説明

アシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物

【課題】 アシル化されたシクロデキストリンを含有するポリエステル系重合体と熱可塑性樹脂からなる組成物、該組成物からなる透明なコーティング材料及びフィルム材料を提供する。
【解決手段】 アシル化されたシクロデキストリンを含有するポリエステル系重合体と熱可塑性樹脂からなる組成物。本発明の組成物は、フィルムやコーティングとして成形した場合には、特に透明性などの光学物性に優れる。また、アシル化されたシクロデキストリンを含有するポリエステル系重合体は熱可塑性樹脂との相溶性が良好なため、該成形体は機械強度にも優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシル化されたシクロデキストリンを含有するポリエステル系重合体と熱可塑性樹脂からなる、アシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロデキストリンは分子内に疎水性の空隙を有するため、種々の疎水性のゲスト分子(例えば、香料、薬品、殺虫剤など)を包接し、複合体を形成する。シクロデキストリンによる包接化により、不安定物質が安定化したり、揮発性物質が保持されるため、様々な用途で利用されている。
このようなシクロデキストリンをポリマーに結合させる試みがある。例えば、特許文献1にはポリカプロラクトンなどの生分解可能なポリマーの末端にシクロデキストリンを結合させた材料を医薬組成物や診断組成物へ適用する試みが記載されている。
【0003】
特許文献2にはポリヒドロキシアルカノエートの末端にシクロデキストリンを結合させた材料が記載されている。このようなシクロデキストリン含有ポリマーを熱可塑性樹脂との組成物として使用する場合、シクロデキストリン含有ポリマーのシクロデキストリン部分と熱可塑性樹脂の相溶性が悪いことがあり、透明な成形体を得るのは難しかった。
【特許文献1】特表2005−503476号公報
【特許文献2】米国特許5191016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来技術の実情と問題点に鑑みて、本発明の目的は、アシル化されたシクロデキストリンを含有するポリエステル系重合体と熱可塑性樹脂からなる組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、アシル化されたシクロデキストリンを含有するポリエステル系重合体と熱可塑性樹脂からなる組成物を、フィルムやコーティングなどの成形体とした場合に、透明性や機械物性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本願発明は、(a)アシル化されたシクロデキストリンを含有するポリエステル系重合体99〜0.1重量%、(b)熱可塑性樹脂1〜99.9重量%、からなることを特徴とするアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物(請求項1)。
【0007】
成分(a)が、アシル化されたシクロデキストリンがポリエステル系重合体の末端に結合していることを特徴とする、請求項1に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物(請求項2)。
【0008】
成分(a)の有するアシル基が、アセチル基である請求項1または2のいずれかに記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物(請求項3)。
【0009】
成分(a)のシクロデキストリンが、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、あるいはこれらの混合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物(請求項4)。
【0010】
成分(a)のポリエステル系重合体が、ポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)、これらの各成分の共重合体、あるいはこれらの混合物である請求項1〜4のいずれか1項に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物(請求項5)。
【0011】
成分(a)のポリエステル系重合体が、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリ乳酸繰り返し単位とポリグリコール酸繰り返し単位からなるポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)繰り返し単位とポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)繰り返し単位からなるポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−コ−(3−ヒドロキシヘキサノエート)]、あるいはこれらの混合物である請求項5に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物(請求項6)。
【0012】
成分(b)が、ポリカーボネート、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ乳酸、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物(請求項7)。
【0013】
成分(a)のポリエステル系重合体がポリカプロトンであり、成分(b)が、ポリカーボネート、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリ(メタクリル酸メチル)より選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物(請求項8)。
【0014】
成分(a)のポリエステル系重合体がポリ乳酸であり、成分(b)がポリ乳酸、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(メタクリル酸メチル)から選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物(請求項9)。
【0015】
請求項1〜9に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物からなる透明なフィルム材料(請求項10)。
【0016】
請求項1〜9に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物からなる透明なコーティング材料(請求項11)。である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のアシル化されたシクロデキストリンを含有するポリエステル系重合体と熱可塑性樹脂からなる組成物を、フィルムやコーティングなどの成形体とした場合に、これらの成形体は透明性や機械物性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物は、(a)、(b)成分あわせて100重量%中、(a)アシル化されたシクロデキストリン含有ポリエステル系重合体99〜0.1重量%、(b)熱可塑性樹脂1〜99.9重量%、からなることを特徴とする。成分(a)と成分(b)の比率は上記範囲内であれば良く、得られる組成物の強度や各種物性、あるいはシクロデキストリン含有量などの観点から最適な組成比を選択できるが、好ましい範囲をあえて言及すれば、成分(a)が90〜0.2重量%、さらには80〜0.5重量%、特には60〜1重量%、成分(b)が10〜99.8重量%、さらには20〜99.5重量%、特には40〜99重量%、を挙げることができる。また特にはフィルム材料又はコーティング材料の強度の面で(a)50〜2重量%、(b)50〜98重量%、特には(a)35重量〜3重量%、(b)65〜97重量%、が好ましい。
【0019】
本発明の成分(a)は、シクロデキストリン部分に存在する水酸基の少なくとも一つ以上がアシル化されている。全ての水酸基のうち、アシル化されている水酸基の割合は特に制限はないが、水酸基の50%以上がアシル化されているのが好ましく、より好ましくは70%以上である。ポリエステル系重合体部分に水酸基が存在する場合には、これらの水酸基はアシル化されていても、されていなくても構わない。
【0020】
本研究の成分(a)の有するアシル基は、特に制限はないが、例えば、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ならびにそれらに対応する分岐鎖が挙げられる。また、アクリロイル基等の不飽和アシル基でも構わない。しかし、安定性やコストの観点から、アセチル基、プロパノイル基が好ましく、より好ましくはアセチル基である。
【0021】
本発明の成分(a)のアシル化されたシクロデキストリンが結合したポリエステル系重合体としては、ポリエステル系重合体の重合単位中にアシル化されたシクロデキストリンが複数個共重合したもの、あるいはアシル化されたシクロデキストリンがポリエステル系重合体の末端に結合したものでありうる。アシル化されたシクロデキストリンがポリエステル系重合体の末端に結合したものは、製造の容易さや物性バランス等の観点から好ましい。
【0022】
本発明の成分(a)のアシル化されたシクロデキストリンが末端に結合したポリエステル系重合体、の「末端に結合した」とは、アシル化されたシクロデキストリンの水酸基あるいは置換基とポリエステル系重合体の重合端が直接あるいは各種スペーサーを介して化学的に結合していることを意味している。本発明の成分(a)としては、直鎖状ポリエステル系重合体の片末端にアシル化されたシクロデキストリンが結合したもの又は両末端に結合したもの、分岐状ポリエステル系重合体のいくつかの末端にアシル化されたシクロデキストリンが結合したもの、あるいは1つのアシル化されたシクロデキストリンに複数のポリエステル系重合体末端が結合したものなど、を含む。
【0023】
本発明の成分(a)のアシル化されたシクロデキストリン部分の基本骨格としては特に限定されない。例えば、グルコース単位が6〜8のα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン骨格が挙げられる。また、グルコース単位が5以下又は9以上のシクロデキストリン骨格でも構わない。これらの中でもコストなどの観点から、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン骨格またはこれらの混合物が好ましく、より好ましくはβ−シクロデキストリン骨格である。
【0024】
また、本成分(a)のアシル化されたシクロデキストリン部分にはアシル基以外の置換基が存在してもよい。例えば、水酸基の他、直鎖又は分岐のアルキル基、直鎖又は分岐のアルケニル基、直鎖又は分岐のヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアリール基、グリコシル基、マルトシル基、イミダゾリル基などが挙げられる。これらの置換基は一種以上が混在していても構わない。
本発明の成分(a)のポリエステル系重合体としては特に限定されるものではないが、製造の容易さ等の観点から脂肪族ポリエステルが好ましい。
【0025】
脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリプロピオラクトン、ポリブチロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリカプロラクトンなどのポリラクトン類;ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)などのポリ(ヒドロキシアルカノエート)類;ポリ乳酸;ポリグリコール酸;ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートなどの脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする脂肪族ポリエステル類などが挙げられ、これらの各成分を共重合したものでも良い。
【0026】
これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、ポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)、これらの各成分の共重合体、あるいはこれらの混合物であることが好ましい。さらに好ましくは、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリ乳酸繰り返し単位とポリグリコール酸繰り返し単位からなるポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)繰り返し単位とポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)繰り返し単位からなるポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−コ−(3−ヒドロキシヘキサノエート)]、あるいはこれらの混合物である。
【0027】
本発明の成分(a)の製造方法としては、特に制限はなく、製造の容易さ、コスト、得られるシクロデキストリン含有ポリエステル系重合体の構造、などの観点から適宜選択されるものである。例えば、シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体を製造した後、アシル化剤と反応させる方法によってアシル化されたシクロデキストリンが結合したポリエステル系重合体を得ることができる。また、少なくとも一つ以上のアシル基を有するシクロデキストリン誘導体をポリエステル系重合体と反応させることによっても得ることができる。
【0028】
シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体は様々な製造方法により得られるが、水酸基の一部が脱プロトン化されているシクロデキストリンまたはその誘導体をポリエステル系重合体に反応させることを特徴とする製造方法を用いると製造の容易さ、コストなどの観点から好ましい。あるいは、シクロデキストリンまたはその誘導体を開始点として環状エステル化合物(例えば、ラクトン類、ラクチドなど)を重合させる方法を用いることもできる。
【0029】
シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体をアシル化するために使用されるアシル化剤としては特に限定はされず、通常のアシル化剤を使用することができる。コストなどの観点から酢酸やプロピオン酸、無水酢酸や無水プロピオン酸を使用するのが好ましく、より好ましくは無水酢酸である。
【0030】
本発明のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物の成分(b)としては、熱可塑性樹脂であること以外特に限定はないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリシクロオレフィンなどのポリオレフィン系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン系共重合樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレンなどの塩素系樹脂;ポリメチルメタクリレート、ポリブチルアクリレートなどのポリ(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−メチルメタクリレート共重合体などのスチレン系樹脂;スチレン系熱可塑性エラストマー類;ポリウレタン類;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの芳香族ポリエステル類;ポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)、これらの各成分の共重合体などの脂肪族ポリエステル;ポリアミド類;ポリカーボネート;ポリアセタール;ポリフェニレンエーテル;ポリサルホン;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルケトン類;液晶性ポリマー;熱可塑性ポリイミド;ポリシロキサン系ポリマー類;フッ素含有重合体類;セルロース類、デンプン類、キチン、キトサンなどの多糖類に熱可塑性を付与したもの;ポリフェノール類;などを挙げることができ、これらの各成分を共重合体したものでも良い。
【0031】
これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、特に、ポリカーボネート、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ乳酸、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)から選ばれる少なくとも一種以上を使用した場合に、組成物から得られる成形体の透明性が優れており、好ましい。
【0032】
また、本発明のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物は、成分(a)のポリエステル系重合体としてポリラクトン類(例えば、ポリブチロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリカプロラクトンなど)を使用し、成分(b)にポリカーボネート、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリ(メタクリル酸メチル)から選ばれる少なくとも1種以上を使用したときに、本発明の効果が顕著に発揮され、成形体は透明性などの物性に優れる。
【0033】
本発明のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物は、成分(a)のポリエステル系重合体としてポリ乳酸を使用し、成分(b)にポリ乳酸、ポリ(乳酸−グリコール酸)、ポリ(メタクリル酸メチル)から選ばれる少なくとも1種以上を使用したときに、本発明の効果が顕著に発揮され、成形体は透明性などの物性に優れる。成分(a)のアシル化されたシクロデキストリン含有ポリ乳酸の乳酸単位中には、グリコール酸単位が含まれていても構わない。
【0034】
本発明のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物を製造する方法としては、特に限定はなく、両成分が混合できる通常の方法を用いればよい。例えば、アシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体と熱可塑性樹脂とをロール、プレス、押出機、ミル、ブラベンダー、バンバリーミキサー、撹拌機などを用いて混合する方法、両成分を溶媒などに溶解して混合する方法、などを例示することができる。
【0035】
本発明のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物は、透明なコーティングやフィルム材料として好適に使用することができる。
本発明のフィルムやコーティングにおける透明性の指標としては、ヘイズ値(濁度)を使用した。ヘイズ値はフィルムやコーティングの厚み、温度等によって変化するが、厚さが30μm以上の成形体の25℃でのヘイズ値が10%未満であることが好ましく、より好ましくは5%未満である。
【0036】
本発明のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物からなるフィルム材料の製造方法は特に限定はされず、公知の方法により得ることができる。例えば、溶媒などに溶解してキャストする方法、スピンコートする方法、熱プレスあるいはロールによる方法、溶融押出法、インフレーション法、などを挙げることができる。これによって得られたフィルムの膜厚は特に限定されるものではないが、好ましくは1μm〜2000μm、更に好ましくは10μm〜500μmである。
【0037】
本発明のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物はコーティング材料としても好適に使用することができる。コーティング材料によりコートされる基材としては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、または金属、ガラス、セラミックス、これらの複合体からなる成形体などが挙げられるが、コーティングの際の温度や圧力によって悪影響を受けないような基材が特に好ましい。溶剤を用いてコーティングを行う場合には、溶剤によって悪影響を受けないような基材が好ましい。
【0038】
コーティング材料をコートする方法は特に限定されるものではなく、バーコート、ダイコート、カーテンフローコート、ロールコート、グラビアコート、マルチコート、コンマコート、スプレーコート、スピンコート、ディップコート、刷毛塗り等の通常のコーティング方法を用いることができる。これによって得られたコーティング被膜の膜厚は特に限定されるものではないが、好ましくは0.1μm〜2000μm、更に好ましくは0.5μm〜200μmである。
【0039】
本発明のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物は、他の有機材料や無機材料とともに用いることができる。上記他の有機材料又は無機材料としては、例えば、各種熱硬化性樹脂、可塑剤、滑剤、核剤、難燃剤、薬効作用を有する薬剤、光学機能を有する有機又は無機化合物、染料、顔料、金属や半導体微粒子、有機又は無機フィラー、充填剤、安定剤、発泡剤、発泡助剤、無機塩等を挙げることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例で更に詳しく説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0041】
(合成例1)
ガラス製容器にβ−シクロデキストリン2.0g(1.8mmol)、水酸化リチウム41mg(1.7mmol)を入れ、ジメチルホルムアミド60mLを加えて、100℃で60分加熱した。この溶液を、ポリカプロラクトン(Aldrich社製、数平均分子量(ポリスチレン換算)Mn138,000)8gを含むジメチルホルムアミド溶液60mLに加えて、100℃で2時間加熱した。得られた溶液を室温まで放冷した後、少量の酢酸を添加し、反応溶液を水に投入して固体を析出させた。固体を濾過・乾燥させて、白色固体を得た。1H−NMRスペクトル測定を行い、シクロデキストリンが結合したポリカプロラクトン(CDPCL)の生成を確認した。またシクロデキストリン含有量は約24重量%であった。
【0042】
(合成例2)
ガラス製容器にβ−シクロデキストリン4.1g(3.6mmol)、水酸化リチウム85mg(3.6mmol)を入れ、ジメチルホルムアミド60mLを加えて、100℃で60分加熱した。この溶液を、ポリ乳酸(三井化学株式会社製レイシアH400)12gを含むジメチルホルムアミド溶液150mLに加え、25℃で1時間加熱した。得られた溶液に少量の酢酸を添加し、反応溶液を水に投入して固体を析出させた。固体を濾過・乾燥させて、白色固体を得た。1H−NMRスペクトル測定を行い、シクロデキストリンが結合したポリ乳酸(CDPLA)の生成を確認した。また、シクロデキストリン含有量は約25重量%であった。
【0043】
(合成例3)
上記合成例1で得たCDPCL2.1gをガラス製容器に入れ、ピリジン20mLに溶解させた。ここに無水酢酸4.0mLを加え、50℃に加熱した。8時間撹拌後、反応溶液を水に投入して固体を析出させた。析出した固体を濾過、乾燥させて白色固体を得た。1H−NMRスペクトル測定を行い、CDPCLの水酸基が全てアセチル化された、アセチル化シクロデキストリン含有ポリカプロラクトン(Ac−CDPCL)の生成を確認した。
【0044】
(合成例4)
上記合成例2で得たCDPLA2.0gをガラス製容器に入れ、ピリジン20mLに溶解させた。ここに無水酢酸4.0mLを加え、50℃に加熱した。8時間撹拌後、反応溶液を水に投入して固体を析出させた。析出した固体を濾過、乾燥させて白色固体を得た。1H−NMRスペクトル測定を行い、CDPLAの水酸基が全てアセチル化された、アセチル化シクロデキストリン含有ポリ乳酸(Ac−CDPLA)の生成を確認した。
【0045】
(実施例1〜4)
上記合成例3で得たAc−CDPCLと、ポリカーボネート(出光興産製、タフロンA2200)またはアクリロニトリル−スチレン共重合体(東洋スチレン製、AS−30NT)とを表1に示す重量組成で塩化メチレン中で混合し、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にバーコーターを用いて塗布した。塩化メチレンを十分に乾燥させた後、PETフィルムから引き剥がし、膜厚約40μmのキャストフィルムを作成した。これらのキャストフィルムのヘイズ値を濁度計(日本電色製、NDH300A)を用いて測定し、表1に示した。これらのフィルムは十分な強度を有していた。
【0046】
(実施例5〜8)
上記合成例4で得たAc−CDPLAと、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(Aldrich製、乳酸/グリコール酸比=85/15(mol%))(PLGA)またはポリ乳酸(三井化学製、レイシアH400)(PLA)とを、表2に示す重量組成で塩化メチレンまたはクロロホルム中で混合し、PETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。溶剤を十分に乾燥させた後、PETフィルムから引き剥がし、膜厚約40μmのキャストフィルムを作成した。これらのキャストフィルムのヘイズ値を濁度計を用いて測定し、表2に示した。これらのフィルムは十分な強度を有していた。
【0047】
(比較例1〜2)
上記合成例1で得たCDPCLと、ポリカーボネートまたはアクリロニトリル−スチレン共重合体とを表1に示す重量組成で塩化メチレン中で混合し、PETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。塩化メチレンを十分に乾燥させた後、PETフィルムから引き剥がし、膜厚約35μmのキャストフィルムを作成した。これらのキャストフィルムのヘイズ値を濁度計を用いて測定し、表1に示した。得られたキャストフィルムは白く濁っていた。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アシル化されたシクロデキストリンを含有するポリエステル系重合体99〜0.1重量%、(b)熱可塑性樹脂1〜99.9重量%、からなることを特徴とするアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物。
【請求項2】
成分(a)が、アシル化されたシクロデキストリンがポリエステル系重合体の末端に結合していることを特徴とする、請求項1に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物。
【請求項3】
成分(a)の有するアシル基が、アセチル基である請求項1または2のいずれかに記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物。
【請求項4】
成分(a)のシクロデキストリンが、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、あるいはこれらの混合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物。
【請求項5】
成分(a)のポリエステル系重合体が、ポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)、これらの各成分の共重合体、あるいはこれらの混合物である請求項1〜4のいずれか1項に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物。
【請求項6】
成分(a)のポリエステル系重合体が、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリ乳酸繰り返し単位とポリグリコール酸繰り返し単位からなるポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)繰り返し単位とポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)繰り返し単位からなるポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−コ−(3−ヒドロキシヘキサノエート)]、あるいはこれらの混合物である請求項5に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物。
【請求項7】
成分(b)が、ポリカーボネート、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ乳酸、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物。
【請求項8】
成分(a)のポリエステル系重合体がポリカプロトンであり、成分(b)が、ポリカーボネート、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリ(メタクリル酸メチル)より選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物。
【請求項9】
成分(a)のポリエステル系重合体がポリ乳酸であり、成分(b)がポリ乳酸、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(メタクリル酸メチル)から選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物。
【請求項10】
請求項1〜9に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物からなる透明なフィルム材料。
【請求項11】
請求項1〜9に記載のアシル化シクロデキストリン含有ポリエステル系重合体組成物からなる透明なコーティング材料。

【公開番号】特開2007−321082(P2007−321082A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154114(P2006−154114)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】