説明

アクリル系重合体の製造方法

【課題】攪拌翼を用いることなく重合開始剤とアクリル系単量体とを混合して重合させる、アクリル系重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】脱酸素処理したアクリルアミド等のアクリル系単量体の水溶液と重合開始剤とを、例えば、該アクリル系単量体の水溶液の有する流動エネルギーを用いて混合した上で、その混合液を静置状態として重合を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アクリル系重合体の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
紙力増強剤や高分子凝集剤に用いられるポリアクリルアミドを初めとするアクリル系重合体の製造方法としては、例えば、アクリルアミドなどのアクリル系単量体の水溶液を過硫酸塩等の過酸化結合含有開始剤や、これと亜硫酸塩とを組み合わせたレドックス開始剤、アゾ系開始剤などの重合開始剤の存在下で重合させる方法が知られている。
【0003】
その重合にあたっては、生成ポリマーの均一性を確保するため、通常、アクリル系単量体の水溶液と重合開始剤とは、重合に先立って十分に攪拌混合しておくことが好ましい。
【0004】
この攪拌混合にあたっては、例えば、図3(a)のような密閉型重合槽1にアクリル系単量体の水溶液3を投入して、曝気管4から供給する窒素ガスにより曝気した後、攪拌翼2を回転させることで攪拌しながら、上記の重合開始剤を投入して、重合を行う方法が用いられている。このような方法は、例えば特許文献1に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−109220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特にアクリルアミドやこれを主体とするアクリル系単量体が重合してアクリル系重合体となると、流動性が少ない含水ゲルが生じるために攪拌翼2に付着、あるいは攪拌翼2を取り込んでゲル状化してしまう。このため、重合後に重合槽1を分解して、図3(b)のように含水ゲルから攪拌翼2を抜き出すのは困難であり、場合によっては攪拌翼2が破損してしまうおそれがあった。また、取り出すことができたとしても、攪拌翼2にはアクリル系重合体が付着しているため、洗浄しなければならなかった。このため重合槽の構造は複雑になり、工程を自動化して効率的な生産を行うのは困難であった。
【0007】
そこでこの発明は、反応混合液中に攪拌翼などの攪拌装置を浸漬させずにアクリルアミド等のアクリル系単量体を重合できる、容易に自動化可能なアクリル系重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、脱酸素処理したアクリル系単量体の水溶液と重合開始剤とを混合した上で、その混合液を静置状態として重合を行うことにより、上記の課題を解決したのである。
【0009】
アクリルアミドを初めとするアクリル系単量体は、重合開始剤と十分に混合しておけば、外部から攪拌装置での攪拌を行わずに静置しておいても、重合を進行させることができる。
【0010】
すなわち、攪拌翼や曝気管などの攪拌装置による攪拌を行わずに、上記アクリル系単量体の水溶液と重合開始剤とを予め混合した後で、その混合液を静置状態として重合を行えば、重合後に得られる含水ゲルであるアクリル系重合体が、上記の攪拌装置を内包せずに済む。このようなアクリル系重合体の含水ゲルは、取り出しに際して邪魔になる攪拌装置を取り込んでいないので、重合槽から容易に取り出すことができる。
【0011】
予め上記アクリル系単量体の水溶液と上記重合開始剤との混合を行う方法としては、上記アクリル系単量体の水溶液が流動することで有している流動エネルギーを用いて行う方法がある。上記重合開始剤を重合槽に仕込み、又は、上記アクリル系単量体の水溶液を重合槽に仕込む際に、上記アクリル系単量体の水溶液が流動エネルギーを有していると、その流動エネルギーによって、仕込まれた上記重合開始剤や、上記アクリル系単量体の水溶液が攪拌されて混合することとなる。
【0012】
上記アクリル系単量体の水溶液を、予め重合を行う重合槽よりも高い位置にある溶解槽で調整し、かつ、上記水溶液の上記重合槽への仕込みを、前記溶解槽と前記重合槽との高低差を用いて行うと、上記アクリル系単量体の水溶液は、その高低差の位置エネルギーを運動エネルギーに変えて前記重合槽に仕込まれる。その運動エネルギーは、前記重合槽に入ってもしばらくは持続する流動エネルギーとなる。すなわち、この高低差から生じる流動エネルギーによって上記アクリル系単量体の水溶液と上記重合開始剤とを混合することによって、上記攪拌装置を必要とせずに十分な混合を行うことができる。
【0013】
上記のような高低差を利用して混合することで、重合を行う重合槽自体には攪拌装置を有していないものを用いることができ、攪拌装置自体が無いものを用いると、得られる上記アクリル系重合体に攪拌装置が取り込まれることがなくなる。
【0014】
この発明で用いる上記アクリル系単量体としては、アクリルアミドや、アクリルアミドを主体とする重合性単量体の混合物を用いて、上記の静置状態での重合によるアクリル系重合体の製造を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明にかかる製造方法によると、攪拌翼や曝気管などの攪拌装置を用いることがなく、アクリル系重合体のみの水性ゲルを容易に得ることが出来る。また、従来必要としていた曝気管の洗浄が不要であるので、複数の装置を用いて時間をずらして並列的に作業をすすめることで容易に工程を自動化することができる。さらに、攪拌翼などが水性ゲルに取り込まれることが無いので、得られた水性ゲルを攪拌装置から引きはがす作業を省略して、簡便に高品質の水性ゲルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下この発明について詳細に説明する。
この発明は、アクリル系単量体を、重合開始剤を用いて重合してアクリル系重合体を製造するにあたり、脱酸素処理したアクリル系単量体の水溶液と重合開始剤とを混合した上で、その混合液を静置状態として重合を行う、アクリル系重合体の製造方法である。
【0017】
この発明で用いるアクリル系単量体とは、アクリルアミドやアクリル酸、アクリル酸のナトリウム塩やカリウム塩などの水溶性塩などの、アクリル基を有する単量体や、それらの単量体を主成分とする重合性単量体の混合物をいい、その中でも特に、アクリルアミドや、アクリルアミドを主体とする重合性単量体の混合物のような、水との親和性が高く、重合が進むと含水ゲルを生成しやすい単量体又はそれらの混合物が好適に用いられる。混合物に含まれるその他の単量体としては、アクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸塩と共重合可能な化合物を用いることができ、例えば、メタクリルアミド、メチロールアクリルアミド、メタクリル酸、あるいはこれらのナトリウム塩やカリウム塩などの水溶性塩類、エステル類、アクリロニトリル、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化エチル四級塩、ジメチルアミノエチルメタクリレートのジメチル硫酸四級塩などが挙げられる。上記混合物は、アクリルアミド以外にこれらの化合物を1種類のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。なお、アクリルアミドを主体とする、とは、アクリルアミドが単量体の混合物中に最大割合で存在していることを言い、好ましくは、全体の50重量%以上を占めていることをいう。
【0018】
上記アクリル系単量体の水溶液中の上記アクリル系単量体の濃度は、用途に応じて任意であり、特に限定されないが、10重量%以上であると好ましく、20重量%以上であると好ましい。10重量%未満であると、得られるアクリル系重合体を単離する際に乾燥時間が長くなり、乾燥負荷が大きくなりすぎるためである。一方で32重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましい。32重量%を超えると、重合の進行に伴う液の粘度上昇が速やかに起こるため、反応熱の除熱効率が低下して、上記水溶液が沸騰してしまったり、得られる重合体の品質を低下させてしまう場合がある。
【0019】
またこの他に、後の工程で安定的に上記アクリル系重合体を生産し、また、生産後の取り出し等を容易にしたり、あるいは、得られる重合体の性質を調整するために、上記水溶液は添加剤を含有させてもよい。このような添加剤としては、硫酸銅、硫酸マンガン、チオ尿素などの重合防止剤や、乳化剤、消泡剤、ポリエチレングリコール、尿素などの離型剤、メチオニン、メルカプトベンゾチアゾールなどの耐熱防止剤などが挙げられる。これら添加物は、上記重合槽に導入する前に上記アクリル系単量体の水溶液に含有させておいてもよいし、上記重合開始剤と同様に投入して自己攪拌により混合させてもよい。
【0020】
この発明において重合を開始する前に、上記水溶液は、曝気槽で不活性ガスにより脱酸素しておくと好ましい。このような曝気をしておかないと、重合開始までの誘導期が長くなりすぎてしまい、反応が効率的に行えなくなるためである。曝気にあたっては、窒素など一般的な不活性ガスを用いることができ、上記水溶液が入った曝気槽の内部に設けた気体放出孔から気体を放出して曝気を行うことができる。
【0021】
この発明で上記アクリル系重合体を製造する際に用いる重合方法としては、沈殿重合、塊状重合、分散重合、エマルジョン重合、水溶液重合などが挙げられる。
【0022】
この発明で重合に用いる重合開始剤は、特に限定されないが、例えば、酸化剤系の開始剤、或いは、これと還元剤とを組み合わせたレドックス開始剤、及びアゾ系開始剤の少なくとも一種類を使用する。また、レドックス開始剤に加えてアゾ系開始剤を含有させると、反応が更に促進されるのでより好ましい。
【0023】
上記のアゾ系開始剤としては例えば、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)などが挙げられ、この中でも特に、水溶性で使いやすく、高分子量のアクリル系重合体を得やすいため、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩が好ましい。
【0024】
上記のアゾ系開始剤の添加量は、上記アクリル系単量体に対して、100重量ppm以上であることが好ましく、400重量ppm以上であることがより好ましい。100重量ppm未満であると、重合が進行しないことがある。一方で、5000重量ppm以下であることがましく、1500重量ppm以下であることがより好ましい。5000重量ppmを超えると、反応の制御性が悪化し、また、得られるポリマーの分子量が低下するので好ましくない。
【0025】
上記の酸化剤系の開始剤とは、通常、過酸化物結合(パーオキシ結合)を有し、これが分解して生成するラジカルが重合開始剤として作用する開始剤であり、具体的な化合物としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、過臭素酸ナトリウム、過臭素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウムなどの過臭素酸塩又は過塩素酸塩、過酸化ベンゾイル、tert−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、ジtert−ブチルパーオキサイドなどの有機パーオキシ化合物、過ホウ酸ナトリウム、炭酸化ナトリウム、過酸化水素等の過酸化結合含有化合物を用いることができる。
【0026】
上記酸化剤系の開始剤の添加量は、上記アクリル系単量体に対して1重量ppm以上であることが好ましく、3重量ppm以上であることがより好ましく、10重量ppm以上であることが更に好ましい。添加量が1重量ppm未満であると、重合が進行しないことがある。一方で500重量ppm以下であることが好ましく、200重量ppm以下であることがより好ましく、100重量ppm以下であることが更に好ましい。500重量ppmを超えると、反応の制御性が悪化し、また、得られるアクリル系重合体の分子量が低下するので好ましくない。
【0027】
上記の還元剤は、上記の酸化剤と組み合わせることによりレドックス開始剤として作用するものであり、具体的な化合物としては、例えば、硫酸第1鉄、塩化第1鉄、亞ニチオン酸ナトリウム、亞ニチオン酸アンモニウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素アンモニウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸アンモニウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、亜硝酸塩などの無機還元剤や、トルエンスルフィン酸、ジメチルアニリン、フェニルヒドラジンなどの、スルフィン基、第3アミノ基、ヒドラジン基などの還元性の官能基を含む有機還元剤を挙げることができる。このうち、無機還元剤の方が、多くの場合、重合速度および重合率の点から望ましい。
【0028】
上記還元剤の使用量は、上記酸化剤の使用量に応じて適宜調整すればよいが、一般に、1〜500重量ppm程度、好ましくは10〜100重量ppmである。
【0029】
このようなレドックス開始剤としては、tert−ブチルヒドロパーオキサイドと亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせからなるレドックス開始剤を用いると、反応制御がし易く好ましい。
【0030】
また、重合に際しては、必要に応じて、上記のレドックス開始剤とアゾ系開始剤とを併用して用いることが好ましい。上記レドックス開始剤は、初期、低温重合開始剤として適しており、上記アゾ系開始剤は、高温での重合及び重合を完結するに適しているためである。すなわち、上記レドックス開始剤のみで最後まで重合を完結しようとすると、重合が進むにつれ開始能力が低下してしまい、結果として未反応モノマーが多量に残ることになる。これにアゾ系開始剤を共存させると高温状況下、すなわち反応後期での開始能力が高いため、最後まで重合を完結することが可能となる。
【0031】
重合反応時に際して、これらの重合開始剤を上記アクリル系単量体の水溶液と混合させる必要がある。ただし、重合反応を行う重合槽は、攪拌翼などの攪拌装置を備えている場合、重合後に得られる水性ゲルがそれらの攪拌装置を取り込んでしまうので、分離に手間がかかることから、攪拌装置を有していないものが好ましい。すなわち、混合後の混合液に外部からの力を加えることなく、静置状態として重合を行うことができるものであることが好ましい。
【0032】
上記のような攪拌装置を備えていない重合槽において、上記アクリル系単量体の水溶液に重合開始剤を混合する方法としては、前述のように本発明においては、上記アクリル系単量体の水溶液を重合槽に投入するときに、水溶液が投入速度に応じて有することとなる流動エネルギーにより、上記アクリル系単量体の水溶液と重合開始剤とを混合する方法を用いることが好ましい。すなわち、投入によって流動状態となった重合槽内に、別に用意した重合開始剤を加えるか、又は、投入中或いは投入前に重合開始剤を加えるのがよい。
【0033】
なお、上記アクリル系単量体の水溶液と上記重合開始剤とを混合する別の方法として、上記重合槽自体を、外部から振動、揺動させることで攪拌を行う方法があるが、これだけで十分な攪拌を行うのは難しいため、上記アクリル系単量体の水溶液を、高低差を利用して流動エネルギーを生じさせるように導入することと併用することが好ましい。
【0034】
混合の具体的方法としては、例えば、重合槽を1m程度とした場合には、重合槽への投下にかかる合計時間は、5分以上15分以下で行うと好ましい。15分を超えて時間をかけるようにすると、時間あたりの流量が減るために、高低差により生じる時間あたり運動エネルギーが小さくなる分、流動エネルギーも小さくなり、重合槽内の流速が遅くなってしまい、開始剤が十分に混合されなくなるので、得られるアクリル系重合体の品質が低下するおそれがある。一方、5分未満であると、添加剤の添加を急がなければならず、上記アクリル系単量体の水溶液を投入する時間が短いことから、開始剤と混合させる時間も短くなり、十分に混合されなくなってしまう場合がある。
【0035】
また、上記のそれぞれの重合開始剤の好ましい仕込み時間は、上記アクリル系単量体の水溶液の投入に要する時間によって変動するが、アゾ系開始剤の投入に1〜5分、酸化剤に10〜60秒、還元剤に10〜60秒であると好ましい。酸化剤と還元剤の仕込み時間が60秒を超えると、得られるアクリル系重合体が不均一になるおそれがある。一方で、10秒未満だと、混合が不十分となるおそれがある。
【0036】
この発明にかかるアクリル系重合体の製造方法を実施するための製造装置は、図1に記載のように、アクリル系単量体の重合を行う重合槽12より上方に、アクリル系単量体AAと水とを混合して水溶液を調製する溶解槽10を設け、アクリル系単量体を含む水溶液を重合槽12の上部へ落下させて導入可能な導入管13を有するものが好ましい。
【0037】
この発明にかかる製造方法では、溶解槽10から上記水溶液を落下させて重合槽12へ投入し、その際に生じる液流を利用することが好ましく、位置エネルギーを持たせるため、重合槽12の液面より上方に溶解槽10が存在しているものが好ましい。
【0038】
また、溶解槽10と重合槽12との間に、曝気装置11aを備えた曝気槽11を備えていると、溶解槽10で調整した溶液を曝気して酸素濃度を減少させることができる。この場合、曝気槽11から重合槽12へ落下させて流動エネルギーを起こさせるため、曝気槽11も重合槽12より上方に位置している。一方、曝気槽11と重合槽12とを繋ぐ導入管13は必要な上記水溶液の投下量を適宜調整できる弁14を有すると好ましい。
【0039】
さらに、各々の設備が使用されていない時間を少しでも減らすため、図1のように重合槽12の他に重合槽12’を備える等、重合槽を複数基備えて、これら複数の重合槽で時間をずらして反応を並行的に進めることができると好ましい。これは例えば、重合槽12に上記水溶液を投下し始めてから重合を完了して水性ゲルを取り出し、次の上記水溶液を投下可能とするまで4時間かかる場合、重合槽が一つであれば曝気槽11から重合槽へ投下を行うのは4時間のうちのわずか5分から10分であり、その間に一回しかアクリル系重合体の水性ゲルを得られない。しかし、重合槽が複数あり、それぞれ時間を30分から数時間ずつずらして上記水溶液や上記開始剤を投下するようにすれば、曝気させた上記水溶液を、重合が終わって開いた重合槽へ次々と投下することができ、設備が止まっている時間が少なくなり、生産効率を向上させることができる。
【0040】
また、少なくとも重合槽12、12’は、上記の開始剤を別個に投下する開始剤投入装置15を備えていると好ましい。レドックス開始剤を用いる場合、少なくとも酸化剤と還元剤とは別個に投入する必要があり、また、最後にアゾ系開始剤を添加する場合は、その添加タイミングを的確に指定でき、それ以前に添加する開始剤と明確に区分することができるためである。なお、最後の開始剤は、上記水溶液1mに対して、5%水溶液で100ml程度を自動注入すると、反応が制御しやすく好ましい。
【0041】
一方で、曝気槽11は、酸素が少なくなり開始剤が無くても上記アクリル系単量体が重合しやすくなるために生じうる局部的な重合を防止するため、微量の銅やマンガンなどの重合防止剤を添加する添加物投入装置16を有していると好ましい。このような重合防止剤は、曝気槽11より前の、上記アクリル系単量体の水溶液の調整を行う溶解槽10などの工程で添加してもよい。
【0042】
また、導入管13の途中で上記水溶液に開始剤を混入できるように、導入管13に繋がるように開始剤投入装置15を設けても良い。この場合、上記水溶液と共に落下した開始剤は、重合槽12で液流状態となり、混合される。
【0043】
さらに、上記の添加剤を添加する装置を、上記の曝気槽11、又は、溶解槽10などの曝気槽11以前の工程に設けてもよい。
【0044】
ここで、それぞれの開始剤投入装置15は、個々の開始剤ごとに重合槽12への導入管を有して別個に添加できるものであると好ましい。開始剤を予め混合しておくとラジカルの発生に影響を与える場合があるためである。
【0045】
この発明にかかる製造方法では、上記の開始剤と上記水溶液の量にもよるが、一般に上記の開始剤を投下完了し、上記水溶液の投下が完了してから、発熱を伴う重合が5分から60分ほど続き、重合が進行してアクリル系重合体の水性ゲルが得られる。さらにその後、0.5時間以上5時間以下程度の時間に亘って静置して重合を完全に進行させる重合熟成を行うと、得られるアクリル系重合体の分子量が十分に高いものとなるので好ましい。
【0046】
この発明にかかる製造装置の重合槽12で得られたアクリル系重合体は、導入された水溶液に接触しうる攪拌装置を備えないので、重合して固まる際に攪拌翼などを取り込むことがなく、得られる樹脂の固体を容易に取り出して、そのまま粗砕して製品とすることができる。同様の理由により、攪拌装置に限らず、最終的に生成する水性ゲルが取り込む可能性がある突起部なども有していないことが好ましい。従って、導入管13を備えた上蓋18は、内部に向けて面一であると好ましく、重合槽12の内壁も面一であると好ましい。
【0047】
なお、導入管13や開始剤投入装置15からの投入管17は、上蓋18に予め固定してあると、得られた重合体の固まりを重合槽12から取り外し、また上蓋18を閉めるという作業にあたって、導入管13及び投入管17の上蓋18からの取り外しと再接続を行う必要がなく、作業を簡略化できるので好ましい。ただしその場合、上蓋18を取り外す際に邪魔にならないように、導入管13及び投入管17は自在に動くフレキシブルチューブであることが好ましい。また、上蓋18は、重合槽12に機械的に取り付けて固定するのではなく、重合槽12に対して自重により密着できるように、重合槽12と接する箇所にシール材を有するものであると、上蓋18の取り付け及び取り外しが、単純に載せて引き上げるだけでできるので好ましい。さらに、得られるアクリル系重合体の水性ゲルを容易に取り出せるようにするため、重合槽12は図1に記載のように、上方が広く下方が狭まった広口形状をしていると好ましい。また、前記の水性ゲルを取り出しやすくするため、上記重合槽は転動可能な機構を有するか、又は転動させる装置と容易に接続可能であると好ましい。
【0048】
この発明にかかる製造方法は、従来の製造方法と違って水性ゲルが攪拌装置等を取り込む心配がなく、アクリル系重合体が一つの水性ゲルの固まりとして得られ、その他の部品に付着することがないため、重合の度に設備を清掃、洗浄する必要が無い。このため、必要とする設備は従来よりも簡略化でき、かつ、人の手や目に依らなければならない箇所が無いため、工程の全てをコンピュータ制御により自動化することが容易にできる。すなわち、例えば図2に記載のような運用計画で複数の曝気槽及び重合槽を運用し、それぞれにおいて上記に示したようなタイミングで上記水溶液や上記開始剤の添加を開始及び停止するように制御することが可能となる。
【0049】
例として、上記の重合槽12を5つ備えた製造装置で製造する場合の、タイムライン上での製造工程の推移を図2に示す。重合槽1号機から5号機におけるそれぞれの矢印は重合槽12への上記水溶液の添加開始から、最終的に得られる水性ゲルの取り出し完了までの、重合槽12の占有時間を示す。また、曝気槽1号機及び2号機におけるそれぞれの矢印は曝気槽11への水溶液の投下開始から曝気処理の終了までの曝気槽11の占有時間を示す。この場合は図2のように曝気槽11を2つ備えているとより好ましい。曝気槽11での曝気には10分から30分ほど掛けることが好ましく、曝気が完了した上記水溶液の、一つの重合槽12への投下にも5分から10分ほどかかるため、さらにその後空になった曝気槽11に上記水溶液を補給する時間と、それぞれの工程の切替に要する時間とを考えると曝気槽11が曝気した上記水溶液を一回送り出すのに30分以上かかることになる。従って、曝気槽11が1基では曝気槽11がボトルネックとなってしまうが、曝気槽11が2基あって、それぞれの曝気槽11がそれぞれの重合槽12に上記水溶液を送り込めるようにすれば、このボトルネックが解消され、かつ、それぞれの設備が動いていない時間を最小限に留めることができる。
【実施例】
【0050】
この発明について、実施例を挙げてより具体的に説明する。まず、用いる原料と薬剤について記載する。まずアクリル系単量体として、アクリルアミド及びアクリル酸を用い、後述するそれぞれの重量混合比で混合した、26重量%の水溶液を調製した。
【0051】
<薬剤>
・アゾ系開始剤……2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩(以下、「ABAP」と略記する。)
・酸化剤系開始剤……tert−ブチルヒドロパーオキサイド(日本油脂(株)製:69重量%、以下、「BHP」と略記する。)
・還元剤……ソディウムハイドロサルファイト(和光純薬工業(株)製:NSO粉末、以下、「NSO」と略記する。)
・重合防止剤……硫酸銅水溶液(2.5重量%に調製したものを使用する。)
【0052】
次に、用いる製造装置について説明する。内容量1000リットルの曝気槽の下部に、200リットル/minで水溶液を導入可能である弁のついた導入管を繋げ、その先端を、床面に固定した内容量1000リットルの重合槽の上蓋に設けた投入口に接続した。この導入管は自在に曲げることのできるフレキシブルチューブとした。また上蓋は、重合槽の本体に上から載せることで、重合槽との接触部分に設けたシール材により重合槽を密閉できるものとした。なお、曝気槽の底弁から重合槽の上蓋までの高さは3メートルとした。重合槽には一切の攪拌装置を設けず、重合槽内部の壁面はフラットなものとした。
【0053】
さらに、アゾ系開始剤、酸化剤系開始剤、還元剤をそれぞれ蓄えた開始剤投入装置を設け、それぞれの開始剤投入装置から、重合槽の上蓋の投入口に接続管を繋げてそれぞれの開始剤を個別に添加可能とした。この接続管も自在に曲げることのできるフレキシブルチューブとした。さらに、曝気槽には重合防止剤を導入可能である添加物投入装置を設けた。なお、曝気槽には液中に窒素をバブリングする曝気装置を設けた。
【0054】
(実施例1)
アクリル系単量体としてアクリルアミド(AAM)のみを用いた水溶液1000リットルを曝気槽に導入し、添加物投入装置16から重合防止剤;硫酸銅水溶液25mlを添加し、20分間かけて窒素バブリングさせて曝気を行った。曝気槽内での重合は認められなかった。また、これと並行して空の状態の重合槽に上蓋をセットし、20分間かけて窒素置換した。曝気した水溶液を毎分100リットルの速さで導入管を通して、勢いを付けて重合槽に投入開始して重合槽内で水流を発生させた。なお、導入する際の水溶液の温度は0℃とした。重合槽に水溶液が100リットル導入された時点(約1分)の流動状態で12%ABAP水溶液の添加を開始し、5分程度で3リットルを添加した。次に、重合槽に水溶液が600リットル導入された時点で10重量%BHP水溶液0.1リットルを30秒で添加した。さらに、重合槽に水溶液が700リットル導入された時点で5重量%NSO水溶液0.1リットルを30秒で添加した。重合槽に水溶液が1000リットル導入された時点、すなわちNSOの添加終了から2.5分後に水溶液の投入を停止した。
【0055】
水溶液の投入終了から10分後より、20分間に亘って重合発熱を確認し、その後静置して3時間に亘って重合熟成を行った。それから、重合槽の上蓋を、開始剤添加装置からの接続管及び導入管と繋げたまま取り外し、重合槽内の固化したアクリルアミド重合体を約90度傾けて、重合体の自重により重合槽壁面との間に隙間を空けて剥がれ易くした後、天地逆転となるように転倒させて、転倒の途中でアクリルアミド重合体の水性ゲルがひとりでに飛び出してくるようにした。
【0056】
取り出したアクリルアミド重合体の、水性ゲルである固まりを、容易に乾燥できるように、粒径2〜3mmに細粒化した。この細粒化された水性ゲルを100℃の熱風乾燥機により水分含有量を10重量%以下にまで乾燥させた後でさらに粉砕して、粒径1mm以下の粉末とした。この粉末の品質について、以下の分析を行った。
【0057】
<1%塩粘度測定>
500mlビーカーに水475gを取り、280rpmで攪拌しながら、上記の粉末を5.0g投入して4時間かけて溶解させた。これに食塩を20g添加してさらに30分間攪拌した後、回転粘度計(BROOKFIELD型:モデルDV−I)により粘度を測定したところ、3000mPa・sであった。なお、粘度測定は、温度25℃、ローターNo.2,回転数6rpmの条件で実施した。
【0058】
<不溶解分測定>
500mlビーカーに水499.5gをとり、280rpmで攪拌しながら、上記の粉末0.5gを投入して4時間かけて溶解させた。これに食塩を5g添加してさらに5分間攪拌した後、83メッシュの篩で濾過し、不溶解分の重量を測定したところ、3gであった。
【0059】
(実施例2〜7)
アクリルアミドとアクリル酸(ACA)とを、それぞれ表1に記載の混合比で混合して26重量%の水溶液1000リットルを得た。それぞれの水溶液を実施例1と同じ速度で曝気槽から重合槽に投入し、実施例1と同様のタイミング及び所要時間で、表1に記載の量のそれぞれの開始剤の添加を開始し、表1に記載の時間をかけて添加を行った。なお、投入量が実施例1と異なるものは、投入開始のタイミングと投入速度を実施例1と同じとし、投入終了の時間が異なるようにした。それ以外は実施例1と同様の手順によりアクリル系重合体を得て、実施例1と同様に取り出して測定を行った。その結果を表1に示す。なお、表中の重合誘導期は、最後に投入する開始剤の投入開始から重合による発熱で0.2〜0.3℃程度の温度上昇が確認されるまでの時間である。
【0060】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】この発明にかかる製造方法を実施するための製造装置の概念図
【図2】五つの重合槽で重合を行う際のタイムラインの概念図
【図3】(a)攪拌翼を有する従来のアクリル系重合体を得るための製造装置の概略図、(b)重合後の取り出しの際の概念図
【符号の説明】
【0062】
1 重合槽
2 攪拌翼
3 水溶液
4 曝気管
10 溶解槽
11 曝気槽
11a 曝気装置
12 重合槽
13 導入管
14 弁
15 開始剤投入装置
16 添加物投入装置
17 投入管
18 上蓋
AA アクリル系単量体(水溶液)
WATER 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系単量体を、重合開始剤を用いて重合して、アクリル系重合体を製造するにあたり、
脱酸素処理したアクリル系単量体の水溶液と重合開始剤とを混合した上で、その混合液を静置状態として重合を行うことを特徴とするアクリル系重合体の製造方法。
【請求項2】
上記アクリル系単量体の水溶液と上記重合開始剤との混合を、その一方又は両方を重合槽に仕込む際に上記アクリル系単量体の水溶液が有している流動エネルギーを用いて行うことを特徴とする請求項1に記載のアクリル系重合体の製造方法。
【請求項3】
上記アクリル系単量体の水溶液を、予め、重合を行う重合槽よりも高い位置にある溶解槽で調整し、かつ、上記水溶液の前記重合槽への仕込みを、前記溶解槽と前記重合槽との高低差を用いて行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のアクリル系重合体の製造方法。
【請求項4】
重合を行う重合槽として、攪拌装置を有していない重合槽を用いることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のアクリル系重合体の製造方法。
【請求項5】
上記重合開始剤として、上記アクリル系単量体に対して、100重量ppm以上500重量ppm以下のアゾ系開始剤、及び、1重量ppm以上500重量ppm以下の酸化剤と1重量ppm以上500重量ppm以下の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤を用いることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のアクリル系重合体の製造方法。
【請求項6】
上記アクリル系単量体が、アクリルアミド、又はアクリルアミドを主体とする重合性単量体の混合物である請求項1乃至5のいずれかに記載のアクリル系重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−1641(P2009−1641A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162736(P2007−162736)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】