説明

アシルウレア変性ポリイソシアネート組成物の製造方法

【課題】 金属塩等の触媒を一切用いないで、着色がほとんど無く、かつ低粘度であるアロファネート変性ポリイソシアネートと同程度の性能を有するアシルウレア変性ポリイソシアネートを得る。
【解決手段】 モノカルボン酸からなるカルボキシル基含有化合物(A)、および脂肪族または、脂環式ジイソシアネートである有機ジイソシアネート(B)から、金属塩等の触媒を一切用いずに、短時間でアシルウレア変性ポリイソシアネート組成物を製造する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシルウレア変性ポリイソシアネート組成物の製造方法に関するものである。更に詳細には、金属塩等のアシルウレア化触媒を一切使用せずに、実質的にウレタン基、ウレトジオン基、及びイソシアヌレート基をほとんど含有せず、また、透明外観を有するアシルウレア変性ポリイソシアネート組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アシルウレア変性ポリイソシアネートの製造方法は、従来より種々知られている。例えば、非特許文献1、非特許文献2には、イソシアネートとカルボン酸との直接反応により、またはカルボジイミド中間体を経由して、アシルウレア基含有イソシアネート重付加生成物を合成することが記されている。
【0003】
特許文献1には、カルボン酸基含有ポリアルキレンオキシドポリエーテルの反応生成物であり、アシル化ウレア基またはアミド結合を形成するイソシアネート基とカルボン酸基との反応によりポリアルキレンオキシドポリエーテルをラッカーポリイソシアネートと結合した水分散性ポリイソシアネート混合物に関して記されている。
しかしながら、特許文献1の方法では、アシル化ウレア基含有イソシアネートからのポリアルキレンオキシドポリエーテルをウレトジオン基、イソシアヌレート基、アロファネート基等のイソシアネート変性体の混合したポリイソシアネートから得られる水分散性ポリイソシアネート混合物に関するものであり、アシルウレア変性ポリイソシアネート組成物の製造方法に関しては、ほとんど記載されていない。
【0004】
特許文献2には、金属塩触媒の存在下に、イソシアネートとカルボン酸を反応させ、ポリイソシアネートのような無色の非発泡生成物を得る、アシルウレア基含有ポリイソシアネートの製造方法に関して記されている。
しかしながら特許文献2は、脂肪族・芳香族カルボン酸とポリイソシアネートとの反応であり、反応時間がかなり長くなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Liebigs Ann. Chem., 1976年, Vol.3, Page 487−495
【非特許文献2】Recl. Trav. Chim. Pay−Bas, 1992年,111, Page 89−91
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−233930号公報
【特許文献2】特開2003−002873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、金属塩等のアシルウレア化触媒を一切使用せずに、アシルウレア変性ポリイソシアネート組成物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、特定のモノカルボン酸と有機ジイソシアネートを反応させることにより、前記課題を解決することを見いだし、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、以下の(1)〜(3)に示されるものである。
【0009】
(1)カルボキシル基含有化合物(A)、および有機ジイソシアネート(B)から、金属塩等の触媒を使用せずに、アシルウレア変性ポリイソシアネート組成物を製造する方法。
【0010】
(2)有機ジイソシアネート(B)が、脂肪族または、脂環式ジイソシアネートであることを特徴とする前記(1)のアシルウレア変性ポリイソシアネート組成物を製造する方法。
【0011】
(3)カルボキシル基含有化合物(A)が、モノカルボン酸であることを特徴とする前記(1)のアシルウレア変性ポリイソシアネート組成物を製造する方法。
【発明の効果】
【0012】
従来、比較的容易に製造でき、着色がほとんどなく、低粘度であるというアロファネート変性ポリイソシアネート組成物は、塗料や接着剤等の用途に広く使われてきた。
本発明は、アロファネート変性ポリイソシアネート組成物と同等の優れた性能を有するアシルウレア変性ポリイソシアネート組成物の製造方法である。
本発明によって得られたアシルウレア変性ポリイソシアネート組成物は、塗料、接着剤、各種結合剤、印刷インキ、磁気記録媒体、コーティング剤、シーリング剤、エラストマー、封止剤、合成皮革、各種フォーム、土木関係の発泡充填材等、広い範囲に適用できる。
【0013】
本発明は、アシルウレア変性ポリイソシアネート組成物を製造する時の反応温度が低く、しかも金属塩等の触媒を一切使わないのにもかかわらず、反応時間が極めて短かく、無色で透明に近い、アシルウレア変性ポリイソシアネート組成物が得られる。
また、触媒を使わないという事は、後の停止剤(触媒毒)を入れる操作も無くなり、時間的にも費用的にも極めて効果が大きい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に用いられる原料について説明する。
本発明に用いられるカルボキシル基含有化合物(A)としては、モノカルボン酸が挙げられる。
開鎖または環状のモノカルボン酸が好適であり、なかでも酢酸、2−エチルヘキサン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、蟻酸がより好ましい。
この中で、反応時間と得られる組成物の色数からみて、蟻酸がさらに好ましい。
【0015】
本発明に用いられる有機ジイソシアネート(B)としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2′−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート、2−ニトロジフェニル−4,4′−ジイソシアネート、2,2′−ジフェニルプロパン−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメチルジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、4,4′−ジフェニルプロパンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ナフチレン−1,4−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、3,3′−ジメトキシジフェニル−4,4′−ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、2−メチル−ペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチル−ペンタン−1,5−ジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリオキシエチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;キシリレン−1,4−ジイソシアネート、キシリレン−1,3−ジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が挙げられる。これらの有機ジイソシアネートは、単独あるいは2種以上の混合物のいずれの形態で用いてもよい。本発明では得られるアシルウレア変性ポリイソシアネートの耐候性等の点を考慮すると、脂肪族、芳香脂肪族、脂環族から選ばれる無黄変ジイソシアネートが好ましく、特にヘキサメチレンジイソシアネートが最適である。
【0016】
次に具体的な製造手順について説明する。
本発明の方法においては、まず有機ジイソシアネート(B)を、カルボキシル基含有化合物(A)と反応させる。
有機ジイソシアネート成分は一般に過剰で存在する。有機ジイソシアネートとカルボキシル基含有化合物との比率は、950/50〜550/450が好ましい。
カルボキシル基含有化合物の量が50未満だとアシルウレア変性ポリイソシアネート組成物の収率が悪くなり、カルボキシル基含有化合物の量が450を超えると酸分が多くなりアシルウレア変性ポリイソシアネート組成物が製造できなくなる。
溶媒を導入して、カルボキシル基含有化合物の溶解度を増加させることもできる。
イソシアネートとカルボキシル基含有化合物との反応は、二酸化炭素の発生を伴ない、アミドが生成される。
このアミドと有機ジイソシアネート(B)が反応し、N−アシルウレア体が生成される。
【0017】
カルボキシル基含有化合物は、好適な溶媒に溶解した後に導入しても良い。
n−ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素系有機溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素系有機溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系有機溶剤、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネート等のグリコールエーテルエステル系有機溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系有機溶剤、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、臭化メチル、ヨウ化メチレン、ジクロロエタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素系有機溶剤、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホニルアミド等の極性非プロトン溶剤等が挙げられる。前記溶剤は1種又は2種以上使用することができる。
使用される溶媒量は、カルボキシル基含有化合物の溶解度に応じて調節される。本発明の方法の好ましい実施態様においては、カルボキシル基含有化合物を溶媒に溶解して、10〜80重量%溶液、好ましくは20〜40重量%溶液を形成する。
カルボキシル基含有化合物は、室温かまたは最大150℃の高温で反応溶液に添加できる。温度範囲は好ましくは0℃〜100℃、より好ましくは20℃〜70℃である。
【0018】
反応を行った後、使用した溶媒に依存して加熱によるかまたは付加的真空を適用することによって、溶媒を反応バッチから除去することができる。
【0019】
本発明の方法の実施において、カルボキシル基含有化合物の有機ジイソシアネートへの添加またはその逆の添加の後、ガスの発生が止むまで反応混合物を撹拌する。次に、反応混合物をより高い温度に加熱する。反応温度の選択は一般に限定されないが、過度の高温においては、有機ジイソシアネートの黄変が観察される。好適な温度は20℃〜220℃、好ましくは60℃〜130℃、より好ましくは100℃〜120℃である。
【0020】
本発明の方法によって生成される副生成物の量は、特に、カルボキシル基含有化合物の溶解に使用される溶媒の量および種類に依存する。
【0021】
反応時間は、反応温度により異なるが、通常4時間以内、好ましくは1〜3時間で充分である。
【0022】
本発明では、基本的にはアシルウレア化反応後の生成物には、遊離のイソシアネートが存在することになる。この遊離のイソシアネートは、臭気や経時での濁りの原因となるので、遊離のイソシアネート含有量が1質量%以下となるまで未反応のイソシアネートを除去することが好ましい。
【0023】
遊離のイソシアネートを除去する方法としては、蒸留、再沈、抽出等公知の方法が挙げられ、蒸留特に薄膜蒸留が溶剤等を用いることなくできるので好ましい。また、好ましい薄膜蒸留の条件としては、圧力:0.1kPa以下、温度:100〜200℃であり、特に好ましい条件は圧力:0.05kPa以下、温度:120〜180℃である。
【0024】
本発明によって得られるアシルウレア変性ポリイソシアネート組成物の好ましい粘度(25℃、固形分=100%換算)は1000mPa・s以下であり、特に好ましくは500mPa・s以下である。また、イソシアネート含量(固形分=100%換算)は10〜20質量%が好ましく、特に好ましくは12〜18質量%である。
【0025】
本発明によって得られたアシルウレア変性ポリイソシアネート組成物に、必要に応じて、例えば2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等の酸化防止剤や、紫外線吸収剤、顔料、染料、溶剤、難燃剤、加水分解防止剤、潤滑剤、可塑剤、充填剤、貯蔵安定剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【実施例】
【0026】
本発明について、実施例、比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例において「%」は「質量%」を意味する。
【0027】
実施例1
380gのヘキサメチレンジイソシアネートを、1Lの3口フラスコに入れた。次に20gの蟻酸を、15分かけて添加した。添加の間の温度は70℃であった。
添加の終了時に、混合物を110℃に加熱した。加熱を2時間継続した。次に、混合物を冷却した。
溶液のNCO分は39.9%であった
反応溶液を、薄膜蒸留(温度130℃、圧力1.5x10−2bar)に付した。30[APHA]の色数および490mPas/25℃の粘度を有する生成物132g(収率33.0%、酸およびイソシアネートに基づく)を得た。ヘキサメチレンジイソシアネートモノマーの量は約0.1%であった。
【0028】
比較例1
348gのヘキサメチレンジイソシアネート、120mgの安息香酸亜鉛を、1Lの3口フラスコに入れた。温度を70℃に保ち、52gのオクタン酸をこの混合物に添加した。添加の終了時に、温度を130℃に調節し、加熱を5時間継続した。
次に、リン酸2−エチルヘキシルエステル(城北化学工業株式会社製、商品名「JP−508」)を180mg加え反応を停止して、混合物を冷却した。溶液のNCO分は35.3%であった。
反応溶液を、薄膜蒸留(温度130℃、圧力1.5x10−2bar)に付した。150[APHA]の色数および1220mPas/25℃の粘度を有する生成物147g(収率36.7%、酸およびイソシアネートに基づく)を得た。ヘキサメチレンジイソシアネートモノマーの量は約0.1%であった。
【0029】
【表1】


HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製)
JP−508:リン酸2−エチルヘキシルエステル(城北化学工業株式会社製)
【0030】
表1から分かるように、金属塩触媒である安息香酸亜鉛をアシルウレア化触媒として用いた場合は、粘度が実施例の倍程度に増え、取扱い難くなる。
また、反応時間も触媒を添加していない実施例の方が比較例よりも短時間で済み、反応温度も低い。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有化合物(A)、および有機ジイソシアネート(B)から、金属塩等の触媒を使用せずに、アシルウレア変性ポリイソシアネート組成物を製造する方法。
【請求項2】
有機ジイソシアネート(B)が、脂肪族または、脂環式ジイソシアネートであることを特徴とする請求項1記載のアシルウレア変性ポリイソシアネート組成物を製造する方法。
【請求項3】
カルボキシル基含有化合物(A)が、モノカルボン酸であることを特徴とする請求項1記載のアシルウレア変性ポリイソシアネート組成物を製造する方法。



【公開番号】特開2011−136912(P2011−136912A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295952(P2009−295952)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】