説明

アクリル系重合体粉末の製造方法及びブラスチゾル組成物

【課題】焼却時に有毒なガス等が発生せず、生産性が良好で、得られるアクリル系重合体を用いた成型品の耐水性、耐温水白化性が良好なアクリル系重合体粉末の製造方法及び、得られる成型品の耐水性、耐温水白化性が良好なプラスチゾル組成物を提供すること。
【解決手段】懸濁重合またはソープフリー乳化重合により単量体を重合して得られる重合体粒子を含む重合体分散液を得る工程と、得られた重合体分散液に反応性乳化剤を含むアクリル系単量体混合物を滴下して重合体粒子に被覆を形成したアクリル系重合体分散液を得る工程と、得られたアクリル系重合体分散液を噴霧乾燥することによってアクリル系重合体粉末を回収する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系重合体粉末の製造方法及びプラスチゾル組成物に関する。本発明は、特に、生産性が良好で、得られる成型品の耐水性、耐温水白化性の良好なアクリル系重合体粉末の製造方法及びプラスチゾル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、工業的に広く用いられている、ペーストレジンと称する、重合体粒子が可塑剤に分散されたプラスチゾル組成物は、自動車用、床材用、壁紙用、鋼板用等のコーティング剤や、スラッシュ成形用、ディップ成形用、ローテーション成形用等の成形材料として様々な用途に用いられており、特に重合体粉末として塩化ビニル樹脂を用いた塩ビゾルが広く使用されている。
【0003】
しかしながら、塩化ビニル樹脂は、低温で焼却すると猛毒物質のダイオキシンが発生するなどの問題を有している。従って、このような問題点のない塩ビゾルに替わるプラスチゾル組成物として、アクリル系樹脂を重合体粉末として用いるアクリルゾルが提案されている。
【0004】
アクリルゾルは、一般的に、乳化重合により得られた重合体ラテックスを噴霧乾燥して得られた重合体粉末を使用して製造されているが、乳化重合体ラテックスの噴霧乾燥により得られる重合体粉末には乳化剤が残留し、この乳化剤の存在によりアクリルゾルを用いて得られる成形品において耐温水白化性が低下する傾向がある。ここで耐温水白化性とは、温水、例えば、40℃などの温水に、例えば、24時間接触することにより、通常の樹脂成形品において白化が生じるが、この白化の発生が、肉眼で確認できない程度に抑制できる性質を示している。
【0005】
しかしながら、近年、プラスチゾルに対する性能の向上の要請は高く、特に、得られる成型品の耐温水白化性を向上させることが必要となっている。
【0006】
このような課題を解決するために、特許文献1にはソープフリー乳化重合で得られたラテックスを噴霧乾燥する重合体粒子を用いることが提案されているが、ソープフリー乳化重合を用いた場合、噴霧乾燥の生産性を向上させるために重合時の固形分の含有量を上げた場合に、カレットの発生量が増大するため、噴霧乾燥の生産性の向上を図ることができないという問題点が挙げられる。
【特許文献1】特開平11−124483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、生産性が良好で、得られるアクリル系重合体を用いた成型品において、優れた耐水性、耐温水白化性を有し、焼却時に有毒なガス等が発生せず安全性を有するアクリル系重合体粉末の製造方法及び、得られる成型品において、優れた耐水性、耐温水白化性を有し、焼却時に有毒なガス等が発生せず安全性を有するプラスチゾル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、懸濁重合やソープフリー乳化重合などの乳化剤ミセルが存在しない状態において単量体を重合して重合体分散液を得て、これに反応性乳化剤を含むアクリル系単量体混合物を滴下して重合体粒子に被覆を形成したアクリル系重合体分散液とすることで重合時の固形分の含有量を多量にすることができ、アクリル系重合体分散液の噴霧乾燥による生産性を向上させることができることの知見を得た。得られたアクリル系重合体粉末を用いたプラスチゾル組成物は、これを用いた成型品において耐温水白化性が大幅に向上することを見い出し、かかる知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、懸濁重合またはソープフリー乳化重合により単量体を重合して得られる一次重合体粒子を含む一次重合体分散液を得る工程と、得られた一次重合体分散液に反応性乳化剤を含むアクリル系単量体混合物を滴下して一次重合体粒子に被覆を形成した二次重合体粒子を含む二次重合体分散液を得る工程と、得られた二次重合体分散液を噴霧乾燥することによってアクリル系重合体粉末を回収する工程とを含むアクリル系重合体粉末の製造方法に関する。
【0010】
また、本発明は、請求項1記載のアクリル系重合体粉末の製造方法で得られたアクリル系重合体粉末を用いたプラスチゾル組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアクリル系重合体粉末の製造方法においては、アクリル系重合体分散液中の固形分の含有量を多量にして噴霧乾燥によるアクリル系重合体粉末の生産性を向上することができ、更に、得られたアクリル系重合体粉末を用いた本発明のプラスチゾル組成物においては、これを用いて得られる成型品において、優れた耐水性、耐温水白化性を有し、焼却時に有毒なガス等が発生せず安全性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のアクリル系重合体粉末の製造方法は、懸濁重合またはソープフリー乳化重合により単量体を重合して得られる一次重合体粒子を含む一次重合体分散液を得る工程と、得られた一次重合体分散液に反応性乳化剤を含むアクリル系単量体混合物を滴下して一次重合体粒子に被覆を形成した二次重合体粒子を含む二次重合体分散液を得る工程と、得られた二次重合体分散液を噴霧乾燥することによってアクリル系重合体粉末を回収する工程とを含むものであれば、特に制限されるものではない。
【0013】
本発明のアクリル系重合体粉末の製造方法において、一次重合体分散液を得る工程は、懸濁重合またはソープフリー乳化重合により単量体を重合して一次重合体粒子を含む一次重合体分散液を得る工程である。この工程における懸濁重合またはソープフリー乳化重合は、水を主成分とする媒体中で、乳化剤ミセルが存在しない状態における重合である。懸濁重合またはソープフリー乳化重合に用いることができる水以外の媒体としては、例えば、メタノール/エタノール等の水溶性の媒体を挙げることができる。これらの媒体中における主成分としての水の含有量は、例えば、50質量%以上とすることができる。また、本発明におけるソープフリー乳化重合とは、乳化剤を用いないあるいは、乳化剤の濃度が臨界ミセル濃度以下である状態で水溶性開始剤を用いて行う重合を表す。
【0014】
このような懸濁重合または乳化重合としては、重合開始剤を含有する単量体を媒体に分散させ、適宜昇温して行なうことができる。分散液中の単量体の含有量としては、1%〜20%などとすることができる。
【0015】
この工程で使用可能な単量体としては、いずれのものであってもよいが、アクリル系化合物が好ましく、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tーブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等の直鎖アルキルアルコールの(メタ)アクリレート類、あるいはシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環式アルキルアルコールの(メタ)アクリレート類などを挙げることができる。これらのうち、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートから選ばれる単量体を合計で50質量%以上用いることが好ましい。これらの単量体は容易に入手することができ、工業的な実用化の上で有意義である。
【0016】
またこれ以外の単量体として、具体的には、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、メタクリル酸 2−サクシノロイルオキシエチル、メタクリル酸 2−マレイノイルオキシエチル、メタクリル酸 2−フタロイルオキシエチル、メタクリル酸 2−ヘキサヒドロフタロイルオキシエチル等のカルボキシル基含有モノマー、アリルスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー、アセトアセトキエチル(メタ)アクリレート等のカルボニル基含有(メタ)アクリレート類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2ーヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート類、N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート類、さらにアクリルアミド及びその誘導体として、例えば、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド等、ウレタン変性(メタ)アクリレート類、エポキシ変性アクリレート類、シリコーン変性アクリレート類、(メタ)アクリロニトリル等、更に、スチレン、酢酸ビニル、N−ビニルイミダゾール等の、アクリルモノマーと共重合可能なモノマーを挙げることができ、用途に応じて適宜選択して組み合わせて使用することができる。
【0017】
このような単量体を含有する分散液は、適宜分散助剤/電解質などを含有していてもよい。
【0018】
上記懸濁重合またはソープフリー乳化重合により得られる一次重合体分散液中の一次重合体粒子の粒子径としては、例えば、300nm以上2000nm未満などを挙げることができる。
【0019】
本発明のアクリル系重合体粉末の製造方法における二次重合体分散液を得る工程は、上記工程により得られた一次重合体分散液に反応性乳化剤を含むアクリル系単量体混合物を滴下して一次重合体粒子に被覆を形成した二次重合体粒子を含む二次重合体分散液を得る工程である。この工程に用いる反応性乳化剤は、分子内にアクリル系単量体と共重合可能な反応性不飽和結合を持ち、かつ、水相でミセルを形成することのできるものであれば特に限定されない。反応性乳化剤を用いることにより、二次重合体分散液を噴霧乾燥して得られるアクリル系重合体粉末を用いた成形品において乳化剤がその表面に局在することを抑制することができ、乳化剤が全体に存在することにより、優れた耐温水白化性を有するものとなる。かかる反応性乳化剤としては、具体的には、スルホコハク酸アルキルアルケニルエステルナトリウム塩、ポリオキシエチレンルアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩、ポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキル硫酸エステルアンモニウム塩、ポリオキシエチレンアリルアルキルエーテルリン酸アンモニウム塩等を挙げることができ、これらのうちスルホン酸塩の構造をもつものが、重合安定性の点から好ましい。
【0020】
更に、この工程に用いる反応性乳化剤としては、分子内にポリオキシエチレン構造を含有しないものが、成型品の耐温水白化性の点から、特に好ましい。このような反応性乳化剤としては、スルホコハク酸アルキルアルケニルエステルナトリウム塩等を挙げることができる。
【0021】
このような反応性乳化剤のアクリル系単量体混合物中の含有量としては、アクリル系単量体に対して0.1〜10質量%の範囲であることが好ましい。反応性乳化剤の使用量がアクリル系単量体に対して0.1〜10質量%であれば、重合安定性を得ることができる。より好ましい下限値は0.5質量%であり、より好ましい上限値は5質量%である。
【0022】
また、この工程において上記反応性乳化剤とともに、必要に応じて非反応性の乳化剤を併用することもできる。非反応性乳化剤としてはアクリル系単量体と反応性を有さないものであり、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等、一般的なものを使用できる。非反応性乳化剤の使用量としては、反応性乳化剤よりも少ないことが好ましい。
【0023】
この工程に用いるアクリル系単量体混合物に用いるアクリル系単量体としては、具体的に、上記一次重合体分散液を得る工程において使用できる単量体として例示したものと同様のものを挙げることができる。この工程においてアクリル系単量体とともに使用可能な単量体としても、上記一次重合体分散液を得る工程において使用できる単量体として例示したものと同様のものを挙げることができる。
【0024】
上記反応性乳化剤を含むアクリル系単量体混合物は、溶媒または分散媒を含有していてもよく、更に、反応開始剤、連鎖移動剤などを含んでいてもよい。
【0025】
更に、アクリル系単量体混合物は、上記一次重合体粒子との関連において、一次重合体粒子の組成と同じ組成からなる重合体を得る単量体混合物であってもよい。また、一次重合体粒子が2種以上の単量体からなる組成を有する場合、アクリル系単量体混合物は同じ組成であって組成比が異なる重合体を得る単量体混合物であることが特に好ましい。アクリル系単量体混合物が一次重合体粒子に対して同じ組成で組成比が異なる重合体を得る単量体混合物であると、一次重合体粒子に組成比が異なる重合体が被覆されたコアシェル構造、即ち2層構造の二次重合体粒子を得ることができる。このようなコアシェル構造を有する二次重合体粒子のアクリル系重合体をプラスチゾルに用いた場合、可塑剤の吸収速度や、可塑剤への親和性などを目的とする物性としたプラスチゾルを容易に得ることができる。
【0026】
上記アクリル系単量体混合物の滴下により、一次重合体分散液中の一次重合体粒子と、アクリル系単量体の乳化重合により、一次重合体粒子にアクリル系単量体が重合し、アクリル系重合体の被覆が形成された二次重合体粒子を含む二次重合体分散液を得ることができる。この二次重合体分散液中の固形分の含有量は、噴霧乾燥時の生産性の点から、35質量%以上が好ましく、42質量%以上がより好ましく、45質量%以上が特に好ましい。この工程により得られる二次重合体粒子の粒子径は、例えば、500〜2000nmを挙げることができ、重量平均分子量は、例えば、下限は8万以上が好ましく、10万以上がより好ましく、上限は150万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。
【0027】
本発明のアクリル系重合体粉末の製造方法におけるアクリル系重合体粉末を回収する工程においては、上記工程により得られたアクリル系重合体の二次重合体粒子を含有する二次重合体分散液を噴霧乾燥する。二次重合体分散液の噴霧乾燥は、いずれの方法によってもよいが、噴霧乾燥機を用いて行なうことができ、重合体の再外層のガラス転移温度+20℃以下の出口温度で噴霧乾燥することが好ましい。この工程により得られるアクリル系重合体粉末の粒子径としては、例えば、10〜200μmを挙げることができる。
【0028】
本発明のプラスチゾル組成物としては、本発明のアクリル系重合体粉末の製造方法により得られたアクリル系重合体粉末を用いるものであれば、特に制限されるものではないが、アクリル系重合体粉末と、各種可塑剤や、用途に応じて各種添加剤、添加材などを配合することができる。具体的には、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、バライタ、クレー、コロイダルシリカ、マイカ粉、珪砂、珪藻土、カオリン、タルク、ベントナイト、ガラス粉末、酸化アルミニウム等の無機フィラー類、酸化チタン、カーボンブラック、ミネラルターペン、ミネラルスピリットなど、更に、消泡剤、防黴剤、防臭剤、抗菌剤、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、香料、発泡剤、レベリング剤、接着剤などを挙げることができる。アクリル系重合体と可塑剤の混合割合は、目的とする成形品により適宜選択することができる。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明について実施例により詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
実施例中に述べる評価は、以下の方法により行ったものである。なお、例中の部は、質量部である。
[ラテックス重合時のカレット]
重合したラテックスを、ナイロンメッシュ(#300)でろ過し、ろ布上のカレット及び、反応容器に付着したカレットを集め、105℃のオーブン中で2時間乾燥して質量を測定し、仕込み単量体の量に対する質量%で示した。
○:1.0質量%未満
×:1.0質量%以上
[耐温水白化性]
プラスチゾルをテフロンコーティングした鉄板上に2mm厚で塗布し、130℃のオーブン中2時間で加熱ゲル化させた。得られたゲル化膜を40℃の純水中に24時間浸漬し、浸漬後の白化状態を目視で観察した。
◎:浸漬前後で透明性の変化はあまり見られない
○:浸漬後は若干ヘイズが増加する
×:浸漬後は白化している
[重量平均分子量]
GPC法によるポリスチレン換算値であり、以下の条件で測定した。
装置:東ソー(株)製、高速GPC装置HLC−8020
カラム:東ソー(株)製、TSKgelGMHXLを3本直列に連結
オーブン温度:38℃
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.4質量%
流速:1mL/分
注入量:0.1mL
検出器:RI(示差屈折計)
[平均一次粒子径]
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(堀場製作所製)を用いて、水を分散媒として測定した。なお、重合体粒子が、二次凝集している場合は、超音波を10分照射後に測定を行った。
[重合固形分]
ナイロンメッシュ(#300)でろ過して得られたラテックスを、アルミ皿に約1g計量し、105℃のオーブン中で2時間乾燥して、乾燥前の質量に対する乾燥後の質量を百分率で示した。
[実施例1]
<アクリル系重合体粉末(A1)の調製>
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗、冷却管を装備した2リットルの4つ口フラスコに、純水380gを入れ、30分間十分に窒素ガスを通気し、純水中の溶存酸素を置換した。窒素ガス通気を停止した後、メチルメタクリレート16.3g、n−ブチルメタクリレート12.5gを入れ、200rpmで攪拌しながら80℃に昇温した。内温が80℃に達した時点で、10gの純水に溶解した過硫酸カリウム0.25gを一度に添加し、乳化剤ミセルが存在しない状態において単量体を重合する工程を開始した。そのまま80℃にて攪拌を60分継続し、シード粒子を得た。
【0031】
引き続きこのシード粒子分散液に対して、反応性乳化剤を含む単量体混合物の乳化液(メチルメタクリレート128.5g、n−ブチルメタクリレート121.5g、スルホコハク酸アルキルアルケニルエステルナトリウム塩(花王株式会社製反応性乳化剤、商品名:ラテムルS−180)5.0g、純水125.0gを混合攪拌して乳化したもの)を2時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、コア粒子(一次重合体粒子)を得た。
【0032】
引き続きこの一次重合体分散液に対して、反応性乳化剤を含むアクリル系単量体混合物の乳化液(メチルメタクリレート216.0g、n−ブチルメタクリレート34.0g、スルホコハク酸アルキルアルケニルエステルナトリウム塩5.0g、純水125.0gを混合攪拌して乳化したもの)を2時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続してシード乳化重合を行うことで、コア/シェル型重合体ラテックス(二次重合体分散液)を得た。このラテックスの重合カレットは0.13%であり、固形分は45%であった。また、体積平均粒子径は685nmであり、重量平均分子量は78.4万であった。
【0033】
得られた重合体分散液を室温まで冷却した後、スプレードライヤーを用いて、入口温度170℃、出口温度75℃、アトマイザ回転数25000rpmにて噴霧乾燥し、アクリル系重合体粉末(A1)を得た。
<プラスチゾルの調整>
アクリル系重合体粉末(A1)100部、ジイソノニルフタレート100部を計量し、真空ミキサー((株)シンキー製、製品名:ARV−200)にて10秒間大気圧(760mmHg)で混合した後、引き続き20mmHgに減圧して50秒間混合し、均一なプラスチゾル組成物を得た。得られたプラスチゾルをテフロンコーティングした鉄板上に2mm厚で塗布し、130℃のオーブン中2時間で加熱ゲル化させた。得られたゲル化膜を40℃の純水中に24時間浸漬し、浸漬後の白化状態を目視で観察したところ、浸漬前後で透明性の変化はほとんど見られず、耐温水白化性は良好であった。
[実施例2]
コア及びシェルの単量体乳化液を作成する際に用いる反応性乳化剤として、スルホコハク酸アルキルアルケニルエステルナトリウム塩2.5g、ポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬株式会社製、商品名:アクアロンKH−05)2.5gを併用して用いること以外は実施例1と同様にしてアクリル系重合体粉末(A2)を得た。評価結果を表1に示す。
[実施例3]
コア及びシェルの単量体乳化液を作成する際に用いる反応性乳化剤として、スルホコハク酸アルキルアルケニルエステルナトリウム塩2.5g及び、非反応性の乳化剤としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(花王株式会社製、商品名:ペレックスO−TP)0.5gを併用して用いること以外は実施例1と同様にしてアクリル系重合体粉末(A3)を得た。評価結果を表1に示す。
[比較例1]
コア及びシェルの単量体乳化液を作成する際に用いる乳化剤として、非反応性のジオクチルスルホコハク酸ナトリウム2.5gを用いること以外は実施例1と同様にしてアクリル系重合体粉末(A4)を得た。評価結果を表1に示す。
[比較例2]
<アクリル系重合体粉末(A5)の調製>
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗、冷却管を装備した2リットルの4つ口フラスコに、純水640gを入れ、30分間十分に窒素ガスを通気し、純水中の溶存酸素を置換した。窒素ガス通気を停止した後、メチルメタクリレート16.3g、n−ブチルメタクリレート12.5gを入れ、200rpmで攪拌しながら80℃に昇温した。内温が80℃に達した時点で、10gの純水に溶解した過硫酸カリウム0.25gを一度に添加し、重合を開始した。そのまま80℃にて攪拌を60分継続し、シード粒子を得た。
【0034】
引き続きこのシード粒子分散液に対して、乳化剤を含まない単量体混合物(メチルメタクリレート64.3g、n−ブチルメタクリレート60.7g混合攪拌したもの)を2時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、コア粒子を得た。
【0035】
引き続きこの重合体分散液に対して、乳化剤を含まない単量体混合物(メチルメタクリレート108.0g、n−ブチルメタクリレート17.0gを混合攪拌したもの)を2時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続してソープフリー乳化重合を行うことで、コア/シェル型重合体ラテックスを得た。このラテックスの重合カレットは2.5%と非常に多いものであった。また、固形分は30%であり、体積平均粒子径は592nmであり、重量平均分子量は62.4万であった。
【0036】
得られた重合体分散液を室温まで冷却した後、スプレードライヤーを用いて、入口温度170℃、出口温度75℃、アトマイザ回転数25000rpmにて噴霧乾燥し、アクリル系重合体粉末(A5)を得た。
<プラスチゾルの調整>
アクリル系重合体粉末(A5)を用いて、実施例1と同様にプラスチゾルを作成し、耐温水白化製を評価した。評価結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
[各例の考察]
[実施例1]
反応性乳化剤として、ポリオキシエチレン構造を含有しないスルホコハク酸アルキルアルケニルエステルナトリウム塩を用いた例である。重合時のカレットは少なく重合性は良好で、また、得られる成型品の耐温水白化製も良好であった。
[実施例2]
反応性乳化剤として、ポリオキシエチレン構造を含有しないスルホコハク酸アルキルアルケニルエステルナトリウム塩と、ポリオキシエチレン構造を含有するポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキル硫酸エステルアンモニウム塩を併用した例である。重合時のカレットは少なく重合性は良好であった。また、得られる成型品の耐温水白化製は、若干ヘイズが増加するものの良好であった。
[実施例3]
反応性乳化剤として、スルホコハク酸アルキルアルケニルエステルナトリウム塩と、非反応性乳化剤としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウムを併用した例である。重合時のカレットは少なく重合性は良好であった。また、得られる成型品の耐温水白化製は、若干ヘイズが増加するものの良好であった。
[比較例1]
反応性乳化剤を用いず、非反応性乳化剤としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウムのみを用いた例である。重合時のカレットは少なく重合性は良好であったが、得られる成型品の耐温水試験を行ったところ、白化が大きく、耐温水白化性の悪いものであった。
[比較例2]
比較例2は、乳化剤を用いず、ソープフリー乳化重合を行った例である。この場合、重合時のカレットが多く、生産性の悪いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁重合またはソープフリー乳化重合により単量体を重合して得られる一次重合体粒子を含む一次重合体分散液を得る工程と、得られた一次重合体分散液に反応性乳化剤を含むアクリル系単量体混合物を滴下して一次重合体粒子に被覆を形成した二次重合体粒子を含む二次重合体分散液を得る工程と、得られた二次重合体分散液を噴霧乾燥することによってアクリル系重合体粉末を回収する工程とを含むアクリル系重合体粉末の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のアクリル系重合体粉末の製造方法で得られたアクリル系重合体粉末を用いたプラスチゾル組成物。

【公開番号】特開2006−335793(P2006−335793A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159087(P2005−159087)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】