説明

アクリル酸の製造方法

【課題】高濃度のアクリル酸含有溶液を用いて共沸蒸留を行うことなく高収率でアクリル酸を製造する方法を提供する。
【解決手段】 以下の工程を含む、アクリル酸の製造方法。(a−1)アクリル酸原料1の接触気相酸化反応により得たアクリル酸含有ガスを得る工程、(a−2)アクリル酸含有ガス25を捕集塔30に導入し、捕集用水溶液33と接触させてアクリル酸含量が80質量%以上のアクリル酸含有溶液35,35’を得る工程、(a−3)捕集塔から排出させる排出ガスの少なくとも一部を冷却した後に、接触気相酸化反応器20に循環する工程、(a−4)冷却によって凝縮した凝縮液の少なくとも一部を該捕集塔に循環する工程、(b)該アクリル酸含有溶液を結晶化工程に供給し、アクリル酸と残留母液とに分離する工程、(c)該残留母液の少なくとも一部に蒸留工程を施し、該蒸留工程で得た留出液71を上記(a−2)の捕集塔に循環する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水捕集して得たアクリル酸含有溶液を晶析工程によってアクリル酸結晶と結晶母液とを得て、該結晶母液を捕集塔に循環してアクリル酸捕集率を向上させ、高収率でアクリル酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的なアクリル酸の製造方法は、プロピレンおよび/またはアクロレインを接触気相酸化するプロピレン酸化法が一般的である。このプロピレン酸化法によりアクリル酸を製造する場合、プロピレンの酸化工程で、水や、プロピオン酸、酢酸、マレイン酸などの酸類、アセトン、アクロレイン、フルフラール、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類などの不純物が副生する。これらの副生物を含んだガスは、一般的に捕集溶液と接触させることにより、アクリル酸含有溶液として捕集後、蒸留などの方法で捕集溶液を分離している。
【0003】
例えば、接触気相酸化により得られたアクリル酸を含むガスを、高沸点溶剤で捕集した後、蒸留により溶剤と粗製アクリル酸に分離した後、晶析工程によって高純度のアクリル酸を製造する方法がある(特許文献1)。該方法では、高沸点溶剤に吸収されなかった残留アクリル酸含有ガスは冷却され、水、ホルムアルデヒド、酢酸などを含む凝縮液とされ、系外に排出される。また、結晶母液を捕集塔に循環させ、低沸点物質のスクラビングおよび低沸点物質のストリッピングによる共成分の分離を良好にしている。
【0004】
また、アクリル酸含有ガスを凝縮して得た凝縮液を直接晶析するアクリル酸の製造方法もある(特許文献2、特許文献3、特許文献4)。有機溶媒や抽出剤を使用しないと晶析工程で溶液が冷却される際に結晶が沈殿されることなく固化されるため従来は有機溶媒を使用していたが、アクリル酸含有ガスの凝縮液から直接的にアクリル酸が結晶化され得ることを見出してなされたものであり、補助物質の添加を必要としない点に特徴がある。特許文献2の方法では、結晶母液の一部を晶析工程に循環し、特許文献3および4の方法では、通常の凝縮とは対照的に各成分を分別凝縮している。アクリル酸は中沸点留分として分離され、アクリル酸を含有する低沸点留分は廃水として廃棄され、アクリル酸を含む高沸点留分は一部分を分離塔に再循環し残りは廃棄されている。
【0005】
また、アクリル酸含有ガスを噴霧冷却器などで急冷し、さらに凝縮して得た粗アクリル酸を晶析するアクリル酸の製造方法もある(特許文献5)。該方法は、アクリル酸製造工程で発生するアクリル酸オリゴマーを有効利用するためになされたものであり、アクリル酸オリゴマーを含有する分離塔塔底液をアクリル酸含有ガスの急冷液として使用し、該急冷液の一部を流出物として取り出しおよびアクリル酸オリゴマーをアクリル酸に分解し、得られたアクリル酸を凝縮して急冷液として使用するものである。
【0006】
なお、アクリル酸を含有する混合物を結晶化した際に得られる母液を蒸留して、蒸留残留物と塔頂生成物とを得て、該塔頂生成物の一部を再結晶させる工程を含むアクリル酸の製造方法も開示されている(特許文献6)。該方法では、第一の結晶化で生じる母液の少なくとも一部を蒸留し、この際生じる塔頂生成物を結晶化し、この結晶を第一の結晶化に返送し、結晶化残留物を系外に除去することで、アクリル酸純度を高めることを目的としている。
【0007】
一方、アクリル酸捕集液として、高価な高沸点溶剤に代えて水溶液を使用できれば経済的である。特に、高濃度のアクリル酸含有溶液を処理できればその後の精製工程の処理量を低減でき、効率的でもある。そこで、接触気相酸化反応で得たアクリル酸含有ガスを水溶液捕集する際に、共沸脱水工程から排出した回収水を捕集塔に供給し、得られたアクリル酸含有溶液を放散塔に供給して、該放散塔の塔底からアクリル酸70.9質量%、水25.6質量%、酢酸2.0質量%のアクリル酸含有溶液を得る方法もある(特許文献7)。この方法では該アクリル酸含有溶液を共沸脱水し、次いでこれを結晶化工程に供して精製アクリル酸を得ている。
【特許文献1】特開平9−227446号公報
【特許文献2】特表2000−514077号公報
【特許文献3】特表2001−516736号公報
【特許文献4】特表2002−521353号公報
【特許文献5】特表2002−539104号公報
【特許文献6】特表2002−519402号公報
【特許文献7】特開2001−199931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記文献に記載された方法は、高価な有機溶剤を必要とし、このため使用された有機溶剤の再精製などの付加的な操作を伴うか(特許文献1、特許文献7)、または通常の凝縮とは異なった煩雑な分別凝縮を実施する必要があり、装置も高価になる。また目的成分以外の分別された留分は相当量のアクリル酸を含有するものの系外に排出されるため精製収率が低下し、さらに該留分の廃水処理など相当量の廃棄処理が必要となる(特許文献3、特許文献4、特許文献5)。
【0009】
このような現状下、簡便な装置を用い、収率高く高純度のアクリル酸を製造する方法の開発が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、アクリル酸製造工程において、捕集水溶液を用いて得たアクリル酸含有溶液はそのまま粗アクリル酸として晶析処理を行うことができること、晶析工程で得た残留母液は、捕集塔に循環させることでアクリル酸捕集率を向上させ得ること、このため、アクリル酸ロスが低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明によれば、水捕集したアクリル酸含有溶液を共沸脱水工程を行わずに晶析工程で処理し、アクリル酸を製造することができる。
【0012】
本発明では、特にアクリル酸濃度が高いアクリル酸含有溶液の精製に適し、このような高濃度アクリル酸は、晶析工程で得た残留母液を蒸留して得た留出液を捕集塔に循環させることで得られる。本発明によれば、アクリル酸ロスを低減し、簡便で生産効率が高いアクリル酸の製造方法が提供される。以下、詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第一は、以下の(a−1)、(a−2)、(a−3)、(a−4)、(b)および(c)の工程を含むアクリル酸の製造方法である。
【0014】
(a−1)アクリル酸原料の接触気相酸化反応により得たアクリル酸含有ガスを得る工程、
(a−2)該アクリル酸含有ガスを捕集塔に導入し、捕集用水溶液と接触させて含量が80質量%以上のアクリル酸含有溶液を得る工程、
(a−3)該捕集塔から排出させる排出ガスの少なくとも一部を、冷却した後に、接触気相酸化反応に循環する工程、
(a−4)冷却によって凝縮した凝縮液の少なくとも一部を該捕集塔に循環する工程、
(b) 該アクリル酸含有溶液を結晶化工程に供給し、アクリル酸と残留母液とに分離する工程、
(c) 該残留母液の少なくとも一部に蒸留工程を施し、該蒸留工程で得た留出液を上記(a−2)の捕集塔に循環する工程。
【0015】
本発明の特徴は、水溶液捕集したアクリル酸含有溶液を晶析処理する点、および晶析工程で得た残留母液を蒸留し、得られた留出物を捕集塔に循環させる点にある。従来は、前記特許文献4に記載されるように、アクリル酸を含有する水/アクリル酸共融混合物を分解するために、アクリル酸含有溶液に塩を添加し、含まれる水による晶析工程への影響を排除するため、晶析工程前に処理を行い、予め低沸点物質や高沸点物質を除去した後に晶析処理を行っていた。しかしながら、本発明は、アクリル酸含有ガスを水溶液捕集して得たアクリル酸含有溶液、すなわち水や高沸点物質を除去する前のアクリル酸含有溶液を使用し、そのまま晶析処理を行い、該晶析工程で発生した残留母液を蒸留して捕集塔に循環させることで、純度の高いアクリル酸を簡便な工程で製造することができる。しかも、晶析工程で得た残留母液を蒸留すると、水や酢酸などを含む留出液を得ることができ、これを捕集塔に循環させるとアクリル酸の捕集効率を向上させることもできる。加えて、捕集塔での高沸点物質の濃縮を防ぎ、捕集塔塔底液のアクリル酸濃度を高めることができる。更に、アクリル酸二量体分解工程を施すことで、残留母液中に含まれるアクリル酸二量体などの有効成分をアクリル酸に分解でき、この分解物を蒸留塔に循環させると捕集塔に循環され、最終的に晶析によってアクリル酸製品として回収することができる。本発明の好ましい態様の一例を図1を用いて説明する。
【0016】
まず、空気3などの分子状酸素含有ガス、プロピレンおよび/またはアクロレインなど
のアクリル酸原料1、および希釈ガス5とを混合する。同工程において、アクリル酸捕集工程を経た後は、捕集塔の塔頂から排出されるリサイクルガス34も、空気、プロピレンおよび/またはアクロレインならびに希釈ガスに混合することができる。この混合ガス(以下、原料ガスとも称する。)を、接触気相酸化触媒10を充填した反応器20に供給し、接触気相酸化反応によってアクリル酸含有ガス25を得る。該ガス25を捕集塔30の塔底に供給し、該捕集塔30の塔頂からは捕集用水溶液33を供給してアクリル酸含有ガス25と捕集用水溶液33とを接触させる。該捕集塔30には、後記する蒸留塔70からの留出液71および後記する晶折装置50からの残留母液が供給されている。捕集塔30の塔頂からの排出ガス32の内、リサイクルガス34のみを冷却塔36に導入して、新たに系内に供給する捕集用水33’と気液接触して冷却させ、リサイクルガス34に含まれる凝縮性物質を凝縮した後に反応器20に循環する。凝縮液は捕集用水33’と混合して捕集用水溶液33として捕集塔30に供給してもよい。なお、本明細書では、捕集塔30の塔頂からの排出ガス32のうち、反応器に循環させる排出ガスを「リサイクルガス」と、系外に排出されるガスを「廃ガス」とする。このように、蒸留塔留出液71を循環させ、かつリサイクルガス34を冷却することで、捕集塔塔底より高濃度にアクリル酸を含有するアクリル酸含有溶液35が得られる。
【0017】
アクリル酸含有溶液35はアクロレイン分離塔31に供給し、含まれるアクロレインを分離処理し、塔底からアクロレイン量を低減させたアクリル酸含有溶液35’を得る。なお、分離塔31の塔頂留出液は、捕集塔30の塔底に循環させると、アクロレインと共に留出したアクリル酸を有効に回収することができる。
【0018】
次いで、該アクリル酸含有溶液35’を晶析装置50に供給すると製品アクリル酸60が得られる。一方、晶析装置50からの残留母液の少なくとも一部を蒸留塔70の中段に供給し、含まれる低沸点物質およびアクリル酸を塔頂から留出させ、該留出液71を前記捕集塔30に循環させる。残りの残留母液は直接捕集塔30に循環させる。また、蒸留塔70の塔底液に含まれる高沸点物質にはアクリル酸二量体が含まれるため、これを薄膜蒸発器73を経て熱分解槽75に滞留させてアクリル酸に熱分解する。このアクリル酸を薄膜蒸発器73に戻すと蒸留塔70の塔頂から留出して留出液71となり、これを捕集塔30に循環させると最終的に製品アクリル酸60として回収することができる。
【0019】
本発明は、上記のように水溶液捕集して得たアクリル酸含有溶液をそのまま、またはアクロレイン分離処理によってアクロレインを除去した後に晶析処理する点に特徴があり、このためにはアクリル酸含有量が80質量%以上、好ましくは85質量%以上、特には87質量%以上であることが好ましい。アクリル酸含有量が80質量%を下回まると、晶析処理によってアクリル酸結晶を得るために行う晶析化の回数が増加して煩雑となる。本発明は、水などの低沸点物質を共沸脱水工程や溶媒回収工程を行うことなく、かつアクリル酸ロスを低減して簡便かつ高収率でアクリル酸を製造する方法を提供するものである。
【0020】
なお、本明細書において、「低沸点物質」とは、標準状態においてアクリル酸よりも沸点が低い物質をいい、「高沸点物質」とは、標準状態においてアクリル酸よりも沸点が高い物質をいう。「凝縮性物質」とは、20℃、大気圧において液体である物質をいい、「蒸留」とは、溶液をその沸点まで加熱し含まれる揮発性成分を分離する方法であり、「放散」とは、放散ガスを供給して溶液中の目的物を気相に移す方法をいい、「晶析」とは、液相および気相から結晶を析出させる操作である。また、「動的結晶化工程」とは、結晶化に際して、ポンプなどの強制対流によって液相を移動させる晶析方法、「静的結晶化工程」とは、ポンプなどを使用せず自然対流だけで液相を移動させる晶析方法をいう。以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
(1)アクリル酸捕集工程
高濃度のアクリル酸含有溶液を得るには、系内に導入する水分量を低減するか系外に廃棄する水分量を増加する必要がある。また、系外に排出されるアクリル酸ロスを最小限にするには、捕集塔の塔頂から排出される排出ガスを反応器にリサイクルすることが好ましい。本発明では、該リサイクルガスを冷却し、該ガスに含まれる水分量を減少させた後に反応器にリサイクルすることで、捕集塔に導入される水分量を低減させ、アクリル酸ロスを低減しつつ高濃度のアクリル酸含有溶液を得ることができる。ただし、捕集塔排出ガスの全量を冷却し、系外にガスとして廃棄する水分量および低沸点物質量を低減すると、リサイクルガス中の水分量は低減してもアクリル酸捕集効率は向上せず、むしろ冷却しない場合よりも大幅に低下し、さらに低沸点物質が系内で濃縮される。一方、冷却によって得られる凝縮液を系外に取り出した場合には、大量の廃液を処理する必要が生じる。そこでアクリル酸捕集塔から排出されるガスの内、反応器にリサイクルする、いわゆるリサイクルガスのみを冷却することが好ましい。なお、リサイクルガスの冷却によって水分のみならず酸分も凝縮させることができ、反応器に供給される酸分を減少させることもでき、酸によって発生する触媒の劣化を防止することもできる。また、冷却によって凝縮された凝縮液は、捕集塔に戻してもよく、戻さずに系外に取り出してもよい。両者でアクリル酸ロス率はあまり変化せず、廃液量も極めて小量であるが、全量を捕集塔に戻すと廃液処理が不要なため有利である。なお、系内に導入する水分量を低減する方法として、反応器に供給する分子状酸素含有ガスに含まれる水分を除去した後に反応器に供給してもよい。
【0022】
本発明では、アクリル酸原料ガスとして、プロピレンおよび/またはアクロレインを使用できる。反応器20としては、接触気相酸化反応が行えれば特に制限されないが、反応効率に優れる点で多管式反応器を好ましく使用することができる。該反応器20に、公知の接触気相酸化触媒10を充填し、原料ガスと酸素、空気等の分子状酸素含有ガスとを接触させることにより酸化させる。原料ガスとしてプロピレンを使用する場合には、プロピレン濃度は7〜15体積%、水0〜10体積%、分子状酸素はプロピレン:分子状酸素(体積比)を1:1.0〜2.0の範囲とする。分子状酸素の供給源としては空気を用いることができる。該空気が水分を含んでいる場合には、反応器に供給する前に予め除湿することが好ましい。反応器に導入する水分量、ひいては捕集塔に導入される水分量を低減させることができるからである。なお、空気に代えて酸素富化空気、純酸素を用いることもできる。また、希釈ガス5には、窒素、二酸化炭素、その他の不活性ガスがある。
【0023】
本発明では、リサイクルガスを冷却して凝縮性物質を凝縮した後に、反応器に導入してもよく、このようなリサイクルガスを使用する場合には、反応器に供給する原料ガス中の水分濃度が0〜10体積%、より好ましくは0〜7体積%、特には0〜6体積%となるように予めリサイクルガス中の水分を除去する。10体積%を超えると反応器を経て捕集塔に供給される水分によって、アクリル酸ロス率が増加する場合がある。また、全酸濃度は、0〜0.2体積%、より好ましくは0〜0.1体積%とする。全酸濃度が0.2体積%を超えると触媒の酸化による劣化を促進する場合がある。リサイクルガスには、水分や酸成分のほかに、未反応のプロピレンやアクロレイン、酸素、希釈ガス等も含まれている。原料ガス中の水分濃度や全酸濃度が上記至適範囲になるようにリサイクルガスに含まれる水分量及び原料ガスへの配合量を算出し、リサイクルガスに含まれるプロピレン濃度および酸素濃度を算出し、新たに反応器に供給するプロピレン濃度と空気量とを決定すれば、上記プロピレン、酸素、水分濃度、全酸濃度を容易に調整することができる。なお、「全酸」とは、カルボキシル基を有する化合物であり、リサイクルガス中には、アクリル酸、ギ酸、酢酸等が含まれる。
【0024】
プロピレンを原料とする場合の接触気相酸化反応は、通常二段階で行い、二種類の接触気相酸化触媒10を使用する。一段目の触媒はプロピレンを含む原料ガスを気相酸化して主としてアクロレインを生成し得るものであり、二段目の触媒はアクロレインを含む原料ガスを気相酸化して主としてアクリル酸を生成し得るものである。一段目の触媒としては、鉄、モリブデンおよびビスマスを含有する複合酸化物を、また二段目の触媒としてはバナジウムを必須成分とする触媒を挙げることができる。
【0025】
なお、図1では、上記二段階の反応をシングルリアクターで行なう態様を示したが、異なる2つの反応器を接続したタンデムで行なってもよい。接触気相酸化反応で得られるアクリル酸含有ガス25には、アクリル酸5〜14体積%、酢酸0.1〜2.5体積%、分子状酸素0.5〜3体積%、水5〜36体積%が含まれ、その他は原料ガス中の未反応成分およびプロピオン酸、マレイン酸、アセトン、アクロレイン、フルフラール、ホルムアルデヒド、COxなどの反応副生物質である。
【0026】
アクリル酸捕集塔30において、アクリル酸含有ガスと捕集用水溶液との接触方法には公知の接触方法を使用することができ、例えば、泡鐘トレイ、ユニフラットトレイ、多孔板トレイ、ジェットトレイ、バブルトレイ、ベンチュリートレイを用いる十字流接触;ターボグリッドトレイ、デュアルフロートレイ、リップルトレイ、キッテルトレイ、ガーゼ型、シート型、グリット型の規則充填物、不規則充填物を用いる向流接触などが挙げられる。
【0027】
本発明では、該アクリル酸含有ガス25を捕集用水溶液33と接触させてアクリル酸を捕集する際に、後記する蒸留塔70からの留出液71および、後記する晶折装置50からの残留母液(以降、これらを循環液と称する)を捕集塔30の中段に供給することが好ましい。該循環液には酢酸が含まれ酢酸含有溶液として使用することができる。なお、本発明において、「塔頂以外」とは蒸留塔や捕集塔の塔頂を理論段数1とし、塔底を理論段数100とした場合に、理論段数2〜100段の範囲をいう。アクリル酸は、塔頂から降る捕集用水溶液33に吸収されるが、この際に捕集塔の塔頂以外の箇所から酢酸を導入すると、アクリル酸捕集率が向上することが判明した。その原理については明確ではないが、捕集塔30のいずれかかから酢酸を投入すると酢酸供給位置近傍に酢酸ガス層が形成され、酢酸ガス層の上部により低沸点物質ガス層が、下部により高沸点物質ガス層が形成されるように捕集塔内のガス分布が変化し、塔底側にアクリル酸が移行するためと考えられる。特に、理論段数2〜100段、より好ましくは25〜100段、特には50〜100段などの捕集塔の中段から酢酸含有溶液を導入することが好ましい。塔頂ではもはや酢酸ガス層の形成によるアクリル酸捕集効率の向上効果が少なく、むしろアクリル酸捕集率が低減するため塔底側アクリル酸濃度が低下し、高濃度のアクリル酸含有溶液を得ることができない。
【0028】
前記循環液に含まれる酢酸濃度は、2質量%以上、より好ましくは2〜20質量%、特には3〜15質量%とすることが好ましい。2質量%を下回ると、上記捕集塔内の気相分布の変動効果が低い。
【0029】
特に、導入する酢酸量をアクリル酸含有ガスに含まれるアクリル酸の質量流量の0.005〜0.2倍、より好ましくは0.008〜0.15倍、特に好ましくは0.01〜0.1倍の質量流量となるように、循環液量を調整する。場合によっては、新たに酢酸を加えることができる。0.005倍を下回るとアクリル酸の捕集効率向上効果がなく、その一方、0.2倍を超えると、捕集液中の酢酸濃度が大幅に増加するため、高濃度のアクリル酸含有溶液を得ることが困難となる。
【0030】
本発明で使用する捕集用水溶液33としては、アクリル酸を捕集できる水溶液であれば広く使用することができるが、リサイクルガスを冷却して凝縮された凝縮液を捕集用水溶液として使用することもできる。凝縮液はアクリル酸を含んでいる場合が多いので、捕集用水溶液として再利用するのが好ましい。捕集用水溶液の温度は、0〜50℃、好ましくは10〜40℃のものを導入する。
【0031】
アクリル酸含有ガスに対する外部より新たに供給する捕集用水33’の質量流量比は、目的とするアクリル酸濃度によって適宜選択することができ、アクリル酸含有ガスに含まれるアクリル酸の質量流量の0.1〜1.5倍、好ましくは0.1〜1.0倍、特には0.15〜0.8倍の質量流量を向流接触させてアクリル酸を捕集する。該質量流量比が0.1倍を下回るとアクリル酸捕集塔の極端な効率低下を引き起こす場合がある。その一方、1.5倍を超えると、高濃度のアクリル酸含有溶液を得ることが困難となる。なお、捕集用水には、アクリル酸などの重合性物質の重合を防止するために、特開2001−348360号公報、2001−348358号公報、2001−348359号公報等に記載されるN−オキシル化合物、フェノール化合物、酢酸マンガン等のマンガン塩、ジブチルチオカルバミン酸銅などのジアルキルジチオカルバミン酸銅塩、ニトロソ化合物、アミン化合物およびフェノチアジンからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有させてもよい。
【0032】
アクリル酸捕集塔は、常圧以上で操作するのが一般的である。本発明では、塔頂圧力(ゲージ圧)としては、0〜0.4MPa、好ましくは0〜0.1MPa、特には0〜0.03MPaである。0MPa(ゲージ圧)より低いと減圧装置が必要となり設備費、用役費がかかる一方、0.4MPa(ゲージ圧)より高いと塔頂から低沸点物質を排出させるために捕集塔の温度をかなり上げる必要が生じ捕集効率が低下する場合がある。また、塔頂温度としては、一般には30〜85℃、特には40〜80℃であることが好ましい。本発明では、このような捕集条件によって、アクリル酸:80〜98質量%、水:1〜19質量%、およびその他の不純物(酢酸、マレイン酸、プロピオン酸などの酸類およびフルフラール、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類など):1〜10質量%のアクリル酸含有溶液35が得られる。
【0033】
なお、リサイクルガスの冷却方法に制限はなく、リサイクルガスに含まれる凝縮性物質を凝縮できる装置であればよい。例えば、多管式熱交換器、フィンチューブ式熱交換器、空冷熱式交換器、二重管式熱交換器、コイル式熱交換器、直接接触式熱交換器、プレート式熱交換器などを使用できる。
【0034】
しかし、凝縮液には、アクリル酸等の重合性物質を含んでいる場合が多いので、図1に示すように、冷却塔36と冷却器39とを組み合わせた冷却方法が重合防止剤を容易に供給することができるので好ましい。
【0035】
また、リサイクルガスの冷却温度に制限はないが、反応器に供給する原料ガス全量中の水分濃度を0〜10体積%、より好ましくは0〜7体積%、特には0〜6体積%となるように、より好ましくは更に全酸濃度が0〜0.2体積%、より好ましくは0〜0.1体積%になるように冷却により凝縮する。分子状酸素含有ガスとして空気を使用すると、該空気には水分が含まれている。空気の配合量と原料ガスの上記好ましい水分濃度および配合量から、リサイクルガスを冷却した後の水分量を求め、該水分濃度になるように冷却する。本発明では、廃ガスの温度よりも該リサイクルガスの温度を1〜50℃、より好ましくは2〜40℃、特に好ましくは3〜30℃低い温度に冷却する。
【0036】
上記により、アクリル酸濃度が80質量%以上と極めて高濃度の捕集塔塔底液を得ることができる。
【0037】
(2)アクロレイン分離
アクリル酸含有溶液35にはアクリル酸原料であるアクロレインが含まれている場合がある。これを除去するにはアクロレイン分離塔31に供給し、アクロレインを分離処理してもよい。
【0038】
分離塔は、アクロレインの分離ができれば特に限定はされないが、充填塔、棚段塔(トレイ塔)等を用いることができる。分離塔の条件は、含まれるアクリル酸濃度やアクロレイン濃度によって蒸留、放散等の各方法を適宜選択することができる。蒸留の場合には、塔頂圧力(絶対圧)は20〜800hPa、好ましくは40〜600hPa、特には60〜400hPaとすることが好ましい。20hPa(絶対圧)より低いと、塔、コンデンサ、真空装置が大型化し設備費がかかり不利である。一方、800hPa(絶対圧)より高いと分離塔内の温度が高くなり重合の危険性が増し不利である。また、塔頂温度は、一般には30〜100℃、特には40〜80℃である。一方、塔底温度は、一般には40〜110℃、特には50〜90℃である。なお、放散の場合も従来公知の方法によってアクロレインを分離することができる。このような分離条件によって、アクロレイン量を低減し、アクリル酸濃度が80質量%以上のアクリル酸含有溶液を得ることができる。
【0039】
(3)アクリル酸含有溶液の結晶化工程
本発明ではアクリル酸含有溶液35または35’を晶析装置50に供給し、精製アクリル酸60を得る。
【0040】
使用される結晶化法に制限はなく、連続式または回分式のいずれでもよく、1段または2段以上で実施することができる。連続式晶析装置としては例えば、結晶化部、固液分離部、結晶精製部が一体となった塔型のBMC(Backmixing Colum Crystallizer)型晶析器
(新日鉄化学社:日本)、結晶化部として例えばCDC(Cooling Disk Crystallizer)晶析装置(GOUDA社:オランダ)などと、固液分離部として例えばベルトフィルターあるいは遠心分離器などと、結晶精製部として例えばKCP(Kureha Crystal Purifier)精
製装置(呉羽テクノエンジ社:日本)などを組み合わせた晶析装置を使用することができる。
【0041】
晶析装置50としては、結晶化装置、固液分離装置、結晶精製装置を組み合わせたものが例示でき、本発明における一つの有利な形態は、連続式晶析装置を用いる方法である。結晶化部として、例えば「化学装置2001年7月号、p77〜78」に記載される結晶化装置(CDC)を2つに配列した装置を使用することができる。各結晶化装置(1)、(2)は、横型の結晶化槽の内部が下部に通り道の隙間が空けられている数枚の冷却板で仕切られており、この冷却板を通して冷却および結晶化が行われる。冷却板中央を貫通する撹拌軸には、撹拌翼と冷却伝面を更新するためのワイパーが設けられ、原料液投入口から供給された液は撹拌軸により冷却板の下の通り道から順次もう一方の端へと移動する。例えば、結晶化装置(1)にアクリル酸水溶液を供給すると、ここでアクリル酸を結晶化し、固液分離部として、ベルトフィルターを使用し、結晶と母液を分離した後に晶析母液を結晶化装置(2)に供給してアクリル酸を結晶化し、ベルトフィルターで結晶と母液を分離することができる。次いで、これら結晶化装置(1)、(2)で得られた結晶を、結晶精製部に導入する。結晶化装置(1)と(2)とを合計したアクリル酸の結晶化量を、結晶化装置(1)に供給されるアクリル酸量の20質量%以上、好ましくは、30〜90質量%、特には、40〜90質量%とすることが好ましい。これによって、残留母液中の酢酸濃度を2質量%以上とすることができる。結晶精製部としては、例えば「化学装置2001年7月号p76〜77」や特公昭47−40621号公報に記載される結晶精製装置(KCP)を使用することができる。例えば、金属製の管の中心にスクリューコンベヤーを備え、上部に結晶を融解するための融解器および融解後の製品の取り出し口、下部に残査液の取りだし口、下部塔側部に結晶の供給口を備えたものが例示できる。結晶はスクリューコンベヤーによって精製塔上部へと運ばれ、融解器によって融解される。融解液は製品取りだし口より取り出され、一部は精製塔上部より落下される。この落下液により、スクリューコンベヤーから運ばれる結晶の洗浄、発汗が行われ、上部より落下する液は下部の残さ取りだし口より抜き出される。上記落下液の量は、目的とするアクリル酸の純度によって適宜選択できるが、融解液量の1〜60質量%、より好ましくは2〜40質量%、特には5〜35質量%とすることが好ましい。1質量%を下回ると、落下液による結晶の洗浄、発汗の効果が低い。一方、60質量%を上回ると、もはや、洗浄、発汗の効果は向上されず、場合によっては、結晶精製塔の運転が困難となる。取り出された残さは、上記結晶化装置および/または上記晶析残留母液に循環することができ、一部を系外に取り出してもよい。
【0042】
本発明における他の有利な形態は、回分式晶析装置を用いる方法である。このような装置としては、例えばSulzer Chemtech社スイスの層結晶化装置(動的結晶化装置)、BEFS PROKEM社フランスの静的結晶化装置などを使用することができる。
【0043】
回分式においては、必要となる結晶化段数の数は、どの程度の純度が要求されるかに依存する。本発明においては、高い純度のアクリル酸を製造するために、精製工程(動的結晶化工程)は1〜6回、好ましくは2〜5回、さらに好ましくは2〜4回、ストリッピング工程(動的結晶化工程および/または静的晶析化工程)は0〜5回、好ましくは0〜3回行うことが好ましい。取り出された残さは、一部を系外に取り出してもよい。
【0044】
また、上記晶析精製工程の前に予め前精製を行ってもよい。前精製は結晶化によって実施される。従って、前精製工程と続く精製工程は一連の晶析工程と見なすことができる。前精製には結晶化装置と固液分離装置などを組み合わせた前精製装置を使用することができる。結晶化装置としてはCDC結晶化装置、タンク結晶化装置などを使用することができ、固液分離装置としてはベルトフィルター、遠心分離機などを使用することができる。
【0045】
本発明における前精製を含んだ一つの有利な形態は、前精製装置としては、タンク結晶化装置と遠心分離器とを含み、該タンク結晶化装置は直列に配置された2つの槽から成り、それぞれ撹拌機を備え、表面は二重ジャケットから構成され、このジャケットはサーモスタットである一定温度になるように制御されている。まず、第1の結晶化槽にアクリル酸水溶液を供給してアクリル酸を結晶化し、遠心分離器で結晶と母液を分離後、溶融液を用いて結晶を洗浄する。次いで得られた母液と洗浄液を第2の結晶化槽に供給してアクリル酸を結晶化し、遠心分離機で結晶と母液を分離後、溶融液を用いて結晶を洗浄する。第1の結晶化槽と第2の結晶化槽とを合計したアクリル酸の結晶化量を第1の結晶化槽に供給されるアクリル酸の20質量%以上、好ましくは、30〜90質量%、特には40〜90質量%とすることが好ましい。これによって、残留母液中の酢酸濃度を2質量%以上にすることができる。得られた結晶を融解し、前精製を行ったアクリル酸含有溶液をさらに精製する。
【0046】
精製は、例えば、多段分別晶析法であって、結晶化、発汗、融解を行うための温度制御機構を備えた管状の結晶器と、発汗後の母液を回収するタンクと、結晶器にアクリル酸を供給する循環ポンプとを備え、結晶器下部に配設した貯蔵器から循環ポンプによってアクリル酸を結晶器の管内上部へ移送できる動的結晶化装置を使用した動的結晶化工程か、または、結晶化、発汗、融解を行うための温度制御機構を備えた管状の結晶器であって下部に抜き出し弁を備えたものと、発汗後の母液を回収するタンクとを配設した静的結晶化装置も同時に使用する動的結晶化工程と静的結晶化工程との組み合わせによって晶析を行うことができる。
【0047】
粗アクリル酸含有溶液を液相として結晶器へ導入し、次に、導入された液相とは組成が異なる固相を冷却面に凝固させる。使用したアクリル酸のうちの40〜90質量%、好ましくは50〜80質量%の範囲内が凝固したら直ちに残りの液相を分離除去する。残存相をポンプで汲み出したり(動的結晶化工程)、流出させる(静的結晶化工程)ことによって分離除去する。続いて、例えば、いわゆる結晶層の洗浄、またはいわゆる発汗、即ち不純結晶領域の部分的融解除去などの工程をさらに行うことができる。
【0048】
動的結晶化および静的結晶化を多段工程で行う場合には、向流の原理によって有利に実施され、各工程において結晶化された物質は結晶化後に残留母液から分離され、この結晶化された物質は、次のいっそう高い純度を有する各工程に供給され、他方、結晶化残留物は、次のいっそう低い純度を有する各工程に供給される。
【0049】
通常、供給される粗製酸溶液よりも高い純度の酸が得られる全工程は精製工程として、他の全工程はストリッピング工程として知られている。ストリッピング工程は精製工程から母液中のアクリル酸を回収するために実施する。動的結晶化ではアクリル酸の純度が低くなると結晶化が困難となるが、それに対し、静的結晶化は、動的結晶化と比較してアクリル酸の純度が低下しても結晶化が容易であることから、アクリル酸の回収率を上げるため、動的結晶化の最終母液は静的結晶化でさらに結晶化される。
【0050】
必要となる結晶化段数の数は、どの程度の純度が要求されるかに依存するが、高い純度のアクリル酸を製造するには、精製工程(動的結晶化工程)は1〜5回、好ましくは2〜3回、ストリッピング工程(動的結晶化工程)は1〜5回、好ましくは1〜4回、ストリッピング工程(静的結晶化工程)は1〜5回、好ましくは1〜3回行うことが好ましい。
【0051】
静的結晶化工程の最終工程より取り出された残さは、上記前精製の晶析残留母液に循環してもよく、系外に取り出してもよい。
【0052】
(4)アクリル酸含有溶液の蒸留
晶析装置50からの残留母液には高濃度のアクリル酸のほか、酢酸、水などの低沸点物質、アクリル酸二量体や重合防止剤などの高沸点物質が含まれている。本発明では、これら残留母液を有効利用するために該残留母液の少なくとも一部を蒸留塔70に供給し、塔底から高沸点物質を、塔頂から低沸点物質およびアクリル酸を留出させる。このような目的で使用される蒸留塔70は、充填塔、棚段塔(トレイ塔)等を用いることができる。
【0053】
また蒸留条件は、水や酢酸などの低沸点物質およびアクリル酸を留出させる条件で蒸留するが、導入する残留母液のアクリル酸濃度や水濃度、酢酸濃度などによって適宜選択することができる。一般には、塔頂圧力(絶対圧)は10〜400hPa、好ましくは15〜300hPa、特には20〜200hPaとすることが好ましい。10hPa(絶対圧)より低いと、塔、コンデンサ、真空装置が大型化し設備費がかかり不利である。一方、400hPa(絶対圧)より高いと蒸留塔70内の温度が高くなり重合の危険性が増し不利である。また、塔頂温度は、一般には30〜70℃、特には40〜60℃である。一方、塔底温度は、一般には50〜140℃、特には60〜120℃である。このような蒸留条件によって、酢酸の濃度が残留母液の酢酸濃度よりも高い留出液71を得ることができる。なお、該留出液71は捕集塔30に循環させる。
【0054】
なお、蒸留時にはアクリル酸などの重合性物質の重合を防止するために、還流液に重合防止剤を添加することができる。このような重合防止剤としては、前記した捕集用水溶液に添加できる各種の重合防止剤を使用することができる。
【0055】
(5)アクリル酸二量体の分解
蒸留塔70の塔底液には、アクリル酸二量体が含まれており、これを分解しアクリル酸を回収することができる。ここで、アクリル酸二量体分解は、アクリル酸二量体などを分解し、アクリル酸として回収するものであれば特に限定されない。例えばアクリル酸二量体分解とアクリル酸の留出とを同時に行うものであってもよく(特公昭61−35977号公報、特公昭61−36501号公報など参照)、好ましくは、熱分解槽と段塔を併設した薄膜蒸発器を備えたアクリル酸回収塔を用いたものが挙げられる(特開平11−12222号公報など参照)。
【0056】
上記アクリル酸二量体分解装置は、蒸留塔70とは別に新たに用いることができるが、好ましくは、薄膜蒸発器を備えた蒸留塔70に熱分解槽を併設した形態で実施することができる。
【0057】
すなわち、蒸留塔70の塔底液(薄膜蒸発器73の缶出液)を熱分解槽75に導入して含まれるアクリル酸二量体を分解する。該分解槽75は、アクリル酸二量体を120〜220℃の範囲の温度で分解し、滞留時間(熱分解槽溶量/廃油量)は熱分解温度によって変わるが、通常0.1〜60時間とする。アクリル酸二量体がアクリル酸に分解された後、これを薄膜蒸発器に循環することで蒸留塔70の塔頂よりアクリル酸を回収することができる。
【0058】
また、蒸留塔70とは別に、新たに熱分解槽と段塔を併設した薄膜蒸発器を備えたアクリル酸回収塔を用いる場合には、アクリル酸回収塔の塔頂部より得られる回収アクリル酸は、蒸留塔70および/または捕集塔30に循環することができる。
【0059】
なお、該熱分解槽には、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、特開2003−89672号公報記載のN−オキシル化合物などの分解触媒をアクリル酸二量体分解の際に添加することができる。捕集工程や蒸留工程で重合防止剤として該N−オキシル化合物を用いた場合には、アクリル酸二量体の分解触媒としても作用する。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例により具体的に説明する。
【0061】
(触媒製造例)
特開2000−325795号公報の実施例1の記載に従ってモリブデン−ビスマス系触媒を調製した。これを触媒(I)とする。また、特開平8−206504号公報の実施例1の記載に従ってモリブデン−バナジウム系触媒を調製した。これを触媒(II)とする。
【0062】
(実施例1)
図1に示す装置を使用してアクリル酸を製造した。
【0063】
熱媒循環用ジャケットを外周に備え、内部に内径25mm、長さ7,000mmの反応管を収納し、ジャケット下部から3,500mmの位置に熱媒ジャケットを上下に2分割する厚さ75mmの穴あき管板を設けた反応器を使用した。反応器下部(第一反応ゾーン)および上部(第二反応ゾーン)はそれぞれ熱媒を循環させて温度を制御し、反応管下部から上部に向かって(1)平均径5mmのセラミックボール、(2)触媒(I)と平均径5mmのセラミックボールとを容量比70:30の割合で混合した混合物、(3)触媒(I)、(4)外径5mm、内径4.5mm、長さ6mmのステンレス製ラシヒリング、(5)触媒(II)と平均径5mmのセラミックボールとを容量比75:25の割合で混合した混合物、(6)触媒(II)の順に、各層長が250mm、700mm、2,300mm、500mm、600mm、1,900mmになるように充填した。
【0064】
該反応器の第一反応ゾーンに、プロピレン、空気(水分濃度2質量%)、および捕集塔からの排出ガスの一部(リサイクルガス)を循環させ、プロピレン:8.0体積%、O:14.4体積%、HO:2.0体積%(残りはN、プロパン、COx、アクリル酸、酢酸等)、第一反応ゾーンの空間速度が1,250hr−1(STP)となるように各流量およびリサイクルガスの冷却温度を調整し供給した。
【0065】
第二反応ゾーンの出口圧力0.15MPa(絶対圧)におけるプロピレン転化率が97±0.5モル%、アクロレイン収率が1±0.5モル%になるように、第一反応ゾーン、第二反応ゾーンそれぞれの熱媒温度を調整して、16.62質量%のアクリル酸を含むアクリル酸含有ガスを18.77kg/時で得た。
【0066】
次に、得られたアクリル酸含有ガスを予冷器で200℃に冷却した後,アクリル酸捕集に導きアクリル酸含有溶液として捕集した。
【0067】
該捕集塔は、規則充填物を充填した充填塔で計算上の理論段が21段を有し、塔底部にアクリル酸含有ガスの供給口および捕集液の抜き出し口、塔頂部に捕集用水溶液導入口およびガスの排出口、塔側部(理論段第19段)に蒸留塔からの塔頂液の供給管などを備え、さらに塔頂部より排出されるガスの一部を冷却するための冷却器とを備えるものである。
【0068】
捕集用水として、捕集塔に導入するアクリル酸含有ガス中のアクリル酸量に対して200質量ppmに相当するハイドロキノンを含む水を1.01kg/時供給した。
【0069】
アクリル酸捕集塔の塔頂温度は66.9℃、塔頂圧力は0.11Mpa(絶対圧)、リサイクルガスの冷却温度は40.6℃、リサイクル率は29.0%で行った。なお、リサイクルガスの冷却によって得られた凝縮液は全量、捕集塔に循環した。
【0070】
塔側部からは、アクリル酸74.8質量%、水8.6質量%、酢酸5.1質量%、マレイン酸2.1質量%、フルフラール0.2質量%、ベンズアルデヒド0.8質量%、ホルムアルデヒド0.2質量%、アクリル酸二量体4.2質量%、その他の不純物4.0質量%の組成を持つ蒸留塔の留出液および残留母液とからなる循環液を1.90kg/時で供給した。
【0071】
この時の捕集塔におけるアクリル酸の吸収効率は、98.22%であった。
【0072】
さらに、このアクリル酸含有溶液を内径が100mm、充填高さが5mの充填塔の搭上部に供給し、塔頂圧力を265hPa(絶対圧)とし塔底温度が70℃となるように加熱しながらアクロレインなどを蒸留分離した。これにより、塔底部より、アクリル酸89.0質量%、水3.2質量%、酢酸1.9質量%、マレイン酸1.1質量%、フルフラール0.07質量%、ベンズアルデヒド0.3質量%、ホルムアルデヒド0.06質量%、アクリル酸二量体2.3質量%、その他の不純物2.07質量%、を含むアクリル酸水溶液を5.10kg/時で得た。なお、塔頂部より得られるガスはアクリル酸捕集塔の下部に供給した。
【0073】
次に、このアクリル酸水溶液を、晶析装置に供給し結晶化させた。ここに該結晶化装置は、「化学装置2001年7月号P77〜78」に記載されるように結晶化装置を2つ直列に配置したものである。それぞれの結晶化装置は、横型の結晶化槽の内部が数枚の冷却板(下部には通り道の隙間が空けられている)で仕切られており、この冷却板を通して冷却および結晶化が行われる。冷却板中央を貫通する撹拌軸には、撹拌翼と冷却伝面を更新するためのワイパーが設けられ、一方の端の原料液投入から供給された液は、撹拌軸により冷却板の下の通り道から順次もう一方の端へと移動する構造となっている。まず、第1の結晶化装置にアクリル酸水溶液を供給すると、ここでアクリル酸を結晶化し、ベルトフィルターで結晶と母液を分離後、得られた母液を第2の結晶装置に供給してアクリル酸を結晶化し、ベルトフィルターで結晶と母液を分離する。第1の結晶化装置の冷却板の温度は0℃、第2の結晶化装置の冷却板の温度は−7℃で第1および第2の結晶化装置とを合計したアクリル酸の結晶化量を第1の結晶化装置に供給されるアクリル酸量の68質量%に調整し、実施した。
【0074】
次いで、第1および第2の結晶化装置で得られた結晶を結晶精製装置に供給し精製した。
【0075】
該装置は、「化学装置2001年7月号P76〜77」、特公昭47−40621号公報に記載される結晶装置に準ずる。すなわち、金属製の管の中心にスクリューコンベヤーを備え、上部に結晶を融解するための溶融器および融解後の製品の取り出し口、下部に残査液の取り出し口、下部側部に結晶の供給口を備えたものである。結晶はスクリューコンベヤーによって精製装置上部へと運ばれ、融解器によって融解された。融解液は製品取りだし口より取り出され、融解液の10質量%を該装置の上部より落下させた。この落下液により、スクリューコンベヤーから運ばれる結晶の洗浄、発汗が行われた。上部より落下する液は下部の残さ取りだし口より抜き出した。
【0076】
これにより、99.94質量%の純度を有するアクリル酸を3.12kg/時で得た。この時、水40質量ppm、酢酸515質量ppm、マレイン酸4質量ppm、フルフラール0.1質量ppm、ベンズアルデヒド0.5質量ppm、ホルムアルデヒド0.0質量ppm、アクリル酸二量体40質量ppmであった。
【0077】
また、アクリル酸の精製収率は99.9%であった。
【0078】
第2の晶析化装置より得られる残留母液および結晶精製装置より取り出される残査の30%をアクリル酸二量体分解蒸留塔の中段に供給した。アクリル酸二量体分解蒸留塔は、段数15段のシーブトレーを備えた蒸留塔と、アクリル酸二量体を分解するための熱分解槽および薄膜蒸発器が組み合わさった構造のものであって、熱分解槽温度を145℃、滞留時間4時間の条件で熱分解を行い、塔底温度が85℃となるように薄膜蒸発器を制御し、塔頂圧力33hPa、還流比0.1にして、安定剤として還流液より、蒸留塔に供給されるアクリル酸に対して、200ppm相当の4H−TEMPO(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンオキシルを添加して運転した。なお、該熱分解槽には、アクリル酸二量体分解触媒として、20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を供給する残留母液に対して0.04質量%(NaOH換算)添加した。
【0079】
塔頂部から、0.51kg/時でアクリル酸82.9質量%、水9.6質量%、酢酸5.7質量%、を含むアクリル酸を回収し、残りの第2の結晶化装置の残留母液および残りの結晶精製装置の残さと共に捕集塔の塔側部に循環した。循環液の組成は以下の組成であった。
【0080】
アクリル酸74.8質量%、水8.6質量%、酢酸5.1質量%、マレイン酸2.1質量%、フルフラール0.2質量%、ベンズアルデヒド0.8質量%、ホルムアルデヒド0.2質量%、アクリル酸二量体4.2質量%、その他の不純物4.0質量%
(実施例2)
図2に示す装置を使用してアクリル酸を製造した。
【0081】
塔側部から、蒸留塔の留出液および残留母液とからなる循環液として、アクリル酸77.5質量%、水8.5質量%、酢酸4.8質量%、マレイン酸2.1質量%、フルフラール0.2質量%、ベンズアルデヒド0.6質量%、ホルムアルデヒド0.2質量%、アクリル酸二量体2.5質量%、その他の不純物3.6質量%の組成をもつ循環液を供給した以外は、実施例1と同様の操作を行い、充填塔の塔底部より、アクリル酸89.9質量%、水3.2質量%、酢酸1.9質量%、マレイン酸1.1質量%、フルフラール0.06質量%、ベンズアルデヒド0.2質量%、ホルムアルデヒド0.06質量%、アクリル酸二量体1.6質量%、その他の不純物1.98質量%、を含むアクリル酸水溶液を5.05kg/時で得た。なお、塔頂部より得られるガスはアクリル酸捕集塔の下部に供給した。
【0082】
この時の捕集塔におけるアクリル酸の捕集効率は98.21%であった。
【0083】
次に、このアクリル酸水溶液を結晶化槽と遠心分離機とからなる前精製装置に供給し結晶化させた。該結晶化槽は直列に配置された2つの槽から成り、それぞれ撹拌機を備え、表面は二重ジャケットから構成され、このジャケットはサーモスタットである一定温度になるように制御されている。まず、第1の結晶化槽にアクリル酸水溶液を供給した。ここでアクリル酸を結晶化し、遠心分離器で結晶と母液を分離後、溶融液を用いて結晶を洗浄した。次いで得られた母液と洗浄液を第2の結晶化槽に供給してアクリル酸を結晶化し、遠心分離機で結晶と母液を分離後、溶融液を用いて結晶を洗浄した。第1の結晶化槽のジャケット温度は−5℃、第2の結晶化槽のジャケット温度は−14℃、洗浄液はそれぞれ0.16kg/時であった。第1、第2の結晶化槽よりアクリル酸98.9質量%、水0.2質量%、酢酸0.3質量%、マレイン酸0.3質量%、フルフラール0.003質量%、ベンズアルデヒド0.01質量%、ホルムアルデヒド0.002質量%、アクリル酸二量体0.4質量%を含むアクリル酸を3.15kg/時で得た。
【0084】
結晶化槽2より得られる残留母液は30%をアクリル酸二量体分解蒸留塔の中段に供給した。アクリル酸二量体分解蒸留塔は、実施例1と同様のものを用い、実施例1と同じ条件で運転を行った。
【0085】
塔頂部から、0.50kg/時でアクリル酸84.0質量%、水9.3質量%、酢酸5.3質量%を含む留出液を回収し、残りの残留母液と共に捕集塔の塔側部に循環した。循環液の組成は以下の組成であった。
【0086】
アクリル酸77.5質量%、水8.5質量%、酢酸4.8質量%、マレイン酸2.1質量%、フルフラール0.2質量%、ベンズアルデヒド0.6質量%、ホルムアルデヒド0.2質量%、アクリル酸二量体2.5質量%、その他の不純物3.6質量%であった。
【0087】
次いで、結晶化槽より得られたアクリル酸をさらに別の晶析装置に供給し、2回の動的結晶化工程により精製した。さらに、この精製工程の結晶化残留物を、3回の動的結晶化工程および2回の静的結晶化工程で処理した。
【0088】
動的結晶化は、特公昭53−41637号公報に記載される晶析装置に準じた晶析精製装置で行った。すなわち、下部に貯蔵器を備えた、長さ6m、内径70mmの金属管で、循環ポンプにより貯蔵器中の液体を管上部へ移送し、液体を管内壁面に落下皮膜(falling film)状に流すことができるようになっている。管の表面は二重のジャケットから構成され、このジャケットはサーモスタットで、ある一定の温度になるように制御されている。1回の動的結晶化は以下の手順で行った。
【0089】
1.結晶化:貯蔵器にアクリル酸を供給し、循環ポンプにより管壁面に落下被膜状に流し、ジャケットの温度を凝固点以下に下降させ、約60〜80質量%を壁面に結晶化させた。
【0090】
2.発汗:循環ポンプを停止させ、ジャケットの温度を凝固点付近まで上昇させ、約2
〜5質量%を発汗させた。発汗後、残留融解液をポンプで汲み出した。
【0091】
3.融解:ジャケットの温度を凝固点以上に上昇させ、結晶を融解し、ポンプで汲み出した。
【0092】
以上の操作において、温度、および凝固点は実施されるそれぞれの工程に依存させた。
【0093】
静的結晶化は、下部に抜き出しコックを備えた、内径90mm、長さ1mのチューブで、管表面が二重ジャケットから構成され、このジャケットはサーモスタットで、ある一定の温度になるように制御されている。一回の静的結晶化は以下の手順で行った。
【0094】
静的結晶化は、下部に抜き出しコックを備えた、内径90mm、長さ1mのチューブで、管表面が二重ジャケットから構成され、このジャケットはサーモスタットで、ある一定の温度になるように制御されている。一回の静的結晶化の手順で行った。
【0095】
1.結晶化:管内にアクリル酸を供給し、ジャケットの温度を凝固点以下に降下させ、約60〜80質量%を結晶化させた。
【0096】
2.発汗:結晶化後の残留母液を管下部から抜き出し、ジャケットの温度を凝固点付近に上昇させ、約15〜25質量%を発汗させた。発汗後、発汗液を抜き出した。
【0097】
3.融解:ジャケットの温度を凝固点以上に上昇させ、結晶を融解し、抜き出した。これにより、99.95質量%の純度を有する高純度のアクリル酸を3.07kg/時で得た。
【0098】
この時、水10質量ppm、酢酸475質量ppm、マレイン酸2質量ppm、フルフラール0.1質量ppm、ベンズアルデヒド0.3質量ppm、ホルムアルデヒド0.0質量ppm、アクリル酸二量体12質量ppmであった。
【0099】
また、アクリル酸の精製収率は98.5%であった。
(実施例3)
図1に示す装置を使用してアクリル酸を製造した。
【0100】
塔側部から、蒸留塔の留出液および残留母液とからなる循環液として、アクリル酸83.5質量%、HO6.7質量%、酢酸3.1質量%、マレイン酸1.3質量%、フルフラール1.4質量%、ベンズアルデヒド0.5質量%、ホルムアルデヒド0.2質量%、アクリル酸二量体2.6質量%、その他の不純物0.7質量%の組成を持つ循環液を供給した以外は、実施例1と同様の操作を行い、充填塔の塔底部よりアクリル酸90.2質量%、水3.4質量%、酢酸1.6質量%、マレイン酸1.0質量%、フルフラール0.7質量%、ベンズアルデヒド0.3質量%、ホルムアルデヒド0.09質量%、アクリル酸二量体2.4質量%、その他の不純物0.31質量%、を含むアクリル酸水溶液を6.36kg/時で得た。なお、塔頂部より得られるガスはアクリル酸捕集塔の下部に供給した。
【0101】
この時、捕集塔におけるアクリル酸の捕集効率は98.20%であった。
【0102】
次に、このアクリル酸水溶液を実施例2と同様の動的結晶化装置を用い、同様の方法で4回の動的結晶化工程により精製した。
【0103】
これにより、99.94質量%の純度を有する高純度のアクリル酸を3.09kg/時で得た。
【0104】
この時、水100質量ppm、酢酸450質量ppm、マレイン酸3質量ppm、フルフラール0.4質量ppm、ベンズアルデヒド0.1質量ppm、ホルムアルデヒド0.0質量ppm、アクリル酸二量体30質量ppmであった。
【0105】
また、アクリル酸の精製収率は、99.0%であった。
【0106】
動的結晶化工程により得られる残留母液は45%をアクリル酸二量体分解蒸留塔の中段に供給した。アクリル酸二量体分解蒸留塔は、実施例1と同様のものを用い、実施例1と同じ条件で運転を行った。
塔頂部から、1.42kg/時でアクリル酸86.4質量%、水7.0質量%、酢酸3.2質量%を含む留出液を回収し、残りの残留母液と共に捕集塔の塔側部に循環した。循環液の組成は、以下の組成であった。
【0107】
アクリル酸83.5質量%、HO6.7質量%、酢酸3.1質量%、マレイン酸1.3質量%、フルフラール1.4質量%、ベンズアルデヒド0.5質量%、ホルムアルデヒド0.2質量%、アクリル酸二量体2.6質量%、その他の不純物0.7質量%であった。
【0108】
(比較例1)
蒸留塔の留出液および残留母液とからなる循環液を捕集塔に循環しない以外は実施例1と同様の操作を行ない、充填塔の塔底からアクリル酸90.0質量%、水4.7質量%、酢酸2.8質量%、マレイン酸0.5質量%、フルフラール0.03質量%、ベンズアルデヒド0.03質量%、ホルムアルデヒド0.01質量%、アクリル酸二量体1.0質量%、その他の不純物0.93質量%を含むアクリル酸水溶液を3.46kg/時で得た。なお、塔頂部より得られるガスはアクリル酸捕集塔の下部に供給した。比較例1において、捕集塔におけるアクリル酸の捕集効率は、97.90%であった。
【0109】
該アクリル酸水溶液と、結晶化工程からの母液(アクリル酸43.6質量%、水27.1質量%、酢酸15.1質量%、マレイン酸2.9質量%、フルフラール0.1質量%、ベンズアルデヒド0.1質量%、ホルムアルデヒド0.5質量%、アクリル酸二量体5.8質量%、その他の不純物4.8質量%の組成)の8割2.40kg/時とを、実施例1と同様の晶折装置で精製した。
【0110】
これにより、得られたアクリル酸の純度は99.71質量%、精製収率は91.7%であった。
【0111】
(結果)
実施例1と比較例1とから、捕集塔に循環液を供給しないとアクリル酸捕集率が98.21%から97.90%に低減した。また、母液の8割を晶析工程に循環させ2割を系外に排出すると、純度および精製収率が低下した。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の好ましい態様の一例を示す工程図である。
【図2】本発明の実施例2で使用したアクリル酸製造の工程図である。
【符号の説明】
【0113】
1・・・アクリル酸原料、3・・・空気、5・・・希釈カ゛ス、10・・・接触気相酸化触
媒、20・・・反応器、25・・・アクリル酸含有カ゛ス、30・・・アクリル酸捕集塔、31・・・アクロレイン分離塔、32・・・捕集塔塔頂排出カ゛ス、33・・・捕集用水溶液、33’
・・・捕集用水、34・・・リサイクルカ゛ス、35、35’・・・アクリル酸含有溶液、36・・・冷却塔、39・・・冷却器、50・・・晶析装置、53・・・前精製分離装置、55・・・晶析装置、60・・・製品アクリル酸、70・・・蒸留塔、71・・・留出液、73・・・薄膜蒸発器、75・・・熱分解槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a−1)、(a−2)、(a−3)、(a−4)、(b)および(c)の工程を含む、アクリル酸の製造方法。
(a−1) アクリル酸原料の接触気相酸化反応により得たアクリル酸含有ガスを得る工程、
(a−2) 該アクリル酸含有ガスを捕集塔に導入し、捕集用水溶液と接触させてアクリル酸含量が80質量%以上のアクリル酸含有溶液を得る工程、
(a−3) 該捕集塔から排出させる排出ガスの少なくとも一部を冷却した後に、接触気相酸化反応器に循環する工程、
(a−4) 冷却によって凝縮した凝縮液の少なくとも一部を該捕集塔に循環する工程、
(b) 該アクリル酸含有溶液を結晶化工程に供給し、アクリル酸と残留母液とに分離する工程、
(c) 該残留母液の少なくとも一部に蒸留工程を施し、該蒸留工程で得た留出液を上記(a−2)の捕集塔に循環する工程。
【請求項2】
(a−4)の工程における冷却は、直接冷却である請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項3】
(a−4)の工程において、冷却によって凝縮した凝縮液の全てを該捕集塔に循環してなる請求項1または2に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項4】
工程(a−3)において、排出ガスの冷却を該排出ガスの温度より1〜50℃低い温度に冷却することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つに記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項5】
工程(c)において、蒸留塔留出液を捕集塔の塔頂以外の個所に循環することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項6】
更に、上記(c)の蒸留工程の塔底液をアクリル酸二量体分解装置に供給する工程を含む、請求項1〜5のいずれか一つに記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項7】
上記(b)の残留母液の酢酸含有量が2質量%以上である請求項1〜6のいずれか一つに記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項8】
上記(a−2)のアクリル酸含有溶液を得る工程における溶液中のアクリル酸濃度が85質量%以上である請求項1〜7のいずれか一つに記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項9】
上記(b)の残留母液の酢酸含有量が3〜15質量%である請求項1〜8のいずれか一つに記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項10】
上記(a)で得られるアクリル酸含有溶液に含まれるアクロレインを分離処理した後、得られたアクリル酸含有溶液を用いて上記(b)を行うことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一つに記載のアクリル酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−24716(P2008−24716A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−240016(P2007−240016)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【分割の表示】特願2004−165495(P2004−165495)の分割
【原出願日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】