説明

アスベスト飛散抑制液剤およびアスベスト飛散抑制方法

【課題】可視光型光触媒を用いた高湿潤効果を発揮するアスベスト飛散抑制液剤およびアスベスト飛散抑制方法を提供する。
【解決手段】アスベスト飛散抑制液剤は、塩化マグネシウムを含有する水溶液に、モンモリロナイト系鉱物およびシリカ粒子を添加し、可視光型光触媒である酸化チタンを添加して、アスベスト中に含まれる有害化学物質クリソタイル等を分解させる。また、アスベスト飛散抑制液剤を用いることにより、高湿潤効果、抗菌効果、消臭効果などを付与できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアスベスト飛散抑制液剤およびアスベスト飛散抑制方法に関し、特に可視光型光触媒を用いたアスベスト飛散抑制液剤およびアスベスト飛散抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石綿(アスベスト)は、天然に産する鉱物群のうち、繊維状集合をなすものであって、紡織性、耐熱性、曲げや引張りに強く、可とう性、耐薬品性、熱絶縁性等の優れた性能を有していることから、防火・耐火・吸音材等の建築材料等に使われてきた。
しかしながら、その微細な粉塵が石綿肺、肺ガン、中皮腫等の健康障害を起こすことが明らかになり、日本では2006年9月1日(労働安全衛生法施行令改正)以降は0.1%以上石綿を含む製品の製造・販売が全面禁止となっている。
【0003】
また、建築物の防火・耐火、吸音および結露防止等の目的で吹付けアスベストが施工された建物はすでに30年以上が経過し、老朽化のためリニューアル又は建て替えの時期になっている。その際、解体、改造、又は補修を行う場合は、建物内にある石綿含有建材から石綿が飛散しないように管理することが義務づけられている(石綿障害予防規則、平成17年7月施行)。
【0004】
既存建築物の吹付けアスベスト飛散抑制方法は、主に、アスベスト含有吹付け材の除去処理工法、封じ込め処理工法および囲い込み処理工法の3工法から選定する。除去処理工法は、既存の吹付けアスベストを下地から取り除く工法である。封じ込め処理工法は、既存の吹付けアスベストはそのまま残し、吹付けアスベストへ薬剤の含浸若しくは造膜材の散布等を施すことにより、吹付けアスベストの表層部又は全層を完全に被覆または固着・固定化して、使用空間内への粉塵飛散を防ぐ工法である。囲い込み処理工法は、板状材料等で完全に覆うことにより使用空間内への粉塵飛散を防ぐ工法である。
【0005】
近年、既存建築物の吹付けアスベスト飛散抑制方法において、(a)粉末状の珪酸塩からなる結合剤と、(b)粉末状の水溶性高分子からなる増粘剤と、(c)粉末状の高吸収性樹脂からなる保水剤および/または(d)粉末状の水溶性ゲル化剤とを含有するアスベスト飛散抑制剤を用いてアスベスト繊維の再飛散を防止する技術が、特許文献1に提案されている。
また、アスベストを含有する無機質系材料の廃材をセメント原料とともにセメント製造キルン内に投入し、加熱処理することにより、該アスベストを非アスベスト化する無機質系廃材の処理方法が、特開2007−302482(特許文献2)等に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−35647号公報
【特許文献2】特開2007−302482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたアスベスト飛散抑制剤では、水よりは保水効果は高いものの、時間の経過により乾燥してしまう特性が考えられる。
それに伴い、特許文献1に記載されたアスベスト飛散抑制剤は、アスベスト除去の際、アスベストの飛散を抑制することはできるが、アスベスト除去を行った後に、当該アスベストを最終処分場まで輸送する時などに飛散してしまう問題が考えられる。
また、特許文献1に記載されたアスベスト飛散抑制剤は、水量100に対し、珪酸塩、増粘剤、保水剤および/または水溶性ゲル化剤の添加量が少ない。更に、有機系のため、人体に有害であって、焼却処分を行う際、可燃で有毒な煙、ガス等が発生するという問題も考えられる。
更に、特許文献1に記載されたアスベスト飛散抑制剤は、増粘剤でダレを少なくしているため、アスベスト厚みがある部分では、透水・浸透性が悪いため、アスベストの全体を保水させることができないという問題が想定される。
特許文献2に記載された無機質系廃材の処理方法では、アスベストを含有する無機質系材料の廃材をセメント原料とともにセメント製造キルン内に投入するまでの過程で、アスベスト粉塵の飛散を招く虞があるので、アスベスト含有無機質系材料を運搬し、一時保存するなどの工程でアスベスト粉塵飛散抑制の処置が不可欠である。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、高湿潤効果等を有するアスベスト飛散抑制液剤およびアスベスト飛散抑制方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のアスベスト飛散抑制液剤は、塩化マグネシウムを含有する水溶液と、モンモリロナイト系鉱物と、シリカ粒子と、可視光型光触媒である酸化チタンとを混合させたことを特徴とするものである。
「塩化マグネシウムを含有する水溶液」が、20〜50重量%であることを特徴とするものであってもよい。
「モンモリロナイト系鉱物」は、主成好物としてSiO、Al、NaOおよびKOを95%以上含むものであることを特徴とするものであってもよい。
「酸化チタン」が、0.5〜2重量%であることを特徴とするものであってもよい。
【0010】
本発明のアスベスト飛散抑制方法は、塩化マグネシウムを含有する水溶液と、モンモリロナイト系鉱物と、シリカ粒子と、可視光型光触媒である酸化チタンとを混合することにより製造された液剤を散布ないしは塗布することによりアスベストの飛散を抑制することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアスベスト飛散抑制液剤およびアスベスト飛散抑制方法によれば、塩化マグネシウムを含有する水溶液と、モンモリロナイト系鉱物と、シリカ粒子と、可視光型光触媒である酸化チタンとを混合させたアスベスト飛散抑制液剤を用いたことにより、高湿潤効果、沈降防止無機質系分散効果、有害化学物質の分解効果、抗菌効果、消臭効果および不燃性効果を有することを可能とする。
また、一般に水系の湿潤剤は0℃以下では凍結し、アスベストに噴霧できなくなるが、本願発明のアスベスト飛散抑制液剤は、水で希釈していない原液の状態では−20℃までは凍結しない。そこで、本願発明のアスベスト飛散抑制液剤を用いれば、冬季の寒冷地でも湿潤化作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に可視光型光触媒の発現のメカニズムを説明するための図である
【図2】本発明の実施形態に可視光型光触媒のアンモニア分解試験を説明するための図である
【図3】本発明の実施形態に可視光型光触媒の太陽光とバンドギャップを説明するための図である
【図4】本発明の実施形態におけるアスベスト定性分析の結果を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
アスベスト飛散抑制液剤は、塩化マグネシウムを含有する水溶液と、モンモリロナイト系鉱物と、シリカ粒子と、可視光型光触媒である酸化チタンとを混合させたものである。
【0014】
アスベスト飛散抑制液剤は、海水の成分である塩化マグネシウムを含有する水溶液(全体の15%〜50%)に、モンモリロナイト系鉱物(SiO、Al、NaO、KO)およびシリカ粒子を添加(全体の5%〜10%)し、可視光型光触媒(全体の0.5%〜2%)を添加して利用目的別に製造される。なお、水は全体の45%〜55%含有するとよい。
【0015】
アスベスト飛散抑制液剤の目的別利用方法としては、以下の(1)〜(4)のパターンが挙げられる。(1)飛散性アスベストを除去する際、アスベスト飛散抑制液剤を吹露含浸させることにより、長期に亘って、湿潤効果を保ち、最終処分場までアスベストを大気に飛散させることなく安全に処理できる。(2)天然繊維に含浸固化することにより、不燃繊維になる。(3)繊維系マスクに当該液剤を含浸乾燥させることにより、インフルエンザ・花粉症等の予防ができる。
また、アスベスト飛散抑制液剤を含浸させ、当該液剤中の水分が蒸発しても残った固型分が大気の水分を絶えず、吸収する性質のため、水分を必要とする素材に加工することができる。
【0016】
アスベスト飛散抑制液剤は、可視光型光触媒(光触媒酸化チタン)を配合0.5%〜2%添加することにより、アスベスト中に含まれる有害化学物質を分解させる。
可視光型光触媒は、図1に示すように酸化チタンは光エネルギー(紫外線)を吸収し、電子と正孔が発生し、この電子と正孔がそれぞれラジカルを発生し、表面に存在する有機物などを酸化分解するものである。
また、可視光型光触媒は、図2および図3に示すように紫外光型光触媒酸化チタンが反応を起こすには、300〜380nmの幅の狭い波長の紫外線エネルギーが必要であるが、生活空間に豊富に存在する太陽光や蛍光灯は、380〜900nmと巾が広く、太陽光は勿論蛍光灯でも反応を起こすものである。なお、光に関係なく塗布固化することにより、非流出で化学的酸化還元、緩衝現象、忌避効果等で複合的相乗効果を発揮することができる。
また、モンモリロナイト系鉱物は、主成好物としてSiO、Al、NaOおよびKOを95%以上含むものであることを特徴とするものである。
【0017】
以下に、本発明のアスベスト飛散抑制液剤の湿潤効果実験測定の結果について述べる。
【0018】
まず、調査方法の説明を行う。サンプリング方法は、グローブバックに測定口および空気注入口を設け、アスベスト含有吹付け材、アスベスト飛散抑制液剤、サンプラー等必要資材を入れて密閉し、空気を注入してグローブバックを膨らませる。空気がいっぱいになったら、空気注入口を閉じて、表1に示すような条件で5回に渡り測定を実施した。
【0019】
【表1】

【0020】
湿潤状態の観察方法は、湿潤された吹付材の湿潤状態を目視にて観察する。測定条件は、表2に示した通りである。
【0021】
【表2】

【0022】
本発明のアスベスト飛散抑制液剤の湿潤効果実験測定において、アスベスト含有分析は、表3に示すような湿潤効果実験測定を行った(アスベスト含有率8.6%、アスベストの種類)。
【0023】
【表3】

【0024】
その結果、アスベスト定性分析結果は、図4(A)〜(C)のような結果が得られた。
次に、本発明のアスベスト飛散抑制液剤の湿潤効果実験測定において、繊維状粒子濃度測定結果は、表4に示すような各地点の測定結果が得られた。
【0025】
【表4】

【0026】
また、濃度算出方法については、数1に表される方法により行った。
【0027】
【数1】

【0028】
なお、詳細な調査結果は、表5に示す通りである。
【0029】
【表5】

【0030】
今回の実験で意図的に吹付け材を飛散状態にさせた場合と、湿潤後に同じ条件で測定を行った場合との結果を見比べれば、明らかに湿潤効果が得られることがわかる。また、今回の実験のもう一つの目的である湿潤状態の持続性については、湿潤から7日後であっても十分な湿潤状態を保っていることが目視レベルではあるが、確認された。既存の建造物などから飛散性アスベストを除去し、最終処分場までアスベストを運搬し、最終処分場で埋め立て、セメント化、封じ込め等の処理をするまでの期間は、通常7日以内とすることができる。
湿潤してから1日後、4日後、7日後の測定結果で繊維状粒子が若干検出されているが、濃度レベルとしては、敷地境界基準の約1/10であり、また、一般大気中のアスベスト濃度と比較してもほぼ同程度であるため、吹付け材が本発明のアスベスト飛散抑制液剤で湿潤化されていれば、発塵レベルは低い。湿潤化の持続性については、今回の実験条件(密閉されたグローブバック内)では持続性がある(目視にて吹付材内部まで湿潤状態を確認)と判断できる。
【0031】
以上により、吹付材の内部まで本発明のアスベスト飛散抑制液剤が湿潤されていれば、粉じんの拡散が起こるような行為(吹付材に接触するなど)があっても発じん量は低い。また、密閉されたグローブバック内であれば、本発明のアスベスト飛散抑制液剤の湿潤効果は7日経っても衰えない(但し目視確認)。グローブバックの一部がたとえ破れても、破れ目からグローブバック内に入る空気中の水分によりアスベスト飛散抑制液剤が湿潤化されるので、本剤によるアスベスト飛散抑制作用は保持される。グローブバックに破れ目ができても、本アスベスト飛散抑制液剤は、その破れ目から水が浸入して、塩化マグネシウムが水に溶解することによりアスベストから洗い落とされない限り、効能を維持することができる。
次に、アスベスト飛散抑制液剤を用いて、雌マウスを用いた急性経口毒性試験を行った結果について述べる。アスベスト飛散抑制液剤(性状:無色透明の液体)を検体として、雌マウスを用いた急性経口毒性試験を行った。試験群には2000mg/kgの用途の検体を、対照群には溶媒対照として注射用水を雌マウスに単回経口投与し、14日間観察を行った。その結果、観察期間中に異常および死亡例は認められなかった。このことから、検体のマウスにおける単回経口投与によるLD50値は、雌では2000mg/kg以上であるものと考えられた。
【0032】
試験動物は、5週齢のICR系雌マウスを購入し、約1週間の予備飼育を行って一般状態に異常のないことを確認した後、試験に使用した。試験動物はポリカーポネート製ケージに各5匹収容し、室温23℃±2℃、照明時間12時間/日に設定した飼育室において飼育した。飼料(マウス)および飲料水(水道水)は自由に摂取させた。
【0033】
試験方法は、検体投与用量として、2000mg/kgを投与する試験群および溶媒対照として注射用水を投与する対照群を設定し、各群につきそれぞれ5匹を用いた。投与前に約4時間試験動物を絶食させた。体重を測定した後、試験群には試験液、対照群には注射用水をそれぞれ20mL/kgの投与用量で胃ゾンデを用いて強制単回経口投与した。観察期間は、14日間とし、投与日は頻回、翌日から1日1回の観察を行った。投与後7および14日に体重を測定し、t−検定により有意水準5%で群間の比較を行った。観察期間終了時に動物すべてを剖検した。
【0034】
試験の結果、死亡例は無かった。また、マウスは、一般状態であり、異常はみられなかった。飼料の体重変化は、表6の示す通りであって試験群は対照群と比べ体重値に差はみられなかった。
【0035】
【表6】

【0036】
剖検所見は、観察期間終了時の剖検では、すべての試験動物に異常は見られなかった。以上により、検体について、雌マウスを用いた急性経口毒性試験(限度試験)を実施した。検体を2000mg/kgの用量で単回経口投与した結果、観察期間中に異常及び死亡例は認められなかった。したがって、検体のマウスにおける単回経口投与によるLD50値は、雌では2000mg/kg以上であるものと考えられた。
アスベスト飛散抑制液剤は、塩化マグネシウムを含有する水溶液と、モンモリロナイト系鉱物と、シリカ粒子と、可視光型光触媒である酸化チタンとを混合させたアスベスト飛散抑制液剤を用いたことにより、高湿潤効果、沈降防止無機質系分散効果、有害化学物質の分解効果、抗菌効果、消臭効果および不燃性効果を有することを可能とする。
【0037】
本発明のアスベスト飛散抑制方法は、塩化マグネシウムを含有する水溶液と、モンモリロナイト系鉱物と、シリカ粒子と、可視光型光触媒である酸化チタンとを混合することにより製造された液剤を散布ないしは塗布することによりアスベストの飛散を抑制することを特徴とする。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化マグネシウムを含有する水溶液と、モンモリロナイト系鉱物と、シリカ粒子と、可視光型光触媒である酸化チタンとを混合させたことを特徴とするアスベスト飛散抑制液剤。
【請求項2】
前記塩化マグネシウムを含有する水溶液が、20〜50重量%であることを特徴とする請求項1記載のアスベスト飛散抑制液剤。
【請求項3】
前記モンモリロナイト系鉱物が、主成好物としてSiO、Al、NaOおよびKOを95%以上含むものであることを特徴とする請求項1記載のアスベスト飛散抑制液剤。
【請求項4】
前記酸化チタンが、0.5〜2重量%であることを特徴とする請求項1記載のアスベスト飛散抑制液剤。
【請求項5】
塩化マグネシウムを含有する水溶液と、モンモリロナイト系鉱物と、シリカ粒子と、可視光型光触媒である酸化チタンとを混合することにより製造された液剤を散布ないしは塗布することによりアスベストの飛散を抑制することを特徴とするアスベスト飛散抑制方法。
【請求項6】
アスベストを含有する無機質系材料の廃材をセメント原料とともにセメント製造キルン内に投入するまでの過程で、請求項1に記載のアスベスト飛散抑制液剤を無機質系材料の廃材に散布することを特徴とするアスベスト飛散抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−62584(P2011−62584A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212778(P2009−212778)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(309026967)株式会社JCL (1)
【Fターム(参考)】