説明

アクリル酸誘導体の遷移金属触媒不斉水素化方法および不斉遷移金属触媒反応用の新規な触媒系

式(I)(式中、R1は、Hまたは場合により置換されたアルキル、アリール、もしくはヘテロアリール基であり、R2は、場合により置換されたアルキル、アリール、またはヘテロアリール基であり、R3は、HまたはC〜Cアルキル基である)のアクリル酸誘導体を、遷移金属触媒を用いて不斉水素化する方法であって、式(I)の化合物を、場合により溶媒中において、1種またはそれ以上の水素供与体の存在下に、ルテニウム、ロジウム、およびイリジウムの群からの遷移金属と、式(II)(式中、Cnは、2個の酸素原子およびリン原子と一緒になって2〜6個の炭素原子を有する場合により置換された環を形成し、R4は、場合により置換されたアルキル、アリール、アルコキシ、もしくはアリールオキシ基またはNR5R6(式中、R5およびR6は、それぞれ独立して、Hもしくは場合により置換されたアルキル、アリール、アラルキル、もしくはアルカリール基であってもよく、または窒素原子と一緒になって環を形成していてもよい)である)のキラルなリン配位子および式(III)(式中、Rは、場合により置換されたアルキルまたはアリール基である)のアキラルなホスフィン配位子の組合せとを含む触媒系を用いて、対応する式(IV)(式中、R1、R2、およびR3は、それぞれ上記と同義である)の化合物に水素化することを含む方法に加えて、不斉遷移金属触媒反応用の新規な触媒系。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、アクリル酸誘導体、例えばα置換されたケイヒ酸誘導体を遷移金属触媒を用いて不斉水素化する方法と、対応するキラルな酸またはエステルと、さらにはキラルなリン配位子およびアキラルなホスフィン配位子から構成される特定の配位子系を有する不斉触媒反応用の新規な触媒系とに関する。
【0002】
アクリル酸誘導体、例えばα置換されたケイヒ酸誘導体は、医薬品、例えば、レニン阻害性を有し、降圧剤として医薬品製剤中に使用することができるδ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリールアルカンカルボキサミドの調製に有益な中間体を構成する。
【0003】
遷移金属触媒を用いた不飽和化合物の不斉水素化に関しては、そのための触媒や、さらにはその方法も既に文献に記載されている。
【0004】
例えば、国際公開第02/02500号パンフレットには、α,β−不飽和カルボン酸を均一系不斉水素化触媒で不斉水素化することはそれ自体周知であり、特にルテニウムおよびロジウム触媒がこの目的に非常に有効であることが述べられている。使用される配位子はキラルなジ第三級ジホスフィンである。このような系を用いると、国際公開第02/02500号パンフレットによれば、光学収率を最大で80%eeにまで到達させることが可能になる。これらの触媒の改良として、国際公開第02/02500号パンフレットにおいては、フェロセニル基本構造を有する二座配位子を使用することが提案されている。
【0005】
Adv.Synth.Catal.、2003年、第345巻、pp.160〜164には、ワルフォス(walphos)配位子群として周知のフェロセニル−アリール基本構造を基本としたさらなるジホスフィン配位子が開示されており、これらはオレフィンおよびケトンのロジウムまたはルテニウム触媒不斉水素化に用いられている。ワルフォス配位子は、ルテニウムまたはロジウム源、例えばRu(メチルアリル)COD、[(NBD)Rh]BF、または[(COD)Rh]BFと組み合わせて、例えばケイヒ酸誘導体の水素化に使用されており、最大で95%eeの光学純度を達成している。
【0006】
この方法における欠点は、特に、ワルフォス配位子の合成が明らかにより複雑なために配位子の費用が嵩むことにある。
【0007】
国際公開第02/04466号パンフレットには、単座配位子を有するさらなる触媒が開示されている。しかしながら、当該明細書に記載されているモノフォス(monophos)触媒系は、特にケイヒ酸誘導体に対する活性がより低く、その結果としてより長い水素化時間が必要となり、それによって鏡像体過剰率がより低くなることがわかっている。
【0008】
国際公開第2004/035208号パンフレットには、不斉遷移金属触媒反応用配位子系としてのモノリン化合物の混合物が記載されている。当該出願の実施例8から、キラルなホスホナイトまたはホスファイト配位子とアキラルなモノリン配位子との混合物を用いると、キラルなモノリン化合物の混合物を使用した場合と比較して、光学純度に関する結果が明らかに劣ることがわかっている。
【0009】
アクリル酸誘導体の不斉水素化の分野では改良触媒系を用いた改良方法が依然として強く求められていることから、本発明の目的は、アクリル酸誘導体の遷移金属触媒不斉水素化方法を見出すことに加えて、所望の化合物を簡便かつ安価に、先行技術と比較して最大で100%eeまでのより高い光学純度および最大で理論値の100%までのより高い収率で調製することを可能にする新規な触媒系も見出すことにあった。
【0010】
したがって、本発明は、式(I)、
【化1】


(式中、R1は、Hまたは場合により置換されたC〜C20アルキル、C〜C20アリール、もしくはC〜C20ヘテロアリール基であり、R2は、場合により置換されたC〜C20アルキル、C〜C20アリール、またはC〜C20ヘテロアリール基であり、R3は、HまたはC〜Cアルキル基である)のアクリル酸誘導体を遷移金属触媒を用いて不斉水素化する方法であって、式(I)の化合物を、場合により溶媒中において、1種またはそれ以上のH供与体の存在下に、ルテニウム、ロジウム、およびイリジウムの群からの遷移金属と、式(II)、
【化2】


(式中、Cnは、2個の酸素原子およびリン原子と一緒になって、2〜6個の炭素原子を有する場合により置換された環を形成し、R4は、場合により置換されたアルキル、アリール、アルコキシ、もしくはアリールオキシ基またはNR5R6(式中、R5およびR6は、それぞれ独立して、Hもしくは場合により置換されたアルキル、アリール、アラルキル、もしくはアルカリール基であってもよく、または窒素原子と一緒になって環を形成していてもよい)である)のキラルなリン配位子および式(III)、
P(R)
(式中、Rは、場合により置換されたアルキルまたはアリール基である)のアキラルなホスフィン配位子の組合せとを含む触媒系を用いて、対応する式(IV)、
【化3】


(式中、R1、R2、およびR3は、それぞれ上記と同義である)の化合物に水素化することを含む方法を提供する。
【0011】
使用される基質は、式(I)(式中、R1は、Hまたは場合により置換されたC〜C20アルキル基または場合により置換されたC〜C20アリールもしくはC〜C20ヘテロアリール基であり、R2は、場合により置換されたC〜C20アルキル基または場合により置換されたC〜C20アリールもしくはC〜C20ヘテロアリール基である)のアクリル酸誘導体である。
【0012】
アルキル基とは、アルキル鎖が場合により1もしくはそれ以上の二重もしくは三重結合を含んでいてもよく、またはN、O、およびSの群からの1種もしくはそれ以上のヘテロ原子が挿入されていてもよい、1〜20個の炭素原子を有する、直鎖、分岐、または環状のアルキル基を意味するものと理解されたい。
【0013】
アルキル基は、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、プロペニル、n−ブチル、t−ブチル、シクロペンチル、ブチニル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、i−オクチル、ウンデシル、ネオヘプチル、ペンタデシル、テトラヒドロピロリル、テトラヒドロフラニル、ジメチルスルフィド等である。
【0014】
アルキル鎖が場合により二重または三重結合を有していてもよく、場合によりヘテロ原子を含んでいてもよい、1〜12個の炭素原子を有する、直鎖、分岐、または環状のアルキル基が好ましい。
【0015】
アリールおよびヘテロアリール基は、5〜20個の炭素原子を有する芳香族基、例えばシクロペンタジエニル、フェニル、ビフェニリル、インデニル、ナフチル、ピロリル、フラニル、インドリル、ピリジニル(pyrridinyl)等である。フェニルまたはナフチルが好ましい。
【0016】
この基は、好適な置換基で一または多置換されていてもよい。
【0017】
好適な置換基は、例えば、C〜C20アルコキシ基、好ましくはC〜C12アルコキシ基、C〜C20アルキル基、好ましくはC〜Cアルキル、C〜C20アリール基、好ましくはフェニル、トリフルオロ−C〜Cアルキル、好ましくはトリフルオロメチル、ポリ−C〜C20アルコキシ基、ハロゲン、例えば、F、Cl、Br、またはI、ヒドロキシル、アミン、ニトロ、ニトリル、カルボン酸、カルボン酸エステル、カルボキサミド等である。
【0018】
特に好ましい置換基は、C〜Cアルコキシ基、C〜Cアルキル基、トリフルオロメチル、ポリ−C〜Cアルコキシ基、F、Cl、またはBrである。
【0019】
R3は、HまたはC〜Cアルキル基のいずれかである。
【0020】
特に好ましい基質は、R2がフェニルまたはC〜Cアルキル基であり、R1が場合により一または多置換されたフェニル基であり、R3がHである、式(I)の化合物である。
【0021】
式(I)のアクリル酸誘導体を遷移金属触媒を用いて不斉水素化するための本発明による方法は、1種またはそれ以上の水素供与体の存在下に進行する。本文脈における水素供与体とは、Hを基質に移動させることができる化合物、例えば、H、脂肪族または芳香族C〜C10アルコール、例えばi−プロパノールまたはシクロヘキサノール、5〜10個の炭素原子を有する不飽和炭化水素、例えば1,4−ジヒドロベンゼンまたはヒドロキノン、ギ酸およびトリエチルアミンの混合物等を意味するものと理解されたい(国際公開第02/04466号パンフレット参照)。
【0022】
例えばアルコールまたは炭化水素を使用する場合などは、水素供与体が溶媒の役割を果たすこともできるため、さらなる溶媒を使用することが不要になる場合もある。
【0023】
水素供与体としてはHを使用することが好ましい。本発明による方法における水素圧は、1〜200bar、好ましくは10〜150bar、より好ましくは15〜100barである。
【0024】
反応温度は、−20℃〜+120℃の間、好ましくは0〜80℃の間、より好ましくは20〜65℃の間である。
【0025】
この不斉水素化は、好ましくは酸素を排除して実施される。
【0026】
本発明による方法は、場合により溶媒中で実施される。
【0027】
好適な溶媒は、好ましくは有機溶媒、例えばアルコール、エステル、アミド、エーテル、ケトン、芳香族炭化水素、およびハロゲン化炭化水素である。
【0028】
プロトン性溶媒を使用することが特に好ましい。
【0029】
好ましい溶媒は、例えば、酢酸エチル、メタノール、i−プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、トルエン、またはジブロモエタンである。
【0030】
所望により、上に列挙した1種またはそれ以上の溶媒と水との混合物を使用することも可能である。その場合、溶媒対水の体積比は、好ましくは2:1〜8:1、より好ましくは3:1〜6:1である。
【0031】
1種またはそれ以上のプロトン性溶媒と水との混合物が好ましく、その結果として、光学純度を明らかに向上させることができる。
【0032】
本発明による方法に使用される溶媒は、より好ましくは、i−プロパノールと水との混合物である。
【0033】
本発明に従い使用される触媒は、ルテニウム、ロジウム、およびイリジウムの群からの遷移金属と、式(II)のキラルなリン配位子および式(III)のアキラルなホスフィン配位子の組合せとを含む触媒系である。
【0034】
使用される遷移金属は、好ましくは、ルテニウムまたはロジウム、より好ましくはロジウムである。
【0035】
式(II)のキラルな配位子は周知であり、例えば、国際公開第02/04466号パンフレットまたは国際公開第2004/035208号パンフレットに記載されている。
【0036】
式(II)におけるアルキル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、アラルキル、またはアルカリール基は、好ましくは1〜20個の炭素原子を有し、ヒドロキシル、アルキル、アルコキシ、フェニル、ニトリル、カルボン酸エステル、またはハロゲンの群からの1種またはそれ以上の置換基で場合により置換されていてもよい。
【0037】
式(II)のR4は、より好ましくは、場合により置換された、直鎖、分岐、もしくは環状のC〜Cアルキル基、場合により置換されたフェニル基、場合により置換されたC〜Cアルコキシ基、場合により置換されたフェニルオキシ基、またはNR5R6基(式中、R5およびR6は、好ましくは、それぞれ独立して、1〜6個の炭素原子、より好ましくは1〜3個の炭素原子を有する場合によりフェニルで置換されたアルキル基であるかまたは窒素原子と一緒になって、場合によりヘテロ原子、例えばO、N、もしくはSも含んでいてもよい環、例えば、モルホリン環、ピペリジン環、ピロリジン環等を形成する)である。より好ましくは、R5およびR6は窒素原子と一緒になって、場合によりヘテロ原子も含んでいてもよい5員環または6員環を形成する。
【0038】
Cnは、好ましくは、大部分が1種類の立体配置をとる、例えば鏡像体過剰率が95%eeを超え、好ましくは99%eeを超える、キラルな置換されたC鎖(場合により置換された4個の炭素原子を有する鎖)である。
【0039】
Cnは、2個の酸素原子およびリン原子と一緒になって、より好ましくは4個の炭素原子を有する7員環を形成し、その際は、各場合ごとに2個の炭素原子が場合により置換されたアリール基の一部となる。
【0040】
このアリール基は、より好ましくは、場合により置換されたフェニルまたはナフチル基である。置換基は、好ましくは、o位に結合している。
【0041】
好ましい式(II)のキラルな配位子としては、例えば、式(IIa)および(IIb)、
【化4】


(式中、ナフチル基は、ハロゲン、例えば塩素もしくは臭素、アルキル、好ましくはC〜Cアルキル、またはアルコキシ、好ましくはC〜Cアルコキシ、アリール、好ましくはフェニル、アリールオキシ、好ましくはフェニルオキシで場合により一または多置換されており、R4は、場合により置換されたC〜Cアルキル基、場合により置換されたフェニル基、場合によりフェニルで置換されたC〜Cアルコキシ基、または場合によりC〜Cアルキルで置換されたフェニルオキシ基であり、R5およびR6は、それぞれ独立して、1〜6個の炭素原子、より好ましくは1〜3個の炭素原子を有する場合によりフェニルで置換されたアルキル基であるかまたは窒素原子と一緒になって環を形成する)の化合物が挙げられる。
【0042】
さらなる好ましい式(II)のキラルな配位子は、式(IIc)および(IId)、
【化5】


(式中、フェニル基は、ハロゲン、例えば塩素もしくは臭素、アルキル、好ましくはC〜Cアルキル、またはアルコキシ、好ましくはC〜Cアルコキシ、アリール、好ましくはフェニル、アリールオキシ、好ましくはフェニルオキシで場合により一または多置換されており、R4は、場合により置換されたC〜Cアルキル基、場合により置換されたフェニル基、場合によりフェニルで置換されたC〜Cアルコキシ基、または場合によりC〜Cアルキルで置換されたフェニルオキシ基であり、R5およびR6は、それぞれ独立して、1〜6個の炭素原子、より好ましくは1〜3個の炭素原子を有する場合によりフェニルで置換されたアルキル基であるかまたは窒素原子と一緒になって環を形成する)の化合物である。
【0043】
特に好ましい式(II)のキラルな配位子は、式(IIe)および(IIf)、
【化6】


(式中、R4は、場合により置換されたC〜Cアルキル基、場合により置換されたフェニル基、場合によりフェニルで置換されたC〜Cアルコキシ基、または場合によりC〜Cアルキルで置換されたフェニルオキシ基であり、R5およびR6は、それぞれ独立して、C〜Cアルキル基であるかまたは窒素原子と一緒になって、場合により酸素もしくは硫黄原子も含んでいてもよい5員環もしくは6員環を形成し、R7は、直鎖もしくは分岐のC〜Cアルキル基、場合により置換されたフェニル基、場合によりフェニルで置換されたC〜Cアルコキシ基、または場合によりC〜Cアルキルで置換されたフェニルオキシ基である)の化合物である。
【0044】
さらなる特に好ましい式(II)のキラルな配位子は、式(IIg)および(IIh)、
【化7】


(式中、R4は、場合により置換されたC〜Cアルキル基、場合により置換されたフェニル基、場合によりフェニルで置換されたC〜Cアルコキシ基、または場合によりC〜Cアルキルで置換されたフェニルオキシ基であり、R5およびR6は、それぞれ独立して、C〜Cアルキル基であるかまたは窒素原子と一緒になって、場合により酸素もしくは硫黄原子も含んでいてもよい5員環もしくは6員環を形成し、R7およびR8は、それぞれ、直鎖もしくは分岐のC〜Cアルキル基、場合により置換されたフェニル基、場合によりフェニルで置換されたC〜Cアルコキシ基、または場合によりC〜Cアルキルで置換されたフェニルオキシ基である)の化合物である。
【0045】
このキラルな配位子は、少なくとも50%ee、好ましくは少なくとも90%ee、より好ましくは99%eeを超える光学純度で使用される。
【0046】
本発明に従い第2の配位子として使用される触媒系は、式(III)P(R)(式中、Rは、場合により置換されたアルキルまたはアリール基である)のアキラルなホスフィン配位子を含む。
【0047】
Rは、好ましくは、2〜10個の炭素原子、より好ましくは4〜6個の炭素原子を有する、直鎖、分岐、もしくは環状のアルキル基であるかまたはハロゲンもしくはC〜Cアルキルで場合により一もしくは多置換されたフェニル基である。
【0048】
特に好ましい基は、フェニル、o−トリル、m−トリル、p−トリル、キシリル、m−クロロフェニル、p−クロロフェニル、o−メトキシフェニル、p−メトキシフェニル、m−メトキシフェニル、メシチル、シクロヘキシル、n−ブチル、およびt−ブチルである。
【0049】
本発明による方法における式(II)のキラルな配位子対式(III)のアキラルな配位子の比は、10:1〜1:5、好ましくは5:1〜1:2、より好ましくは2.5:1〜1.2:1である。
【0050】
本発明の触媒系は、国際公開第02/04466号パンフレットと同様にして調製することができる。
【0051】
キラルな配位子およびアキラルな配位子を、遷移金属を含む触媒前駆体と反応させることが好ましい。
【0052】
好適な触媒前駆体の例として、[Rh(COD)Cl]、[Rh(COD)]BF、[Rh(NBD)]BF、Ru(OAc)、Ru(メチルアリル)COD、[Ru(シメン)Cl等(COD=1、5−シクロオクタジエン、NBD=ノルボルナジエン)が挙げられる。
【0053】
遷移金属触媒:キラルな配位子のモル比は、1:0.5〜1:5、好ましくは1:1〜1:2である。
【0054】
反応体:遷移金属触媒のモル比は、100:1〜1000000:1、好ましくは1000:1〜10000:1である。
【0055】
本発明による方法においては、例えば、式(I)の基質、式(II)および(III)の配位子、ならびに遷移金属を含む前駆体を、好適な器具、例えばオートクレーブ内で溶媒に溶解する。次いで、酸素を排除することが望ましい場合は、この器具を好ましくは不活性ガス、例えばNでパージする。次いで、この混合物を所望の反応温度に加熱する。しかしながら、まずは基質のみを溶媒に溶解することが好ましく、次いで、器具を好ましくは不活性ガスでパージする。適切な反応温度に加熱した後、式(II)および(III)の配位子の脱気溶媒懸濁液に加えて遷移金属を含む前駆体も基質溶液に投入する。
【0056】
その後、水素供与体を適切な反応温度で添加する。好ましくは、Hを所望の圧力になるまで注入する。反応が完了し、場合により反応液を冷却した後、所望の最終生成物を物質の状態に応じた慣用法によって単離する。
【0057】
最初に、例えば配位子(II)および(III)と前駆体との反応混合物を室温下の脱気溶媒中で所定の時間撹拌することにより反応させることによって触媒錯体を調製することも可能である。次いで、揮発性化合物を留去し、固体の触媒錯体を得、次いでこれを基質溶液に加える。
【0058】
本発明による方法および特に特定の触媒系を用いることによって、アクリル酸誘導体の水素化を、第一に、先行技術よりも実質的に安価に、そして第二に、明らかに高いエナンチオ選択性で実施することが可能となり、その結果として、最終生成物の光学純度が明らかに向上する。
【0059】
さらに本発明は、第VIII、IX、またはX族からの遷移金属と、式(IIa)、(IIb)、(IIc)、または(IId)のキラルなリン配位子および式(III)、
P(R)
(式中、Rは、場合により置換されたアルキルまたはアリール基である)のアキラルなホスフィン配位子の組合せとを含む不斉遷移金属触媒反応用の触媒系を提供する。
【0060】
本発明の触媒系は、不飽和化合物の不斉遷移金属触媒反応、特に、遷移金属触媒不斉水素化に好適である。
【0061】
この場合、式(IIa)〜(IId)のキラルな配位子対式(III)のアキラルな配位子の比は、10:1〜1:5であってもよい。
【0062】
好ましくは、この比は、5:1〜1:2、より好ましくは2.5:1〜1.2:1である。
【0063】
好適な遷移金属は、第VIII、IX、またはX族の元素であり、ルテニウム、ロジウム、またはイリジウムを使用することが好ましい。
【0064】
さらに本発明は、不飽和化合物を遷移金属触媒不斉水素化するための本発明の触媒系の使用を提供する。
【0065】
実施例1:(R)−5−メトキシ−3−(3−メトキシプロポキシ)−α−(1−メチルエチル)フェニルプロパン酸の調製
450mlのオートクレーブ内で、E−2−[[4−メトキシ−3−(3−メトキシプロポキシ)フェニル]メチレン]−3−メチルブタン酸50g(178.35mmol)、式(IIe)の配位子(2,6−ジメチル−3,5−ジオキサ−4−ホスファシクロヘプタ[2,1−a;3,4−a’]ジナフタレン−4−イル)ピペリジン(%ee>95%)100mg(0.234mmol)、Rh(COD)BF47.6mg(0.1172mmol)、およびトリフェニルホスフィン30.8mg(0.117mmol)をイソプロパノール(IPA)およびHO(4:1)160ml中に懸濁させた。オートクレーブをNで5回窒素パージし、55℃に加熱した。その後、Hで3回パージした後、撹拌を行わずにHで80barに加圧した。80bar、55℃で攪拌機を100rpmとした後、混合物を一夜水素化した。18時間後、オートクレーブを冷却し、所望の生成物を単離した。
収率:50.35g(理論値の96.6%)
光学純度:95.3%ee
【0066】
実施例2〜8
α−メチルケイヒ酸を実施例1と同様にして水素化した。
【0067】
反応パラメータを以下のように選択した:
基質:1mmol、反応温度:30℃、H:25bar、溶媒(IPA:HO=4:1):4ml、反応時間:16時間、Rh(COD)BF:0.01mmol、実施例1に記載のキラルな配位子:0.02mmol、アキラルな配位子P(R):0.01mmol(Rについては表1参照)。
【0068】
【表1】

【0069】
どの実施例においても転化率が100%に到達した。
【0070】
実施例9〜13
実施例1と同様にして、式、
【化8】


の置換されたアクリル酸誘導体を水素化した。R1およびR2基の具体的な定義を表2に示す。
【0071】
反応パラメータを以下のように選択した:
基質:1mmol、反応温度:30℃、H:25bar、溶媒(IPA:HO=4:1):4ml、反応時間:16時間、Rh(COD)BF:0.01mmol、環が場合により酸素原子を含むことを除いて実施例1と同じキラルな配位子(表2参照):0.02mmol、アキラルな配位子P(R):0.01mmol(Rについては表2参照)。
【0072】
【表2】

【0073】
比較例:
実施例2〜8と同様にして、α−メチルケイヒ酸を水素化した。比較のため、各場合において水素化を、キラルな配位子およびアキラルな配位子PPhの組合せから構成される本発明の配位子系を用いて1回、ならびにキラルな配位子のみを用いて(アキラルな配位子を用いずに)1回実施した。
【0074】
反応パラメータを以下のように選択した:
基質:1mmol、反応温度:60℃、H:25bar、溶媒(IPA):4ml、反応時間:5時間、Rh(COD)BF:0.01mmol、以下に示す式のキラルな配位子:0.02mmol、(場合に応じて)アキラルな配位子P(Ph):0.01mmol。
【化9】

【0075】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)、
【化1】


(式中、R1は、Hまたは場合により置換されたC〜C20アルキル、C〜C20アリール、もしくはC〜C20ヘテロアリール基であり、R2は、場合により置換されたC〜C20アルキル、C〜C20アリール、またはC〜C20ヘテロアリール基であり、R3は、HまたはC〜Cアルキル基である)のアクリル酸誘導体を、遷移金属触媒を用いて不斉水素化する方法であって、式(I)の化合物を、場合により溶媒中において、1種またはそれ以上の水素供与体の存在下に、ルテニウム、ロジウム、およびイリジウムの群からの遷移金属と、式(II)、
【化2】


(式中、Cnは、2個の酸素原子およびリン原子と一緒になって、2〜6個の炭素原子を有する場合により置換された環を形成し、R4は、場合により置換されたアルキル、アリール、アルコキシ、もしくはアリールオキシ基またはNR5R6(式中、R5およびR6は、それぞれ独立して、Hもしくは場合により置換されたアルキル、アリール、アラルキル、もしくはアルカリール基であってもよく、または窒素原子と一緒になって環を形成していてもよい)である)のキラルなリン配位子および式(III)、
P(R)
(式中、Rは、場合により置換されたアルキルまたはアリール基である)のアキラルなホスフィン配位子の組合せとを含む触媒系を用いて、対応する式(IV)、
【化3】


(式中、R1、R2、およびR3は、それぞれ上記と同義である)の化合物に水素化することを含む、方法。
【請求項2】
好適な水素供与体が溶媒として作用するかまたは使用される前記溶媒が場合により水と併用されるアルコール、エステル、アミド、エーテル、ケトン、芳香族炭化水素、およびハロゲン化炭化水素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶媒が水と併用され、溶媒対水の体積比が2:1〜8:1である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
使用される前記溶媒が、体積比が3:1〜6:1の2−プロパノールと水との混合物である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
使用される前記水素供与体が、Hである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
反応温度が、−20℃〜+120℃の間である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記キラルな配位子が、少なくとも90%eeの光学純度で使用される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
使用される前記遷移金属が、ルテニウムまたはロジウムである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
R4が、場合により置換された、直鎖、分岐、もしくは環状のC〜Cアルキル基、場合により置換されたフェニル基、場合により置換されたC〜Cアルコキシ基、場合により置換されたフェニルオキシ基、またはNR5R6基(式中、R5およびR6は、それぞれ独立して、1〜6個の炭素原子を有する場合によりフェニルで置換されたアルキル基であるかまたは窒素原子と一緒になって、場合によりヘテロ原子も含んでいてもよい環を形成する)である、式(II)のキラルな配位子が使用される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
式(IIa)、(IIb)、(IIc)、または(IId)、
【化4】


(式中、ナフチルおよびフェニル基は、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アリール、またはアリールオキシで場合により一または多置換されていてもよく、R4は、場合により置換されたC〜Cアルキル基、場合により置換されたフェニル基、場合によりフェニルで置換されたC〜Cアルコキシ基、または場合によりC〜Cアルキルで置換されたフェニルオキシ基であり、R5およびR6は、それぞれ独立して、フェニルで置換された1〜6個の炭素原子を有するアルキル基であるかまたは窒素原子と一緒になって環を形成する)のキラルな配位子が使用される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
式(IIe)、(IIf)、(IIg)、または(IIh)、
【化5】


(式中、R4は、場合により置換されたC〜Cアルキル基、場合により置換されたフェニル基、場合によりフェニルで置換されたC〜Cアルコキシ基、または場合によりC〜Cアルキルで置換されたフェニルオキシ基であり、R5およびR6は、それぞれ独立して、C〜Cアルキル基であるかまたは窒素原子と一緒になって、酸素もしくは硫黄原子も場合により含んでいてもよい5員環もしくは6員環を形成し、R7およびR8は、それぞれ、直鎖もしくは分岐のC〜Cアルキル基、場合により置換されたフェニル基、場合によりフェニルで置換されたC〜Cアルコキシ基、または場合によりC〜Cアルキルで置換されたフェニルオキシ基である)のキラルな配位子が使用される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
Rが、2〜10個の炭素原子を有する、直鎖、分岐、もしくは環状のアルキル基であるかまたはハロゲンもしくはC〜Cアルキルで場合により一もしくは多置換されたフェニル基である、式(III)のアキラルな配位子が使用される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
式(II)のキラルな配位子対式(III)のアキラルな配位子の比が10:1〜1:5である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
遷移金属触媒対式(II)のキラルな配位子のモル比が1:0.5〜1:5である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記遷移金属が、触媒前駆体の形態で使用される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
式(I)の基質、式(II)および(III)の配位子、ならびに前記遷移金属を含む前記前駆体をまず好適な器具内で前記溶媒中に溶解し、次いで、前記器具を不活性ガスで場合によりパージし、次いで、所望の反応温度に加熱するかまたは式(I)の基質のみをまず前記溶媒中に溶解し、次いで、前記器具を不活性ガスで場合によりパージし、前記適切な反応温度に加熱した上で、式(II)および(III)の配位子の脱気溶媒懸濁液に加えて前記遷移金属を含む前記前駆体を前記基質溶液に投入し、次いで、いずれの場合も、前記水素供与体を前記適切な反応温度で添加する、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
第VIII、IX、またはX族からの遷移金属と、式(IIa)、(IIb)、(IIe)、または(IId)、
【化6】


(式中、ナフチルおよびフェニル基は、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アリール、またはアリールオキシで場合により一または多置換されていてもよく、R4は、場合により置換されたC〜Cアルキル基、場合により置換されたフェニル基、場合によりフェニルで置換されたC〜Cアルコキシ基、または場合によりC〜Cアルキルで置換されたフェニルオキシ基であり、R5およびR6は、それぞれ独立して、フェニルで置換された1〜6個の炭素原子を有するアルキル基であるかまたは窒素原子と一緒になって環を形成する)のキラルなリン配位子および式(III)、
P(R)
(式中、Rは、場合により置換されたアルキルまたはアリール基である)のアキラルなホスフィン配位子の組合せとを含む、不斉遷移金属触媒反応のための触媒系。
【請求項18】
使用される前記遷移金属が、ルテニウム、ロジウム、またはイリジウムである、請求項17に記載の触媒系。
【請求項19】
使用される前記キラルな配位子が、式(IIe)、(IIf)、(IIg)、または(IIh)、
【化7】


(式中、R4は、場合により置換されたC〜Cアルキル基、場合により置換されたフェニル基、または場合によりフェニルで置換されたC〜Cアルコキシ基であり、R5およびR6は、それぞれ独立して、C〜Cアルキル基であるかまたは窒素原子と一緒になって、酸素もしくは硫黄原子も場合により含んでいてもよい5員環もしくは6員環を形成し、R7およびR8は、それぞれ、直鎖または分岐のC〜Cアルキル基である)の配位子である、請求項17または18に記載の触媒系。
【請求項20】
キラルな配位子対アキラルな配位子のモル比が、2.5:1〜1.2:1である、請求項17〜19のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項21】
不飽和化合物の遷移金属触媒不斉水素化における、請求項17〜20のいずれか一項に記載の触媒系の使用。
【請求項22】
前記不飽和化合物が、式(I)、
【化8】


(式中、R1は、Hまたは場合により置換されたC〜C20アルキル、C〜C20アリール、もしくはC〜C20ヘテロアリール基であり、R2は、場合により置換されたC〜C20アルキル、C〜C20アリール、またはC〜C20ヘテロアリール基であり、R3は、HまたはC〜Cアルキル基である)のアクリル酸誘導体である、請求項21に記載の使用。

【公表番号】特表2008−525506(P2008−525506A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548711(P2007−548711)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【国際出願番号】PCT/EP2005/012990
【国際公開番号】WO2006/069617
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(505326209)ディーエスエム ファイン ケミカルズ オーストリア エヌエフジー ゲーエムベーハー ウント ツェーオー カーゲー (13)
【Fターム(参考)】