説明

アクリロニトリルおよびシアン化水素の製造のための改良触媒

【課題】ニトリル収率の著しい減少を伴わずにシアン化水素副生成物の生成を付加的に増加させること。
【解決手段】鉄、ビスマス、モリブデンおよびカルシウムの触媒酸化物の複合体を含み、以下の経験式によって特徴付けられる触媒組成物:AabcdFeeBifMo12x:ここで、A=1つ以上のLi、Na、K、RbおよびCs、またはそれらの混合物;B=1つ以上のMg、Mn、Ni、Co、Ag、Pb、Re、CdおよびZn、またはそれらの混合物;C=1つ以上のCe、Cr、Al、Sb、P、Ge、La、Sn、VおよびW、またはそれらの混合物;D=1つ以上のCa、Sr、Ba、またはそれらの混合物;およびa=0.01〜1.0;bおよびe=1.0〜10;c、d、およびf=0.1〜5.0、ならびにxは他に存在する元素の原子価条件によって決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の属する技術分野)
本発明は、不飽和ニトリルの収率の著しい減少を伴わずに、副生成物HCNの予期されない高収率を提供する、不飽和炭化水素の対応する不飽和ニトリルへのアンモ酸化における使用のための改良された触媒に関する。特に、本発明は、ニトリル収率の著しい減少を伴わずにシアン化水素副生成物の生成を付加的に増加させる、プロピレンおよび/またはイソブチレンの、それぞれアクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルへのアンモ酸化のための改良されたプロセスおよび触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
(従来の技術)
ビスマス-モリブデン-鉄流動床触媒の使用によるアクリロニトリルの製造に関する多くの特許がある。特に、特許文献1;特許文献2;特許文献3;特許文献4;特許文献5;特許文献6および特許文献7はそれぞれ、アクリロニトリルを生成するために第II群元素を用いて改良され(promote)得るビスマス-モリブデン-鉄触媒に関する。さらに、特許文献8は、オレフィンの酸化のために同様に改良されたビスマス-モリブデン-鉄触媒を開示している。最後に、近年発行された特許文献9は、アクリロニトリルの高収率を示すビスマス-モリブデン改良触媒に関する。上記特許に記載されるような、適切な元素で改良された鉄、ビスマスおよびモリブデンの酸化物を含有する触媒は、アクリロニトリルを製造するために、アンモニアおよび酸素(通常、空気の形態で)の存在下で高温でプロピレンの転化のために長く使用されている。アクリロニトリルは主生成物として生成するが、シアン化水素は主な副生成物(coproduct)として維持される。
【0003】
プロピレンまたはイソブチレンの、それぞれその対応する不飽和ニトリル、アクリロニトリル-メタクリロニトリルへのアンモ酸化において、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリル生成を最大にすることは、研究者の長年の目標である。しかし近年、このアンモ酸化反応の主な副生成物であるシアン化水素は、ますます重要な経済的考慮がなされている。事実、ある操作において、シアン化水素の収率のこのような増加がアクリロニトリル生成レベルで通常に付随する損失なしに達成されるならば、シアン化水素の副生成物の収率を最大にすることは、特に高度に望ましい。
【特許文献1】英国特許第1436475号明細書
【特許文献2】米国特許第4,766,232号明細書
【特許文献3】米国特許第4,377,534号明細書
【特許文献4】米国特許第4,040,978号明細書
【特許文献5】米国特許第4,168,246号明細書
【特許文献6】米国特許第5,223,469号明細書
【特許文献7】米国特許第4,863,891号明細書
【特許文献8】米国特許第4,190,608号明細書
【特許文献9】米国特許第5,093,299号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アクリロニトリル反応器における操作条件は、シアン化水素の収率を増加させるように変化され得る。しかし、シアン化水素の収率を増加させるための操作条件を変化させると、通常、アクリロニトリルの生成収率を経済的に受け入れられない減少を導く。代表的に、シアン化水素生成が1%増加するごとに、アクリロニトリルの2%の減少が見られる。本発明は、この問題の解決策に関するものである。
【0005】
実質的に同一のレベルでアクリロニトリル生成レベルを維持しながらアクリロニトリルを製造する間に生成されるシアン化水素副生成物の収率を増加する新規のアンモ酸化触媒を得ることが、本発明の主要な目的である。
【0006】
匹敵する操作条件において経済的に受け入れられないアクリロニトリル生成物を減少することなくシアン化水素の収率を増加させる、新規のアンモ酸化触媒を得ることが、本発明のさらなる目的である。
【0007】
本発明のさらなる目的および利点は、以下に記載の一部および記載から明確である一部に記載されるか、または本発明の実施によって知られ得る。本発明の目的および利点は、付随の特許請求の範囲において特に指摘された手段および組み合わせによって明らかにされ、そして達成され得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、鉄、ビスマス、モリブデンおよびカルシウムの触媒酸化物の複合体を含み、以下の経験式によって特徴付けられる触媒組成物を提供する:
abcdFeeBifMo12x
ここで、A=1つ以上のLi、Na、K、RbおよびCs、またはそれらの混合物;
B=1つ以上のMg、Mn、Ni、Co、Ag、Pb、Re、CdおよびZn、またはそれらの混合物;
C=1つ以上のCe、Cr、Al、Sb、P、Ge、La、Sn、VおよびW、またはそれらの混合物;
D=1つ以上のCa、Sr、Ba、またはそれらの混合物;
およびa=0.01〜1.0;bおよびe=1.0〜10;c、d、およびf=0.1〜5.0、ならびにxは他に存在する元素の原子価条件によって決定される。このことにより上記目的が達成される。
【0009】
好適な実施態様においては、不活性担体は、シリカ、アルミナ、ジルコニア、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0010】
好適な実施態様においては、Aは、セシウム、カリウム、またはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0011】
さらに好適な実施態様においては、Aはセシウムおよびカリウムの混合物である。
【0012】
好適な実施態様においては、Bは、1つ以上のMg、Mn、Ni、Coおよびそれらの混合物である。
【0013】
さらに好適な実施態様においては、Bは、1つ以上のMg、Ni、Coおよびそれらの混合物である。
【0014】
好適な実施態様においては、Cは、1つ以上のCe、Cr、Sb、P、Ge、Wおよびそれらの混合物である。
【0015】
さらに好適な実施態様においては、Cは、1つ以上のCe、Cr、P、Geおよびそれらの混合物である。
【0016】
好適な実施態様においては、Dは、1つ以上のCa、Srおよびそれらの混合物である。
【0017】
さらに好適な実施態様においては、Dは、Caであるように選択される。
【0018】
好適な実施態様においては、aは0.05〜0.9の範囲である。
【0019】
さらに好適な実施態様においては、aは約0.1〜0.7の範囲である。
【0020】
好適な実施態様においては、bおよびeは約2〜9の範囲である。
【0021】
さらに好適な実施態様においては、bおよびeは2〜8の範囲である。
【0022】
好適な実施態様においては、c、dおよびfは約0.1〜4の範囲である。
【0023】
さらに好適な実施態様においては、c、dおよびfは0.1〜3の範囲である。
【0024】
好適な実施態様においては、dは0.1〜4の範囲である。
【0025】
さらに好適な実施態様においては、dは0.1〜3の範囲である。
【0026】
前記の目的を達成するために、および本明細書中に具体化されそして適切に記載されたように本発明の目的に従って、本発明の触媒は以下の経験式によって特徴付けられる:
abcdFeeBifMo12x
ここで、A=1つ以上のLi、Na、K、RbおよびCs、またはそれらの混合物;
B=1つ以上のMg、Mn、Ni、Co、Ag、Pb、Re、CdおよびZn、またはそれらの混合物;
C=1つ以上のCe、Cr、Al、Sb、P、Ge、La、Sn、VおよびW、またはそれらの混合物;
D=1つ以上のCa、Sr、Ba、またはそれらの混合物;
およびa=0.01〜1.0;bおよびe=1.0〜10;c、d、およびf=0.1〜5.0、ならびにxは他に存在する元素の原子価条件によって決定される。
【0027】
本発明の好ましい実施態様において、Aは、1つ以上のリチウム、ナトリウム、カリウムおよびセシウムから選択され、特に好ましくはセシウムおよびカリウムである。
【0028】
別の好ましい実施態様において、Bは、マグネシウム、マンガン、ニッケルおよびコバルト、またはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0029】
また別の好ましい実施態様において、Cは、セリウム、クロム、アンチモン、リン、ゲルマニウム、タングステン、またはそれらの混合物を含む群から選択され、特に好ましくは、セリウム、クロム、リン、およびゲルマニウムである。
【0030】
本発明のさらなる好ましい実施態様において、Dは、Ca、Srおよびそれらの混合物からなる群から選択され、特に好ましくはCaである。
【0031】
本発明のさらに別の好ましい実施態様において、aは、約0.05〜0.9の範囲であり得、特に好ましくは0.1〜0.7である。
【0032】
本発明のさらなる好ましい実施態様において、bおよびeは、約2〜9の範囲であり得、特に好ましくは2〜8である。本発明のさらなる好ましい実施態様において、c、d、およびfは、約0.1〜4の範囲であり得、特に好ましくは0.1〜3である。
【0033】
本発明の触媒は、担体または担体なしのいずれでも使用され得る。好ましくは、触媒は、シリカ、アルミナまたはジルコニウム、もしくはそれらの混合物(特に好ましくはシリカである)上に担持される。
【0034】
本発明の触媒は、当該分野において公知の任意の多数の触媒調製法によって調製され得る。例えば、触媒は、種々の成分を共沈させることによって製造され得る。次いで、共沈された塊は、乾燥されそして適切なサイズに粉砕され得る。あるいは、共沈された材料は、従来の技術に従ってスラリー化されそしてスプレー乾燥され得る。触媒は、当該分野において周知のように、ペレットとして押し出され得るか、またはオイル中で球状に形成され得る。あるいは、触媒成分は、スラリーの形態で担体と混合されて乾燥され得るか、または触媒成分は、シリカまたは他の担体に浸透され得る。触媒製造のための特定の手順に関しては、本明細書中で参考文献として援用される本発明の譲渡人に譲渡された米国特許第5,093,299号;同第4,863,891号および同第4,766,233号を参照のこと。
【0035】
代表的に、触媒のA成分は、酸化物または焼成の際に酸化物が生成される塩として触媒に導入され得る。好ましくは、容易に入手可能でありそして容易に溶解する硝酸塩のような塩が、A元素を触媒に組み込む手法として使用される。
【0036】
ビスマスは、酸化物または焼成の際に酸化物が生成される塩として触媒に導入され得る。容易に分散されるが熱処理の際に安定な酸化物を形成する水溶性の塩が、好ましい。ビスマス導入のための特に好ましい原料は、硝酸溶液に溶解された硝酸ビスマスである。
【0037】
鉄成分を触媒に導入するために、焼成の際に酸化物となる任意の鉄化合物が使用され得る。他の元素については、容易に触媒中に均一に分散され得るために水溶性の塩が好ましい。最も好ましくは、硝酸鉄(II)である。
【0038】
コバルト、ニッケルおよびマグネシウムはまた、硝酸塩を用いて触媒に導入され得る。しかし、マグネシウムは、不溶性の炭酸塩または水酸化物(これらは、熱処理の際に酸化物を生じる)としても触媒に導入され得る。
【0039】
触媒のモリブデン成分は、任意の酸化モリブデン(例えば、二酸化物、三酸化物、五酸化物または七酸化物)から導入され得る。しかし、加水分解性または分解性のモリブデン塩がモリブデンの原料として利用されることが、好ましい。最も好ましい出発物質は、七モリブデン酸アンモニウム(ammonium heptamolybdate)である。
【0040】
リンは、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩として触媒中に導入され得るが、好ましくはリン酸として導入される。本発明の触媒中の必須成分であるカルシウムは、モリブデン酸カルシウムの前駆体(pre-formation)を介して、または含浸によって、または当該分野で公知の他の手法によって添加され得る(通常、他の硝酸塩と共に硝酸Caとして添加される)。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、実質的に同一のレベルでアクリロニトリル生成レベルを維持しながらアクリロニトリルを製造する間に生成されるシアン化水素副生成物の収率を増加する新規のアンモ酸化触媒を得ることができた。本発明によればさらに、匹敵する操作条件において経済的に受け入れられないアクリロニトリル生成物を減少することなくシアン化水素の収率を増加させる、新規のアンモ酸化触媒を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
(発明の実施の形態)
本発明は、以下の経験式によって特徴付けられるアンモ酸化触媒に関する。
【0043】
abcdFeeBifMo12x
ここで、A=1つ以上のLi、Na、K、RbおよびCs、またはそれらの混合物;
B=1つ以上のMg、Mn、Ni、Co、Ag、Pb、Re、CdおよびZn、またはそれらの混合物;
C=1つ以上のCe、Cr、Al、Sb、P、Ge、La、Sn、VおよびW、またはそれらの混合物;
D=1つ以上のCa、Sr、Ba、またはそれらの混合物;
およびa=0.01〜1.0;bおよびe=1.0〜10;c、d、およびf=0.1〜5.0、ならびにxは他に存在する元素の原子価条件によって決定される数である。
【0044】
触媒は、七モリブデン酸アンモニウムの水溶液をシリカゾルと混合することによって調製され、化合物(好ましくは、他の元素の硝酸塩)を含むスラリーが添加される。次いで、固体材料を乾燥し、脱窒しそして焼成する。好ましくは、触媒は、110℃〜350℃の温度(好ましくは、110℃〜250℃であり、最も好ましくは、110℃〜180℃である)でスプレー乾燥される。脱窒温度は、100℃〜450℃の範囲であり、好ましくは150℃〜425℃である。最後に、焼成を300℃〜700℃の温度(好ましくは、350℃〜650℃)で実行する。
【実施例】
【0045】
以下の実施例を、例示の目的のみのために以下のように記載する。
【0046】
【表1】


比較例1〜6および実施例7〜12を、430℃〜460℃および15psigで1C3=/1.2NH3/9.8-10空気の混合物を含む原料を用いて、0.10〜0.12wwhのスループットで40cc流動床反応器中で実質的に同一の条件下で試験した。
【0047】
本発明は上記の特定の実施態様と組み合わせて記載されているが、多くの代替、改変、および変形が、前記に照らして当業者に明らかであることは明白である。従って、すべてのこのような代替、改変および変形が付随の特許請求の範囲の精神および広範な領域内に包含することが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載の触媒。

【公開番号】特開2008−110345(P2008−110345A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309453(P2007−309453)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【分割の表示】特願平10−248798の分割
【原出願日】平成10年9月2日(1998.9.2)
【出願人】(595017584)ザ スタンダード オイル カンパニー (8)
【氏名又は名称原語表記】The Standard Oil Company
【Fターム(参考)】