらに含むことが好ましい。このような工程を経ることにより、少なくともメタクリル系樹脂(A)が連続相を形成しているアクリル系樹脂成形体を得ることができる。
【0051】
上記工程を含む製法であれば、一旦メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)とを一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、オープンロール、ニーダーなどの公知の混練機を用いて、各構成成分を最大せん断速度10sec-1以上のせん断をかけながら樹脂温度140℃以上で溶融混練し、その後120℃以下に冷却、必要に応じてカットしてペレット形状としてから、これを溶融押出しして成形体を作製しても良いし、メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)とを含む混合物に対して直接に最大せん断速度10sec-1以上のせん断をかけながら樹脂温度140℃以上で溶融し、120℃以下に冷却してフィルムなどの成形体を作製しても良い。
【0052】
これらの製法のうち、大きなせん断力が得られ、メタクリル系樹脂(A)が連続相を形成しやすく、安定性および取扱い性に優れるので、二軸押出機を用いて溶融混練した後、冷却し、必要に応じてカットして一旦ペレット形状としてから、これを溶融押出しして成形体を作製するのが好ましい。溶融混練する際の樹脂温度は、140℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましく、180℃以上が特に好ましい。また、メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)との劣化を抑制するという観点から、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがさらに好ましい。
【0053】
溶融混練する際に与える剪断は、最大剪断速度が10sec-1以上であることが好ましく、100sec-1以上であることが特に好ましい。
上記混合物のペレットを作製する際に、10sec-1以上のせん断をかけながら樹脂温度140℃以上で溶融し、次いで120℃以下に冷却した場合には、その後、成形体を作製する際に再び10sec-1以上のせん断をかけながら樹脂温度140℃以上で溶融してもよいが、特にその必要はない。
【0054】
本発明に用いられるアクリル系樹脂成形体は、該成形体に求められる形状に応じて任意に選択された成形法を用いることによって得ることができる。アクリル系樹脂成形体がフィルムである場合には、Tダイ法、インフレーション法、溶融流延法、カレンダー法等の公知の方法を用いて成形することができる。良好な表面平滑性、良好な鏡面光沢および低ヘイズの成形体が得られるという観点から、上記溶融混練物をTダイから溶融状態で押し出し、その両面を鏡面ロール表面または鏡面ベルト表面に接触させて成形する工程を含む方法が好ましい。この際に用いるロールまたはベルトは、いずれも金属製であることが好ましい。このように押し出された溶融混練物の両面を鏡面に接触させて成形する場合には、成形体両面を鏡面ロールあるいは鏡面ベルトで加圧し挟むことが好ましい。鏡面ロールあるいは鏡面ベルトによる挟み込み圧力は、高い方が好ましく、線圧として10N/mm以上であることが好ましく、30N/mm以上であることがさらに好ましい。
【0055】
また、良好な表面平滑性、良好な鏡面光沢および低ヘイズのアクリル系樹脂成形体が得られるという観点から、アクリル系樹脂成形体を挟み込む鏡面ロールあるいは鏡面ベルトの少なくとも一方の表面温度を60℃以上で且つ成形体を挟み込む鏡面ロールあるいは鏡面ベルトの両方の表面温度を130℃以下とすることが好ましい。成形体を挟み込む鏡面ロールあるいは鏡面ベルトの両方の表面温度が60℃未満であると得られるアクリル系樹脂成形体の表面平滑性、ヘイズが不足する傾向にあり、少なくとも一方の表面温度が130℃を超えると成形体と鏡面ロールあるいは鏡面ベルトが密着しすぎるため、鏡面ロールあるいは鏡面ベルトからアクリル系樹脂成形体を引き剥がす際に成形体表面が荒れやすくなり、得られるアクリル系樹脂成形体の表面平滑性またはヘイズが悪化する傾向になる。
【0056】
本発明に用いられるアクリル系樹脂成形体は、連続相がメタクリル系樹脂(A)によって形成されていることが好ましい。樹脂温度140℃以上に昇温、あるいは樹脂温度140℃以上で溶融混練した後、樹脂温度120℃以下の温度に冷却する。冷却は溶融状態のストランドを冷水を溜めた水槽に浸すなどの方法で自然放冷に比べて急速に行うことが好ましい。急速冷却することによって、メタクリル樹脂(A)が連続相を形成し、かつメタクリル樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)とが部分相溶または完全相溶しやすくなる。さらに、分散相の大きさが非常に小さくなる。分散相の大きさは、通常200nm以下、好ましくは100nm以下、特に好ましくは50nm以下である。なお、50nm以下という場合には、二つの成分が互いに完全相溶して、分散粒子が観察されない場合をも含む。
【0057】
アクリル系樹脂成形体は、少なくとも一つの面、具体的には金属および/または金属酸化物の層が設けられる側の面の粗度が、好ましくは1.5nm以下、より好ましくは0.1〜1.0nmである。アクリル系樹脂成形体の両面が、粗度1.5nm以下であることがさらに好ましい。このような粗度を有する面に金属および/または金属酸化物の層を設けると、金属および/または金属酸化物の層の表面の粗度が小さくなり、光沢に優れた積層体を得ることができる。また、金属および/または金属酸化物の層を設ける際に、層の厚さを低減した場合にも光沢に優れるため、経済的である。さらに、金属および/または金属酸化物の層を設けた際にも、積層体を切断あるいは打抜く際のひび割れが少なく、取扱い性に優れる。
【0058】
本発明に用いられるアクリル系樹脂成形体の厚さは500μm以下が好ましい。500μmより厚くなると、ラミネート性、ハンドリング性、切断性・打抜き性などの二次加工性が低下傾向になるとともに、単位面積あたりの単価も増大し、経済的に不利な傾向になる。特に、当該アクリル系樹脂成形体の厚さとしては50〜300μmがより好ましく、75〜200μmがさらに好ましい。
【0059】
本発明に用いられるアクリル系樹脂成形体は着色されていてもよい。着色法としては、メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)との混合物自体に、顔料又は染料を含有させ、成形体作製前の樹脂自体を着色する方法;アクリル系樹脂成形体を、染料が分散した液中に浸漬して着色させる方法(染色法)などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0060】
本発明に用いられるアクリル系樹脂成形体は、少なくとも一方の面に、絵柄、文字、図形などの模様が印刷されていてもよい。模様は有彩色のものであっても、無彩色のものであってもよい。印刷は、印刷層の退色を防ぐために、後述する他の熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂と接する側に施すのが好ましい。
【0061】
本発明に用いられるアクリル系樹脂成形体は、表面が好ましくはHまたはそれよりも硬い鉛筆硬度を有し、より好ましくは2Hまたはそれよりも硬い鉛筆硬度を有する。
【0062】
本発明に用いられるアクリル系樹脂成形体は、その少なくとも一方の面に、他の熱可塑性樹脂層が少なくとも1層、直接または接着層を介して設けられているものであってもよい。
積層に適した他の熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、他の(メタ)アクリル樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合)樹脂などが挙げられる。
【0063】
他の熱可塑性樹脂層を積層させる方法は、特に制限されない。例えば、(1)アクリル系樹脂成形体と熱可塑性樹脂成形体とをそれぞれ別個に用意しておき、加熱ロール間で連続的にラミネートする方法、プレスで熱圧着する方法、圧空又は真空成形すると同時に積層する方法、接着層を介在させてラミネートする方法(ウェットラミネーション);(2)アクリル系樹脂成形体を基材にして、Tダイから溶融押出した他の熱可塑性樹脂をラミネートする方法;(3)前述のメタクリル系樹脂(A)および前述のポリビニルアセタール樹脂(B)の混合物と、別の熱可塑性樹脂とを共押出する方法などが挙げられる。
これらの方法のうち、(1)または(2)の方法では、アクリル系樹脂成形体または他の熱可塑性樹脂成形体の貼り合せ面側には、コロナ放電処理などの表面処理が施されていてもよい。
【0064】
本発明の積層体は、上記アクリル系樹脂成形体の少なくとも一つの面に、金属および/または金属酸化物からなる層が設けられている。
金属としては、例えば、アルミニウム、珪素、マグネシウム、パラジウム、亜鉛、錫、ニッケル、銀、銅、金、インジウム、ステンレス鋼、クロム、チタンなどを使用することができ、また金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化カルシウム、酸化カドミウム、酸化銀、酸化金、酸化クロム、珪素酸化物、酸化コバルト、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化白金、酸化パラジウム、酸化ビスマス、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化バリウムなどを使用することができる。これらの金属及び金属酸化物は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上の混合物として用いてもよい。これらのなかで、インジウムは、優れた意匠性を有し、この積層体を深絞り成形する際にも光沢が失われにくいことから好ましい。また、アルミニウムは、優れた意匠性を有し、かつ工業的にも安価に入手できるので、特に深い絞りを必要としない場合には特に好ましい。これらの金属及び/又は金属酸化物からなる層を設ける方法としては真空蒸着法が通常用いられるが、イオンプレーティング、スパッタリング、CVD(Chemical Vapor Deposition :化学気相堆積)などの方法を用いてもよい。金属及び/又は金属酸化物からなる層の厚さは、一般的には5〜100nm程度である。層形成後に深絞り成形を行う場合には、5〜250nmが好ましい。
【0065】
アクリル系樹脂成形体の表面平滑性が高いほど金属および/または金属酸化物からなる層との密着性が改善され、この界面で剥離しにくくなる。さらに、アクリル系樹脂成形体の表面平滑性が高い場合には、金属および/または金属酸化物からなる層の厚さを薄くしても、良好な光沢等の意匠性を有する積層体が得られる。表面平滑性が悪いと、金属および/または金属酸化物からなる層の厚さを薄くした際に、金属光沢を有さない欠点ができやすくなるので、アクリル系樹脂成形体の粗度が面によって異なる場合には、表面平滑性に優れる面に、具体的には粗度が、好ましくは1.5nm以下、より好ましくは0.1〜1.0nmである面に、金属および/または金属酸化物からなる層を形成することが好ましい。
【0066】
本発明のアクリル系樹脂積層体は、他の熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂の表面に接着させて、各種の構造物とすることができる。
【0067】
該構造物に用いられる他の熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、他の(メタ)アクリル樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合)樹脂などが挙げられる。他の熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。
【0068】
本発明の構造物の製法は、特に制限されない。例えば、本発明のアクリル系樹脂積層体を、他の熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂の表面に、加熱下で真空成形・圧空成形・圧縮成形することにより、本発明の構造物を得ることができる。本発明の構造物は、本発明のアクリル系樹脂積層体が、構造物の最表層に接着されて配置されており、それによって、表面平滑性、表面硬度、光沢などに優れ、さらにアクリル系樹脂積層体に印刷された絵柄等が鮮明に表示される。
【0069】
本発明のアクリル系樹脂積層体が、フィルム状、シート状または板状である場合には、射出成形同時貼合法に用いられるフィルム、シートまたは板(以下、これらを合わせて単にフィルムということがある。)として好適である。
この射出成形同時貼合法は、フィルムを射出成形用雌雄金型間に挿入し、その金型に該フィルムの片方の面から溶融した熱可塑性樹脂を射出して、射出成形体を形成すると同時に、その成形体に前記フィルムを貼合する方法である。本発明の構造物は、上記射出成形同時貼合法で好適に製造することができる。
【0070】
金型に挿入されるフィルム状の本発明アクリル系樹脂積層体は、平らなものであってもよいし、真空成形、圧空成形等で予備成形して凹凸形状に賦形されたものであってもよい。
フィルム状積層体の予備成形は、別個の成形機で行ってもよいし、射出成形同時貼合法に用いる射出成形機の金型内で予備成形を行ってもよい。後者の方法、すなわち、フィルム状積層体を予備成形した後、その片面に溶融樹脂を射出する方法は、インサート成形法と呼ばれる。
【0071】
射出成形同時貼合する際、本発明の積層体における金属および/または金属酸化物からなる層側が射出成形される樹脂側となるように、すなわち、金属又は金属酸化物からなる層がアクリル系樹脂成形体と射出成形して形成される樹脂成形体とに挟まれるように配置される。
こうして得られる構造物は、アクリル系樹脂成形体が最表層に配置された状態となり、表面平滑性、表面硬度、光沢などに優れるとともに、深み感にも優れる。
【0072】
本発明の積層体は、良好な表面平滑性、高表面硬度および良好な鏡面光沢、取扱い性をいかして、意匠性の要求される物品、すなわち、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板等の看板部品;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイ等のディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、シャンデリア等の照明部品;家具、ペンダント、ミラー等のインテリア部品;ドア、ドーム、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根等の建築用部品;バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、自動車内装部材、バンパーなどの自動車外装部材等の輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機、携帯電話、パソコン等の電子機器部品;防音壁等の交通関係部品;その他、浴室部材、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、等の表面の加飾フィルム兼保護フィルム、壁紙;等に好適に用いられる。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は、特にことわりのない限り「質量部」を表し、「%」は、特にことわりのない限り「質量%」を表す。
【0074】
本発明のアクリル系樹脂積層体の特性評価を以下の方法に従って行った。
(1)粗度の測定
原子間力顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製SPI4000プローブステーションE−sweep環境制御ユニット)を用いて、表面の形状をDFMモードによって測定した。積層体表面の粗度の測定は、金属層を蒸着した面で行った。プローブはエスアイアイ・ナノテクノロジー社製SI−DF20(背面Al)を用いた。なお、試料の測定に先立ち、ピッチ10μm、段差100nmの参照試料を測定し、装置のX軸、Y軸の測定誤差が10μmに対して5%以下、Z軸の誤差が100nmに対して5%以下であることを確認した。
【0075】
試料の観察領域は2μm×2μmとし、測定周波数を1.0Hzとした。スキャンライン数はX軸を512、Y軸を512とした。(測定は25℃±2℃、湿度30±5%の大気環境で行った。)得られた測定データを、装置に付属のデータ処理ソフトウェアにより解析し、平均面粗さRaを求めた。すなわち、装置の測定ソフトウェアの[ツール]メニューの[3次傾き補正]コマンドを選択し、フィルムの傾きや大きなうねりの全面傾きを補正した後、[解析]メニューの[表面粗さ解析]コマンドを選択し、平均面粗さRaを得た。平均面粗さRaは、以下のように定義される。
※平均面粗さRa:基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値。
【0076】
【数1】

ここでF(X,Y)は(X,Y)座標での高さの値を表す。Z0は以下で定義されるZデータの平均値を表す。
【0077】
【数2】

また、S0は、測定領域の面積を表す。
【0078】
この平均面粗さRaを成形体の両面(便宜上、A面およびB面とする)において異なる10箇所の領域でそれぞれ測定し、10箇所の平均面粗さRaの平均値を成形体表面の粗度とした。また、積層体の金属蒸着面において異なる10箇所の領域で測定し、10箇所の平均面粗さRaの平均値を積層体表面の粗度とした。
3次傾き補正は、測定した試料表面を3次の曲面で最小2乗近似によってフィッティングすることによって行い、試料の傾きおよびうねりの影響を排除するために行った。
【0079】
(2)透過型電子顕微鏡によるモルフォロジー観察
アクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)を溶融混練後、冷却した。これを、ウルトラミクロトーム(RICA社製 ReichertULTRACUT−S)を用いて超薄切片を作製した。この該切片を四酸化ルテニウムで電子染色し、ポリビニルアセタール樹脂(B)部分を染色した。こうして作製した試料のモルフォロジーを株式会社日立製作所製透過型電子顕微鏡H−800NAを用いて観察した。観察されたモルフォロジーにおいて非染色部が連続相を形成していたものを○、非染色部が不連続であったものを×として評価した。なお、非染色部は主にメタクリル系樹脂(A)からなる部分である。
また、染色された分散相の平均粒子径を計測した。染色部は、ポリビニルアセタール樹脂(B)からなる部分である。
【0080】
(3)フィルムのヘイズの測定
JIS K7136に従って、厚さ125μmのフィルムのヘイズを測定した。
【0081】
(4)引張り試験における靭性の測定
積層体を、Dumb Bell Ltd.製スーパーダンベルカッターで打ち抜いて、JIS K6251に記載のダンベル状2号形の試験片を得た。株式会社島津製作所製オートグラフAG−500を用いて、該試験片を引張り速度5mm/min.で引張り、試験片が破断するまでに要するエネルギーで靭性を評価した。
【0082】
(5)デュポン式落球衝撃試験
積層体(長さ25mm×幅25mm)を、JIS K5600−5−3に記載のデュポン方式で、0.3〜1.0kgの錘を用いて落球衝撃試験を行い、落球によってフィルムが破砕しない最大衝撃(単位:J)を求めた。なお、試験に用いる錘の重さ(単位:kg)と落下する距離(単位:m)から、フィルムに与える衝撃(単位:J)を下記の計算式よって算出することが出来る。
フィルムに与える衝撃[J]=
錘の重さ[kg]×重力加速度[m/s2]×錘が落下する距離[m]
【0083】
(6)切断性
株式会社ダンベル製スーパー円形カッター(型式SDRK−1000−D)を株式会社ダンベル製SDL−200型レバー式試料裁断器に取り付け、株式会社ダンベル製台紙(サイズ:160mm×200mm×3mm)の上に金属および/または金属酸化物の層を片側に有する積層体を置いて、積層体から直径25.12mmの円形試験片を10回打抜いた際に、円形試験片形状以外に亀裂が10回とも入らなかった場合を○、円形試験片形状以外に一回以上亀裂が入った場合を△、円形試験片形状以外に亀裂が10回すべてに入った場合を×として評価した。
【0084】
(7)金属および/または金属酸化物の層を形成した積層体の鏡面光沢度
JIS Z8741の方法3に従って、60度鏡面光沢を測定した。
【0085】
(8)金属および/または金属酸化物の層を形成した積層体のアルミニウムが蒸着されていない部分(欠点)の有無
積層体のアルミニウムが蒸着した側を目視で観察して、アルミニウムが蒸着されていない部分(欠点)がある場合を×、アルミニウムが蒸着されていない部分(欠点)がない場合を○として評価した。
【0086】
(9)表面硬度
JIS K5400にしたがって、金属および/または金属酸化物の層が形成された面の反対側の積層体表面(フィルムのB面)の鉛筆硬度を測定した。
【0087】
〔メタクリル系樹脂〕
バルク重合法によって、メタクリル酸メチル単位99.3質量%およびアクリル酸メチル単位0.7質量%からなる、重量平均分子量120000のメタクリル系樹脂(A−1)を作製した。
【0088】
〔ポリビニルアセタール樹脂〕
ポリビニルアルコール樹脂を溶解した水溶液に、アルデヒド化合物ならびに酸触媒(塩酸)を添加し、攪拌してアセタール化し、樹脂を析出させた。公知の方法に従ってpH=6になるまで洗浄し、次いでアルカリ性にした水性媒体中に懸濁させて攪拌しながら後処理し、再びpH=7になるまで洗浄し、揮発分が0.3%以下になるまで乾燥することにより、表1に示すポリビニルアセタール樹脂をそれぞれ得た。
【0089】
【表1】

【0090】
実施例1
メタクリル系樹脂(A−1)およびポリビニルアセタール樹脂(B−1)を表2に記載した配合量で、日本製鋼所製二軸混練押出機TEX−44α(L/D=40)を用いて混練してペレットを得た。得られたペレットをプラスチック工学研究所製GT−40を用いて幅500mmのTダイより押出成形し、Tダイ直下において90℃に温度調節した2本の金属製鏡面ロールで、押付け圧力50N/mmで挟み込むことにより、厚さ125μmのフィルムを得た。このフィルムの表面の粗度(便宜上、粗度の小さい面をA面、粗度の大きい面をB面と記載した。以下、同様。)、モルフォロジーおよびヘイズを評価し、その結果を表2に示した。
このフィルムのA面にコロナ放電処理を施し、次いでA面にアルミニウムを真空蒸着法により蒸着した。アルミニウム層の厚さは30nmであった。こうして得た積層体の蒸着面の粗度、靭性、デュポン式落球衝撃試験、取扱い性(積層体の切断性)、60度鏡面光沢、欠点の有無および表面硬度を評価し、表2にその結果を示した。
【0091】
【表2】

【0092】
実施例2〜5
表2に記載した配合量のメタクリル系樹脂(A)およびポリビニルアセタール樹脂(B)を用いた他は実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を得た。このフィルムの表面の粗度、モルフォロジーおよびヘイズの評価結果と;積層板の粗度、靭性、デュポン式落球衝撃試験、取扱い性(積層体の切断性)、60度鏡面光沢、欠点の有無および表面硬度の評価結果とを表2に示した。
【0093】
実施例6
実施例2において、Tダイ直下において2本の金属製鏡面ロールで挟み込まず、フィルムを1本の90℃に温度調節した鏡面金属ロールのみに接触させ、片面を空気に開放したこと以外は実施例1と同様にして厚さ125μmのフィルムを得た。このフィルムの表面の粗度、モルフォロジーおよびヘイズの評価結果を表2に示した。さらに、このフィルムのA面にコロナ放電処理を施し、次いでA面にアルミニウムを真空蒸着法により蒸着した。アルミニウム層の厚さは30nmであった。こうして得た積層体の蒸着面の粗度、靭性、落球衝撃試験、取扱い性(積層体の切断性)、60度鏡面光沢、欠点の有無、および表面硬度を評価し、表2にその結果を示した。
【0094】
実施例7
実施例2においてアルミニウム層の厚さを10nmにしたこと以外は実施例1と同様にしてフィルムおよび積層体を得た。このフィルムの表面の粗度、モルフォロジー、およびヘイズの評価結果と;積層体の蒸着面の粗度、靭性、デュポン式落球衝撃試験、取扱い性(積層体の切断性)、60度鏡面光沢、欠点の有無、および表面硬度の評価結果とを表2に示した。
【0095】
実施例8
メタクリル系樹脂(A−1)およびポリビニルアセタール樹脂(B−2)を表2に記載した配合量で、日本製鋼所製二軸混練押出機TEX−44α(L/D=40)を用いて混練してペレットを得た。得られたペレットをプラスチック工学研究所製GT−40を用いて幅500mmのTダイより押出成形し、Tダイ直下において90℃に温度調節した2本の金属製鏡面ロールで、押付け圧力50N/mmで挟み込むことにより、厚さ2mmの板状成形体を得た。この成形体の表面の粗度(便宜上、粗度の小さい面をA面、粗度の大きい面をB面と記載した。以下、同様。)、モルフォロジー、ヘイズを評価し、表2に示した。さらに、この板状成形体のA面にコロナ放電処理を施し、次いでA面にアルミニウムを真空蒸着法により蒸着した。アルミニウム層の厚さは30nmであった。こうして得た積層体の粗度、靭性、デュポン式落球衝撃試験、取扱い性(積層体の切断性)、60度鏡面光沢、欠点の有無、および表面硬度を評価し、表2にその結果を示した。
【0096】
【表3】

【0097】
比較例1
メタクリル系樹脂(A−1)のみを用いて、プラスチック工学研究所製GT−40を用いて幅500mmのTダイより押出成形し、Tダイ直下において90℃に温度調節した2本の金属製鏡面ロールで、押付け圧力50N/mmで挟み込むことにより、厚さ125μmのフィルムを得た。このフィルムの表面の粗度、モルフォロジー、およびヘイズの評価結果を表3に示した。さらに、このフィルムのA面にコロナ放電処理を施し、次いでA面にアルミニウムを真空蒸着法により蒸着した。アルミニウム層の厚さは30nmであった。こうして得た積層体の蒸着面の粗度、靭性、デュポン式落球衝撃試験、取扱い性(積層体の切断性)、60度鏡面光沢、欠点の有無、および表面硬度を評価し、表3にその結果を示した。
【0098】
比較例2
メタクリル系樹脂(A−1)およびポリビニルアセタール樹脂(B−6)を表3に記載した配合量で、日本製鋼所製二軸混練押出機TEX−44α(L/D=40)を用いて混練してペレットを得た。得られたペレットをプラスチック工学研究所製GT−40を用いて幅500mmのTダイより押出成形し、Tダイ直下において90℃に温度調節した2本の金属製鏡面ロールで、押付け圧力50N/mmで挟み込むことにより、厚さ125μmのフィルムを得た。このフィルムの表面の粗度、モルフォロジー、およびヘイズの評価結果を表3に示した。さらに、このフィルムのA面にコロナ放電処理を施し、次いでA面にアルミニウムを真空蒸着法により蒸着した。アルミニウム層の厚さは30nmであった。こうして得た積層体の蒸着面の粗度、靭性、デュポン落球衝撃試験、取扱い性(積層体の切断性)、60度鏡面光沢、欠点の有無、および表面硬度を評価し、表3にその結果を示した。
【0099】
比較例3〜6
メタクリル系樹脂(A)およびポリビニルアセタール樹脂(B)を表3に記載した配合で用いた以外は、比較例2と同様にして、フィルムおよび積層体を得た。このフィルムの粗度、モルフォロジー、およびヘイズの評価結果と;積層板の粗度、靭性、デュポン式落球衝撃試験、取扱い性(積層体の切断性)、60度鏡面光沢、欠点の有無、および表面硬度の評価結果を表3に示した。
【0100】
表2および表3に示すように、ポリビニルアセタール樹脂(B)の、炭素数4以上のアルデヒドと炭素数3以下のアルデヒドを用いてアセタール化された繰返し単位が、全繰返し単位に対して65〜85モル%の範囲から外れた材料、 炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化された繰返し単位/炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化された繰返し単位のモル比が90/10〜0/100から外れた材料、または メタクリル系樹脂(A)およびポリビニルアセタール樹脂(B)の質量比が、99/1〜51/49の範囲から外れた材料 を用いて得られた成形体に金属膜を設けた積層体(比較例)は、靭性、デュポン落球衝撃試験、取り扱い性、鏡面光沢または表面硬度のいずれかが劣る。
これに対して本発明に従って製造された積層体(実施例)は、取り扱い性に優れ、靭性、デュポン落球衝撃試験、鏡面光沢及び表面硬度が高くなっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量40000以上のメタクリル系樹脂(A)と、 粘度平均重合度200〜4000のポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドでアセタール化してなる、アセタール化された繰返し単位が全繰返し単位に対して65〜85モル%含まれ且つ炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化された繰返し単位/炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化された繰返し単位のモル比が90/10〜0/100であるポリビニルアセタール樹脂(B)とを、 99/1〜51/49の質量比(A)/(B)で含有してなるアクリル系樹脂成形体; および 該成形体の少なくとも一つの面に備えられた金属および/または金属酸化物からなる層 を有するアクリル系樹脂積層体。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂成形体の、金属および/または金属酸化物からなる層が備わる側の面が、粗度1.5nm以下である請求項1に記載のアクリル系樹脂積層体。
【請求項3】
前記アクリル系樹脂成形体の両面の粗度がともに1.5nm以下である、請求項1または2に記載のアクリル系樹脂積層体。
【請求項4】
四酸化ルテニウムで電子染色したときに透過型電子顕微鏡にて観察される、染色された分散相の平均径が50nm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリル系樹脂積層体
【請求項5】
前記アクリル系樹脂成形体が、 前記メタクリル系樹脂(A)と前記ポリビニルアセタール樹脂(B)とを溶融混練し、Tダイから溶融状態で押し出し、該押し出されたものの両面を鏡面ロール表面または鏡面ベルト表面に接触させて成形してなるものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアクリル系樹脂積層体。
【請求項6】
前記アクリル系樹脂成形体は、その表面が、2Hまたはそれよりも硬い鉛筆硬度を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアクリル系樹脂積層体。
【請求項7】
前記アクリル系樹脂成形体の厚さが500μm以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載のアクリル系樹脂積層体。
【請求項8】
前記アクリル系樹脂成形体の一つの面に他の熱可塑性樹脂からなる層がさらに設けられている、請求項1〜7のいずれか1項に記載のアクリル系樹脂積層体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のアクリル系樹脂積層体が熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂の表面に接着されてなる構造物。

【公開番号】特開2011−88357(P2011−88357A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243785(P2009−243785)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】