説明

アスベスト固化法

【課題】アスベスト層をケイ酸アルカリ水溶液で固化する際に、アスベスト層内の水分を能動的に吸収してアスベスト層を迅速かつ確実に固化させるようにすることを目的とする。
【解決手段】吹き付けアスベスト層1に、ケイ酸アルカリ水溶液3を塗布浸透させ、1日〜3日程度自然状態で乾燥させた後、その表面から珪藻土を含有する水分吸着剤4を塗布浸透させる。ケイ酸アルカリ水溶液3を塗布させる場合、比較的低圧で吹き付けを行い、珪藻土を含有する水分吸着剤4を塗布する場合は、比較的高圧で吹き付けを行う。そして、珪藻土によってケイ酸アルカリ水溶液3の水分を能動的に取り除き、乾燥によって生じた空洞5内に空気中のCO2を接触させてアスベスト層1を迅速に固化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存の建築物に吹き付けられたアスベストを固化させてアスベスト繊維の飛散を防止する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスベストは、優れた防火性・耐火性・吸音性などを持っていることは、従来より知られているが、アスベスト繊維の粉塵が中皮腫や肺ガンの原因となることから、人的対策・保証の新しい法律が制定され施行されようとしている。
【0003】
しかし、現状では、膨大な量のアスベストを使用した壁・天井・床・機械室・駐車場の天井・配管の被覆などに使われているものの対策はそのままで法的整備も未完全であり、吹き付けアスベスト層の経年変化による劣化・摩耗・破損により、アスベスト繊維の飛散が大きな社会問題となっている。
【0004】
これに対して、従来では、下記の特許文献1に示されるようなアスベスト固化法が提案されている。この特許文献1に記載されるアスベスト固化法は、吹き付けアスベスト層に、ケイ酸アルカリ水溶液を塗布浸透させ、次いで、多価金属化合物及び/又はアミノ酸を含有する酸化剤を塗布浸透固化させることによりアスベストを封じ込めるようにしたものである。
【0005】
また、下記の非特許文献1にも、同様に、アスベストを固化させる方法が記載されている。この文献によれば、アスベスト層にケイ酸塩を浸透させると、アスベスト層にある金属イオンと反応してアスベストを固化し、アスベスト繊維を分離しないことが記載されている。
【特許文献1】特開平3−5385号公報
【非特許文献1】「水ガラス 性質・製造と応用」コロナ社 ヘルマン・マイヤー著(1939年4月著)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記非特許文献1によれば、ケイ酸塩による反応は水溶液中では徐々にしか起こりえなく、水溶液の水分が蒸発することによって固化することが認められており、乾燥の進行とアスベスト・アルカリ金属との固化とがCOの介在で長期間にわたって徐々に行われることが指摘されている。
【0007】
一方、上記特開平3−5385号公報に記載されたアスベスト固化法は、アスベスト層にケイ酸アルカリ水溶液を塗布浸透させた後に、多価金属化合物を含有する硬化剤を塗布浸透させるものであるが、一般に多価金属化合物をケイ酸アルカリ水溶液を浸透させたアスベスト層に塗布すると、その表面からすぐに固まってしまい、内部に水分が封じ込められてしまうという問題がある。このため、内部の水分がそのままの状態で残ったり、また、結露水がそのままアスベスト層の内部に浸透するようなことになれば結合素子に働き、固化が非常に遅くなるという問題を生じる。
【0008】
そこで、本発明は上記課題に着目してなされたもので、アスベスト層をケイ酸アルカリ水溶液で固化する際に、アスベスト層内の水分を能動的に吸収し、アスベスト層を迅速かつ確実に固化させるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、吹き付けアスベスト層に対して、ケイ酸アルカリ水溶液を塗布浸透させる工程と、次いで、珪藻土を含有する水分吸着剤を塗布浸透させる工程とを備えるようにしたものである。
【0010】
このような方法によれば、ケイ酸アルカリ水溶液を塗布した後に珪藻土を含有する水分吸着剤を塗布するので、水分吸着剤の吸水効果によってアルカリ水溶液内の水分を能動的に取り除くことができるとともに、従来のようにその表面を密閉するように固化することがないので、その取り除いた水分を外部に放出することができるようになる。しかも、水分を放出した後、その空洞となった部分に空気中のCOを取り入れて接触させることができ、COの進入によって固化を促進させることができるようになる。
【0011】
また、このような発明において、好ましくは、ケイ酸アルカリ水溶液を塗布浸透させた後、そのケイ酸アルカリ水溶液を乾燥させ、次いで、珪藻土を含有する水分吸着剤を塗布浸透させる。
【0012】
このようにすれば、アスベスト層内の水分をより迅速に外部に放出することができ、固化を促進させることができる。しかも、すぐにケイ酸アルカリ水溶液を乾燥させるのではなく、自然放置によってケイ酸アルカリ水溶液を乾燥させるようにするので、毛細管現象によってアスベスト繊維に沿ってケイ酸アルカリ水溶液を奥深くまで浸透させることができ、より全体を固化させることができるようになる。
【0013】
さらに、このようなケイ酸アルカリ水溶液や水分吸着剤を塗布する場合、ケイ酸アルカリ水溶液を低圧で塗布するとともに、水分吸着剤を相対的に高圧で塗布する。
【0014】
このようにすれば、ケイ酸アルカリ水溶液を低圧で塗布することによってアスベスト繊維の飛散を防止することができるとともに、その後、高圧で水分吸着剤を塗布することによって内部に水分吸着剤を浸透させることができ、内部の乾燥をより迅速に行わせることができるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、吹き付けアスベスト層に対して、ケイ酸アルカリ水溶液を塗布浸透させ、次いで、珪藻土を含有する水分吸着剤を塗布浸透させることによってアスベスト層を固化させるようにしたので、珪藻土によってアルカリ水溶液内の水分を能動的に取り除くことができ、アスベスト層の固化を促進させることができる。しかも、その吸水した水分を外部に放出することができるため、その放出によって形成された空洞に外気のCOを接触させることができ、よりアスベスト層の固化を促進させることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について説明する。図1は、アスベスト層1の断面概略図を示したものであり、図2は、そのアスベスト層1にケイ酸アルカリ水溶液3を塗布浸透させた状態を示したものである。また、図3は、さらにその表面から珪藻土を含有した水分吸着剤4を塗布した状態を示したものであり、図4は、乾燥によって形成された固化アスベスト層1の断面概略図を示したものである。
【0017】
本実施の形態におけるアスベスト固化法は、既存建築物に吹き付けられたアスベスト層1に対して、表面からケイ酸アルカリ水溶液3を塗布浸透させ、次いで、その表面から珪藻土を含有する水分吸着剤4を塗布浸透させて固化させるようにしたものである。
【0018】
本発明に用いられるケイ酸アルカリ水溶液3としては、ケイ酸ナトリウム塩、ケイ酸リチウム塩、ケイ酸カリウム塩、ケイ酸アンモニウム塩などの塩が用いられる。これらのケイ酸アルカリ水溶液3としては、例えば、ケイ酸ナトリウムを約85重量%〜95重量%、ケイ酸リチウムとケイ酸カリウムを合計で約5重量%〜15重量%、その他のケイ酸塩などを数重量%含むようにする。一般に、ケイ酸ナトリウムは、粘性を有しているためにアスベスト層1に対して浸透性が悪いという欠点があるものの、1リットル当たり90円程度と非常に廉価で経済性に優れるという利点がある。一方、ケイ酸リチウムやケイ酸カリウムは、粘性が非常に低くアスベスト層1への浸透性が良いという利点があるものの、1リットル当たり700円〜800円と非常に高価であるという欠点がある。そこで、経済性と浸透性などを考慮して、本実施の形態では、ケイ酸ナトリウムを約90重量%、ケイ酸リチウムとケイ酸カリウムを合計で約10重量%、その他のケイ酸塩を数重量%の割合で配合するようにしている。なお、これらのケイ酸アルカリ塩の配合については、処理すべき吹き付けアスベスト層1の厚さや、密度、強度などに応じて適宜選択することができる。
【0019】
一方、珪藻土を含有する水分吸着剤4は、珪藻土、ゼオライト、粘土、化学繊維、ホウ酸カルシウム、増粘剤、樹脂などを含むように構成される。この化学繊維としては、例えば、ナイロンなどが用いられ、また、増粘剤としては、メチルセルロースなどが用いられる。これらの成分の配合方法としては、珪藻土の割合が少なければ吸水効果を高めることができず、また、粘土や増粘剤などの固化剤の割合が少なければアスベスト層1の表面から剥がれ落ちてしまう可能性がある。このため、本実施の形態では、珪藻土5重量%〜15重量%、ゼオライト10重量%〜15重量%、粘土15重量%〜25重量%、水分50重量%〜70重量%含み、化学繊維を約1重量%、ホウ酸カルシウムを約1重量%、増粘剤を約2重量%、樹脂を約0.5重量%含むようにする。
【0020】
次に、このようなケイ酸アルカリ水溶液3と水分吸着剤4を用いて既存建築物のアスベストを固化するための方法について説明する。
【0021】
まず、室内の結露防止のために設けられたアスベストや防音のために設けられたアスベストを固化する場合、まず、国や都道府県が指定する方法で関連設備の設置及び養生などを行った後、噴霧器などを用いてケイ酸アルカリ水溶液3を均一に吹き付けていく。この際、アスベスト繊維2の飛散を防止するために、アスベスト層1の表面から一定距離離れた位置で噴霧を行うとともに、比較的低圧で、もしくは、比較的離れた位置から静かに噴霧する。この噴霧に際しては、例えば、0.2リットル/平方メートル〜0.5リットル/平方メートルの割合で噴霧していく。そして、その状態で2日〜3日間放置して、その間、毛細管現象によってアスベスト繊維間へのケイ酸アルカリ水溶液3の浸透と、表面からの水分の蒸発を促す。
【0022】
一方、鉄骨やその他に吹き付けた耐火構造のアスベストを固化する場合は、同様に、国や都道府県が指定する方法で関連設備の設置及び養生などを行った後、噴霧器などによって複数回にわたって吹き付け作業を行う。この際、一回目の吹き付けの際には、0.2リットル/平方メートル〜0.5リットル/平方メートルの割合で噴霧していく。そして、一定時間もしくは数日間乾燥させた後に、今度は、ケイ酸アルカリ水溶液3を約1mの間隔を空けて点状に充分浸透するように吹き付けていき、その後、点と点の間の吹き付けを行う。この際、吹き付けの割合として、例えば、1.0リットル/平方メートル〜6.0リットル/平方メートルの割合で吹き付けを行うようにする。
【0023】
そして、このような吹き付けを行った後、表面から液垂れしなくなった状態で、今度は、アスベスト層1の表面から珪藻土を含有させた水分吸着剤4を均一に塗布していく。この際、アスベスト層1は数日間乾燥させて固化した状態となっているため、今度は、水分吸着剤4を比較的高圧、もしくは、アスベスト層1の表面近傍から均一に塗布していく。この噴霧は、例えば、室内の結露防止のために設けられたアスベスト層1や、防音のアスベスト層1に対しては0.5リットル/平方メートル〜1.0リットル/平方メートルの割合で2回にわたって吹き付けていき、また、鉄骨・その他に吹き付けた耐火構造のアスベスト層1に対しては、1.0リットル/平方メートル〜2.0リットル/平方メートルの割合で吹き付けていく。この塗布による水分吸着剤4の厚みとしては、例えば、1mm程度の厚みとするが、アスベスト層1の厚さや、周囲の環境、表面状態などに応じて適宜選択することができる。
【0024】
そして、このようにケイ酸アルカリ水溶液3と水分吸着剤4を吹き付け塗布すると、自然乾燥によって表面から水分が蒸発し、珪藻土が乾燥することによって、アスベスト層1の内部に含まれている水分が能動的に吸い取られて外部に放出される。このとき、図4に示すように、アスベスト層1内に空洞5が生じ、この空洞5内に珪藻土の多孔を介して空気中のCO2を取り込んで、ケイ酸アルカリ水溶液3の固化を促進する。
【0025】
このように上記実施の形態によれば、アスベスト層1に対してケイ酸アルカリ水溶液3を塗布浸透させ、その後、その表面から珪藻土を含有した水分吸着剤4を塗布浸透させるようにしたので、水分吸着剤4によってアスベスト層1内の水分を能動的に取り除くことができ、アスベスト層1の固化を促進させることができるようになる。しかも、珪藻土を表面に有しているため、アスベスト層1内との通気性に優れ、外部のCO2を内部に取り込むことができ、アスベスト層1の固化を促進させることができるようになる。しかも、外側表面が珪藻土となっているため、結露を生ずるようなこともなくなり、水分がアスベスト層1内に進入して固化を遅らせるということもなくなる。
【0026】
また、珪藻土を含有する水分吸着剤4を塗布することにより、従来のように化学反応によってケイ酸アルカリ水溶液3を固化する場合と比べて、アスベスト吹き付け材の耐火性能を損なうようなこともなくなる。しかも、比較的軽い珪藻土を塗布するものであるため、表面の重量が軽く、アスベスト層1が剥がれ落ちる心配もない。
【0027】
さらに、従来では、多価金属化合物によってアスベスト繊維2を封じ込めるようにしているが、この従来の方法であれば、比較的短時間に金属化合物が固化してしまい、噴霧の際に目詰まりなどを起こしてしまう可能性がある。これに対して、本実施の形態による方法では、珪藻土を成分としているため、2度塗りの際に液体が固化してしまうようなことがなくなり、長時間の保管も可能となる。
【0028】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の態様で実施することができる。
【0029】
例えば、上記実施の形態では、ケイ酸アルカリ水溶液3を塗布浸透させた後に、その表面から珪藻土を含有する水分吸着剤4を浸透させるようにしたが、ケイ酸アルカリ水溶液3を吹き付ける前、もしくは、ケイ酸アルカリ水溶液3を塗布した後、あるいは、水分含有剤4を吹き付けた後に、他の塗料などを吹き付けるようにしてもよい。
【0030】
また、上記実施の形態では、珪藻土を含有する水分吸着剤4を吹き付けるようにしているが、シリカゲルや石灰など、他の成分の水分吸着剤4を含有させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施の形態を示すアスベスト層の繊維状態を示す図
【図2】同実施の形態におけるアスベスト層にケイ酸アルカリ水溶液を塗布浸透させた状態を示す図
【図3】同実施の形態におけるアスベスト層に珪藻土を含有する水分吸着剤を塗布浸透させた状態を示す図
【図4】同実施の形態におけるアスベスト層を固化させた後の状態を示す図
【符号の説明】
【0032】
1・・・アスベスト層
2・・・アスベスト繊維
3・・・ケイ酸アルカリ水溶液
4・・・水分吸着剤
5・・・空洞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吹き付けアスベスト層に対してケイ酸アルカリ水溶液を塗布浸透させる工程と、次いで、珪藻土を含有する水分吸着剤を塗布浸透させる工程とを備えてなることを特徴とするアスベスト層の固化方法。
【請求項2】
吹き付けアスベスト層に対してケイ酸アルカリ水溶液を塗布浸透させる工程と、当該塗布浸透させてケイ酸アルカリ水溶液を乾燥させる工程と、次いで、当該乾燥させたケイ酸アルカリ水溶液に珪藻土を含有する水分吸着剤を塗布浸透させる工程とを備えてなることを特徴とするアスベスト層の固化方法。
【請求項3】
前記ケイ酸アルカリ水溶液を、珪藻土を含有する水分吸着剤よりも低圧でアスベスト層に噴霧するようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載のアスベスト層の固化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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