説明

アクロレインの製造方法

【課題】
グリセリンの気相脱水反応によるアクロレインの製造に用いられる触媒であって、アクロレインの選択性の高いグリセリン気相脱水用触媒を提供することおよび該触媒の共存下グリセリンを原料に用いた新規なアクロレインの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
タンタル酸を含むグリセリン気相脱水用触媒を用いたグリセリンの気相脱水反応によりアクロレインを高い選択性で反応でき、グリセリンを原料とし、気相脱水反応によりアクロレインを製造できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリンの気相脱水用触媒ならびにこの触媒を使用するアクロレインの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクロレインは、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、メチオニン、アクリル酸、3−メチルプロピオンアルデヒド、吸水性樹脂等のアクロレイン誘導体の原料として使用される有用な化合物である。
【0003】
アクロレインは、プロピレンを原料にMo及びBiを含む触媒を用いた接触気相酸化反応により、広く工業的に製造されている。一方、近年、グリセリンを原料とする酸触媒を用いた脱水反応によるアクロレイン製造方法が開示されている。
【0004】
例えば、グリセリンからのアクロレインの製造方法としては、酸強度関数Hが+2以下の固体酸触媒(例えば、燐酸を酸化アルミニウム担体に担持させたもの)とグリセリンを10〜40質量%含有するグリセリン/水混合物とを250℃〜340℃の条件で接触させる方法(特許文献1参照)や、酸強度関数Hが−9〜−18の固体強酸性触媒を使用する方法および酸化タンタルTa(特許文献2参照)等が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平06−211724号公報
【特許文献2】国際公開2006/087084号上述のようにグリセリンの脱水反応からアクロレインを得る製造方法は知られているが、1−ヒドロキシアセトン、アセトアルデヒドおよびプロピオンアルデヒドなどの副生物が生成するため、アクロレインを高い選択率で製造できていなかった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、アクロレインの選択性が高いグリセリンの気相脱水用触媒、および該触媒の共存下グリセリンからアクロレインを製造する方法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、グリセリンの気相脱水反応によるアクロレインの製造に用いられる触媒であって、タンタル酸を含むグリセリン気相脱水用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、タンタル酸を含むグリセリン気相脱水用触媒を用いたグリセリンの気相脱水反応によりアクロレインが製造できることを見出し本発明の完成に至った。
【0009】
即ち、前記課題を解決する手段として下記の方法を発明した。
(1)グリセリンの気相脱水反応によるアクロレインの製造方法に用いられる触媒であって、タンタル酸を含むグリセリン気相脱水用触媒
(2)前記タンタル酸に含まれる水分が、0.1質量%以上であることを特徴とする(1)に記載のグリセリン気相脱水用触媒
(3)前記タンタル酸の酸量分布が、−8.2<H≦−3.0のハメットの酸強度Hで表される範囲の酸量を滴定法で測定した場合に、0.001mmol/g以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載のグリセリン気相脱水用触媒
(4)前記タンタル酸を含む触媒が、タンタルの水酸化物を50〜600℃で焼成することで得られることを特徴とする(1)から(3)に記載のグリセリン気相脱水用触媒
(5)触媒の共存下においてグリセリンを脱水させてアクロレインを製造する方法であって、該触媒が(1)から(4)のいずれかに記載のグリセリン気相脱水用触媒であることを特徴とするアクロレインの製造方法。
(6)(5)記載のアクロレインの製造方法であって、脱水反応生成物中のグリセリンの少なくとも一部を回収して、原料として用いることを特徴とするアクロレインの製造方法
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タンタル酸を含むグリセリン気相脱水用触媒の存在下、グリセリンを原料としてアクロレインを高い選択率で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、グリセリンの気相脱水反応によるアクロレインの製造方法に用いられる触媒であって、タンタル酸を含むグリセリン気相脱水用触媒である。
【0012】
本発明のタンタル酸とは、含水酸化タンタルとも呼ばれる固体酸であり、その性質や構造の詳細は明らかでないが、非晶質もしくは結晶化の程度が低く、Ta・nHO(0<n)で表わすことができる。本発明で好適な触媒作用を示すnの値は、0.0245以上が好ましく、更に好ましくは0.128以上、より好ましくは0.245以上である。また、nは2.45以下が好ましく、さらに好ましくは2.21以下である。nの値はタンタル酸の製造方法、具体的には焼成の温度および/または時間を変えることにより調整できる。
【0013】
上記nの値を水分量に換算すると、本発明のタンタル酸は、水分量が0.1質量%以上であれば、特に限定されないが、好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上である。タンタル酸の水分量は、多すぎてもアクロレインの選択率を高くするという触媒性能が得られないことがあり、10質量%以下が好ましい。さらに好ましくは9質量%以下である。
【0014】
酸強度および酸量の測定方法は、通常の測定方法を用いることができる。例えば、ハメット指示薬を使用したn−ブチルアミン滴定法(Johnson法やBenesi法)を用いることができる。本発明のタンタル酸は、酸量分布が−8.2<H≦−3.0のハメットの酸強度Hで表される範囲の酸量を滴定法で測定した場合に、0.001mmol/g以上であることを特徴とする。より好ましくは0.01mmol/g以上である。さらに、酸量分布が−3.0<H≦+6.8のハメットの酸強度Hで表される範囲の酸量を滴定法で測定した場合に、0.05mmol/g以上であることを特徴とする。より好ましくは0.1mmol/gである。上記の酸量を満足するタンタル酸はグリセリン気相脱水触媒として好適である。
【0015】
本発明のタンタル酸は、BET比表面積が、50〜250m/gであることが特徴である。この範囲にBET比表面積を有するときに、グリセリン気相脱水触媒触媒として好適である。好ましくは200m/g以下、さらに好ましくは150m/g以下である。
【0016】
前記タンタル酸の調製方法は、その前駆体である水酸化タンタルを加熱処理して得ることができる。水酸化タンタルを調製する方法としては、例えば、5価のタンタルのハロゲン化物、例えばTaCl、TaBr、TaI、TaFまたはTaOClを加水分解する方法が挙げられる。具体的には、TaClをアンモニア水にゆっくり添加した後、加熱して沈殿を生成させる方法。他にはTaClをアルコールまたは濃塩酸に溶解、もしくは水に分散させた後、熱水、アンモニア水あるいは塩基性を示す溶液、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの水溶液を添加して、水酸化タンタルの沈殿を生成させる方法が挙げられる。さらには、5価のタンタルのアルコキシドあるいはハロゲンを含むアルコキシドを加水分解する方法、あるいは3価のタンタルのハロゲン化物、例えばTaBrを加水分解して水酸化タンタルを生成させる方法、さらには酸化タンタル(水和水を含まないものを指す)Taをアルカリ金属の水酸化物あるいは炭酸塩、硫酸塩、ピロ硫酸塩などと溶融して得られたものを加水分解して水酸化タンタルを得る方法がある。中でも、TaClをアンモニア水にゆっくり添加した後、加熱して沈殿を生成させる方法で調製したタンタル酸は触媒活性が高いため好ましい方法である。
【0017】
上記方法で得られた水酸化タンタルは、そのままでは十分な固体酸性を有しておらず、酸および/または水で洗浄した後に焼成する。本発明では、前記水酸化タンタルを50〜600℃で焼成する。該温度で焼成すると、前記した酸量分布が−8.2<H≦−3.0のハメットの酸強度Hで表される範囲の酸量を滴定法で測定した場合に、0.001mmol/g以上のタンタル酸となるからである。焼成温度は好ましくは100℃以上である。好ましい上限温度は、600℃以下であり、さらに好ましくは500℃以下である。焼成温度は、高いほどタンタル酸に含まれる水分量が少なくなるとともに、BET比表面積も小さくなる傾向が見られる。
【0018】
前記グリセリン気相脱水触媒は、タンタル酸を含んでいれば良く、単独または担体に担持していても良く、更に従来公知の触媒と混合しても良い。
【0019】
従来公知の触媒としては、固体酸触媒が挙げられる。例えば、(a)結晶性メタロシリケート、(b)金属酸化物、(c)粘土鉱物、(d)鉱酸を無機担体に担持させたもの、(e)リン酸や硫酸の金属塩およびそれらをα−アルミナ、シリカ、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の無機担体に担持したものが挙げられる。
【0020】
上記(a)の結晶性メタロシリケートとしては、Al、B、Fe、Ga等から選ばれる1種または2種以上の元素をT原子とし、かつ、LTA、CHA、FER、MFI、MOR、BEA、MTW等の結晶構造を有するものがある。上記(b)の金属酸化物としては、Al、TiO、ZrO、SnO、Vなどの単独金属酸化物;SiO−Al、SiO−TiO、TiO−WO、WO−ZrO等の複合酸化物;がある。上記(c)の粘土鉱物としては、ベントナイト、カオリン、モンモリロナイトなどがある。上記(d)の鉱酸を無機担体に担持させたものとしては、リン酸、硫酸等の鉱酸を、α−アルミナ、シリカ、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどの無機担体に担持させたものがある。上記(e)のリン酸や硫酸の金属塩としては、MgSO、Al(SO、KSO、AlPO、Zr(PO等がある。
【0021】
また、他の固体酸触媒としてはWO2006/087083およびWO2006/087084に開示されている触媒(リン酸、硫酸または酸化タングステンを坦持している酸化ジルコニウム)等がある。
【0022】
担体としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア等の触媒担体として通常用いられているものであれば良く、また前記固体酸触媒に担持する、或いは前記固体酸触媒を担持していても良い。
【0023】
触媒の形状は、限定されるものではなく、球状、柱状、リング状、鞍状などの形状で使用することが好ましい。前述した物質が粉体状の場合には、その物質単独で成形しても良いし、アルミナゾルやシリカゾル等のバインダー成分を添加して成型しても良いし、既に成形された担体に含浸あるいは表面に塗布するなどして用いても良い。
【0024】
本発明は、前記触媒の共存下グリセリンを原料にアクロレインを製造する方法である。より好ましくはグリセリンを気化してガス状にし、該ガスを触媒と接触させる気相脱水反応によりアクロレインを製造する方法である。
【0025】
本発明で原料に使用するグリセリンは、精製品、粗製品、および水溶液の何れであっても良い。純度100%のグリセリンであっても良いし、水との混合物であっても良い。本発明にグリセリンと水の混合物を原料とする場合、水の含量は70質量%以下であることが好ましい。70質量%を超えると気化するために多大なエネルギーを要することになり、しかも廃水処理にも莫大なコストがかかるため経済的に不利となり、本発明のアクロレインの製造方法を工業的に実施する際の妨げになる。より好ましくは、水の含量が50質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0026】
本発明は、脱水反応生成物中のグリセリンの少なくとも一部を回収して、原料として用いることができる。本発明における脱水反応では、グリセリンの転化率が低いので、未転化のグリセリンの少なくとも一部を回収して、回収グリセリンのみまたは新品グリセリンと混合して用いることで、アクロレインの収率を高くすることができる。回収したグリセリンを用いる場合でも、特に反応条件を変更する必要は無く、新品グリセリンのみと同様の反応条件で行うことができる。
【0027】
本発明は、固定床反応器、移動床反応器、流動床反応器などから任意に選択した反応器を使用することができ、簡便にアクロレインを製造できる固定床反応器を使用することが好ましい。
【0028】
触媒の活性が低下した場合、この触媒と再生用ガスとを高温で接触させれば、触媒を再生することができる。ここで、「再生用ガス」とは、酸素などの酸化性ガスを含むガスである。触媒と酸化性ガスを含む再生用ガスとを接触させる方法は、再生用ガスと反応器から取り出した触媒とを接触させる方法;グリセリンの脱水反応が行われる反応器と同じ反応器内に再生用ガスを流通させる方法;等、特に限定されない。後者の反応器内に再生用ガスを流通させる方法は、固定床反応器を使用してアクロレインを製造する場合に、反応器からの触媒の取り出し、および反応器への触媒の再充填などの手間がかからないので、推奨される。
【0029】
触媒の再生において酸素を酸化性ガスとして使用する場合、空気中の酸素を用いるのが安価である。また、窒素、二酸化炭素、水蒸気等の不活性ガスを酸素と同伴させても良い。特に、空気と触媒との接触により急激な発熱が懸念される場合には、酸素濃度を調整するために不活性ガスを用いる事が推奨される。触媒再生処理の前後において、再生処理系内に残存する余分な有機物、および触媒充填時に混入した酸素などを除去する目的で、窒素等の不活性ガスでパージしても良い。
【0030】
本発明のアクロレイン製造における気相脱水反応温度は、通常、反応器の温度制御のための熱媒等の設定温度を指す。当該温度は、触媒の活性変化および反応条件の変更に伴い、適宜変更されても良い。反応温度は、200〜500℃であると良く、好ましくは、250〜450℃、更に好ましくは、300〜400℃である。反応温度が低いと、グリセリンの転化率が低くなりアクロレインの生産量が実質的に低下するので好ましくない。また反応温度が高すぎると、アクロレインの収率が大幅に低下するので好ましくない。
【0031】
反応器入口における原料ガスの圧力は特に制限されず、反応装置の耐圧性などの経済的観点と触媒性能とのバランスに基づき、適宜設定される。この圧力は、通常0.1kPa以上であり、0.5kPa以上が好ましく、1kPa以上が更に好ましい。原料ガスの圧力の上限は、反応器入口における原料ガスが気体となっている限り制限されないが、通常1MPa以下であり、好ましくは500kPa以下であり、より好ましくは300kPa以下であり、更に好ましくは200kPa以下である。0.1kPa以下の圧力では、機密性の高い反応器などの設備費や製造装置の運転費用に見合うだけの効果が得られず、また、アクロレインの捕集が困難になる場合があるので、実質的にアクロレインの収率低下が起こることが懸念される。
【0032】
グリセリンと希釈ガス全量を含めた原料ガスの反応器入口における空間速度(以下において、「空間速度」と「GHSV」と称することがある)は、100〜10000hr−1であると良い。好ましくは、5000hr−1以下であり、アクロレインの製造を経済的かつ高効率で、行うためには、4000hr−1以下がより好ましい。
【0033】
前記原料ガス中におけるグリセリンの濃度は、特に限定されず、0.1〜100モル%の範囲で選択することができ、工業的な生産性を鑑みると、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましい。
【0034】
前記原料ガス中の希釈ガスとしては、グリセリンからアクロレインを生成させる脱水反応に悪影響を与えなければ、凝縮性ガスおよび非凝縮性ガスから選択された一種または二種以上のガスを任意に使用できる。前記希釈ガスとして使用できる凝縮性ガスとしては、水蒸気が挙げられ、固体酸触媒の寿命とアクロレインの収率とに対して有利な効果があるので、希釈ガスとして好適である。一方の非凝縮性ガスは、常圧条件で0℃以下の沸点を有する化合物や単体のガスであり、例えば、窒素ガス、二酸化炭素ガス、空気などの酸素含有ガス、ヘリウムなどの希ガスが挙げられる。また、凝縮性ガスと非凝縮性ガスとを両方用いてもよい。
【0035】
グリセリンの気相脱水反応により得られたアクロレインガス組成物から、溶剤等で吸収あるいは凝縮等によりアクロレインを回収した後の希釈ガス成分の一部または全量を、希釈ガスとしてリサイクルすることもできる。更に、アクロレインを用いてアクリル酸等のアクロレイン誘導体を製造し、得られたアクロレイン誘導体を吸収または凝縮により取り出した後の希釈ガス成分の一部または全量を、希釈ガスとしてリサイクルしても構わない。
【0036】
酸素などの酸化性ガスが希釈ガスとして含まれる場合、固体酸触媒上への炭素質物質の蓄積が軽減されることや、固体酸触媒の活性低下を抑制する効果が得られることがある。但し、酸化性ガスの量が多すぎると、燃焼反応によりアクロレインの収率低下が見られるため、好ましくない。原料ガス中に含まれる酸素量は、反応器入口における原料ガス中において20モル%以下(より好ましくは15モル%以下)、およびグリセリンガス分圧の3.5倍以下のいずれか低い値以下であると好ましい。
【0037】
前記希釈ガスの種類及び量については、アクロレインを含有する脱水反応生成ガスを、必要に応じてアクロレインよりも高沸点の成分である水等を一部または全て除去した後に、引き続きアクリル酸等のアクロレイン誘導体の製造に用いる場合や、脱水反応にて生成したアクロレインの捕集を行う場合等、該アクロレイン捕集工程における捕集効率や、希釈ガス成分の種類、量、これらの組み合わせをアクロレイン誘導体の製造条件に合わせて適宜調整すればよい。
【0038】
また、反応器内への原料ガス供給の開始直後に、アクロレイン収率が低い若しくは安定しない場合がある(以下、このアクロレイン収率が低く安定しない期間を、「誘導期」と称することがある。)。この誘導期を短縮する為に、有機化合物を含むガスで前処理を行ってもよい。
【0039】
前記前処理を施す工程は、(I)未使用触媒を使用する前、(II)脱水反応工程後に再生処理を行った後で、反応原料ガスと接触させて脱水反応を行う前、のいずれでも良く、両方とも実施するのがより好ましい。
【0040】
前記前処理の方法は、脱水反応器外で実施してもよく、脱水反応器内に充填した状態で実施しても良い。前記(I)未使用触媒の場合には予め前処理を行った触媒を脱水反応器に充填してもよく、また脱水反応器に充填して該反応器内で前処理を実施した後、グリセリンを供給して脱水反応を行ってもよい。前記(II)再生処理工程を脱水反応器内で行う場合には触媒の抜出し・再充填の手間がない該反応器内で行うのが簡便であり、推奨される。また、これらを組み合わせて、予め脱水反応器外で前処理を施した未使用触媒を用いて脱水反応を行い、再生処理後は反応器内で行う等の方法で行うこともできる。
【0041】
前記前処理終了後から脱水反応開始前までの間に、窒素等の不活性ガスでパージしても良い。例えば、脱水反応器外の前処理器で前処理を行った場合には該前処理器およびまたは脱水反応器に該触媒を充填した状態で、脱水反応器内で前処理を行った場合には該脱水反応器内において、系内に残存する余分な有機物や触媒充填時に混入した酸素などを除去する目的で、窒素等でパージしても良い。
【0042】
前記前処理に用いられるグリセリン以外の有機化合物とは、構成する元素に少なくとも炭素と水素を含む化合物であればよく、グリセリンよりも安価であると、経済的に好ましい。
【0043】
前記前処理に用いる有機化合物は、気体、液体、混合ガス、溶液いずれでもかまわず、非有機化合物との混合物でも構わない。非有機化合物としては、例えば、気体であれば窒素、酸素、二酸化炭素、水蒸気、希ガス等、液体であれば水が例示される。
【0044】
前記前処理に用いられる有機化合物あるいは有機化合物との混合物(以下、両者をまとめて処理剤と称する事がある)と接触させる方法は、連続流通式、回分式、半回分式等、特に問わない。未使用触媒であれば、触媒調製の最終工程に前処理工程を行うこともできる。
【0045】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0046】
(触媒調製例1)
3倍量の7Mアンモニア水溶液に粉末状の5塩化タンタル(>99.9%)を撹拌しながらゆっくり加えた。懸濁液を100℃まで加熱し同温度で2時間還流した。3時間後、吸引ろ過により分離した固形物(沈殿物)を洗浄した。洗浄は、固形物に対し約60倍量の80℃に加熱したイオン交換水に混合した後、これを1時間撹拌した後、吸引ろ過により固形分を分離した。前記洗浄操作を6回繰り返した固形物を、110℃の空気雰囲気下で一晩乾燥した後、350℃で5時間、空気雰囲気下で焼成した。得られた固形物を破砕して、0.7〜1.4mmに分級することにより、タンタル酸からなる触媒1を得た。熱重量分析装置(TG)により、得られたタンタル酸を700℃まで加熱し、その重量減少から水分量を算出した結果、1.0質量%であった。また、BET比表面積は89.2m/gであった。
【0047】
酸強度および酸量は以下の手順で求めた。調製した触媒を100〜180メッシュに分級した後、窒素流通下315℃で4時間乾燥させた後、すばやく密閉容器に移しこれをデシケーターに入れ室温まで冷却した。ドライボックス中、冷却サンプル100mgを密閉容器に移し、これに2.0mlの石油エーテルを加えた。これに、石油エーテル溶媒に溶解した0.1mol/Lのn−ブチルアミン溶液を素早く適当量加え密栓した。サンプルは超音波振動機で30分間振動させた。加えた0.1mol/Lのn−ブチルアミン溶液量の異なるサンプルを複数個準備した。これにトルエン溶媒に溶解させた0.1wt%のハメット指示薬を数滴滴下させて約一日放置、サンプルの呈色から酸強度と酸量を求めたところ、−8.2<H≦−3.0の酸強度での酸量は、0.05mmol/gであり、−3.0<H≦+6.8の酸強度での酸量は、0.25mmol/gであった。
【0048】
(実験例1)
36.2質量%のグリセリン水溶液を気化させたガスを調製した。0.63mlの上記触媒1をステンレス製反応管に充填し、この反応器を315℃の電気炉中に置いて、上記反応原料ガスを反応器に流通させた。この時のGHSVは4000hr−1である。
【0049】
反応器内に反応器入口ガスを流通させてから0〜10時間まで、1時間毎に流出ガスを冷却捕集(以下、「捕集した流出ガスの冷却液化物」を「流出物」と称する)し、ガスクロマトグラフィ(GC)により、流出物の同定および定量分析を行った。GCによる定性分析の結果、グリセリン、アクロレインとともに1−ヒドロキシアセトン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等の副生成物が検出された。また、定量分析結果から、グリセリン転化率、アクロレイン選択率、1−ヒドロキシアセトン選択率、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、酢酸およびアリルアルコールの各選択率を算出した。
【0050】
ここで、グリセリン転化率は、(1−(捕集流出物中のグリセリンのモル数)/(60分間で反応器に流入させたグリセリンのモル数))×100、で算出される値である。また、アクロレイン選択率は、((アクロレインのモル数)/(60分間に反応器に流入させたグリセリンのモル数))×100/グリセリン転化率×100、で算出される値であり、1−ヒドロキシアセトン選択率は、((1−ヒドロキシアセトンのモル数)/(60分間に反応器に流入させたグリセリンのモル数))×100/グリセリン転化率×100で算出される値である。アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、酢酸およびアリルアルコールの各選択率も同様に算出した。
【0051】
(比較実験例1)
触媒として市販の酸化タンタルであるTa(99.9%、和光純薬(株)製)を使用した以外は実施例1と同様の反応を行った。0.63mlのTaを実験例1に示したステンレス製反応管に充填した後、これを315℃の電気炉内に置き、60分間窒素を流通させた後反応に供した。同様に315℃で熱処理したTaを熱重量分析装置(TG)により、700℃まで加熱し、その重量減少から水分量を算出した結果、0.01質量%であった。BET比表面積は2.9m/gであった。
また、酸強度および酸量を触媒調製例1で示した方法と同じ方法で求めた。−8.2<H≦−3.0の酸強度での酸量は、0mmol/gであり、−3.0<H≦+6.8の酸強度での酸量は、0.007mmol/gであった。
【0052】
実験例1および比較実験例1の反応結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
タンタル酸を含まない酸化タンタルを用いた上記比較実験例1は、グリセリンの転化率、アクロレインの選択率共に、実験例1のタンタル酸に対して大きく低いことが分かる。
【0055】
(触媒調製例2〜6)
焼成温度を変えた以外は、触媒調製例1と同様にしてタンタル酸からなる触媒を調製した。結果を表2に示す
【0056】
【表2】

【0057】
(実験例2〜6)
触媒2〜6を用いて、実験例1と同様の反応を実施した。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、グリセリンの脱水反応において、高い選択率でアクロレインを製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンの気相脱水反応によるアクロレインの製造方法に用いられる触媒であって、タンタル酸を含むグリセリン気相脱水用触媒。
【請求項2】
前記タンタル酸に含まれる水分が、0.1質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のグリセリン気相脱水用触媒。
【請求項3】
前記タンタル酸の酸量分布が、−8.2<H≦−3.0のハメットの酸強度Hで表される範囲の酸量を滴定法で測定した場合に、0.001mmol/g以上であることを
特徴とする請求項1または2に記載のグリセリン気相脱水用触媒。
【請求項4】
前記タンタル酸を含む触媒が、タンタルの水酸化物を50〜600℃で焼成することで得られることを特徴とする請求項1から3に記載のグリセリン気相脱水用触媒。
【請求項5】
触媒の共存下においてグリセリンを脱水させてアクロレインを製造する方法であって、該触媒が請求項1から4のいずれかに記載のグリセリン気相脱水用触媒であることを特徴とするアクロレインの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載のアクロレインの製造方法であって、脱水反応生成物中のグリセリンの少なくとも一部を回収して、原料として用いることを特徴とするアクロレインの製造方法。

【公開番号】特開2010−155183(P2010−155183A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333630(P2008−333630)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】