説明

アスベスト処理の床面養生材

【課題】 アスベスト処理における床面の養生材の破損を確実に防止できるアスベスト処理の床面養生材を提供する。
【解決手段】
従来の養生材であるポリシートは、床に使用すると破損する材料であり、近年の水を利用するアスベスト処理の床面養生材としては不適なものである。これに対し、日本工業規格に規定する防水材からなる床面養生材は、養生作業が容易であり、かつ、作業員の挙動等によって破損しない材料である。よって、日本工業規格に定める防水材からなる床面養生材は、近年のアスベスト処理の床面養生材としては最適な材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト処理における除去作業区域を隔離密封するアスベスト処理の床面養生材に関する。
【背景技術】
【0002】
昭和年代に建設された建築物では、部屋の天井、壁又は鉄骨等の耐火被覆材、保温材、吸音材、断熱材等としてアスベスト(石綿)が使用されていた。また、ボイラーなどに接続される筒状構造物の煙突のほとんどは、煙突内壁に結合材によって圧縮筒状に形成されるアスベスト含有のライニング材(煙突石綿断熱材)が設けられていた。
しかし、現在、アスベストを吸い込むと悪性中皮腫の原因となることが知られているため、アスベストは使用規制の方向にある。また、アスベストを使用する建築物については、建築物の解体又はアスベストの処理が行われている。
【0003】
建築物のアスベスト処理では、アスベスト除去等作業時に発じんしたアスベスト繊維が除去作業区域外へ拡散することを防止するため、除去作業区域を隔離密封する養生作業が行われる。現在、除去作業区域の養生に際しては、天井、壁の養生材には、厚さ0.08mm以上のポリエチレンシート又はプラスチックシート(以下「ポリシート」という。)が使用されている。床面の養生材には、厚さ0.15mmのポリエチレンシート又はプラスチックシートを2枚重ね敷きしたもの(すなわち厚さ0.3mmのポリシート)が使用されている。また、ポリシートの接合部は、布粘着テープで接着し、作業区域が隔離密封される(非特許文献1、2)。
アスベストを処理した後、汚染されたポリシートは、廃棄物処理法に定める処理に基づいて廃棄用袋に袋詰され廃棄される。すなわち、ポリシートによる養生は、作業中のみの一時的隔離密封養生である。
【非特許文献1】「改訂既存建築物の吹付けアスベスト粉じん飛散防止処理技術指針・同解説2006」、財団法人日本建築センター、平成18年11月20日、p.59−61
【非特許文献2】「改訂版建築物の解体等工事における石綿粉じんへのばく露防止マニュアル」、建築業労働災害防止協会企画開発課、平成20年3月26日、p.46−49
【0004】
また、ポリシートは、アスベスト処理作業中に床面のポリシート上に落下したアスベストに混じる砂ごみ等を踏みつけた場合や、工具の落下等により破損する場合がある。この場合、当該床面のポリシート破損部分(小さい穴)から作業区域外にアスベストの粉じんが漏洩するため、ポリシートで養生された作業区域(空間)を負圧にしアスベスト粉じんの外部への漏洩を防止する負圧除じん装置が設置されている。
【0005】
しかし、近年のアスベスト処理には、アスベスト繊維の飛散防止を強化するために湿潤用アスベスト飛散抑制剤(湿潤水を含む)を多量に使用するものがある。また、煙突内のアスベスト含有のライニング材を超高圧水を噴射して除去する工法もある(例えば、特開2008−149264号に開示される装置によるアスベスト処理)。上記水を多く使う近年のアスベスト処理では、多量のアスベスト繊維を含有する汚染水や超高圧水によって除去される劣化した煙突内壁のコンクリート破片が床面のポリシート上に落ちる場合がある。
アスベスト処理では、作業員は作業区域内の床面上で除去等作業する。その作業中に、作業員がアスベストに混じった砂ごみやコンクリート破片を踏みつけた場合、工具を落下させた場合などの作業員の挙動等により床面のポリシートを破損させることがあった。ポリシートが破損した場合、従来は、作業を中止し、布粘着テープで破損部分を接合(接着)してから作業を開始していた。また、ポリシートを2重、3重にして養生する手段もあるが、アスベストの漏洩を確実に防止できるものではなかった。
以上のように、水を多量に使用する近年のアスベスト処理では、ポリシートが破損すると、その破損部分から汚染水が作業区域外に流出し、作業区域外部を汚染するおそれがあるという問題が生じていた。汚染水の流出は、負圧除じん装置により回避できる問題ではなく、その解決手段が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するために、アスベスト処理における床面の養生材の破損を確実に防止できるアスベスト処理の床面養生材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、上記目的を実現するために種々の検討を行った結果、日本工業規格に定める防水材がアスベスト処理の床面養生材に適し、床面の養生材の破損を確実に防止することを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のアスベスト処理の床面養生材は、日本工業規格に定める防水材からなるようにしたものである。
また、前記防水材は、日本工業規格A6008、同A6021のいずれか一の材料からなるようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、日本工業規格に定める防水材をアスベスト処理の床面の養生材とするものである。本発明によると、アスベスト処理において除去処理作業をしても、養生材が破損することはない。これにより、床面養生材の破損による作業の中断も回避でき、作業効率も向上させることができる。また、近年の水を多量に使用するアスベスト処理に適し、従来のような養生材の破損部分からの汚染水の流出も防止することが可能となる。
本発明の防水材は、廃棄用袋に容易に切断折りたたみ袋詰することができ、廃棄処分が可能なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、アスベスト処理において作業区域の床面を確実に隔離密封養生することを実現するものである。
【実施例1】
【0011】
本発明の床面養生材は、日本工業規格(JIS)に定める防水材である。本発明に係る日本工業規格に定める防水材としては、合成高分子系ルーフィングシートJIS A 6008、建築用塗膜防水材 JIS A 6021が好ましい。より好ましい材料は、合成高分子系ルーフィングシートJIS A 6008である。
なお、上記防水材の接合部分の工法は、日本工業規格に定める工法で行うものとする。
【0012】
本発明に係る日本工業規格に定める防水材は、建築物の屋根に施工される防水材である。その材料は、均質な防水層を形成すること、優れた耐久性を有していること、下地の挙動に追従すること、施工工程が少ないこと等の特徴を有している。本発明によると、アスベスト処理において長時間作業しても、床面の養生材は破損することはない。当該効果は、上記防水材が持つ特徴によって得られるものと考えられる。上記防水材は下地の挙動に追従する特徴を有するが、これはその材料の伸び率が大きいことに起因するものである。このように、本発明に係る防水材は、下地の亀裂や動きに柔軟に対応できる性質を有するため、本発明の床面養生材の表面に作業員が砂ごみやコンクリート破片を踏みつけ、また、工具等の硬質かつ突起部分がある物体を落としても、破損が生じないものと考えられる。また、この効果を有する防水材は、前述の特開2008−149264号に開示される装置によるアスベスト処理において、煙突の頭部や脚部に設けられる仮設足場上での挙動や足場の歪みに柔軟に対応できるものである。
【0013】
本実施例では、アスベスト除去作業区域の床面の養生材として合成高分子系ルーフィングシートJIS A 6008を使用した。アスベスト処理における当該シートに関する作業手順1〜5に基づいて説明する。なお、本実施例のアスベスト処理は、煙突のアスベスト処理である。作業区域は煙突の脚部と頭部に設けられ、頭部には超高圧水を噴射するアスベスト除去装置を吊り上げるための仮設足場が設けられている。処理作業期間は7日間であった。
(作業手順1)床面養生
煙突脚部の作業区域の床面及び頭部の仮設足場の床面には、日本工業規格JIS A 6008(合成高分子系ルーフィングシート)の均質シート(加硫ゴム系)厚さ1.00mm以上のものを床面養生材として敷く。当該床面養生材の重ね幅は、公共建築物改修工事標準仕様書(平成19年度版)の「第3章防水改修工事」中の合成高分子系ルーフィングシートの重ね幅と同様、縦横ともに10cm以上として、施工を行う。なお、当該施工においては、養生材は床面に敷き(接着しない)、その接合部部分を防水仕様の両面粘着テープで接着して、作業区域の床を養生する。
(作業手順2)壁面等養生
作業区域の天井面・壁面・機器等は、0.08mm以上のポリシート1枚張りとする。
上記床面・壁面等の養生作業により、煙突脚部及び頭部の作業区域を隔離密封される。
(作業手順3)アスベスト汚染水処理
アスベスト処理により発生する汚染廃水やアスベスト汚泥は、吸引装置等で吸い上げ、作業区域内の床面養生材上に設置した貯留槽に貯める。
(作業手順4)養生材等の粉じん飛散防止処理
ポリシートの養生面(天井面、壁面)と床面養生材の養生面(床面)へ均一に粉じん飛散防止剤をエアレススプレイヤー(エアレス吹付装置)により吹き付ける。
(作業手順5)養生材等撤去
天井面,壁面,床面の順に養生撤去し、隔離養生区域を解除する。養生に使用されたポリシート及び床面養生材は、汚染表面が内側になるように折りたたみ、アスベスト廃棄用ポリ袋と透明ポリ袋で2重密封する(廃棄袋詰する)。
養生材撤去後、汚染水の流出の有無を確認した。アスベスト処理の作業において発生した汚染水の隔離区域外への流水は確認されなかった。
【0014】
(他の材料との対比)
本願の発明者は、煙突や建築物のアスベスト処理業者(石綿作業主任者)である。発明者は、作業区域の床面の養生材として考えられる材料を選択し、その材料の(a)施工、(b)破損、(c)重量、(d)廃棄、(e)総合評価(養生材としての適合性)を比較し、アスベスト処理の床面養生材としていずれの材料が最適であるかについて検討した。
以下、床面の養生が可能な材料について、上記(a)〜(d)の項目について比較例1〜5、本発明の実施例およびポリシートを対比して説明する。
表1は、比較例1〜5、本発明の実施例およびポリシートとの対比を表わすものである。
なお、本発明の防水材と対比するポリシートは、厚さ0.15mmのものを2枚重ねて敷いた厚さ0.3のシートである。厚さ0.3のポリシートは、製造上形成し難いものであり汎用資材として市場に供給されていないため、上記2枚敷きの厚さ0.3のシートを使用した。
【0015】
【表1】

(評価)
5:最良、4:優、3:良、2:可、1:不良
【0016】
比較例1:コンクリート(軽量コンクリートは除く)、厚さ50mm
(a)施工性:コンクリートの硬化に三週間程度を要し、養生作業に期間がかかり過ぎる。また、壁面等立ち上がりは型枠工事が必要であり、圧送ポンプなどの装備が必要である。
(b)破損:仮設足場上など挙動物上の施工では、割れ防止のための鉄筋等配筋が必要である。
(c)重量:非常に重い。
(d)廃棄:撤去解体は重作業であり、多量の廃棄物が発生する。
(e)評価:養生作業期間、重量、廃棄を総合判断して、養生材としては不適である。
【0017】
比較例2:鋼板、厚さ3mm
(a)施工性:現場施工において溶接作業が必要である。
(b)破損:破損の可能性は低い。
(c)重量:重い。
(d)廃棄:溶断による撤去において火気作業が必要となる。
(e)評価:溶接、溶断に火気を使うため、建築物の養生材としては好ましくなく不適である。
【0018】
比較例3:樹脂版、厚さ3mm
(a)施工性:現場施工において溶着作業が必要である。
(b)破損:伸びはほとんどなく、床下地が凹凸な箇所で割れが生じた。
(c)重量:重い。
(d)廃棄:のこ等の切断必要である。廃棄袋密封(袋詰)が難易であり、重量大の廃棄物が発生する。
(e)評価:割れるおそれがあり、養生材の破損を防止できないため、養生材としては不適である。
【0019】
比較例4:鋼線入ガラス板、厚さ10mm
(a)施工性:接合部等にはシーリング工事が必要となる。施工時の割れ等には十分な注意が必要となる。
(b)破損:硬くち密ではあるが、衝撃で割れる。また、割れ防止に、厚板、保護材等他の材料が必要となる。
(c)重量:重い。
(d)廃棄:廃棄時の重量が大となり、廃棄袋詰の際、袋が破れる。
(e)評価:敷設作業中にひび割れが発生し、養生材としては不適である。
【0020】
比較例5:テントシート、厚さ1mm
(a)施工性:ほぼ良好である。但し、接合部の接着は工場加工が必要となる。
(b)破損:伸びは少なく、破損のおそれがある。
(c)重量:軽い。
(d)廃棄:カッターナイフで切断が可能であり、廃棄袋詰が可能である。
(e)評価:破損のおそれがあり、養生材としては不適である。
【0021】
実施例:日本工業規格に定める防水材、厚さ1.0mm
(a)施工性:良好である。
(b)破損:前記合成高分子系ルーフィングシートJIS A 6008の実施例において、アスベスト処理において破損は発見されなかった。また、煙突頭部の仮設足場を養生した当該シートは、作業期間7日の間、仮設足場上における作業員の挙動のほか、風による仮設足場の歪みに柔軟に対応し、破損しなかった。
(c)重量:軽い。
(d)廃棄:カッターナイフで切断が可能であり、廃棄袋詰も容易である。
(e)評価:養生材の破損が発生しない材料であり、養生材としては最適である。
【0022】
ポリシート、厚さ0.3mm
(a)施工性:良好である。しかし、2重敷きのため、2工程となる。
(b)破損:作業区域内における作業員の挙動によりコンクリート破片などがポリシートに押圧され2枚重ねて敷いたシートはいずれも破損し、その破損部分から床面に汚染水が流出していた。
(c)重量:軽い。
(d)廃棄:カッターナイフで切断が可能であり、廃棄袋詰も容易である。
(e)評価:従来より養生材として認められている材料であり、壁面の養生材としては適していると考えられる。しかし、床面の養生材としては、アスベスト処理中に挙動等により破損しやすく、水を多量に利用するアスベスト処理には適さない。また、その破損防止のために幾重にも重ねて敷き(例えば厚さ約1.0mmのポリシートで)養生する場合は、施工性に欠ける。
【0023】
上記比較例1〜5、実施例およびポリシートの養生材の評価を表1に基づいて説明する。
比較例1〜5の材料は、施工(養生)に時間がかかるという欠点があり、実施例の材料(防水材)と比べると不適と判断できる。また、ポリシートも、破損を確実に防止するためにはシートを何枚も重ねて敷く必要があり、養生に時間がかかるという欠点がある。これに対し、実施例の材料は、養生作業が容易であり、かつ、破損しない材料である点で比較例1〜5およびポリシートより優れている。
以上のことから、日本工業規格に定める防水材は、アスベスト処理において破損を確実に防止する養生材としては最適と判断できる。
【0024】
本発明に係る日本工業規格に定める防水材のうち、合成高分子系ルーフィングシートJIS A 6008は、施工が極めて容易なものである。また、建築用塗膜防水材JIS A
6021は、合成高分子系ルーフィングシートJIS A 6008に比べ施工に時間がかかるという欠点を有するが、接合部がないため、養生材の破損・汚染水の流出をより確実に防止できる点で、優れている。
また、合成高分子系ルーフィングシートJIS A 6008の材料の中でも、均質シートのゴム系(加硫系ゴム、非加硫系ゴム)のシートが好ましい。当該ゴムシートは、伸びがよく、施工が容易であり、床面の動き(例えば、作業員の挙動や仮設足場の歪みなど)に対する追従性が優れているからである。
【0025】
以上のように、従来の養生材であるポリシートは、床に使用すると作業員の挙動等により破損するものであり、近年の水を多量に利用するアスベスト処理の床面養生材としては不適なものである。これに対し、日本工業規格に規定する防水材からなる本発明は、養生作業が容易であり、かつ、作業員の挙動等によっては破損しない床面養生材である。よって、本発明は、近年のアスベスト処理の床面養生材としては最適な養生材である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
日本工業規格に定める防水材からなることを特徴とするアスベスト処理の床面養生材。
【請求項2】
前記防水材は、日本工業規格A6008、同A6021のいずれか一の材料からなることを特徴とするアスベスト処理の床面養生材。